Public Health Nursing Education
Online ISSN : 2433-6890
Survey Reports
Survey Report on Public Health Nursing Practice in 2020
[in Japanese]Miwa SuzukiEmiko KishiJunko KaminiwaMinako SawaiYuka DaiMariko Nishijima
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2022 Volume 6 Issue 1 Pages 37-44

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I. はじめに

令和2(2020)年度は,新型コロナウイルス感染症の感染拡大により,保健師養成教育の場において多大な影響を受けた.特に,公衆衛生看護学実習の実施にあたっては,実習前の準備を学生個々が自宅等において行ったり,演習の実施にオンラインを用いたり,通常とは異なる方法をとらざるを得ない状況となった.

そこで,令和2(2020)年度の公衆衛生看護学実習の実際を把握し,今後の課題を検討するために「令和2(2020)年度 公衆衛生看護学実習に関する調査」を実施することとした.

II. 活動結果

1. 調査目的

令和2(2020)年度の公衆衛生看護学実習の実態を把握するとともに,その実態を令和元(2019)年度の公衆衛生看護学実習の実態と比較することを通して,新型コロナウイルス感染症による感染拡大に伴う実習への影響を明らかにする.また,公衆衛生看護学実習の今後の課題を検討する.

2. 方法

1)対象:(一社)全国保健師教育機関協議会会員校224校

2)方法:Google formを用いたアンケート調査

3)調査内容:

(1)令和2年度の実習時期の変更の有無

(2)令和2年度,令和元年度の実習の時期

(3)令和2年度の実習施設の変更の有無

(4)令和2年度,令和元年度の実習施設

(5)令和2年度の実習施設での実習日数変更の有無

(6)令和2年度,令和元年度の施設別実習日数

(7)特別区,政令市,保健所,保健センターの実習技術体験項目

(8)実習地での実習・教育内容(分野・事業名・支援・活動展開など)

(9)実習にあたっての留意点

(10)臨地実習の代替方法

(11)令和3年度に向けての課題

4)調査期間:令和3(2021)年2月24日から3月12日

3. 結果

1)回収数(率):135校(60.3%)であった.内訳は,北海道・東北ブロック13校(9.6%),南関東ブロック23校(17.0%),北関東・甲信越ブロック15校(11.1%),東海・近畿北ブロック27校(20.0%),北陸・近畿南ブロック21校(15.6%),中国・四国ブロック17校(12.6%),九州ブロック19校(14.1%)であった(表1).

表1  回収状況
対象数 回答数 %
回答(全体) 224 135 60.3%
内訳 北海道・東北ブロック 13 9.6%
南関東ブロック 23 17.0%
北関東・甲信越ブロック 15 11.1%
東海・近畿北ブロック 27 20.0%
北陸・近畿南ブロック 21 15.6%
中国・四国ブロック 17 12.6%
九州ブロック 19 14.1%

2)学校種別(率):大学院10校(7.4%),学部選択制114校(84.4%),統合カリキュラム11校(8.1%)であった(表2).

表2  学校種別 n=135
n %
大学院 10 7.4%
学部選択制 114 84.4%
統合カリキュラム 11 8.1%

3)令和2(2020)年度の実習時期の変更の有無:実習時期の変更無しは76校(56.3%),変更有りは59校(43.7%)であった(表3).

表3  令和2(2020)年度の実習時期の変更 n=135
n %
実習時期の変更無し 76 56.3%
実習時期の変更有り 59 43.7%

4)令和2(2020)年度,令和元(2019)年度の実習時期(135校):令和2(2020)年度は,4~6月が44校(32.6%),7~9月が102校(75.6%),10~12月が72校(53.3%),1月~3月が15校(11.1%)であった.令和元(2019)年度は,4~6月が73校(54.1%),7~9月が101校(74.8%),10~12月が53校(39.3%),1月~3月が13校(9.6%)であった(表4).

表4  令和2(2020)年度,令和元(2019)年度の実習時期(n=135回答校数:複数回答あり)
令和2(2020)年度(校) % 令和元(2019)年度(校) %
4~6月 44 32.6% 73 54.1%
7~9月 102 75.6% 101 74.8%
10~12月 72 53.3% 53 39.3%
1~3月 15 11.1% 13 9.6%

5)令和2(2020)年度の実習施設の変更の有無および学内実習への振替:実習施設の変更無しは56校(41.8%),変更有りは34校(25.4%),学内実習への振替は44校(32.8%)であった(表5).

