2023 Volume 30 Pages 1-7
防湧性を高めた味噌醸造用酵母DBH114株の開発
藤原朋子,藪宏典,坂井智加子
Breeding of the Zygosaccharomyces rouxii DBH114 strain for miso products to prevent re-fermentation after packaging
Tomoko FUJIWARA, Hironori YABU, Chikako SAKAI
Ethanol is added to prevent re-fermentation of yeast in miso that is not heat-sterilized, but this increases manufacturing costs. In response to a request from the Hiroshima Prefecture Miso Cooperative to reduce the amount of ethanol used, we developed the yeast DBH114 strain for miso manufacturing. Mutant strains were obtained from the D-9 strain used in the Cooperative. The DBH114 strain was selected by assessing its ethanol sensitivity and ethanol production ability in liquid cultures. In a small-scale miso manufacturing test (total weight of 2 kg), it was confirmed that the DBH114 strain produced an amount of ethanol equivalent to that of the D-9 strain and met the target of easy breakdown. In miso manufacturing with a total weight of 1,000 kg, the DBH114 strain suppressed re-fermentation at a lower ethanol concentration than the D-9 strain, indicating the possibility of reducing the amount of ethanol added.
キーワード:Zygosaccharomyces rouxii,味噌,防湧性,育種
Keywords : Zygosaccharomyces rouxii, Miso, prevent re-fermentation, breeding
味噌の製造では,耐塩性酵母Zygosaccharomyces rouxii がエタノールや香りの生成という重要な役割を担う.湧きと呼ばれる酵母の再発酵により炭酸ガスが発生し,パッケージのふくれを生じることがある.加熱殺菌をしない生味噌では,静菌のためのエタノール添加,あるいは炭酸ガス排出弁付き容器の使用といった対策がとられているが,製造コストの上昇を招いている.広島県味噌協同組合からの要望を受け,湧き防止のためのエタノール添加量を低減する新酵母開発に取り組むこととした.
エタノール添加量を低減する目的で,変異により酵母を改変した例として,酵母が死滅に向かう呼吸欠損株1)2),エタノール感受性株3)4)が報告されている.呼吸欠損株1)2)では培養酵母の保存性が悪いことや培養時の増殖が遅い点,エタノール感受性株では実用株を親株としていない点3),増殖・発酵が劣る点4)で実用化に至っていない.そこで,新酵母は,培養時の増殖や出来上る味噌の香味等は元株の特徴を維持し,酵母自身の生成したエタノールにより死滅しやすい特徴の付与を狙うこととした.
本研究では,組合使用のZ. rouxii D-9 株を親株として,変異処理に加え,各種ストレス感受性株の獲得が報告されているハイグロマイシンB 耐性5)6)7)を併用して新酵母を取得することとした。変異株はエチルメタンスルフォネート及びエチジウムブロマイドによる変異処理及びハイグロマイシンB耐性で取得を試みた.液体培養による選抜を実施し,候補株について仕込み総重量2kg の米味噌小規模製造試験,更に組合員企業による総重量1,000kg 実規模味噌製造による評価を実施した.
実 験 方 法
1.供試菌株及び使用培地
広島県味噌協同組合使用のZygosaccharomyces rouxii D-9 株(以下D-9 株)を親株として用いた.
使用培地を表1に示す。酵母の培養にはYPD-10NaCl培地を用いた.エタノール生成選抜試験の培地にはYPG-13培地を用いた.味噌エキス発酵選抜試験には味噌エキスを培地として用いた.味噌製造試験の酵母の培養には,味噌エキスを希釈した味噌エキス培地を用いた.ただし,米味噌小規模製造試験には,味噌エキス-2Glu培地を使用した.
2.変異株の取得
(1)エチルメタンスルフォネート(EMS)処理株
YPD-10NaCl液体培地,30℃で静置培養した対数増殖期の細胞を集菌し,塩化ナトリウム10 %(w/v)水溶液で2 回洗浄し,EMS を細胞懸濁液の3 %(v/v)加えて30 ℃で30 分間または60 分間静置した後,塩化ナトリウム10 %(w/v)水溶液で3 回洗浄して変異処理を終了した.EMS 処理細胞懸濁液をYPD-10NaCl 寒天培地に塗布し,30 ℃で3 日間培養し,EMS変異処理株を取得した.
