2023 Volume 7 Issue 1 Pages 71-79
目的:Zoomを活用した遠隔実習を主体とする地域看護診断実習の成果と課題を検討することである.
方法:保健師教育課程4年生を対象とし,地域看護診断実習終了後,到達目標における学生の自己評価,実施項目に関する学生へのアンケート結果を用いた.データは記述統計で示し,自由記載を質的に分析した.
結果:地域把握,実習態度の自己評価項目で達成度が高かった.地区踏査,住民インタビュー,保健師との検討会,実習報告会で「できた」「まあまあできた」と回答した割合は9割であった.一方,実習地に出向いた教員がiPadを用いZ大学とZoomで繋いだ住民インタビューでは学生と住民のコミュニケーションに課題が残った.アセスメント,まちづくり・計画立案の自己評価項目で達成度が低かった.
考察:Zoomを活用した地域看護診断実習の一定の成果は得られたといえる.Zoomによる遠隔実習が適する場面,達成度が低い項目への検討が必要である.
2020年の6月以降,全国的に第2波と呼ばれる感染の波が押し寄せ,新型コロナウイルス感染症(以下:COVID-19)の新規感染者数が徐々に増え始めた.厚生労働省(2020)は「新型コロナウイルス感染症の発生に伴う医療関係職種等の各学校,養成所及び養成施設等の対応について(令和2年2月28日付)」を通知し,対面実習が難しい場合の代替的手法として,ICTを活用した授業等の工夫を周知していた.Z大学においても学生にとって学習上の不利益が被らないよう,最大限の工夫が必要な状況であった.
Z大学では,卒業要件として看護師と保健師,または看護師と助産師の何れかの選択制を採用しており,卒業時に全ての学生が保健師または助産師の国家試験受験資格を得ることとなっている.保健師教育課程の中で,毎年4年次の5月に「地域看護診断を主要な目標とする実習(以下:地域看護診断実習)」を実施している.これまで地域看護診断実習の教育方法の検討(菅原ら,2003),実習の成果と課題(菅原ら,2005),学生の面接自己評価に関連する要因(太田ら,2007)等,教育方法や実習内容について継続的に検討を重ねてきた.
地域看護診断実習は,保健師教育課程を選択する学生が,毎年異なる県内1カ所の市町村をフィールドとして実際に実習地へ赴き,6~7名のグループで既存資料の収集および分析,実習フィールドに関するオリエンテーション,地区踏査,住民インタビュー,保健師との検討会,実習報告会を通して,地域看護活動計画の立案までを実施している.他方,Z大学の保健師教育課程では,地域看護診断実習の後,発展的な実習として公衆衛生看護管理実習を例年10月に実施している.2020年度はCOVID-19の感染状況を踏まえ,地域看護診断実習に公衆衛生看護管理実習の内容を組み入れ実施した.
本報告では,Zoom Video Communicationsが提供するWeb会議サービス(以下:Zoom)を活用した遠隔実習を主体とする地域看護診断実習の成果と課題を検討することを目的とした.
COVID-19流行下におけるZ大学の地域看護診断実習の概況,通常の実習調整に加えて特筆すべきZ大学と実習地であるA町の取り組み内容を以下に示す.
1. COVID-19流行下におけるZ大学の地域看護診断実習の概況(表1) 1) A町の概況地域看護診断実習を行ったA町はZ大学と同県内にあり,Z大学の所在地から約70キロ北に位置している.人口は8,142人(男性3,987人,女性4,155人:2021年7月末現在)であり,町の大部分は山岳・丘陵地帯で冬季は多雪である.町の中心部に保健・医療・福祉・介護の総合施設が一体化され,町民の健康拠点となっている.
