2021 Volume 2021 Issue 99 Pages 21-119
本稿は、明治・大正・昭和にかけて所得税法及法人税法における外国人・外国法人が日本国内に営業をによる所得について着目し研究を行っている。検討の対象とする時代としては、明治20年の所得税創設から昭和30年ごろまでを概観し帝国議会の議事録・行政裁判所の判例・それぞれの改正法の学説及び国立国会図書館・国立公文書館1・外務省外交史料館2に所蔵されている大蔵省の資料ならびに大蔵省関係者が執筆した資料及び解説を素材とする。所得税法における「営業」という文言は明治20年から規定され昭和15年からは「営業」から「事業」に変更された。「営業」の概念がどのように変化してきたのか、恒久的施設につながっているのか所得税法の規定でどのように外国からいつ引き継いでいるのか営業税法とどう結び付いているのか検討する。
所得税法の創設から歴史的沿革研究について、汐見三郎他『各國所得税制論』(有斐閣・昭和9(1934)年)がある。汐見三郎は、明治20年所得税法について、ドイツ所得税法と比較検討し類似していると指摘している3。近時の研究として磯部喜久男「創設所得税法概説――明治20年の所得税法誕生物語」税務大学校論叢30号(平成10(1998)年)がある。磯部論文において、「営業」について元老院の筆記を参照し、「営業」の槪念について営業・非営業の区分が難しく、「『営業』の槪念が一定していなかった」と指摘している4。明治32年の所得税法については、堀口和哉「明治32年の所得税法改正の立法的沿革」税務大学校論叢28号(平成9(1997)年)がある。堀口論文は、明治20年の所得税法の元老院における審議過程を分析し、所得税法によって外国人・外国法人については課税出来るが課税しておらず、特段の議論も行われなかったとしている5。磯部・堀口論文は明治20年所得税法及明治32年改正所得税法を元老院筆記・帝国議会の議事録及び学説を紹介し網羅的に研究している。そして日本の外国人・外国法人の課税について歴史的沿革に触れ外国法と比較している研究として中里実「外国法人・非居住者に対する所得課税」日税研論集33巻(平成7(1995)年)139-269頁がある。大正9年改正所得税法(第2条)について言及している先行研究として水野忠恒「国際租税法の基礎的考察」小嶋和他編『憲法と行政法:小嶋和司博士東北大学退職記念』(良書普及会・昭和62(1987)年)733頁がある。水野忠恒は「所得税制度創設以来、外国人及外国法人に関する規定を設け」と指摘し、大正9年改正所得税法(2条)の「本法施行地に資産又は営業を有するとき」を考察している6。そして「営業」の解釈については、田中勝次郎『所得税法精義』(嚴松堂書店・昭和5(1930)年)を参照し「当時は『営業所』ないし『恒久的施設』から生ずる所得が、国内の『事業から生ずる』所得として扱われていたことがうかがえる。」と指摘している7。さらに「『国内において行う事業から生じた所得』(現在の所一六一条一号、法一三八条一号8)が事業に・・帰属する所得を意味していたことは明かである。」9と指摘している。なお近時の国際租税10に関する沿革の研究は、渕圭吾『所得課税の国際的側面』(有斐閣・平成28(2016)年)や矢内一好『日本・国際税務発展史』(中央経済社・平成30(2018)年)がある。
本章では、明治32年改正所得税法を中心に取り上げる。明治20年所得税法はどのように「営業を有する」を解釈していたか確認してから明治32年改正所得税法について分析を行っていく。
1-1 明治20(1887)年所得税法における外国人・外國法人課税の状況若槻礼次郎11は、明治20(1887)年所得税法(明治20年3月23日勅令第5号、以下「明治20年所得税法」という。)における外国人・外国法人について次のような説明がある。所得税法は「単に300円以上の所得ある人民は納税義務あることを定るのみなるか故に外国に在る本法人及び外国人の納税義務に付いては法律の意義分明ならす該法制定の当初に於いては内外の交通今日の如く類繁ならさりしのみならす〓条約12の下に於て外国人に対しては課税を為さらる慣例なりしか故に此の如き規定も亦実際に於て甚しき支障を見去るを得たりと雖も内外交通隆盛と為り彼我互に多数の在留人を見るに至りて特に改正条約の実施と共に外国人と雖も帝国の課税権に服従せらるへからさるに至りたる以上は国の内外に渉りて納税義務者の範囲を明らかにするにあらされは法律の施行上疑義とは殆と絶ゆることなかるへし」と説明している13。また法人に対しても課税していなかったとしている14。
1-2 明治20(1887)年所得税法第1条の営業の所得について所得税法において外国人外国法人に関する条文は存在せず、「凡ソ人民ノ資産又ハ營業其他ヨリ生スル所得」ト規定されていた。明治20年所得税法の条文は次の通りである。
明治20年所得税法第1条「凡ソ人民ノ資産又ハ営業其他ヨリ生スル所得金高一ヵ年三百円以上アル者ハ此ノ税法ニ依テ所得税ヲ納ムヘシ」15
所得税が明治20(1887)年3月23日に官報に掲載されると翌月に牧村兼吉『国民必携所得税法註解』巌々堂が出版されている。そこでは、営業は「[營業]商人の物を賣り職工の物を製造し農民の収穫と得ることができ類皆な營業よつて即ち家業を營むといふことなり」と簡単な説明のみであった16。同じ時期の別の解説では「營業より生ずる所得は商人工夫などの業務を営み以て得る處の利益を云うなり」としている。その2ヶ月後に明治20(1887)年6月16日発行の牧村兼吉の註解において、明治20年所得税法第1条について、所得の範囲を規定しているとし解説がある17。明治20年所得税法第1条に規定する営業について「營業とは營利の事商業工業農業等總て事業的の事を指示したるなり」と説明している18。そしてさらに田中恒馬の註解では、「營業とは官の許可を受け相當の税と納めて營む所ろの業を云う即ち造酒業、煙草業、菓子商業、若くは俳優芸子の如き諸種の營業是なり是等の者は其營業をなすにつき各々規則に従いひて税金を納めるものなれとも若し一カ年の純粋収入高三百圓以上に昇るときは尚ほまた此の法律に従つて所得税を賦課せらるるものなり」19としている。以上註解における営業についての解説を見たが一般的な説明に留まっているように見える。当時は、菓子税やたばこ酒税などの国税や地方税があり、営業に関するものは営業税雑種税規則(明治13(1880)年4月8日第17號布告)がある。地方税中営業税雑種規則(太政官布告明治15年第10、明治15(1882)年)によれば、第1乃至第3条に「商業」と「工業」の業種が指定があり、さらに大蔵省指令等により具体的に取引の事例が示してある20。
1-3 明治32(1899)年改正所得税法での外国人外国法人に対する課税の背景不平等条約の解消により明治20年所得税法を改正する必要がでてきた21。当時の主税局長目賀田種太郎22から大蔵大臣伯爵松方正義23宛の明治30(1897)年2月の書簡において外国人に対する課税を税制改正を行うことにより実施するという内容が伝えられている。
「所得税法ノ改正スルコト本法ハ現在ノ〓ニテハ内外人ニ對シ均シク適用スル能ハス故ニ現行法課税ノ所得最下低限ノ拡充シ更ニ累進率ヲ追加シ法人ニ對シ課税スルノ規定ヲ加エ其他本法ノ課税方法ノ整理スルニ於テハ凡ソ二百万円の増額ヲ得ヘシ」24
この文書からは、明治32(1899)年改正所得税法は外国人外国法人に対して課税するということを始めたと考えることができる。そして、明治32年改正所得税法において外国人外国法人に対する課税の背景として、明治36(1903)年頃の若槻礼次郎の説明がある25。所得税法は「単ニ300円以上ノ所得アル人民ハ納税義務アルコトヲ定ルノミナルカ故ニ外国ニ在ル本法人及外国人ノ納税義務ニ付イテハ法律ノ意義分明ナラス該法制定ノ当初ニ於イテハ内外ノ交通今日ノ如ク類繁ナラサリシノミナラス〓条約ノ下ニ於テ外国人ニ対シテハ課税ヲ為サラル慣例ナリシカ故ニ此ノ如キ規定モ亦実際ニ於テ甚シキ支障ヲ見去ルヲ得タリト雖モ内外交通隆盛ト為リ彼我互ニ多数ノ在留人ヲ見ルニ至リテ特ニ改正条約ノ実施ト共ニ外国人ト雖モ帝国ノ課税権ニ服従セラルヘカラサルニ至リタル以上ハ国ノ内外ニ渉りテ納税義務者ノ範囲ヲ明ラカニスルニアラサレハ法律ノ施行上疑義トハ殆ト絶ユルコトナカルヘシ」としている26。明治32(1899)年改正は、外国人外国法人に対して本格的に課税を行うことを前提として改正されたと考えられる。明治20年所得税法では外国人外国法人に対する課税がはっきりとしなかったが明治32(1899)年改正で実施したのである。そのきっかけは、不平等条約の改正によるものがあったとしている27。