(2)エチジウムブロマイド(EtBr)処理株
YPD-10NaCl液体培地,30℃で静置培養した対数増殖期の培養液を,100 mg/L のEtBrを添加したYPD-10NaCl液体培地に10 %(v/v)植菌し,30℃で48時間静置培養し変異処理とした.細胞を集菌し,塩化ナトリウム10 %(w/v)水溶液で3 回洗浄した.EtBr 処理細胞懸濁液をYPD-10NaCl 寒天培地に塗布し,30 ℃で3 日間培養し,EtBr変異処理株を取得した.
(3)ハイグロマイシンB(Hygr)耐性株
50 mg/LのHygrを添加したYPD-10NaCl 寒天培地に,変異処理なしのYPD-10NaCl液体培養液,EMS 処理細胞懸濁液及びEtBr 処理細胞懸濁液を塗布し,30 ℃で7 日間培養して取得した.
3.候補株の選抜
(1)エタノール感受性選抜試験
変異処理株及びHygr 耐性株は,エタノール感受性選抜試験により第一次選抜を行った.96 セルプレートを用い,0 ,4 ,8 ,12 %(v/v)のエタノールを添加したYPD-10NaCl液体培地150 μLに,変異処理株及びHygr 耐性株のコロニーから爪楊枝の先で植菌した.30 ℃で6 ~7 日間培養し,プレートリーダー(DSファーマバイオメディカル株式会社 パワースキャンHT)の撹拌機能を用いてfast shakeで 3 分間撹拌後,660 nmで吸光度(濁度)を測定した.
エタノール感受性選抜試験による選抜は,各株のエタノール0 %(v/v)での培養液の濁度を100として,エタノール添加での培養液の相対濁度が,同時に培養した親株D-9 株の相対濁度よりも小さいことを基準とした.すなわち,4 %(v/v)及び8 %(v/v)エタノール添加ではD-9 株の相対濁度の9割以下で,12 %(v/v)エタノール添加ではD-9 株の相対濁度の3割以下を満たす株を選抜した.
(2)エタノール生成選抜試験
エタノール感受性選抜試験により選抜した株を用いて,エタノール生成選抜試験を行った.前培養は,YPD-10NaCl液体培地,30℃で2 日間静置で行った.15 mL のYPG-13 培地に,前培養液を1 %(v/v)植菌し, 30 ℃で14 日間静置した培養液のエタノール濃度を分析した.
エタノール生成選抜試験の選抜基準は,培養液のエタノール濃度がD-9 株と同等以上とした.
(3)味噌エキス発酵選抜試験
エタノール生成選抜試験により選抜した株を用いて,味噌エキス発酵選抜試験を行った.前培養は味噌エキス-2Glu 培地10 mL,30 ℃で3 日間静置で行った.本培養は7 gの乾燥麹(徳島製麹株式会社 T-90)を添加した味噌エキス30 mL に,前培養液を3 mL植菌し,30 ℃で13 日間静置で行った.培養液の酵母数,エタノール濃度を分析した.
味噌エキス発酵選抜試験の選抜基準は,培養終了時に,D-9 株と同等以上のエタノール濃度であり,D-9 株よりも酵母数が少ないこととした.
4.米味噌小規模製造試験
味噌エキス発酵選抜試験により選抜した株及び対照のD-9 株について,米味噌小規模製造試験を行った.食塩濃度11 %(w/w),麹歩合9 歩の配合による米味噌を総重量2 kgで仕込んだ.味噌エキス-2Glu 培地100 mL,30℃で24時間振とう培養した酵母を酵母数(CFU : Colony Forming Units)が105 CFU/g になるように添加した.仕込んだ味噌は30 ℃で6 週間発酵熟成させた.途中4 週間時に上下を返す切り返し操作を行った.1 回3反復とし株毎に3樽仕込み,3 回試験を行った.なお,官能評価の標準味噌として,試験回毎に,試験区とは別にD-9 株の味噌をもう1樽製造した.
仕込み時,2週間時,4 週間時及び6 週間時に味噌を採取した.採取した味噌は,水分及び色調を分析した.また,採取した味噌に重量比9 倍の蒸留水を添加,ストマッカーで粉砕した抽出液を用いて,酵母数の計測,エタノール濃度,グルコース濃度及びpHを測定した.4 週間時及び6 週間時の味噌は,密封包装してふくれ度を測定し,6 週間時の味噌は官能評価を行った.
