Public Health Nursing Education
Online ISSN : 2433-6890
Project Reports
First Progress Report of the Preparatory Committee of the Japan Association of Public Health Nurse Educational Institutions (JAPHNEI) for Public Health Nursing Education Evaluation: Significance and Framework
[in Japanese]Naoko NakayamaEmiko SaitoAyako OkochiYuki KanzakiMasae YajimaMikako ArakidaYuka DaiSachiyo Murashima
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2022 Volume 6 Issue 1 Pages 19-26

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I. はじめに

一般社団法人全国保健師教育機関協議会(以下,全保教)は,2021年度に教育評価準備委員会を発足させた(2020年3月13日,第5回理事会).その理由は,将来的な認証評価の仕組み作りを視野にいれ,保健師教育の評価について検討するためであった.特に,「評価」で何を目指すのか,及び,保健師教育の評価の意義を明確にすることが使命として課せられた.

全保教では,従来,教育の質保証や評価に関しては,主に教育体制委員会と教育課程委員会が活動してきた.教育体制委員会は,教育の質保証の中でも質の高い教育体制の推進や教育評価基準の作成と普及を目指す委員会であり,保健師教育課程の教育体制を自己評価するツールとして,「保健師教育課程の質を保証する評価基準」(教育体制委員会,2017)を作成し,会員校へパイロット調査や評価基準修正版を用いた調査などを実施してきた(教育体制委員会,2019).教育課程委員会は,到達度の精選と普及や教育内容の充実を使命とし,「保健師教育評価の指標 全国保健師教育機関協議会版(2016)」を作成すると共に,2020年の指定規則改正を受けて改変した修正版(2021年5月)を作成した.この評価指標は,学生の到達度や教育評価を教育改善につなげるように作成されており,今後普及していく必要がある.

このように,教育の質保証としての基準作成と評価枠組みの構築,また,学生個人の到達度評価の指標開発はあるものの,それらを活用して,保健師教育の評価を実施するための体制構築に向けては,未だ取り掛かれてはいなかった.そこで,今回,新たに設置された「教育評価準備委員会」は,従来の取り組みを基盤として,保健師教育の評価について検討することを目的とする.本稿では,この委員会の取り組みの経緯と議論の内容を紹介することによって,今後の全保教における保健師の教育評価の意義や方向性について報告する.

II. 活動の方法

委員会は,計4回実施した.

先ず,既存の他の評価機関(大学などの評価),及び,看護師教育・助産師教育を含む他分野の評価,産業保健分野や学校保健分野の評価システムについて委員が手分けして情報収集し,委員会で共有した.その上で,各機関が行っている評価の仕組み等について強みと弱みを分析し,全保教が取るべき教育評価の方向性について検討した.

III. 活動の結果

1. 他分野における教育評価機構や評価システム

1) 他分野における教育評価機構について

他分野における教育評価機構としては,「一般社団法人リハビリテーション教育評価機構」,「一般財団法人日本助産評価機構」と,「公益財団法人日本高等教育評価機構」,「一般財団法人大学教育質保証・評価センター」について,評価機能や体制などの情報収集を行い,概要をまとめた(表1).