1-4 明治32(1899)年改正所得税法の法施行地の営業に関する条文及立法趣旨 1-4-a 明治32年所得税法第1条及び第2条の納税義務者に関する大正8(1919)年までの条文ここで明治32年から大正9年改正直前までの所得税法の外国人・外国法人に関する条文について、確認しておく。条文として納税義務者の範囲を規定するものとして、第1条と第2条が明治32(1899)年に改められた。第1条は納税義務者を臣民から法施行地に住所を有する者と改め第2条に第1条に該当しない者つまり法施行地に住所を有しない者を第1条の納税義務者の例外として規定していた。条文は次の通りである。
明治32年2月法律第17号
第1条帝国内此の法律施行地ニ住所ヲ有シ又ハ一箇年以上居所ヲ有スル者ハ此ノ法律ニ依リ所得税ヲ納ムル義務アルモノトス
第2条前條ニ該當セサル者此ノ法律施行地ニ資産營業又ハ職業ヲ有シ若ハ公社債ノ利子支拂ヲ受クトキハ其ノ所得ニ付テノミ所得税ヲ納ムル義務アルモノトス(明治34年4月法律第17号)28
第5条左ニ掲ケル所得ニハ所得税ヲ課セス
(1号から5号まで省略)
第6号外國又ハ此ノ法律ヲ施行セサル地ニ於ケル資産營業又ハ職業ニ依ル所得但シ此ノ法施行地ニ本店ヲ有スル法人ノ所得ヲ除ク
大正8年頃までの間に若干の改正が行われた。第1条及び第2条関係については明治38年法律第34号第2条中「營業又ハ職業」ヲ「又ハ營業」ニ改めた29。所得税法(大正2年4月7日法律第13号)では第5条第6号であったものを第5号に変更されている。明治32年から大正8年にかけて条文の改正は若干行われたものの、法施行地に資産又は営業があるときその所得についてのみ納税義務が発生する条件は同じである。
1-4-b 明治32年改正所得税法の帝国議会における説明 第1条と第2条について帝国議会での説明明治32(1899)年改正所得税法の帝国議会での逐条解説で、政府委員として若槻礼次郎が外国人・外国法人の所得に対する課税について、説明を行っている。第13回貴族院所得税法改正法律案特別委員会第1号明治32年1月12日において、所得税法における納税義務者の範囲を第1条及び第2条に定め、納税義務がある主旨を若槻礼次郎は次のように説明している30。
「税法ノ力モ外國人ニ及ボスト云フコトニナリマスルト義務ヲ負フ人ハドウ云モノデアルカト云フコトヲ定メテ置キマセヌト課税ノ上ニ付イテ甚ダ困難ノ場合ガ生ジマスルデ其第一番ニ改正本案ニ於テハドウ云フ人ガ所得税ヲ納ムル義務ノアル人カト云フコトヲ一條二條ニ定メマシタノデ夫レハ苟クモ日本ノ土地ニ居ル者デアレバ、對人稅デアルカラ必ズ納税ノ義務ガアルト云フコトヲ原則ニシテ一條ニ其規定ヲ設ケマシタ、併シ其人ガ居リマセヌデモ現實日本ニ營業ヲシテ居ルナリ財産ヲ持ッテ居ルナリシテ所得ガアレバ夫レニ所得税ヲ掛ケズシテ其隣リニ居ル日本人ナラ日本人ノ所得ニ課税スルコトニシテハ課税ノ上ニ甚タ不公平デアッテ同ジ營業シテ居ル人デアッテ或人ハ稅ヲ掛ケラレ或人ハ掛ケラレヌト云フノデハ不都合デアリマスカラ元ト對人稅デアルカラ人ガ居レバ稅ヲ掛ケル原則デハアリマスガ所得ガアレバ人ガ居ナクテモ稅ヲ掛ケル必要ガアルト見テ二條ニ其規定ヲ設ケマシタ、是ガ義務ヲ負フ人ハドウ云フモノデアルカト云フコトヲ定メタノデアリマス」
外国人・外国人に関しては、課税の公平性の見地から、資産又は営業が法施行地にあれば納税義務が生じる。法施行地より所得が生じていれば課税するために第1条だけでは、外国人・外国法人には十分には課税出来ない。そこで補足できない外国人・外国法人のために第2条の存在があるとしていると考えられる。
第5条第6号について帝国議会での「営業」の説明第2条の帝国議会での説明では、「営業」について解釈が示されていなかったが、第5条第6号の「営業」の解釈について若干の説明がある。第5条第6号で非課税を規定し営業による所得と規定されている31。第5条の条文では「左ニ掲クル所得ニハ所得税ヲ課セス」として非課税所得を列挙している。その中で第6号では、「外國又ハ此ノ法律ヲ施行セサル地ニ於ケル資産営業又ハ職業ニ依ル所得但シ此ノ法律施行地ニ本店ヲ有スル法人ノ所得ヲ除ク」と規定している。
帝国議会における第5条第6号の逐条審議では、「営業」より生ずる所得について、かなり具体的に議論されていた32。国内源泉の所得に対してのみ課税することとし、その要件として次のよう説明がなされている。
・子爵三島彌太郎33 「五條ノ第六項ニアリマス、茲ニ妙ナ不審ガアリマスガナンデモナイコトデアロウガ北海道アタリ樺太アタリデ會社デ漁ナドヲスル者ガアル、其儲カル仕事ハ樺太デシテ會社ハコッチニ置イテ居ル、アンナモノハ矢張コチラニ會社ガ有ルカラ當リ前ノ稅ヲ課セラレル譯ニナルノデスナ」34
・若槻礼次郎「樺太ニ参ッテスル仕事ハ漁業デモスルコトナラ本店ハコチラニ在ルト考エマスガ、樺太ニ支店デモ持ッテ居ッテ其所デモ商ヲシ北海道ノ會社デモ商イヲシテ居リマスレバ其支店ダケノ分ハ矢張此ノ法律ニ據ッテ課税シマセヌノデアリマス。」35
・若槻礼次郎「出商ヒ位デチョット行ッテ居ル位デ、マダ支店にマデナラナイノガアリマセウ、ソレナラコチラノ所得トハ見マセヌ、立派ニ据エ付ツケタモノデ無ケレバ課税セヌデアリマス」36
若槻礼次郎は、「営業」の解釈において支店に、「立派ニ据エ付ツケタモノ」があればと条件を説明している。この「立派ニ据エ付ツケタモノ」は、直接的に「営業場」とは、発言していないが、何らかの物的施設を考えていたのではないだろうか。明治32年改正所得税法においては営業場を当初から想定して考えられていたと推測する。なお当時の樺太は、所得税法施行地外であった37。
1-5 明治42(1909)年大蔵省の省議において「営業場」の登場公示や通達を編纂した資料によれば、省議が資料として紹介されている。明治42(1909)年の省議において、「営業場」が課税するきっかけとして紹介されている。外国人による非営利の貸付金に関して、「営業場」が無い場合の営業より生ずる所得について大蔵省内部において検討が行われていた様子がうかがえる38。
明治42(1909)年10月13日省議決定
外國ニ在ル外國人カ所得税法施行地内ニ在ル本邦人(又ハ外國人)ニ貸金(営業ニ非サル貸金)ヲ有スル場合ニ於テ其貸金ヨリ生スル所得ニ對シテ課税スルコトヲ得ルヤ
貸金ハ一ノ債權ニシテ債權ハ債權者ノ資産ナリ故ニ本件ハ資産即チ貸金ナル債權ノ所在地如何ニヨリテ決セサレルヘキ問題ナリトス而シテ本件ニ關シテ左ノ両説アリ
甲説債權ハ一ノ財産ニシテ債權者ノ資産中積極的價値ヲ組成スルカ故ニ債權者ノ利益及財産ノ中心點タル債權者ノ住所地ニアリト云ハサルヘカラス果タシテ然リトセハ本件ハ所得税法第二條及第五条六號ノ解釈上課税セサルヲ至當トス我相続税法(第二)條ハ債權ノ所在地ニ付イテハ債權者住所地説ヲ採用セリ云々ト
乙説債權ハ債務者ノ住所ニ支配力ヲ有スルモノナリ債權ハ債務者ノ資産ノ一部ヲ有スト雖モ之カ爲メニ其資産ハ債權者ノ住所ニ在リト云フヘカラサルコト恰モ或人ノ資産タル不動産若ハ動産カ其人住所ヨリ遠ク離レタル他ノ場所ニ所在ヲ有スルニ異ナラス債權ハ債權者ノ資産ナレトモ債務者ニ依リ所持セラレタル資産ニ過キス故ニ債權の所在地ハ債務者ノ住所ニ在リト云ハサルヘカラス果タシテ然リトセハ本件ハ税法ノ解釈上課税スルヲ當然トス現ニ我カ民事訴訟法(第十七条)ニ於テモ債務者ノ住所ヲ以テ債權ノ所在地ト看做セリ云々ト
以上ノ両説中我税法ノ解釈上甲説ヲ穏當ナリト信ス従テ課税セサルヲ相当トス尤本件ノ貸金ニシテ施行地ニ營業場ヲ有シ營業トシテ貸付タルモノナルニ於テハ所得税法第二條及第五條第六號ノ解釈上課税シ得ヘキハ勿論ナリトス右兩説中甲説ニ決定セリ
