Public Health Nursing Education
Online ISSN : 2433-6890
Special Lectures
Collaboration between Public Health Nurses and University
Akitsu Wakabayashi
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2019 Volume 3 Issue 1 Pages 7-12

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はじめに

平成25年4月19日付厚生労働省健康局長通知「地域における保健師の保健活動について」によると,「生活習慣病対策をはじめとして,保健,医療,福祉,介護等の各分野及び関係機関,住民等との連携及び協働がますます重要となってきていることが示されている.さらに,地域において保健師が保健活動を行うに当たっては,保健師の果たすべき役割を認識した上で,住民,世帯及び地域の健康課題を主体的に捉えた活動を展開していくことが重要となっており,地域保健関連施策の担い手としての保健師の活動の在り方も大きく変容しつつある.これまでの保健師の保健活動は,住民に対する直接的な保健サービスや福祉サービス等(以下「保健サービス等」という.)の提供及び総合調整に重点を置いて活動するとともに,地域保健関連施策の企画,立案,実施及び評価,総合的な健康施策への積極的な関与を進めてきたが,今後はこれらの活動に加えて,持続可能でかつ地域特性をいかした健康なまちづくり,災害対策等を推進することが必要である」と述べられている.同じく「地域における保健師の保健活動に関する指針」として保健師は,個人及び地域全体の健康の保持増進及び疾病の予防を図るため,所属する組織や部署にかかわらず,以下の事項について留意の上,保健活動を行うこととしている.

(1)地域診断に基づくPDCAサイクルの実施

(2)個別課題から地域課題への視点及び活動の展開

(3)予防的介入の重視

(4)地区活動に立脚した活動の強化

(5)地区担当制の推進

(6)地域特性に応じた健康なまちづくりの推進

(7)部署横断的な保健活動の連携及び協働

(8)地域のケアシステムの構築

(9)各種保健医療福祉計画の策定及び実施

(10)人材育成

地域で活動する保健師の姿を図1に示す(公益社団法人日本看護協会,2014).

図1 

地域で活動する保健師の姿(公益社団法人日本看護協会,2014

I. 保健師について

保健師助産師看護師法は,保健師・助産師及び看護師の資質を向上し,もって医療及び公衆衛生の普及向上を図ることを目的とする日本の法律である.その中で保健師の定義とは,「(第二条)この法律において「保健師」とは,厚生労働大臣の免許を受けて,保健師の名称を用いて,保健指導に従事することを業とする者をいう」と明記されている.他の職種はどのように定義されているのか確認をすると,助産師の定義とは,「(第三条)この法律において「助産師」とは,厚生労働大臣の免許を受けて,助産又は妊婦,じよく婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子をいう」.そして看護師の定義とは,「(第五条)この法律において「看護師」とは,厚生労働大臣の免許を受けて,傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう」.助産師,看護師は支援の対象者が明記されているが,保健師は対象の明記はないことがわかる.言い換えれば,赤ちゃんから高齢者まで幅広い年代における様々な健康状態の人々の健康を支える職業といえるのではないかと考えられる.

村上龍は「13歳のハローワーク」の中で保健師について「市町村役場や地域の保健所,保健センターなどに勤め,住民の健康を守り,促進することに努める.相手は,赤ちゃんからお年寄りまであらゆる年齢層にわたっており,それぞれの人の生活や健康状態を聞きながら,適切な措置やアドバイスをしていく.そのため,保健師として働くためには,幅広い知識や視野,あたたかい人間性,しっかりした体力と精神力が欠かせない.」と紹介している.対人サービスであるため,心と体の元気バランスはとても重要であるとともに,幅広い知識や技術が必要な職業であると考えられる.

実際に保健師は何人くらいいるのだろうか.平成28年末現在の就業保健師(以下「保健師」という)は51,280人(男1,137人,女50,143人)で,平成26年に比べ2,828人(5.8%)増加している(表1).

表1  就業保健師の年次推移 各年末現在
平成18年 平成20年 平成22年 平成24年 平成26年 平成28年
保健師 40,191 43,446 45,028 47,279 48,452 51,280
341 447 582 730 936 1,137
39,850 42,999 44,446 46,549 47,516 50,143

出典:厚生労働省 平成28年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況

次に,就業場所別実人員をみると,保健師は「市町村」が28,509人(55.6%),「保健所」が7,829人(15.2%),「病院」が3,271人(6.3%)となっている(表2).

