Public Health Nursing Education
Online ISSN : 2433-6890
Project Reports
Practice of Management Education Programs in the Advanced Course of Public Health Nursing: From Summer Seminar for Faculty in 2023
[in Japanese]Rieko NakaoRitsuko NishideKyoko IzumiIzumi UedaYoshimi TsujiToshiko OtsukaYukiko Mochizuki
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2024 Volume 8 Issue 1 Pages 31-35

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I. はじめに

教育体制委員会では,保健師教育課程の上乗せ教育の推進を図るための活動の一つとして,毎年夏季教員研修会において,大学院や専攻科などの保健師教育課程での教育展開の実践例に関する分科会を開催している.分科会では,上乗せ教育の実践校からの話題提供をうけ参加者同士のグループワークを通じて,保健師養成の教育の質を向上するための情報共有や教育に対する新たな視点を得る機会づくりを目指している.

2023年度の夏季教員研修会では,「公衆衛生看護管理教育」を題材として取り上げ分科会を開催した.公衆衛生看護管理とは,多様化する社会の変化に呼応して拡大する公衆衛生看護活動に対して効果的且つ効率的にマネジメント機能をもって組織や業務遂行管理,人材育成および専門性の探求に向けた研究を含めた看護管理のことである(佐伯,2021).そのため,公衆衛生看護管理の教育では,管理的な視点をもつことが必要とされ(日本看護協会,2005),公衆衛生看護活動の全体像を把握した上で他分野横断的な視野を持った学習展開となる.このような公衆衛生看護管理の教育の特性は,看護師教育課程の修学後の上乗せ教育において,より効果的に教育が実践できるのではないかと考えた.そこで,大学院修士課程と大学専攻科の「公衆衛生看護管理教育」の授業展開の実際,注力している教育内容および教育方法に関する講演とグループワークを行う分科会とした.

本稿では,2023年8月26日(土)にオンラインで実施した第38回全国保健師教育機関協議会夏季教員研修会の第二分科会の内容を報告する.

II. 分科会の概要

2023年度の活動方針に基づき,全国保健師教育機関協議会(以後,全保教)の教育体制委員会が企画,運営を実施した.分科会の概要は次に示す通りである.

【テーマ】

上乗せ教育課程における公衆衛生看護管理論教育の実際

【目的】

1.大学院および大学専攻科にて保健師課程の上乗せ教育を行っている教育課程における養成する保健師人材像とカリキュラムの実際を知る機会とする.

2.公衆衛生看護管理論に関する教育の展開と工夫点,注力している教育内容と教育方法等の講演を受け,参加者が講師と共に公衆衛生看護管理に関する教育の質を向上させるための工夫と具体策について考え共有する場とし,新たな視点を得る機会とする.

【開催日時】

2023年8月26日(土)14:30~16:30

【方法】

Web会議システムZoomミーティングによるリアルタイムでのオンライン研修を開催した.後日,講演内容をオンデマンド配信した.

【構成】

1.講演

大学院保健師教育課程および大学専攻科保健師教育課程のそれぞれの立場から自学での公衆衛生看護学管理教育の展開についての説明と紹介を受けた.

2.グループワーク

参加者および教育体制委員がZoomミーティングのブレイクアウトルーム機能を用いて5グループに分かれ,以下の2つの目標に基づき意見交換と検討を行った.

1)公衆衛生看護管理教育の現状,工夫点,注力している教育内容や教育方法について意見交換を行う.

2)公衆衛生看護管理教育の質を向上させるための工夫や具体策を探る.

3.全体での共有

代表して4つのグループからグループワークの内容について発表してもらい,各グループから出された主要な質問などを全体で共有し,講師からのコメントおよび回答を得た.

4.実施後アンケートへの回答

参加者に対し,Zoomミーティングのチャット機能および画面でのQRコードの提示によりアンケートを配布し回答を得た.

【参加者】

当日の分科会参加者は講演の部では39人,グループワーク参加者は20人であった.