法施行地の営業より生ずる所得について、営業場があれば営業の所得として課税することが検討されていた。外国人・外国法人であっても法施行地に所得があればすべて課税され、資産の所得か営業の所得かが「営業場」の有無によって判断されていたと考えられる。つまり、「営業場」が有れば営業の所得となり、「営業場」がなければ資産の所得として取扱うこととなっていたと思われる。
1-6 明治32年改正所得税法における学説の展開本節で、明治32年所得税法第2条及び第5条第6号における「営業」に関して文献を参照し分析する。「営業」を解説している文献として上林敬次郎『所得税法講義[明治34年発行の[復刻版]』(松江税務調査会・明治44(1911)年)、木村房次郎『所得税法詳説』(中央税法会・大正3(1914)年)
及木村房次郎『營業所得兩税法詳解』(法政研究会・大正6(1917)年)、関口健一郎39『現行所得税法要義』(巌松堂・明治44(1911)年)、武本宗重郎『改正所得税法釈義』(同文館・大正2(1913)年)40、若槻礼次郎『現行租税法論』(和仏法律学校・明治36(1903)年)の文献で確認することができた。
1-6-a 明治34(1901)年「営業」に関する上林敬次郎の説明上林敬次郎は、第2条について「前條ノ原則ニ對スル例外トシテ税法施行地内に居住ノ関係ナキモ所得ヲ有スルノ一事ヲ以テ所得税ヲ納ムル義務アルモノトシタル所以ナリ」として、特に営業より生ずる所得の説明に関して、「営業」の概念については言及していない41。なお第5条第6号における「営業」について、第1条及び第2条と第5条第6号の関係において次のように説明されている。「營業又ハ職業ヲモ有セストセハ設令外國又ハ施行地外ニ於テ幾何ノ所得ヲ有スルモ之ニ課税スルコトヲ得ス(第五條第六號参看)然ルニ此ノ者若シ施行地ニ於テ資産、営業又ハ職業上ノ所得ヲ有ストセハ即チ課税セラルヘシト雖是施行地ニ住所居所ヲ有スルカ故ニアラスシテ所得ヲ有スルカ故ナリトモ謂フコトヲ得ヘシ(第二條参看)即チ納税義務ハ其ノ住所、居所ニ關セス所得ヲ生スル地ノ如何ヲ視テ以テ之ヲ決スルコトヲ得ヘス但シ外國又ハ施行地外ニ於ケル法人ノ所得ハ住所即チ本店ノ所在地ニ依リ(第五條第六號但書参看)資産、營業又ハ職業ニ依ルニアラサル所得(例ヘハ恩給、年金ノ如シ)ハ所得者ノ住所又はハ居所カ税法施行地内ニ在ルノ故ヲ以テ課税セラルルナリ」42。住所ではなく所得の発生地に着目して課税すると説明している。そしてさらに、「本條第六號ノ規定ニ依レハ所得本源タル資産、営業又ハ職業ガ外国又ハ税法施行地外ニ在ルトキハ其ノ所得ニ課税セサルモノニシテ實際ノ所得収受地カ施行地外タルコトヲ要スルモノニアラス是所得ハ其ノ本源タル資産、営業又ハ職業ノ所在地ニ於テ生スルモノト看做シタルナリ」としている43。上林敬二郎の説明では「営業」について、概念の説明はみられなかった。
1-6-b 明治36(1903)年「営業」に関する若槻礼次郎の説明若槻礼次郎『現行租税法論』(和仏法律学校・明治36(1903)年)では「所得税法施行地ニ於テ土地家屋ノ如キ資産ヲ有シテ之ニ因りテ所得ヲ得ル場合又ハ商工業ノ如キ業務ヲ営ミ若クハ醤士、辯護証士等ノ職業ヲ爲シ之ニ因りテ所得ヲ取得薄場合ニ限リ其所得ニ課税スヘキモノナリ」と述べている44。若槻礼次郎は帝国議会の説明に於いて「立派ニ据エ付ツケタモノ」45と発言していたのに対して、より一般的な説明に留まっている。
1-6-c 明治44(1911)年「営業」よる所得は「営業場」とする関口健一郎の学説明治44(1911)年の関口健一郎の解説書において納税義務者の範囲について分析が行われている。それによれば、「納税義務者ノ範圍ヲ明確ニシ帝国内此ノ法律施行地ニ住所ヲ有シ又ハ一箇年以上居所ヲ有スル者ハ國籍ノ如何ヲ問ハス、又所得ノ何ヨリ生スルヲ問ワス及何レノ地ヨリ生スルヲ問ワス、原則トシテハ總テ其ノ所得ニ付キ納税ノ義務ヲ有スルモノトシ、然ラサル者ハ税法施行地ニ有スル資産、營業又ハ職業ヨリスル所得ニ付テノミ納税義務アルトセリ」としている46。関口健一郎はさらに納税義務者を2種類に分類している。
「原則トシテ其ノ全所得ニ付キ所得税ヲ納付スル義務アルモノトシ、人的関係ヲ有シ而モ其ノ要件ヲ具備セサル者及単ニ物的関係ヲ有スルニ止マル者ニ対シテハ特定ノ所得ニ限リ所得税ヲ納付スルノ義務アルモノトシ、前者ハ之ヲ第一條ニ後者ハ之ヲ第二條ニ規定セリ。」47
納税義務者に関しては、関口健一郎の説明では、法施行地より生ずる総ての所得に対して課税することを示しつつ納税義務者において人的関係と物的関係に分けて、人的関係は第1条そして物的関係は第2条に分類している。営業の所得である物的関係(第2条)について「例外トシテ税法施行地ト人的關係ヲ有スルコトナク單ニ税法施行地ヨリ所得ヲ収得スルノミナル者、換言スレハ税法施行地ト所得者ト物的關係ヲ有スル場合」としている48。法施行地と物的関係のある者の課税対象となる所得の範囲については「此等ノ場合ニハ又其ノ所得ニ限リテ所得税ヲ賦課スルヲ相當トス」49としている。そして、加えて「第二條ニ該當スル者ハ税法カ特ニ規定セル所得ニ付イテノミ納税ノ義務ヲ負擔スルモノニシテ、其ノ他ニ如何ニ所得アルモ決シテ其ノ所得ニ對シ納税義務ヲ負擔スルコトナシ」50としている。つまり営業から生ずる所得については物的関係として人的関係とは所得の範囲が異なり税法施行地の営業から生ずる所得のみに限定して課税されることになる。
「営業」より生ずる所得の説明で「営業場」が登場する。関口健一郎は、「税法施行地ニ有スル營業ヨリスル所得税法施行地ニ有スル營業トハ税法施行地ニ居住スル者トノ間ニ行フ營業ノ取引ヲ云ウモノナリト解スヘキニアラス、營業ヲ有スルトハソノ地ニ於テ營業場ヲ設ケ營業ヲ為ス場合ノミヲ指スモノトス、故ニ税法施行地ニ營業場ノ設ケ無キトキハ、税法施行地ノ商人トノ取引ニオイテ如何ニ多額ノ収得ヲ生スルモ、納税ノ義務ノ発生ニ何等ノ関係ヲ有スルモノニアラス」としている51。「営業場」が無く電信などにより本店が直接取引をしている場合は所得税は掛からないと考えられる。一般の解説書に「営業場」と出てきたのは、先に挙げた明治42年の省議で「營業場」が出てきた影響ではないだろうか。なお当時は所得税法に「營業場」は規定されていない。
明治32年所得税法第2条と第5条第6号との関係について説明がある。第2条の説明の中で、「今本條ノ規定ヲ税法第五條第六號ノ規定ト對昭スルニ立法上ノ疑ナキヲ得ス、元來第五条六號ハ後ニ説明スル如ク税法第一條該當者ノ収得スル所得中其ノ所得ノ泉源52カ税法施行地ト関係ヲ有セストノ理由ニ依リ除算セラルヘキ所得ヲ定メタルモノニシテ本條ノ規定ト表裏照應スヘキモノタリ」としている53。「資産又ハ營業ニ依ル所得ト職業ニ依ル所得トハ其ノ間稍性質ヲ異ニシ獨乙ノ諸聯邦ノ所得税法ニ於イテモ定着シタル營業場等アル場合ニハ直チニ課税スルモ、人ノミニ付イテハ相当ノ期間ヲ經ツ始メテ課税スルヲ以テ此ノ改正ヲ爲シタルモノナリ」としている54。第2条と第5条6号の「営業」は同じ意味である。そして「營業を有するとき」というのは国内の源泉を意味していると考えられる。そしてその根拠は関口健一郎は「營業場」がドイツ所得税法の「営業」から来ていると指摘している55。
1-6-d 大正2(1913)年「営業場」に関する木村房次郎の学説木村房次郎『所得税法詳説』(中央税法会・大正3(1914)年)の解説によれば、「営業」については、「營業を有すとは一定の營業場を設けて營業をなすものを指し営業場なき取引はこれを含ます」としている56。ここで、「一定の營業場」という説明が登場する。さらに3年後の年木村房次郎『營業所得兩税法詳解』(法政研究会・大正6(1917)年)における所得税法第2条の納税義務者の説明では、「所得税ノ納税義務ハ本法施行地ニ対スル人ト物トノ關係ニヨッテ二様ニ発生ス」と2つに区分している57。明治32年所得税法第1条の1年以上の住所・居所は人的関係、そして明治32年所得税法第2条の「法施行地ニ資産又ハ營業ヲ有シ」を物的関係と説明している58。そして、物的関係についてつぎのように説明している。