表1  他分野における教育評価機構の概要
評価名   リハビリテーション教育評価 助産教育認証評価 大学機関別認証評価
実施機関 一般社団法人リハビリテーション教育評価機構 一般財団法人日本助産評価機構 公益財団法人日本高等教育評価機構 一般財団法人大学教育質保証・評価センター
設立年 2010年4団体でリハビリテーション教育評価機構準備委員会を設立
2012年一般社団法人リハビリテーション教育評価機構を設立
・日本リハビリテーション学校協会,全国理学療法士・作業療法士学校連絡協議会,日本言語聴覚士養成校教員連絡協議会を統合し,全国リハビリテーション学校協会が設立
2007年1月特定非営利活動法人日本助産評価機構設立
2014年11月一般社団法人日本助産評価機構設立
2004年日本高等教育評価機構設立
2005年7月12日文部科学大臣の認証
2012年公立大学の質保証に関する特別委員会を設置
2013年公立大学政策・評価研究センターに改組
2016年公立大学改革支援・評価研究センターに改組
2019年一般財団法人へ改組・名称変更
※2019年8月21日文部科学大臣の認証を得る
会員校数と種別など 全国リハビリテーション学校協会;274校
(2019年9月26日現在;HPより)
・会員の種別
(1)専門職団体会員
(2)認証会員
(3)賛助会員
全国350大学と25短期大学が会員となっている.(令和2年度大学機関別認証評価結果報告書より抜粋) 2021年7月2日現在,全国53公立大学が会員となっている.
年会費 一般社団法人全国リハビリテーション学校協会
年会費は1組織6万円,1つ増える毎に2万円増加
・寄付金・賛助会費
(1)専門職団体会員:50万円
(2)認証会員
教育機関/助産所:1万円
アドバンス助産師:6千円
(3)賛助会員
企業・団体:1口5万円
病院・診療所・助産所:1口1万円
個人:1口3千円
年会費:25万円~45万円 × 7年間
・大学
1学部 25万円
2学部 35万円
3学部以上 45万円
・独立大学院大学
1大学 10万円
・短期大学
1短期大学 10万円
学生定員別
・1,000人未満 12万円
・1,000人以上2,000人未満 24万円
・2,000人以上 36万円
評価にかかる費用 【会員校】
1学校養成施設当たり
基本費用(1課程評価料を含む)
120,000円(税別)
1課程当たり70,000円(税別)
【非会員校】
(一般社団法人全国リハビリテーション学校協会非会員校)
1学校養成施設当たり
基本費用(1課程評価料を含む)
840,000円(税別)
1課程当たり490,000円(税別)
・助産教育評価:500,000円(消費税込み)
*現地調査時の評価員3名の旅費,宿泊費は受審機関の負担とする.
・助産専門職大学院認証評価:1,500,000円(消費税込み)
*現地調査時の評価員3名の旅費,宿泊費は受審機関の負担とする.
・助産所評価:150,000円 + 前年度分娩件数に応じた金額がプラスされる.
(1)基本費用 1大学 200万円
(2)1学部当たり 50万円
(3)1研究科当たり 25万円
(4)実地調査に関わる経費の一部(宿泊費,会議の会場費,昼食代等)
【会員】
大学基本額 1,600,000円
1学部あたり 350,000円
1研究科あたり 200,000円
【非会員】
大学基本額 3,500,000円
1学部あたり 600,000円
1研究科あたり 400,000円
再度の評価に係る評価手数料(消費税別)
会員 大学基本額 800,000円
非会員大学基本額 1,250,000円
課程,評価の種類/評価の方針など 課程は,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士の各課程および昼間課程,夜間課程をそれぞれ1課程とカウントする 評価の種類
・助産教育評価:大学院,学士課程,助産学専攻科/別科,専修学校/専門学校
・助産専門職大学院認証評価
・助産所評価
評価の方針
・内部質保証機能を重視
・評価機構の定める「評価基準」に基づく
・教育活動の状況を中心に総合的に評価
・大学の個性・特色に配慮
・各大学とのコミュニケーションを重視
・建学の精神を生かした改革・改善に資する
・ピアレビューの精神
・定性的評価を重視
・透明性が高く,信頼される
評価の目的
(1)大学の教育研究の質を保証すること
(2)大学の教育研究の水準の向上に資すること
(3)大学の教育研究の特色の進展に資すること
(4)大学の教育研究活動等の改善を継続的に行う仕組み(以下「内部質保証」という.)の実質化を促すこと
受審状況 5年に1回
(前回の指定規則の改正のときにガイドラインに5年に1度認証を受けるという項目が入っている.)
5年に1回
(適格認定を更新している)
大学は7年以内に一度,文部科学大臣の認証を受けた評価機関による評価(認証評価)を受ける
(学校教育法第109条第2項).
評価の体制 評価認定委員会
【PT評価班・OT評価班・ST評価班にそれぞれに評価委員】
●書面審査
●実地調査
●審査結果の通知と公表
【受審機関】
・助産教育課程認証評価の申請後,自己評価報告
・面談対象者の選定
・評価報告書(原案)に対する申し立て
【機構】
・評価委員会で申請書受理
・評価チームによる「書面調査」
・面談対象者選定依頼
・現地調査(1泊2日):評価員3名
・評価員チームによる調査報告書作成
・評価委員会による確認・検討
・認証評価評議会:評価報告書の確定
・評価報告書の公表
評価員:登録制,大学の関係者,目安は大学等での経験が10年以上,研修を受講
評価チーム:評価員の中から原則5人程度で編成
判定委員会:国公私立大学の関係者,高等学校関係者,学協会及び経済団体の関係者等18人以内
評価対象の大学に直接関係する評価委員は評価の業務に従事させない.
【評価組織体制】
●認証評価委員会
●評価実施チーム
●大学評価部会
●意見申立審査会
協働団体 日本理学療法士協会,日本作業療法士協会,日本言語聴覚士協会,日本リハビリテーション学校協会 公益社団法人日本看護協会,公益社団法人日本助産師会,一般社団法人日本助産学会,公益社団法人全国助産師教育協議会
⇒専門職団体会員(寄付金)50万円/年
一般社団法人公立大学協会が全面的にバックアップしている
→寄付金1500万円/年

