Public Health Nursing Education
Online ISSN : 2433-6890
Project Reports
Using Educational Practice in Public Health Nursing Education Model Core Curriculum 2017
[in Japanese]Michie NomuraMinako SawaiTomoyo SuzukiHisako IzumiTerumi KogawaYoko HatonoToshie Miyazaki
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2019 Volume 3 Issue 1 Pages 13-20

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I. はじめに

全国保健師教育機関協議会(2017)は,公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラム(2017)を作成した.モデル・コア・カリキュラムは,各教育機関が策定する「カリキュラム」のうち,全教育機関で共通して取り組むべき「コア」の部分を抽出し,「モデル」として体系的に整理したものである.

公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラム(2017)は,公衆衛生看護学の理念と目的を踏まえ,対象の捉え方,対象の健康課題に合わせた公衆衛生看護の技術と支援方法を具体化し,基礎教育の立場から内容と学修目標を示している.公衆衛生看護の技術・方法を確実に修得し,演習や実習を通して統合されるように構造化され,全ての保健師教育機関で活用できることを目指したものである(保健師教育モデル・コア・カリキュラム検討委員会,2018).

本協議会では,2018年度に公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラム推進委員会を設置し,その周知と活用を図ることとした.保健師基礎教育における位置づけを明確にし,教育実践への活用例を示すことに取り組んだ結果を報告する.

II. モデル・コア・カリキュラムの教育実践への活用

1. 保健師教育における位置づけの確認

公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラム(2017)は,現行の保健師助産師看護師学校養成所指定規則および保健師国家試験出題基準平成30年版との整合性を図っており,大項目(A~G)と中項目は,保健師教育課程の科目として設定することが可能である.以下に大項目の位置づけを記す.

【A】「保健師として求められる基本的な資質・能力」は,保健師基礎教育において専門職としてのアイデンティティと実践能力を備えた保健師養成を行うことを意図して,保健師として必要な基礎的な能力全般を示している.これらの能力育成のためにB~Gの具体的な教育内容が設定されている.この【A】は,公衆衛生看護学の原論として位置づけられる.

【B】「社会と公衆衛生看護学」は,公衆衛生看護学の基盤となる学問群であり,公衆衛生活動を実践するすべての専門職に求められる考え方や知識・技術を示している.看護師教育課程で修得すべき公衆衛生学,疫学,保健統計等の学修目標に上乗せするレベルとする.

【C】「公衆衛生看護の対象理解に必要な基本的知識と関連する知識」は,公衆衛生看護の理念,対象の捉え方,健康課題とは何か,活動方法の基本的な考え方を示している.さらに看護師教育課程で学修した看護管理に保健師特有のマネジメントを上乗せする.保健師の基盤となる知識の領域であり,【A】「保健師として求められる基本的な資質・能力」と同様に,公衆衛生看護学原論・対象論として位置づけられる.

【D】「公衆衛生看護実践の基本となる専門基礎知識と技術」は,公衆衛生看護過程展開を対象に合わせて実践するための基本的な知識と技術である.公衆衛生看護過程展開の基本,地域の把握,対象の健康課題に合わせた公衆衛生看護の技術と支援方法について具体的な内容を示している.公衆衛生看護技術論として位置づけられる.

【E】「公衆衛生看護活動」は,看護学教育課程で学修した個別ケアの能力を基盤とし,公衆衛生看護の特徴である幅広い対象に対する多様な方法を用いた活動展開について,ライフサイクル,健康障害・予防,健康危機管理,活動の場ごとに一般の人々にも理解できるよう示している.公衆衛生看護活動論として位置づけられる.

【F】「臨地実習」は,学内での講義・演習を通じて修得してきた保健師として求められる知識・技術を実践の場に適応することで,学びを統合するとともに,職業人としての基本的姿勢を身に付けることを意図している.公衆衛生看護学実習として位置づけられる.

【G】「公衆衛生看護学研究」は,根拠に基づいた公衆衛生看護活動の展開,実践及び評価の見える化に必要な最新の知識や情報の収集・分析力,各種研究手法を修得し一連の学術的研究を行う能力を示した.公衆衛生看護学研究として位置づけられる.

2. 教育実践への活用

公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラム(2017)を教育実践に活用する例として,事例を用いた教授,カリキュラム構築,実習計画への活用を検討したので,次章で紹介したい.