第1に物的関係の説明として「物的關係ニ依ルモノニシテ法律ニ規定セラレタル所得ニ限リ課税セラル而シテ此納税義務ハ法人タルト自然人タルトヲ問ワサルモノトス」59として、法人と自然人を分けず課税対象となる所得が限定されている。
第2に法施行地の「営業」とは次のように説明している。「營業ヲ有スルトハ一定ノ營業場ヲ設ケテ營業ヲ爲スモノヲ指シ營業場ナキ取引ハ之ヲ含マス且ツ其營業場ノ營業行為ニ依ツテ収益ヲ生スルモノナラサルヘカラス例ヘハ貨物ノ仕入レノミヲ爲スモノノ如キハ營業場アリト雖課税スヘキ所得ヲ生セサルモノナリ但シ其仕入行為ニ対シ計算面上營業主ヨリ報酬ヲ受クルモノハ別ナリ。」60としている。つまり営業場があれば課税されるが営業場があっても仕入のみをなすなど所得が発生しなければ課税の対象とはならないとしている。
木村房次郎は営業の解釈として「一定の營業場」が出てきている。営業があるか無いかの判定として「一定の営業場」の有無がありその次にその営業場で所得が発生しているかどうか営業に帰せられるかどうかを示している。なおこの時代に「一定の營業場」が法文として規定されているのは国税の営業税法(明治29年法律第33号)第2条で「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場ヲ設ケ、物品ノ卸売リ又ハ小売リヲ為ス者(第2条1項)」と規定していた。木村房次郎は営業税法の営業場を用いて所得税法の規定について説明していたのではないだろうか。
1-6-e 大正2(1913)年所得税法「営業場」に関する武本宗重郎の学説武本宗重郎『改正所得税法釈義』(同文館・大正2(1913)年)の解説においては、「税法施行地に有する営業より生ずる所得税法施行地に有する營業とは營業場を設置し營業を為す場合と解するものとす、故に營業場なきときは税法施行地の住人と取引を為すと雖法施行地に有する營業なりと謂うことを得ざるものとす。」としている61。そして、所得税法(大正2年法律第13号)第5条第5号(明治32年所得税法では第5条第6号)「外國又ハ此ノ法律ヲ施行セサル地ニ於ケル資産、營業又ハ職業ニ依ル所得」における「營業」については、「資産營業の何たるやは前に第二條に就て説明した所なり。」としている62。「營業」は「営業場」を設置して行う営業と解釈している。
なお、所得税法(大正2年法律第13号)第5条第5号の趣旨について、「本項は税法施行地外より生する所得は課税外となすの趣旨なりとす。所得税の性質より見れは所得か何れの地に於いて發生するも之を標準として課税するを妨けすと雖、法の力の及はさる地域に渉り調査するのは困難なるのみならす、外國又は税法施行地外に於て課税せらるへきものに付いては更に内國に於いて課税するときは重複に課税を爲す嫌あるを以て、法は之を課税外と爲したるものなり。」としている63。国内法により一方的な二重課税の排除が目的であるとしている。
1-7 小括明治20年所得税法の条文には「営業」という用語が存在していたが、実際には外国人・外国法人には課税されていなかったと推測することができる。明治32年所得税法第2条及び第5条第6号の「営業」について、関口健一郎によれば、国内源泉所得であり「営業場」の所得についてのみ納税義務が発生すると説明している。
大正9年の所得税法全文改正前の学説において所得税法中の「営業場」の由来について2つの学説が存在する。一つは、関口健一郎がドイツ所得税法の「営業場」と指摘している。もう一つは木村房次郎が営業税法の「営業場」と指摘している。帝國議会での説明における若槻礼次郎の「立派ニ据エ付ツケタモノ」という表現は、物的施設を指しているとすれば関口説と木村説両方に共通するものと考える。
明治32年所得税法第2条は国内源泉所得を課税する旨を規定し、明治32年所得税法第5条第6号により国外源泉所得は非課税となっていた。そして明治32年所得税法の第2条と第5条第6号は、表裏の関係であった。明治32年所得税法第2条と第5条第6号の条文を用いて国内法により二重課税の排除を行っていたと考えられる。つまり明治32年所得税法から、「営業場」は二重課税を排除する閾値の役割があったと考えることができる。
本章では、大正9(1920)年に全文改正を行った所得税法(以下、大正9年所得税法という。)を中心に分析を行っていく。明治32年所得税法から同じく「営業を有するとき」について観察する。「営業を有するとき」について、米国からの所得税法に関する問い合わせや国際連盟財政部への資料提出などを中心に紹介する。米国からの問合せについては外国船舶の所得税免除に関する問合せのことである、きっかけは英国との相互免除からスタートしている64。大蔵省『内国税』(財政経済学会・昭和12(1937)年)は米国との外国船舶に対する相互免除に関する交渉過程の一部である。
国際連盟からの問合せは、後のモデル租税条約へ発展し現代の恒久的施設概念の形成の出発点となる65。なお国内において国際的二重課税の問題が提起された時期でもある66。
2-1 大正9(1920)年所得税法の条文所得税法は全文改正となったが、基本的には明治32年所得税法をと同じく「本法施行地ニ資産又ハ営業ヲ有スルトキ」である。全文改正された所得税法の「営業を有する」に関連する条文は、次の通りである。
大正9年改正所得税法(大正9年7月31日法律第11号)
第一條 本法施行地ニ住所ヲ有シ又ハ一年以上居所ヲ有スル者ハ本法ニ
依リ所得税ヲ納ムル義務アルモノトス
第二條 前條ノ規定に該当セサル者左ノ各號ノ一ニ該當スルトキハ其ノ
所得ニ付イテノミ所得税ヲ納ムル義務アルモノトス
一本法施行地ニ資産又ハ営業ヲ有スルトキ
第三條 所得税ハ左ノ所得ニ付之ヲ賦課ス
第一種
甲 法人ノ超過所得ハ税法第五條ニ定義セリ
乙 法人ノ留保所得ハ税法第九條第一項ニ定義セリ
丙 法人ノ配當所得ハ税法第十條ニ定義セリ
丁 法人ノ清算所得ハ税法第十一條ニ定義セリ
戊 本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有セサル法人ノ本法施行地
ニ於ケル資産又ハ營業ヨリ生スル所得
第十八條第三種ノ所得ニシテ左ノ各號ニ該當スルモノニハ所得税ヲ課
セス
(1から5号省略)
六 日本ノ國籍ヲ有セサル者ノ本法施行地外ニ於ケル資産、營業又ハ職
業ヨリ生スル所得
明治32年所得税法では、第2条に規定されていた「営業ヲ有スルトキ」が大正9年所得税法では第2条第1号に移動し、法人については、別途第3条で規定されることとなった。法人の所得については第3条の甲の超過所得と戊の「本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有セサル法人ノ本法施行地ニ於ケル資産又ハ營業ヨリ生スル所得」である。明治32年所得税法第5条6号は、第18条6号となった67。
2-2 外国への所得税法における「営業」の解釈説明 2-2-a 米国へ説明における日本の大正9年所得税法第2条の解釈大正12(1923)年米国より船舶運輸所得について、問い合わせがあり、米国側資料としてCONGRESS UNITED STATES & STATE UNITED STATES. DEPT. OF, PAPERS RELATING TO THE FOREIGN RELATIONS OF THE UNITED STATES 1926 § v. 2 (Kraus Reprint.1971). に記録が残されている。日本政府より所得税法第2条の解釈として、条文とその解釈が説明されている。
日本国内に支店その他の営業場を所有(a branch office or other place of business in Japan,)している場合には、法に照らして、当該法が施行されている場所で事業を行うと述べている所得税法第2条第1項の規定に該当するものとみなされる68。このような臣民又は法人であっても、日本国内に支店その他の事業所を有していない場合には、法施行地においては事業を行っていないものとみなされ、所得税は課税されない69。この時は、営業に関しては物的拠点を重視した回答となっている。なお、書簡によれば、複数やり取りがあり交渉当時は、相互免除について時間が掛かった様である。