表5  令和2(2020)年度の実習施設の変更の有無および学内実習への振替(n=134)
令和2(2020)年度(校) %
実習施設の変更無し 56 41.8%
実習施設の変更有り 34 25.4%
学内実習への振替 44 32.8%

6)令和2(2020)年度,令和元(2019)年度の実習施設数:令和2(2020)年度の実習施設として,東京23区特別区が7校(5.2%),政令市が45校(33.6%),保健所が103校(76.9%),保健センターが111校(82.8%),その他が60校(44.8%)であった.令和元(2019)年度の実習施設として,東京23区特別区が7校(5.2%),政令市が52校(38.8%),保健所が117校(87.3%),保健センターが117校(87.3%),その他が61校(45.5%)であった(表6).

表6  令和2(2020)年度,令和元(2019)年度の実習施設(n=134回答校数:複数回答あり)
令和2(2020)年度(校) % 令和元(2019)年度(校) %
東京23区特別区 7 5.2% 7 5.2%
政令市 45 33.6% 52 38.8%
保健所 103 76.9% 117 87.3%
保健センター 111 82.8% 117 87.3%
その他 60 44.8% 61 45.5%

7)令和2(2020)年度の実習施設での実習日数の変更の有無:施設実習日数を変更した学校は48校(35.8%),施設実習日数を変更していない学校が26校(19.4%),施設実習を学内実習に振り替えた学校が38校(28.4%)であった(表7).

表7  令和2(2020)年度の実習施設での実習日数の変更の有無(n=134)
令和2(2020)年度(校) %
施設実習日数を変更した 48 35.8%
施設実習日数を変更していない 26 19.4%
施設実習を学内実習に振り替えた 38 28.4%
その他 22 16.4%

8)令和2(2020)年度の実習施設での実習日数のその他の回答:実習を25日および時間数の増加と回答した学校が1校,25日と回答した学校が1校,施設実習を短縮し,学内またはオンラインとの併用あるいは切り替えて行った学校が23校あった.また,課題実習や遠隔実習といった方法を活用したり,令和2(2020)年度の実習を延期したりしたという学校もあった(表8).

表8  令和2(2020)年度の実習施設での実習日数のその他の回答(n=49)
実習日数 学校数 内容
25日および時間数の増加 1 施設実習を短縮し,学内実習で補完し,時期変更と他施設を追加し,実習時間を増加させた.
25日 1 保健所・市町村実習 20日間,学校・産業保健 5日間
施設実習を短縮 23 施設実習を短縮した.学内実習またはオンラインとの併用あるいは切り替えた.
受け入れ不可施設を学内実習へ変更 5 実習受け入れ不可施設の実習を学内実習に切り替えた.
施設実習を短縮し,後日追加 5 施設実習を短縮し,学内実習に切り替え,後日臨地実習を追加した(指導者によるオンライン指導を含む).
一部の学生の実習施設の日程短縮とオンライン課題・学内実習 5 一部実習施設の日程短縮,一部学生グループの実習不可施設への対応として,オンラインによる事前学習の追加,課題学習,カンファレンス,学内実習を実施した.
実習時期・期間の変更および学内実習による代替 2 実習時期・期間を変更し,一部の実習を学内実習に振り替えた.
参加事業の有無により学内課題実習の実施 1 参加事業がない日は学内での課題実習とした.
施設実習を短縮し,学内実習と課題提示 1 施設実習を短縮し,学内実習で補完し,事前課題と事後課題を提示した.
遠隔実習に切り替え 2 遠隔実習に切り替えた.
2020年度は実習なし 1 実習を次年度(2021年度)に延期した.
その他 2 その他

9)令和2(2020)年度,令和元(2019)年度の実習施設別実習日数:令和2(2020)年度は,令和元(2019)年度と比較すると,特別区,政令市,保健所,保健センターのそれぞれの施設に0日という回答があった(表9-12).

