Public Health Nursing Education
Online ISSN : 2433-6890
Project Reports
Clarification of Public Health Nursing Skills in Health Activities for Older People
[in Japanese]Saori IwamotoSachiko OkiHiroko TakizawaMichiko MatsubaraSatoshi IrinoEmiko KusanoSaori YamadaTomoko IkiMika Hasegawa
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2023 Volume 7 Issue 1 Pages 12-21

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I. はじめに

公衆衛生看護は,「社会的公正を活動の規範におき,系統的な情報収集と分析により明確化若しくは予測した,個人や家族の健康課題とコミュニティの健康課題を連動させながら,対象の生活に視点を置いた支援を行う.さらに,対象とするコミュニティや関係機関と協働し,社会資源の創造や組織化を行うことにより対象の健康を支えるシステムを創生する」ものである(日本公衆衛生看護学会,2014).保健師は,この活動を推進する専門職であり,そのための「技術」を有している者である.しかしながら,保健師の技術,いわゆる「公衆衛生看護技術」は,これまで明文化されてこなかった.

「技術」とは,記録できたり,伝えたりするように何かに置き換えられたもの,いわゆるやり方や方法,手段を示しており,この技術があることによって,流通が容易になると言われている(森,2018).いわゆる,言語化された技術は,伝承が可能である.専門職の6つのモデルの1つとして「高度に専門化された教育訓練を通して伝達可能な技術をもっている」(Flexner, 1915)と言われている.つまり,専門職は,明確な技術を持ち,それを教育訓練し伝達できることが必要である.保健師は,公衆衛生看護を推進する専門職であり,「公衆衛生看護技術」を有し,それを教育により伝承していくことが必要である.そのためには,「公衆衛生看護技術」を明らかにすることが重要な課題である.

このような背景から,一般社団法人全国保健師教育機関協議会教育課程委員会では,2017年度から公衆衛生看護技術の体系化に向けて取り組んでいる.2017年から2019年においては親子保健活動における公衆衛生看護技術の明確化を行った(大木ら,2019).公衆衛生看護技術は,親子保健のみならず,多様な活動における技術があることから,2021年度からは高齢者保健活動における公衆衛生看護技術の明確化に取り組んでいる.

本稿では,2021年から取り組んでいる高齢者保健活動における公衆衛生看護技術について報告する.

なお,本稿で用いる公衆衛生看護技術とは,大木ら(2019)の定義を用い,対象とその家族が地域で健康に生活するために提供される技術であり,専門的知識に基づいた判断および行為のことである.この行為とは,外部から観察可能な人間や動物の反応を示す『行動』と対比して用いており,ある意思をもった行いや哲学であり,目的観念を伴う動機があり,思慮・選択によって意識的に行われる行動をさす.すなわち,技術には,行動のみならず,その行動を起こす意図が含まれているものと捉え整理した.

II. 活動結果

1. 高齢者保健活動における公衆衛生看護技術の作成方法

1)親子保健活動における公衆衛生看護技術(以下,「親子保健技術」とする)で作成した「公衆衛生看護技術の構造図」(図1)(大木ら,2019)を基盤とし,親子保健技術項目(大技術項目,中技術項目,小技術項目)を参考にしながら,「高齢者保健活動における公衆衛生看護技術」(以下,「高齢者保健技術」とする)を検討し,高齢者保健技術(案)を作成した.検討は,保健師として高齢者保健活動の実践経験を有する公衆衛生看護学の教育研究者である当委員会委員10人(オブザーバ含む)である.技術の検討の際には,高齢者保健に関する既存文献を参考にした.

図1 

公衆衛生看護技術の構造図

*「継続的支援課題を持つ対象者への支援技術」は,多様な課題があるため,A321,A331,341・・等と附番する.

**グループを用いた支援技術は,個別・家族の支援のためにグループ活動を用いるものであり,個人支援に含まれるもの.

・矢印は,各項目の関連性を示す

・地区組織・住民組織活動については,自治体全体の住民組織は,Cに位置づく.地区/小地域の地区組織は,Bに位置づく

2)作成した「高齢者保健活動における公衆衛生看護技術(案)」について,全国保健師教育機関協議会九州ブロック研修会および北海道ブロック研修会,日本公衆衛生看護学会でのワークショップの開催時に,高齢者保健活動技術項目(案)を提示し,その妥当性や改善案などの意見を収集した.収集した意見をもとに委員会メンバーで検討を繰り返し,修正した.

3)修正した「高齢者保健活動における公衆衛生看護技術(案)」について,全国保健師教育機関協議会会員校および日本保健師連絡協議会を対象としたwebによる意見収集調査を行った.調査の方法は以下のとおりである.

①調査期間:2023年5月30日から6月30日

②調査対象者:全国保健師教育機関協議会会員校および日本保健師連絡協議構成団体(6団体)

③調査内容:「高齢者保健活動における公衆衛生看護技術(大技術項目・中技術項目)」,「公衆衛生看護技術に関する構造図」の妥当性に関する意見である.なお,各技術項目については,「良い(意見なし)」「ほぼ良い(意見あり)」「問題あり(意見あり)」で問い,意見は,技術項目中項目毎に自由記載を求めた.

