The journal of law, the Postgraduate Course of Kansai University
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2020 Volume 2020 Issue 98 Pages 23-68

Details

  • 目次
  • はじめに
  • 第1章 国税としての営業税
  •  1-1 営業税法の意義・立法趣旨
  •  1-2 営業税法の目的
  •  1-3 営業税法の問題点
  •  1-4 営業の意味
  •  1-5 営業税法の納税義務者の定義
  •  1-6 営業税法における第1条と第2条から第4条の関係
  •  1-7 営業税法の国際的側面
  •  1-8 小括
  • 第2章 判例における「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」とは
  •  2-1 金銭貸付業における営業場の範囲
  •  2-2 営業税法第2条の物品販売業の営業場かどうかが争われた判例
  •  2-3 出張所が営業場に該当するかどうかが争われた判例
  •  2-4 組合の販売員が独立した営業になるか争われた判例
  •  2-5 物品販売業に該当する営業の日本国内の有無が争われた判例
  •  2-6 土木請負業の各地の事務所は営業場に該当するか争われた判例
  •  2-7 小括
  • 第3章 営業収益税
  •  3-1 営業税法から営業収益税法に改正した理由
  •  3-2 営業収益税法における納税義務者の定義
  •  3-3 営業収益税法における営業場の意義
  •  3-4 代理人かどうかが争われた判例。
  •  3-5 営業収益税法における国際的側面の問題点
  •  3-6 営業税法と営業収益税法における営業場の概念
  •  3-7 小括
  • おわりに

はじめに

本稿は、国税である営業税及び営業収益税の課税客体としての営業について分析したものである。営業税及び営業収益税は、法施行地に営業があれば課税されることとなっている。この営業とは何かを立法時の帝国議会の議事録や行政裁判所判決録をもとに整理したものである。行政裁判所判決録には99件の営業税及び営業収益税に関する判例が掲載されている。内訳は営業税が68件、営業収益税が31件になる。これらのうち、営業に関する判例は合計で17件(営業税16件、営業収益税1件)ある。本稿はこの17件を整理している。昭和15年以降の営業税については判例がほとんどなく本稿では取り上げていない。したがって本稿では明治29年の営業税法(以下、「営業税法」という)及び大正15年(1926)営業収益税法(以下「営業収益税法」という)を中心に取り上げる。また国際的側面の紹介として、外務省外交史料館に所蔵されていた外国政府からの営業収益税に関する問い合わせ事例も紹介している。

営業税及び営業収益税の沿革は、江戸時代の運上冥加まで遡ることができるとされている1。地方税としての営業税の始まりは、明治11年(1878)の地方税規則により営業税・雑種税となった2。その後、明治29年(1896)営業税法、大正15年(1926)営業収益税法、昭和15年(1940)営業税法までが国税として重要な役割を果たしていた。そして昭和22年(1947)に地方に移譲された。昭和23年(1948)の地方税法の全文改正にともない営業税法は廃止され事業税となる3。本稿はこの明治29年の営業税は帝国議会の議事録に従い国税として創設されたとする立場である。

営業税及び営業収益税の先行研究では、事業税の沿革や外形標準についての研究において素材として営業税及び営業収益税を紹介される場合が多い。事業税の沿革の代表的なものとして吉村教授の「事業税の沿革・再考」がある4。現在の事業税の沿革には国税としての営業税が紹介されている。最近の先行研究において、泉絢也氏は現行法の地方税法第72条における個人事業課税の「事業」についての分析を行っている5。泉絢也氏の論文は事業税における事業を歴史的に遡り営業税及び営業収益税を事業税の前身として紹介している。そこでは、事業の解釈として営業も考えられるとして、営業の範囲が当時の法人税の収益事業と同じであった点などを挙げ解釈論の参考になるかもしれないと指摘している。

営業という用語は明治時代の所得税法や昭和15年(1940)の法人税法においては法施行地にある資産営業又は職業という規定の中で用いられていた。営業税法・営業収益税法が施行された時代は所得税法が実施された時代と重なる。所得税法・法人税法の営業と営業税法の営業は、概念として同じものであると推測することができる。そこで日本での営業税法・営業収益税法における「営業」とは、どのようなものであったのか行政裁判所の判例を整理し、「営業」の範囲を明らかにしようとするものである。

第1章 国税としての営業税

国税としての営業税は、明治29年(1896)に地方税から移譲され国税となった。国税として創設された営業税法は24業種を定め外形標準課税でスタートした。

そして営業税は大正15年(1926)に営業収益税となり、外形標準から収益に対しての課税に条文が変更された。その後再び内容は営業収益税とほぼ同じ条文で名前だけが変更され、昭和15年(1940)営業税法(法律第33号)となった。昭和15年(1940)以降営業税法は、徴収は国によって行われるがその歳入は地方に配賦されることとなった。その後、地方とのつながりが強いとのことで、地方税の営業税になったのである6。さらにその後、地方営業税から事業税法(昭和25年法律第226号)へと変更されたが、その条文にある課税要件規定はほぼ同じである。

1-1 営業税法の意義・立法趣旨

営業税の立法目的は、日清戦争の財政需要を賄うため、営業税は地方税から国税に移譲されたとしている7。先行研究の多くは歳入の拡大、戦費の調達など歳入の拡大に焦点があてあられた説明になっている8。歳入拡大の意味もある帝国議会での審議過程において、第一回目の説明で次のように説明されている。「此営業税ハ負擔者ノ斯ク多數ノミナラズ、此ノ税法ニ支配サル、區域、其範圍ハ最モ廣ク之ヲ現行ノ所得税ヲ以テ比較致シマシタナラバ、其所得税ヨリモ尚是ハ勢力有ルトコロノ國税法案デアルコト云フト認メナクテハナラヌ」(河島醇発言)9。所得税との関係においては、営業税が所得税より歳入を上回るという想定であった。

そして、営業税法が施行されれば所得税法も税収を上げるために改正する必要があるのではないかと河島委員長は発言している。帝国議会での河島委員長の発言は次の通りである。「現行ノ所得税ハドウデアルカト云ヘバ、是ハ餘程法律其モノガ不完全ナルガ故カ、全國四千万ノ人口ニ比較シテ見レバ、實ニ此税法ニ依テ上ガル所ノ税額ト云フモノガ誠少ナイモノデアル、然ルニ今度営業税ガ發布セラレタ以上ハ所得税法従テ改正ヲシナケレバナラヌ必要起ルデアラウ」(河島醇発言)10。明治20年に制定された所得税法では税収確保という意味では不完全であったため営業税法を参考に改正する必要があったのではないかと考える。

それでは、営業税法を導入してどれぐらい財政に影響があったのか、主な税目(酒税、地租、所得税)と営業税・営業収益税を明治30年(1897)から昭和20年(1945)までの徴収金額を表1にまとめた11

営業税は、明治30年(1897)当時、所得税と同じぐらいの歳入があったといえる。明治30年(1897)から昭和15年(1940)の間の時期において営業税・営業収益税は歳入の意味において重要な役割を果たしていたと考える。

表1 主な税目的の財政収入の割合
酒税 地租 所得税 法人税 営業税 営業収益税 収入済額
明治30 32.8% 40.0% 2.2% 2.0% ¥151,030,710
明治35 42.2% 30.8% 4.7% 4.5% ¥269,882,227
明治40 24.3% 31.7% 8.6% 7.3% ¥322,964,239
大正元年 27.4% 23.4% 10.1% 7.6% ¥341,355,543
大正5 26.7% 22.0% 9.2% 5.5% ¥320,434,489
大正10 22.8% 9.8% 35.6% 6.5% ¥752,446,361
昭和元年 25.5% 8.0% 25.5% 7.3% ¥812,620,042
昭和5 26.2% 8.2% 24.0% 6.5% ¥835,041,052
昭和10 23.3% 6.5% 25.3% 6.4% ¥899,899,378
昭和15 9.8% 0.1% 51.0% 6.3% 2.7% ¥2,916,442,960
昭和20 13.2% 0.3% 46.8% 15.5% 1.7% 0.0% ¥8,607,958,000

(出典:大蔵省主税局「主税局統計年報書第30回」(明治37年(1904))1-2頁。大蔵省主税局「主税局統計年報書第34回」(明治41年(1908))676-677頁。大蔵省主税局「主税局統計年報書第38回」(大正元年1912)512-513頁。大蔵省主税局「主税局統計年報書第40回」(大正3年(1914))458-459頁。大蔵省財政史室= 江見康一『歳計』(東洋経済新報社・1984年)63頁。表は筆者作成)

営業税の歳入は、大正元年で最大7.6%出ており、同じ時期の所得税と比較すると約2.5ポイントの差となっていた。そして大正10年を境に所得税が増え地租から所得税へ財政収入の一つの柱が移っていったことがわかる。明治から大正にかけて所得税に近い税収があった点や帝国議会で税収を増やす目的が達成できたという点から営業税の導入は意義があったと考える。この明治から大正時代を中心に、行政裁判所判決録をこの後に検討する。

1-2 営業税法の目的

帝国議会では、財政歳入増加の目的以外に趣旨として次のように述べられている。「寧ロ目下ノ急ニ際シテ歳入ノ增加ヲ圖ル點ヨリモ、將來ニ於テ税法ノ改良ヲ謀ルガ目的ハナイカト云フ疑イアル、願クハ今日目下ノ急―單ニ歳入ノ増加ヲ圖ルヨリモ、寧ロ税法ノ改良ヲ標準ニ致シタイト云フ希望デアリマス」(河島醇発言)12。明治32年に所得税法が改正されるのであるが、河島はその改正のために営業税法において露払いの役割を持たせようとしていたのではないかと考える。

そして営業税と所得税の関係について、河島委員長の説明では、「所得税ガ父ナラ、営業税ハ母ト云フ有様デ、所謂父母ノ關係若クハ兄弟ノ関係ヲ持ツ所ノモノデアル」(河島醇発言)としている13。この発言の前後からははっきりとは意味が分からない。後に解説書では、地租と営業税の納税者間の租税負担の公平性を実現する意味でもあるし所得税では所得を完全に補足できないため所得税と営業税の関係を補完税14あるいは填補税15という用語を用いて説明している。さらに営業税の租税における位置づけとして「今所得税ニ於テ不完全ナルガ故ニ、ソレニ關聯スル営業税ハ最モ審査討議ヲ要シテ、將來各税ノ規準トナシ、其公平ヲ得ルマデニ審議スルノガ吾々ノ義務デアラウト思ヒマス」(河島醇発言)としている16。営業税は、将来の税制改正や新しい租税の導入の際に参考となる規準となるもので、昭和15年法人税法にも影響していた17

