Host: The Geological Society of Japan
Name : The 130th Annual Meeting(2023Kyoto)
Number : 130
Location : [in Japanese]
Date : September 17, 2023 - September 19, 2023
【はじめに】日本列島の太平洋側では,海洋プレートの沈み込みに伴う付加体が広く形成され,それを基盤とする前弧海盆が分布している。本研究対象地域の静岡県掛川地域は,典型的な前弧海盆とされ,新第三系が厚く堆積している。本地域の相良-掛川堆積盆は,三倉層群・瀬戸川層群を付加体として,倉真層群・西郷層群がそれらを被覆している(三村・千代延, 2022)。前弧海盆では,海洋底が酸化的になりやすいために堆積物中の有機物が分解されやすく,また,地殻熱流量が低いプレート沈み込み帯に位置するため,一般的に石油システムの成立は難しいとされている。しかし,本堆積盆には相良油田が胚胎しており,その石油根源岩層準は付加体である三倉層群や被覆層である倉真層群松葉層であると指摘されている(上田ほか, 2007)。さらに,最近の探査では,前弧海盆の付加体に由来する油・ガスの存在が示されている。石油システムを検討するには,基盤岩とそれを被覆する堆積物の層序を明らかにし,堆積盆の発達過程を理解することが極めて重要である。埋積最初期とされる倉真・西郷両層群の生層序は,斎藤(1960)や茨木(1986),柴ほか(2020)の浮遊性有孔虫化石の研究があり,下部中新統とされてきた。しかし,倉真・西郷両層群および基盤岩である三倉・瀬戸川両層群において,地域間層序対比に有効な石灰質ナンノ化石層序の報告はない。そこで,本講演では,各層群の石灰質ナンノ化石層序の結果について紹介し,本堆積盆における基盤岩と被覆層の構造について議論する。【研究地域および手法】静岡県掛川市北部~島田市南西部において,83ルートで地表踏査を行い,823試料を採取した。石灰質ナンノ化石層序の検討のため,泥岩とシルト岩はスミアスライド法で,砂岩は沈降法で処理し,1,500倍の透過型生物顕微鏡を用いて検鏡した。鑑定においては,無作為に200個体を抽出し,石灰質ナンノ化石の鑑定を行った。また,時代決定に有効な種については,加えて検鏡を行った。また,熱履歴の検討を行うためにRock-Eval分析を行った。【結果および考察】全層準を通して石灰質ナンノ化石の産出は少なく,保存状態は悪い。産出した石灰質ナンノ化石は13属18種であった。最も多産したのは,Reticulofenestra属,続いて,Discoaster属,Sphenolithus abiesとなった。本堆積盆の基盤をなす三倉層群神尾層上部,瀬戸川層群童子沢層上部において,それぞれ5属5種が散逸的に産出した。本堆積盆を埋積する倉真層群では,8属14種のうち,ほとんどの種において,下部で散逸的に産出し,中部で産出せず,上部で散逸的に産出した。また,西郷層群では,7属12種が下部~中部でほとんど産出せず,上部で比較的連続的に産出した。時代決定に有効な種に注目すると,Cyclicargolithus floridanusが瀬戸川層群上部および倉真・西郷両層群で産出し,Sphenolithus heteromorphusが倉真・西郷両層群で産出した。Martini(1971)および三田・高橋(1998)より,瀬戸川層群はC. floridanusの少なくとも産出範囲内に,倉真・西郷両層群はNN5帯(中期中新世)に対比される。Chiyonobu et al.(2017)は,房総堆積盆の最初期の被覆層である三浦層群木の根層は,NN5帯から埋積を開始したと指摘している。すなわち,本地域は房総半島と同じ構造発達史を持つ可能性が示唆される。 また,Rock-Eval分析によって得られたTmaxは,三倉層群,瀬戸川層群,倉真・西郷両層群で,それぞれ平均464℃,449℃,435℃であった。 以上より,基盤である付加体の年代においては幅があるものの,三倉・瀬戸川両層群と倉真・西郷両層群では,温度構造に大きな差があるため,地質構造的に大きなギャップがあると指摘できる。基盤岩と被覆層の年代ギャップは,今後検討を進めていく。 〈引用文献〉・Chiyonobu et al., 2017, Tectonophysics, 710-711・茨木, 1986, 地学雑, 92(2)・Martini, 1971, Proceedings of the 2nd Planktonic Conference・三村・千代延, 2022, JAPT2022講演要旨集・三田・高橋, 1998, 地学雑, 104(12)・斎藤, 1960, 東北大学理地質学古生物学教室研究邦文報告, 51・柴ほか, 2020, 地球科学, 74・上田ほか, 2007, 石技誌, 72(4)