2. WEB調査結果について

1) 回答者の概要

WEB調査の結果,回答者の所属機関は,教育機関56件,行政機関2件であった(表1).教育機関における保健師教育の内訳は,学部選択制46件(79%),学部全員必須2件(3%),大学院4件(7%),大学専攻科3件(5%),養成所または専門学校等1件(2%)であった.

表1  回答者の所属機関
人数 %
学部(選択制) 46 79
学部(全員必修) 2 3
企業 0 0
行政 2 3
大学院 4 7
大学専攻科 3 5
養成所または専門学校等 1 2
合計 58 100

2) 公衆衛生看護技術の構造図について

公衆衛生看護技術構造図(図1)については,「良い」「ほぼ良い」が91%,「問題あり」が9%であった.構造図については16件の意見があった.

主な意見は,「枠組みや色分けの意図が分かりにくい,矢印の意図が分かりにくい」「ABCDの番号の振りに問題がある」「BCDの表記の位置が不適切」「Aグループ(小集団)を用いた支援技術の位置づけがわかりにくい」等であった.1件ずつ丁寧に検討し,構造図の修正し説明を補足した.

①公衆衛生看護技術の構造図の構造

修正した公衆衛生看護技術の構造図について述べる.公衆衛生看護技術の構造図は,親子保健活動における公衆衛生看護技術の構造図(大木ら,2019)を基盤に,活動の領域によらない共通の構造図として作成したものである,枠組みは,既存枠組みに準じて「対象」と「展開過程」の2軸であり,「対象」は「公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラム(2017)」(全国保健師教育機関協議会,2018)に準じ,【A個人・家族】【B生活基盤としての地区/小地域】【C地域(自治体)の住民組織】【D地域の制度や仕組みを構築する機能を持つ組織】とした.なお,親子保健活動における構造図からの変更点として,2021年に【B生活基盤としての地区/小地域】の活動技術を既存活動から明らかにし(岩本ら,2021),その調査結果を踏まえ,Bの構造を変更した.また「住民組織/地域組織」については,自治体全体を軸にした活動を展開する住民組織/地域組織と,地区/小地域の活動を基盤とする地区組織があるために,前者を【C地域(自治体)の住民組織】として位置付け,後者は【B生活基盤としての地区/小地域】の活動に含むものとした.また,親子保健活動においては,「展開過程」区分は,「情報収集の技術」,「アセスメントの技術」,「支援技術」としていたが,「支援技術」を細分化し,「活動の実践技術」「計画策定・計画評価」の技術とした.なお,【A個人・家族】については,「計画策定・計画評価」の技術は,「活動実践技術」に含まれるものとした.また,Dは,自治体全体に対する支援技術には,事業レベルと自治体全体の施策レベルがあるために,「事業化・事業評価」と「計画策定・計画評価」を分けた.

3) 高齢者保健活動における公衆衛生看護技術について

(1) 調査結果からの妥当性の検討

各技術項目については,すべての大項目で,「良い」「ほぼ良い」の回答が8割以上を(86%~94%)占めた(表2).最も高い割合は,C111とC211およびD211とD231であり,94%であった.最も低い項目はA311とA312であり86%であった.すべてにおいて8割以上の賛同が得られたことから,各技術項目については,妥当であると考えられた.各項目についての修正意見については,委員会内で協議し,修正を行った.最終的に表3の技術が完成した.

表2  各技術項目案に対する妥当性に関する回答分布
良い(意見なし)/ほぼ良い(意見あり) 問題あり(意見あり) 計*
図1 53 5 58
91% 9% 100%
A111 & A211 45 5 50
90% 10% 100%
A311 & A312 42 7 49
86% 14% 100%
A321 45 4 49
92% 8% 100%
A411 44 4 48
92% 8% 100%
B111 & B211 44 4 48
92% 8% 100%
B221 44 4 48
92% 8% 100%
C111 & C211 45 3 48
94% 6% 100%
D111 & D211 43 5 48
90% 10% 100%
D221 & D231 45 3 48
94% 6% 100%
意見なし 意見あり
その他 27 20 47
57% 43% 100%

*無回答を除いた合計

表3 

高齢者保健活動にける公衆衛生看護技術

表3 

続き

表3 

続き

表3 

続き

表3 

続き

表3 

続き

(2) 高齢者保健活動に関する公衆衛生看護技術

今回抽出した高齢者保健活動に関する公衆衛生看護技術については,行政の保健師による高齢者を対象とした保健活動を推進する公衆衛生看護技術を可視化したものである.行政の保健師として,保健部門で活動する保健師のみならず,地域包括支援センター等で活動する保健師など高齢者の支援に関連する部署全体を包括した技術を抽出した.また,近年,高齢者の活動については,保健と福祉が一体となり活動することも多く,計画策定も,「保健福祉計画」として保健福祉が一体的に計画されることが多い.そのため,技術の一部は,高齢者保健福祉と表現した.

なお,抽出した小技術項目については,書面の関係で省略する.