1-3 営業税法の問題点

営業税法の問題点として、目賀田種太郎(大藏省主税局長)は次のような発言をしている。「現行ノ所得税法ヲ見マシテモ、營業ヨリ生ズル収益ニ課スル冒頭ニ掲ゲテアリマスガ、理屈ノ上ニモ抵触シマス。又實際ニ至リマシテモ収益トナリマスト、矢張所得税ノヨウニナツテ課税ノ宜シキヲ得マイト、斯ウ見込ンデ居リマス」(目賀田発言)18。所得税法にも第1条において資産営業又は職業より生ずる所得という文言があり、課税対象として同じであるため、同じ収益に対して重複課税してしまうのではないかという懸念を示している。美濃部達吉教授も次のように指摘をしている。「營業者の勞力により生ずる収入に対する課税なり而して勞力の収入に対する課税としては營業税は實に所得税と重複の課税たるの嫌を免れす勞力の収入は一般所得税によりて既に課税セラル」19。つまり同一の課税対象であって所得税と営業税で重複課税を行っていると指摘している。

この重複課税について、行政裁判所の判例がある。明治42年(1909)の判決では、裁判所は、「自己ノ所得ニ対シ既ニ所得税ヲ徴収セラルルニ拘ハラス更ニ同一所得ニ対シテ営業税ヲ課セントスルハ其不法タル素ヨリ論スルヲ須ヒスト論スルモ所得税ト営業税トハ各々課税ノ目的ヲ異ニスルモノニテ所得税ハ資産営業其他ヨリ生スル所得ニ対シテ課税シ営業税ハ営業行為ニ対シ課税セラルルモノナレハ所得税ヲ徴収セラルルカ故ニ営業税賦課ヲ不法ナリト為スヲ得ス」20。つまり営業税と所得税では目的と範囲が異なるため同一の所得に対してであっても問題はないとしている。

上林の『所得税法講義』において所得税と営業税の重複課税について説明がなされている。まず所得税の欠点を取り上げ次のように述べている。「所得税ノ二大欠点ト謂フ曰ク各人ノ所得ハ到底精確ナル調査ヲ爲スコト能ハサルコト及ビ其ノ負擔ヲシテ必スシモ公平ニ各人ヲシテ普遍ナラシムルコトヲ得サルコト是ナリ」21として、課税負担の公平性が当時の所得税では不十分であったと指摘している。そして所得税と営業税の重複課税については、「所得税ノ賦課ニハ税制ノ結果タル負担ノ不平衡ヲ調和填補スルノ目的ヲモ有スルモノナル以上ハ多少ノ重複ハコレヲ忍フ」としている22。つまり所得税と営業税は実際に重複とはなるとしつつ、重複課税は所得税によって租税負担の公平を実現することが目的であリ、課税漏れを補填する役割があると考えを示している。

1-4 営業の意味

営業とは、どのような意味を持っているのだろうか。所得税法においても営業の用語は使われている。所得税法の立法当時の議事録の『元老院會議筆記』には、積極的に営業について説明は行われていなかった23。全体の流れとして、資産以外はすべて営業に含めるように議論が進行されているように見えた23。当時の所得税法の解説書における営業の意味は次のようなものがあった。「営業より生ずる所得は商人工夫等の業務を営み以て得る處の利益を云ふなり」24。そして他の文献では、「営業とは。営利を得る目的を持って。精神上及び形体上の労働を為す職業を云ひ。」としている25

営業税法における営業の意味について、営業税法の草案において第1条が営業の意味を示している。草案段階での第1条では「営業トハ商業工業其他各種営利ノ業ヲ云フ」としていた26。営業税法の草案においても営利を目的とした業務としていたと言える。

当時の営業税の営業についてドイツの営業税(Gewerbs Steuer)を参照して論じている文献がある。そこでは営業について次の5つの要素を挙げている27。⒜ 営業は営利を目的とするを要す、⒝ 営業は一般交換経済に参與するを要す、⒞ 営業は獨立して為されるを要す、⒟ 営業は継続的になされることを要す、⒠ 営業は経済的業務たるを要す。つまり「営業は営利の目的を以て一般交換経済に参與し独立的に継続して営まれる、経済的業務なり」としている28。このように所得税法における営業と営業税法における営業はほとんど同じ意味と考えることができる。

1-5 営業税の納税義務者の定義

営業税法(明治29年法律第33号)の納税義務者の定義として、「左ニ掲クル営業ヲ為ス者ニハ営業税ヲ課ス(第1条)」とし、物品販売業・貸金業・倉庫業や仲立業など24種類の業種が示されていた29。明治29年(1896)上林の解説によれば、「課税物件である営業は専ら資本金の運用により為す所の営利的事業又は資本金を使用させるも商取引に属する営利的事業に限りたるもの」30が課税の対象とされた。この営業的事業には、明確に定められていないが弁護士などの職業は含まれないこととされた31。すなわち営業税が対象としているものは、人ではなく「商取引に属する営利的事業」である。

1-6 営業税法における第1条と第2条から第4条の関係

営業の範囲は第1条に24種類の業種が示されている。第1条について上林の営業税法の解説では次のように説明されている。営業税法の営業について、「いかなる行為を営業と謂いいかなるを何業と解するかのことはその規定する所にあらず」として営業税法第1条に列記された24業種についても商法其の他の法を参照して意味内容を明らかにするべきであるとしている32。24種類以外の業種には課税しないとしているものではないとしている33

そして、その範囲は第1条に列挙された業種では、どれに該当するか判断が難しい営業は第2条から第10条において第1条の営業場として看做す旨を規定していた。第2条から第4条までは第1条の各種の範囲を定めており、例えば、物品販売業か製造業の判別が難しい場合には次のように規定されていた。営業税を課すべき物品販売業については「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場ヲ設ケ、物品ノ卸売リ又ハ小売リヲ為ス者(第2条1項)」とし、製造と販売の区別が難しい場合には「一定ノ製造場ナク職工ヲ使役スルコトナク原料ヲ供給シ工銭ヲ支払ヒ物品ヲ製造セシメテ販売スル者(同1項1号)」、「一定ノ製造場ヲ設ケス店頭二於テ物品ヲ製造シ主トシテ小売リヲ為ス者(同1項2号)」をその範囲としている。第3条の金銭貸付業及び物品貸付業においては、「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場ヲ設ケ」ている者である。第4条の製造業は「一定ノ製造場ヲ設ケ職工労役者ヲ使役シテ物品ヲ製造シ、又ハ物品製造ノ一部ヲ助成スル者」を営業場があるとみなし営業税が課税を課す。ほか非課税規定として従業員数や取引金額によって非課税となる営業場が規定されていた(第5条乃至第9条と第11条)。

注目すべきは、第1条で業種を列記しつつも、第1条に該当しない営業場は第2条と第3条で「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場ヲ設ケ」と規定し物品販売業や金銭貸付業について広範囲に営業税を課税していたと言える。

1-7 営業税法の国際的側面

外国人・外国法人が国内において事業を行う場合、あるいは居住者・内国法人が外国において事業を行う場合はどうなるのか。営業税は国内において第1条に掲げる営業場がある場合のみ課税されるが、居住者・内国法人が外国において第1条に掲げる営業を行うときは、さらに日本において納税義務が発生するのか疑問がある。

上林解説書には次のように回答がされていた。「その課税物件は営業そのものなるを以て内国における営業にあらされは課税せさるものと信す」「而して内国における営業者か外国の地に支店又は出張所を設け資本を共通する場合の如きはその支店出張所は別個の営業と認むへきものにあらさるか故に之を本店に合算して課税するを当然とす」とされた34

つまり、外国人・外国法人が国内に営業場を有するときは営業税が課税され、営業場を有しないときは課税されない。国内に本店がある居住者・内国法人が外国に営業場を有するときは、その支店が本店と資本を共通する場合は本店に合算され課税される。独立した支店の場合は本店と合算されないと考えることができる。

1-8 小括

営業税法は、財政収入の拡大の意味もあったが、将来の税制の改正のための試験として検討していたことが帝国議会の議事録から分かった。また、所得税と営業税は密接に関係しているため、営業の収益に課税することは、所得税と重複して課税しているのではないかという指摘もあった。しかしながら判例では、所得税と営業税ではその目的が異なるため重複の課税として不法なものとならないとしている。判例は直接的に所得税法における営業の意味と営業税法における営業の意味は同じであるとまでは示していない。解説書や営業税法草案によれば、所得税法と営業税法における営業の意味は、ほぼ同じであると言える。

所得税法では「資産営業又は職業より生ずる所得」と規定し営業税法では24種の業種を列記し営業を為す者に対して課税するとしていた。表1が示すように明治30年(1897)に営業税は所得税に匹敵するぐらいの税収を得るものとして国税となった。

第2章 判例における「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」とは

物品販売業や金銭貸付業について課税庁が広範囲に営業税を課税していたことが行政裁判所の判例から知ることができる。「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」は、第2条の物品販売業、第3条の金銭貸付業において用いられている。条文では「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」があるかないかが一つの判断基準となる。第3条金銭貸付業について争われた判例がいくつかある。営業税法に関する判例のうち最も判例の多い金銭貸付業を取り上げる。それらのうちの多くで金銭貸付業の「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」に該当するかどうかが争われた。

2-1 金銭貸付業における営業場の範囲

行政裁判所明治34年(1901)10月11日判決(明治34年第72号)行政裁判所判決録49輯14頁。

行政裁判所明治34年(1901)10月11日判決(明治34年第73号)行政裁判所判決録49輯21頁。

事実関係

原告は、住居にて金銭の貸付を行っていたところ。被告(課税庁)より営業税法第3条「営業税ヲ課スヘキ金銭貸付業(中畧)ハ一定ノ店舗其他ノ営業場ヲ設ケ貸付ノ業ヲ営ムモノヲ謂フ」に該当するとのこのことで課税処分を受けた。

原告の主張

原告は、第1の主張として住居で金銭の貸付を行い店舗又は営業場を有する事実はないので営業税法第3条の「一定ノ店舗若クハ営業場ヲ設ケ」を具備していないという事実を主張した。第2の主張は、営業税法第3条の「営業トシテ為シタル条件」について「営業トシテ之ヲ貸付ケ居ル事実モアラサル」と主張して営業として金銭の貸付を行っていないとした。

被告の主張

被告は、原告の住居を臨検し営業税法第3条「営業税ヲ課スヘキ金銭貸付業(中畧)ハ一定ノ店舗其他ノ営業場ヲ設ケ貸付ノ業ヲ営ムモノ」に該当するとした。

主文

「原告ノ請求相立タス」。

裁判所の判断

裁判所の判断として、第1の主張に対して、営業税法第3条の「一定ノ店舗其他ノ営業場」とは、「多少ノ相違アルヘキモ結局不断公衆ノ自由ニ出入シテ営業上ノ取引ヲ為ス場所ヲ謂ヒ住家ノ一部分タルト否トヲ問ハサルモノ」とし、第2の主張に対して「金銭貸付ノ業ヲ営ム者トアルハ親戚故旧ノ如キ特殊ノ事情アル者ニ限ラス汎ク公衆ニ対シテ信用ヲ開始シ之ヲ継続スル者ヲ謂フ」と判断した。