III. 講演の概要

1. 北海道大学大学院における公衆衛生看護管理教育(コロナ禍前の教育内容)

(講師:北海道大学大学院保健科学研究院・平野美千代准教授)

北海道大学の保健師教育課程は,大学院の看護学コースにある修士課程の公衆衛生看護学科目群において実施されている.公衆衛生看護学科目群の5つの教育目標に基づき,養成する保健師像として「地域の人々の安寧な生活と地域社会の発展」を中心として,取り巻く能力や国際性,価値観を設定して開設当時から保健師教育を展開している.授業スケジュールとしては,1年次から研究と並行してStep by Stepで学ぶ実習の配置をとっている.公衆衛生看護管理に係る実習は2年次の7月の1週間(教育機関,企業)と11月の1週間(保健所)となっている.

公衆衛生看護管理は「地域における健康危機のリスク管理とマネジメントの実践から公衆衛生看護に必要な管理能力を習得し,将来,公衆衛生看護実践における教育者として貢献できる」の目標に基づいた科目になっているが,その他の多くの科目においても公衆衛生看護管理の内容を伝えていると考える.大学院での授業を実践している中で,公衆衛生看護管理の教育は1年次の教育からの積み重ねであることが見えてきた.公衆衛生看護学原論を基に公衆衛生看護活動論とその演習・実習を経て公衆衛生看護管理論の学習になるが,管理論の学習を終えた後にまた「保健師とは何ぞや」という点を振り返りながら公衆衛生看護管理に関する知識を定着させていくのではないかと考える.

公衆衛生看護管理の教育はあらゆる場面で実施可能であり,業務管理を取り上げると個別支援に関する講義・演習・実習で事例管理を学習し,地域アセスメントに関する講義・演習から地区管理を学習する.行政論や政策論の授業からは事業管理を学ぶことができる.また,学生は地区活動の実習での学びが非常に大きく,地区に入って住民の健康課題を考える中で管理の学びにつながると思われる.あわせて,大学院の学生として大学院生活の中で学習スケジュールの管理を自身で行うことや教員への報告・連絡・相談などからラインによる管理を学ぶ機会にもなっている.

公衆衛生看護管理教育における工夫点として,マネジメント機能,システム機能,調整機能などの管理は可視化が難しいため実習等による経験を通じた言語化が重要だと感じ力を入れている.しかしながら,実習などの経験を公衆衛生看護の学びとして意味づけることは,学生だけでは困難であり教員のフィードバックが必須となる.アクティブラーニングを活用しながら,あらゆるところに存在する学習教材を教員が意識して活用し教育することが重要である.公衆衛生看護管理教育で学生は「見えないものを見つけ,可視化し,つなげる力」が必要であり,知識だけではなく統合する力,洞察する力を育成していく必要がある.

2. 上乗せ教育課程における公衆衛生看護管理教育の実際―大学専攻科―

(講師:湘南医療大学専攻科・澤井美奈子准教授)

湘南医療大学は,横浜市に2015年に保健医療学部(看護学科・リハビリテーション学科)を開学し,2021年に薬学部が開学された.保健師教育は開学時から選択制で行ってきたが,2022年から上乗せの専攻科での教育課程に移行した.公衆衛生看護学専攻の学生の定員は20人である.1期生は全員国家試験に合格し9割が保健師として就職した.大学専攻科の入学資格として,学士あるいは文部科学大臣が指定した学校を卒業して高度専門士であることとなっている.そのため学生は看護系大学等の卒後ストレート者,卒後看護師経験者,一般大学を卒業し社会人経験の後に看護師免許を取得した者など多様な背景をもっている.

カリキュラムは,公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラム全保教版(2017)を活用して構築した33単位を1年間で修得する編成としている.ヘルスプロモーション,マネジメントなどの大きな枠組で科目を構成している.地域活動特別演習(通称:濱ゼミ)という学校所在地域に焦点をあて,社会の動きや公衆衛生の課題に関連する内容や助産学コースとの合同演習で構成する独自科目もある.保健師に必要な研究的思考と分析力を育成するために研究にも取り組んでいる.