出典;一般社団法人リハビリテーション教育評価機構;http://jcore.or.jp/

一般財団法人日本助産評価機構;https://josan-hyoka.org/

公益財団法人日本高等教育評価機構;https://www.jihee.or.jp/top/

一般財団法人大学教育質保証・評価センター(JAQUE);http://jaque.or.jp/

「一般社団法人リハビリテーション教育評価機構」では,設立から2019年度までは評価料は無料であり,全国リハビリテーション協会がバックアップしている.しかし,2020年度からは評価料を徴収しており,非会員校は評価料が高めの設定となっている.世界作業療法士連盟の認定申請など国際組織との関係性を強めていること,前回の指定規則の改定の際に厚生労働省のガイドラインが変更となり,5年に1度認証を受けなければならないことになっていることも特徴である.

「一般財団法人日本助産評価機構」は,4つの団体(公益社団法人日本看護協会,公益社団法人日本助産師会,一般社団法人日本助産学会,公益社団法人全国保健師教育協議会)が専門職団体会員として協働していることが特徴である.助産学分野の専門職大学院の開設をきっかけとして,専門職教育の評価システムやそのあり方を調査し,様々な教育課程に適応できる多元的な評価システムを構築している.各教育機関の規模や多様性に対応でき,柔軟かつ弾力的な評価システムに基づく,助産教育の第三者評価が必要であるとの認識から,2007年1月にまずは特定非営利法人日本助産評価機構として設立し,2014年11月に一般社団法人化された.評価の項目は,①助産教育評価として,大学院,学士課程,助産学専攻科/別科,専修学校/専門学校,②助産専門職大学院認証評価,③助産所評価の3種類となっている.評価内容としては,大学院,学士課程,専攻科/別科,専修学校/専門学校別の各評価基準があり,それぞれに行われている.