5.選抜株の実用性評価(酵母培養液の生産及び総重量1,000 kg 味噌製造)
(1) 広島県味噌協同組合による酵母培養液の生産
選抜株及び対照のD-9 株をそれぞれ,120 Lの培養装置を用い,味噌エキス培地90 L,30℃で通気撹拌により2 日間培養した.培養は,計14回実施した.培養液は培養終了時に一部を採取し,酵母数の計測を行った.
培養液の保存性の評価は,3回実施し,培養液を10 Lのポリタンクに入れ,3 ℃で5 週間保存し,1 週間,2 週間,5 週間時に一部を採取し,酵母数の計測を行った.
(2) 広島県味噌協同組合員企業による総重量1,000 kg味噌製造
広島県味噌協同組合員企業の協力を得て,選抜株を用いた実用規模での味噌製造を実施した.対照はD-9 株とした.塩分10.5 %(w/w)の米と麦の合せ味噌を1回,塩分11.5 %(w/w)の米味噌を2回,仕込み総重量1,000 kgで製造した.組合提供の酵母培養液をそのまま添加すると仕込水分が多くなるため,酵母培養液70~80 Lを冷蔵室で1 日間静置して菌体を沈殿させた後に上清を除去して6~7 L程度とし.仕込み1,000 kgに添加した.合せ味噌は30 ℃程度の温醸庫で27 日間,15 ℃庫に移してD-9 株では18 日間,選抜株では20 日間発酵熟成した.米味噌は30 ℃程度の温醸庫で33 日間,15 ℃庫に移して2 日間発酵熟成した.
仕込み時にタンクから2 カ所,製造後はタンクの上部と下部の2 カ所で味噌を採取した.採取した味噌は,重量比9 倍の蒸留水を添加,ストマッカーで粉砕した抽出液を用いて,酵母数を計測し,エタノール濃度を測定した.製造した味噌は密封包装し,ふくれ度を測定した.
6.分析及び官能評価
エタノール濃度及びグルコース濃度は,高速液体クロマトグラフ装置(日本分光株式会社 LC-2000Plus)によ
り測定した.Bio-Rad Aminex HPX-87Hカラム(φ7.8 mm×300 mm),溶離液 5 mM 硫酸,溶離液流速 0.5 mL/min,カラム温度 50 ℃で分離し,RIで検出した.
酵母数の測定は,クロラムフェニコール100 mg/L 添加YPD-10NaCl寒天培地による希釈平板法で行い,30 ℃で3 日間培養してコロニー数を計測した.1 mLまたは1 gあたりの酵母数を常用対数変換し,logCFU/mLまたはlogCFU/gとして統計処理した.酵母数の最低定量値は100 CFU/mLまたはCFU/gであり,100 以下は2 logCFU/mlまたは2 logCFU/gとして扱った.
pH はpH 計(株式会社堀場製作所 F-54S)により測定した.水分及び色調の測定は,基準みそ分析法8)に従った.色調は,色差計(コニカミノルタジャパン株式会社CR-13)により測定した.
味噌のふくれ度は,味噌100gを袋(カウパック株式会社 SPN1420)に密封包装して30℃で2週間保存し,発生ガス量を容積により測定し,点数をつけた(図1).1サンプルにつき2袋で試験した。発生ガス量20 mL未満をふくれ無し(ふくれ度0),20 mL以上をふくれ有りとし,発生ガス量20〜50 mLはふくれ度1,50〜150 mLはふくれ度2,150〜300 mLはふくれ度3とした.
小規模製造試験の官能評価は4 名のパネルで,香り,味,組成(硬さやざらつき等),総合評価を,標準用味噌(試験回毎に,試験区とは別にD-9 株の味噌をもう1樽製造したもの)を3点とし,5 段階評価法(1:特に良い,2:良い,3:標準と同程度,4:やや悪い,5:悪い)により行った.
酵母株間の差について,味噌の分析値(エタノール濃度,グルコース濃度,酵母数,pH,水分,色調)はt-検定を,味噌の官能評価結果はMann-Whitney 検定を行った.いずれも有意水準は0.05とした.
実験結果及び考察
1.変異株の取得と候補株の選抜
変異処理株の取得率は,EMS 30 分間処理で約30 %, EMS 60 分間処理で約1 %,EtBr 処理で約0.3 %であった.Hygr 耐性株取得率は,変異処理なし区からの取得で約0.01 %,EMS 30 分間処理区からの取得で約0.1 %,EMS 60 分間処理区からの取得で約0.2 %,EtBr 処理区からの取得で約4 %であった.
