Public Health Nursing Education
Online ISSN : 2433-6890
Project Reports
Education for Health Risk Management in Advanced Course of Public Health Nursing: From Summer Seminar for Faculty in 2022
[in Japanese]Setsuko HoriiRitsuko NishideChikako SatoRieko NakaoKyoko IzumiIzumi UedaTokie KanayamaMayumi MizutaniTomoko Shiraishi
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2023 Volume 7 Issue 1 Pages 27-30

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I. はじめに

教育体制委員会では,保健師助産師看護師学校養成所指定規則(文部科学省,厚生労働省,2022)に定められた保健師教育内容を看護師教育と合わせて教授しない,つまり単位の読み替えなしとなる上乗せ保健師教育課程(大学院,大学専攻科等)を推進する活動として,毎年夏季教員研修会において分科会を開催している.

今年度は,「看護基礎教育検討会」報告書(厚生労働省,2019)における保健師教育について,「大規模災害や感染症等の健康危機管理能力の強化」が指摘されていることに着目した.また,同報告書では,保健師に求められる能力として,「保健師に求められる実践能力と卒業時の到達目標と到達度」において「健康危機管理における災害対応で,直ちに必要とされる能力について,到達レベルを全面的に引き上げた」とされており,健康危機管理はますます重要な教育内容となっている.

そこで,すでに健康危機管理教育に取り組んでいる大学院修士課程と大学専攻科の先生方から上乗せ教育課程における健康危機管理教育の実際をご紹介いただいた.その後,グループワークで健康危機管理教育の質を向上させる要因及び可能な取り組みや具体策を検討した.

本稿では,2022年8月20日(土)にオンラインで実施した第37回全国保健師教育機関協議会夏季教員研修会の第一分科会の内容を報告する.

II. 分科会の概要

2022年度の活動方針に基づき,本委員会が企画・運営した夏季教員研修会の分科会の概要は次に示す通りである.

【テーマ】

「上乗せ教育課程における健康危機管理に関する教育の実際」

【目的】

1)上乗せ教育における健康危機管理教育の実際を知る機会とする.

2)健康危機管理教育の質を向上させる要因と取り組みのあり方や具体策について考え共有する場とし,さらに保健師教育への新たな視点を得る機会とする.

【開催日時】

2022年8月21日(土)13:15~15:15

【方法】

Web会議システムZoomミーティングによるオンライン開催とともに,後日,オンデマンドによる配信を行った.

【構成】

1)報告

健康危機管理対策委員会鈴木委員長より「感染症の健康危機管理に強い保健師に求められる卒業時の到達目標(案)」の妥当性に関する調査と修正プロセスなどについてご報告いただいた(詳細は委員会活動報告参照,2022).

2)講演

大学院・大学専攻科の先生方を講師に迎え,養成する保健師人材像,健康危機管理教育のカリキュラム上の位置づけと力を注ぐ教育内容や方法など,上乗せ教育課程における健康危機管理教育の実際をご紹介いただいた.

3)意見交換

Zoomミーティングのブレイクアウトルーム機能を用い12グループに分かれて,「健康危機管理教育の質向上につながる要因」と「要因に応じた取り組みやあり方の具体策」について意見交換した.

4)全体での共有

代表して3つのグループに意見交換の内容を発表してもらうとともに,各グループから出た主要な質問事項などを全体で共有し,講師からの応答を得た.

【参加者】

講師と教育体制委員および当日運営サポートメンバー計15名を除く当日の参加状況は,講演参加102名,グループワーク参加68名であった.

III. 講演内容

1. 上乗せ教育課程における健康危機管理に関する教育の実際 ―大学専攻科―

(講師:札幌医科大学専攻科公衆衛生看護学専攻 教授 上田 泉氏)

札幌医科大学では,平成24年度(2012年度)入学生より令和3年度(2021年度)まで,保健師教育の選択制(10名)を実施してきた.その間,専攻科公衆衛生看護学専攻は,令和2年度(2020年度)に開始し,現在,3期生が学修している.同学では,ディプロマポリシーとして,①地域に存在する健康課題を明確化し,事業計画を立案して組織的に解決するための公衆衛生看護学及び関連分野の知識・技術,②豊かなソーシャルキャピタルの醸成を目指して地域に出向き,地域に根差した実践を展開するための基礎的な能力,③地域の健康課題を解決するための社会資源の開発やシステム化,施策化に参画する能力,④地域住民,関係機関,多職種の人々と信頼関係を築き,連携・協働する能力,⑤保健師としての役割と責任を認識し,高い倫理観をもって実践する能力,⑥地域住民の健康の保持・増進,地域社会の安寧,公衆衛生看護の充実と発展のために,生涯にわたって研鑚する意欲と自己学習力を持つ人材育成を目指している.