表9-1  令和2(2020)年度の施設別実習日数
実習日数 0 1 2 3 4 5 6~10 11~15 16~20 21~25 その他
東京23区 1 2 3 2 1 2 1
政令市 4 3 5 4 10 10 11 3 1
保健所 7 14 13 8 9 27 17 4 4 1 3
保健センター 4 6 6 8 4 7 31 23 19 2 2
その他 3 10 9 6 1 12 6 4 5 4 5
表9-2  令和元(2019)年度の施設別実習日数
実習日数 1~5 6~10 11~15 16~20 21~25 その他
東京23区 6 1
政令市 3 9 13 16 8 3
保健所 70 18 19 8 6 4
保健センター 4 36 30 32 10 6
その他 37 7 4 2 1 7

10)特別区,政令市,保健所,保健センター実習技術体験項目に関する学生の体験割合:次の項目①から⑯の技術について実習学生の体験の有無(体験者100%あるいは0%)を調査した(表10).(1)「実習オリエンテーションで保健所・保健センターの役割・機能を聞く」を全員が体験できた学校は,令和2年度は,72校に止まった.(2)「地域診断に必要な情報を収集する」を全員が体験できた学校は,令和2年度は,91校であった.(3)「地域の健康課題を明らかにする」を全員が体験できた学校は,令和2年度は,92校であった.(4)「保健師に同行して家庭訪問を見学する」を全員が体験できた学校は,令和2年度は,28校であり,体験できなかった学校は,34校であった.(5)「家庭訪問で計測や相談,情報提供等の保健師活動をいずれか1つ以上体験する」を全員が体験できた学校は,令和2年度は,25校であり,体験できなかった学校は,53校であった.(6)「同一事例に2回以上の訪問を体験する」を全員が体験できた学校は,令和2年度は,9校であり,体験できなかった学校は,104校であった.(7)「教員や保健師の前で健康教育のリハーサル・発表を行う」を全員が体験できた学校は,令和2年度は,96校であり,体験できなかった学校は,14校であった.(8)「住民の前で健康教育を行う」を全員が体験できた学校は,令和2年度は,21校であり,体験できなかった学校は,51校であった.(9)「家庭訪問を除く健康相談・健康診査事業等で,相談や健康診査を見学する」を全員が体験できた学校は,令和2年度は,72校であり,体験できなかった学校は,15校であった.(10)「家庭訪問を除く健康相談・健康診査事業等で,問診や相談等の保健師活動をいずれか1つ以上体験する」を全員が体験できた学校は,令和2年度は,20校であり,体験できなかった学校は,65校であった.(11)「実習中に,特別区,政令市,保健所,保健センター以外の関連機関を見学する」を全員が体験できた学校は,令和2年度は,34校であり,体験できなかった学校は,36校であった.(12)「関係機関との事例検討会や連絡会議を見学する」を全員が体験できた学校は,令和2年度は,25校であり,体験できなかった学校は,43校であった.(13)「住民の行う地区組織活動へ参加する」を全員が体験できた学校は,令和2年度は,20校であり,体験できなかった学校は48校であった.(14)「結核・感染症対策等の保健所業務を見学する」を全員が体験できた学校は,令和2年度は,33校であり,体験できなかった学校は,47校であった.(15)「保健所・保健センターで実習のカンファレンスを行う」を全員が体験できた学校は,令和2年度は,85校であり,体験できなかった学校は,15校であった.(16)「同一事例への家庭訪問を含む継続的な支援を見学する」を全員が体験できた学校は,令和2年度は,12校であり,体験できなかった学校は,72校であった.

表10  特別区,政令市,保健所,保健センター実習技術体験項目に関する学生の体験割合(n=134)
特別区,政令市,保健所,保健センター実習技術体験項目 令和2(2020)年度 令和元(2019)年度
全員体験できなかった(0%)学校 学生全員が体験できた(100%)学校 全員体験できなかった(0%)学校 学生全員が体験できた(100%)学校
(1)実習オリエンテーションで保健所・保健センターの役割・機能を聞く 11 72 1 106
(2)地域診断に必要な情報を収集する 5 91 2 111
(3)地域の健康課題を明らかにする 5 92 2 110
(4)保健師に同行して家庭訪問を見学する 34 28 3 90
(5)家庭訪問で計測や相談,情報提供等の保健師活動をいずれか1つ以上体験する 53 25 11 70
(6)同一事例に2回以上の訪問を体験する 104 9 59 27
(7)教員や保健師の前で健康教育のリハーサル・発表 14 96 6 107
(8)住民の前で健康教育を行う 51 21 6 98
(9)家庭訪問を除く健康相談・健康診査事業等で,相談や健康診査を見学する 15 72 2 110
(10)家庭訪問を除く健康相談・健康診査事業等で,問診や相談等の保健師活動をいずれか1つ以上体験する 65 20 26 61
(11)実習中に,特別区,政令市,保健所,保健センター以外の関連機関を見学する 36 34 3 74
(12)関係機関との事例検討会や連絡会議を見学する 43 25 3 56
(13)住民の行う地区組織活動(例:住民主体の体操教室など)や自助グループ(断酒会,患者会など)へ参加する 48 20 4 65
(14)結核・感染症対策等の保健所業務を見学する 47 33 5 69
(15)保健所・保健センターで実習のカンファレンスを行う 15 85 1 116
(16)同一事例への家庭訪問を含む継続的な支援を見学する(例:家庭訪問に加えて,電話連絡やデイケア,健康診査等での支援など) 72 12 30 40