図2 に各変異株の評価株数と各選抜試験による選抜株数を示した.合計2930 株の変異株から,エタノール感受性選抜試験により36 株を選抜した.変異処理のみの株からエタノール感受性選抜試験により選抜した株(選抜割合)は,EMS処理では0 株(0 %),EtBr 処理では3 株(0.4 %)であった.Hygr 耐性株からエタノール感受性選抜試験により選抜した株(選抜割合)は,EMS処理区では8 株(1.5 %),EtBr 処理区では16 株(3.5 %),変異処理なし区では9 株(5.0 %)であった.
Hygr 耐性で取得した変異株のほうが選抜割合は高かった.EMS 処理でエタノール耐性が低下した株の出現割合は10-5 程度であったことが示されている3).選抜方法等の条件は異なるものの,Hygr 耐性の利用により高効率にエタノール感受性株が取得できた.なお,選抜株はいずれも,エタノール添加をしない培地での培養で, D-9 株と同等の増殖を示した.
エタノール感受性選抜試験で選抜した36 株について,エタノール生成選抜試験を実施し12 株を選抜した.YPG-13 培地は,グルコース10 %(w/v),塩化ナトリウム13 %(w/v)と浸透圧を高めた培地であったが,エタノール感受性選抜株の約3割は増殖し,エタノールを D-9 株と同等以上に生成した.
味噌エキス発酵選抜試験培地は,塩分19 %(w/v),グルコースは初発で8 %(w/v),乾燥麹の自己消化により20 %(w/v)となる培地であり,味噌に近い条件である.味噌エキス発酵選抜試験により,D-9 株と同等のエタノール生成量で,かつD-9 株より培養終了時の酵母数が少なかったDBH114 株を目標酵母の候補株として選抜した.
2.米味噌小規模製造試験
DBH114 株と対照D-9 株の米味噌小規模製造試験における酵母数及びエタノール濃度の推移を図3 に示した.仕込み時酵母数平均は,D-9 株で105.4 CFU/g ,DBH114 株で105.3 CFU/gと有意な差はなかった.
DBH114 株のエタノール生成はD-9 株と同じように推移し,6 週間時の味噌のエタノール濃度に酵母株間で有意な差はなかった.DBH114 株は,D-9 株と同程度のエタノール生成能があることが示された.酵母数は,6週間時味噌に,酵母株間で有意な差は認められなかったものの,DBH114 株では全てのサンプルで100 CFU/g以下であった.DBH114 株ではD-9株よりも酵母数の低下が早めに生じる傾向がみられた.
米味噌小規模製造試験の分析及び官能評価結果を表2 に示した.色調,水分,グルコース,pHは酵母株間で有意な差はなかった.官能評価は,香り,味,組成,総合のいずれでも酵母株間に有意な差はなかった.分析値及び官能評価結果から,DBH114 株はD-9 株と同等品質の味噌が製造できると考えられた.
4週間時及び6週間時の味噌のふくれ度別数を表3に示した.製造味噌(6週間時)ではD-9 株,DBH114 株とも全てふくれ度0で,ふくれはみられなかった.4週間時の味噌では,D-9 株でふくれ度1が1サンプル存在したが,DBH114 株では全てふくれ度0 であった.4 週間時の味噌で,エタノール濃度は1.8 %(w/w)となっており,まだ酵母数は3 logCFU/g 以上存在した(図3).DBH114 株では4 週間時の味噌の状態で十分湧きが抑制されたと考えられる.
米味噌小規模製造試験の結果,DBH114 株は,エタノール生成量はD-9 株と同程度で,自身の生成したエタノールにより死滅しやすい特徴傾向を示し,製造味噌の分析値及び官能評価でもD-9 株と同等品質であり,目標を満たす酵母と考えられた.
3.DBH114 株の実用性評価
(1) 広島県味噌協同組合による酵母培養液の生産
14回の培養で,培養液の平均酵母数は,D-9株で6.8 log CFU/ml,DBH114株で6.5 log CFU/mlであり,DBH114株でやや少ない傾向はあったが,D-9株とDBH114株との間に有意な差はなかった(t-検定,有意水準0.05).また,どちらの酵母株も,培養液の分析値平均は,pH 4.4,エタノール濃度0.8 %(w/v),グルコース濃度0.0 %(w/v)であり,酵母株間で違いはなかった.
冷蔵保存した培養液は,D-9 株,DBH114 株とも冷蔵保存5週間後まで7.0 log CFU/ml 程度の酵母数を維持した.冷蔵保存により酵母数の著しい低下はないことを確認した.