事例については,公衆衛生看護の対象である「個人/家族」「地区/小地域」「住民組織/地域組織」「制度や仕組みを構築する機能を持つ組織(自治体)」を重層的に捉え,アセスメントから健康課題の抽出,目標設定,支援方法までを考えられるように必要な情報を含めることとした.作成した事例は,臨地実習において学生がよく出会う3つの活動分野から選び,E-1「子どもと親の健康への支援」では乳幼児虐待が疑われる事例,E-2「成人期の人々の健康への支援」では糖尿病重症化予防が必要な事例,E-3「高齢期の人々の健康への支援」では認知症の事例とした.課題の解決に用いる支援技術は,D「公衆衛生看護実践の基本となる専門基礎知識と技術」を重点的に活用し,対象と健康課題に対する支援方法が系統立てて理解できることを目指した.その構造は図1に示すとおりである.なお,事例の詳細については,文献(全国保健師教育機関協議会,2018)を参照いただきたい.

図1 

公衆衛生看護学モデル・コア・カリキュラムを活用した事例の構造

カリキュラム構築については,公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラム(2017)の構造を基盤としたカリキュラム・マップ案を提示するとともに,大項目【F】「臨地実習」を基盤とする実習計画案を提示し,教育への活用を図りたいと考える.

III. 事例を用いた教育への活用

1. 認知症事例の場合

1) 事例に含む要素

「個人/家族」,「地区/小地域」,地域の「住民組織/地域組織」,「制度や仕組みを構築する機能をもつ組織(自治体)」についてはシステム論の考え方を基盤に捉え,それぞれの立場が重層的・相互作用の関係になるような要素を含む.また,対象をアセスメントする情報として量的データと質的データを含み,健康課題と優先順位の根拠となる情報を含む必要がある.

「個人/家族」のアセスメントに必要な要素として,身体的・社会的・環境的要因,フォーマル・インフォーマルな社会資源の情報を含み,支援計画の立案ができるように情報を盛り込む.「地区/小地域」のアセスメントに必要な要素として,認知症を抱える高齢者への支援を通して,単に個別支援の問題ではなく地区・地域に共通する問題であると気づき,地区・地域全体の実態を把握するために何が必要か検討するための情報を含む.課題の地域への広がりの程度やコミュニティの関心を示す情報に加え,住民が自ら地区の健康課題に取り組むための「住民組織/地域組織」の情報を含む.さらに「地区/小地域」の健康課題を解決するため「住民組織/地域組織」との協働活動を行うことが可能か否かを判断する情報として,保健師が高齢者サロンで健康相談を行い,信頼関係が築けていることやボランティア活動が活発であるという情報を追加する.

地域アセスメントのための情報として,「自治体」が目指す目標,地域診断の分析結果,国の政策「認知症施策推進総合戦略」の内容を入れ,認知症高齢者にやさしい地域づくりに向けて包括的なケアシステムの構築や施策を検討するための情報を含む必要がある.

2) 健康課題の抽出と表記の仕方

対象の健康課題は,重層的,相互作用的に抽出・表記できるとよい.「個人/家族」では,認知症の疑いがあり,日常生活に支障をきたしているが家族が対応できていないことが挙げられる.「地区/小地域」では,認知症の疑いがあり生活に支障をきたしている独居高齢男性の発見が続いていることより,地区の健康課題として早期の支援を要する認知症者が増えている可能性があることが挙げられる.「住民組織/地域組織」では,自治会,高齢者サロン,体操の会などが存在しているが,地区の健康課題として地区住民の認知症早期発見・支援・見守り役割の不足が挙げられる.「自治体」では,認知症に対する不安が住民の間で広がっているが,インフォーマル・フォーマルな社会資源による認知症の早期発見・支援・見守りシステムができていないことが挙げられる.

3) 対象別の支援方法例

支援方法として,①地区内でリスクのある事例への個別支援,②認知症の方でも安心して生活できるような地域づくり,③住民組織との協働,④自治体における認知症対策としての地域ケアシステムの構築,さらに自治体内部だけで解決できないことを情報として含むため,近隣自治体等の対外システムとの協働対策を検討することが求められる.

「個人/家族」では,保健師による家庭訪問を行い,家族のアセスメントを実施し支援計画を立案する.ケースマネジメントとして,地域ケア会議を開催し関係者間の役割の調整を行う.「地区/小地域」では,事例の問題が地区の共通する問題かどうかを判断するための地区診断を行う.マネジメント機能として,地区の自治会や地区社会福祉協議会と連携して認知症の方の早期発見・見守りのためのネットワークを構築し,認知症でも安心して暮らせる地域づくりに努める.さらに「住民組織/地域組織」と協働して地域組織が健康課題に対応可能な組織となるように支援を行う.「自治体」では,地域ケアシステムの構築,近隣自治体との協働対策を検討する.