実習オリエンテーション:8月25日(金)(Zoom大学:学生⇔A町:町長,健康福祉課) | |
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11:00~ | 会場準備(大学講堂) |
13:00~13:30 | リハーサル(Zoomの通信状況の確認等) |
13:30~16:00 | 実習オリエンテーション(司会:学生) |
13:30~13:35 | 開会 あいさつ(学生) |
13:35~14:45 | 講演「健康と福祉のまちづくり」A町町長 |
14:45~15:15 | 「健康と福祉と介護サービスにかかる説明」A町健康福祉課長 |
15:20~15:50 | 「A町の保健師活動」A町保健師長 |
16:00 | 閉会 あいさつ(学生) |
地区踏査 *マイクロバスによる車中見学 | ||||||||
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グループ | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
日程 | 9/1(火) | 9/1(火) | 9/2(水) | 9/7(月) | 9/9(水) | 9/7(月) | 9/9(水) | 9/2(水) |
地区踏査 | B地区 | C地区 | D地区 | E地区 | F地区 | G地区 | H地区 | I地区 |
住民インタビュー(Zoom大学:学生⇔A町:地区住民) | ||||||||
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日程 | 9/3(木) | 9/8(火) | 9/8(火) | 9/14(月) | 9/15(火) | 9/15(火) | 9/16(水) | 9/23(水) |
対象者 | B地区 | C地区 | D地区 | E地区 | F地区 | G地区 | H地区 | I地区 |
百歳体操参加者 | 健康クラブ百歳体操参加者 | NPO法人百歳体操参加者 | 総合検診受診者 | 子育て支援センターを利用する保護者 | 百歳体操参加者 | 1,2歳児歯科検診受診の保護者 | 健康サークル参加者 | |
場所 | 地区公民館 | 地区公民館 | 法人施設 | 健康センター | こども園 | 旧小学校体育館 | 健康センター | 旧小学校内 |
A町保健師との検討会 10月2日(金)(Zoom 大学:学生 ⇔ A町:A町保健師) | |
9:00~12:00 | 学内グループ活動 |
14:00~ | A町保健師との検討会(Zoom)保健師3名 |
実習報告会 10月8日(木)(Zoom大学:学生⇔A町:健康福祉課) | |
11:00~ | 会場準備(大学講堂) |
13:00~13:30 | 学内 実習報告会会場準備(Zoomの通信状況の確認等) |
13:30~15:00 | 実習報告会(司会:学生) |
* その他:上記日程の他,5日間の学内グループワークを実施
(1)対象学生:保健師教育課程を選択する看護学科4年生51名
(2)実習期間:2020年8月24日~10月8日(2単位)
(3)実施項目
①実習フィールドに関するオリエンテーション
A町の概況についてオリエンテーションを受けた.学生はZ大学からZoomを用い参加した.内容は,A町長による「健康と福祉のまちづくり」の講演,A町健康福祉課長による「健康と福祉と介護サービス」にかかる説明,A町保健師長による「A町の保健師活動」についての説明があり,その後,質疑応答等を行った.
②地区踏査
6~7名のグループ単位でマイクロバスの車内からA町の地区踏査を行った.学生は学内演習による事前学習の中で,地理的・気候的条件,交通機関の状況,生活を支えている産業,医療機関へのアクセス等について既存資料やGoogle Mapを利用し,概況を把握した上で臨んだ.地区踏査のエリアは,A町全体と,B地区からI地区の8ヵ所の中で,各々のグループに割り当てられた対象者(団体)の生活圏を対象とした.また,地区踏査時に,遠隔実習を実施する住民インタビューの場所(地区公民館,法人施設,保健センター,こども園,旧小学校跡地等)の確認を行った.
③住民インタビュー(図1)
住民インタビューの概況
母子関係,成人関係,高齢者等に焦点をあて,子育て支援センター利用者,乳児歯科健診受診時の保護者,総合健診受診者,地区サークル参加者,地区サロン参加者,百歳体操参加者等を対象とした.実習地に出向いた教員がApple社のタブレット型コンピュータ(以下:iPad)を使用しZ大学とZoomで繋いだ.学生はZ大学からZoomを用い,グループごとにインタビューを実施した.