検討

国税になってからの営業税法において最も古い判例で、リーディングケースとなる。金銭貸付業について、住居が営業場として営業税法の課税の対象になったと考える。ここで示された「一定ノ店舗其他ノ営業場」とは、不断公衆ノ自由ニ出入シテ営業上ノ取引ヲ為ス場所」とした。自己が自由に使用できる場所で営利を目的とした取引が行われる場所であることが明確となった。営業税法第3条にいう「一定ノ店舗其他ノ営業場」とは、「営業上ノ取引ヲ為ス場」と判断している。取引を行う場所であって、住居であるかどうかは関係がなく、その取引が営利を目的として継続して行われていることが判断の基準となると考えることができる。課税庁が臨検し何を根拠に営業場があると判断したのか、この判決文には示されていなかったため何が根拠だったのか疑問が残る。その他、親戚などの特殊の関係にあるものは何等かの考慮がされると推測する。

2-1-1 金銭貸付業における「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」該当性の判断

そして、営業税法第3条について一歩踏み込んだ金銭貸付業の判断がされた判例がある。同様に住居にて「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」を有せず金銭を貸付していたところ、営業税が課税されるかどうか争われた。明治38年(1905)判決(明治37年第921号)35は、「営業税ヲ課スヘキ金銭貸付業及物品貸付業ハ一定ノ店舗其ノ他ノ営業場ヲ設ケ貸付ノ業ヲ営ム者ヲ謂フ」に該当すれば、営業税を課税されるのではなく、「金銭ヲ貸付スル者アルモ悉ク営業税ヲ課スヘキニアラス金銭貸付ノ業ヲ営ム者ニシテ初メテ之ヲ課スヘキナリ」とした。一定の店舗其の他の営業場を有するだけでは課税されず、実際に事業が行われて初めて課税されると判断している。

その後の別の金銭貸付業に関する判例において、明治40年(1907)判決(明治39年第178号、明治39年第161号、明治39年第162号)36は「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」とは、住居であっても営業場に該当するとして「一定ノ場所ニ於テ営利ノ目的ヲ以テ数次貸付行為ヲ為ストキハ之ヲ営業場ト解スヘキハ相当ニシテ必スシモ特設ノ場所ニ限ル法意ニアラサレハ」としている。「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」について、住居を問わず複数の取引を行う場所であり、特設の場所に限定されるものではないと考えることができる。またこの判例は営業税法第3条の趣旨は「専ラ定マリタル営業場ナク転輾不定ノ場所ニ於テ貸付行為ヲ為スモノヲ除外スルニアリテ金円貸付ノ如ク其業体ノ性質上特別ナル設備ヲ必要トセサルモノニマテ特別ノ設備ヲ命シタルモノニアラサルコトハ解釈上一点ノ疑ナキ」としている。営業場は業態によって判断され、特別の設備を要求するものではないとした。

明治42年(1909)判決(明治40年第14号)37において「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」とは「原告ハ金銭貸付ニ関スル一定ノ店舗其他ノ営業場ヲ有セスト主張スルモ金銭貸付業ハ其業態カ必スシモ特別ノ設備アル店舗又ハ営業場ヲ必要トスルモノニアラサル」と示した。そして、営業場があると認定を行い「一定ノ営業場ヲ有スルモノト認ムルニ充分ナリトス」とした。判決文にある「一定ノ営業場ヲ有スル」その証拠は判決文では明示されていない。この明治42年(1909)判決(明治40年第14号)では上記の先例とは違い金銭貸付業の「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」について、「営業場ヲ必要トスルモノニアラサル」と言い、明治34年(1901)判決(明治34年第72号・明治34年第73号)ではそこまで言及していないと考える。明治42年(1909)判決は、金銭貸付業に限り営業場を必要とせず営業があれば営業税を課税できると考えることもできる。

上記の判例では、住居で金銭を貸付を行っていると判断しているが具体的に、何を以て判断しているのか根拠が示されていなかった。その住居を「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」とする根拠について、大正5年(1916)判決(大正3年第158号)38では、裁判所は、「営業税法ニ依リ金銭貸付業者トシテ営業税ヲ課スルニハ営業トシテ金銭貸付ヲ為スヲ以テ足レリトセス一定ノ店舗又ハ営業場ヲ設クルコトヲ要スト雖金銭貸付業ハ其ノ業態ノ性質上特別ノ設備ヲ必要トセサルヲ以テ苟モ住宅ノ一部ニ於テ金銭貸付ノ事務ヲ取扱フ以上ハ之ヲ以テ営業場ヲ有スト認ムルニ何等差支ナシ」とした。大正5年(1916)判決(大正3年第158号)は明治42年(1909)判決(明治40年第14号)の「営業場ヲ必要トスルモノニアラサル」を修正するように「営業トシテ金銭貸付ヲ為スヲ以テ足レリトセス一定ノ店舗又ハ営業場ヲ設クルコトヲ要ス」として、「金銭貸付ノ事務ヲ取扱」がある場所が「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」と認定した。そしてこの判断は、営業を目的とした取引すべてが一箇所で行われている必要はなく、営業の一部が「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」にあればよいと考えることができる。

2-1-2 「営利ノ目的ヲ以テ数次貸付行為(明治34年(1901)判決)」の判断

明治34年(1901)判決の第2の主張と同じように営利を目的としていないと主張する判例が複数ある。明治40年(1907)判決(明治39年第159号)39では、原告は営利を目的とするその他、貸付営業の意思がなく友人知人に対する「恩恵的融通」にすぎず金銭貸付営業ではないと主張した。裁判所は友人知人に貸付し親戚其の他の関係者にも利息を付けて貸付を行っていたと指摘した。利息を付けて金銭を貸付ている事実関係から金銭貸付営業と判断した。明治41年(1908)判決40では、親族や知人に依り依頼され営業目的ではない金銭貸付の場合について、利子を付けて継続的に貸付ていたところ。裁判所は「住宅ノ一部ニ於テ金銭貸付ニ関スル取引ヲ為ス以上ハ之ヲ以テ営業場ト認ム」と判断している。利息を取っている以上は営利を目的としており、営業とされる。そして営業があれば金銭貸付業の場合、住居が「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」とされると考えることができる。

2-1-3 営利の目的が低い場合、金銭貸付業に該当しないとした判例

取引における利息が低く継続性が低いため金銭貸付業に該当しない判断がなされた。大正15年(1926)判決(大正14年第24号)41では、親族や小作人の特殊の関係を有する複数の関係者に対して貸付を行い、さらに特殊の関係を有しない者1名貸付があった。この特殊の関係を有しない者1名の貸付に対して、過去の判例を踏襲し裁判所は、「金銭貸付業トハ一定ノ場所ニ於テ営利ノ目的ヲ以テ継続的ニ金銭貸付ノ業ヲ営ム者ヲ指称シ親族故旧小作人等特殊ノ関係ヲ有スル者ニ対シ偶金銭ヲ貸付クルモ直ニ営業税ヲ課スヘキモノニ非サルコト」と再度「金銭貸付業トハ一定ノ場所ニ於テ営利ノ目的ヲ以テ継続的ニ金銭貸付ノ業ヲ営ム者」であることを示し、偶然に特殊の関係にある者に対する金銭の貸付は金銭貸付業に該当しないと示した。そして、特殊の関係にない者について金銭貸付業の該当性については、「百円及二百五十円ノ二口ニ過キス其ノ利息カ比較的低廉ナル事実ヨリ観ルモ之ヲ以テ継続的ニ金銭貸付業ヲ営ムモノト認メ難ク従テ営業税法第三条ノ所謂営業税ヲ課スヘキ金銭貸付業ト云フコトヲ得サルモノトス」と判断した。つまり、利息を取っていたとしても利息の金額や取引数量が少ない場合、営利を目的とした取引と言えないとしている。裁判所は取引の実質を分析して営利目的であるかどうかを判断している。

2-2 営業税法第2条の物品販売業の営業場かどうかが争われた判例

営業税法第2条においては、物品販売業の区別が規定されている。営業税法第2条第1項は「営業税ヲ課スヘキ物品販売業ハ、一定ノ店舗其ノ他ノ営業場ヲ設ケ、物品ノ卸売リ又ハ小売リヲ為ス者ヲ謂ウ左ノ諸業ハ前項ニ該当セサルモ、仍物品販売業ト見做ス」と規定している。第1項の左の諸業は第2項第1号から第5号で規定され次の通りである。「一定ノ製造場ナク職工ヲ使役スルコトナク原料ヲ供給シ工銭ヲ支ヒ物品ヲ製造セシメテ販売スル者」(第1号)。「一定ノ製造場ヲ設ケス店頭ニ於テ物品ヲ製造シ主トシテ小売リヲ為ス者」(第2号)。「牧場ニ非ナル場所ニオイテ飼料ヲ購入シ、家畜又ハ家禽ヲ飼養シ之ヲ売リ、又ハ鶏卵、牛乳等其ノ他物産ヲ販売スル者」(第3号)。「魚介類ヲ養殖シテ販売スル者」(第4号)。「動植物其ノ他ノ普通ニ物品ト称セサルモノヲ販売スル者」(第5号)。このように列記されており、販売と製造の区別が難しい場合や、販売の方法によって営業場を有しない場合など営業の判断が難しい場合に対して営業税を課す要件としている。

2-2-1 営業場を必要としない営業の判例

行政裁判所明治44年(1911)6月21日判決(明治44年第5号)行政裁判所判決録22輯649頁。

事実関係

牛馬の売買を営む原告は、一定の店舗その他の営業場を持たないとし、課税庁(被告)より課税処分を受けた。原告の事業を営むための固定的施設として「原告カ一定ノ店舗又ハ営業場ヲ有セサルヲ理由トスルモノナリト雖原告カ牛馬ノ売買ヲ業トシ之レカ為メニ二箇ノ牛舎及数箇ノ繋留所ヲ自己ノ住宅構内ニ有スルコトハ争ナキ事実」として、牛舎や繋留所が「一定ノ店舗又ハ営業場」に該当するか否かが争われた。

原告の主張

「一定ノ店舗又ハ営業場ヲ有セサル」「原告ノ住宅ニ於テハ売買取引ヲ行ハレサルコト」「牛馬ノ買入販売ハ農家又ハ市場ニ於テ行ヒ自己ノ住宅ニ於テ之ヲ為スハ稀ナリ而シテ牛舎及繋留所ヲ有スルハ買入レタル牛馬ヲ他ニ輸出シテ売捌クマテ一時繋留スルノ用ニ供スルニ過キスシテ普通商品ノ倉庫又ハ貯蔵場ニ外ナラス原告ハ牛馬売買ノ為メニ一定ノ店舗其ノ他ノ営業場ヲ有スルモノニアラス」と主張した。

被告の主張

「原告ノ住宅ノ一部ヲ以テ牛馬売買ノ一定ノ営業場ト認メタルハ相当ニシテ原告ノ主張ハ理由ナキモノトス」「原告ヲ一定ノ営業場ニ於テ牛馬売買ノ業ヲ為スモノト認メ物品販売業者」として主張した。

