Public Health Nursing Education
Online ISSN : 2433-6890
Project Reports
Process and Issues of the “Carrier Ladder (I) Training” Instruction in Public Health Nursing
[in Japanese]Shinobu YamaguchiYukari NagasawaYuko FujimotoKimiyo KawaminamiEiko KitaokaChikage TsuzukiMikako ArakidaKotomi AkahoshiYuka NojiriMiwa MitsuhashiMiyuki IshiiMiwa Suzuki
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2021 Volume 5 Issue 1 Pages 14-21

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I. はじめに

一般社団法人全国保健師教育機関協議会(以下,本協議会)では,平成29年度から保健師基礎教育の教員の教育能力に着目した研修を開始し,今年度2期生が修了したところである.実施や評価で不十分な面はあるが,研修内容の整備を行ってきた経緯と今後の課題について報告をする.

保健師教育は,従来,各都道府県が保健師学校を有し,その自治体の保健師が教員となって教育に携わってきた.しかし看護教育の大学化が進むなか,保健師国家試験受験資格も大学もしくは大学院修了時に取得することが大幅に増加した.大学が増えるにつれて,教育技法を体系的に学ぶ機会が少ない教員が増加し,大学教員として教育技法を修得することの必要性が生じてきた.かつて保健師教員になるには,指導者講習会の受講や国の卒後教育機関である国立保健医療科学院でリーダー保健師の養成を目的とした研修を受講していた.また昭和52年には厚生省看護研修研究センターが設立され(島田,2007),そこでは1年を通して教育のことを学び,資格制度こそないが修了したものが教員となり保健師基礎教育機関で教育をしていた.大学教員は本来,自分の研究をもとに教育を展開するという教育と研究を一体化して学問を伝えることを期待されているため,保健師助産師看護師学校養成指定規則に示された教育内容の熟知は前提とし,保健師アイデンティティを育成するための組み立てを知識,技術,態度の側面から教育をする(名原,1996a1996b)ことが重要である.

保健師基礎教育の主流が大学となった現在,教育に特化した知識・技術について体系的に学ぶ機会は殆どないため,本協議会では「教育」「研究」に着眼した大学教員のラダー2016年版(第32回全国保健師教育機関協議会下記教員研修会,2017)を作成し,それに沿った研修を実施している.

II. 教員ラダーI研修の紹介

1. ラダーI研修の目的と対象(表1

本研修の名称は,第一回目は「公衆衛生看護学を教授する教員〈レベルI〉研修」としていた.それは,公衆衛生看護学を教授する教員のキャリアラダー2016年度版を受けそれに示されている【教育者としてのラダー】に準じたからである.それには「レベル」の項目があり「レベル1A」から「レベル3B」までの5段階の区分がある.レベルIは「レベル1A」と「レベル1B」で構成され,概ね教員としての経験が5年未満であり,教育学の基礎から初級の研修として設定している.求められる能力として「教員としての基本姿勢・資質」「カリキュラム編成」「授業展開」「実習展開」の4つの項目がありそれぞれに,更なる下位項目とそれに沿った具体的な内容が示されている.本研修は「レベルI」の能力を身につけるための研修として位置づいているが,「レベル」は「水準」「高さ」を意味している,研修委員会では一つのステップであるという意味で「ラダー(梯子)」の表記が適切ではないかと検討し,研修委員会,理事会の合意を得て2019年に「公衆衛生看護学を教授する教員〈ラダーI〉」に改変をした.