4) 演習授業方法の例

公衆衛生看護学実習の前および後のいずれの授業演習でも活用できる.実習前では,公衆衛生看護の対象の理解,対象に対する支援方法・技術の基本的な知識の修得となる.実習後ではこれまでの学びの再学修となる.また,同じ事例を実習前と後と2回活用し,学びの深まりの比較を自己評価することもできる.

演習授業の方法としては,事例を提示し,関連する政策や事業の意義,対象理解,健康課題の列挙,支援方法・技術について事前学習を提示する.演習では個人学習の内容をもとにグループワークで意見交換を行い,その後,グループ発表を行う.教員による評価と事例の解説を行う.

5) 学生への助言

公衆衛生看護の対象を重層的に捉えることによって,公衆衛生看護の対象認識の偏りを防ぐことができる.対象によってどのように健康課題が異なるかを認識でき,健康課題の構造が明確となる.健康課題は,「個人/家族」から「制度や仕組みを構築する機能をもつ組織(自治体)」まで関連させて捉えさせる必要がある.対象による支援方法・技術の違いと同時に,アセスメントやマネジメント技術など共通性を考えさせること,地区診断と地域診断について理解を深めるよう働きかけることも可能である.

2. 乳幼児虐待が疑われる事例の場合

1) 事例に含む要素

地域社会での最小単位としての「個人/家族」に着目しながら,それらの対象を取り巻く環境や対象の力量をアセスメントでき,対象の健康課題の特性を理解し,保健師の役割と活動を学ぶことができる要素を含む.特に,この時期に特徴的な健康課題を醸し出すような「個人/家族」の設定と,「個人/家族」への支援のみでは解決できず,「地区/小地域」における社会資源等にも目を向けられるよう,フォーマルサポート,インフォーマルサポートの要素を家族背景と地区の状況の中に含む必要がある.「個人/家族」が置かれている「地区/小地域」の状況をアセスメントできるよう,地域の概況(地区人口,出生率,新興住宅地,マンションなど)を設定する.また,今後の社会資源開発や,「住民組織/地域組織」の育成,さらには地域ケアシステムの構築へと思考が広がっていくよう,これらの地域の状況で最低限想定される「住民組織/地域組織」の情報を含む必要がある.

2) 健康課題の抽出と表記の仕方

健康課題を抽出するにあたっては,事例の特徴から,緊急性,重大性はどうかを考える必要がある.また,事例を通して,地域全体につながる健康課題は何か,潜在的な課題はないか,予防的視点で検討することはないかなど,「個人/家族」レベルにとどまらず,地域レベル,社会レベルへと発展的に考える.

「個人/家族」レベルとして,現時点では顕在的な問題とは言い難いが,子どもへの虐待の可能性が考えられ,緊急かつ重大な健康課題として挙げられる.

地域レベルとしては,地域の概況とマンション住民の状況等から,近所付き合いの希薄化による子育ての孤立化が健康課題として挙げられる.

社会レベルとしては,転出入が多いことや里帰り分娩等により,「個人/家族」の健康課題に関する情報・支援の途絶が起こりやすいことが挙げられる.

3) 対象別の支援方法例

健康課題から対象別支援として目標に転換する際に,誰がどうなるかが明確になるよう表記する.C-4公衆衛生看護活動方法の基本的考え方の地域づくり,アウトリーチ,協働,事業化・施策化,システム化と結びつける.具体的な活動としては,E-1子どもと親の健康への支援の内容とD公衆衛生看護過程展開の基本,地域診断,「個人/家族」への支援方法・技術,「地区/小地域」への支援方法・技術,地域の「住民組織/地域組織」への支援方法・技術,施策化などを駆使する.課題解決に向けては,「個人/家族」レベルにとどまらず,地域レベル,社会レベルへと発展的に考える.

「個人/家族」レベルでは,子どもが健やかに成長でき,親,家族が健やかに生活できる,を目標とし,D-3-4)-(1)の家庭訪問,D-3-4)-(2)の健康相談,D-3-4)-(4)のグループワーク(小集団技法)を用いた支援により,親同士の交流,子育てサロンの活用をすすめる.

地域レベルでは,親子同士の交流があり,子育ての孤立化がなく,子どもの虐待がない,を目標とし,D-3-4)-(4)のグループワーク(小集団技法)を用いた支援をしつつ,D-3-4)-(5) 病院,子育てコーディネーター,児童委員,地区推進員との連携によるケースマネジメント,D-5住民自治会などの地域の「住民組織/地域組織」への支援,D-4-4)-(2)地区組織との協働を行う.

