Higher Brain Function Research
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Educational review
Cerebellar Involvement in Cognitive Function and Affective State
Aiko OsawaShinichiro Maeshima
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2025 Volume 45 Issue 2 Pages 100-109

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要旨

小脳が運動制御の中枢であることは古くから知られてきた。しかし1980年代半ばから,解剖学,神経放射線学,電気整理学などの分野で急速な発展がみられ,小脳の認知機能への関わりについての報告や研究が増加し,小脳の役割に関する研究は大きな転機を迎えている。臨床においても小脳病変を有する患者の認知機能障害や情動障害が以前から指摘されていたが,cerebellar cognitive affective syndrome(CCAS,小脳性認知情動症候群)の概念が提唱されたことにより,その評価や治療などに関連する領域においても小脳が認知機能に対して果たす役割がこれまで以上に注目されている。今後の発展に向けて,より多くの臨床家が小脳と認知機能の関連について着目し,症状の詳細な観察を通じてさらなる知見を積み重ねることが求められる。

Abstract

It has long been known that the cerebellum is the center of motor control. However, since the mid-1980s, with rapid developments in anatomy, neuroradiology, and electrophysiology, there has been an increasing number of reports and studies on the cerebellum’s role has reached a major turning point. In clinical practice, cognitive and emotional impairments in patients with cerebellar lesions have long been recognized. However, since the proposal of the concept of Cerebellar Cognitive Affective Syndrome (CCAS), the role of the cerebellum in cognitive function has gained increasing attention in rehabilitation and other clinical setting. To further advance this field, it is essential for more clinicians to focus on the cerebellum’s role in cognition and contribute to accumulating new findings through detailed observation of symptoms.

はじめに

小脳は歴史的に運動の調節に特化した機能を持つと考えられてきた。特に20世紀前半においては小脳の役割はほぼ運動制御に限定され,高次認知機能や感情の制御への関与について言及されることはほとんどなかった。象徴的なのはEdgar Douglas Adrianが1947年に発表した名著『The Physical background of perception』の一節である(Adrian 1947)。彼は同書において,「小脳はその解剖学的構造が大脳と類似しているにもかかわらず,知的活動にはまったく関係していない。小脳が損なわれても,我々の感覚や思考には直接的な影響を与えない」と述べている。この認識は1980年代半ば頃まで続き,小脳の機能は運動の円滑化,運動学習,平衡機能などに限られると考えられてきた(Fiez 1996)。しかし,近年の神経科学の進展により,小脳が運動制御を超えて広範な神経ネットワークに関与し,認知機能や感情制御に重要な役割を果たす可能性があることが指摘されている。そのなかでも特に注目されるのが,cerebellar cognitive affective syndrome(CCAS,小脳性認知情動症候群)という概念である。本稿では,このCCASに関連する知見などを整理し,小脳と認知機能の関連について考察する。

Ⅰ. 脳卒中とテント下病変

脳卒中データバンク2021(国循脳卒中データバンク2021編集委員会 2021)によると,2000~2018年までに発症し登録された脳卒中患者169,991名のデータ解析では,脳出血の発症部位は被殻(31%),視床(28%),皮質/皮質下(21%)の順に多く,小脳(8.6%)および脳幹(8.5%)は比較的少なかった。しかし,出血部位と転帰をmodified Rankin Scale(mRS)で評価すると,脳幹出血がもっとも転帰不良であり,「重度の障害が残存し寝たきりや常に介護を必要とする状態」を示すmRS 6の割合は34.4%と,同割合がもっとも少ない視床や皮質 / 皮質下出血の12.4%と比較して顕著に高かった。また,小脳出血も脳室内出血と並びmRS 6の割合が高く,「まったく障害がない」から「仕事や活動に制限はあるが日常生活は自立して可能である」とされるmRS 0~2の割合は,わずか34.6%にとどまっている。脳梗塞やくも膜下出血などについての詳細な部位別データは示されていないものの,テント下病変においては,脳卒中後に多くの患者が日常生活を障害されるような後遺症を残すことが示されており,その要因の1つに認知機能障害の関与が指摘されている(前島ら 2011大沢ら 2008)。