そのときの所得税法第2条の英文は次の通りである。「営業を有する」の部分が“business in the place” となっている70。
Art. 2. Persons who, though not coming under the foregoing article, come under any one of the following clauses, shall pay an income tax for each specified income only.
Clause 1. When a person owns a property or business in the place where the present law is in operation.
この米国からの問い合わせの後、大蔵省令第27号(大正15(1926)年7月14日)所得税法施行細則を改正し外國船舶ニ対スル相互免除ニ關スル法律大正13年(法律第6号)が適用されることとなった。
2-2-b 大正13(1924)年日本政府が国際連盟へ提出した所得税に関する資料大正13(1924)年国際連盟経済財政部において資料の収集があり、国際連盟事務局図書部へ所得税法及び直接税に関する資料が送付されている71。当時の主税局長黒田英雄が書簡で外務大臣あてに渡辺善蔵『所得税法講義』(巖松堂)、西田一信『所得税法講義』(巖松堂)、矢島慶次郎『相続税法講義』(巖松堂)、唯野喜八『地租解説』(清文社)と所得税法及地租の条文の英語訳を送付している。渡辺善蔵『所得税法講義』(巖松堂)、西田一信『所得税法講義』(巖松堂)について、調査したところ該当する文献は発見することができなかった72。渡辺善蔵『所得税法講義』(巖松堂)に関して、渡辺善蔵には、ほぼ同じ年代に所得税法に関する文献が2冊ある。後節で営業に関する部分の渡辺善蔵『所得税法講義』(東京財務協会・大正10(1921)年)、渡辺善蔵『所得税法資本利子税法釋義』(自治館・昭和2(1927)年)を紹介する。そして、国際連盟に送付された当時の大正9年所得税法の条文の英語訳は、第2条、第3条と第18条第6号については、「営業を有するとき」の部分が、“engages in a business” となっている73。所得税法の英語訳の条文は次の通りである74。
2-2-c 昭和8(1933)年国際連盟報告書での「営業場」の説明ART II Any person, to whom the provisions of the preceding article are note applicable, but who falls within either one of the following categories, shall be liable to pay the income tax only on the income accruing from such source (revised by the Law No. XXIX)
1. When he has property, or engages in a business, in the place where the present law shall have force :
ART III The income tax shall be levied on the following incomes (revised by the Law No. XXIX March, 1923) :
E. The income which a corporation not having its head or main office in the place where the present law shall have force, derives from the property or the business situated in the place where the present las shall have force :
ART. XVIII. The income tax shall not be levied on the third schedule income which an item of the following categories :
6. The income of a person, who is not of Japanese nationality, accruing from the property, business, or profession in the place where the present law shall not have force :
国際連盟の昭和7(1932)年の報告書75では、日本の租税制度に関して報告が行われている。S. ISHIWATA(Chief of Section Internal Revenue,Finance Ministry)76とK. TANAKA(Secretary of Finance Ministry)77による報告とされている78。外国人・外国法人の営業による所得の課税について報告がある。日本における外国人・外国法人の納税義務について次のように説明されている。ここはあくまでも筆者による仮訳である。
大正9年所得税法には「外国法人」という用語の定義はない。所得税法では非居住者である個人や法人が国内の資産や事業から生ずる所得に対して所得税を支払う義務があると規定しているだけである。国際連盟の昭和7(1932)年の報告書では、「外国法人」という用語は非居住者である個人、パートナーシップ、または法人が日本国内で行う事業または業務を指すために使用されている(パラ4、5,7参照)(パラ72)79。そして外国法人は、個人、組合、法人の何れかによって事業を行う外国法人は、日本で発生したすべての所得について日本の所得税を課される(パラ73)80。
営業の説明で課税対象として“(b)Income derived from business operations through a permanent establishment in Japan ;”としている81。「営業を有するとき」に関する説明は次のようになっている。
所得税法は、日本において事業を行う外国企業の納税義務を詳細に定義する条文を設けていない。事業から得られる所得という観点でそのような企業に納税義務を負うことだけを規定している。この規定は日本において事業を行う外国企業は事業からの所得が生ずると十分に予期できる恒久的施設(permanent establishment)を有していなければ日本の所得税法の納税義務を負わないと解釈されてきた。
恒久的施設(permanent establishment)となるものが何かについて所得税法においては規定がない、個々のケースにおいて決定される問題である(パラ84)。
商品を扱う一連の取引を行う排他的権限を有するけれども、自己の計算においてそれらを購入販売する仲買人、総代理店、地区取扱者、販売店を通じて事業が行われる場合には契約を締結する権限の有無にかかわらず、その外国企業には通常、租税を課されることはない。なぜなら、日本に恒久的な施設を有しているとは認められないため(パラ85)。
その外国企業が法的な権限を有する地区代理店を有しているならば納税義務はその代理店が恒久的施設(permanent establishment)になるかどうかにより左右される。代理店が自分自身の施設において取引を行いそして原則として独立した事業者として行動するならば、その外国企業に代わって商品を販売する権限を有している事実は、それほど決定的なものではない。しかしながらその外国企業は、その代理店が報酬を受取り、そして被用者と考えることができる場合には恒久的施設(permanent establishment)を有すると認識されるだろう(パラ86)。
外国企業が自己に属する商品の在庫から販売を行う代理店を通じて事業を行うならば、その代理店が、その外国企業に帰属する在庫を管理し責任を持つ権限を有していなければ日本の所得税法の納税義務を負わないことになるだろう(パラ87)。