主文

「原告ノ請求相立タス」。

裁判所の判断

「営業税法第二条第二項第五号ニ該当シ一定ノ店舗又ハ営業場ヲ有スルコトヲ必要トスルモノニアラサル」となので課税されると判断した。

検討

原告は、牛馬の販売に当たり、住居での販売はなくまた一定の販売場所がなく販売業に該当せず、そして購入した牛馬を輸出するための一時的な仮置き場として牛舎があるにすぎず倉庫業でもないと主張していた。そこで被告は原告の住居を物品販売業の営業場にあたると主張していた。しかし裁判所の判断では何れの主張も採用されなかった。裁判所は「営業税法第二条第二項第五号ニ該当シ一定ノ店舗又ハ営業場ヲ有スルコトヲ必要トスルモノニアラサル」と判断し、営業場はないが第2条第2項第5号により営業税は課税出来るとした。営業税法第2条第2項第5号は「動植物其ノ他普通ニ物品ト稱セサルモノヲ販売スル者」としている。営業税法は、第2条第1項で「一定の店舗其の他の営業場」がある場合に課税されるとしているが、第2条第2項第5号では営業場を課税要件としていない。営業税法は、第1条に業種を列記し第2条第1項において「一定ノ店舗又ハ営業場」を設けていれば営業と看做している。そして営業税法第2条第2項は営業場が無くても営業税が課される場合を示している。第2条第1項で営業場を設けている場合には課税するが、第2項では営業場が無くても課税する規定になっている。第1項と第2項で相反する。

明治29年(1896)、上林の営業税法の説明では、営業税法第2条1項と第2条第2項の関係を次のように説明している。「一定の店舗其の他の営業場を設くることは物品販賣業に於ける課税要件なること第2条第1項の規定によりて明らかなり蓋し一定の營業場もなき營業は概して微少なるものと看做し之を課税の範囲外に置きたるなり然るに第2項ハ『前項ニ該当セサル云々』とあるか故に同項に列記せる五箇の場合は第1項の例外にして營業場を必要とせさるの意にあらすして左の諸業は第1項に所謂物品販売の卸賣又は第2項に列記せる諸業中第1號第2號は製造業に属せるかの疑あるもの第3號第4號は牧畜漁業と性質を同うするもの又第5號は普通に物品と称させるか故に物品販売業に入らさるかの疑ある者なれはなり故に営業場を設くることは第2項の諸業にも亦課税の要件なりと解するを妥当とす若し然らすして此等の諸業には営業場を設くることなきも仍ほ課税すへしとせんか第1項に於て之を課税要件と為し趣旨と相反ししかも其の理由認むへきものなきを奈何せん42」。

2-3 出張所が営業場に該当するかどうかが争われた判例

営業税法第15条は、「各店舗其ノ他ノ営業場毎ニ営業税ヲ課ス」として営業場ごとの課税を行っていた。その為、事務所において営業の有無が大きな要素となってくる。ここでは、営業場が営利活動を行わない単なる事務所か争われた。

行政裁判所大正8年(1919)10月16日判決(大正7年第239号)行政裁判所判決録30輯815頁。

事実関係

電気諸器械を製造し販売する原告は、京都に本店及び工場がある。本店の販売業務の一部を金沢にある出張所が行っていた。金沢出張所は課税庁(被告)により営業税法における物品販売業として課税を受けた。本店の業務の一部を行い自らの判断ではなく本店の命令に従うだけの出張所が営業場に該当するかどうか争われた。

原告の主張

原告の出張所の業務権限は「(一)需要家訪問(二)地方商況調査(三)本店対需要者間ニ授受交換スヘキ書類(見積書注文書注文請書代金請求書其ノ他)ノ取次(四)本店ヨリ注文者ニ発送シタル製品ノ著否、故障ノ有無調査(五)集金等ニシテ出張所ハ何等独立ニ販売行為ヲ営ムモノニ非ス一ニ本店ノ指揮命令ニ依リ器械的ニ前述ノ業務ニ従フ」とした。さらに「本件金沢出張所ハ営業税法ノ営業場ニ非ス若シ強テ出張所ノ販売ノ行為ナリト認ムヘキモノヲ挙クレハ嘗テ原告ヨリ各需要者ニ売渡シタル諸器械ノ附属品中調帯ノ如キ原告ニ於テ製造セス且在庫セサル物品ノ破損磨滅シタル場合需要者ヨリ最寄ノ原告出張所ニ対シ之カ供給ヲ需メラレタルトキ出張所ハ需要者ノ便宜ヲ計リ直接之カ供給者ニ注文ヲ為シ本社ヲ経スシテ需要者ニ取次クノ一事アルノミ」と主張した。

被告の主張

被告は、「原告ノ金沢出張所ハ北陸地方ニ於ケル電気機械ノ注文ヲ受ケ現品ヲ送達シ且代金ノ領収ヲ掌ルノ本拠地ニシテ純然タル営業場タルコト疑ナク営業税法第二条ノ物品販売業ニ該当スルコト明カナリ」と主張した。

主文

「原告ノ請求相立タス」。

裁判所の判断

「按スルニ原告ハ原告会社ノ金沢出張所カ原告会社ノ売渡シタル諸器械ノ附属品中調帯ノ如キヲ需要者ノ便宜ヲ計リ其ノ注文ニ応シ直接ニ需要者ニ供給スルコトアルヲ認ムルノミナラス金沢出張所ハ原告主張ノ如ク仮令何等直接単独ニ注文申込ニ対シ承諾ヲ為スノ権限ヲ有セス一ニ本店ノ指揮命令ニ依リ器械的ニ業務ニ従フニ過キストスルモ契約ノ申込タル注文書ヲ注文者ヨリ接受シテ本店ニ送付シ本店ヨリ送付シ来ル注文請書ヲ注文者ニ発送スルコトニ依リテ契約ノ承諾ノ通知ヲ発シ且買受人ニ対シ注文品ノ引渡即契約履行ノ行為ヲ為スコトハ原告ノ認ムル所ニシテ此ノ如ク売買ノ成立及契約履行ニ直接関与スルモノナルカ故ニ金沢出張所ハ営業税法ノ規定スル営業場ニ該当スルモノトス」と判断し原告を退けた。

検討

原告の金沢出張所が本店の契約に対して関与する業務を分類すると次のようになる。

直接的業務:(三)本店対需要者間ニ授受交換スヘキ書類(見積書注文書注文請書代金請求書其ノ他)ノ取次、(五)集金。準備的補助的業務:(一)需要家訪問、(二)地方商況調査(四)本店ヨリ注文者ニ発送シタル製品ノ著否、故障ノ有無調査。

原告は、金沢出張所については本店の指示に従い業務を行うため、独立性がなく本店の一部であると主張していた。これに対して裁判所は、金沢出張所について「売買ノ成立及契約履行ニ直接関与スルモノナルカ故ニ金沢出張所ハ営業税法ノ規定スル営業場ニ該当スルモノトス」と判断している。つまり独立性などにかかわらず、「売買ノ成立及契約履行ニ直接関与スルモノ」で「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」があれば営業と看做されることになる。

2-4 組合の販売員が独立した営業になるか争われた判例

行政裁判所大正12年(1923)12月26日判決(大正12年第14号)行政裁判所判決録34輯1164頁。

事実関係

業種の判定について、原告は水産物販売購買組合の販売員である。原告が所有する漁場の提供及び自己の家屋において物品の販売等を行っていた。原告は組合員の漁獲物を委託販売しており、その販売手数料の支給を受けていた。原告は組合の従業員であり、従業員として販売していたにすぎないと主張し課税庁(被告)は原告を原告の活動を問屋営業と認定した。委託販売か問屋営業かどうかが争われた事例がある。

原告の主張

⑴ 当該組合員の性質について、販売は行っていないと主張した。「業務ハ組合ノ業務ノ一部ヲ組合ノ監督ノ下ニ担当スルモノナルヲ以テ其取扱行為ヲ以テ営業税法ノ適用アル問屋行為ト為スコトヲ得サルハ明白ナリ」「組合員ハ組合定款ニ基キ其漁獲物ハ委託販売ヲ為サヽルヘカラス而シテ又組合ニ委託セスシテ漁獲物ノ販売ヲ為スヲ得サルヲ以テ委託ノ相手方ハ何人ナリヤハ言ハスシテ明ナリ」  

⑵ 契約内容の第四項。第八項、第九項について、営利の目的ではないと主張した。

•同契約第四項について「契約ニ家屋漁獄生籠容器其他ノ器具ノ設備ヲ担当人ニ命シタルハ其仕事ノ能率ヲ高メンカ為メニシテ更ニ鑿チテ考察スレハ担当人カ問屋業ナラハ此等ノ物品ハ担当人ノ所有スルコト言ヲ待タサル所ナリ本来此等ノ家屋容器等ハ組合ノ設備保存スヘキモノナレトモ特ニ担当人ニ之カ設備保存ノ義務ヲ負担セシメンカ為メ本項ヲ設ケタルモノニシテ本項アルコトハ却テ其ノ組合ノ組織内ノモノナルコトヲ証スルモノト謂フヲ得ヘシ」

•同契約第八項について「担当人ノ業務カ問屋業タルヨリ来ルニアラスシテ事務細則第四十条ニ販売代金ハ現金取引トストアリ会計規則第二条ニ会計帳簿ノ整理ハ取引アリタル日毎ニ之ヲ終了シ翌日ニ渉ルコトヲ得ストアリ」

•同契約第九項について「販売ノ手数料ヲ担当人ノ取扱行為ノ割合ヲ以テ定メタルコトモ亦其行為ノ性質ヲ問屋業タラシムルモノニアラス漁獲物ノ荷捌販売ノ如キ繁閑一様ナラス従テ月又ハ日ヲ以テ一定金額ノ支給ヲ為スハ不衡平ナル結果ヲ生スルヲ以テ其取扱ノ額ニ比例シテ労務ノ対価ヲ給与スルニ過キサルモノナリ」

被告の主張

⑴ 当該組合員の性質について、販売であると主張した。

「原告ハ組合ヨリ委託ヲ受ケタル水産物ヲ販売スル為ニ販売場(魚揚場)ヲ設備シ経費ヲ負担シ全然自己ノ業務トシテ経営セルモノナルコトハ原告ト組合トノ間ニ締結シタル契約書第一項エ漁獲物及水産製造物ハ乙原告ノ儀)ヲシテ之レカ販売ヲ担任セシムトアリ」

⑵ 契約内容の第四項。第八項、第九項について、営利を目的であると主張した。

•同契約第四項について「自己ノ負担ヲ以テ魚揚場ニ要スル家屋魚獄生籠容器其他委託物取扱ニ必要ナル器具ヲ設備スルコトトアリ」

•同契約第八項について「販売シタル物品ノ代金ハ買受人ヨリ収受シタルト否トニ拘ラス日々之ヲ計算シ組合ヘ納付スルコトトアリ」

•同契約第九項について「甲ハ(組合ヲ指ス)乙ニ販売ノ手数料トシテ売上代金ニ対スル百分ノ八ヲ支払フコトトアルニ徴シテ明ナリ」「更ニ原告ノ業務ノ実体ヲ調査スルニ組合ヨリ委託ヲ受ケタル水産物ヲ自己ノ名義ヲ以テ販売スルモノ」