表1  公衆衛生看護学を教授する教員のキャリアラダーIの内容
区分 1A 1B
役割・責任 授業:単発試行・補佐
実習:継続的指導下
授業:単元責任
実習:頻回指導下
必須の仕事経験 授業単発試行経験
自分の教育評価研究
授業単元責任遂行経験
単元の教育評価研究
必須の研修(教育力) 教育学/FD/専門
基礎研修
教育学/FD/専門
初級研修
求められる資格・学位 学士・修士 修士
必要経験年数(目安) 0年~2年 1年~5年
求められる能力(知識・技術)教員としての基本姿勢・資質
公衆衛生看護の原則・価値を継承する 公衆衛生看護の原則・価値を継承する意義を理解し,その概要を説明できる 公衆衛生看護の原則・価値を具体的事例で説明できる
保健師プロフェッショナルおよび保健師教育の専任教員としての知識・技術を持つ 保健師および教育者として基本的な知識と技術を有し,さらなる向上を目指して主体的に自己研鑽できる 知識と技術の維持・向上に努め,担当する授業等についてより包括的かつ詳細に探求できる
公衆衛生看護における倫理を遵守する 公衆衛生看護活動および教育における倫理的な問題について概要を説明できる 倫理的な問題について具体例を挙げて,その背景や考え方を多面的に示すことができる
カリキュラム編成
関連する諸制度(指定規則含む)や専門能力枠組みを踏まえる 関連する諸制度や専門能力枠組みについて説明できる 看護教育における一般的なカリキュラム編成の方法について説明できる
高等教育枠組みを踏まえる 公衆衛生看護学の基礎的な概念や原理の知識に基づいてカリキュラムを解釈できる クリティカルな視点を持ってカリキュラムを評価できる
所属する教育機関の教育理念・ポリシーに準ずる 所属する教育機関の教育理念,ディプロマポリシー,カリキュラムポリシー,アドミッションポリシーを説明できる 現在の所属機関のカリキュラム編成が教育理念とポリシーに準じているかどうかを説明できる
授業展開
学習目標と授業計画の立案(ミニマムリクワイアメンツに到達する),授業の組織化 担当する授業について前後の授業の流れを踏まえて学習目標と授業計画を立案できる 担当する単元について教育の順序性を考え学習目標と授業計画を立案できる
効果的な授業の内容と方法
講義・演習・教材開発
担当する授業について効果的な授業の内容と方法で構成し実施できる 担当する単元について効果的な授業の内容と方法で構成し実施できる
学生の能力査定と効果的な学習支援 担当する授業について学生の能力査定を行い,効果的な学習支援方法を選択し実施できる 担当する単元について学生の能力査定を行い,効果的な学習支援方法を選択し実施できる
授業における学習成果(ラーニングアウトカム)の評価
教育評価
担当する授業について学生の学習成果を評価し,到達度の低い内容について授業計画を修正できる 担当する単元について学生の学習成果を評価し,到達度の低い内容について授業計画を修正できる
実習展開
実習目標と指導計画の立案(ミニマムリクワイアメンツに到達する) 担当した実習グループの学生が実習目標に到達するための指導計画(週案)を作成できる 実習目標に到達するための指導計画について実習グループ間に格差がないかを点検し,調整できる
学生の実践能力査定と効果的な学習支援 学生の実践能力を査定する方法,その結果に基づく効果的な学習支援方法について概要を説明できる 担当実習グループの学生の実践能力を査定し,その結果に基づいて効果的な学習支援方法を選択し実施できる
実習における学習成果の評価 実習における学生の学習成果の評価方法について説明でき,指導の下で評価できる 担当した実習グループの学生の学習成果を評価できる
実習指導体制と実習指導者教員間(以下指導者間)の関係の構築,協働 実習施設との打ち合わせにおいて実習指導体制と互いの役割を確認し指導者間の関係を構築できる 実習期間を通して学生の到達度等に関する指導者間の情報交換を密にし,課題に即座に対応できる
実習における学習環境の整備(実習地の開拓を含む) 実習施設との打ち合わせにおいて実習における学習環境の整備について協議できる 実習期間を通して学生の学習環境に関する課題を把握し,指導者に交渉・調整できる
必要物品を把握し購入できる

本研修の目的は「公衆衛生看護学における効果的な実習及び授業を展開する能力を修得する」であり,受講対象者の参加資格は「ラダーI」に相当する教育の経験が5年以下のすべての教員であるが,教員経験年数が5年以上ある教員や科目責任者以上の役割責任を持つ教員からの受講希望があった.職位が混在するとグループワークのやりづらさが生じるのではないかと考え受け入れない方針であったが,強い受講希望があったことから2期生では教員経験年数が5年以上の教員も受け入れた.

教育に関する知識や技能を体系的に修得することは,教育上の成果が大きいことからも,経験年数が5年以上の教員も学習できる環境を作る必要がある.また,夏季教員研修で教育に関する科目を取り入れた講演は大変好評であったことから今後も他の研修と共催して教育についての知識・技能のブラッシュアップを目指した研修開催について検討が必要である.

2. ラダーI研修の構成(表2

教育の基盤と初級の構成として6日間の研修を実施している.研修委員会では,内容の順番性,学修のしやすさ等を考慮し,1年目に講義の指導案作成,2年目に演習・実習での対応に関する指導案作成を行っている.1期生では,教員経験が低い場合は授業より演習や実習での体験が多いと考え,1年目に設定した.しかし,教育を組み立てるという思考を持つには講義授業を行う際に明確な指導者観・教材観・学生観が必要でありそれらをしっかり考えることで保健師にとって大事にしたいことを考える機会になることから授業の組み立てを1年目に行うことに変更した.