11)令和2(2020)年度の実習内容(表11):令和2年度の実習内容として記載のあった内容は,「乳幼児健康診査,特定健康診査,がん検診」が最も多く,次いで「母子保健分野」,「健康教育」,「家庭訪問」,「健康相談」等であった.

表11  令和2(2020)年度の実習内容
内容(分野・事業・支援・活動展開等) 回答
学校数
乳幼児健康診査,特定健康診査,がん検診(保健指導含む) 37
母子保健分野 34
健康教育(見学,実施,保健師に対するデモンストレーション,計画案作成) 32
家庭訪問(カルテレビュー,事例検討5校) 28
健康相談(乳幼児,成人,高齢者,感染症,事例検討)実施または見学 27
感染症対策(新型コロナウイルス感染症対応【PPE着脱訓練,職業感染,環境消毒,感染対策会議,積極的疫学調査,出前講義】,性感染症,エイズ等) 22
高齢者保健事業(認知症カフェ,介護予防) 20
地域診断,地区踏査 15
成人保健分野 14
精神・難病保健事業(見学,講演参加,事例検討) 14
会議・研修(リーダー会議,結核評価検討会,地域ケア会議,業務連絡会,EMIS研修会,ゲートキーパー研修会など) 11
母親学級,介護予防教室,療育教室等 9
オリエンテーション,事業説明,講義(予算,事業評価) 9
地区組織活動 8
家庭訪問(DOTS,事例検討,ロールプレイ) 7
学内(地域診断や積極的疫学調査演習,健康教育,家庭訪問,学生の体験内容の共有・補完) 7
保健事業(執務室含む)の見学 7
精神障害者,難病 7
保健指導 6
地域包括関連事業 4
健康危機管理(新型コロナ感染症・結核,災害等の講義,説明) 4
災害対策,避難シミュレーション 3
自主グループ活動への参加・見学 3
行政・公衆衛生看護管理 3
事例検討会,カンファレンス 2
産業保健 2
虐待:児童・障害者・高齢者等虐待連絡会議,事例検討会 1
住民インタビュー 1
新人保健師講話 1
Zoom,Googleマップ等活用,工夫 1
施策化 1
他職種他機関との連携 1
実習指導体制 1
学内および保健師への聞き取り 1
ほぼ例年通り 3
実習できなかった 4
2020年度の実習設定がなかった 1
その他 2

12)令和2(2020)年度の実習中の留意点(表12):令和2年度の実習中の留意点として記載のあった内容は,「学生の健康管理」が最も多く,次いで「新型コロナウイルス感染症対策」,「臨地実習先との相談・調整・連携」等であった.

表12  令和2(2020)年度の実習中の留意点
留意点 回答
学校数
学生の健康管理(検温,健康観察,行動記録,外出規制) 48
新型コロナウイルス感染症対策(ガイドライン・感染症対策マニュアルの作成,感染対策・教育の徹底) 44
臨地実習先との相談・調整・連携(意向確認) 36
実習中の配慮(距離を保っての見学に留める,実習に伴う宿泊を回避,三密の回避,学生の分散配置,見学時間の短縮・制限) 21
学習への支援(Covid-19対策を含めた保健師活動の最前線の講話依頼,実習地での体験と理論の統合,カンファレンスの充実,事前学習の強化) 20
実習地の工夫,オンラインの併用(到達目標保持と代替施設の多用,半日実習の組み合わせによる現地での昼食回避,事業参加者制限による体験や学びのグループ内共有増加) 13
オンライン(または出張)講義,実習,遠隔実習の実施 9
実習場での感染予防行動(マスク,消毒,フェイスシールド等準備,対象者との距離を保つ,ラッシュ時間を避けての移動) 9
学生への指導(事前学習の徹底,県外往来と実習との日程調整) 7
PCR検査の実施(実習前,必要時,3週間毎) 7
実習期間の短縮(保健所・市町村等実習期間を5週間から3週間に短縮し,学内実習を2週間実施,通常12月までのところ,11月初旬に終了) 2
臨地での実習なし 2
教員の健康管理 1
不明 3