④地域の健康課題に関する保健師との検討会
オリエンテーション,地区踏査,住民インタビューを踏まえ,地域の健康課題に関する保健師との検討会を実施した.学生はZ大学からZoomを用い検討会へ参加した.検討会へ出席できるA町の保健師が3名であったため,予めグループ間で質問事項を精査し実施した.
⑤実習報告会
最終日に実習報告会を実施した.学生はZ大学からZoomを用い報告会へ参加した.例年,実習フィールドを会場に,保健師他,関係機関,住民の方々にも参集頂いていたが,2020年度はZ大学とA町健康福祉課のみで実施した.報告会は学内学習,地区踏査,住民インタビュー,保健師との検討会を踏まえた地域看護診断と公衆衛生看護管理の観点(ひと・もの・お金・情報)を取り入れた地域看護活動計画をグループごとに発表した.
⑥その他
課題に応じて,学内でグループワークを実施した.
3) Z大学の取り組み内容(表2a)(1)学生に対するCOVID-19感染予防対策
Z大学の感染予防ガイドラインに従い,学生に対して実習開始2週間前から毎日の健康観察を徹底した.また,マイクロバスの乗車定員の調整,講堂の使用等,学生が密になる機会を避けるよう配慮した.
(2)通信設備の確認と実習地への通信機器の持参
実習開始前,全てのインタビュー場所を事前に訪問し,通信設備の有無を確認した.全ての場所でWi-fi等のインターネット環境が整っていなかったため,インタビューの当日,iPad他,周辺機器一式を教員がインタビュー場所に持ち込み,Z大学とZoomで繋いだ.
a.Z大学の取り組み内容 | |
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1)COVID-19の感染対策 | |
・ | 実習開始2週間前から実習期間中は毎日健康観察を行うことを学生に徹底させた. |
・ | 体調不良がある場合は実習への参加を見合わせ,直ちに担当教員へ連絡すること. |
・ | 実習中,手洗い,換気,使用した机等の消毒を徹底すること. |
・ | 学生間の適切なソーシャルディスタンスを保ちながら実習することを指示した. |
・ | 地区踏査時のマイクロバスの乗車定員を最大14名(乗車定員50%以下)とし,座席も分散して乗車するよう調整した. |
・ | 全ての学生が学内に集合するオリエンテーションと実習報告会を講堂(300名定員)で実施した. |
2)通信設備の確認と実習地への通信機器の持参 | |
・ | 住民インタビューを実施する場所は山間部の地区公民館,閉校した小学校跡地等であったため,事前にインタビューを実施する全ての場所を訪れ,遠隔実習が実施可能かどうか通信設備の有無を確認した. |
・ | インタビューの当日,iPad他,関連機器一式を実習地に教員が持ち込み,Z大学と通信した. |
・ | 実習地に出向く人数を最小限にし,学生と住民がリアルタイムでやりとりできるよう考慮した. |
b.A町健康福祉課の取り組み内容 | |
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1)実習受け入れの継続的な検討 | |
・ | 2020年8月中旬,若い年代のCOVID-19の流行が話題になっていた時期と重なっていたため,地域住民団体の中で,学生を受け入れることに不安の声が上がった.A町健康福祉課では,学生を受け入れる地域住民の団体代表だけでなく,区長や民生委員とも意見交換を行い,検討を重ねた. |
2)住民へのZoomを用いたインタビューの説明 | |
・ | 学生と住民が対面で関わる機会を極力少なくするためZoomを使用し実施することとなった.実施方法の変更にあたり,A町健康福祉課では,遠隔実習に変更になる旨の文書を急遽作成し,区長をはじめ地域住民へ再度周知した. |
・ | インタビューを実施する地域住民団体に対し,事前に質問事項やZ大学の状況についてA町健康福祉課が説明を行った. |
・ | グループごとの住民インタビュー当日は,A町の保健師が住民の方々が集う場に同席し,インタビューが円滑に進められるよう配慮した. |
(1)実習受け入れの継続的な検討
2020年8月中旬,20代の若い年代でCOVID-19が流行した.A町健康福祉課では,地域住民の団体代表,区長や民生委員と意見交換を行い,検討を重ねた.