次に,「公益財団法人日本高等教育評価機構」は,大学等の自律的な質の向上及び改善を支援し,もって日本の大学等の発展に寄与することを目的に設立された.大学設置基準に則って,全国の私立大学や私立短期大学の評価を実施している.創設以来ピア・レビューの精神を礎に,各大学とのコミュニケーションを重視しながら,各大学の個性・特色に配慮し,建学の精神を生かした改革・改善に資する活動に取組んでいる(大学機関別認証評価実施大綱より).評価の対象は完成年度を経た大学としており,基本的な方針として,(1)内部質保証を重視した評価,(2)評価機構の定める「評価基準」に基づく評価,(3)教育活動の状況を中心とした評価,(4)大学の個性・特色に配慮した評価,(5)各大学の改革・改善に資する評価,(6)ピア・レビューを中心とした評価,(7)定性的評価を重視した評価,(8)コミュニケーションを重視した評価,(9)透明性が高く,信頼される評価が明記されている.特色としては,評価の体制として,評価を実施する判定委員会のもとに評価チームを編成していることである.評価委員は登録制として,広く大学の関係者で構成されており,評価員の研修を実施して評価員の意思統一や評価の質の向上を図っている.

「一般財団法人大学教育質保証・評価センター」は,一般社団法人公立大学協会が設立した機関である.2012年度から,各公立大学における第1巡目の認証評価受審の実績を踏まえ,協会内の研究組織で,認証評価についての検討を実施してきた.同時に,「公立大学法人評価に関する調査研究」を文部科学省からの委託により実施し,さらには会員校に出向き,新たな考え方のもとでの試行評価を繰り返してきた.

これらの取り組みを踏まえ,2018年3月,本センターを独立組織としたうえで,文部科学大臣に対し,認証評価機関としての認証申請を行った.2019年8月21日,文部科学大臣から認証を得て,大学の機関別認証評価を行う認証評価機関として,正式に活動が開始された.大学の教育研究等についての評価等を行うことを通じ,大学の自律的な質保証活動を支援することを目的として,(1)大学の教育研究の質を保証すること,(2)大学の教育研究の水準の向上に資すること,(3)大学の教育研究の特色の進展に資すること,(4)大学の教育研究活動等の改善を継続的に行う仕組み(以下「内部質保証」という.)の実質化を促すことを評価の目的としている.大学評価の基準として,(1)基盤評価:法令適合性の保証,(2)水準評価:教育研究の水準の向上,(3)特色評価:特色ある教育研究の進展の3点を明記し,自己点検・評価の状況は「点検評価ポートフォリオ」に示されている.特に,内部質保証を機能させるために,①オーナーシップ,②リーダーシップ,③自己評価能力の向上を大切にしていることが特色として挙げられる.

2) 健康経営評価システム(表2

産業保健分野においては,2017年度から健康経営評価システムが導入されている.「健康経営」とは,従業員等の健康管理を経営的な視点で考え,戦略的に実践することであり(経済産業省),企業理念に基づき,従業員等への健康投資を行うことで,結果的に業績向上や株価向上につながると期待されている.経済産業省は,健康経営の推進のために,「健康経営銘柄」の選定,および「健康経営優良法人」の認定に係る制度を創設した.企業が「健康経営優良法人」に認定されることで,自社内での意識の高まり,求職者へのアピール,関係企業や金融機関からの肯定的評価を受けられるという利点がある.また,健康経営優良法人には地域や金融機関からのインセンティブもある.例えば,公共工事・入札審査での入札加点,ホームページやリーフレットなどでの自治体の企業PR,県知事による表彰,健康経営事業に対する補助金・奨励金の交付,自治体主催の企業就職説明会への優先参加,地方銀行・信用組合からの融資の優遇,低利率での融資提供,保証料の減額や免除,特別利率による運転資金融資,サポート預金やサポートローンの適用,メディカルコールサービスの提供,地域創生ファンドの適用,保険会社からの健康経営優良法人用の割安プラン・商品の提供,団体定期保険の契約保険料の割引,業務災害総合保険に割引を適用などである.このように企業にとって,認定されることのメリットは大きい.