Ⅱ. 小脳の解剖学的特徴

小脳は前下小脳動脈,後下小脳動脈,上小脳動脈によって栄養され,大脳の後下部に位置し,後頭葉の下に広がる形状をしている。体積は大脳の約10分の1であり,解剖学的には,前葉・後葉・片葉小節葉(前庭小脳)の3葉に分かれる。これらは小脳裂(一次裂や後外側裂)によって区分されている。また,小脳は正中傍溝を境に中央部の小脳虫部と左右対称の小脳半球に分けられ,小脳半球はさらに中間部と狭義の小脳半球に細分される。発生学的には旧小脳・新小脳・古小脳の3つに分類されるが,霊長類では新小脳が高度に発達しており,小脳の大部分を占める。この新小脳が主に認知機能と関係すると考えられている。

1. 小脳の機能的分類

脊髄小脳(小脳虫部および中間部)は,筋紡錘やゴルジ腱器官からの体性感覚情報を脊髄経由で受け取り,姿勢制御や協調運動を担う。これらの情報は室頂核および中位核を介して筋緊張や姿勢の維持に関与する。

大脳小脳(小脳半球外側部)は大脳皮質の感覚野・運動野・連合野から橋核を介する入力を受け,歯状核を通じた出力が行われる。これらの入出力が,運動プランニングや運動の微調整に加え,認知,情動,言語といった非運動性機能にも関係すると考えられている。特に歯状核からの投射は,視床を介して運動野や前頭前野へ到達し,高次の機能の調節を担う。

前庭小脳(片葉小節葉)は,内耳の前庭器官からの平衡感覚情報を前庭神経を介して受け取り,前庭神経核に出力する。これにより,頭部の回旋時の姿勢制御・外眼筋の調整による視線の安定化や平衡機能の維持が行われる。

2. 小脳脚と脳幹の連絡

小脳は3対の神経線維束(小脳脚)を介して脳幹と連絡している。上小脳脚(出力)は,小脳核からの出力線維が通過し,中脳や視床に情報が伝達される。主に運動調整や大脳皮質との高次連携に関与する。中小脳脚(入力)は,橋核を経由して大脳皮質から小脳へ情報を伝える入力線維が通過し,運動プランニングや環境への適応に不可欠な情報伝達路である。下小脳脚(入力と出力)は,脊髄や延髄からの感覚情報が小脳へ伝えられる。この経路は平衡調節や姿勢反射の調整にも寄与する。

3. 小脳核と出力経路

小脳核は,内側から室頂核,球状核,栓状核,歯状核の4つからなり,それぞれ異なる機能を担う。室頂核は主に前庭系と連絡し,平衡感覚や姿勢制御に関与する。球状核・栓状核(中位核)は,脊髄小脳からの情報を受け取り,協調運動の調整を行う。歯状核は,大脳小脳からの情報を受け,運動プランニングと高次認知機能の調節を担う。

4. 小脳皮質の層構造と入力情報の統合

小脳皮質は3層構造(分子層,プルキンエ細胞層,顆粒層)を持ち,さまざまな情報の統合と処理が行われる。プルキンエ細胞は小脳核に出力を送る唯一の抑制性ニューロンであり,小脳全体の出力を制御する中心的役割を果たす。登上線維は下オリーブ核から,小脳内の全プルキンエ細胞に対して強力な興奮性入力を提供する。苔状線維は脊髄,橋核,前庭系などから多様な入力を受け,顆粒細胞を介してプルキンエ細胞に伝達する。

5. 小脳と神経ネットワーク

近年の研究により,小脳は運動調節だけでなく,前頭前野や辺縁系との連携を通じて認知・感情・社会的行動にも関与することが明らかになっている。小脳半球外側部と大脳皮質運動野外側部・運動前野・前頭前野,あるいは,小脳中間部と大脳皮質全運動野との相互連絡の存在や(Sasaki 1979),小脳中部と前頭前野(Brodmann 46野)・淡蒼球内節との解剖学的な線維連絡の発見(Middletonら 1994),さらに,小脳への入力線維に比べ出力線維がわずか40分の1にすぎない(Heidaryら 1969)という事実も,小脳が情報の選別や縮約にかかわり,重要な情報の抽出や出力が行われている(川人 2000)と考える根拠になっている。小脳の重さは120~140 gで,大脳の体積の約10分の1であるにもかかわらず,そのニューロン数は大脳よりも多く,脳細胞の約80%を占めるという報告もある(Azevedoら 2009)。これらの解剖学的な知見に加え,fMRIなどの非侵襲的脳機能画像を用いた検討も大脳連合野-小脳間の機能的神経結合の存在の根拠となっている(O’ Reillyら 2010)。