表2  公衆衛生看護学を教授する教員〈ラダーI〉研修スケジュール
1年目 1日目 8月 回目 内容 主たる講師(敬称略)
9:30 1 講義:教育学総論I―概要編― 梅澤秋久
11:10 2 講義:教育課程 七木田文彦
12:40
13:25 3 講義:教育方法 川越明日香
15:05 4 演習:授業の工夫―先輩教員体験談― 山口 忍
16:40 5 講義:教育評価 川越明日香
18:10
2日目 8月
9:15 6 講義:授業展開 鈴木美和
10:55 7 演習:グループ授業計画の立案1 荒木田美香子
12:25
13:10 8 演習:グループ授業計画の立案2 荒木田美香子
14:50 9 演習:グループ発表と議論 鈴木美和
16:20
3日目 3月
9:15 10 講義:授業評価 鈴木美和
10:55 11 演習:課題発表と討議1 荒木田美香子
12:25
13:10 12 演習:課題発表と討議2 荒木田美香子
14:50 13 演習:グループ報告 鈴木美和
16:20
2年目 4日目 8月
9:30 14 講義:保健師教育のカリキュラム構築 岸恵美子
11:10 15 演習:教育課程を確認しよう GW 都筑千景
12:40
13:40 16 講義:教育学総論II-教育心理編- 佐藤 純
15:20 17 演習:実習に限定した指導者観のGW 研修委員会
16:50
5日目 8月
9:15 18 講義:実習指導の原理 野村美千江
10:55 19 演習:グループ実習指導計画の立案1 野尻由香
12:25
13:10 20 演習:グループ実習指導計画の立案2 野尻由香
14:50 21 演習:グループ 発表と議論 野尻由香
16:10
6日目 3月
9:15 22 演習:課題発表と討議1 野尻由香
10:55 23 演習:課題発表と討議2 野尻由香
12:25
13:10 24 演習:グループ報告 野尻由香
14:50 25 演習:全体の振り返り 研修委員会
表彰式

8月研修の2日間は主に講義とグループワークを行い,3月までの期間に各自の課題を行い,3月の研修では各自課題発表とグループメンバーとのディブリーフィングを行っている.ほぼ同世代で,同領域の教員が一堂に会する機会を持つことは通常ではほぼ皆無であり,本研修が唯一の機会であることからも,そこでのグループワークは受講生にとって有意義な時間となっている.わずか2日間の夏の研修であるが3月に会うことを心待ちにしている様子もある.

今後は,受講生と修了生の縦のつながりを創り自らがブラッシュアップを図ることを目的に,学会での自由集会やワークショップを活用して同窓会のような機会を設けることも有効と考える.

3. 研修の内容

講義は主に教育学を専門とする大学教員に依頼をし,保健師教育に特化する教育課程の理解や教育の評価,指導案作成に関わる講義・演習は保健師教育の内容を熟知している本協議会の教員が担当している.社会の変化に対応しつついつの時代にも住民の立場にたってPDCAに沿った活動が展開できる保健師の育成は今後一層望まれる.国家試験のための知識を伝えるだけではなく,学生者観・指導観・教材観をしっかり有し学生の成長にそった授業設計,教育展開ができる教育者(佐藤ら,2006)となることが必須である.本研修は6日間25コマ約37.5時間であり,授業方法による内訳は9回の講義と16回の演習で構成しており約2単位である.受講生においては本研修の6日間を核にし,研修と研修の狭間の期間は,自主的にメンバーと情報交換をするなど自らが学修する時間を意図的に設けることを期待する.

4. 受講生の状況

受講生は,1期生修了者45名,2期生1年目参加49名,2年目参加43名である.1期生の2年目最終日である第6日目の受講後アンケート結果を1期生結果として図12に示す.また,2期生の2年目第5日目の受講後アンケート結果を2期生結果として図3に示しそれに沿って報告する.

図1 

2年間(6日間)の開催方法:1期生(2017–2018)n=41

図2 

開催方法(オンライン):2期生(2020)n=36

図3 

研修の成果:1期生(2017–2018)n=41

1) 開催方法(図1図2

研修場所は,全国の会員校への配慮から,1年目は東京,2年目は大阪と交互に行い,なるべく授業や実習を外した期間で開催している.1期生結果では,単年度,2年間いずれでも,開催場所,期間,日程は概ね好評であった.