(2)住民へのZoomを用いたインタビューの説明
インタビュー方法の変更に伴い,地域住民に対して再度周知した.また,インタビューの質問事項等について,事前に住民へ伝達した.インタビュー当日はA町の保健師がその場に同席した.
2. 分析方法地域看護診断実習の到達目標における学生の自己評価および地域看護診断実習の実施項目に関する学生へのアンケート結果を用い分析した.
1) 対象データ分析に同意が得られた保健師教育課程を選択する看護学科4年生.
2) データ収集期間2021年1月~3月.
3) データ分析(1)地域看護診断実習の到達目標における学生の自己評価
地域看護診断実習終了後,学生に「自分でできる」「助言があればできる」「かなりの助言を必要とする」「助言を受けてもできない」の4件法で回答を得た.各項目の回答を記述統計で示し,保健師に求められる実践能力と卒業時の到達目標と到達度(厚生労働省,2019)の「地域の健康課題の明確化と計画・立案する能力」の卒業時の到達レベルを参考とし,「自分でできる」と回答した割合を算出し分析した.
(2)地域看護診断実習の実施項目に関する学生へのアンケート調査
地域看護診断実習終了後,学生に対しOffice 365が提供するアンケート作成ツールMicrosoft Forms(以下:Forms)を用いアンケート調査を行った.アンケートは実施項目別に①車中からの地区踏査 ②Zoomによる住民インタビュー(実施中の応答,質疑の内容把握) ③Zoomによる地域の健康課題に関する保健師との検討会(実施中の応答,質疑の内容把握),④Zoomによる実習報告会で構成した.アンケート項目は,学生側が主となって運営や進行に関わった内容に特化したため,A町による講義形式の「実習フィールドに関するオリエンテーション」は除いた.実施項目の達成状況を「できた」「まあまあできた」「あまりできなかった」「できなかった」の4件法で回答を得た.各項目の回答は記述統計で示した.自由記載は類似する内容をまとめ,質的に分析した.
3. 倫理的配慮データの使用にあたり「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(文部科学省・厚生労働省)」に基づき,学業成績には影響しないこと,協力は強制ではないこと,同意した場合でも撤回できること,個人情報は適正に管理すること,データを論文等で公表することを口頭およびFormsにて学生へ説明した.本報告は山形県立保健医療大学倫理委員会の承認を得た(承認番号2104-01-02,承認月日2021年9月27日).なお,本報告の承認はデータ収集実施後に遡って得たが,それは学生を対象とする教育内容向上等を目的とした調査・研究における倫理的配慮に関する同大学倫理審査規程に基づいている.
同意を得られた50名(回答率98.0%)を分析対象とした.地域把握において「自分でできる」と回答した者はI-0-1地域看護診断の必要性の理解が38名(76.0%)であった.