①高齢者や家族を対象とした公衆衛生看護技術

個人・家族を対象とした公衆衛生看護技術における,【高齢者と家族に関する情報収集】は,大技術11項目,中技術23項目,【高齢者と家族に関するアセスメント】は,大技術4項目,中技術10項目で構成された.個人家族に対する一般的な支援技術は,【自立・見守りが必要な高齢者と家族への支援】と【介護が必要な高齢者と家族への支援】が構成され,前者は大技術5項目,中技術15項目,後者は大技術6項目,中技術17項目で構成された.なお,高齢者保健活動における個人・家族への一般的な支援技術は,「自立・見守りが必要な高齢者と家族」と「介護が必要な高齢者と家族」への支援について検討した.しかし,それ以外にも健康増進やフレイル予防等を支援する場合など多様な高齢者や家族への支援技術もあると考えられ,それらの抽出は課題である.

「継続的支援課題を持つ対象への支援技術」は,【認知症のある高齢者と家族への支援】として大技術13項目,中技術36項目で構成された.高齢者保健活動において継続的な支援課題を持つ対象は,今回抽出した「認知症のある高齢者と家族」のみならず,高齢者虐待,経済的問題,家族に疾病等を抱える高齢者など,多様な疾病や課題を有し継続的支援が必要な高齢者と家族がいると考えられる.これらへの支援技術は,それぞれの健康課題に応じた特徴的な技術があると考えられ,抽出については今後の課題である.

【高齢者保健に関するグループ(小集団)を用いた支援技術】は,大技術5項目,小技術15項目で構成された.これは,高齢者や家族の有する課題を解決するために,グループ・小集団を活用し,個々の課題を解決するものであり,個別支援と位置づく支援技術である.

②生活の基盤としての地区/小地域での高齢者保健活動における公衆衛生看護技術

【生活基盤としての地区/小地域での高齢者保健に関する情報収集・アセスメント】は,大技術8項目,中技術25項目,【生活基盤としての地区/小地域での高齢者保健に関する活動技術】は,大技術6項目,中技術38項目,【生活基盤としての地区/小地域での高齢者保健に関する活動計画・評価】は,大技術6項目,小技術22項目で構成された.これらは,「生活基盤としての地区/小地域」での活動技術であり,いわゆる「地区活動」である.

③高齢者保健活動を推進する地域組織活動(自治体全体)に関する公衆衛生看護技術

地域組織活動は,自治体全体レベルでの地域住民主体の組織活動を示すものである.【高齢者保健を推進する地域組織(自治体全体)の育成支援に向けた情報収集・アセスメント】は大技術3項目,中技術10項目,【高齢者保健を推進する地域組織活動(自治体全体)の育成支援】は,大技術7項目,中技術17項目で構成された.これらは,自治体全体レベルの多様な地域組織と協働しながら高齢者保健を推進する技術である.

④地域の制度や仕組みを構築する機能をもつ組織(自治体)の高齢者保健活動における公衆衛生看護技術

【地域の制度や仕組みを構築する機能を持つ組織(自治体)での高齢者保健に関する情報収集・アセスメント(地域診断)】は,大技術6項目,中技術14項目,【高齢者と家族を支える社会資源の開発・地域ケアシステムづくり】は,大技術4項目,中技術13項目,【高齢者保健の事業化・事業評価】は,大技術8項目,中技術16項目,【高齢者保健に関する計画や関連施策の計画策定・計画評価】は大技術8項目,中技術16項目で構成された.これらは地域の制度や仕組みを構築する機能を持つ組織である自治体単位で,高齢者保健に関する情報収集・アセスメントを行い,それに基づいた計画作成により,社会資源の開発や地域ケアシステムづくりおよび事業化や施策化を行うとともに,事業評価や計画評価を行う技術である.

III. まとめ

教育課程委員会においては,高齢者保健活動における公衆衛生看護技術を作成した.これまでに,高齢者保健活動に関する技術を体系的に示したものはなく,保健師の公衆衛生看護技術を示した新たなものである.

本技術を抽出過程においては,高齢者保健活動の経験を有する教育研究者が議論を重ねるとともに,複数の全国保健師教育機関の支部活動や全国的な研修会においても技術項目案を検討した上で全国的調査を行い,8割以上が妥当と回答している.また会員校のみならず保健師連絡協議会への調査や日本公衆衛生看護学会でのワークショップでは現任保健師の参加が得られ,少数ではあるが現任保健師の意見も反映している.このように教育機関や保健師活動現場など多様な立場の者からの意見を反映し,妥当な技術が抽出できたと考える.

全国保健師教育機関協議会教育課程委員会は,保健師教育の質の向上を検討する委員会である.今後は,抽出した技術を用い高齢者保健を推進するための教育方法の検討が必要である.また,本技術は,現場保健師の活動技術であり,教育機関のみならず現場での現任教育で活用も可能であるため,保健師職能団体と連携し,保健師への普及と活用を推進することも課題である.

謝辞

本調査にご協力いただきました一般社団法人全国保健師教育機関協議会会員校の皆様,日本保健師連絡協議構成団体の皆様に感謝申し上げます.

文献
 
© 2023 The Japan Association of Public Health Nurse Educational Institutions
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