Public Health Nursing Education
Online ISSN : 2433-6890
Project Reports
Indicators for Evaluation of Health Teacher Education (Revised) (2020)—The Japan Association of Public Health Nurse Educational Institutions (JAPHNEI) Version
[in Japanese]Saori IwamotoHiroko TakizawaMichiyo HiranoSachiko OkiAyumi ShimoyamadaFumiko HashimotoYayoi HadaMichiko MatsubaraSatoshi IrinoKazuko SaekiMiwa Suzuki
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2022 Volume 6 Issue 1 Pages 11-18

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I. はじめに

現在,保健師教育は,大学院修士課程,学部での全員必修の課程,学部での選択制課程,大学・短大専攻科,保健師看護師統合カリキュラム校での課程,専修学校など多様な教育課程により行われています.どのような教育課程においても,一定水準以上の保健師としての基礎的な知識の修得と能力の育成が求められており,それを保証することが,全国保健師教育機関協議会の務めでもあります.

全国保健師教育機関協議会では,2014年「保健師教育におけるミニマム・リクワイアメンツ全国保健師教育機関協議会版(2014)」を作成しました(一般社団法人全国保健師教育機関協議会保健師教育検討委員会,2014).ミニマム・リクワイアメント(以下,MR2014)とは,卒業時までに全学生が必ず習得する最低限の技術のことを指します.このMR2014は,厚生労働省の示した「保健師に求められる実践能力と卒業時の到達目標と到達度」(厚生労働省,2010)が基になっています.さらに,2016年にはMR2014に基づく,保健師教育の評価ツールの開発を目的に「保健師教育におけるミニマム・リクワイアメンツ全国保健師教育機関協議会コンパクト版(2016)―保健師教育の継続的評価のために―」の報告書にまとめました.その後,教育の評価指標であることが明示的になるように,この呼称を変更し,MR2014に基づく保健師教育の質を評価するために用いるものとして作成したものが「保健師教育評価の指標 全国保健師教育機関協議会版(2016)」(教育検討委員会,2017)です.これは,MR2014の中項目の習得を達成するために中核と考えられる小項目を選定し,それらの小項目を代表する行動目標を教育評価項目として抽出したものです.そのため,この保健師教育評価の指標を用いることにより,MR2014の達成状況を簡便に評価することができます.

2020年には厚生労働省は保健師助産師看護師学校養成所指定規則を改正し(厚生労働省,2020),それにより保健師カリキュラムも改正されました.さらに「保健師に求められる実践能力と卒業時の到達目標と到達度」についても改正が行われました(厚生労働省,2019).そこで,教育課程委員会においては,今回の保健師助産師看護師学校養成所指定規則および「保健師に求められる実践能力と卒業時の到達目標と到達度」の改正に対応させるために「保健師教育評価の指標 全国保健師教育機関協議会版(2016)」も改正し,2020年「保健師教育評価の指標(改正版)全国保健師教育機関協議会版(2020)」を作成しました.

II. 活動内容

1. 「保健師教育評価の指標(改正版)(2020)」の改正方法について

(1)保健師助産師看護師学校養成所指定規則改正に伴う保健師教育課程カリキュラムの改正で重視された内容に合わせて,保健師教育評価の指標の評価項目の文言や項目の追加および修正を行いました.

(2)「保健師に求められる実践能力と卒業時の技術到達目標と到達度」の項目や卒業時の到達レベルの改正に応じて,保健師教育評価の指標の評価項目について,項目の追加,および到達度の修正を行いました.なお,到達度の修正や新たな項目の追加については,MR2014の行動目標を参考にしました.

(3)(1)(2)については,全国保健師教育機関協議会教育課程委員会委員で検討し「保健師教育評価の指標(改正版)全国保健師教育機関協議会版(2020)改正案)(以下,保健師教育評価の指標改正案)を作成しました.

(4)保健師教育評価の指標改正案の妥当性を検討するために,全国保健師教育機関協議会会員校へのSurvey Monkeyを活用したオンライン調査を2020年8月末から9月に実施しました.オンライン調査の内容は,①回答者の属性(所属の保健師教育課程,職位),②保健師教育評価の指標改正案(62項目)については,「妥当である」「概ね妥当である」「概ね妥当であるが修正が必要」「不要である」の4択での回答とし,「概ね妥当であるが修正が必要」「不要である」の回答については,自由記載で修正案やその理由についての回答を得ました.また評価指標の卒業時に求められる到達度について,I 少しの助言で自立して実施できる,II 指導の下で実施できる,III 学内演習で実施できる,IV 知識として分かる,の4選択肢から回答を得ました.さらに保健師教育評価の指標の活用状況を把握するために,「保健師教育の評価指標」の使用状況,保健師教育内容の評価として使用している指標について問いました.

