Public Health Nursing Education
Online ISSN : 2433-6890
Project Reports
Application of Public Health Nursing Skill System of Parents and Child Health Activities for the Public Health Nurse Education
[in Japanese]Sachiko OkiAyumi ShimoyamadaMiwa SuzukiSaori IwamotoKazuko SaekiHiroko TakizawaFumiko HashimotoYayoi HadaMichiyo Hirano
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2020 Volume 4 Issue 1 Pages 33-38

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I. 背景

全国保健師教育機関協議会教育課程委員会では,2017年度から2019年度まで,親子保健活動における公衆衛生看護技術の体系化と教育方法の検討を行ってきた.公衆衛生看護は,対象を「個人・家族」に留まらず「組織」や「地域」など重層的に捉えている点,それらの対象レベルごとの支援技術が展開される点,さらに各対象レベルを連動して展開する点に特性がある.そのため,「公衆衛生看護技術」の体系化にあたっては,一連の看護過程で展開される看護行為から一つひとつの「技術」を抽出し,対象レベルと展開過程という2軸に沿って整理した(大木ら,2019).また「公衆衛生看護技術」の体系化にあたっては,それぞれの「公衆衛生看護技術」を習得するために必要とされる概念及び理論を整理した.さらに,基礎教育におけるそれらの技術の学習レベルを知識として理解するレベルである講義,指導の下で実施できることをめざした演習,自立して実施できるレベルをめざした実習にわけて検討した(表1).

表1 

「『親子保健活動における公衆衛生看護技術』と教育方法」の例

「公衆衛生看護技術」の体系化の意義には,次の3点が考えられる.1点目は,人々の健康課題が深刻化,複雑化している社会状況において公衆衛生看護が果たす機能の明確化である.川島(2003)は「看護技術」は,看護と看護でないものを分けるものであり,看護を社会的に有用な機能として確立する上で技術論が重要であると述べている.すなわち専門技術の明確化は,公衆衛生看護と近接諸科学との差異を明確にした独自の専門領域としての確立に不可欠である.2点目は,多職種との連携における公衆衛生看護の専門性の明示化である.多職種連携においては,専門技術を共有するとともに,それぞれの専門性を発揮することが期待されている.そのために,各専門職の実践能力に対する相互理解と信頼が重要であることが示されている(Dahl B. & Crawford P., 2018, San Martín-Rodríguez L. et al., 2005).すなわち,多職種との連携・協働において,公衆衛生看護の専門技術を多職種が理解し,共有できるように提示することが求められている.そして3点目は,実践能力の基盤となる「公衆衛生看護技術」を習得するために「技術」全体を網羅的に言語化することである.森(2005)は,技術・技能の教育には,その職域における技術・技能の内容が網羅され評価可能な形にすることが必要であると述べている.技術の体系化は,技術を網羅的に言語化する試みであり,技術教育の基盤となると考えられる.

以上を踏まえ,2019年度の教育課程委員会の取り組みでは,この公衆衛生看護技術の体系化に関する3点目の意義に着目し,公衆衛生看護技術教育への活用について検討を行った.

II. 活動内容

1. 「公衆衛生看護技術」に関する教育の課題と親子保健活動におけるモデル教材作成の目的

「親子保健活動における公衆衛生看護技術」の体系化の検討では,「公衆衛生看護技術」とは,個人/家族が地域で健康に生活するために提供される技術であり,専門的知識に基づいた判断および行為とした.ここで用いる「行為」は,外部から観察可能な人間や動物の反応を示す「行動」と対比して,ある意思をもった行いや哲学であり,目的観念を伴う動機があり,思慮・選択によって意識的に行われる意図を持った行動をさしている.また,「方法論」と「技術」の対比では,方法論とは,保健師が公衆衛生看護活動において用いる普遍的手法を理論化したものであり,「技術」は理論化された「手法」を,看護の展開状況に応じて意図をもって創造的に提供する行為であると整理した.さらに,公衆衛生看護活動は,看護目的の達成のために,対象と環境に対して,制度や社会資源を活用しながら,「公衆衛生看護技術」を統合して展開した実践とした.

これらの定義を踏まえて,現在の基礎教育での公衆衛生看護技術に関する教育の現状を考えると,一般に「家庭訪問」「健康相談」「健康教育」「地域診断」などの方法論が教授されていることが多い.一方,公衆衛生看護展開論においては,「母子(親子)保健」「成人保健」などの各保健領域の諸制度とそれに伴う公衆衛生看護活動に関しての教授が中心となっており,必ずしも「技術」そのものに力点は置かれていない場合が少なくない.このような現状を踏まえると,方法論や保健課題領域の諸制度や社会資源を含めた公衆衛生活動への理解に上乗せした「公衆衛生看護技術」の教育を充実することが必要であると考えられた.

