Public Health Nursing Education
Online ISSN : 2433-6890
Special Lectures
Human Resource Development for Public Health Nurses in Collaboration with Educational Institutions
Nobue NakajimaMiki Tokinaga
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2020 Volume 4 Issue 1 Pages 22-28

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I. はじめに

高知県では,「高知県保健師人材育成ガイドライン」(以下「ガイドライン」という.)により,県及び市町村で働く保健師の人材育成に取り組んでいる.特に,階層別研修では,県内教育機関の協力を得ることで,課題学習付きの研修を実施できている.今回,教育機関と協働で行う研修を紹介し,行政と教育機関の協働の意義を伝える.

II. 本県の保健師の現状

高知県は人口69万8千人(令和元年10月推計人口),高齢化率35.2%であり,全国より10年先行して平成2年から人口自然減となった高齢化が進んだ県である.県内の自治体で働く常勤保健師は424人で,県に93人,34市町村に331人となっている.県内の保健師養成機関は3施設で,平成20年度以降に県が採用した保健師の4分の3が県内教育機関出身である.

本県では,地域保健法全面施行前の平成8年度末まで,県保健師が市町村に駐在する「保健婦駐在制」であった.駐在制廃止により県保健師が保健所等に引き上げたため,市町村では保健師の採用を急速に進めた結果,20年余り経た現在,中堅期保健師が4割を占め,次期リーダーとしての育成が課題となっている.一方,県は,人員削減のため長らく採用を抑制した結果,30代から40代前半が少ないうえに,ここ数年は多数の定年退職に伴う新規採用が進み,若手保健師の育成が課題となっている.なお,保健師の活動形態は,県は完全な業務分担制,市町村は,業務分担と地区分担の併用が多い.

III. 高知県の人材育成体制

本県は,「高知県保健師人材育成ガイドライン」(以下「ガイドライン」)を,平成22年度末に策定した後,平成26年度末及び平成30年度末に改定し,現在はバージョン3を運用している.平成30年度の改定において,高知の保健師のスローガンを全保健師による投票をもとに作成し,表紙の裏に掲載している.「私たち高知の保健師は,住民の健康と生活に目を向け,寄り添いながら,誰もが暮らしやすい地域をつくる.」である.キーワードは,「生活」「寄り添う」「地域をつくる」であり,これは保健婦駐在制から引き継がれている保健師像と重なるものと考える.

ガイドラインの進行管理は,市町村代表,教育機関,職能団体等で構成する「高知県保健師人材育成評価検討会」(以下「評価検討会」)を設置し,県が行う研修の他,職能団体の実施する研修も含めて,PDCAを回している.県内の3教育機関も構成団体となり,研修プログラムの企画・立案,評価に助言をしてもらっている.

県は,この事務局を担う人材育成担当部署に県統括保健師を配置し,事務分掌で「保健師の人材育成に関する専門的事務に従事するとともに,当該事務に従事する職員を指揮監督する」と規定している.また,5か所の福祉保健所(保健所と福祉事務所の統合事務所)に,平成19年度から市町村とのパートナーシップ強化と併せて保健,医療及び福祉の人材育成を推進する業務を行う部署として地域支援室を設置し,組織的に管内の市町村保健師の育成支援を行う体制としている.現在,1か所の室長を除き,室長,チーフ,担当者はすべて保健師を配置している.

IV. 高知県保健師人材育成ガイドライン

次に,本県の階層別人材育成プログラムを紹介する.研修体系としては,他県と同様にOJTと自己研さんを基本として,集合研修を配置している.階層は,新任期(1~4年目),中堅期(5年~19年目),熟練期(ポストに就かない20年目以上),管理期(係長級以上)の4期に分けている.求める保健師像は,保健師のコア機能である「地域をみる・つなぐ・動かす」を高め,地域の課題等を幅広い視点から掘り下げ,住民の主体的な健康づくりや誰もが暮らしやすい地域づくりをめざし,医療や福祉と連携した取り組みを進めることができる人材としている.

本ガイドラインの特徴の一つに,目指す姿を3種類で記載している点がある.1つ目は,県内保健師の意見から作成した「高知の保健師の目指す姿」,2つ目は,行政保健師として大切にしたい視点を示した「保健師八策」,3つ目は,公衆衛生の基本「みる・つなぐ・うごかす」の機能別に階層別のコンピテンシィを示したものである.なお,キャリアラダーについては,本県独自のものは作成せず,標準版を自己評価に活用することを推奨している.

まず,「高知の保健師の目指す姿」は,所属タイプ別に「市町村保健師」「県福祉保健所保健師」「県本庁保健師」で作成している.「市町村保健師」の作成に当たっては,まず各市町村で目指す姿を作成し,その構成要素を県全体で集約のうえ,KJ法でカテゴライズしたものである.「地域を知り,地域を大切にすることができる」からスタートし,個から集団支援,地域ケアシステムの構築までの地域活動,さらに「保健師マインドを大切にすることができる」といった内容まで,幅広く目指す姿を描いている.同様の方法で「県福祉保健所保健師」「県本庁保健師」についても作成した.

