2023 Volume 7 Issue 1 Pages 46-50
新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)のパンデミックが継続する中,保健所等の行政機関をはじめ,医療機関,高齢者施設などの保健医療福祉に関わる機関,また,COVID-19に関わる各種電話相談(発熱相談センター,一般相談,COVID-19ワクチン副反応相談センター等),宿泊療養施設,酸素・医療提供ステーション,PCRセンター,さらには,2021年2月より開設されたワクチン接種会場など多方面で看護職の人員不足が常態化している.このような状況の中,全国の保健師教育課程の教員および学生は,各方面からの要請に応じて保健医療福祉施設等の機関にて,COVID-19に関わる業務に従事している.本報告の目的は,2021年度に保健医療福祉施設等の機関にてCOVID-19に関わる業務に従事した保健師教育課程に所属する教員および学生の活動の実態を明らかにすることである.
調査期間は,2022年2月25日~3月18日であった.
2. 調査対象調査対象は,一般社団法人全国保健師教育機関協議会の会員校(以下,会員校)として登録している228校であった.なお,会員校には,大学院,大学(専攻科,4年制),短期大学専攻科,専修学校(1年課程,統合カリキュラム)が含まれる.
3. 調査方法本調査は,自記式質問フォーマットを用いたアンケート調査にて実施した.
質問項目は,保健師教育課程に所属する教員数および学生数,2021年4月1日から2022年3月末までに保健医療福祉施設にてCOVID-19に関わる業務を1日,1時間,1回でも行った教員数および学生数,2021年4月1日から2022年3月末までに保健医療福祉施設での業務に従事した日数とした.なお,保健医療福祉施設は,病院・診療所・高齢者施設(ワクチン接種含まない),訪問看護ステーション,保健所・電話相談・宿泊療養施設・酸素・医療提供ステーション・PCRセンター(以下,保健所等),COVID-19ワクチン接種会場(病院,診療所,大規模会場問わず),その他の5つに分類した.
4. 分析方法本調査では,得られたデータを用いて記述統計量を算出した.学校の種別は,教育年限別に区分して集計した.区分の内訳は,2年間で教育を行う「大学院」,大学と専修学校の統合カリキュラムを「4年制」,大学・短大専攻科と専修学校の1年課程を「1年制」とした.なお,得られたデータのうち,学生に関するデータ分析では,2021年度時点で保健師教育課程の学生が最終学年に達していない教育機関4校を分析から除外した.
回収数は会員校228校中90校(回収率39.5%)であった.有効回答数は,教員に関する項目は90校(有効回答率39.5%),学生に関する項目は86校(有効回答率37.7%)であった.
本調査に回答のあった会員校の教員数の平均(標準偏差)は全体では3.6人(1.1),学生数の平均(標準偏差)は全体では20人(12.2)であった(表1).
全体(N=90) | 大学院(n=9) | 4年制(n=77) | 1年制(n=4) | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
平均 | SD | 平均 | SD | 平均 | SD | 平均 | SD | ||||
教員数 | 3.6 | 1.1 | 4.2 | 1.0 | 3.5 | 1.1 | 3.8 | .4 | |||
学生数a | 20.0 | 12.2 | 10.0 | 3.6 | 21.1 | 12.5 | 21.2 | 13.3 |
Note. SD=標準偏差.a回答が得られた90校のうち,2021年度時点で保健師教育課程の学生が最終学年に達していない4校(1年制1校,4年制3校)は分析から除外した(全体:n=86,大学院:n=9,4年制:n=71,1年制:n=5).
本調査の結果,約9割(79/90校)の会員校では,教員が保健医療福祉施設等機関にてCOVID-19に関わる業務に従事していた.また,COVID-19に関わる業務に従事ありと回答した会員校にて,教員一人当たりが従事した延日数の平均(標準偏差)は全体では9.4日(7.1),大学院は14.1日(8.2),4年制は8.7日(6.8),1年制は6.2日(5.2)であった.さらに,教員がCOVID-19に関わる業務に従事した施設は,保健所等が60校(75.9%)と最も多く,続いてCOVID-19ワクチン接種会場が53校(67.1%)であった.なお,訪問看護ステーションにて業務に従事した会員校の教員はいなかった.