表2  保健師の就業場所(実人員) 平成28年末現在
実人員 割合(%)
病院 3,271 6.38
診療所 1,930 3.76
助産所 2 0.0
訪問看護ステーション 315 0.6
介護保険施設等 1,027 2.0
社会福祉施設 412 0.8
保健所 7,829 15.3
都道府県 1,375 2.7
市区町村 28,509 55.6
事業所 3,079 6.0
看護師等学校養成所又は研究機関 1,188 2.3
その他 2,343 4.6

出典:厚生労働省 平成28年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況

保健師助産師看護師法においても「保健師」という名称は一番目に出てきている.就業者人数も年々増加しているが,果たして保健師の知名度はどうなのだろうか.吉岡は,保健師は行政組織の中ではマイノリティである.保健師は,看護職の中で比較的数が少ないこともあり,オープンキャンパスや出張授業の際に高校生に「保健師という仕事があることを知っている人はどのくらいいますか?」と尋ねても,「聞いたことがない」とか「よく知らない」と言われることが多い.このため,私自身,保健師は病院で働いている看護師や助産師と比べて,その知名度が低いという印象をもっている.また,所属している組織の中でも「保健師は,何をやっているのかよくわからない」と言われることがある.保健師は人々の健康を守る重要な仕事をしているのに,なぜこのように言われてしまうのだろうか(吉岡,2015).このような思いは行政保健師として働いている私自身も痛切に感じており同感できる.そのため,あらゆる人々に保健師の存在を知ってもらい,より身近な存在であり続けるために,「みてきいて つないでうごかし つくってみせる」保健師活動の「みせる」の一環となりうると考え,大学との協働を実施している.

II. 喜多方市の概要

私自身が勤務している喜多方市(以下,本市)は,会津の北部に位置し,平成18年に喜多方市,塩川町,山都町,熱塩加納村,高郷村の1市2町2村の5市町村が合併し,現在の喜多方市となった(図2).

図2 

福島県喜多方市

市の主幹産業は農業で,北には飯豊連峰,東に雄国山麓が裾野をひろげ,南には阿賀川,日橋川が横たわり,三ノ倉高原のひまわり畑,雄国沼のニッコウキスゲ,飯豊連邦の高山植物,ヒメサユリの群生地などの植物群が実り,豊かな自然にも恵まれている.また,新宮熊野神社「長床」,願成寺,中善寺など,日本でも屈指の仏都を象徴する文化財も多く残っており,年間約180万人の観光客が訪れている観光都市でもある.

本市の平成28年現住人口調査では,人口48,740人,世帯数は16,756世帯,一世帯あたりの人口は2.9人となっている.出生数は357人,死亡者数は799人と自然増加数は減少している.平成27年国勢調査では高齢化率33.8%と,国の高齢化率27.6%と比べても高齢化がすすんでいる.

III. 大学との協働

1. 調査研究

保健師として活動する中で,自分自身が実施してきた保健事業の効果を知りたいと強く思った時に,ちょうどタイミングよく福島県保健福祉部の企画として「調査研究研修」が開催された.管轄保健福祉事務所職員と市町村保健師,福島県立医科大学看護学部教授等がチームとなり,市町村で実施している保健事業について調査研究の一連の流れを体験するものであった.調査研究の手法を基礎から学び,実践で活かすことができる力を身につけるために率先して申し込みを実施した.調査研究のテーマは「転倒予防教室の効果的な実施に向けて」とし,私自身が担当している転倒予防教室参加者の身体機能の変化や気持ちの変化等を教室前後でアンケートと身体機能測定を実施し,統計的手法を用いて有意差の有無を確認した(図3).先行研究の文献検索をしたり,アンケート項目の妥当性について話し合いをしたり,統計ソフトの使い方を学んだりと初めてのことづくしであった.一つ一つのプロセスにそってその都度,大学教授より助言をもらいながらみんなで研究を作り上げていった.研究成果については,福島県保健衛生学会や日本公衆衛生学会で発表をさせていただく経験もできた.