表2  健康経営優良法人認定制度の概要
大規模法人部門 中小規模法人部門
認定の種類 健康経営銘柄
ホワイト500
健康経営優良法人

ブライト500
健康経営優良法人
認定の申請 健康経営度調査回答法人 健康宣言に取り組む法人・事業所
【5つの大項目】 【5つの大項目】(※大規模法人と同じ項目)
1.経営理念(経営者の自覚) 1.経営理念(経営者の自覚)
2.組織体制 2.組織体制
3.制度・施策実行 3.制度・施策実行
4.評価・改善 4.評価・改善
5.法令遵守・リスクマネジメント(自主申告) 5.法令遵守・リスクマネジメント(自主申告)
認定要件の違い 1.経営理念:健康宣言の社内外への発信:必須
  ・評価項目①トップランナーとして健康経営の普及に取り組んでいること⇒大規模法人では,①~⑮のうち12項目以上選択
ホワイト500の認定には必須項目となる
1.経営理念:必須
2.組織体制:必須 2.組織体制:必須
3.制度・施策実行:評価項目②~⑮のうち12項目以上選択,その他の中・小項目は必須 3.制度・施策実行:
・中項目【従業員の健康課題の把握と必要な対策の検討】⇒小項目・「対策の検討」は必須
    ・「健康課題の把握」は評価項目①~③のうち少なくとも1項目選択
・中項目【健康経営の実践に向けた基礎的な土台づくりとワークエンゲイジメント】⇒評価項目④~⑦のうち少なくとも1項目選択
・中項目【従業員の心と身体の健康づくりに向けた具体的対策】⇒評価項目⑧~⑭のうち3項目以上選択
・小項目「受動喫煙対策」は必須
4.評価・改善:必須 4.評価・改善:評価項目①~⑮のうち6項目以上を選択
5.法令遵守・リスクマネジメント:必須 5.法令遵守・リスクマネジメント:必須
これまでの
認定数
2017年:235
2018年:539
2019年:813
2020年:1,473
2021年:1,801
2017年:318
2018年:775
2019年:2,501
2020年:4,811
2021年:7,934

出典;経済産業省,健康経営の推進の概要について,https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei.html

健康経営優良法人認定の申請は,多くの企業が参加する「健康経営度調査結果」を利用し,企業は認定を受けるために新たな書類を作成する必要はない.健康経営度調査は,申請する企業がWebで回答できるようになっており,大規模法人部門と中小規模法人の2部門がある.また,申請後に結果サマリーが返却され,健康スコアリングレポートとして各健保組合の健康状態や医療費,予防・健康づくりへの取り組み状況等について全健保組合平均や業態平均と比較した見える化されたデータがフィードバックされている.第1回から年々認定企業も増加している.

3) 学校評価ガイドライン,学校評価好事例集(表3

文部科学省では,子どもたちがよりよい教育を享受できるよう,その教育活動等の成果を検証し,学校運営の改善と発展を目指す取り組みとして,学校評価を行っている.学校評価ガイドライン(平成28年改訂版)では,自己評価と学校関係者評価を基本としており,学校関係者評価(保護者,地域住民,関係団体など),第三者評価は必要時に受審することとなっており,義務・努力義務ではない.積極的な情報提供として,保護者や地域住民に評価の結果を公表することが示されている.評価項目については,すべてを網羅するのではなく,重点的に行うこととしており,日々の評価をどう日常に生かしていくかというところに配慮されている.