以上のように当時の日本の所得税法は報告されている。「営業を有するとき」について、所得税法の説明で恒久的施設(permanent establishment)が課税関係のきっかけであることが説明されている。さらに取引内容やなど分析が行われている点については、明治32年所得税法の学説では同じ様な説明は見つけられなかった。現在の調査でこの年代では、恒久的施設(permanent establishment)を用いて説明している文献はこの報告書以外には後述の田中勝次郎『所得税法精義』(嚴松堂書店・昭和5(1930)年)のみである。
2-3 大正9年所得税法における学説 2-3-a 吉田豊治、竹部政俊の学説吉田豊治、竹部政俊は、営業とは「一定ノ店舗又ハ営業所ヲ設ケ事業ヲ經営セルモノヲ云フ故ニ單ニ營業ノ取引ヲ爲スノミニシテ店舗又ハ營業所ヲ有セサルモノハ縱令商取引ニ依リ所得ヲ得ルモ課税セス」82としている。大正9年改正でも第1条に該当しない者に対しては第2条を適用することとなっており、法施行地に住所を有しない者との公平性の観点から課税するという考えである83。「一定ノ店舗又ハ営業所」というのは、営業税法第2条及び第3条で「一定ノ店舗又ハ営業所」という文言が出てくる。営業税法の条文の影響を受けたのではないだろうかと推測する。所得税法の解説書では昭和15(1940)年まで待たなければならない。営業税法の解説では所得税法の営業と営業税法の営業は同じであるとしている。
2-3-b 営業場概念について渡辺善蔵説84大正10(1921)年に渡辺善蔵は、納税義務者の説明において「營業を有する者」を物的関係を有する者として物的課税であると説明している85。そして、所得税法における営業とは、「營利の目的を以て繼續して行ふ所の經済的行爲の中から、勞務の供給行為を除外したるものと解すべきである。而して、税法は施行地に營業を有する者は納税義務有りとしてある。然らば其の營業を有するなる字義如何。これ亦甚だ難解なる文字である。併しながら營業を有すると云ふ以上は、外國に営業場を有する者が單に施行地に營業區域とするに過ぎずして支店又は出張所等の営業場を有しない場合の如きは課税の限りにあらずと解するのが常識上穏當である。つまり營業を有するとは營業場を有することであると解釈すべきである。又税法施行地にある外國人の支店または出張所等にして、單に仕入れのみを爲すものや、販売品の取り次ぎ行爲のみを爲し其の取引の結果に對する代金の受授等は總て本店に於て爲すものの仕入又は販賣に對する利益の如きも、支店または出張所の營業より生ずる所得と認むべきものではない」としている86。ここで外国人・外国法人について説明が行われ、単なる営業区域、単なる仕入、単なる商品の取り次ぎは、営業場には該当しないとして営業場の業務の内容について言及していることに特徴がある。
2-3-c 大正11(1922)年所得税法における藤沢弘の学説87藤沢は大正9年所得税法第2条について、物的関係に着目しながら次のように説明している。大正9年所得税法第2条の納税義務者を「物的納税義務者」としている88。「税法施行地ニ住所又ハ一年以上ノ居所ヲ有セサル者即チ其ノ人的關係ヲ有セサルモ、税法施行地ニ或種ノ物的關係ヲ有スル者ハ其ノ物的關係ニ基ク所得ニ付所得税ノ定ムル所ニ依リ所得納税ノ義務ヲ有スルモノトス」89。さらに資産、営業については「課税ノ目的ニ鑑ミ、資産ハ其ノ有形ノモノノミヲ意味シ債權其ノ他ノ無形資産ハ之ヲ包含セサルモノト解スヘク、營業亦同様趣旨ニ依リ一定ノ設備ヲ有スル營業ニ限ルモノト解スルヲ可トス」90としている。大正9年所得税法営業の解釈として「一定ノ設備」が必要であることを示している。
2-3-d 大正9年所得税法の昭和2(1927)年当時の課税実務的な実情昭和2(1927)年会計検査院木村鍵次の説明に当時の課税庁の営業場に対する課税の実際がうかがえる。
「當局従来の取扱ぶりに依れば、税法施行地内に營業を有するも一定の營業場を有せざる場合、及び施行地内に支店又は出張所を有するも、それが単に仕入れのみに従事して販売をなさゞるもの、或は商品の引き渡しのみに関する事務所にして、注文、決済に関する権限を有せざるものについては、法律に所謂営業を有するものに該当せざるものと為すが如し。
仕入、引き渡共に營業の一部なることは多言を要せざるを以て、この取扱には聊か疑問の餘地あるも、さりとて仕入れのみに依る利益の計算、引き渡しのに依る利益の算出は實際に於て至難に属すべきを以て、實際問題としては斯く取扱ふも亦止むを得ざるべし。」91
木村鍵次の特徴はそれまでの物的概念に機能的概念を追加している点にある。物的概念として「一定の營業場」と示した後、法施行地に営業場がある場合について、「商品の引き渡しのみに関する事務所にして、注文、決済に関する権限を有せざるものについては、法律に所謂営業を有するものに該当せざるものと為すが如し。」としている。営業場の取引を分析して非課税所得について解説している。そして、一歩踏み込んだ説明として「注文、決済に関する権限」として営業場の機能的概念について言及している。
2-3-e 昭和5(1930)年「営業場」についての田中勝次郎の学説田中勝次郎は、『所得税法精義』(巖松堂書店・昭和5(1930)年)において当時の国内法の取扱とドイツや国際連盟の議論を引用し営業場槪念を説明している92。「所得の原因としての營業の意義に付いては完全なる定義を見ない」として獨逸財務行政裁判所やスツルッツ(Strutz, Kommentar zum Einkommensteuergesetz. S. 507)を参照しながら営業の定義を完全に与えることは困難であるとしている93。ここでは営業には職業や農業または鉱山業の原始産業については含まないとしている94。「營業を有する」の意義として、「法文の『營業を有する』と云ふ意味は、單に營業上の取引を爲すと云ふ意味に解するのは廣また過ぐるの嫌いがある。少なくとも支店、出張所其他の營業場を有することを必要とするものと解するを穏當とする」としている95。そして営業場の意義について、1922年のドイツ所得税法草案の営業場、獨逸二重課税法草案やドルンの獨伊間の協約中における営業場の解釈を紹介している96。例えば田中勝次郎は獨逸所得税法草案理由書を引用し次のように訳している。「營業場とは、營業行爲に使用せらるる總ての場所的設備または建物を云ふ。従て營業に屬するものは、營業の本店の外に、支店、工場、販賣場所、事務所、倉庫、店舗其他営業者が營業行爲の爲め使用する建物である」97。加えて営業場の要件として、国際連盟の二重課税法の草案理由書を参照して「安定性」「即ち營業が一定期間繼續することを必要として居る」としている98。プロイセン行政裁判所の判例によると「平常性」は「營業が一定の場所に於いて行はるる期間の長短によつて左右せらるるものでなく、營業を始めるときの意思の如何によつて決せらるるものであつて、當初の目的が無期限に營業を營むの意思であった場合」と2つの要件を具備する必要があると指摘している99。獨伊間の協約に於ける營業場の解釋としてドルンの解説を引用し「常設的」について、「外國の國民經済の中に企業其のものの繼續的の經済活動を必要とする。而して經済活動は常設の場所を必要とする」としている。つまり営業場の要件として「安定性」「平常性」「常設的」「營業を營む意思」をあげている。
日本の所得税法における営業場の解釈として、田中勝次郎は「我が所得税法の解釋としても大體右の両草案の理由や二重課税防止協約の營業場の意義と同一に解すべきであると思ふ。唯、營業場の安定性即ち常設的のものたることを必要とするや否やの問題については、我税法に何等の規定がないから、解釋は困難であるが、法文には『營業を有するとき』とあつて、之を資産と相對立せしめ『營業を爲したるとき』とは規定して居ない點から考えても、之の要件は必要とするのが穏當」としている。サーカス団や行商を為す者に対してまでも営業場の観念を認めるのは広すぎると指摘している100。さらに「一九二七年國際聯盟に於ける二重課税委員會が作成した二重課税防止に關する協約の草案中所得發生地に於て課税すべき場合として工業、商業または農業より生ずる所得に関し規定して居る第五條は『工業商業又は農業及其他營業又は職業より生ずる所得に對しては其の營業亦は職業を支配する人が永久の建物(Permanent establishment)を有する國に於て課税すべきものとす』と規定して之亦營業場の永久性を認めて居る。」と附け加えている101。