2期生2年目の2020年度は,新型コロナウイルス感染症の影響もありオンライン開催とし,当日の欠席者対応として課題の提出とオンデマンド配信による映像の視聴を行った.オンラインでの研修はその成果が気がかりであったが,対面研修と殆ど変わらない成果であった.1年目が対面研修であったため,グループワークで受講者同士の関係性が築け,2年目はオンライン開催であったにもかかわらず良い関係性を維持し研修できていた.次年度以降,オンラインと対面の併用の検討が早急に必要である.本研修の対象者ではないが受講したい,開催期間と重なる学内業務がどうしても調整できないという声が複数あり,その対応としてe-learningの開発が必要である.

2) 職場の理解

職場からの理解は大きく,1期生,2期生ともに9割以上の受講生が職場の理解があったと回答していた.本研修はOJTとしても活用できることを考慮し指導教員の受講も可能としている.1期9名,2期2名の参加があったが同職場の後輩がいるという中での研修受講はグループワーク等に入りづらい面もあったため2期からのOJTとしての受講は講義のみとした.ラダーIの参加対象ではない教員も講義受講で自らの教育理解に活用が可能である.

3) 研修の成果(図3図4

研修内容はほとんどの項目で高い理解を示していた.「教育理念の大切さ」「教育課程の理解」「保健師カリキュラムの構築の理解」の短期間の研修ではわかりづらい内容と思われたがすべての項目で9割以上の理解を示していた.また「教育方法の理解」「実習での学習支援」「実習での学生の課題の把握」「実習指導者の役割の理解」についても実習・授業共に9割以上,「評価方法の理解」と「授業を実施することに自信がもてた」「実習指導を実施することに自信がもてた」は8割強であった.授業については,1期生,2期生ともに「学生の能力に合わせた学習支援」が理解できた割合が低く,自信を持って教育できるまでには到達しなかったこととの関連が考えられる.研修に出席するだけでなく教育機関での日々の経験の積み重ねからのOJTによる補完が必要である.

図4 

研修の成果:2期生(2019–2020)n=36

5. ラダー研修の評価

研修後にラダー指標の自己評価を行いその到達度を確認した結果では,1期生の「実習展開」ではほとんどの項目で7~8割が「よくできた」「できた」と評価していた.「指導体制や役割を確認し,指導者教員間の関係構築」「実習施設との打ち合わせで学習環境の整備について協働できる」はほぼ全員が「できた」と評価していた.唯一「実習目標と指導計画の立案」のレベルIB「実習グループ間に格差がないか,点検・調整できる」が「よくできた」「できた」が4割ほどであった.「授業展開」では「実習」に比べ,全体に「よくできた」「できた」割合が低かったが,多くの項目は6~7割が「よくできた」「できた」と評価していた.「できた」が4割程度であったのはレベルIBの「学生の能力査定と効果的な学習支援」「授業における学習成果の評価」であった.実習指導は新任教員であっても,ある程度の期間実践できる機会があり,指導を受けながら研修での成果を活用し,繰り返し経験を積むことで目標達成が可能になったと考えられる.一方,講義の授業は繰り返しの経験が難しいこと,新任教員が担当できる単元が限られていること等から目標達成がやや難しかったと考える.

これらの自己評価結果から,到達が難しい目標を達成するための方法について本研修だけでなくOJTも含めて具体的に提示していく必要がある.また研修の成果やラダー指標の達成は積み重ねの時間も必要であることから研修直後だけでなく,継続して確認することも必要と考えられその検討が課題である.

III. 修了生によるシステマティックな活動展開の可能性

研修中から,グループワークを通して受講生が活発に交流する様子が見られた.若手教員が一堂に会して交流する機会は少ないことから,本研修は受講生同士のつながりを形成する意味でも非常に貴重といえる.受講生からは,研修終了後も引き続き交流する機会が欲しいとの希望があり,受講生の中から中心メンバーとなる数名が選出され,受講生が主体となって体制を整備することとなった.現在,第一段階として,Facebookを活用して修了生が情報共有を行う場を設ける準備が進められている.今後,学会でのワークショップや懇親会の開催など,段階的に活動を広げていきたいと考えており,修了生による一層の活躍が期待される.

IV. 終わりに

本研修は,二期生の終了を迎え,研修の内容,実施体制もおおよそ確定した.今後は,ブロック活動や学会との連動を範疇に入れて組織的な展開ができるように整備が必要である.また,教育に関する研修は,夏季研修に定期的に取り入れて会員のキャリアアップを図っていく機会とすることも必要である.保健師の教育に特化して体系的に学ぶ機会となる本研修は,大変貴重であり更なる継続に向けて準備を進めていく必要性は高い.

文献
 
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