広島県味噌協同組合による酵母培養液の生産において,DBH114 株はD-9 株と同等の培養時の増殖,培養酵母の保存性がみられたことから,実用性に問題はないと考えられた.
(2) 広島県味噌協同組合員企業による総重量1,000 kg規模味噌製造
表4 に総重量1,000 kg 味噌製造における仕込み時の酵母数,製造味噌の酵母数,エタノール濃度を示した.実規模製造では合せ味噌1回,米味噌2回の試験と味噌の種類は異なったが,塩分は11%(w/w)前後であり,エタノール生成及び酵母数の推移に味噌の種類による大きな違いはないと考えられる。
仕込み時の平均酵母数はD-9 株,DBH114 株とも5.3 log CFU/gであり,仕込みに差はなかった.実規模製造味噌の平均エタノール濃度は,D-9 株で1.5 %(w/w),DBH114 株で1.6 %(w/w)であり,酵母株間で有意な差はなかった.両酵母株とも味噌小規模製造試験6週間時味噌の平均エタノール濃度は1.8 %(w/w)(図3)であり,実規模製造味噌では,エタノール生成量が小規模試験に比べ少なく,採取場所の違いによるばらつきが大きかった.実規模では,上層でのみ主にアルコール発酵がすすみ,中下層ではアルコール生成量は少ないことが報告されている9)10)11).今回の試験でもタンクの上部と下部でエタノール濃度に違いがみられた場合は,タンク上部から採取した味噌のほうが下部から採取した味噌よりもエタノール濃度が高い傾向がみられた.
実規模製造味噌の平均酵母数は,D-9 株で3.6 log CFU/g,DBH114 株で2.6 log CFU/gであり,酵母株間に有意な差はなかった.DBH114株は,小規模製造6週間時味噌では,酵母数が全て100 CFU/g以下となったが,実規模製造味噌では再現できなかった.実規模では,アルコール発酵が安定しない場合があり,エタノールが低濃度の部分も存在し,その場合は,エタノールによる酵母数の低下も起こらないためと考えられた.
試験として官能評価は実施していないが,製造味噌の香りや味について,試験実施企業からDBH114 株に問題点は感じられなかったとされた.
図4 に総重量1,000 kg 味噌製造試験の製造味噌のエタノール濃度とふくれ度の関係を示す.各6 点の味噌のうち,D-9 株では3 点,DBH114 株では1 点がふくれた.点数が少なく,確定できるものではないが,D-9 株ではエタノール1.55 %(w/w)以上,DBH114 株では1.38 %(w/w)以上ではふくれが見られなかった.ふくれるかどうかの境界のエタノール濃度がDBH114株ではD-9株よりも低濃度である可能性が示唆された.
DBH114 株は実規模製造味噌において,D-9 株と同等のエタノール濃度となり,香りや味に違和感がなかったことから,実用性に問題はないと考えられた.実規模味噌製造ではタンク全体で一様にエタノールが生成されない場合があることが今回の試験でも示された.DBH114株のエタノールで死滅しやすい性質を確実に発揮するためには,タンクの味噌全体が一定量以上のエタノール濃度であることが必要と考えられる.DBH114株の使用のみで完全にふくれを防止することは現段階では難しいが,D-9株よりも低濃度のエタノール濃度で湧きが抑えられ,エタノール添加量を低減できる可能性が示された.現在,DBH114 株は,広島県味噌協同組合で使用されている.
要 約
加熱殺菌をしない生味噌の湧き(酵母の再発酵)対策のために,エタノール添加が行われているが,製造コストの上昇となる.広島県味噌協同組合からエタノール使用量低減の要望を受け,防湧性を高めた味噌製造用酵母DBH114 株を開発した.組合使用のD-9 株を親株とし,変異株を取得,液体培養によりエタノール感受性とエタノール生成能を評価し,DBH114 株を選抜した.米味噌総重量2 kg 小規模製造試験において,DBH114株はD-9 株と同等のエタノール生成で,自身の生成したエタノールにより死滅しやすい目標を満たすことを確認した.酵母培養液の生産及び総重量1,000 kg味噌製造において,DBH114株は実用的に使用可能であり,D-9株よりも低濃度のエタノール濃度で湧きが抑えられ,エタノール添加量を低減できる可能性が示された.
謝 辞
実用性評価は,広島県味噌協同組合との共同研究により実施しました.関係各位に感謝いたします.
文 献