主文

「原告ノ請求相立タス」。

裁判所の判断

裁判所は、組合の契約内容を分析し3つの事実関係から理由付けを行った。その理由は、⑴「自己ノ負担ヲ以テ魚揚場ニ要スル家屋、漁獄、生籠、容器其他委託物取扱ニ必要ナル器具ヲ設備スルコト」⑵「販売シタル物品ノ代金ハ買受人ヨリ収入シタルト否トニ拘ラス日々之ヲ計算シ組合ニ納付スルコト」⑶「販売手数料トシテ売揚代金ニ対スル百分ノ八ヲ支払フコト」を根拠とした。原告の販売行為に対して、「組合ノ販売担当人ハ全然自己ノ独立セル責任ニテ委託物品ヲ販売スルモノナルコト明ナル」と判断した。

検討

裁判所の判断を、分析すると次の判断されたと考えることができる。⑴自己の負担において営業場を設け、⑵ 自己の収益を計算し帳簿を付け、⑶営利を目的に一定の取引を行っていたと言える。裁判所は委託販売か問屋営業かを直接的に判断せず、上記⑴~⑶の判断を行った。⑴~⑶は、営業の概念で前述の5つの要素を事案に当てはめるような形となっている。営業の5つの要素は⒜ 営業は営利を目的とするを要す、⒝ 営業は一般交換経済に参與するを要す、⒞ 営業は獨立して為されるを要す、⒟ 営業は継続的にならされることを要す、⒠ 営業は経済的業務たるを要すとしている43

⑴ 自己の負担において営業場を設けは⒞に、⑵ 自己の収益を計算し帳簿を付けは、⒜及び⒠に対応し、⑶ 営利を目的に一定の取引を行っていたことは、⒟に対応すると考えることができる。つまり原告の業務は営業そのものに該当するといえる。

2-5 物品販売業に該当する営業の日本国内の有無が争われた判例

行政裁判所昭和2年(1927)6月28日判決(大正11年第261号)行政裁判所判決録38輯788頁。

事実関係

日本において商品の買付を行う原告組合は、横浜市にあるE商会からニューヨークにあるH商会へ商品を送付していた。H商会は原告の一人Jの務室の所在を示したものである。H商会に商品を輸送することは原告組合とH商会との間の取引に基くものである。そこで原告組合が代理業若しくは物品販売業として課税庁(被告)より営業税法の適用を受けそれが争われた。

原告の主張

「原告等ハ組合契約ニ基キE商会ナル商号ヲ以テ横浜市ニ店舗ヲ設ケ日本ニ於テ生糸類ノ買付ヲ為シ其ノ大部分ヲ紐育市ニ於ケル原告等ノ店舗ニ、其ノ小部分ヲ里昂市及倫敦市ニ於ケル原告等ノ代理店ニ輸送スルヲ業トセルモノナリ」とした。そして次の2点を主張した。

⑴ 組織内部の商品の移動であって物品販売業ではないと主張

「原告等ノ業務ハ二個以上ノ人格者間ノ取引ニ非ザルガ故ニ之ヲ以テ物品販売業ニ該当スルモノト為スベキニ非ズ」「其ノ紐育市ニ於ケル荷送先ヲH商会ト為シタルハ原告Jノ事務室ノ在ル場所ヲ示シタルモノニシテ従テ其ノ荷受人ハJ自身ニ外ナラズ」「即チ原告等ノ業務ハ二個以上ノ人格者間ノ取引ニ非ザルガ故ニ之ヲ以テ物品販売業ニ該当スルモノト為スベキニ非ズ」「又横浜ヨリ紐育ニ物品ヲ送付スルニ当リ『ネツト、インヴォイス』ニハ物品ノ原価ニ『コンミツシヨン』トシテ原価ノ二分五厘ニ相当スル額ヲ加算シタル金額ヲ記載シタルモ右ノ二分五厘ノ金額ヲ以テ横浜ノ店舗ノ諸経費及荷送ニ要スル諸掛ヲ支弁シ不足アルトキハ紐育ヨリ其ノ不足額ヲ送付スルコトト為リ」と主張した。

⑵ 仮に独立した当事者間であっても日本においての売買とはならないと主張

「原告等ハ日本ニ於テ物品ノ買付ヲ為シ其ノ危険ヲ負担スルコトナクシテ之ヲ紐育、里昂、倫敦ノ店舗ニ輸送スルニ過ギズ目的物ノ引渡ハ物品ガ海外ノ店舗ニ到達シタル後始メテ成立スルモノナルガ故ニ仮ニ原告等ノ業務ハ別個人格者間ノ取引ニシテ売買ガ成立シ得ベク売買契約ハ日本ニ於テ成立ストスルモ目的物ノ引渡ハ日本ニ於テ成立スルコトナキモノナルニ由リ」と主張した。

被告の主張

⑴の主張に対して、組合内部の商品の移動とみなさない。

「海外ノ各店舗ガ原告等自身ノ店舗ナルノ事実ハ之ヲ認ムルニ由ナシ縦ヒ原告等ノ組合トH商会トガ利益共通ナリトスルモ彼此別個ノ組織ナルガ故ニ之ヲ別人ト観ザルベカラス」と主張した。

⑵の主張に対して、委託と認める証拠はない。

「原告等ハ日本ニ於テ買付ケタル商品ヲ海外ニ於ケル全然別個ノ人格者ニ輸送シタルモノト認ムルノ外ナク而モ原告等ノ日本ニ於ケル商品ノ買付ガ海外ニ在ル商人ノ委託ニ依ルモノト認ムベキ事実ナキガ故ニ反証ナキ限リ其ノ海外ニ輸送スル商品ハ海外ニ在ル他人ニ販売シタルモノト認ムル」と主張した。 

主文

「原告ノ請求相立タス」。

裁判所の判断

「原告等ノ営業ハ之ヲ物品販売業ト認定スルコト相当ナリ而シテ原告等ノ店舗ハ営業税法ノ施行地域内ニ在ルコト明カニシテ原告等ハ該地域内ノ一定ノ店舗ニ於テ物品ヲ販売スルモノニ外ナラズ唯其ノ販売シタル商品ノ荷送先ガ営業税法ノ施行地域外ナルニ過ギズト解スベキノミ故ニ原告等ハ営業税法上同法ノ施行地域内ニ於テ物品販売業ヲ営ム者ニ該当スルモノト謂ハザルベカラズ」と判断した。

検討

原告は、⑴ 組織内部の移動であること、⑵ 委託であり売買ではないと2つの主張を行っていた。裁判所は原告の主張に対して判断を行わず、物品販売業であるとした。つまり、H商会(紐育)からE商会(横浜)へ注文が入るが、それは単なる受注販売に過ぎないので物品販売業と判断しているのではないかと考えることができる。仕入れた商品に対して諸経費、諸掛、コミッションを上乗せしてH商会に請求しているのであるから、販売といえるであろう。また、外国の店舗で売買が成立と主張しているが外国の支店や事務所において販売されたかどうかではなく、国内に「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」があると認定したと考える。

2-6 土木請負業の各地の事務所は営業場に該当するか争われた判例

ここでは、物品販売業や金銭貸付業での「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」とは異なるが、営業場があるかないかが争われた判例で、課税庁側が営業場を積極的に否認した判例を紹介する。

行政裁判所明治37年(1904)4月13日判決(明治36年第525号)行政裁判所判決録15輯236頁。

事実関係

原告は土木請負業を営み東京市にその営業場を設け神奈川県下横須賀町、鳥取県下米子町及び秋田県下刈和野町に出張所を設けて各主任者を置いていた。各出張所について、横須賀出張所においては十数年来同地方における各種の土木請負業を営み、米子出張所においては明治34年(1901)3月以来刈和野出張所においては明治35年(1902)8月以来鉄道工事の請負業を営んでいた。

原告は明治36年(1903)分の営業税について東京の営業場の課税所得の計算にあたって、横須賀、米子及び刈和野の営業所を含めずに東京の税務署に申告した。営業税法第15条によれば各営業場ごとに申告することとなっていた。課税庁(被告)は、横須賀、米子及び刈和野の営業場を否認し東京の営業場に含められるものとして争われた。

原告の主張

「凡ソ土木請負業ハ営業場毎ニ営業税ヲ課セラレ其課税標準ハ前年中ノ請負金総額ニ依ルモノトス(営業税法第十五条第一項第十六条第一項第一号)」

「各地ニ独立シタル営業場ヲ有スルヲ以テ該地方ニ於ケル土木請負金額ヲ東京営業場ノ土木請負金額中ニ算入シテ東京営業場ノ営業税課税標準額ヲ定ムルハ不当ナリ」と主張した。

被告の主張

「原告カ各地方ニ土木請負業ノ営業場ヲ有スルコトヲ認メサルモノナリ」「営業税法ニ所謂営業場トハ普通ノ所謂営業場ナル意義ニシテ即チ業務ノ中心点タル場所ヲ云フナリ原告カ営業場ナリトスル右各地方ニ有スル大倉土木組出張所ナルモノハ原告営業ノ一部行為ノ必要上臨時設定セラレタルモノニシテ中ニハ多少ノ歳月ヲ経タルモノアリト雖未タ一般ニ営業場トシテ認メラレサルモノナリ」と主張した。

主文

「横須賀米子刈和野ノ三出張所ニ属スル請負金額ヲ控除スヘシ」。

裁判所の判断

「原告カ右出張所ヲ以テ其営業場ト為スト意思ナリシコト及ヒ明治三十六年度ニ於テハ現ニ之ヲ営業場ナリトシ営業税法第十五条ニ依リ右出張所毎ニ営業税課税標準額ヲ其所轄税務署ニ届出テ同税務署ニ於テモ之ヲ営業場ト認メ特ニ米子税務署及大曲税務署ニ於テハ之ニ営業税ヲ課シタルコトハ甲第一号証ノ二、甲第二号証ノ一、二、五甲第三号証ノ一、二ニ依リ分明ナリトス然レハ之ヲ土木請負業ノ営業場ト認ムヘキハ当然ナリトス被告ハ米子刈和野両出張所ノ如キハ未タ一般ニ営業場ト認メラレサルモノナリ又単ニ鉄道作業局ノ該地方ニ於ケル鉄道工事ニ関スル作業ノミヲ為スモノナリトノ二事ヲ以テ営業場ト認メ難キ理由ト為スモ事実営業場ナルニ於テハ之ヲ営業場ト認ムヘク一般ニ営業場ト認ムト否トハ之ヲ問フヲ要セサルナリ又単ニ鉄道工事ニ関スル作業ノミヲ請負フモ之ヲ土木請負業ト謂フコトヲ得ヘク随テ其業ヲ営ム為メ設ケタル事務所ハ之ヲ営業場ト謂フコトヲ得ヘキナリ以上説明ノ如ク原告ノ横須賀米子刈和野ノ三出張所ハ土木請負業ノ営業場ト認ムヘキモノナレハ営業税法第十五条ニ依リ営業場毎ニ課税スヘキ」と判断した。

検討

営業税法第15条は営業場ごとに課税することを定めている。これに従うと土木請負業において工事現場の近くに事務所があり注文を受けたりしている場合、事務所ごとに課税されることとなる。しかし課税庁側は地方の事務所を業務の中心点ではないとして営業場と認めず主たる事務所である横須賀の事務所のみを課税の対象としようとした。課税庁側は臨時の事務所であることを理由に地方の事務所を否定しているが、裁判所は、「其業ヲ営ム為メ設ケタル事務所ハ之ヲ営業場ト謂フ」として課税庁の主張を退けている。業務の一部が臨時的かどうかは営業場の該当性においては関係がなく、継続的に営業が行われているかどうかで判断される。