「自分でできる」人(%) | 「助言があればできる」人(%) | 「かなりの助言を必要とする」人(%) | 「助言を受けてもできない」人(%) | |||
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自己評価項目 | n=50 | |||||
I 地域把握 | I-0-1 地域看護診断の必要性の理解 | 38(76.0) | 12(24.0) | 0 | 0 | |
II 情報収集 | II-1 既存資料 | II-1-1 既存資料の所在の理解 | 32(64.0) | 18(36.0) | 0 | 0 |
II-1-2 看護の視点に基づいた既存資料のデータ収集 | 36(72.0) | 14(28.0) | 0 | 0 | ||
II-1-3 看護の視点に基づいた既存資料のデータの理解 | 30(60.0) | 19(38.0) | 1(2.0) | 0 | ||
II-2 地区踏査 | II-2-1 地区踏査における客観的観察 | 36(72.0) | 14(28.0) | 0 | 0 | |
II-2-2 地区踏査のありのままを記述 | 23(46.0) | 25(50.0) | 2(4.0) | 0 | ||
II-3 住民インタビュー | II-3-1 自己紹介・面接の目的を述べる | 43(86.0) | 5(10.0) | 2(4.0) | 0 | |
II-3-2 コミュニケーション技術を用いての面接 | 22(44.0) | 25(50.0) | 3(6.0) | 0 | ||
III アセスメント | III-0-1 情報の整理(地域看護診断・公衆衛生看護管理の視点に沿って整理) | 23(46.0) | 26(52.0) | 1(2.0) | 0 | |
III-0-2 情報の科学的に分析・統合・解釈 | 13(26.0) | 37(74.0) | 0 | 0 | ||
III-0-3 地域の健康課題の抽出 | 17(34.0) | 33(66.0) | 0 | 0 | ||
IV まちづくり・計画立案 | IV-0-1 活動目標の提示(達成時期・評価の視点を示す) | 21(42.0) | 29(58.0) | 0 | 0 | |
IV-0-2 健康課題の優先順位を決定(課題の性質や課題相互の関係を考慮) | 24(48.0) | 24(58.0) | 2(4.0) | 0 | ||
IV-0-3 具体的な活動方法の検討(「ひと・もの・お金・情報」を踏まえる) | 17(34.0) | 31(62.0) | 2(4.0) | 0 | ||
V 地域看護の理解 | V-0-1 地域住民の健康認識の理解 | 33(66.0) | 17(34.0) | 0 | 0 | |
V-0-2 地域看護の役割と機能の理解 | 39(78.0) | 11(22.0) | 0 | 0 | ||
V-0-3 地域看護の課題の考察 | 22(44.0) | 28(48.0) | 0 | 0 | ||
VI 実習態度 | VI-0-1 適切な身だしなみ | 45(90.0) | 5(10.0) | 0 | 0 | |
VI-0-2 社会人としての言葉遣い・態度 | 46(92.0) | 3(6.0) | 1(2.0) | 0 | ||
VI-0-3 リーダーシップ,メンバーシップの発揮 | 33(66.0) | 17(34.0) | 0 | 0 | ||
VI-0-4 実習への熱意 | 45(90.0) | 5(10.0) | 0 | 0 |
情報収集において「自分でできる」と回答した者が多かったのは,II-3-1自己紹介・面接の目的を述べるが43名(86.0%),II-1-2既存資料のデータ収集が32名(72.0%),II-2-1地区踏査における客観的観察が32名(72.0%)であった.一方,「自分でできる」と回答した割合が50%以下の項目は,II-2-2地区踏査のありのままの記述が23名(46.0%),II-3-2コミュニケーション技術を用いての面接が22名(44.0%)であった.
アセスメント,IVまちづくり・計画立案に関する全ての項目において,「自分でできる」と回答した割合は50%以下であった.
地域看護の理解において「自分でできる」と回答した者が多かったのは,V-0-2地域看護の役割と機能の理解が39名(78.0%)であった.一方「自分でできる」と回答した割合が50%以下の項目は,V-0-3地域看護の課題の考察が22名(44.0%)であった.
実習態度において「自分でできる」と回答した者が多かった項目は,VI-0-1適切な身だしなみが45名(90.0%),VI-0-2社会人としての言葉遣い・態度が46名(92.0%),V-0-4実習への熱意が45名(90.0%)であった.
2. 地域看護診断実習の実施項目に関する学生へのアンケート結果(表4,5)Formsによるアンケートの回答者数は37名(回答率72.5%)であった.以下,学生の自由記載の内容は『』で示す.