表3  学校評価ガイドラインの概要(平成28年改訂)
学校評価の目的 ①各学校が,自らの教育活動その他の学校運営について,目指すべき目標を設定し,その達成に向けた取組の適切さ等について評価することにより,学校としての組織・断続的な改善を図ること.
②各学校が,自己評価及び保護者など学校関係者等による評価の実施とその結果の公表・説明により,適切に説明責任を果たすとともに,保護者,地域住民等から理解と参画を得て,学校・家庭・地域の連携協力による学校づくりを進めること.
③各学校の設置者等が,学校評価の結果に応じて,学校に対する支援や条件整備等の改善措置を講じることにより,一定水準の教育の質を保証し,その向上を図ること.
学校評価の定義と留意点 【自己評価】 学校評価の基本.各学校の教職員が行う評価
【学校関係者評価】 保護者,地域住民等の学校関係者などにより構成された評価委員会等が,自己評価の結果について評価することを基本として行う評価
【第三者評価】 学校とその設置者が実施者となり,学校運営に関する外部の専門家を中心とした評価者により,自己評価や学校関係者評価の実施状況も踏まえつつ,教育活動その他の学校運営の状況について専門的視点から行う評価
※学校評価は,あくまでも学校運営の改善による教育水準の向上を図るための手段であり,それ自体が目的ではない.学校評価の実施そのものが自己目的化してしまわないよう,地域の実情も踏まえた実効性のある学校評価を実施していくことが重要となる.
学校評価により期待される取組と評価 ・学校評価は,限られた時間や人員を,必要度・緊急度の高い活動や教育効果の高い活動に集中するといった,学校の教育活動の精選・重点化を進める上で重要な役割を果たすものである.
・評価の結果を踏まえ,各学校が自らその改善に取り組むとともに課題意識を共有し,それにより教職員や保護者,地域住民の相互理解を深めることが重要となる.また第三者評価を通じて,学校が自らの状況を客観的に見ることができるとともに,専門的な分析や助言によって学校課題に対する改善方策が明確となる.
・学校評価の取組を通じて,学校として組織的に,今,重点的に取り組むべきことは何かを把握し,その伸長・改善に取り組むようになることが期待される.
学校評価の好事例に共通する3つの要素 ①目標の共有
②プロセスの設計
③チーム力のある組織

出典;文部科学省(2016)学校評価ガイドライン〔平成28年改訂〕https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakko-hyoka/1295916.htm

文部科学省(2010):「学校の第三者評価の評価手法等に関する調査研究」 各学校・設置者における学校評価の好事例の収集に係る調査研究,学校評価 好事例集,株式会社野村総合研究所,https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakko-hyoka/05111601/1297652.htm

学校評価好事例集(2010年)では,好事例に共通するポイントとして,自己評価と学校関係者評価の2つに焦点を絞って,①目標の共有,②プロセスの設計,③チーム力ある組織などのポイントをまとめ,好事例に共通する3つの要素として抽出されている.これらは,「評価プロセス」の照会ではあるが,どのようにPDCAに生かしていけば好評価になるかというポイントとしても示されており,好ましいと言える.

IV. 全保教が目指す保健師教育評価の方向性について

他分野における教育評価機構や,産業保健・学校保健分野で行われている評価システムを調べたところ,自己評価や自己点検を基に評価なされていることがわかった.また,「健康経営評価システム」は,「健康経営度調査結果」を利用する形で行われ,認定を受けるために新たな書類を作成する必要がなく応募企業の負担が少ないこと,「学校評価」では,外部評価や第三者評価ではなく,自己評価をしっかり実施して地元や学校関係者と評価を積み重ねること等の工夫がなされていた.

これまでの情報取集と検討の結果,全保教が目指す保健師教育評価の前提として,①ポジティブ思考にする,良い点に焦点を当てていく,元気になること,②費用負担を抑えることが提案された.これらを勘案し,教育評価準備委員会として,評価の目的とメリット,教育評価を行う際の配慮点,評価方法について検討した結果が下記である.

1. 評価の目的とメリット

本委員会が検討する教育評価の目的としては,保健師教育の質保証,体制の保証,教育の到達度(教育課程委員会),質保証の基準(教育体制委員会)を踏まえて,これらをどう活用し動かしていくか,中身が見えて改善につながるような評価システムを創っていく重要性が確認された.また,評価することにより,教員や学生を含めた大学がそれを目指して元気になれるよう,創意工夫や普段から積み上げていることについての自己評価や自己点検を基盤とし,学内の看護教員へのアピールにもつながり,最終的には大学の広報・宣伝にもつながることを含めて検討することが合意された.