III. オンライン調査の結果

1. 回答率と回答者の属性(表1

会員校218校のうち63校から回答を得,有効回答60校(有効回答率45.9%)を分析対象としました.回答者の属性は,教授38人(63.3%),准教授10人(16.7%)でした.回答者が所属する保健師教育機関の教育方法は,学部での選択制(人数制限あり)が最も多く38校(63.3%)で,次いで大学院8校(13.3%)でした.

表1  回答者の保健師教育体制と職位
n %
回答者のご所属の教育体制
大学院 8 13.3%
大学専攻科 0 0.0%
大学選択制(人数制限あり) 38 63.3%
大学選択制(人数制限なし) 2 3.3%
全員履修 1 1.7%
専修学校・短期大学 2 3.3%
無回答 9 15.0%
回答者の職位
教授 38 63.3%
准教授 10 16.7%
講師 6 10.0%
助教・助手 5 8.3%
その他 1 1.7%

2. 保健師教育の評価指標の活用方法について(表2

(1)「保健師教育の評価指標全国保健師教育機関協議会版(2016)」の活用方法について問うたところ,最も多かったのが「本指標を知っているが,教育評価として活用していない」33人(55.0%)でした.活用の方法は,「最終学年に1度評価を行い,教育の改善に役立てている」8人(13.3%),「実習前後で評価を行い,教育の改善に役立てている」7人(11.7%),「学年毎に段階的評価を行い,教育の改善に役立てている」4人(6.7%)でした.それ以外の方法で活用している者が8人(13.3%)あり,「講義・演習・実習の評価指標として一部は使用したり参考にしている」や「カリキュラムやシラバスの策定時に参考にしている」などがありました.

表2  「保健師教育の評価指標全国保健師教育機関協議会版(2016)」の活用方法
n %
1.自校の保健師教育の評価のために,学年毎に段階的評価を行い,教育の改善に役立てている 4 6.7%
2.自校の保健師教育の評価のために,最終学年に1度評価を行い,教育の改善に役立てている 8 13.3%
3.自校の保健師教育の評価のために,実習前後で評価を行い,教育の改善に役立てている 7 11.7%
4.自校の保健師教育の評価のために活用しているが,上記以外の活用方法をしている(自由記載に内容を記載) 8 13.3%
5.本指標を知っているが,教育評価として活用していない 33 55.0%
6.本指標自体を知らない 0 0.0%

上記4の活用方法の自由記載の内容

・講義・演習・実習の評価指標として一部は使用し,一部は参考にしている/実習,演習目標の参考としている.

・カリキュラムやシラバスの策定時に参考にしている/カリキュラム改訂時に教育内容の評価として使用している.

・実習前後というよりも,実習の目的や評価として評価表の文言に活用し,実習成績評価に活用している.しかし,臨地の実習指導者(保健師)からは,貴学の実習到達目標は,目標が高すぎる,現任教育でも新人にこのような高いレベルは求めていないという指摘を受けている.そこで,実習評価表の文言を変えて,目標の表現を下げることに苦戦して活用するに至っている.

(2)保健師教育内容の評価として用いている指標(表3

表3  保健師教育内容の評価として用いている指標(複数回答)
n %
1.保健師教育の評価指標(全国保健師教育機関協議会版 2016) 20 33.3%
2.保健師教育の技術項目の卒業時の到達度 36 60.0%
3.自校で独自に作成した学習目標等 32 53.3%
4.教育内容の評価は行っていない 1 1.7%
5.その他 5 8.3%
合計 94

上記5その他の記載内容

・保健師教育におけるミニマムリクワイアメンツ全保協2014年版

・日頃の教育内容について,特に今は新カリキュラムを考えるに至って2017年の公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラムについても再度振り返ってみています.

・保健師に求められる実践能力と卒業時の到達目標と到達度

保健師教育内容の指標として用いている指標を複数回答で問うたところ,最も多いのが「保健師教育の技術項目の卒業時の到達度」36人(60.0%),次いで「自校で独自に作成した学習目標等」32人(53.3%),「保健師教育の評価指標全国保健師教育機関協議会版(2016)」20人(33.3%)でした.その他の指標を用いていたものには,「保健師教育におけるミニマム・リクワイアメンツ全保協2014年版」「公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラム」の回答がありました.

3. 保健師教育の評価指標案の妥当性について

(1)保健師教育評価の指標改正案の小項目に関する意見(表4

表4 

保健師教育評価指標改正案に関する調査結果

会員校の回答結果から,保健師教育の評価指標の各項目について「妥当である」「概ね妥当である」の割合を算出しました.「妥当である」「概ね妥当である」が9割以上のものは,項目として妥当であると判断し,そのまま採用しました.8割以上9割未満が14項目あり,これらの項目については修正意見の記載内容を参考に教育課程委員で修正の必要性や修正案を検討しました.「妥当である」「概ね妥当である」が8割未満の項目はありませんでした.