社会レベルでは,子どもと家族の健康が継続的・包括的に守られるシステムが構築される,を目標とし,D-6-1)政策化である自治体,近隣市町村,病院,保育所等を含む,継続的,包括的支援体制(ネットワークシステム,協議会など)の構築を目指す.

4) 演習授業方法の例

地域社会での最小単位としての「個人/家族」に着目しながらも,「個人/家族」レベルにとどまらず,地域レベル,社会レベルへと発展的に考えることを意図した家族援助に関する授業で活用できる.家族援助では,前段の講義の中で家族機能に関連する理論を教授し,子どもの発達に及ぼす環境や社会からの影響について,コミュニティ,社会,経済,政治といったより大きな社会的構造の中に埋め込まれている生態学的システム論についての理解と同時に公衆衛生看護の対象である「個人/家族」,「地区/小地域」,「住民組織/地域組織」,「自治体」について重層的に関連付けて,家族のアセスメントから健康課題の抽出,目標設定,支援方法を考えることができる.

5) 学生への助言

「個人/家族」の生活,健康はその地域で創られていることを意識し,顕在している健康課題だけなく,潜在している健康課題がないか,ひとつの「個人/家族」のみの限られた健康課題なのか,そうではなく,地域全体として解決していく必要があるのかどうか,さらには,社会のしくみを変える必要があるのか,といった視点で考えられるように働きかける.

3. 糖尿病重症化予防が必要な事例の場合

1) 事例に含む要素

地域社会での最小単位としての「個人/家族」をアセスメントできるような情報,年齢・性別,家族構成,住居,職業,個人の健康状況(既往歴,現病歴,経年の検査データ,飲酒や喫煙などの生活習慣),過去および現在の保健行動,健康への関心や認識,家族の健康状況,家族の対処力,支援の経緯などを含む必要がある.

生活基盤としての「地区/小地域」をアセスメントできるような情報,地区人口,地区面積,年齢三区分別人口,住宅地の成り立ちや歴史,主要産業,購買圏,医療機関,健康づくりのための社会資源(スポーツ施設など)を事例に含む必要がある.

地域の「住民組織/地域組織」をアセスメントできるような情報,食生活改善に関わるような住民組織およびその活動状況,健康づくりを推進するような地域組織およびその活動状況,運動等の自主グループ組織および活動状況などを含む必要がある.

「制度や仕組みを構築する機能をもつ組織(自治体)」をアセスメントできるような情報,保健師の人数および業務体制,部門別配置数,当該事例の地区担当および業務担当保健師,また部門間の連携,医療機関などを含む必要がある.制度や仕組みについても公衆衛生看護の対象であるため,健康づくり計画・データヘルス計画・特定健康診査等実施計画等における現状と課題,対策および事業についても含む必要がある.

2) 健康課題の抽出と表記の仕方

健康課題は人々の健康と生活の反応であるため,健康課題を表現する場合の主語は「個人/家族」,あるいは人々になる.対策などが主語になる行政課題と混同しないことが重要である.

「個人/家族」レベルの例としては,Q氏は糖尿病が疑われるが未治療のため重症化する可能性があるなどが挙げられる.

地域レベルの例としては,C地区では糖尿病が疑われるが未治療者の割合が他地区に比べて高いなど,対外システムである他地区と比較して高低を判断して健康課題を抽出することができる.

社会レベルの例としては,HbA1cの有所見率が全国や県よりも高い,特定健康診査受診率や特定保健指導の利用率が全国や県より低く生活習慣病の早期発見・早期介入が遅れる可能性があるなど,当該自治体の上位レベルである県や全国と比較して高低を判断して健康課題を抽出することができる.

「住民組織/地域組織」については組織の体制および機能により地域レベルあるいは社会レベルとして健康課題を抽出する.健康づくり推進委員が市より健康診査受診勧奨を依頼されている際の社会レベルの例としては,健康づくり推進委員の健康診査受診勧奨の活動が停滞しており,受診率が3年連続で低下しているなどが挙げられる.

3) 対象別の支援方法例

対象別の支援方法を考える際には,健康課題に対する目標を設定し,目標を達成するための支援方法・技術を「D公衆衛生看護実践の基本となる専門基礎知識と技術」に照らし合わせて選定する.

「個人/家族」レベルでは,目標をメタボリックシンドローム該当の改善および糖尿病の重症化予防とする.D-3-4)の支援方法・技術を通して,「個人/家族」への保健指導,集団での保健指導,社会資源の活用の勧奨を行う.保健指導や勧奨の内容は,医療機関受診,特定保健指導の利用,食生活改善推進員の活動への本人・妻の参加,民間フィットネスクラブや市のスポーツイベントの利用などとする.

