Public Health Nursing Education
Online ISSN : 2433-6890
Project Reports
2024 Education System Committee Plan “Nurse Education Curriculum and the Three Policies”
[in Japanese]Yukiko MochizukiRieko NakaoRitsuko NishideKyoko IzumiYoshimi TsujiAyumi ShimoyamadaMinako Sawai
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2025 Volume 9 Issue 1 Pages 28-31

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I. はじめに

保健師教育は,大学での保健師選択制,専攻科,大学院等での教育へと大きく変化し,今後も上乗せ教育がますます進むことが予想される.保健師を養成する教育機関のうち文部科学大臣が認定する保健師学校は,2023年5月1日現在,大学院22課程,専攻科5課程,大学249課程,短大4課程,計280課程(文部科学省,2023)であり,厚生労働省が管轄する保健師養成所を含む保健師学校養成所の総数は現在も増加傾向にある.教育体制委員会は,明確な上乗せ教育(大学院・大学専攻科等)の推進活動を進め,保健師学校養成所指定規則の規定単位読み替えなし教育の推進策の検討を進めてきた.今年度は,改訂した「保健師教育課程の質を保証する評価基準(2024年改訂版)」の周知を図り,活用に関する調査を全国会員校への実施に向けて取り組んでいる.保健師教育課程では,「保健師」という看護専門職の養成を目的とし,教育理念に基づいた質の高い教育を実現する必要がある.大学院,専攻科,学部選択制,学部統合教育等の様々な課程があるが,どの教育課程においても「保健師」の専門性を担保する教育が重要である.そのためには,専門的能力の育成方針や組織的かつ体系的な教育の展開の構築を表明するために,ディプロマ・ポリシー,カリキュラム・ポリシー,アドミッション・ポリシー(以下,3ポリシー)を策定し,教員同士の共通理解をもって上乗せ教育の実施に向けた意識向上を図る必要がある.加えて,3ポリシー策定について意識を高める必要があり,保健師教育に取り組むことが求められる.これらの背景から教育体制委員会は,上乗せ教育を推進する分科会として,第39回全国保健師教育機関協議会夏季教員研修会第一分科会を開催し「保健師教育課程と3ポリシー」をテーマに取り上げた.本分科会では,保健師教育課程のための教育理念と3ポリシーの設定に関する現状を知り,保健師教育課程における保健師教育のための3ポリシーの設定の必要性を理解する機会とした.

本稿では,2024年8月24日(土)に開催した第39回全国保健師教育機関協議会夏季教員研修会の第一分科会について報告する.

II. 分科会の概要

2024年度の活動方針に基づき,教育体制委員会が企画・実施した分科会の概要を以下に示す.

【テーマ】

保健師教育課程と3ポリシー

【目的】

保健師教育課程のための教育理念と3ポリシーの設定に関する実状を知り,すべての保健師教育課程における保健師教育のための3ポリシーの設定の必要性を理解するための機会とする.

【開催日時】

2024年8月24日(土)13:40~15:40

【方法】

Web会議システムZoomミーティングによるリアルタイムでのオンライン研修を開催した.

【構成】

1)報告

教育体制委員会より,「保健師教育課程における3ポリシー」,「2023年度:保健師教育課程の3ポリシーに関する緊急オンライン調査」について報告を行った.

2)講演

大学専攻科の講師より「保健師教育課程と3ポリシー」について講演を受けた.

3)グループワーク

参加者および教育体制委員がZoomミーティングのブレイクアウトルーム機能を用いて6グループに分かれて,①自校での保健師教育課程の3ポリシー設定の必要性と重要視する点,②困難となる点,③3ポリシー設定のために必要なこと(今からできること),3ポリシーの目標に基づき,意見交換と検討を実施した.検討された内容についての発表後,保健師教育課程の評価への結果活用について公表がなされた.

4)全体共有

代表グループには,グループワークの内容について発表してもらうとともに,各グループから出された主要な質問を全体で共有し,講師からコメントを得た.

【参加者】

分科会参加者は,50名,スタッフ9名,講師1名,参加者合計は60名であった.

III. 報告・講演の概要

1. 報告:「保健師教育の3ポリシーと保健師教育のポリシー設定・向上に関する調査(2023年度)」

2023年度教育体制委員会は,保健師教育の質を保証する評価基準(2017年版)の改訂に際し,全保教会員校における保健師教育課程の3ポリシーの設定と公表の現状を明らかにすることを目的に,緊急オンライン調査を実施した.オンライン調査の実施期間は2024年1月31日~2月29日で,回答数(回答率)は94校(39.2%)であった.オンライン調査項目と結果の概要は下記の通りである.