1年間の教育課程では30科目,合計38単位を取得することになる.特徴的な科目と考えているのはキャリアデザインセミナー,災害保健指導等である.キャリアデザインは,現役保健師のインタビューや講義などを通して保健師のキャリアの多様性を知り,今後の人生をどうデザインするか,なりたい自分をめざすための科目である.災害保健指導は,災害の種類や災害サイクル,災害発生時の社会の対応や仕組み,災害に備えた平常時の取り組み,避難行動要支援者への支援計画のあり方など,災害各期における公衆衛生看護活動の基礎となる知識を学ぶ.

臨地実習として,公衆衛生看護実習1・2,管理実習では行政機関で実習し,また企業への産業保健実習,小中学校への学校保健実習,さらに年間を通して地域包括ケア実習を組み立てている.1年間のスケジュールとしては,前期は主に講義が中心であり,6月,9月,12月に地域包括ケア実習がある.後期は,主に実習が中心となる.1年間をかけて公衆衛生看護学研究も学ぶ.

健康危機管理のカリキュラム上の位置づけとしては,公衆衛生看護管理論の中での講義,親子保健指導での児童虐待予防の講義と児童相談所見学,災害保健指導の科目,そして公衆衛生看護管理実習,学校保健実習では感染症予防の健康教育を実施している.

災害保健指導の科目では1単位を実施している.北海道庁,保健所,市町村,それぞれの立場で実際の災害保健活動に携わった経験のある現場の保健師やDMATの看護師より講義を実施した後に,模擬事例を用いた災害時の保健活動訓練(演習)がある.今年度は公衆衛生看護管理論の中で感染症の動向(COVID-19対策,現状及び課題,医療職の役割),感染症にかかる保健師活動(感染症の調査の基本,事前対策,発生時対策,感染拡大防止など),演習として感染症発生時の調査(積極的疫学調査の実際)を予定しており,感染症対策にも力を入れ始めている.

感染症が発生した時に,看護師資格を持つ学生は保健所応援に出向くことができるマンパワーとなり得る.学生の実践能力獲得のためにも教育内容,教育と現場の相互体制等を考えていく必要がある.

2. 上乗せ教育課程における健康危機管理に関する教育の実際 ―大学院―

(講師:大分県立看護科学大学大学院 教授 甲斐優子氏,講師 小野治子氏)

大分県立看護科学大学は上乗せ教育の先発校として,2011年度から大学院教育を始め,45名の保健師を輩出してきた.アドミッションポリシーは,①人びとの生命と暮らしを守るため,地域をアセスメントし,課題を発見,改革に結びつけたい人,②保健領域における高度な知識や技術を身につけ,研究開発能力を身につけたい人である.ディプロマポリシーは,「個人・家族の健康アセスメントを包括的にできる能力」「地域社会全体の健康レベルをアセスメントできる能力」他7つの能力である.

カリキュラムは指定規則31単位と大学院30単位,合計61単位である.健康危機管理に関して,大学院当初から健康危機管理特論を科目立てしており,今回のカリキュラム改正において広域看護管理特論を追加した.さらに,環境保健学特論や演習科目などの強化科目を配することが特徴である.カリキュラムの流れは,講義と演習・実習を連動させるように組み立てている.

健康危機管理に関する教育カリキュラムの体系は,1年前期に健康危機管理の基礎知識(環境保健学特論,健康危機管理特論),1年前期後半に実習地での健康危機管理体制の実際(地域生活支援実習,地域マネージメント実習,広域看護活動展開実習),1年後期前半に健康危機管理に関する応用的な知識,1年後期後半に事例を通じた対応力(健康リスクアセスメント実習),2年に研究的思考力・実践力(研究課題,保健所への応援派遣)としている.

講義は環境保健学特論(15コマ)及び健康危機管理特論(15コマ)である.環境保健学特論では物理的要因や化学的要因など環境と健康との関係について,健康危機管理特論では地域社会における健康危機管理に関する基本的な考え方や保健師活動の展開方法,多職種間連携を教授している.