2-7 小括

「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」の解釈として次のようにまとめることができる。

営業場とは自由に使用できる場所である。「不断公衆ノ自由ニ出入シテ営業上ノ取引ヲ為ス場所」(行政裁判所明治34年(1901)10月11日判決(明治34年第72号))。

営業場は特別な場所を必要としない。住居であっても営業場に該当するとして「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」は「必スシモ特設ノ場所ニ限ル法意ニアラサレ」としている(明治40年(1907)判決(明治39年第178号、明治39年第161号、明治39年第162号))。

営業を目的とした取引すべてが一箇所で行われている必要はなく、営業の一部が「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」にあれば営業場が存在すると考えることができる。(大正5年(1916)判決(大正3年第158号))。

事務所には取引の一部分であっても「売買ノ成立及契約履行ニ直接関与スルモノ」があれば課税される(行政裁判所大正8年(1919)10月16日判決(大正7年第239号))。

「一定」の意味について、判例では明らかにならなかったが解説書において、説明が為されている。「一定」の意味は「一定と云うふのは一つのという云う意味ではなく定まつた店舗または営業物があると云う意味である」44としている。一定の意味は場所だけでなく営業物も含む。一定の営業物があれば場所がなくても営業税法の課税対象となると考えることができる。

物品販売業においては、取扱う商品によって、営業場を必要としない場合があり、その例外について、規定され販売と製造の区別が難しい場合や、販売の方法によって営業場を有しない場合があった。

第3章 営業収益税

営業収益税法は大正15年法律第11号として発布された。営業収益税法は営業税法から名前が変わっただけでなく課税方法も変更された。営業税法の外形標準を改め純益課税となった。判例は、33件あるがそのうち12件は課税標準について争われた。つぎに逋脱が7件と多かった。課税標準については純益課税に変更され計算方法は所得税法・法人税法を準用するようになり益金と損金についての解釈の相違が多くみられた。

3-1 営業税法から営業収益税法に改正した理由

営業税法の問題点は、「外形標準であるが為に、雇人があれば、或いは営業場が大きければ、ないしは賣上高が多ければ、たとへ見切って賣つても、損をした年でも営業利益ありとして其の税金を負担せねばならぬ」とう点があり非難を受けていた45。「改正の根本理由は、外形標準を改めて、純益課税にとした點にある」としている46。帝国議会では、応能課税の原則に反するため外形標準から純益課税に改正した旨が説明されている(大藏大臣濱口雄幸発言)47。名前を変更したことについては、「営業税に『収益』の二字を加えて、謂はば之によつて名実ともに一新した理想的租税たらしめんことを期したのであった」としている48。つまり営業税のイメージを変えるべく営業収益税になったのである。

3-2 営業収益税法における納税義務者の定義

納税義務者は、法人の場合と個人の場合について分けられており、それぞれ次のように規定されている。

法人の場合は、「本法施行地ニ本店支店其ノ他ノ営業場ヲ有スル営利法人ニハ本法ヨリ営業収益税ヲ課ス」(営業収益税法第1条)と規定されている。明治29年(1896)の営業税法では、業種を24種類列記し課税していた。それに対し営業収益税では法施行地内に本店、支店その他の営業場を有することと、それが営利法人であることの2つの要件に該当するものは、如何なる営業を為すかを問わず営業収益税を課せられた49。当時の説明では、外国法人の内地における支店又は出張所については、本法施行地内に支店又はその他の営業場を有し、しかもその目的が営利にあるものが該当する。外国法人の支店又はその他の営業場については、施行地内における主たる店舗その他の営業場において課税する。主たる店舗その他の営業場となるものが存在しない場合には各別に課税する50

個人の場合は、「本法施行地ニ営業場ヲ有シ左ニ掲クル営業ヲ為ス個人ニハ本法ニヨリ営業収益税ヲ課ス」(営業収益税法第2条)としている。業種を列挙して納税義務者を明示している。1物品販売業、2銀行業、3無尽業、4金銭貸付業、5物品貸付業(動植物其の他普通に物品と貸付を含む)、6製造業、7運送業、8倉庫業、9請負業、10印刷業、11出版業、12写真業、13席貸業、14旅人宿業、15料理店業、16周旋業、17代理業、18仲介業、19問屋業の19業種が指定されていた。

法人と個人を分けた理由そして、法人個人が分離されただけでなく、営業所ごとの課税もなくなった。

3-3 営業収益税法における営業場の意義

営業収益税における営業場とは、条文では「本店、支店其の他の営業場」(営業収益税法第1条)と規定しているが、これは、本店や支店はもちろんのこと、その他出張所、派出所、工場等の名前はどうであっても、その実質営業の中心たる場所があれば課税されるという意味である。営業場とは、「営業取引の中心たる場所を謂う」51。取引の中心たる場所とは「営業上各般の取引を為す本據」という意味である。個々の営業取引を総括する場所、中心である本拠たる場所を言う51。つまり営業税法の営業概念をそのまま引き継いでいると考えることができる。

3-4 代理人かどうかが争われた判例

行政裁判所昭和8年(1933)12月14日判決(昭和7年第67号)行政裁判所判決録44輯1049頁。

事実関係

電気料金の集金人である原告等2名は、同一家屋内に同一経済のもとに居住している実父子である。原告等は電力会社の営業所に所属し営業所区域内における電灯及び電力料金並びに付帯料金の取り立て事務に従事し同電力会社より一定の給料と歩合給を受けて集金を行う者である。課税庁(被告)より代理業として営業税が課され争われた。

原告等と電力会社の間には約定書がある。その内容は次の通りである。

⒜ 「其ノ受持区域内料金ノ領収証ニ依リ毎月二十八日迄ニ料金ノ全額ヲ取立テ之ヲ会社ニ納入スヘク該期日迄ニ之ヲ完納シタルトキハ所定ノ給与ヲ受ク」

⒝ 「若シ該期日迄ニ之ヲ完納セサルトキハ一定歩合ノ延滞金ヲ課セラル」

原告等の主張

⑴ 仕事は外勤が中心で出張して集金業務を行っており独立の商行為は行っていないとし電力会社の従業員であると主張している。原告等の営業収益税法の代理業の解釈は次の通りである。「凡ソ営業収益税法第二条ニ所謂代理業ヲ為ス者タルニハ商法第三十六条ニ定メタル代理商タラサルヘカラス同条ニハ『代理商トハ使用人ニ非スシテ一定ノ商人ノ為メニ平常其営業ノ部類ニ属スル商行為ノ代理又ハ媒介ヲ為ス者ヲ謂フ』トアリテハ代理商カ独立ノ商人ナルコトハ学説判例ノ一致スル所ナリ而シテ商法第四条ノ規定ニ依レハ商人ハ自己ノ名ヲ以テ商行為ヲ為スヲ業トスル者ニ限ル」として自ら商行為は行っていないとの主張である。

⑵ 自宅のみならず会社営業所にも「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」がないと主張した。「原告等ハ自宅ニ居住シ時々会社営業所ニ出勤スルノ外連日其ノ担当区域内ノ各戸ヲ巡回スルノミニシテ自宅ニ何等営業上ノ設備ヲ為スコトナキカ故ニ自宅ハ営業場ト認ムヘキモノニ非ス又会社営業所ハ原告等ノ営業場ニ非サルコト固ヨリ論ナシ」と主張した。

被告の主張

⑴ 原告は同電力会社の「使用人ニ非サルコト疑ヲ容レス原告等ハ独立ノ企業主体ニシテ右会社ノ為メニ平常其ノ営業ノ部類ニ属スル商行為タル料金ノ取立ノ代理ヲ為ス者ナルカ故ニ商法第三十六条ノ代理商ニ該当シ従テ営業収益税法第二条ノ代理業ヲ為ス者ニ該当スルモノナリ」と主張している。    

その理由として、定額の俸給を受ける事がなく、支払期日までに料金の回収ができなければ原告等が立て替え払いし後日同電力会社より償還を受けることを通例としている。ほかの集金人においては使用人を使役してその業務に従事させたり、未収料金立替納付金額中会社より償還をうけられなかった金額を課税上営業上の欠損と認められた集金人もある。また集金を代行する会社に委託した事例もある。

⑵ 住居が営業場であることを主張した。

営業収益税法第2条における営業場とは、特別の設備を示すものではなく「営業取引ノ中心タル場所」であると述べている。原告等の代理業は、「其ノ業務ノ性質上営業場ハ格段ノ設備ヲ必要トスルコトナク単ニ其ノ代理業務ヲ処弁スルニ必要ナル設備アルヲ以テ足ルカ故ニ原告等カ自宅ニ於テ未収料金ノ領収証、取立金額及取立金額送付ノ受領証ヲ保管シ自宅ヲ本拠トシテ各需要者ヲ歴訪シ料金ヲ取立テ自宅ニ於テ其ノ計算及整理ヲ為シ此等ノ事務ヲ取扱フニ支障ナキ程度ニ於テ自宅内ニ机及金庫ヲ置キ且自宅ニ電話機ヲ架設シ屡々之ヲ市外通話ニ使用スル等自宅ヲ活動ノ中心トシテ業務ニ従事セル事実アル」と主張した。

主文

「原告ノ請求相立タス」。

裁判所の判断

原告等を代理業として判決した。原告のそれぞれの主張に対して裁判所は次のように根拠を述べている。

⑴ 原告の歩合給の性質が他の社員と性質が異なる点と集金できなかった場合の立て替え払いを一時負担している点を理由に「原告等ハ商法第三十六条ノ代理商ニハ非ストスルモ営業収益税法第二条ノ代理業ヲ為ス者ニ該当スルモノナリ」としている。

裁判所は、原告等の歩合の金額の性質について電力会社社員の証言を採用している。歩合給の性質について電力会社社員は「集金人ニ対シ集金歩合ノ外ニ賞与ヲ出シタ例ハ記憶ニアリマセヌ五分又ハ六分ノ歩合ハカナリ高イ報酬デアリマスカラ其ノ上賞与ヲヤル必要ハナイノデアリマス会社ヨリ税務署へ提出スル給料支払調書ニハ集金人ノ集金手数料ハ記載シマセヌソレハ書記ヤ雇員ニ対スル給料トハ違フト認メテ居ルカラデアリマス」と供述している。電力会社の社員は集金人に支給する歩合給は給料の性質ではないとしている。

⑵ 集金人業務の営業場について裁判所は、「原告等ノ代理業ニ在リテハ其ノ業務ノ性質上格段ノ設備アル営業場ヲ必要トセズ其ノ業務ヲ行フ場所ヲ以テ営業場ト認ムルヲ妨ゲズ」と特別の設備を必要としないとした。そして営業場は「原告等ハ毎月会社営業所ニ於テ一括交付ヲ受ケタル料金領収証ヲ自宅ニ持帰リ自宅ニ於テ各戸巡回ノ道順ニ之ヲ整理シ収納シタル金額ハ自宅ニ於テ之ヲ整理シ便宜取纒メ毎月数回ニ別チテ会社ニ納付シ其ノ受領証ハ自宅ニ於テ之ヲ整理スルヲ例トスル」と巡回先の決定や所類の保管などを行っている場所を営業場と判断した。業務の性質上、設備を必要とせず集金人が業務を行う場所が住居であったため、住居を営業場として判断している。