1) 保健師教育課程の種類

回答者の保健師教育課程の種類の最多は,「大学選択制(上限あり)」70名(74.5%),次いで,「大学院」10名(10.6%),「大学専攻科」5名(5.3%)であった.

2) 保健師教育課程のアドミッション・ポリシー設定

保健師教育課程で設定しているポリシーの現状について,大学以外の大学院,大学専攻科,専攻科,専修学校の課程では,ほぼすべてが「3ポリシー」を設定していた.設定していない教育機関では,保健師教育にかかわる教員のみで設定しているが単独では設定できない等の意見であった.「アドミッション・ポリシー」の設定について,44名(46.8%)が設定していると回答し,そのうち41名(93.0%)が教育機関の組織として設定していた.設定していない理由の最多は,「設定していることが義務化されていない」20名(41.7%)で,次いで「必要性を感じない」12名(25.0%)であった.その他,「アドミッション・ポリシーは看護学科として設定しており特化していない」,「選択制であり,保健師教育課程選択者のみのポリシー作成が難しい」等であった.その一方で,「期待する学生像」や「カリキュラムの特徴」,「単位認定要件」等は,学内公募時に口頭で説明しており,アドミッション・ポリシーを明確に述べていないものの,学内の同意は得ている等の意見であった.

3) 保健師教育課程のカリキュラム・ポリシー設定

保健師教育課程で設定している「カリキュラム・ポリシー」の設定について,45名(47.9%)が設定していると回答していた.設定している形は,38名(84.4%)が教育機関の組織として設定していた.設定していない理由の最多は,「設定が義務化されていない」24名(50.0%)で,次いで「設定の必要性を感じない」12名(25.0%)であった.その他として,「看護学科として設定しており,保健師課程には特化していない」,「方針はあるが明文化されていないため保健師教育課程のポリシー作成が難しい」等であった.

4) 保健師教育課程のディプロマ・ポリシー設定

保健師教育課程における「ディプロマ・ポリシー」の設定については,42名(44.7%)が設定していると回答し,そのうち37名(88.0%)が教育機関の組織として設定していた.設定していない理由の最多は,「設定が義務化されていない」23名(44.2%),次いで「必要性を感じない」12名(23.1%)の順であった.その他として,「卒業時到達目標を意識している」,「大学のディプロマ・ポリシーに包含されている」,「選択制であるため保健師教育課程のポリシー作成が難しい」,「方針はあるが明文化できていない」等であった.

5) 保健師課程に関するポリシーの公表範囲

ポリシーの公開範囲は,「学外(受験生など)」58名(61.7%),「学内教職員」50名(53.2%),「学内在学生」48名(51.1%),「公開していない」10名(10.6%)であった.その他(自由記載)としては,「保健師課程だけの3ポリシーはないため公開するものがない」,「保健師課程の3ポリシーを設定した段階で,学内学生や教職員,ホームページ等に掲載予定」等であった.

6) その他

全体の質問や意見(自由記載)は,「保健師選抜制で学部学科の3ポリシーに包含されている」,「保健師選抜制としても3ポリシーが必要で現在検討している」,「実際の3ポリシー設定事例を知りたい」等であった.

2. 講演:保健師教育課程と3ポリシー

(講師 富山県立大学看護学専攻科公衆衛生看護学専攻 越田美穂子教授)

富山県立大学看護学専攻科は,2023(令和5)年4月に開設され,定員15名である.専攻科の理念は,「公衆衛生及び助産に関する知識と技術を精深な態度において教授し,公衆衛生看護学,助産学を探求するとともに,看護職者として倫理観と広い視野を持った保健師・助産師を育成し,富山県民の健康増進及び富山県の保健・医療・福祉の充実に貢献すること」を目的とする.公衆衛生看護学専攻では,「地域の多様な健康課題解決」並びに「健康を支援する地域づくり」を実践できる保健師としての基礎を培うために7つの教育目標を掲げて3ポリシーを設定している.3ポリシーの設定で重視した点は以下4点であった.

1) ディプロマ・ポリシーに基づく保健師人材像の明確化

・未来志向で柔軟に対応できる.

・地域の多様な価値観や健康課題に対応できる.

・公立大学として地域のリーダー役を担える.

2) ディプロマ・ポリシーを踏まえたカリキュラム・ポリシー作成

3) ディプロマ・ポリシー及びカリキュラム・ポリシーに基づくアドミッション・ポリシー作成

4) 全学や看護学部の理念・目的との整合性

3ポリシー作成により,公衆衛生看護学(保健師)教育に焦点化した育成目標が明確になり,専攻科教育で必要な教育内容や特色ある方法を具体化することができた.今後の課題は,1年間の期間内の学生の負担やスケジュール調整であることが報告された.保健師教育は独立したものであり,学部選択制においても特化した3ポリシー設定の必要性が指摘された.