全体(N=90) | 大学院(n=9) | 4年制(n=77) | 1年制(n=4) | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
n | % | n | % | n | % | n | % | ||||
COVID-19に関わる業務に従事 | |||||||||||
あり | 79 | 87.8 | 9 | 100 | 67 | 87.0 | 3 | 75.0 | |||
なし | 11 | 12.2 | 0 | 0 | 10 | 13.0 | 1 | 25.0 | |||
COVID-19に関わる業務の従事先a | |||||||||||
病院・診療所・高齢者施設 | |||||||||||
あり | 2 | 2.5 | 0 | 0 | 1 | 1.5 | 1 | 33.3 | |||
なし | 76 | 96.2 | 8 | 88.9 | 66 | 98.5 | 2 | 66.7 | |||
無回答 | 1 | 1.3 | 1 | 11.1 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
訪問看護ステーション | |||||||||||
あり | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
なし | 79 | 100 | 9 | 100 | 67 | 100 | 3 | 100 | |||
保健所,電話相談,宿泊療養施設,酸素・医療提供ステーション,PCRセンター | |||||||||||
あり | 60 | 75.9 | 9 | 100 | 49 | 73.1 | 2 | 66.7 | |||
なし | 19 | 24.1 | 0 | 0 | 18 | 26.9 | 1 | 33.3 | |||
COVID-19ワクチン接種会場 | |||||||||||
あり | 53 | 67.1 | 6 | 66.7 | 47 | 70.1 | 0 | 0 | |||
なし | 26 | 32.9 | 3 | 33.3 | 20 | 29.9 | 3 | 100 | |||
その他 | s | ||||||||||
あり | 5 | 6.3 | 0 | 0 | 5 | 7.5 | 0 | 0 | |||
なし | 73 | 92.4 | 8 | 88.9 | 62 | 92.5 | 3 | 100 | |||
無回答 | 1 | 1.3 | 1 | 11.1 | 0 | 0 | 0 | 0 |
Note. a.「保健医療福祉支援に従事あり」の回答のみを用いて分析した.
本調査の結果,約2割(18/86校)の会員校では,学生が保健医療福祉施設等機関にてCOVID-19に関わる業務に従事していた.また,COVID-19に関わる業務に従事ありと回答した会員校にて,学生一人当たりが従事した延日数の平均(標準偏差)は全体では5.7日(11.2),大学院は22.4日(18.2),4年制は1.2日(2.0),1年制は0.1日であった.さらに,学生がCOVID-19に関わる業務に従事した施設は,COVID-19ワクチン接種会場が12校(66.7%)と最も多く,続いて保健所等が7校(38.9%)であった.なお,訪問看護ステーションにて業務に従事した会員校の学生はなかった.
全体(N=86) | 大学院(n=9) | 4年制(n=71) | 1年制(n=5) | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
n | % | n | % | n | % | n | % | ||||
COVID-19に関わる業務に従事 | |||||||||||
あり | 18 | 20.9 | 6 | 66.7 | 11 | 15.1 | 1 | 25.0 | |||
なし | 68 | 79.1 | 3 | 33.3 | 62 | 84.9 | 3 | 75.0 | |||
COVID-19に関わる業務の従事先a | |||||||||||
病院・診療所・高齢者施設 | |||||||||||
あり | 1 | 5.6 | 1 | 16.7 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
なし | 17 | 94.4 | 5 | 83.3 | 11 | 100 | 1 | 100 | |||
訪問看護ステーション | |||||||||||
あり | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
なし | 18 | 100 | 6 | 100 | 11 | 100 | 1 | 100 | |||
保健所,電話相談,宿泊療養施設,酸素・医療提供ステーション,PCRセンター | |||||||||||
あり | 7 | 38.9 | 3 | 50.0 | 4 | 36.4 | 0 | 0 | |||
なし | 10 | 55.6 | 2 | 33.3 | 7 | 63.6 | 1 | 100 | |||
無回答 | 1 | 5.5 | 1 | 16.7 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
COVID-19ワクチン接種会場 | |||||||||||
あり | 12 | 66.7 | 4 | 66.7 | 7 | 63.6 | 1 | 100 | |||
なし | 6 | 33.3 | 2 | 33.3 | 4 | 36.4 | 0 | 0 | |||
その他 | |||||||||||
あり | 2 | 11.1 | 1 | 16.7 | 1 | 9.1 | 0 | 0 | |||
なし | 16 | 88.9 | 5 | 83.3 | 10 | 90.9 | 1 | 100 |
Note. 回答が得られた90校のうち,2021年度時点で保健師教育課程の学生が最終学年に達していない4校(1年制1校,4年制3校)は分析から除外した.a「保健医療福祉支援に従事」の項目で「あり」の回答のみを用いて分析した.
本調査の結果,回答された会員校の約9割の教員,約2割の学生がCOVID-19に関わる業務に従事していた.また,学校種別による一人当たりのCOVID-19に関わる業務に従事した日数は,大学院が教員,学生ともに最も長い期間であり,教員は2週間,学生は3週間程度であった.大学院生の業務従事日数が多かった要因として,看護師免許を有することや,大学院生と同様に看護師免許を有する専攻科(1年制)の学生と比較して,大学院生は業務に従事する時間を確保しやすい環境下にあった可能性も影響していることが推察される.また,大学院生のCOVID-19に関わる業務への指導のため,大学院の教員の従事日数も多くなったことも推察される.