2つ目の「保健師八策」(図1)は,本県ゆかりの坂本龍馬の船中八策をなぞって,平成22年度に作成した.地域活動の基本から,専門職としての自己研さん,そして地域への責任性まで8項の文章に込めている.平成25年に保健師活動指針が改定された際は,内容を照合させ指針のすべてを網羅していることを確認し,改変することとなく使用している.また,この8項の具体のイメージを容易にするため県内の該当する活動をガイドラインに掲載している.

図1 

保健師八策

1) 階層別研修

階層別の集合研修は,新任期4コース,中堅期8コース,管理期5コースを用意している.まず,新任期プログラムについて紹介する.獲得する能力のキーワードを個別対応から地域の課題を捉えるとし,個別支援に終わらず,個の問題を集団・地域の課題へと発展させる(鳥の目,虫の目)としている.

2) 新任期保健師支援プログラム

新任期保健師支援プログラムは,OJTと集合研修を組み合わせ,経験年数ごとに獲得能力の目標を示している.まず,OJTのプログラムでは,各年毎に行動目標シートの様式があり,その獲得すべき行動目標を達成するために個人の行動計画を記載し,達成状況を評価する仕組みである.プリセプター及び新任者とプリセプターの良好な関係を調整する機能をもつ管理者(統括保健師や上司)を配置し,年に3回の面接を行い,進捗管理する.市町村の場合は,県福祉保健所職員も面談等に参加し,支援を行っている(図234).集合研修のテーマは,1年目は個別支援,2年目は地区診断(ポートフォーリオ作成),3年目と4年目はPDCAサイクルとし,課題学習があるため,前期を7月までに終え,後期を12月以降に実施している.県福祉保健所職員がファシリテーターとして参加し,研修後の課題学習の支援も実施している.なお,この新任期研修については,高知県立大学との共催としており,講義のみならずグループワークも含め,毎回4名もの教員に指導していただいている.平成30年度,このプログラムの評価のため,高知県立大学と県でワーキングを立ち上げ,行動目標シートの目標達成状況と集合研修の理解度等について,過去3年分を評価した結果,個人の行動目標と集合研修の目標が連動し,各年ごとに期待する能力の向上が獲得できており,本プログラムは効果的であるという結論を出した.なお,この分析により,獲得目標を図5のとおり修正し,行動目標シートも改編するとともに,3,4年目になると行動目標シートの活用率が低下傾向にあるため,行動計画を立案しやすいように具体的な行動を例示している.

図2 

高知県新任保健師支援プログラムの内容

図3 

高知県新任保健師支援プログラム:OJT体制

図4 

新任期保健師支援プログラム:年間スケジュール

図5 

新任期保健師支援プログラム目標図

新任期保健師の専門能力として,7つの支援活動を行う能力を構造化している.住民に対して,直接的な支援活動である「個別・家族支援」「小集団への支援,地区組織活動」を行う能力,間接的支援活動として「連携・協働,ケアシステム構築」「保健事業の実施・評価」を行う能力,これら4つの支援活動を組み合わせて,受け持ち地域の中に入り込み,その地域の特性に応じた「地区活動」を行う能力,及びこれらの支援活動を通して,「保健師としての自己成長」を発展させていく能力,さらに,「健康危機管理」を行う能力から構成されている.これらの専門能力は,階層的に積み重なっており,1年目から4年目に向かって,成長していく.また,それぞれの専門能力は,それを獲得するための行動目標を含んでいる.

新任期保健師は,4年間で,基本的能力,行政能力を基盤とし,専門能力を階層的に向上させていくことで,中堅期という次のステップに向かうことを目指す.1年目から4年目の各段階で,7つの専門能力を一歩ずつ獲得しながら,次の段階で新たな能力を獲得していく成長の進み方をらせん状の矢印で表現している.新任期保健師が自ら育ち,また自らの活動の質を高めるためには,「自分で目標を立て,それに向かって行動し,獲得した能力を評価する」と言う一連の目標管理の考え方と実践方法によって,人材育成を行っている.