地域レベルでは,目標を地区における糖尿病が疑われる未治療者の減少とする.D-4-4)の支援方法・技術を通して,地区住民への健康課題の提示・共有,社会資源(住民組織)との協働を行い,特定健康診査受診率の向上,特定保健指導利用率の向上,糖尿病疑いのある未受診者の受診への働きかけなどを行う.

社会レベルでは,目標をHbA1cの有所見率の減少および特定健康診査受診率や特定保健指導利用率向上とする.D-6-1)~6-3)の支援を通して,特定健康診査の未受診者への対策,特定保健指導の未利用者への対策,糖尿病重症化対策の強化,治療中断者に対する医療機関との連携・協働,専門医紹介システムの構築などを行う.

4) 演習授業方法の例

公衆衛生看護の対象である「個人/家族」,「地区/小地域」,「住民組織/地域組織」,「自治体」について重層的にアセスメントから支援方法までの考えられる事例であるため全てのレベルを活用する場合と各レベルのみでも利用可能である.例えば,まずは「個人/家族」レベルについて課題とすることも可能である.

5) 学生への助言

健康問題だけなく,ウェルネスな視点からも人々の健康と生活の反応を捉えることから健康課題とすることの説明が必要である.また,健康課題を抽出するためには,何が原因で,関連要因は何か,人々の対処力は何かを明確にすること,すなわち構造化についての解説や例示も必要である.

IV. カリキュラム構築と実習計画への活用

ここでは,科目における保健師教育課程カリキュラム・マップ作成への活用と実習計画への活用例を示す.

1. カリキュラム・マップ作成への活用

本推進委員会のカリキュラム・マップの例を,表1に示した.縦軸(網掛け部分)は,公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラムの大項目と中項目とし,横軸は,授業科目名と単位数で構成した.実際には,授業科目や単位数さらに科目での授業内容は,各教育機関の方針に寄るため,独自性が表現される部分である.

表1 

保健師教育課程カリキュラム・マップの例

F臨地実習については表2モデル・コア・カリキュラムを用いた実習計画への活用例を参照

授業科目のカリキュラム・マップ作成への活用例として,現行のカリキュラム見直しに活用できる.例えば,公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラムを満たしているか,不足している内容をどう補うかなど教授内容の振り返りに役立つ.また,新たなカリキュラムを構築する時にも活用できる.公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラムを満たすために必要な授業科目および単位数の設定,授業科目における中心となる授業内容の設定等を考える場面に役立つと考える.

2. 実習計画作成への活用

公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラムの実習への活用として,2つの場面が想定される.

まずは学内での実習の検討や実習地との打ち合わせの際に,学習させたい事項の合意形成を行う際のツールとして活用する場面である.全国保健師教育機関協議会は「保健師教育におけるミニマム・リクワイアメンツ(MR)2014」で「公衆衛生看護学実習の必須体験項目」を示していた.今回の公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラムはその内容をより具体的に示したものともいえるため,求める到達度も含めたより詳細な検討に活用できると考えられる.

もう一つは,実習計画等の作成において,必要な学習内容が網羅されているのか確認し,計画の見直しを行う場面である.表2はその具体例である.横軸には公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラムの「F 臨地実習」の項目を記載している.縦軸は実習の計画案(仮)である.〇や◎は,計画された内容が,コア・カリキュラムの該当箇所を示している.これにより,体験できない事項が可視化され,計画案の見直しや調整への活用が可能になると考えられる.

表2 

モデル・コア・カリキュラムを用いた実習計画への活用例

注1)F-1は実習のすべての場面で学ぶ項目と捉えている.

注2)実習の体験事項は,複数の学習内容を含んでいる.そのため一つの体験の中で,複数の学習項目の中の学習目標を学ぶこととなる.

(例 乳幼児の家庭訪問は,家庭訪問の技術の学びであるとともに,個人/家族に対する看護展開過程も学ぶ)その中で,特に中心的な部分に◎を付けた.

V. おわりに

公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラムを効果的に活用するためには,コンピテンシー獲得のための方法論としての教材や教育方法の開発,評価基準と手法の開発,評価の標準化や共有が求められる.

全国の保健師教育課程・機関においては,公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラム(2017)のキャッチフレーズである「社会の多様な健康課題に対応できる保健師の育成」を目指し,各校の教育方針との一貫性や科目編成・学修目標との整合性を図り,学修内容の充実に向けて活用されることを期待する.

文献
 
© 2019 The Japan Association of Public Health Nurse Educational Institutions
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