教育評価のメリットとしては,(1)認定を受ける側が享受できるメリット,(2)学術や産学連携上のインパクトを創出する可能性,(3)社会的に求められ,イメージアップとなること,更に,(4)入学試験志願者数の増加,入学者の入学時点の偏差値の上昇,国家試験合格率の向上,就職率の向上などの効果も考えられる.また,(5)認定制度を設けて,評価項目の精緻化や必須・選択課程の教育内容が公表されることで,保健師教育の見える化につながることが期待される.さらに,(6)認定基準が整備され全保教ホームページ上で公表されるようになり,その申請がオンラインで行えるよう整備すれば,評価システムの開発にもつながると考えられる.

2. 全保教で教育評価を行う際に配慮する事項

全保教で教育評価を実施する際に配慮する事項として,1)認定におけるハードルを低くする工夫,2)インセンティブの検討,3)実施/持続可能な体制づくり,4)評価方法についての検討の4つの視点から,以下にまとめた.

1) 認定におけるハードルを低くする工夫

①認定のための申請業務の負担の軽減

教育機関の書類作成の負担や認定にかかる時間的・心理的負担を低くする必要がある.

②費用負担を抑制

できるだけお金をかけずにシンプルに,プロセス評価を重視したユニークな視点で評価できるように工夫することが必要である.

③保健師課程担当の少人数の教員でも対応できる内容・方法等

どの大学も保健師課程担当教員は少人数であるため,負担がなく対応できる内容や方法を検討する.

2) インセンティブの検討

ポイント制で単位が取れるようにすること,評価基準を決めて,その基準に適合していること,創意工夫している取り組みがあれば表彰するなどの仕組みを構築することなどが重要である.

3) 実施/持続可能な体制づくり

担当する教員等が変わっても状況が変わっても対応できるルールや枠組み,ガイドラインが必要であること,また,現場との協働や,実施するための社会的な支援などを含めて協働する団体とも調整していく必要性が認識された.

4) 評価方法についての検討

評価の観点については,評価項目としては,これまでに全保教から公表されている各種指標を活用し,それぞれの教育機関で工夫して実施していることを記述すること,評価項目についてはすべてを網羅するのではなく,重点的に行うことが提案された.評価の視点としては,受審校が評価を希望する項目,今後強化したい項目や過程から始め,プロセス評価をしていくことが明確となるとよいのではないかと提案された.

対象としては,個人または組織,教育形態別(大学,選択,上乗せ1年,2年,他)の設定があるが,これらは今後検討する必要があり,これまでの全保教での教育課程委員会と教育体制委員会の活動を基盤として,成果をつなぎ,役割を明確にして,委員会同士の連携についても,今後継続的に検討することになった.

教育評価の受検のタイミングとしては,各教育評価機構やシステムのように数年に1回とするか,手上げとするか義務とするかなど,今後継続して検討していく必要がある.

全保教で行う教育評価方法・体制としては,①自己評価・自己点検,②第三者評価,③利害関係者(ステークホルダー)による評価などが示され,全国保健師長会や,日本産業保健師会等と連携を取り,後援を依頼する等,実践現場と連携する必要性も提案された.

V. まとめ

2021年度は,これまでの全保教の取り組み,教育体制委員会と教育課程委員会の活動などを踏まえて,教育評価準備委員会として行うべき保健師教育評価の方向性や性質,望ましい像について,他分野の教育評価方策に関する情報を収集し,全保教で実施する教育評価についての議論を重ねてきた.

その結果,次の3点に整理された.①保健師教育の質保証,②教員・学生も大学も教育評価を目指して元気になるようなものとする,③大学の広報等宣伝の要素も取り入れたものを検討すること,である.特に,教育評価の利点として,「認定を受ける側が享受できるメリット」,「学術や産学連携上のインパクトを創出する可能性」を念頭に置くこととなった.

今後は,これまでの議論を基盤として,全保教が行う保健師教育評価の意義を明確にし,そのあり方や具体的な方法,内容を検討すること,また,保健師教育の評価の実施に向けて会員校の意向調査なども課題として挙げられた.

文献
 
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