専攻科は4月に入学し2月に国家試験を受けるまでに全カリキュラムを終わらせる必要がある.保健所等の実習は関連する学習の後に行うため秋となり,その他の時期に産業,学校,地域包括支援センター等の実習を行う.公衆衛生看護学研究はおおよそ半年間内に研究計画,倫理審査,調査分析を行い論文作成,発表会まで実施している.

公衆衛生看護管理は複数の科目で構成する演習形式で開講している.今回は4・5月に3科目8コマで展開した難病保健活動の演習を紹介する.ねらいは,事例の個別支援方針・計画をイメージでき,事例のような家族が安心して暮らせる地域ケアシステムを考えることができることである.8コマの中で看護の知識である疾患の特性や生活・当事者の立場で資源や制度を学び,難病に関するデータや災害時の避難所などについて調べ,後半では実習先地域を対象として地域特性に応じたシステムや事業・計画について学ぶ.並行して他の科目でも,実習先地域の難病患者数や関連事業,災害時の保健活動など公衆衛生看護管理の内容を扱い,関連付けながら学ぶことで多くの気づきを持てるようにした.公衆衛生看護活動は全体的に直接的な支援が少なく,臨床で直接ケアの経験があると保健師の役割や動きがつかみにくい傾向があるようである.その意見を引き出し,難病看護経験のある学生への質問や,実習先地域などの在宅難病療養者の医療機器貸与について調べるなど,学生たちの関心の方向性を大事にしながら目指すゴールへと進めている.この取り組みをきっかけに難病担当保健師の活動を研究テーマの候補に取りあげた学生もあり,連続した学びの成果が楽しみである.

大学専攻科の学生は大人(成人)で1年間完結の教育課程である.このことを意識して展開することで主体的な学びにつながり実践力に結び付くと考える.年度開始の時期は異なる経験や価値観を持つ知らない者同士が互いに自由に発言できる風土づくりに時間をかけ,その先に科目や課題を超えた主体的な取り組みが進むことを目指して教育を展開している.繋がる仲間ができ,相談・省察を行い,対象に興味関心を持って知ろうとする姿勢をもって修了し,住民や関係者と一緒に活動する保健師として育っていってほしいと考えている.

IV. グループワークの内容

講演後,参加者および教育体制委員も加わり5つのグループに分かれて意見交換および自校に活かせる教育への取り組み等について話し合いを行った.グループワークを踏まえた発表には以下のような内容が含まれた.

・講義,演習,実習を連動させることで,公衆衛生看護に関わる内容を管理的な視点で統合できる.学生は実習の場の理解はできるが,講義での学びと実習でみた状況との統合が難しいためそれらを統合する機会を持つことで管理的な視点を持てる.

・実習で受け持ったケースと関わりのある機関や機関同士の関連を関連図やシステム図として作成し示させることで全体像を俯瞰することができる.またその図により第三者への理解しやすい伝え方を考えることにもつながる.また,図の作成は俯瞰する力の向上にもつながるし,思考の整理にもなると思う.

・地域保健事業などの立ち上げから活動への経緯を学ぶ機会をつくる.学生は実習した場の事実は学ぶが,そこに至るプロセスを理解するのが難しいため,地域内にある委員会や審議会などを傍聴することで,その事業の立ち上げに至るプロセスや関わる人材などを学ぶことができるようにする.

・公衆衛生看護管理に関わる現場の保健師にゲストスピーカーとして教育に参加してもらい学生の理解を深める.

・公衆衛生管理は,他の科目で学んだこととの連動によって教育の質が向上すると思われる.

グループワークの発表を受けて講師からのコメントは以下の内容であった.