実施項目 達成状況 |
地区踏査(車中) | 住民インタビュー(Zoom) | 保健師との検討会(Zoom) | 実習報告会(Zoom) | |||||||||||||
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地域の状況把握 | 実施中の応答 | 質疑の内容把握 | 実施中の応答 | 質疑の内容把握 | 学びの報告 | ||||||||||||
人数 | % | 人数 | % | 人数 | % | 人数 | % | 人数 | % | 人数 | % | ||||||
できた | 3 | 8.1 | 9 | 24.3 | 11 | 29.7 | 16 | 43.2 | 16 | 43.2 | 24 | 64.9 | |||||
まあまあできた | 32 | 86.5 | 24 | 64.9 | 23 | 62.2 | 20 | 54.1 | 19 | 51.4 | 13 | 35.1 | |||||
あまりできなかった | 2 | 5.4 | 4 | 10.8 | 3 | 8.1 | 0 | 0 | 1 | 2.7 | 0 | 0 | |||||
できなかった | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||||
未回答 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 2.7 | 1 | 2.7 | 0 | 0 | |||||
合計 | 37 | 100.0% | 37 | 100.0% | 37 | 100.0% | 37 | 100.0% | 37 | 100.0% | 37 | 100.0% |
〈地区踏査(マイクロバスの車中)〉 | |
・ | 実際に歩くとかなり時間がかかるが,バスに乗車し,地区踏査を行うことによって,地区全体を見ることができた(5) |
・ | バスからでも地形,建物や地区の雰囲気は感じることができた(2) |
・ | 事前にどこを見たいか,どの道を通るか準備して行ったことで,スムーズに地区踏査を行うことができた(2) |
・ | 雰囲気しかわからないため,車からは見えてないところがあったり,住民の雰囲気や活動の様子はわからなかった(3) |
・ | 車だとその場を見れる時間と範囲に限りがあることから,少し分かりづらいところがあった(2) |
・ | 概況は掴めたが,一つ一つ丁寧に見ることはできなかった(1) |
・ | 建物内や住民の声を聞けなかったので,聞けたらより良かった(1) |
〈住民インタビュー(Zoom)〉 | |
・ | 現地に行った先生がうまく話を振ってくれたり,声が聞こえにくい部分を代弁してくれたためスムーズにできた(5) |
・ | 対象者の反応が良く,コミュニケーションがとりやすかった(1) |
・ | 対面ではないためスムーズな会話とはいかなかったがある程度は会話できた(1) |
・ | 直接インタビューするのとは異なり,ラグ(遅れ)があり大変なところはあったが,満足に実施することができた(1) |
・ | タイムラグや聞き取りづらい部分があり,対面でのインタビューと比較してしまってやりにくい印象を受けた(3) |
・ | 高齢者を対象としていたため,耳が不自由な方だと大変だと感じた(2) |
・ | インタビューは特に問題なかったが,対面でインタビューをするよりもお互いに緊張感があったのではないかと感じた(1) |
・ | 音声が聞き取りずらかったりするなどの影響でなかなか思うように会話が進まなかった(1) |
〈保健師との検討会(Zoom)〉 | |
・ | 保健師の方が丁寧に答えてくださったので質問の解決になった(3) |
・ | 住民インタビューを通してわからなかった点や実習を通して不明な点を質問して,回答を得ることができた(1) |
・ | 他のグループの質問も聞けて,事業計画に役に立つことができた(1) |
・ | 遠隔だと相手の雰囲気が掴みにくいところがあり,質問しにくいところがあった(2) |
・ | 時間制限があり追加質問が出来ず,微妙なニュアンスの違いがあったように思う(2) |
〈実習報告会(Zoom)〉 | |
・ | 普段の発表もパワーポイントを使うことが多いので,普段とあまり変わらず発表ができた(3) |
・ | 画面共有で的確に伝えることができた(2) |
・ | トラブルなく発表することができた(2) |
( )内の数字は類似する記述内容の学生数を示す
車中からの地区踏査で「できた」と回答した者は3名(8.1%),「まあまあできた」と回答した者が32名(86.5%),「あまりできなかった」と回答した者が2名(5.4%)であった.自由記載では『実際に歩くとかなり時間がかかるが,バスに乗車し地区踏査を行うことによって,地区全体を見ることができた』『バスからでも地形,建物や地区の雰囲気は感じることができた』という一方『雰囲気しかわからないため,車からは見えていないところがあったり,住民の雰囲気や活動の様子はわからなかった』という記述があった.