Ⅲ. Cerebellar cognitive affective syndrome(CCAS)とその特徴

これらの知見を背景に,1990年代に入ると高次脳機能障害への小脳の関与への関心は急激に高まり,1998年にSchmahmannらがcerebellar cognitive affective syndrome(CCAS)という概念を提唱した(Schmahmannら 1998)。小脳損傷による認知機能障害の報告は,Combettes(1831)にまで遡るが,Schmahmann以前にも,小脳と認知機能の関連についての報告は散見されていた。たとえば,Ivryら(1989)は,小脳損傷により時間の長短の弁別機能が低下することを示し,Grafmanら(1992)は脊髄小脳変性症で遂行機能課題(ハノイの塔)の成績が低下することを報告した。また,Fiezら(1992)は,右の小脳半球損傷により動詞の流暢性が低下する症例を報告している。これらの知見がCCASとして包括的に概念化されたことで,小脳損傷に伴う認知機能障害への関心が一層高まったといえるだろう。

CCASは遂行機能障害(計画能力,セット転換,論理的思考,ワーキングメモリ),空間性障害(視空間構成,非言語性記憶の障害など),社会行動障害(感情鈍麻,脱抑制,不適切な行動など),言語障害(プロソディーの障害,失文法,健忘性失語など)の4つを主要症状とする症候群である(前島ら 2012a)。これらの障害が互いに影響して全般的な知能の低下がみられるが,意識障害やせん妄,認知症とは異なると定義されている(Schmahmannら 1998)。特に,遂行機能は動機付けや計画の立案,目的のある行動や計画の実行,行動のモニタリングや問題解決などに必要な機能であり(Lezak 1982),個々の認知機能の上位に位置する機能と考えられている(福井 2010)。この「遂行機能」は,小脳が担っていると考えられる運動のモニタリングや動作の微調整,運動学習などの「制御」の“認知機能版”ともいえることから,小脳は,運動,認知にかかわらず,広く,活動や行動の「制御」の役割を担っている可能性は否定できない。いずれにしても障害も残りやすく,CCASのうち,9ヵ月後の評価で記憶や言語などには改善する傾向があるのに対し,遂行機能障害は残存したと報告されている(Schmahmannら 1998)。ほかにもCCASの症状には,記銘力障害やワーキングメモリの低下,持続性注意や分配性注意などの障害,情報の処理速度の低下,コミュニケーション能力の障害なども含まれ,症状は非常に複雑である。

感情面では,気分の変動が多くみられ,抑うつや不安,意欲低下がみられる場合や,興奮,易怒性,暴力などが出現する場合もある。これらの感情障害や感情の調節の困難は,患者の日常生活に大きな影響を与える。加えて,社会的行動障害によって社会適応が困難になることもあり,リハビリテーションや社会復帰を妨げる要因となる。

小脳損傷患者では,四肢や体幹の運動失調,協調運動障害,構音障害,めまい,嘔吐,嚥下障害などの小脳症状を伴うことが多い。これらの症状が顕著なため,認知面や感情面が見過ごされがちであり,注意深い観察が必要である。

