2020 Volume 4 Issue 1 Pages 29-32
保健師等の看護職の養成所における教育内容や教育条件等の基準は,厚生労働省と文部科学省の共同省令である保健師助産師看護師学校指定規則に規定されている.平成30年4月から厚生労働省において「看護基礎教育検討会」が開催され,指定規則について検討された.令和元年9月に改正案が示されることを受け,文部科学省においては大学における看護系人材養成の充実に向けた検討会を同年5月から開催し,12月に第1次検討報告が提示された.筆者は一委員として文科省の検討会に参加したので,検討の概要を保健師の養成に焦点を当て報告し,本協議会に期待することを述べる.
本検討会の目的は,大学における看護系人材養成の充実に向け,指定規則の看護系大学への適用に関する課題と対応策等と,大学における看護系人材養成に係る事項を検討すること,であった.委員構成は表1に示す通りである.この検討会が開催される前に各委員に,大学における看護系人材養成に関する教育プログラムの充実に向け,指定規則別表の教育内容と指定規則の見直しの要否とその根拠について,所属団体としての意見を集約することが求められた.検討会の開催状況は表2に示した.第4回目から臨地実習について検討したため,3名の委員が追加された.
座 長:高田 邦昭 | 群馬県立県民健康科学大学学長 |
副座長:宮崎美砂子 | 千葉大学副学長・大学院看護学研究科教授 |
秋山 正子 | (株)ケアーズ代表取締役・白十字訪問看護ステーション統括所長,認定NPO法人マギーズ東京センター長 |
井村 真澄 | 日本赤十字看護大学大学院国際保健助産学専攻教授(公益社団法人全国助産師教育機関協議会会長) |
大島 真澄 | 豊橋創造大学保健医療学部・大学院健康科学研究科看護学科長・教授(一般社団法人日本私立看護系大学協議会会長) |
釜泡 敏 | 公益社団法人日本医師会常任理事 |
上泉 和子 | 青森県立保健大学 学長(一般社団法人日本看護系大学協議会会長) |
岡島さおり | 公益社団法人日本看護協会常任理事 |
岸 恵美子 | 東邦大学看護学部・大学院看護学研究科教授(一般社団法人全国保健師教育機関協議会会長) |
小見山千恵子 | 東京大学医学部付属病院副院長・看護部長 |
鈴木 克明 | 熊本大学教授システム間研究センター長・教授 |
平野かよ子 | 宮崎県立看護大学学長(一般社団法人公立大学協会看護・保健医療部会会員) |
柳田 俊彦 | 宮崎大学医学部看護学科教授 |
オブザーバー | |
島田 陽子 | 厚生労働省医政局看護課長 |
第4回から参加 | |
鎌倉やよい | 日本赤十字豊田大学学長(一般社団法人日本看護系大学協議会看護学教育向上委員会委員長) |
中根 直子 | 日本赤十字社医療センター周産母子・小児センター副センター長 |
彦根 倫子 | 神奈川県平塚保健福祉事務保健福祉部長・地域統括保健師 |
第1回 令和元年 5月16日 |
看護基礎教育検討会の進捗状況 |
大学における看護系人材養成の充実に向け必要と考えられる事項 |
第2回 令和元年 6月10日 |
大学における看護系人材養成の充実に向け必要と考えられる事項 |
第3回 令和元年 9月20日 |
改正案の指定規則を大学において適用するにあたり留意すべき事項検討会第1次報告について |
第4回 令和元年10月 4日 |
検討会第1次報告書案について,実習ガイドライン案について |
第5回 令和元年12月23日 |
実習ガイドラインについて |
この後,第6回,第7回を開始予定 |
検討会開催前に委員から提出された大学における看護系人材養成に関する教育プログラムの充実に向けた意見の主なものを表3に示した.この項目に沿って検討会の話し合いは進められた.
Ⅰ.大学において養成する看護系人材像(能力) |
看護学教育モデル・コア・カリキュラム(A~G) |
Ⅱ.大学における指定規則の位置づけ |
Ⅲ.複数の職能に共通する統合カリキュラムの継続 |
Ⅳ.教育方法 |
Ⅴ.教員の質保証 |
Ⅶ.教育内容(看護師,助産師,保健師) |
Ⅷ.臨地実習(看護師,助産師,保健師) |
大学における看護学教育の基盤は,平成29年に提示された「看護学教育モデル・コア・カリキュラム」の構成が,医学,歯学,薬学等と共通するので,これを基盤とすることとした.
2) 大学における指定規則の位置づけ指定規則は,大学における教育の質の保証という観点から議論したが,大きく分けると2つの意見が出された.一つは「指定規則は学士課程において教育すべき看護学教育の最低基準を示すもので,これを基として各大学のディプロマポリシーに即して,大学がどのような科目をどのような教育方法で充実させるかであるため重要である」との意見である.もう一つは「教育内容は看護学教育モデル・コア・カリキュラムを踏まえ大学の裁量に任せ,指定規則は撤廃する方向とすることが望ましい.指定規則に示された教育内容が担保されているかは,評価機構が行う領域別評価等の第三者評価で保証されていけばよい」との意見であった.
結論としては,まだ,新設の看護大学もあることから,当面は指定規則を看護学教育の最低基準を示すものと位置づけ,指定規則の廃止は今後の第三者評価による教育水準が担保される動向を踏まえるとして,今後の課題とした.各大学の教育理念・目的に基づき,大学の創意工夫で柔軟な対応が重要との共通認識を持った.