田中勝次郎は、「其の營業亦は職業を支配する人が永久の建物(Permanent establishment)を有する國に於て課税すべき」として「營業場に於て行われたる營業行爲が、其の營業所得の発生に關與したる程度の厚薄に依りて、その營業場より生ずる所得を算定すべき」としている。
2-4 所得税法及営業収益税法における「営業場」に該当するか争われた判例「営業場」について、所得税法及営業収益税法の営業場かどうかが争われた判例がある。所得税法は、「営業より生ずる所得」となっているが、営業収益税法においては「営業場」と条文にはっきり示されている。二つの判例が同じ事実関係を用いて課税金額以外の点について同じ主張がなされている。
2-4-a 「所得税違法賦課取消ノ訴」行政裁判所判決、昭和7年第52号乃至55号・昭和11年5月27日第2部宣告、行政裁判所判決録第47輯巻(1936)240頁。
原告(電信業を営むデンマークのコペンハーゲンに本店がある法人)の長崎市にある海底ケーブルの陸揚及通信施設で行っている事業について、被告(熊本税務監督局長)が所得税法における第一種所得金額(普通所得大正15年1月1日から昭和6年12月31日)及超過所得を決定し通知したところ原告は次の4つ理由を挙げ、課税処分を不服とした。原告は、⑴ 法施行地外の事業であること。⑵ 条約102又は特許を理由に、私法上の取引では無く公法上の取引であること。⑶ 仮に法施行地内であっても営業場はない。⑷ 仮に所得税法における営業に該当しても納税義務はない。と主張した。行政裁判所は所得税及営業収益税について納税義務があると判断した事例である。本件は4つの争点のうち、海底ケーブルの陸揚及通信施設が所得税法及営業収益税法における営業場に該当するか⑶について検討する。
事実関係
「原告ハ丁抹コーペンハーゲン市ニ本店ヲ有スル營利法人ニシテ帝國政府ノコンセッション(原告ハ許可、被告ハ免許ト稱ス)ニ依リ長崎市梅ヶ崎町二丁目ニ長崎ステーション(原告ハ長崎製作所、被告は長崎支社ト稱ス)ヲ設ケ電信事業様ノ建物及器具機械ヲ所有シスーパーインテンデンド(原告ハ監督、被告ハ支社長ト稱ス)以下八十餘名ノ職員ヲ置キ國際電信事業ニ従事シ居ル者」である。原告は「長崎市又ハ其ノ附近ニ陸揚セル海底電信線ヲ所有シ地上線又ハ地下線ヲ以テ右海底電信線ヲステーションニ接續シ之ヲ帝國政府ノ電信系ト連絡シテ運用スルノ權利ヲ享有システーションニ發受信用ノ電信機械ヲ設備シスーパーインテンデント以下八十餘名ノ職員ヲ置キ長崎郵便局トノ間ニベルトコンヴエーヤーニ依リ電信原紙、波動字形紙ヲ受授シテ一般公衆ノ外國電信ノ發受中繼ヲ爲シ電信ノ通數及語數ヲ計算シテ計算書及料金對照表ヲ作成シ之ニ基キテ中繼料ヲ算出シ之ヲ収得シ居レル」、そして料金の支払はニューヨークに所在する原告の銀行口座に支払われ一部が長崎にある原告のステーションに支払われる。
主文「原告ハ所得税法ニ依ル納税義務アルモノトス」
原告の主張争点⑶について
「假ニ原告ハ帝国領域内ニ於イテ營業ヲ爲スモノナリトスルモステーションハ營業場ニ非ス」として営業場に該当しない理由として2つあげている。
(イ)「ステーションハスーパーインテンデントノ室以外ハ技術的作業用ノ室ナルノミナラス従業員モ殆ト全部技術者ノミニシテ而モ前示ノ如ク公衆ヨリ直接ニ電信ヲ受附クルコトナク従テ公衆ヨリ電信料金ヲ収受セス長崎郵便局ヨリ囘付スル外國電信ヲ發シ外國ヨリ帝國宛ノ電信ヲ受ケ之ヲ同局ニ囘付スルニ止マリ純然タル機械的作業ヲ爲ス工場的設備ニ過キス」。
(ロ)「ステーションハ毎月末其ノ月中ニステーションヲ経由シタル外國電信ノ語數ノ統計表ヲ作成シ之ニ基キ月次計算書ヲ作成ス而シテ右計算書ハ長崎郵便局長之ヲ檢査シ同局長トスーパーインテンデント連署ノ上逓信省ニ送付シ同省ハ原告本社ト協定シ原告本社ノ紐育ニ於ケル取引銀行ニ送金し業務料金ヲ決濟スルモノニシテステーションハ何等収益ヲ得ル所ナシ。」決済通信料金は原告本社のニューヨークにある銀行に直接支払われ収益を得ていない。
被告の主張争点⑶について
原告の主張に対して被告は、それぞれ原告の主張(イ)(ロ)に対応する形で次の通り主張している。
(イ)「原告ノ帝國ニ於ケル取引ノ相手方ハ民衆ニ非ス帝國政府ニシテ原告ハステーションニ於テ電信業ヲ營メルモノナレバ右行爲ハ所得税法ノ所謂營業ニ該當システーションハ営業場ナリ又ステーションニ於テ電信事業ヲ營メルモノナレハ右行爲ハ所得税法ノ所謂營業ニ該当システーションハ營業場ナリ又ステーションハ純然タル機械的作業ヲ爲ス工場的設備ニ過キストイ云フモ電信事業ハ其ノ性質上發信及受信ノ事務カ事業ノ大部分ニシテ右行爲ハ店頭ニ於テ商品ヲ賣買スル場合ト同シク營業ナル」
(ロ)「ステーションハ毎月一回料金ノ計算書作成シ長崎郵便局之ヲ檢査シ之ニスーパーインテンデント及同局長連署ノ上逓信省ニ送付シ同省ハ之ニ依リステーションニ支拂フヘキ料金ノ計算ヲ爲スモノナルカ故ニステーションハ料金ノ計算及其ノ請求ニ直接關與セサル」、通信料金の支払方法が外国の銀行で行われていることは「料金受取ノ便法ニ過キス」ト主張している。
判決要旨
争点⑶について、裁判所は次のように根拠を示している。
「原告カステーションニ於テ一般公衆ノ爲外國電信ノ發受ノ中繼ヲ爲シ電信ノ通數及語數ヲ計算シテ計算書及料金對照表ヲ作成シ之ニ基キ中繼料ヲ算出シテ居レルコト前示ノ如クナル以上中繼料ノ決算ノ場所如何ヲ問ワスステーションハ營業場ナルコトヲ明ナリ」
2-4-b 「營業収益税違法賦課取消ノ訴(中間判決)」行政裁判所判決、昭和7年56号乃至58号・昭和11年5月27日第2部宣告、行政裁判所判決録第47輯巻(1936)254頁。
事実関係
直前の裁判(昭和7年第52号乃至55号、昭和11年5月27日第2部宣告)と同じ事実関係を用いている。「被告ハ原告ヲ営業収益税法施行地ニ営業場ヲ有スル營利法人ナリ」として、営業収益税法における純益額(昭和3年1月1日から昭和4年12月31日)を通知した部分以外は直前の裁判と同じ事実関係を用いている。そして原告は納税義務がないとして、これを不服とした。
主文「原告ハ営業収益税法ニヨル納税義務アルモノトス」
原告の主張
直前の裁判(昭和7年第52号乃至55号、昭和11年5月27日第2部宣告)と同じ主張を行い営業収益税法における営業場の有無については「営業収益税法第一條ニハ『本法施行地に本店、支店其ノ他ノ營業場ヲ有スル營利法人ニハ本法ニ依リ営業収益税ヲ課ス』ト規定シ第七條第五號ニハ本法施行地外ニ在ル營業場ニ於テハ營業収益税ヲ課サル旨規定スルヲ以テ本法施行地外ノ營業場ニ於テノミ行ハルル營業ノ純益ニ對シテハ本税ヲ賦課セサル趣旨ナルコト明白ナリ」と附加した。
被告の主張
「原告ハ營業収益税法ニ依ル納税義務アルモノトス判決ヲ求ムト申立テ別件ト同一ノ事實理由」を主張した。
判決理由
全文は次の通りである。
「原告カ長崎ステーションヲ營業場トシ外國電信に關スル營業ヲ爲セルモノト認ムヘキコトハ別件ニ於テ判示スル所ノ如シ従テ原告ハ營業収益税法第一條ノ營利法人ニ該當シ同法ニヨリ營業収益税ヲ納付スル義務アルモノトス仍テ主文ノ如ク判決ス」
2-4-c 杉村章三郎の評釈103評釈は営業場の判定の部分に関して、「帝國に住所または居所を有しない外國人もこれに該当するときは當然納税義務者と爲る。だから本件の如き外國営利法人がわが國所得税法の納税義務ありや否やは、その會社が税法施行地に營業を爲し、これにより所得を擧げ居るや否やの問題の決定によつて定まる(營業収益税については營業場を有するや否やの問題)。判決は原告会社のステーションが電信設備のみならず支配人外八十餘名の職員を有するの事實に基き之を營業と認定してゐるのである。この事實認定はおそらく正当であろう。」としている104。なお、国際的二重課税について、デンマークにおいても綜合課税しているのであれば、国際課税上の二重課税の問題があるのではないかと指摘している105。