検討

住居が営業場として判定されている。営業税法の金銭貸付業と同じ理論で営業所の認定を行っている。金銭貸付業では特別な設備を必要とせず住居に帳簿等備え付けてあること、さらに取引の一部が一定の場所にあれば営業場として判断されてきた。この集金人の場合も同様に自宅にて事務処理を行っている点で共通している。

つまり金銭貸付業における、過去の判例と同じ理論で構成されている。住居であっても営業場に該当するとして「一定ノ場所ニ於テ営利ノ目的ヲ以テ数次貸付行為ヲ為ストキハ之ヲ営業場ト解スヘキハ相当ニシテ必スシモ特設ノ場所ニ限ル法意ニアラサレ」としている(明治40年(1907)判決(明治39年第178号、明治39年第161号、明治39年第162号))。そして住居を営業場とする理由として「一定ノ店舗又ハ営業場ヲ設クルコトヲ要スト雖金銭貸付業ハ其ノ業態ノ性質上特別ノ設備ヲ必要トセサルヲ以テ苟モ住宅ノ一部ニ於テ金銭貸付ノ事務ヲ取扱フ以上ハ之ヲ以テ営業場ヲ有スト認ムルニ何等差支ナシ(大正3年第158号)」と業務の性質を考慮し貸金業における「一定ノ店舗又ハ営業場」とほぼ同じで「必スシモ特設ノ場所」を必要としない(明治40年判決(1907)(明治39年第178号、明治39年第161号、明治39年第162号))。

3-5 営業収益税法における国際的側面の問題点

外国に本店を有する法人の本邦に在る支店ヘ営業収益税関係について、昭和13年(1938)に神戸に支店があるオーストラリアの商社についてオーストラリアの政府代表のロイド氏より外務省を通じて大蔵省主税局へ問合せがありそのやり取りを一部紹介する52

外国ニ本店ヲ有スル法人ノ本邦ニアル支店ニ対スル営業収益税ニ関スル件右ハ法施行地ニ在ル外国法人ノ支店ニ対シテ単ニ仕入レノミヲ為スモノ又ハ販売商品ノ引キ渡シノミヲ為シ其ノ取引ノ結果ニ対スル代金ノ授受等ハ総テ本店ニ於テ為スモノノ仕入レ又ハ販売ニ対スル利益ハ支店ノ所得トシテ課税セザル取扱ナルモ支店ニ於テ右以外ノ収益行為ヲ為ス場合ニハ之ヲ営業ト認メ其ノ営業ニ付生ジタル純益ニ対シ課税スル取扱ニ有之候

次ニバーバリ、ヘンチ、エンド、コンパニーニ対スル課税ノ件ニ付テハ大〓53税務監督局長ヨリ回答ニ依レバ当社ハ単ニ本店ノ指示ニヨリ仕入レ又ハ販売品ノ引キ渡シヲ行ウニ非ズシテ本店ノ指図ナキ場合ト雖モ有利ナル商品ノ買付ソノ他ノ収益行為ヲ営ムモノニシテコノ事実ハ会社側ニオイテモ認ムル所ニシテ個人経営時代長年ノ間営業収益税ヲ納税シ来リタルハ勿論会社ニ対シスル本件ノ課税ニ関シテモ会社側ニソノ旨説明シソノ申告ニヨリ決定セルモノニシテ要スルニ本件課税ハ適当ナルモノト在候依ツテ右御了知ノ上可然御収計算相成度比段及〓追右バーバリ、ヘンチ会社同様ノ条件ニシテ本店反対ノ地位ニ在ル株式会社兼松商店オーストラリヤ支店ハ羊毛ノ買付ヲ為シ之ヲ本店ニ送付シ居ルノミナルモ一定ノ利益歩合ヲ定メソノ利益ニ対シテ本邦ニオケル営業収益税類似ノ租税ヲ賦課セラレ居ル趣ニ付為御参考申添候

検討

外国に本店を有する外国法人の日本支店に対する営業収益税に関して、単に仕入れのみや商品の引き渡しのみを行い、取引の代金はすべて本店にて行っている。大蔵省は仕入れ又は販売に対する利益は支店の所得として課税されない扱いであるが支店において単に仕入れのみや商品の引き渡しのみ以外の収益行為を行う場合には、これを営業と認め、その営業につき生じる純益に対して課税する扱いであることを回答している54。例示としてバーバリ社の事例が上げられていた。バーバリ社の場合、本店の指示により仕入れ又は販売品の引き渡しを行うだけでなく、本店の指示なしに有利な商品の買付その他の収益行為を行っていると認め営業収益税を課税していた。また、参考として日本法人が外国において同様に課税されているケース(日本法人の外国にある支店の場合)もあるとされた55。 

バーバリ社の事例においては、取引において決済は本店が行い日本にある支店は商品の引き渡しのみを行うこととしていた。そして課税のきっかけとなったのは、その他の収益行為を行っていることであった。問題となったのは外国法人の日本支店が全体を見て営業場かどうかと言うことである。

3-6 営業税法と営業収益税法における営業場の概念

営業税法と営業収益税法の違いは外形標準か純益主義かである。この点について、営業税は理論上2種類に分かれ、第1は仏蘭西式の客観主義又は外形標準主義、第2は獨逸式の主観主義又は純益主義であるとしている56。純益主義は営業の純収益なるもの一つを捕へ課税標準を定めようとするものである。外形標準主義は営業の形態を種々の方面に於て捕へ而して税額を算出するが故に複数法に属する57。日本の明治29年営業税法は仏蘭西式で大正15年の営業収益税法は獨逸式であったと指摘している58

3-7 小括

営業収益税法は営業税法の全文改正を受けたものであるが、営業の概念は営業税を引き継いだものと言える。「本店支店其ノ他ノ営業場」の「営業場」とは、営業税法の「営業場」であることを判例(昭和7年第67号)によって再確認することができた。

おわりに

営業税法・営業収益税法における営業の範囲について判例を中心に分析を行った。営業税法から営業収益税法に全文改正が行われたが、営業の概念については営業税法をそのまま引き継ぐ形となった。租税条約での恒久的施設の概念はプロイセン営業税法が出発点とされる59。日本の営業税法も獨逸の営業税法を参考にしているのもであれば基本的な考え方は同じであると考える。また本稿で紹介したように所得税法の営業と営業税法の営業は、ほぼ同義であり、後に所得税法の営業は事業に変わるが、営業を包含するものと考えることができる。

営業税は昭和22年で地方税となってしまうが、占領下における外国との貿易ができない状況下では国際的な取引は極めて少なく国際的な事業所得に係る問題は殆どなかったと推測する。昭和26年に安川論文60において、後に国内源泉所得となる事業所得の範囲が紹介された。その前後において大蔵省の内部資料では租税条約の締結が検討されており、昭和26年(1951)には恒久的施設の概念を検討していた61

昭和30年(1955)の日米租税条約の恒久的施設に関する検討過程の内部文書において昭和26年(1951)頃次のようなメモがある。「恒久的施設の判定商業製造に関する法施行地にある事業の規準・課税標準」62というメモのなかで、法施行地内に事業経営の中枢があると認められる場合について次のような基準がある。その基準は,「営業所乃至は事務所等経営が恒常的に行われる場所が設定されていること。但し、その場所は必ずしも固定した物理的施設を有することに限定されない。」63となっている。この点は、営業税法における貸金業及び物品販売業の「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」について判例によって形成された理論と符合する。現在の所得税法・法人税法の事業所得における「事業を行う一定の場所」という概念が営業税法の「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」の概念と同じ起源をもっているのではないかが現時点の結論である。

Footnotes

1 税務大学校税務情報センター租税史料室『営業税関係史料集』([国税庁税務大学校税務情報センター租税史料室]・2013)11頁。

2 高寄昇三「地方財政の歴史(35)営業税の改革」地方財務597 号(2004)264-270頁。

3 大蔵省主税局『昭和の税制改正』(大蔵財務協会・1952年)。税務大学校税務情報センター租税史料室『営業税関係史料集』([国税庁税務大学校税務情報センター租税史料室]・2013)11頁。

4 吉村政穂「事業税の沿革・再考」横浜国際経済法学11巻2号(2003年)69-100頁。また営業税の沿革として、堀口和哉「営業税創設の沿革と意義――直接税制度の発展に果たした役割」関東学園大学経済学紀要26巻1号1999)79-94頁。

5 泉絢也「個人事業税の「事業」の判断(特集事例から探る税務上の「事業」の判断)」税理:税理士と関与先のための総合誌61巻6号(2018)71-80頁。

6 税務大学校租税史料(国税法HP https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/sozei/tokubetsu/h17shiryoukan/04.htm 令和2年1月17日閲覧)。

7 税務大学校税務情報センター租税史料室『営業税関係史料集』([国税庁税務大学校税務情報センター租税史料室]・2013)11頁。

8 中尾敏充「1896(明治29)年営業税法の制定と税務管理局官制」近畿大学法学39巻1号(1991年)9-10頁。

9 第9回帝国議会衆議院営業税法案委員会第1号明治29年1月16日15頁。帝国議会の議事録は次のデータベースで閲覧することができる。帝国議会会議録検索システム(https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/、最終閲覧令和2年1月10日)。

10 第9回帝国議会衆議院営業税法案委員会第1号明治29年1月16日15頁。

11 明治30年から昭和15年までは蔵省主税局「主税局年報書」、昭和20年は大蔵省財政史室= 江見康一『歳計』(東洋経済新報社・1984)63頁。

12 第9回帝国議会衆議院営業税法案委員会第1号明治29年1月16日15頁。

13 第9回帝国議会衆議院営業税法案委員会第1号明治29年1月16日15頁。

14 営業収益税法の解説では、「我國の租税制度では、勤勞所得には所得税だけしか課さないが、資産所得に對しては所得の外、別の税を重複してその能力に應ずる負擔を命ずる仕組みとなつて居るのでこの資産所得に重課する別の税を所得税に対する補完税と稱するのである。」としている。勝正憲『營業收益税の話[第昭和12年度全改版]』(千倉書房・1937)8-9頁。ほか、脇阪實「營業税法」大蔵財務協会『第84回帝国議会成立大蔵省関係法律解説』(大蔵財務協会・1944)76頁。

15 上林敬次郎『所得税法講義[復刻版]』(松江税務調査会・1901)8-12頁。

16 第9回帝国議会衆議院営業税法案委員会第1号明治29年1月16日15頁。

17 堀口前掲注4 86-88頁。

18 第9回帝国議会衆議院営業税法案委員会第2号明治29年1月28日43頁。

19 美濃部達吉『商事行政法:完』(明治大學出版部・出版年不明)53-54頁。

20 行政裁判所明治42年4月10日判決(明治38年第350号)行政裁判所判決録20輯328頁。

21 上林前掲注15 4-5頁。この節では、上林敬次郎『所得税法講義[復刻版]』(松江税務調査会・1901)に従い重複課税としている。

22 上林前掲注15 10頁。

23 元老院= 明治法制経済史研究所『元老院會議筆記』(元老院会議筆記刊行会・1964)159-185頁。『元老院会議筆記』は明治20年の所得税法の審議の内容を知ることができる。