また,COVID-19に関わる業務に従事した場所は,教員は保健所等,学生はCOVID-19ワクチン接種会場が最も多かった.これまで,保健所等の業務逼迫への対応として,行政機関が主導して体制整備を行ってきた(春山ら,2020).このことが,感染症対策の中心となっている保健所等,またすべての住民を対象として開設されたCOVID-19ワクチン接種会場にて,保健師教育課程の教員および学生が業務に従事することが多かったことに影響していたことが推察される.一方,教員,学生いずれも訪問看護ステーションにて業務に従事したと回答した会員校がなかった理由としては,訪問看護ステーションは教育機関と同様に保健所と委託契約を結び応援派遣に従事する側であったこと(公益財団法人日本訪問看護財団,2022)が考えられる.
全国保健師長会(2022)による報告では,感染症対策部門への人員増加が図られた後であっても,増員以上の業務量で感染状況に応援体制が追い付かない現状や,発生の急減や急増の変化と体制整備がタイムリーにいかないこと,また応援体制が陽性者の急増に追いつかない状況に陥った現状が明らかになっている.さらには,人材確保が難しいことから,疲弊している職員へのフォローが不足し,対応期間が長期に及んでいるため病気休暇や体調不良者が発生している現状や,COVID-19以外の通常業務が滞ったり中断を余儀なくされたりしている現状も明らかとなっている(全国保健師長会,2022;春山ら,2020).また,公立・公的病院および高齢福祉,障がい福祉,児童福祉の事業所では,急速な感染拡大により院内クラスターの発生や事業休止を余儀なくされる施設や事業所もみられ,人員不足やCOVID-19による業務負荷が増加するなか,一定数の離職者や,メンタル不全,差別的対応などに苦しむ職員がいる状況が明らかとなっている(寺田,2021;佐々木,2021).このような中,看護師あるいは保健師免許を有する教員や学生による支援は,即戦力となったことについても報告されている(全国保健師長会,2022).これらのことから,保健師教育課程に所属する教員や学生が保健医療福祉施設等の機関でCOVID-19に関わる業務に従事することは,現場の逼迫した人員不足解消の一翼を担うことができたと考える.なお,保健医療福祉施設等の機関にてCOVID-19に関わる業務に従事する看護職の人員不足解消に向け,パンデミック以降,様々な取り組み,対策がとられている.2022年には「新型コロナウイルス感染症応援派遣活動要領」の一部改正により,COVID-19に係る自治体間での保健師等の専門職の応援要請,応援派遣及び運用等の指針が示され(厚生労働省,2022),自治体間での協力体制の整備がすすめられている.
本調査の結果,COVID-19のパンデミック下で流動的に人的要員が不足する保健医療福祉施設等の機関で,保健師教育に関わる教員や学生が業務に従事することは一定の役割を担っていたことが明らかになった.しかし,保健師教育に関わる教員や学生にとって,COVID-19に関わる業務に従事することの効果や意義については,これまでに保健所への支援が教員の実地訓練となったこと(菅原ら,2020)や,大学院生がCOVID-19流行下に保健所実習を実施した際には教育機関では経験できない現場の課題を肌で感じる貴重な機会となったこと(角野ら,2021)が報告されているが,十分な実態把握の蓄積には至っていない.一方,教育機関ではCOVID-19のパンデミック以降,オンライン授業導入に伴う授業方法の変更や実習先となっていた保健医療福祉施設の実習受け入れ困難による代替え実習の検討,また施設実習中のCOVID-19発生時の対応等,教育に関わる業務にこれまで以上に時間を要している実態もある(文部科学省,2021;全国大学高専教職員組合,2020).
今後は,保健医療福祉施設等の機関にて保健師教育に関わる教員や学生がCOVID-19に関わる業務を担うことの効果や意義について明らかにする必要があると考える.さらには,感染症の健康危機が生じた状況下で保健師学生に求められる到達目標等も明らかになってきている中,教育機関は保健所等とも協働しながら,保健師教育の充実を図るとともに,平時から保健医療福祉施設等との円滑な協力体制がとれるよう体制整備を強化していくことも今後の課題であると考える.
本調査にご協力いただいた全国保健師教育機関協議会の会員校の皆様には心より感謝申し上げます.
本調査結果の一部は,2022年度一般社団法人全国保健師教育機関協議会総会の委員会報告の場にて報告している.