3) 指定規則の改正案に対する議論これまでの指定規則の別表には単位数にカッコ書きがあったが,これは「大学においては適用されない」とされていた.しかし今回の改正案では,看護職者に求められる能力を培うことを目指し,教育内容と方法の充実を図るため,看護師学校養成所の総単位数は97単位から102(100)単位とし,保健師学校養成所の教育内容としての総単位が28(25)単位から31(28)単位に増加し,これまでになかった括弧が表示され,看護系大学において保健師学校と看護師学校の指定を併せて受けている学士課程においては括弧を適用できるとされた.
この点については以下のような議論がなされたことが報告書に示されている.
・保健師養成を選択制としている大学において,保健師を選択しない学生へも看護師養成に括弧の100単位を適用できると考えたり,保健師養成を必修としている大学においても安易に看護師学校に係る単位を減じたりするような事態が生ずるのではないか.
・括弧の単位を用いる場合は,大学としての養成する人材像に照らして事前に十分に検討し,学生への丁寧な説明と,社会への説明責任を果たすことが求められる.
これらの意見を踏まえ報告書では,大学は保健師課程を選択しない学生へは括弧が適用できないこと等を踏まえ,括弧の単位を適用することの妥当性を慎重に吟味した上で指定又は変更申請を行うことが必要である,とした.
4) 臨地実習について今後の課題として臨地実習のあり方についても議論された.保健師養成に関しては,「見学に留まる内容になりがちである」という意見や,「実習体験をそれまでの学内で学習した知識や技術等を統合させることができていないのではないか」等の意見が出された.報告書では,見学中心の実習ではなく,学生が実施した実践を振り返り,評価して次の実践につなげることのできる実習にすべきことと,演習と実習を連動させること,健康危機管理や政策形成能力の強化を図ること等が課題とされた.実習に関してはさらに実習ガイドラインを検討し発出する予定である.
5) 学士教育として期待されること前述の議論と併せて,看護系大学においては学士の学位を授与することから,委員の一人から,大学で修得させようとしている学士力とは何かという質問が出された.筆者が議論の中でとらえた学士力についての意見を表4に示した.大学では習わなかった新しいことに出くわしても,自分で探求し解決していこうとする探求心を培うことや,卒後にさらに自ら力を伸ばしていく“ノビシロ”を付けることではないか等があった.
◆全体の状況を判断できる |
◆探求的に予測・推論ができる,自分で考える力・探求力 |
◆本質を把握する |
◆自分で考え組み立てる |
◆統合する |
◆卒後に伸びる力 |
◆仕事を継続する |
◆後々,学問の追及,教育者 |
上述した実習ガイドラインについては,第4回の検討会から議論がなされ,日本看護系大学協議会の看護学教育向上委員会が検討している「看護学実習ガイドライン」を基に議論した.議論の最初に,検討会として実習ガイドラインの位置づけについて確認した.実習ガイドラインは,看護学教育モデル・コア・カリキュラムの項目Fと整合性を保ち,保健師助産師看護師の養成に共通するものとした.また,このガイドラインは大学と実習施設,さらに国民(患者・家族)とも共通理解がなされるものとした.第5回の検討会では,ガイドラインは,実習により学生に何を修得させようとするのかの実習の基本的な考え方を明確に示し,その具体的な方法は各大学の実習要綱に託すものとする等の方向性が出された.次回の検討会(2月3日)でさらに論議し,年度内には完成予定である.
これまで文部科学省の「大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会」は平成14年度から開催され,今回は第5回であった.私は公立大学協会の一員として初めて加わったが,改めて看護系大学において,看護師と保健師の専門性はどのように認識されているのかを垣間見る機会となった.
私は,広義の看護学は,看護師養成の知の体系である狭義の「看護学」と,保健師養成の知の体系の「公衆衛生看護学」,さらに助産師養成の知の体系の「助産学」の3つの学問体系で構成されると理解し,狭義の「看護学」は「公衆衛生看護学」と「助産学」の基盤であることから,保健師の基礎資格として看護師免許を持つこととされていると理解している.また,「公衆衛生看護学」と「助産学」はそれぞれに専門性があり,狭義の「看護学」と同等であり,日本ではそれぞれに国家資格が与えられていると考えている.
しかし,表3に示した検討会の開始前に各団体から提出された意見の中に「III.複数の職能に共通する統合カリキュラムの継続」とあるように,大学において看護師養成と保健師養成に必要な科目を統合して学習することで,(広義の)看護学のより質の高い理解につながる,あるいはグローバルスタンダードは看護師と助産師であり,我が国の看護が国際水準に並ぶものとするには看護師養成と保健師養成の教育内容を統合して教育することが望ましいとする考え方があることを実感した.そもそもこれらの考え方には狭義の「看護学」という概念はないと思われるが,私が理解する広義の看護学の修得のために看護師と保健師の教育科目を統合して編成することが望ましいとしていると理解した.
しかし,私は狭義の「看護学」と「公衆衛生看護学」は,学問としての方法論に独自性であり専門性を持つと思っている.卒後の保健師の力量を評価する観点からは,保健師の養成は狭義の「看護学」を修得した後に,31単位を一年以上の時間を確保して行うことが望ましいと考えている.
本協議会は看護学教育モデル・コア・カリキュラムが発出された後,即,公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラムを提示され素晴らしいことと思う.さらに公衆衛生看護学は学問として専門性を持ち学問として確立していることを,多くの人々に納得してもらえるものにしなければならないと思う.公衆衛生看護学は単なる近代科学としての科学だけではなく,多くの理念を含む文理融合の学問である.また,生活者を対象とする関係性には,“対等性”が重要で,時には自らの専門性を表出しないようにする関わり等の方法論は,公衆衛生看護学の特性と思う.本協議会が総力を挙げて公衆衛生看護学を精緻化させることを期待する.