公衆衛生看護活動は,各保健課題領域の特性に応じて,常に変化する多次元の対象レベルを支援対象とし,さまざまな要因が交差する複雑で流動的な状況と環境において展開される.そのため,「公衆衛生看護技術」には,複雑な対象レベルや環境に応じた「技術」とともに,多様な「技術」を統合して流動する状況に適用していく「技術」がある.これらより,「公衆衛生看護技術」に裏打ちされた実践能力の獲得のためには,一つひとつの「技術」を学習するとともに,実践場面での対象と環境に応じた「技術」,さらにそれらを統合して適応する「技術」の展開方法を学習することが求められる.

社会福祉領域では,社会福祉士の専門技術である援助技術の教育における演習を「理論,方法,技術,価値体系と実践体系との相互連鎖現象の実証作業」と定義し,寺田ら(2009)は,演習は理論と実習を媒介するものであるとしている.また,事例を活用した教育について,社会福祉士養成のための相談援助演習のためのガイドライン(日本社会福祉士養成校協会,2015)では「総合的かつ包括的な援助及び地域福祉の基盤整備と開発に係る具体的な相談援助事例を体系的にとりあげること」とされている.事例教育の意義について,五十嵐(2001)は「実践から学ぶ」ことであり,援助技術とその前提である方法や支援関係を学ぶことができると述べている.これらは社会福祉領域の教育に関して示されたものであるが,地域の人々の生活課題の解決をめざし,個人/家族,集団,組織,地域という多次元のレベルの対象に対して,生活に着目し援助技術を展開する点では,近接領域といえ,公衆衛生看護技術教育においても示唆深い指摘であると考える.

そこで,体系化された「親子保健活動における公衆衛生看護技術」の習得を学習目的とし,演習に活用できるモデル事例を含む教材を提示することとした.前述したように,実践能力の習得には,支援対象のニーズや環境の変化に応じて「公衆衛生看護技術」を適応させる支援過程の展開論と連動した技術教育の充実が必要である.そのため本モデル教材は,事例教育に活用できるモデル事例を用いた教材とした.その上で,公衆衛生看護活動の展開過程に組み込まれている「公衆衛生看護技術」を「技術」として意識化し,「公衆衛生看護技術」を個別に習得するとともに,それらの「技術」を組み合わせて実践活動を展開する実践力を習得することを学習のねらいとした.

2. 親子保健活動における技術演習のためのモデル教材の内容

(1) モデル教材の構成

本モデル教材は,以下の3つの資料からなる.

①モデル事例:親子保健活動に関する「個人/家族」への支援から,「地域の住民組織/地域組織」(以下「住民組織/地域組織」)「地域の制度や仕組みを構築する機能を持つ組織(自治体)」を対象とした支援活動へと展開する事例を示している.

②演習プログラム例:モデル事例を教材として活用した演習プログラム例を提示した.

③演習プログラムの事例場面に含まれる「技術」とそれらの「技術」に必要な知識内容:②の演習プログラムで用いたモデル事例場面に組み込まれている「親子保健活動における公衆衛生看護技術」を提示し,さらにそれらの「技術」を学習するために必要な理論や概念等を示した.

(2) モデル教材の事例内容

モデル事例の内容は図1に示したとおりである.本事例は,「個人/家族」を対象とした支援から始まり「生活基盤としての地区/小地域」(以下「地区/小地域),さらに「住民組織/地域組織」,「制度や仕組みを構築する機能をもつ組織(自治体)」を対象とした支援への展開を,一連のつながりをもった地区担当保健師の立場での展開内容とした.具体的には妊娠届け出時面接から始まり,新生児訪問,4か月児健康診査などの母子保健事業を活用しながら,子どもと家族への支援を展開し,さらにそれらの個別支援から「地区/小地域」の課題を特定し,地区組織活動への発展,自治体全体の取り組みにつながるまでを6つの場面で構成している.それらの展開過程の中に,子どもと家族に関する情報収集やアセスメント技術,養育期(産褥期を含む)の家族への一般的支援,地区/小地域の地域診断や組織支援の技術等が組み込まれている.