保健師教育課程の種類に関わらず,今の学生は経験を語ることが難しいため,考えたことや学びを自身の言葉で語ることへのサポートが必要と感じている.公衆衛生看護管理に関わるシステム図の作成も一度で完成させるのではなく,各科目での学びを振り返りながら徐々に完成させていく.実習等での学びをフィードバックしながら深めていくことが大切と考える.(平野美千代氏より)

どのような保健師教育課程であってもコアの部分は共通していると感じた.専攻科では,研究実施として深く突き詰めて行わない分,学生が気の合う友人もできやすい関係性があり,助け合って学習ができている.学生には,見て学んだことを人に伝えること,人からの質問を受けてそれに答えることを繰り返し行って,学びが深まるようにサポートしている.(澤井美奈子氏より)

V. 実施後アンケート

分科会実施後にオンラインによるアンケートを行い,回答数は14人(回収率70%)であった.回答者の保健師教育課程の背景は,学部教育選択制(定員上限あり)が64%,大学院が21%,その他は大学専攻科と学部教育選択制(定員上限なし)であった.今後の保健師教育課程の意向は,「既に上乗せ教育課程(大学院・専攻科)である」が29%であり,「上乗せ教育の予定なし・現状維持」は同数であった.上乗せ教育への移行予定があるとの回答は14%,上乗せ教育を検討しているのは21%であった.

講演についての満足度は全員が「良かった」「やや良かった」と回答していた.講演で参考になったことや感想(自由記述)の主な内容を抜粋して表1に示した.

表1 

講演で参考になったことの自由記述の主な内容

内 容 記載数
公衆衛生看護管理論の教育内容・教育方法 4
他の科目と関連させて教育を構成すること 2
様々な機会を通じて管理的な視点を育成すること 2
実習等での経験を通じた学びを意味づけする点 1
学生の自己管理能力も管理の視点のひとつになること 1
図示化することとそれを発展させて授業を展開すること 1
公衆衛生看護管理の考え方がよくわかった 1

グループワークについても全員が「良かった」「やや良かった」と回答していた.グループワークで参考になったことや感想(自由記載)の主な内容を抜粋して表2に示した.

表2 

グループワークに関する自由記述の主な内容

内 容 記載数
各校で行われている教育の工夫が参考になった 4
他校の考え方や実際の取組みが参考になった 3
自校の管理論教育の課題に気がついた 2
自校の教育を振り返り,グループワークで今後のヒントを得られた 1
記録用紙の工夫や図示化を取り入れたいと話し合った 1
科目横断的に教育する方法を検討した 1
全体を俯瞰する力の育成方法を考えた 1

自校の保健師教育課程における課題に関する自由記述では,選択制教育でカリキュラムが過密なため演習の時間も限られること,履修科目(単位数)が多く時間割が過密で学生に負担となっていること,学生にじっくり考えさせる教育や丁寧なフィードバックが必要と感じていること,学生に公衆衛生看護管理に関する具体的なイメージを持たせることの難しさなどが記載されていた.

VI. おわりに

今回,教育体制委員会が夏季教員研修会において公衆衛生看護管理に関する分科会を開催し,その概要と実施内容を報告した.分科会に対する評価はおおむね好評であり,参加者は講演とグループワークで多くの示唆を得ていた.特に上乗せ教育課程(大学院・大学専攻科)における科目横断的な学生の公衆衛生看護管理の視点を持つ教育の展開や実習で関与した関連組織の図示化を活用した俯瞰的な視野を持たせるなどの効果的な教育方法について参加者から参考になったとの意見が多くあった.教育課程の種類によらず公衆衛生看護管理教育は重要であり,その教育の展開方法の工夫点を含めて参加者の研修の機会となっていたと考えられる.保健師の業務においては新任期であっても事例管理や事業管理,地区管理といった管理的な視点が求められており(厚生労働省,保健師に係る研修のあり方等に関する検討会,2016),保健師教育課程においては修学期間から公衆衛生看護管理の理解を深める必要がある.今後も引き続き,上乗せ教育の推進に向けた活動と保健師教育の質の向上に努めていくことが求められる.

文献
 
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