24 蟻川堅治『所得税法註釈』(同盟書館・1887)4頁。

25 今村長善『所得税法詳解』(今村長善発行・1887)7頁。

26 国立公文書館(https://www.digital.archives.go.jp/das/contents/pdf/H1500g00050000/0055.pdf 令和2年1月17日閲覧)。

27 小川郷太郎「営業税ヲ論ス」法学協会「法學協會雜誌」24巻9号(1884)1235-1240頁。

28 小川前掲注27 1235-1240頁。

29 物品販売業、銀行業、保険業、金銭貸付業、物品販売業、製造業、運送業、倉庫業、運河業、桟橋業、船渠業、船舶破繁業、貨物陸揚場業、土木請負業、労力請負業、印刷業、写真業、貸席業、旅人宿業、料理店業、公ナル周旋業、代弁業、仲立業、仲買業。

課税標準は第12条において業種ごとに計算方法と税率が定められており営業場ごとに判定し1収入金額、2建物賃貸価格、3従業者数を基準として計算を行う外形標準課税であった。

30 上林敬次郎『営業税法要義』(明法堂・1896)23頁。

31 上林前掲注30 23頁。

32 上林前掲注30 30-31頁。

33 上林前掲注30 30-31頁。

34 上林前掲注30 30-31頁。

35 行政裁判所明治38年(1905)6月28日判決(明治37年第921号)行政裁判所判決録16輯542頁。

36 行政裁判所明治40年(1907)9月30日判決(明治39年第178号)行政裁判所判決録18輯686頁。明治40年(1907)10月18日判決(明治39年第161号・明治39年第162号)行政裁判所判決録18輯747頁。

37 行政裁判所明治42年(1909)10月15日判決(明治40年第14号)行政裁判所判決録20輯1254頁。

38 行政裁判所大正5年(1916)6月27日判決(大正3年第158号)行政裁判所判決録27輯737頁。

39 行政裁判所明治40年(1907)7月7日判決(明治39年第159号)行政裁判所判決録18輯577頁。

40 行政裁判所明治41年(1908)2月27日判決(明治40年第21号)行政裁判所判決録19輯167頁。

41 行政裁判所大正15年(1926)7月8日判決(大正14年第24号)行政裁判所判決録37輯690頁。

42 上林敬次郞「營業稅法辯疑」行政機関(行政学会・1898)1巻4号22頁。

43 小川前掲注27 1235-1240頁。

44 宮崎直二『改正営業税法便覧』(巌松堂書店・1924)10頁。「営業物」という表記は「営業場」のように見えるが文献には「営業物」と記載されている。

45 勝前掲注14 5頁。

46 勝前掲注14 5頁。

47 第51回衆議院本会議第3号大正15年1月21日。

48 勝前掲注14 6-7頁。

49 山本貞作『営業収益税法釈義』(自治館・1927)77頁。

50 薄田岩宝『改正所得税法営業収益税法資本利子税法講義』(大阪財務協会・1926)3頁。

51 山本前掲注49 79頁。

52 JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.B08060741400、在本邦外国人ニ対スル課税関係雑件(E-1-3-1-3_001)(外務省外交史料館)、JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.B08060759300、帝国税制及徴税事務関係雑件第三巻(E-1-3-1-4_003)(外務省外交史料館)。この二つの文献は同一内容である。

53 判読できないため〓とした。以下同じ。

54 史料からは商品の引き渡しのみの場合に関する根拠が明示されていなかった。時期が近いものとして次の取扱があった。「税法施行地外ニ於テ販売スル為、税法施行地内ニテ物品ヲ買入レ、之ヲ税法施行地外ニ在ル自己ノ営業場ニ輸送スルモノ」(大正15年12月営業収益税法施行に関する取扱方(主秘第八五号二〇-ロ)、税務大学校税務情報センター租税史料室前掲注7 595頁。

55 「バーバリ、ヘンチ会社同様ノ条件ニシテ本店反対ノ地位ニ在ル株式会社兼松商店オーストラリヤ支店ハ羊毛ノ買付ヲ為シ之ヲ本店ニ送付シ居ルノミナルモ一定ノ利益歩合ヲ定メソノ利益ニ対シテ本邦ニオケル営業収益税類似ノ租税ヲ賦課セラレ居ル」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.B08060741400、在本邦外国人ニ対スル課税関係雑件(E-1-3-1-3_001)(外務省外交史料館)。

56 汐見三郎「營業税と營業收益税」經濟論叢26巻3号(1928年)528頁。

57 汐見前掲注56 528頁。

58 汐見前掲注56 528頁。

59 宮武敏夫「国際課税における恒久的施設(1)事業を行う一定の場所を中心に」国際税務16巻11号(1996年)18-19頁。

60 安川七郎「外国人課税の諸問題」財政16巻12号(1951年)33-38頁。

61 加野裕幸「日米租税協定逐条審議議事録1951・52」法学ジャーナル第96号(2019)441頁。大蔵省「戦後財政史資料谷川文書租税国際二重課税防止3 第32号」(国立公文書館所蔵)請求番号平25財務00967100。

62 加野前掲注61 441頁。大蔵省前掲注61。

63 加野前掲注61 441頁

References
  • 蟻川堅治『所得税法註釈』(同盟書館・1887)
  • 今村長善『所得税法詳解』(今村長善発行・1887)
  • 薄田岩宝『改正所得税法営業収益税法資本利子税法講義』(大阪財務協会・1926)
  • 大蔵省主税局『昭和の税制改正』(大蔵財務協会・1952)。
  • 大蔵省財政史室= 江見康一『歳計』(東洋経済新報社・1984)
  • 大蔵省主税局「主税局年報書第30回」(1904)
  • 大蔵省主税局「主税局年報書第34回」(1908)
  • 大蔵省主税局「主税局年報書第38回」(1912)
  • 大蔵省主税局「主税局年報書第40回」(1914)
  • 上林敬次郎『営業税法要義』(明法堂・1896)
  • 上林敬次郎『所得税法講義[復刻版]』(松江税務調査会・1901)
  • 勝正憲『營業收益税の話[第昭和12年度全改版]』(千倉書房・1937)
  • 税務大学校税務情報センター租税史料室『営業税関係史料集』([国税庁税務大学校税務情報センター租税史料室]・2013)
  • 朝鮮総督府財務局『外国営業税立法摘要附.営業税法.同施行規則.営業収益税法.同施行規則』(朝鮮總督府財務局・1927)
  • 美濃部達吉『商事行政法:完』(明治大學出版部・出版年不明)
  • 宮崎直二『改正営業税法便覧』(松堂書店・1924)
  • 元老院= 明治法制経済史研究所『元老院會議筆記』(元老院会議筆記刊行会・1964年)
  • 山本貞作『営業収益税法釈義』(自治館・1927)
  • 泉絢也「個人事業税の「事業」の判断(特集事例から探る税務上の「事業」の判断)」税理:税理士と関与先のための総合誌61巻6号(2018)71-80頁
  • 小川郷太郎「営業税ヲ論ス」法学協会「法學協會雜誌」24巻9号(1884)
  • 加野裕幸「日米租税協定逐条審議議事録1951・52」法学ジャーナル第96号(2019)
  • 上林敬次郞「營業稅法辯疑」行政機関(行政学会、1896-09)1巻4号22頁
  • 汐見三郎「營業税と營業收益税」經濟論叢26巻3号(1928年)526-530頁
  • 高寄昇三「地方財政の歴史(35)営業税の改革」地方財務597号(2004)
  • 中尾敏充「1896(明治29)年営業税法の制定と税務管理局官制」近畿大学法学39巻1号(1991)1-52頁
  • 堀口和哉「営業税創設の沿革と意義――直接税制度の発展に果たした役割」関東学園大学経済学紀要26巻1号(1999)79-94頁
  • 宮武敏夫「国際課税における恒久的施設(1)事業を行う一定の場所を中心に」国際税務16巻11号(1996年)18-26頁。
  • 安川七郎「外国人課税の諸問題」財政16巻12号(1951年)33-41頁
  • 吉村政穂「事業税の沿革・再考」横浜国際経済法学11巻2号(2003)69-100頁
  • 脇阪實「營業税法」大蔵財務協会『第84回帝国議会成立大蔵省関係法律解説』(大蔵財務協会・1944)76-80頁
  • JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.B08060741400、在本邦外国人ニ対スル課税関係雑件(E-1-3-1-3_001)(外務省外交史料館)
  • JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.B08060759300、帝国税制及徴税事務関係雑件第三巻(E-1-3-1-4_003)(外務省外交史料館)
  • 大蔵省「戦後財政史資料谷川文書租税国際二重課税防止3 第32号」(国立公文書館所蔵)請求番号平25財務00967100。
  • 行政裁判所明治34年10月11日判決(明治34年第72号)行政裁判所判決録49輯14頁。
  • 行政裁判所明治34年10月11日判決(明治34年第73号)行政裁判所判決録49輯21頁。
  • 行政裁判所明治37年4月13日判決(明治36年第525号)行政裁判所判決録15輯236頁。
  • 行政裁判所明治38年6月28日判決(明治37年第921号)行政裁判所判決録16輯542頁
  • 行政裁判所明治40年9月30日判決(明治39年第178号)行政裁判所判決録18輯686頁。
  • 行政裁判所明治40年10月18日判決(明治39年第161号・明治39年第162号)行政裁判所判決録18輯747頁。
  • 行政裁判所明治40年7月7日判決(明治39年第159号)行政裁判所判決録18輯577頁。
  • 行政裁判所明治41年2月27日判決(明治40年第21号)行政裁判所判決録19輯167頁。
  • 行政裁判所明治42年4月10日判決(明治38年第350号)行政裁判所判決録20輯328頁。
  • 行政裁判所明治42年10月15日判決(明治40年第14号)行政裁判所判決録20輯1254頁。
  • 行政裁判所明治44年6月21日判決(明治44年第5号)行政裁判所判決録22輯649頁。
  • 行政裁判所大正5年6月27日判決(大正3年第158号)行政裁判所判決録27輯737頁
  • 行政裁判所大正8年10月16日判決(大正7年第239号)行政裁判所判決録30輯815頁。
  • 行政裁判所大正12年12月26日判決(大正12年第14号)行政裁判所判決録34輯1164頁。
  • 行政裁判所大正15年7月8日判決(大正14年第24号)行政裁判所判決録37輯690頁。
  • 行政裁判所昭和2年6月28日判決(大正11年第261号)行政裁判所判決録38輯788頁。
  • 行政裁判所昭和8年12月14日判決(昭和7年第67号)行政裁判所判決録44輯1049頁。
  • 帝国議会議事録
  • 第9回帝国議会衆議院営業税法案委員会第1号明治29年1月16日
  • 第51回衆議院本会議第3号大正15年1月21日。
 
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