図1 

モデル教材事例の概要

3. モデル教材の活用方法

(1) モデル教材の活用方法

モデル教材は,どのような「技術」の習得を学習目標とするかに応じて,事例を活用した演習課題を設定し,「公衆衛生看護技術」の教育に活用されることを想定している.例えば,事例の支援展開全体を用いて複数コマの演習プログラムにおいて,「個人/家族」への支援から「地区/小地域」を対象とした活動,「住民組織/地域組織」,「制度や仕組みを構築する機能をもつ組織(自治体)」を対象とした活動にいたる展開過程に沿って,保健師の情報収集の技術やアセスメント技術,展開技術を詳細に学習する方法が考えられる.また,事例中の場面を部分的に取り上げ,その場面で用いられる技術に焦点化して演習プログラムを作成する方法もある.

さらに演習課題の設定の方法では,情報を提示し,それらの情報からのアセスメントや支援計画の立案を考える方法が考えられる.あるいは,保健師のアセスメントや支援展開なども含む事例全体を提示し,事例の中から「公衆衛生看護技術」を抽出するという方法もあるだろう.

しかし,いずれの場合も事例に組み込まれている「公衆衛生看護技術」は「親子保健活動における公衆衛生看護技術」の一部分であり,基礎教育で学習すべき全技術項目が含まれているわけではない.そのため「親子保健活動における公衆衛生看護技術の体系」全体を学生に示すなど,事例に組み込まれた技術を含めた公衆衛生看護技術の全体像を学生が理解できるような組み立てが必要であると考えられる.

(2) モデル教材を用いた演習プログラム例

モデル事例「孤立した子育て家族への支援から小地域でのネットワーク活動へ展開した事例」の妊娠届時面接(場面1)から4か月児健診場面(場面3)までの展開を用いて,「乳児期の子どもの成長・発達の支援とその家族への支援のための公衆衛生看護技術(「個人/家族」)を学習する」をテーマとした演習プログラム例を示す.演習プログラム例は,演習1から演習3で構成し,事例展開とあわせて,情報収集技術やアセスメント技術,養育期の家族への一般的支援技術を学習するための課題を設定したものである(表2).