Ⅳ. 遠隔効果

小脳損傷後に認知機能や感情の障害が生じる要因としては,小脳と大脳皮質の神経回路の損傷によるdiaschisis(遠隔効果)が考えられている。Diaschisisとは病巣の離れた部位の機能が低下する現象であり,臨床的にはじめて記載したのはVon Monakow(1914)である。Diaschisisは自発電位や誘発電位による電気生理学的な活動レベル,神経伝達物質やシナプス受容体レベル,脳血流や代謝などへの影響が考えられるが,臨床的には脳血流や代謝などの影響を指摘する報告が多い。小脳に関しては,限局した一側大脳半球の障害が対側の小脳の循環および代謝の低下をきたす現象をcrossed cerebellar diaschisis(CCD)と呼び,皮質橋小脳路を介したdiaschisisと考えられている(Baronら 1981, Pantanoら 1986)。一方,限局した小脳病変で対側の大脳半球の循環および代謝の低下をきたす現象はcrossed cerebello-cerebral diaschisis(CCCD)と呼ばれ,小脳歯状核赤核視床皮質路を介したdiaschisisと考えられている(Rousseauxら 1992, Sönmezoğlu 1993)。CCDやCCCDは小脳と大脳の密接な連携を示唆しているが,CCASに関連しているのは後者と考えられている。

Ⅴ. 小脳などのテント下病変による認知機能障害の評価

小脳を含むテント下病変による認知機能障害の評価においても,基本的にはほかの部位と同様の高次脳機能評価が実施される。簡易的な全般的認知機能評価としては,Mini-Mental State Examination(MMSE)や改訂長谷川式簡易知能評価スケールなどが実施されるほか,知能・精神機能,記憶,行為,視空間認知,言語,注意,遂行機能,気分などに関する多くの検査が実施されている(表1)。これらの評価法は脳卒中だけでなく認知症や外傷性脳損傷など脳損傷に関する領域でも広く用いられており(前島ら 2010, 2012b大沢ら 2023),詳細については既存の文献を参照されたい。小脳を中心とするテント下病変による認知機能および感情面の障害は複数の領域にまたがり,個々の重症度にも大きな差がある。したがって,患者の日常生活を丁寧に観察したうえで,生活障害の原因を突きとめ,かつ,残存能力を把握するための適切な評価を実施することが重要である。

表1    代表的な認知機能評価法


(前島伸一郎,大沢愛子,棚橋紀夫.前頭葉損傷による高次脳機能障害のみかた.高次脳機能研究.2012b;32:21-28.doi:10.2496/hbfr.32.21より改変)

Ⅵ. Cerebellar Cognitive Affective/Schmahmann Syndrome Scale(CCAS-S)

Hocheら(2018)はCCASの診断を支援するため,Cerebellar Cognitive Affective/Schmahmann Syndrome Scale(CCAS-S)という新しい評価法を開発した。これは,小脳損傷による認知・感情の変化を定量的に評価することを目的としている。CCAS-Sでは注意やワーキングメモリなどの前頭葉に関連する機能に加え,記憶,視空間認知,意欲・精神状態に対する観察評価などを含む10領域を評価し,120点満点で採点を行う(表2)。多面的な評価であるが,小脳損傷に起因する認知機能障害を約10~15分という短時間で評価できるという利点があり,信頼性,妥当性も検証されている。従来のMMSEやMoCAで捉えられない障害を検出しうるという指摘もあり(Alanら 2024),脊髄小脳変性症患者の46%に症候性の認知機能障害を検出できたとの報告(Selvaduraiら 2024)もある。ただし,現時点で日本語版は発行されていない。

表2    Cerebellar Cognitive Affective/ Schmahmann Syndrome Scale(CCAS-S)に含まれる評価項目


(Hoche F, Guell X, Vangel MG, Sherman JC, Schmahmann JD. The cerebellar cognitive affective/Schmahmann syndrome scale. Brain. 2018;141:248-270.doi:10.1093/brain/awx317を参考に筆者作成)

小脳やテント下病変を持つ患者は運動失調,めまい,吐き気などの症状を合併することが多く,意欲低下による,活動性の低下もしばしばみられる。このため,意欲についての評価も重要である。本邦では意欲を標準的に評価する方法として,標準意欲評価法(Clinical Assessment for Spontaneity:CAS)(加藤ら 2006)がある。また,高齢者領域ではVitality index(Tobaら 2002)もよく用いられている。Vitality indexはフレイル(虚弱)高齢者を対象とし,「起床」「意思疎通」「食事」「排泄」「リハビリ・活動」などの日常生活における意欲を簡便に評価できる。日常生活の困難さをみることはできるが,5項目・3段階の簡便な評価法であり,評価が粗大で,意欲低下の詳細な分析には適さない。一方,CASは面接による意欲評価,質問紙法による意欲評価,日常生活行動の意欲評価,自由時間の行動観察評価,および臨床的総合評価のサブテストがあり,意欲だけでなく自発性の障害も評価でき,加齢による影響を受けないことが確認されている(加藤ら 2006)。