実習は地域マネージメント実習I・II(4週間,市町村)及び広域看護活動展開実習(5週間,保健所・地域包括支援センター),地域生活支援実習(継続訪問実習,月1回・半年間)である.健康危機管理に関するテーマは,地域マネージメント実習I・IIにおいて「豪雨災害における保健師の役割を考える」,広域看護活動展開実習において「九州北部豪雨での住民を取り巻く環境と保健活動の実際」,地域生活支援実習において「人工呼吸器をつけた小児慢性特定疾患児と自宅で一緒に暮らすことを選択した家族への支援」などであった.市町村では災害の発生時の対応を,保健所では復旧時の対応を学んでいた.

演習は健康リスクマネージメント演習(15コマ)である.実習の後,細菌性赤痢他の感染症の6事例を用いて,個人家族集団が抱える潜在的な健康問題(リスク)を的確に予測し,保健師としてのリスクマネージメント,支援のあり方を考える.2年次には課題研究において災害に取り組む学生もおり,IHEAT(Infectious disease Health Emergency Assistance Team)への応援・派遣も経験する(厚生労働省,2022).

修了生の卒業時到達目標の状況は,「地域の健康危機管理能力」の評価が他の項目に比べると低く,今後の課題である.しかしながら,ホームカミングデイ(卒業生を母校に招いて開催するイベント)時の修了生インタビューから,修士課程の教育により,地域の健康危機管理に活かせる何ごとにも動じない精神力,情報収集力と対応力,仲間と一緒に頑張る力が身についたとの嬉しい報告を得た.

IV. グループワークでの意見交換の内容

12グループに分かれて,健康危機管理教育の各校の取り組みについて情報共有の後,「健康危機管理教育の質向上につながる要因」および「その要因に応じた取り組みのあり方や具体策」について検討した.代表して3グループに意見交換の内容を発表してもらい,全体で共有した.

「健康危機管理教育の質向上につながる要因」の主な内容は,「健康危機管理のリアル感を持たせる」「他の科目との連関性を持たせる」「地域づくりや地域の特性を踏まえた取り組みを学ぶ」などであった.「その要因に応じた取り組みのあり方や具体策」の主な内容は,「DHEATやIHEATの体験」や「事例を用いた演習」「映像教材」「実習中の保健師のこれまでの実体験をふまえた説明」などにより,学生がリアル感をもって,地域特性や身近な事例として具体的に学ぶことが必要であった.

V. 事後アンケート

実施後にオンライン調査を行った.グループワーク終了後に案内したため,グループワーク参加者68名のうち66名からの回答を得た(回収率97%).職位別には,教授・准教授33名(50%),講師・助教31名(47%)であった.27名(41%)が既に上乗せ教育を実施する機関に所属し,上乗せ教育開始時期がほぼ決定している機関に所属する参加者6名(9%),上乗せ教育の予定がない教育機関に所属する参加者26名(39%)であった.複数回答で尋ねた参加理由の上位3つは,健康危機管理教育の質を向上させる具体策を知りたい(46名,70%),健康危機管理教育の質の向上について考えたい(37名,56%),上乗せ教育課程の健康危機管理教育の実際を知りたい(36名,55%)であった.

講演については「良かった(52名)」「やや良かった(9名)」「ふつう(5名)」,グループワークについては「良かった(48名)」「やや良かった(13名)」「ふつう(5名)」と回答した.参考になった内容の回答(自由記述)は,「実際の教育内容や組み立て,実際の教育課程・内容,健康危機管理教育の実際」「上乗せ教育での教育事例の紹介,成果,何事にも動じない精神力の育成」などであった.

今後,上乗せ教育に関して知りたい内容(複数回答)の上位3つは,保健師課程の教育内容(44名,67%),保健師教育課程の評価(34名,52%),修了生・在学生の学び(29名,44%)であった.

VI. おわりに

教育体制委員会は,新型コロナウイルス感染症の拡大により保健師への期待が高まる中,2021年7月下旬,大学院修士課程17校と大学専攻科2校を対象に,健康危機管理能力向上に向けた取り組みの実態について調査を行った.その際,卒業時の到達度を向上させる教育の好事例を記述された上乗せ教育校のうちの2校に,健康危機管理教育の実際を本分科会で報告していただいたものである.

看護基礎教育を終えた学生を教育対象とする上乗せ保健師教育課程では,健康危機管理の教育内容や教育方法などが充実しており,参加者のアンケート結果でも好評であった.今後も引き続き,上乗せ教育としての健康危機管理教育の質の向上に努める必要がある.

文献
 
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