図3 

転倒予防教室の風景(左:体力測定,右:運動の様子)

2. 介護予防のための太極拳ゆったり体操

「太極拳のまちづくり」は「蔵とラーメンのまち」で知られる喜多方市の特徴的な事業のひとつである.太極拳を通して「健康 福祉 教育 交流」の調和のとれたまちづくりを目指し,その調和が「地域振興」にもつながっていくという考え方で,様々な事業を行っている.平成15年3月,全国でも初となる「太極拳のまち」を宣言し,本格的なまちづくりをスタートさせた(図4).

図4 

「太極拳のまち」の宣言

本市では,虚弱高齢者の介護予防に寄与するため,平成17年度に太極拳の要素を取り入れた体操の作成に着手し,平成17,18年度の2年間にわたり検証と改良を繰り返して,平成19年3月には「太極拳ゆったり体操」として完成させた(図5).この体操は福島県立医科大学公衆衛生学講座安村誠司教授,会津保健所との協働で作成し,効果検証を行った(安村ら,2010).太極拳ゆったり体操DVD付き手引き書も発売され(図6),安村教授からの後押しもあり日本公衆衛生学会では企画展示ブースにて全国発信も実施することができた.

図5 

太極拳による検証事業の経緯

図6 

太極拳ゆったり体操DVD付き手引き書

3. 大学授業での講義

現場で働く行政保健師の活動を知ってもらうために,大学での授業を担当させていただいた.当時,母子保健を担当していたため,「赤ちゃん訪問の実際」と題して,保健師が赤ちゃん訪問に行く時,どのような法律等に基づいて行うのか,家庭訪問を行うときのポイント等核家族の事例を通して講義をさせていただいた.単純な赤ちゃんの体重測定を行うだけでなく,保護者に寄り添いながら話を聴き,必要な子育て支援サービスにつなげるにはどうしたらよいのかを,学生の声を聴きながら私自身も改めて考える良い機会となった.また,「乳幼児健診からの虐待予防」と題して講義をさせていただいた時には,本市の乳幼児健康診査で実施している子育てアンケートをもとに,虐待リスクを早期に発見し予防するための保健師や関係機関との連携について,3事例を紹介し,多職種連携で支援を行う実際を伝えることができたのではないかと考える.地域看護実習だけでは伝えきれない現場の声を直接伝える機会として,今後も講義を実施させていただきたいと考えている.

4. 学生実習

地域看護実習は,本市では2名の保健師が主に担当となり,学生実習に協力をしている.事前に学生の実習目標を確認しながら,より希望に沿った実習が実現できるように学校・学生・担当者で情報共有を実施しながら行っている.健康教育や家庭訪問,関係機関との連携等,できる限り現場で体験していただき,地域保健について座学では学べない保健師としての貴重な経験をしていただきたいと思っている.健康教育は大勢の住民の前で健康講話を実施し,学生のとても緊張している様子が伝わってくるが,どの場面でも健康講話が終わったあとは,温かい拍手がきかれ,それを聞いた時の安堵する学生の表情は何度みても私自身に初心を思い出させてくれる(図7).

図7 

学生実習の様子

IV. これからの大学との協働

石丸ら(2011)は,「行政保健師(以下,保健師)は,行政サービスの枠組みのなかで,看護の専門性を活かした役割や社会の変化に応じた住民ニーズへの対応方法を常時開発していかなければならない立場にある.開発していくうえでは,保健師のみならず実践者と研究者が協働することにより,より的確な成果を産み出し,実践の場で活用することが可能となる」と述べている.また,坪内ら(2007)は「保健師と看護系大学との関わりでいえば,臨地実習がある.臨地実習では,保健師の協力が不可欠であり,単に,学生実習を引き受けてもらうだけでなく,実習を課題解決の機会として生かすことができれば,保健師にとってさらに臨地実習の意味も見出せると思うし,大学にとっては適切な実習環境づくりにつながる」と述べている.

現場と大学の協働が現在よりも,更に促進されることで相互理解が深まり,多様化・複雑化している地域の健康課題にも柔軟に対応できる,より充実した保健活動の実施が可能になると考えられる.

V. おわりに

今回,このような日頃の活動を発表させていただく機会をいただきありがとうございました.まとめることで自分自身の保健活動の振り返りができ,改めて保健師活動の奥の深さを感じました.これからも現場の忙しさに流されることなく自己研鑽に励みたいと思います.

文献
 
© 2019 The Japan Association of Public Health Nurse Educational Institutions
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