IV. 実施後アンケート

参加者へは,Zoomミーティングのチャット機能および画面共有によりQRコードを提示してアンケートへの協力を依頼して回答を得た.35名(70.0%)から回答があった.「教授」15名(42.9%),「准教授」6名(17.1%),「講師」6名(20.7%),「助教」6名(17.1%),「その他」1名(2.9%)であった.回答者の背景は,「学部(選択制定員上限あり)」25名(71.4%),「すでに上乗せ教育をしている教育機関(大学院教育,専攻科等)」6名(17.1%)であった.分科会への参加理由は,「保健師教育の3ポリシー設定の必要性とその実際を知りたい」25名(71.4%),「自校の教育課程編成に活かしたい」20名(57.1%)の順であった(表1).

表1 

第一分科会への参加理由(複数回答) (n=35)

n %
保健師教育課程の3ポリシー設定の必要性とその実際について知りたい 25 (71.4)
保健師教育課程の3ポリシー設定についての実際を自校の教育課程編成に活かしたい 20 (57.1)
意見交換の内容を自校の教育課程編成に活かしたい 12 (34.3)
保健師教育課程の3ポリシー設定について意見交換をしたい 8 (22.9)
その他* 1 (2.9)

*他校の専攻科設置状況に興味があった

報告の保健師教育における3ポリシーについて,「良かった・やや良かった」34名(97.2%),2023年度保健師教育の3ポリシーに関するオンライン調査について,「良かった・やや良かった」33名(94.2%)であった.講演の保健師教育課程と3ポリシーについて,「良かった・やや良かった」36名(100%)であった.グループワークについては,「良かった・やや良かった」30名(85.7%)と回答した.参考になった回答(自由記述)は,「所属機関により保健師教育課程の位置づけが異なり,3ポリシーの位置づけが異なることが分かった」,「3ポリシーを明文化することは重要であると考えた」,「3ポリシーを作成するうえで重要視する項目や作成時の注意点について共有できたことは,これから作成するにあたり参考になった」等であった.保健師教育に関する自校の課題(自由記述)は,「保健師の魅力を伝えるカリキュラムや授業展開」,「学部選択制では時間割の過密さが問題」,「上乗せ教育の準備プロセスの難しさ」,「学部と大学院教育に携わることでコマ数が多く学生対応に追われる」等であった.今後知りたい内容(自由記述)は,「保健師教育課程の評価」15名(42.9%),「保健師課程の教育内容」13名(37.1%)の順であった(表2).

表2 

今後上乗せ保健師教育に関して知りたい内容(複数回答) (n=35)

n %
保健師教育課程の評価 15 (42.9)
保健師課程の教育内容 13 (37.1)
修了生・在学生の学び 11 (31.4)
上乗せ教育にむけた学内協議 7 (20.0)
文部科学省への設置許可申請(課程変更申請) 6 (17.1)

V. まとめ

教育体制委員会は,保健師教育課程の上乗せ教育を推進する活動をしている.今回,教育体制委員会は夏季教員研修会で「保健師教育課程における3ポリシー」をテーマに取り上げて開催した.組織や課程ごとに異なる課題があるなかで,先行事例の講演を受け,グループワークを通して現状と課題を考える機会となり,3ポリシー作成の問題意識を提起することができたと考える.分科会に対する評価はおおむね好評であり,参加者からは保健師教育課程に特化した3ポリシーの実例や明文化について参考になったという意見が多くあった.グループワークを通して,他校との情報交換や自校の状況を振り返ることで,各教育機関の困難や課題を見出す機会を得ていた.保健師教育に特化した3ポリシーがあることで教育機関側や実習施設側は方向性を見失わず進めていくことができる.今後も課題に応じた工夫を凝らし,保健師教育の質向上に努めたいと考えている.

教育体制委員会は「保健師教育課程の質を保証する評価基準(2024年改訂)」の効果的な活用を目指し,全国会員校に対して自己点検評価指標としての活用を推進している.この改訂版の評価基準は,全保教のホームページに公開されており,広く周知されている.今後は全国会員校に「保健師教育課程の質を評価する評価基準(2024年改訂)」を用いて自校で評価してもらいたいと考えている.そこで,改訂版の評価基準の認知度と活用状況を把握するためのオンライン調査を実施し,その結果を次年度の活動に反映する予定である.

謝辞

2023年度保健師教育課程の3ポリシー設定・公表に関する緊急オンライン調査へご協力いただいた全国保健師教育機会協議会会員校の皆様,第39回全国保健師教育機関協議会夏季教員研修会の開催にご協力いただいた皆様に,この場をお借りして深く感謝申し上げます.

文献
 
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