Zoomによる住民インタビュー実施中の応答では「できた」と回答した者が9名(24.3%),「まあまあできた」と回答した者が24名(64.9%),「あまりできなかった」と回答した者が4名(10.8%)であった.住民インタビューの質疑の内容把握では「できた」と回答した者が11名(29.7%),「まあまあできた」と回答したものが23名(62.2%),「あまりできなかった」と回答した者が3名(10.8%)であった.自由記載では『現地にいた教員がうまく話を振ってくれたり,声が聞こえにくい部分を代弁してくれたためスムーズにできた』『対象者の反応が良く,コミュニケーションがとりやすかった』という一方,『タイムラグや聞き取りづらい部分があり,対面でのインタビューと比較してしまってやりにくい印象を受けた』『高齢者を対象としていたため,耳が不自由な方だと大変だと感じた』という記述があった.
Zoomによる保健師との検討会実施中の応答では,「できた」と回答した者が16名(43.2%),「まあまあできた」と回答した者が20名(54.1%)「あまりできなかった,できなかった」と回答したものはいなかった.保健師との検討会の質疑の内容把握は,「できた」と回答した者が16名(43.2%),「まあまあできた」と回答した者が19名(51.4%)であった.自由記載では『保健師の方が丁寧に答えてくださったので質問の解決になった』『住民インタビューを通してわからなかった点や実習を通して不明な点を質問して,回答を得ることができた』という一方,『遠隔だと相手の雰囲気が掴みにくいところがあり,質問しにくいところがあった』という記述があった.
Zoomによる実習報告会では「できた」と回答した者が24名(64.9%),「まあまあできた」と回答した者が13名(35.1%),「あまりできなかった,できなかった」と回答した者はいなかった.自由記載では『普段の発表もパワーポイントを使うことが多いので,普段とあまり変わらず発表ができた』『トラブルなく発表することができた』という肯定的な記述があった.
COVID-19流行下で,地域看護診断実習の実現に向け関係者間で検討を重ねた.これまで経験したことの無い状況の中で,Z大学とA町健康福祉課の実習担当者,A町の地域住民等の関係者においては,パートナーシップの重要性(高林ら,2019)が示された.
地域看護診断実習における学生の自己評価では「自分でできる」と回答した者がVI-0-1適切な身だしなみ,VI-0-2社会人としての言葉遣い・態度,VI-0-4実習への熱意という実習態度に関連する項目で9割を超えていた.地域看護診断実習において,実習に対する学生の意識や意欲が高いことは,先行研究(菅原ら,2003)から明らかになっている.加えて,2020年度は,地域看護診断実習を実施できるか否かという根本的な状況が,学生の心理面にも大きな影響を及ぼしたと考えられる.Zoomを活用した遠隔実習という制限はあったが,地域看護診断実習を実施できるという肯定感が,学生の意欲の向上に繋がっていたと推測される.これらの実習に向き合う学生の肯定感は「自分でできる」と回答した者が多かったI-0-1地域看護診断の必要性の理解,II-1-2既存資料のデータ収集,II-2-1地区踏査における客観的観察,II-3-1自己紹介・面接の目的を述べる,という学生が主体で取り組む項目の達成度を後押ししたものと推測される.