13)令和2(2020)年度の実習の代替方法(表13):令和2年度の実習の代替方法として,最も多かったのは,「オンライン講義・演習・実習」であり,次いで「学内実習」,「レポート課題」,「対面によるシミュレーション学習」等であった.

表13  令和2(2020)年度の実習の代替方法
代替方法(内容) 回答
学校数
オンライン講義・演習・実習(オリエンテーション,健康教育デモンストレーション,事業化の発表,実習体験学生と未体験学生の討議) 57
学内実習(模擬健康相談,動画作成,家庭訪問・健康診査演習,環境測定,保健所保健師退職者を招聘したシンポジウム,感染防御服の着脱等演習) 40
レポート課題(母子保健事業および地域包括ケアシステムの構築,新型コロナウイルス感染症対策,地域組織活動・自主グループ活動の支援,体験できていない内容) 21
対面によるシミュレーション学習(地域診断,健康教育,健康相談,電話相談,乳幼児健診,災害対応,特定保健指導,公衆衛生看護管理) 17
指導者による講話・指導(コロナ対策の現状,感染症・災害対策,リモートによる養護教諭からの指導) 7
DVD視聴 7
事例検討(実習では同行しにくい特定妊婦や8050など困難事例の支援) 7
地区踏査(現地,バーチャル)・地域診断の充実(グーグルマップとグーグルアース活用,住民との交流(屋外でのインタビュー,電話でのインタビューなど) 7
動画撮影・オンデマンドによる演習(家庭訪問,地区組織活動) 6
課題提示とディスカッション等の組み合わせ 5
グループワーク・カンファレンス 4
学内健康教育(オープンキャンパス,大学教職員活用) 2
ロールプレイ(家庭訪問,保健所実習経験学生と未経験学生による「新型コロナ感染症の相談と受診までの流れ」) 2
指導者またはゲストから教員への交代による講義・演習(保健所保健師の活動,DMATコーディネーターの資格を有する教員のDMAT演習) 2
YouTubeの活用(YouTube保健センター公式サイトを視聴など) 2
電話相談 1
メール(指導者への質問,回答) 1
施設見学新規導入(防災センター等関連機関への見学実習) 1
遠隔実習 1
実習施設の変更 1
臨地による実習中止 1
実習地保健師へインタビュー 1
予定通りの実習期間 11
不明 6

14)令和3(2021)年度に向けての課題(表14):令和3年度に向けての課題として,「実習機関との調整・内容の検討」,「家庭訪問,健康教育,住民との関わりの持ち方」が挙げられていて,「学内実習の充実」,「学生のレディネスとモチベーション維持」等が記載されていた.

表14  令和3(2021)年度に向けての課題
令和3(2021)年度に向けての課題 回答数
実習機関との調整・内容の検討 23
家庭訪問,健康教育,住民との関わり(実習体験)の持ち方 23
学内実習の充実 9
学生のレデイネスとモチベーション維持 8
効果的な代替方法の導入 7
参加事業と実習内容の検討 6
実習内容の不足を補完する仕組みづくり 6
到達度評価 5
実習日程・期間の制約 5
実習前PCR検査,ワクチン接種 3
実習の不確定さ 3
オンラインの活用 3
遠隔実習指導体制の整備 1
課題内容の検討 1
オンデマンド教材の整備 1
その他 2

III. まとめ

1. 実習時期および施設の変更

令和2(2020)年度の実習の時期に変更が生じた学校は,4割であり,約6割の学校は,予定していた時期に実習を行っていた.令和元(2019)年度と比較して,4月から6月が減少し,10月から12月が増加した.これは,新型コロナウイルス感染症の第1波,第2波の影響を受けた可能性が高い.実習施設の変更の有無について,約3割が学内実習への振り替え,25.4%が実習施設を変更していた.実習施設別に見てみると,政令市,保健所,市町村の数が減少し,これは,政令市,保健所,市町村の実習受け入れが困難になり,実習施設の変更または学内実習への振替が増えたことを示す.実習時期の変更,実習施設の変更を急遽行うということでは,各教育機関の教員は非常に混乱を来した可能性が高い.