表2  演習プログラム例の概要 テーマ「乳児期の子どもの成長・発達の支援とその家族への支援のための公衆衛生看護技術(「個人/家族」)を学習する」
演習1「4か月児健康診査での問診を行ってみよう」
①学習のねらい 親子保健活動における「個人/家族」への支援にあたって,新生児時期から4か月までの時期の一般的な支援ニーズを理解し,把握すべき子どもと家族に関する情報の収集技術およびアセスメントの技術を学習する.
②学習目標 乳児健康診査の問診の聞き取りや観察をとおして,子どもと家族の支援に必要な情報収集やアセスメントを行うことができる.
③行動目標 ・4か月児健康診査の問診場面での子どもと家族の観察,問診票の項目の聞き取りによる情報収集,気になる情報への2次質問をとおして,子どもと家族の情報収集を行う.
・収集した情報から,子どもと家族の状況や支援の必要性についてアセスメントをする.
・母親役と保健師役を体験することで,支援関係の構築に向けた信頼関係づくりのために重要なコミュニケーション技術や相談支援技術を実感する.
④用いる事例場面 場面1~場面3-1(妊娠届~4か月児健康診査問診場面)
⑤学生が取り組む課題の内容 「地区担当保健師として,Pちゃん親子の問診をどのように展開しますか.学生2名で母親役と保健師役の組み合わせとなって,ロールプレイで展開をしてみましょう.」(役割を交代して2回ロールプレイを行い,それぞれに振り返りを行う)
⑥組み込まれている公衆衛生看護技術項目 ・【A111 子どもと家族に関する情報収集】A1110200 出産前後の経過と産後の状況に関する情報収集/A1110300 子どもの健康・生活に関する情報収集/A1110400 家族状況と育児状況に関する情報収集/A1110500 母親や家族の育児のストレス状況に関する情報収集/A1110600 親や家族の健康な力を捉え,親の気持ちにそった情報収集/A1110700 子育てについてのリスクを予測した情報収集
・【A211 子どもと家族に関するアセスメント】A2110200 産婦の健康と育児のスタート状況に関するアセスメント/A2110300 子どもの健康・生活に関するアセスメント/A2110400 家族機能と育児への対処状況のアセスメント/A1110500 家族の育児の負担状況のアセスメント/A1110600 支援の必要性のアセスメント
(2)演習2「4か月児の発達評価を行ってみよう」
①学習のねらい ・4か月児健康診査での子どもの発達の評価するための方法を学習する.
・4か月児健康診査での,さまざまな情報を統合した子どもと家族の状況のアセスメント技術およびアセスメントの結果に基づいた子どもの健康な成長・発達を支え,家族での主体的な育児に向けた働きかけを行うための相談支援技術を学習する.
②学習目標 ・4か月児の発達評価のための項目を理解し,それらの評価のための手技を行うことができる.
・4か月児健康診査結果を子どもと家族の状況に応じて伝えることができる.
③行動目標 ・乳児期の子どもの発達段階を踏まえ,乳幼児健康診査の診察項目の内容と方法を理解する.
・4か月児に対する発達評価の手技についてモデル人形を用いて実施する.
・4か月児健康診査での情報を統合し継続支援の必要性を判断し,家族に健康診査の結果の説明を行うことができる.
④用いる事例場面 事例場面1~3-3(妊娠届時面接~4か月児健康診査診察場面)
⑤学生が取り組む課題の内容 「診察所見に示されている各項目はどのような発達評価方法を用いて確認された情報でしょうか.それぞれの項目の評価方法とその判断基準を上げましょう.」
「用いられる発達評価法の手技について,モデル人形を用いて実施してみましょう.」
「問診,計測,診察の情報から,Pちゃんと家族について,どのようにアセスメントし,健康診査の場面で,母親にどのように健康診査の結果を伝えますか.」
⑥組み込まれている公衆衛生看護技術項目 ・【A111 子どもと家族に関する情報収集】A1110300 子どもの健康・生活に関する情報収集
・【A211 子どもと家族に関するアセスメント】A2110300 子どもの健康・生活に関するアセスメント/A1110600 支援の必要性のアセスメント
(3)演習3「これまでの情報を統合し子どもと家族への支援計画を立案しよう」
①学習のねらい ・さまざまな場面をとおして収集した子どもと家族の成長・発達,家族の育児や生活の状況,子どもと家族の関係性などの各情報を統合して支援ニーズについてアセスメント技術と支援展開技術を学習する.
②学習目標 4か月健康診査までの支援過程で収集された情報と4か月児健康診査での情報を統合した子どもと家族のアセスメントおよび支援計画を立案できる.
③行動目標 ・アセスメントに基づき,乳児期の子どもと家族への一般的な支援である親との信頼関係の構築,子どもが健康に成長・発達するための助言や相談について,具体的な支援技術を考える.
④用いる事例場面 場面1~3-4(妊娠届出時面接~4か月児健康診査終了時)
⑤学生が取り組む課題の内容 「場面1~場面3-4の4か月児健康診査での診察終了時のPちゃんと母の状況から,Pちゃんとその家族への支援についてアセスメントをし,支援計画を立案しましょう.」
⑥組み込まれている公衆衛生看護技術項目 ・【A312 養育期(産褥期を含む)の家族への一般的支援】A3120100 親との信頼関係の構築/A3120200 子どもが健康に成長・発達するための教育的な働きかけ/A3120300 家族での主体的な育児に向けた働きかけ
・【A336 子どもへの虐待の問題(リスクも含む)がある親と子どもへの支援】 A3360300 虐待(リスク含む)がある親と子どものアセスメント

なお,実際に演習プログラムを組み立てる場合は,これらの事例の活用方法に加え,ロールプレイや実技実施などの演習手法の検討や,子どもの発達評価方法,健康相談技術,カウンセリング技術,相談面接技術などの学習をどのように組み込むかについての検討が必要である.

III. おわりに

経済成長の低迷,人口構成の高齢化・少子化を背景に,社会状況や社会関係の変化,家族機能の脆弱化が進行しており,地域での健康課題は,複雑化・深刻化している.そうした中,全ての人々の健康な生活をめざす公衆衛生看護活動にはより高い実践能力が求められる.そのため基礎教育には,実践現場で高い実践能力を獲得できるための基盤となる基礎的専門技術の習得が期待されている.「公衆衛生看護技術」の習得に裏付けられた実践力の獲得のためには,自己学習を含んだ講義,演習,実習がそれぞれに関連して提供されることが必要である.すなわち,講義,演習,実習という各学習過程での学びと気づきがあり,さらに,それらの学びや気づきが相互に補完しあうつながりを学生が実感できることが重要である.

「親子保健活動における公衆衛生看護技術の体系」および体系に基づく演習プログラム案は,親子保健活動における公衆衛生看護技術教育に関する教育案の検討にあたって活用されることを想定して作成した.あわせて,親子保健活動に限らず公衆衛生看護技術に関する教育を構築する上での,演習の参考事例としても活用されることを期待するものである.

なお,本稿で紹介したモデル教材は,全国保健師教育機関協議会ホームページに掲載予定である.

文献
 
© 2020 The Japan Association of Public Health Nurse Educational Institutions
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