地域看護診断の実施項目に関する学生へのアンケート結果において,地区踏査,住民インタビュー,保健師との検討会,実習報告会の全ての実施項目で「できた」「まあまあできた」と回答した学生の割合が9割を占めていたことから,Zoomを活用した地域看護診断実習の一定の成果は得られたといえる.実習報告会等,Zoomを使用し学生側からプレゼンテーションを実施する場面では「できた」と回答した割合が高かった.面識がある相手に対して学生側から発信する発表場面では,通常の講義のプレゼンテーションと同様と捉え実施できていたと考えられる.また『コロナ禍で住民の方と関わることができて良かった』という学生の記述等からも,地域住民とリアルタイムに関わることのできる遠隔実習の重要性が示された.
2. 遠隔実習を主体とした地域看護診断実習の今後の課題これまで,COVID-19流行下における遠隔実習において,保健師による講義の受講,事例に関する学生同士のグループワーク,視聴覚教材の視聴,教員や非常勤講師に対する模擬健康相談,健康教育の実施等について報告されている(細川ら,2020:本田ら,2021).
一方,本実習では,教員が実習地にiPadを持参してZoomを使用し,学生にとって初対面となる住民を対象としたインタビューを実施した.インタビューでは,現地に出向いた教員が住民と学生双方の状況を補足説明しながら,進行をサポートする役割が必要であった.学生の評価項目II-3-2コミュニケーション技術を用いての面接について,「自分でできる」と回答した者が22名(44.0%)と低かったことからも,学生はZoomによって初めて住民と顔を会わせ,限られた時間の中で意図するやりとりを行うことに難しさを感じていたと言える.その理由として,通常の実習インタビューでは,インタビュー実施前に住民が主催する体操やサロン等に一緒に参加し,住民との会話を通してお互いを知る時間を設けることができるが,今回は実施できなかったことが影響していたと推測される.また,インタビューの対象となる住民は,高齢の方も多く,Zoomに対して不慣れな状況があったことも一因と考えられる.インタビューを実施する前段階での住民と学生との関係性の構築,対象者選定に関する課題が明らかとなった.
また,学生は,既存資料やGoogle Mapを用い,町の情報収集はできていた一方,アセスメントに関する項目で達成度が低かった.1つの要因として,地区踏査が車中であったことから,実際に自分たちで現地を歩き,町の雰囲気を感じながら,地域住民とのやり取りによってその意図が明確化される視点が不足していたと考えられる.地域診断実習において住民と関係者に実際に聞き取り調査を行う有効性(平澤ら,2013)が示されている.アセスメントに関して達成度が低かったことが,まちづくり・計画立案に関する達成度の低さに影響していたことは否めない.Zoomによる遠隔実習を活用できる場面の検討,自己評価項目で達成度が低い項目に対し,実習構成や方法の更なる検討が必要である.
COVID-19流行下で,関係者間の協働によって,遠隔実習を主体とした地域看護診断実習が実現できた.地域把握,実習態度に関する自己評価項目で達成度が高かった.地区踏査,住民インタビュー,保健師との検討会,実習報告会の全ての実習項目で「できた」「まあまあできた」と回答した学生の割合が9割であったことから,Zoomによる遠隔実習の一定の成果は得られたと言える.
一方,実習地に出向いた教員がiPadを使用しZ大学とZoomで繋いだ住民インタビューでは,初対面となる住民に対する学生のコミュニケーションに課題が残った.また,高齢の方も多かったことから,現地に出向いた教員が住民と学生双方の状況を補足説明しながら,進行をサポートする役割が必要であった.
学生は,既存資料やGoogle Mapを用い,町の情報収集はできていた一方,アセスメントに関する項目,まちづくり・計画立案に関する項目で達成度が低かった.Zoomによる遠隔実習を活用できる場面の検討,自己評価項目で達成度が低い項目に対する更なる検討が必要である.