3) 中堅期育成プログラム

中堅期研修プログラムは,8コースを実施している.研修内容については,平成29年度に県内対象者に対するアンケート結果から,中堅期では行政能力やファシリテーション能力の向上に関する要望が多かったため,それまでの保健事業施策立案等を中心とした3コースから,組織運営力やファシリテーション能力を向上させるコースも加え,8コースに拡大し,能力到達目標を「集団・地域を視野に入れた自律的かつ組織的な対応ができる能力」とした.5年目から9年目を中堅期Iは「能力開発期」として,個から地域へ保健活動の展開する能力の向上等を目指している.また,10年目以降の中堅期IIと熟練期は,「能力発揮期間」とし,地域ケアシステムの構築能力の向上等を目指している.8コースのうち,4コースは県内教育機関に講師及び課題学習へのコンサルテーションをお願いしている.このうち,県内教育機関に全面的に協力を得ている研修として,地域ケアシステム構築を目指したPDCAを学ぶ研修「保健活動評価研修」がある(図6).これは,受講者が自身の取組課題を職場の応援を得て実践につなぐもので,全7回である.1年間かけて,地域分析から企画,評価計画を立案し,地域ケアシステム図を作成するため,職場の理解と協力支援が必要となる.徹底したグループディスカッションとホームワークを繰り返すことで,能力獲得につなげるプログラムとしている.職場の上司・同僚等も含めたフォローアップのため教員にも県内各地に出向いてもらっている.受講生からは,気づきが多い研修として好評の反面,課題提出への負担感を訴える声もあるが,中堅期の必須研修として位置づけ,受講者の計画的確保を図っている.

図6 

保健活動評価研修

4) 管理期育成プログラム

続いて,管理期になる.管理期Iは係長級,管理期IIは課長補佐級以上としている.管理期Iでは,社会保障等の動向から先を見据えた地域保健のマネジメントができる能力獲得を,管理期IIでは統括保健師として部署横断的なマネジメント能力の獲得をねらいとしている.また,災害時に統括保健師として役割機能を果たすことができるよう,健康危機管理研修を実施している.なお,管理期IIを対象とした研修は,毎年受講可としている.

統括保健師の活動においては,人材育成におけるリーダーシップに止まり,保健師の活動を横串に刺す総合調整機能を発揮するまでに至っていない感はある.また,周囲の保健師も統括保健師の役割機能を理解しきれていない印象も受け,統括保健師の補佐的役割の発揮が,次期リーダー育成におけるポイントと捉えている.

また,日々の活動における県・市町村の統括保健師同士が相互にサポートしあう関係の構築が重要であるため,統括保健師研修会においては,それを意識したワークショップを実施した.しかし,市町村においては,退職や課長職への昇任による交代などにより統括保健師の入れ替わりが早く,少数であっても統括保健師を育成する基礎研修は毎年必要と考える.

5) ガイドラインの効果を高めるために

研修受講において,業務別研修が優先される中,階層別研修を計画的に受講する体制を構築するため,ガイドラインに受講管理表と受講計画表の様式を掲載し,市町村の統括保健師に活用を促している.階層別研修のうち,一度きりの必須研修と継続受講が可能なものを明確にしている.また,OJTの機能強化については,標準版キャリアラダーから作成した自己点検表を活用した面談等を推奨している.標準版のキャリアラダーを活用することで,全国的視点で自己分析できる利点を強調している.また,併せて,県と市町村の人事交流の促進が人材育成にも離職防止にも有効と考え,向こう4年間の計画を毎年秋に提出してもらっている.以上の活動を統括保健師が実施することについて,県統括保健師が市町村を訪問する等して事務職課長に依頼している.

V. その他の協働

公的研修とは別に,県内養成学校と行政が共同で開催しているものとして,保健師交流大会がある.平成24年度末に全国保健師長会高知支部から保健師関係団体に投げかけがあり平成25年度から実行委員会形式で開催している.目標を,①保健師の仲間で語り合い,エンパワメントされる.②若い世代に「高知県で働く保健師の良さ」を継承する.③行政保健師の専門性を再確認することとし,毎年,冬に1日又は半日で実施している.教員を除いて実行委員は毎年入れ替わり,毎年,テーマを設定し,ワールドカフェを取り入れ,所属団体を越えて,自由に語り合える場となっている.

VI. 県内養成機関との協働する利点

県内3養成機関の協力のもと人材育成ガイドラインを策定し,新任期,中堅期のプログラムで企画・立案から協働していることを報告した.地元教育機関に人材育成に関与いただく利点として3点をあげるとすると,1つ目として,人材育成ガイドラインの策定への参画により,中・長期的の視点をもって人材育成の方向性を共有した上での関与が得られること,2つ目として,県の保健医療福祉行政の方向性を共有した上での関与が得られること,3つ目として,県全体の集合研修のフォローアップとして保健所単位での研修など継続的な指導を受けることができることに整理できる.今後は,さらに,県内の保健活動の評価・課題分析の協働・助言及び研究活動の支援も期待している.

VII. 最後に

以上,本県の保健師人材育成ガイドラインを紹介した.県内教育機関との協働,あるいは協力は,県・市町村保健師の人材育成には欠くことができないものである.これまで,県内の現任教育を支えていただいたことに感謝申し上げるとともに,今後も引き続きのご指導,協働をお願いさせていただきたい.

 
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