2. 実習日数の変更

施設実習日数を変更した学校は約36%,日数を変更していない学校は約19%,施設実習を学内に切り替えた学校は約28%であった.本来の実習日数25日にさらに時間数を増加させたり,施設実習を短縮し,学内実習で補完したり,状況に応じて実習方法を変更したという状況であった.臨地実習が不可となっても,後日追加やオンラインを活用するなど,工夫をしながら何とか実習を臨地や臨地とつないでできるようにしている状況が示されていた.また,学生全員の実習がかなわなくても,一部の学生の実習を調整するという対応をしながら,臨地実習に近い状況を作っていた.実際にそれぞれの施設にどのくらい出向いて実習できたのかを調査した結果,各施設に「0日」という回答があった.このことは,令和2(2020)年度の実習実施がいかに困難であったかを示す.

3. 学生の技術体験

実習技術体験項目の学生の体験について,全ての学校が,全員が体験出来たと回答した項目はなかった.全員が体験出来ていた割合が多かった項目は,②③⑦⑮であり,全員が体験出来なかった割合が多かった項目は,⑥同一事例に2回以上の訪問を体験する,⑩家庭訪問を除く健康相談・健康診査事業等で,問診や相談等の保健師活動をいずれか1つ以上体験する,⑯同一事例への家庭訪問を含む継続的な支援を見学するであった.これらは,地域の健康課題を明らかにする,健康教育のリハーサルをするなど,大学内にて実施できる項目については体験している学校数が多く,体験している学生割合が高い傾向にあった.一方で,保健師や住民と直接コミニュケーションをとりながら,技術を体験する機会が非常に少なかった可能性が高い.このような実習体験が非常に少ない状況のまま就職した保健師が,その後,どのように職場に適応し,技術を修得できているのか,追跡する必要がある.

4. 実習中の留意点および代替実習

学生の健康管理という面では,特に注意を払って実習を進めていたことが示された.また,新型コロナウイルス感染症対策についても,教員自らが学習し学生とともにその対策を徹底するという取り組みを行ってきたことが示された.さらに,臨地実習先との相談・調整・連携といった活動の重要性も窺える.教員にとって,緊急事態に速やかに対応できる能力が求められている.一方,新型コロナウイルス感染症への対応として,最前線の保健師活動を学ぶ機会としたり,カンファレンスを充実させたり,事前学習を強化したりと,様々な工夫がなされていることも記載されていた.また,オンラインを組み合わせながら,可能な限り,実習地の臨場感が伝わるような工夫がなされていた.さらに,ロールプレイ,YouTubeも活用されており,多様な実習が行われていた.

5. 令和3(2021)年度に向けての課題

実習機関との調整による実習内容の検討,家庭訪問,健康教育,住民との関わりについて,どのように進めていくのか,学内実習の充実,学生のレディネスおよびモチベーション維持,PCR検査,ワクチン接種などが挙がっていた.

令和2(2020)年度の公衆衛生看護学実習は,教育機関や地域によって様々な実習形態,方法などで行われてきた.しかし,実際に体験することの重要性,臨地に出向いて見学するだけでも学生にとって実感が得られることが想定され,その機会を持つことの重要性が示唆された.

新型コロナウイルス感染症下における看護系大学の臨地実習の在り方に関する有識者会議において,紙面やシミュレーションでは体験できない対象者との関わりを行うことの重要性が示された(文部科学省,2021).また,実習の実施に向けた教員の工夫としては,会員校から寄せられた意見から,可能な限り臨地に出向く,実習機関の担当者との連絡・調整を行う,教育機関により予算,マンパワー,教育機器等の差が生じる中で,卒業時の到達目標達成に向けて,どのように準備を整えるかが重要であることが示唆された.また,新たな感染症や災害への対応を迅速にできる保健師養成教育を今後も検討していく重要性が明らかになった.そのためにも,教員自らが問題を解決する能力を高める,未経験の事態にも積極的に迅速に取り組む,保健師の基本的技術を駆使することが重要である.

謝辞

御多忙の中,調査にご協力くださった会員校の皆様に心より感謝申し上げます.

文献
 
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