(2)保健師教育評価の指標の卒業時の到達度レベルの意見(表4

保健師教育評価の指標の卒業時の到達度レベルに対する意見については,委員会で検討した到達度レベル案と回答者の回答した到達度とを比較しました.回答者が回答した到達度レベルの割合が最も多いものが,委員会の到達度案と同様であるものは,そのまま採用しました.回答者の回答割合が最も多い到達レベルと委員会案が異なる項目が8項目ありました.これらの項目は,委員会内で現状の教育内容や「保健師に求められる実践能力と卒業時の到達目標と到達度」およびカリキュラム改正の方向性を考慮して,修正の必要性を検討しました.

検討の結果,最終的に完成したのが「保健師教育評価の指標 全国保健師教育機関協議会修正版(2020)」です(表5).

表5 

保健師教育評価の指標 全国保健師教育機関協議会修正版(2020)

IV. 「保健師教育評価の指標 全国保健師教育機関協議会修正版(2020)」の活用方法の提案について

杉森らは,教育評価とは「教育の目的・目標を基準として学生の知識・技術・態度を調べ,あるいは測定した結果などの様々な条件を含めた上,総合的に価値決定を行うこと」と定義し,教育評価の意義を,「教育目標の実現を目指して行われる教育活動に関する決定にあたって,必要な資料を収集し,整理して,それらをフィードバックする手続きである」と述べています.したがって,全国保健師教育機関が推奨する保健師教育の目的・目標や各保健師教育機関が設定する保健師教育の目的・目標が達成しているかどうかを総合的に判断していくことは,教育活動の改善を行う上で重要と考えます.教育評価を行うことは,質の高い保健師教育の実施に向けて不可欠です.

教育評価には,Bloom B.S.による診断的評価,形成的評価,総括的評価があります(Bloom et al., 1971).診断的評価は,単元の学習などに先立って行うもので,学習者の能力・適性,単元目標の事前の到達度,単元学習に必要不可欠な先行学力などの測定を行うものです.形成的評価は,教育活動進行中に,目指した方向に学習過程が進んでいることを確認し,その結果に基づき,必要に応じて,教育活動を修正,改善するものです.総括的評価は,教育活動の終了時に行われる事後評価となるもので,教育目標に達成したことを確認するために重要なものです.

今回改正した保健師教育評価の指標(改正版)(2020)は,各教育機関の活用目的によって多様な使用方法ができると考えます.例えば,卒業時に評価することにより,総括的評価として用いることが可能であり,教育目標に到達しているかどうかを確認することができます.その結果をもとに,教育者は次年度の教育内容や方法の改善を検討することができると考えます.

また,学年進行中に測定することで,形成的評価として用いることができます.例えば,各学年の前期,後期の科目修了後に本評価指標を用い評価することで,目的とした学生の学習が段階的に進行しているかを確認することができます.さらに学習が不足している点は,補足・強化することができます.また,教育評価の指標は,MR2014に基づき作成したものであり,目的・目標が達成されていない項目は,MR2014に立ち戻り関連する行動目標や小項目,中項目を見直し,それらを含めた教育内容・方法の改善を検討していただくとよいと考えます.

ここ1,2年においては,Covid-19感染拡大が保健師教育にも影響を及ぼしており,平常時には実施されていた臨地実習の短縮化や,対面での講義・演習の機会の制限がなされています.このような状況が学生の卒業時の学習到達状況にも影響を及ぼしていることが危惧されます.毎年,同一評価指標を用い教育評価を行うことは,現在のCovid-19の教育影響のような不測の状況下における学習影響を評価できるものとなると考えます.

さらに全国保健師教育機関協議会や各ブロックなどで,本教育評価の指標を用いた評価を行い集約することで,全国的な保健師教育の状況を把握することができ,次期の保健師助産師看護師学校養成所指定規則改正に向けて,国へ提言していく材料ともなると考えております.

2018年に日本看護学教育評価機構が設立されるなど(日本看護学教育評価機構,2021),それぞれの専門職の教育の質を担保する動きがあります.全国保健師教育機関協議会においても,保健師教育の質を保証する機関の必要性の有無について検討を進めているところです.このような中,全国保健師教育機関協議会による保健師教育評価の指標を作成することは,どのような教育機関においても一定水準の教育を保証する仕組みを整備する一貫として重要であると考えます.

各保健師教育機関の皆さまに置かれましては,本教育評価の指標を,教育評価の一つの指標として用いていただき,教育機関内部における教育の質を改善する仕組みを構築していただきますと幸いです.

謝辞

本事業の調査にご協力いただきました会員校の皆様に感謝申し上げます.

文献
 
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