Ⅶ. 小脳と認知機能の関連を裏付ける知見の集約

これまで示してきたような,小脳を中心とするテント下領域が認知機能に関連することを裏付ける報告は神経画像領域からなされているものが多い。たとえばPETを用いたものでは,新しい並びのキーボードを打つ際に両側の小脳が活性化するという報告(Jenkinsら 1994)や,特殊なルールでペグを移動させる際に両側の歯状核が活性化するという報告(Kimら 1994),健常成人の注意持続課題で小脳虫部が賦活されるという報告(Pardoら 1991),エピソード記憶の想起と手続き記憶に関する課題で小脳の賦活が顕著であったという報告(Cabezaら 1997),健常成人では目標の操作をイメージしただけで外側半球を含む小脳が賦活化し,小脳の運動に関する心的イメージの形成への関連を示唆すると考察した研究(Parsonsら 1995)などがある。またfMRIやFC(functional connectivity)MRIを用いたものでは,自分で体をくすぐる際に小脳が賦活し体性感覚野の賦活が減少するという報告(Blakemoreら 1998)や,FCMRIで脳における歯状核と頭頂葉および前頭前野皮質との機能的結合の存在を示した報告(Allenら 2005),健常者1,000名の安静時fMRIでヒトの小脳の多くの領域が認知機能と関連した大脳領域と機能的結合性を有していることを示した報告(Yeoら 2011),抽象的な推論が必要な視覚認知課題で下前頭回,中前頭回,下頭頂小葉,下後頭葉,補足運動野含む広範な前頭葉-頭頂葉ネットワークの活性化に加え,小脳領域(両側小脳IX,右小脳脚I,右小脳VII)の活性化がみられるなどの報告(Anatら 2024)がある。fMRIのレビューでは認知課題によって賦活される小脳の部位がかなり詳細に指摘されており(Stoodleyら 2009),感覚運動課題では前葉(小葉V)および後葉(小葉VIII)に活性化がみられたが,運動課題による活性化はVIIIA/Bに,体性感覚による活性化はVIIIBに限られていること,後葉は高次レベルのタスクに関与しており,言語および言語作業記憶課題では小葉VIおよびCrus Iに,空間課題では小葉VIに,遂行機能課題では小葉VI,Crus I,VIIBに,感情処理課題では小葉VI,Crus I,内側VIIに活性化が確認されている。全体的に言語課題での活性化は右側に偏り,空間処理は左側に偏っており,大脳と小脳の交差投射を反映していると考察されている。言語と実行機能課題で前頭前野と小脳のループに関与しているとされるCrus Iと小葉VIIの領域が活性化され,情動処理課題で小脳辺縁系の回路に関与している小葉VIIの活性化を伴っていたことは,小脳における前方の感覚運動野と後方の認知 / 情動野の二分説を裏付けるものである。同様の結果は別のレビュー(Keren-Happuchら 2012)にも示され,感情処理課題では右小葉IV/V,VI,IX,および両側の小葉VIIIとCrus Iの,遂行機能課題では両側のCrus I,左Crus II,右小葉VI,正中線小葉VIIの,言語課題では両側の小葉VI,正中線小葉VIII,左Crus I,右Crus IIの,作業記憶の課題では主に両側の錐体I,および左小葉IV/Vと右小葉VIIIの活性化がみられている。また音楽とタイミングについては,タイミングの課題では右小葉VIのみ活性化がみられ,音楽の課題では,右小葉IV/V,および両側小葉VIとVIIで活性化がみられたという。レビューに含まれる論文の違いによって多少の差はあるものの,特定の認知機能と小脳の関連部位についてはほぼ知見が集約されてきたと考えてよいだろう。さまざまな知見を集約した大脳皮質との関連を示す小脳のマッピングも作成されており,小脳の大半が大脳とのネットワークに関連していることが明らかになっている(図1)(Buckner 2013)。脊髄小脳変性症患者や健常成人を対象とした研究により,小脳と認知機能の関連が電気生理学的にも示されている(Tachibanaら 1999土谷 2000)。

図1    大脳と小脳の関連部位を示す脳地図

(Buckner RL. The cerebellum and cognitive function:25 years of insight from anatomy and neuroimaging. Neuron. 2013;80:807-815.doi:10.1016/j.neuron.2013.10.044 より引用)

Ⅷ. 小脳やテント下病変と認知機能との関連についての留意点

これまで小脳を中心とするテント下領域の認知機能への関与について述べてきたが,研究手法や解釈にはいくつかの留意点が必要である。

まず,多くの課題において,運動出力(motor output)と小脳の認知機能を切り離して分析することが困難であることや,よりうまく円滑に素早く行動しようとする計画や努力としての認知的な遂行機能と運動学習は密接に関連しており,その区別が難しいことなどから,小脳における認知課題の処理と運動課題の処理が実際には同じ過程をみているにすぎない可能性が考えられる。これに関し,小脳は短時間で円滑に課題に注意を向けたり移動させたりするコントロールを担っており,さまざまな課題の実施に必要な個々の認知機能に関連しているようにみえても,実際にはより中枢的な注意や学習プロセスに関与しているのではないかという視点が必要である。

次に課題に対する反応について,多くの課題は前頭葉の賦活を伴うため,小脳の賦活が独立したものではなく,前頭葉などの関連脳部位の興奮による二次的な影響を受けている可能性がある。小脳病変を対象とした研究では,横断研究や症例報告が多く,限定された病巣を持つ大規模な調査報告や縦断的な研究が不足している。そのため,病変部位と認知機能の因果関係を明確にすることが難しい。

さらには,テント下領域の病変では,運動失調・めまい・嘔吐・意識障害なども合併しやすく離床が困難であり,運動や認知機能の評価が十分に行われていない症例が多く存在する。このため,小脳損傷に起因する認知機能障害が過小に捉えられている可能性が否めない。

しかし,実際の臨床では,それまで普通に社会生活を送っていた人に小脳や脳幹の損傷を契機に認知や情動の問題が急激に出現し,日常生活が困難となることも少なくない。小脳梗塞20名の認知機能障害の有無と程度を解析した我々の知見でも,まったく認知機能障害がなかった者は35%にすぎず,急性期には多くの患者で認知機能の低下を認めた。また,小脳に限局した病巣を有する患者であるにもかかわらず,MMSE,レーヴン色彩マトリックス検査(Raven’s Coloured Progressive Matrices:RCPM),簡易前頭葉機能検査(Frontal Assessment Battery:FAB)で異常を示した者の血流低下部位は,大脳半球の広範にわたっていた(図2)。

図2    小脳梗塞における神経心理学的検査の異常との脳関連部位

本邦において認知機能に関する大規模研究は乏しいものの,2000年代後半以降,小脳病変やCCASなどに関する報告が少ないながらも継続している(工藤ら 2005Maeshimaら 2007出口ら 2008福永ら 2011伊藤ら 2011佐々木ら 2011中村ら 2012大森ら 2013追分ら 2014熊谷ら 2018堀越ら 2019瀬尾ら 2021白坂ら 2022)。2000年前後の盛り上がりに比べると本領域に対する興味がやや減少した感は否めないが,これらの報告は小脳損傷後の認知機能障害の実態を明らかにするための非常に重要な知見である。この分野においても,個々の症例を詳細に評価し経過を追うことこそが新たな知見につながることを再認識し,日々の臨床や研究に向き合う必要があると考える。

結語

小脳と認知機能についてはさまざまな分野からの報告がなされ,両者の関連を支持するものが多い。しかし,小脳の認知機能への関与を評価する際は,運動機能との分離や前頭葉の影響を考慮する必要がある。一方,テント下病変では認知機能の評価が不十分なことが多く,障害が過小評価されている可能性がある。大規模研究は不足しているが,症例の蓄積や詳細な観察が新たな知見につながると考えられる。

なお,本論文は第48回日本高次脳機能学会学術集会教育講演3「小脳を中心とするテント下病変による認知・情動障害」で発表した内容をまとめたものである。

COI

本論文に関連し開示すべき利益相反はありません。

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