2-4-d 明治32年改正所得税法から大正9年改正所得税法までの「営業場」の学説所得税法における「営業場」の槪念について、学説を整理すると次のようになる。明治32年所得税法の立法趣旨から見れば、帝国議会での若槻礼次郎の説明を用いると「立派に据え付けたる……」と発言しており、何らかの物的施設が条件である。そして「営業場」がはっきりと資料や文献に出てくるのは明治42年の省議や明治44年の関口健一郎以降である。関口健一郎は、ドイツ所得税法の営業場の概念を用いて説明している。
大正9年所得税法における「営業場」については次のようになる。吉田豊治、竹部政俊の学説で、「一定ノ店舗又ハ営業所ヲ設ケ事業ヲ經営セルモノヲ云フ故ニ單ニ營業ノ取引ヲ爲スノミニシテ店舗又ハ營業所ヲ有セサルモノハ縱令商取引ニ依リ所得ヲ得ルモ課税セス」として営業税の営業所概念を用いている。渡辺善蔵は、吉田豊治、竹部政俊の学説に加えて単なる営業区域、単なる仕入、単なる商品の取り次ぎは、営業場には該当しないとしている。田中勝次郎は「営業場」(「永久の建物(Permanent establishment)」)は、「安定性」「平常性」「常設的」を条件としている。
2-4-e 判決理由における営業場概念の検討行政裁判所が営業場の根拠としている部分について、「原告カステーションニ於テ一般公衆ノ爲外國電信ノ發受ノ中繼ヲ爲シ電信ノ通數及語數ヲ計算シテ計算書及料金對照表ヲ作成シ之ニ基キ中繼料ヲ算出シテ居レルコト」と指摘している。これは、原告の主張の「ステーションハ料金ノ計算及其ノ請求ニ直接關與セサル」に対応すると考えることができる。上記の学説と比較すると、「営業場」の判断について、何らかの物的設備、一定の店舗や「安定性」「平常性」「常設的」などの条件に対応しているように見える。しかし行政裁判所の根拠は所得税法における営業場概念の学説とは、物的施設の部分のみ符合しているが十分な説明ではないと考える。もう一つの考え方としては、所得税法と営業収益税法の営業場が同時に判断されており同じ理由である点について、所得税法ではなく営業収益税法の営業場の概念を用いて判断されたのではないだろうか。
2-4-f 営業収益税法における「営業場」の検討営業収益税法における法人に対する課税要件は「本法施行地ニ本店支店其ノ他ノ営業場ヲ有スル営利法人ニハ本法ヨリ営業収益税ヲ課ス」(営業収益税法(大正15(1926)年法律第11号)第2条、以下「営業収益税法」という)となっている。営業収益税法における営業場とは、営業税法の「営業場」とすれば次のように考えることができる。営業税法は第1条で業種の指定を行い第2条の物品販売業と第3条の金銭貸付業において「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」を規定している。営業税法は「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」の存在が一つの判断基準となりうる。なお、明治から昭和にかけて営業税法・営業収益税法の営業場概念について、拙稿「国税である営業税及び営業収益税における課税客体としての営業の範囲:国税としての営業税及び営業収益税の国際的側面」法学ジャーナル98号(令和2(2020)年)で検討した106。
明治17年の営業の概念についてドイツの営業税(Gewerbe Steuer)を参照して論じている文献がある107。小川郷太郎は、営業について次の5つの要素を挙げている。
つまり「營業ハ營利ノ目的ヲ以テ一般交換經濟ニ参與シ獨立的ニ繼續シテ營マル、經濟業務ナリ」としている108。なお、昭和2(1927)年のプロイセン営業税条令の条文では、「第1條営業税は業務執行の為、普国内に営業場を有する継続的営業に課す。継続的なる利得を目的とする独立の活動にして一般的経済交通に参加するものは、凡て営業と看做す。」となっている109。「一般経済交通に参加するもの」が「営業」を判断する上で重要なポイントとなるのである。
営業税法における「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」の解釈について明治30年代に多くの行政裁判所の判例がある110。そこで「営業場」の理論が形成されたと考えられる。「営業場」は、その業態によって「営業場」を認定することとなる。「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」の解釈として次のようにまとめることができる。「営業場」とは「不断公衆ノ自由ニ出入シテ営業上ノ取引ヲ為ス場所」(行政裁判所明治34(1901)年10月11日判決(明治34年第72号))。「営業場」は特別な場所を必要としない、住居であっても「営業場」に該当するとして「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」は「必スシモ特設ノ場所ニ限ル法意ニアラサレ」としている(明治40(1907)年判決(明治39年第178号、明治39年第161号、明治39年第162号))。営業を目的とした取引すべてが一箇所で行われている必要はなく、営業の一部が「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」にあれば「営業場」が存在すると考えることができる。金銭貸付の事務の取扱いがある場所が「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」であるとした(行政裁判所明治38年判決(明治37年第921号)及び大正5(1916)年判決(大正3年第158号)行政裁判所判決録第16輯542頁。)。事務所には取引の一部分であっても「売買ノ成立及契約履行ニ直接関与スルモノ」があれば課税される(行政裁判所大正8(1919)年10月16日判決大正7年第239号)行政裁判所判決録第30輯815頁。)。
一定の営業物があれば場所がなくても営業税法の課税対象となると考えることができる111。物品販売業においては、取扱う商品によって、営業場を必要としない場合があり、その例外について、規定され販売と製造の区別が難しい場合や、販売の方法によって営業場を有しない場合も営業場ありと看做していた112。
2-4-g 分析行政裁判所の争点⑶の営業場の判断について判決理由は「原告カステーションニ於テ一般公衆ノ爲外國電信ノ發受ノ中繼ヲ爲シ電信ノ通數及語數ヲ計算シテ計算書及料金對照表ヲ作成シ之ニ基キ中繼料ヲ算出シテ居レルコト前示ノ如クナル以上中繼料ノ決算ノ場所如何ヲ問ワスステーションハ營業場ナルコトヲ明ナリ」となっている。
裁判所の営業場についての判断の核心は、営業税法における営業場概念に符合する3つのポイントがある。
第1として、「ステーションニ於テ一般公衆ノ爲外國電信ノ發受ノ中繼ヲ爲シ」を指摘している。その意味は、小川郷太郎の営業の5つの要素のうちの1つである経済的業務であることを意味している。
第2として、電信業における通信料金の請求の基礎となる電信の語数を料金表と照らし合わせ計算している点に注目することは、金銭貸付業における金銭貸付の事務を取り扱う場所が営業場に該当するとした事例と共通点がある(行政裁判所明治38年判決(明治37年第921号)及び大正5(1916)年判決(大正3年第158号))。
第3として通信料金の支払方法が外国の銀行で行われているのは取引の一部であって全部ではない。料金の請求を行い収得しており取引に直接関与している点について、事務所には取引の一部分であっても「売買ノ成立及契約履行ニ直接関与スルモノ」があれば課税される(行政裁判所大正8(1919)年10月16日判決大正7年第239号))。
つまり所得税法の裁判(昭和7年第52号乃至55号、昭和11年5月27日第2部宣告)においての「営業」は、営業税法・営業収益税法の営業場概念を用いて判断されていたと考えることができる。課税庁側としては所得税法と営業税法及び営業収益税法の「営業場」は共通の概念であると考えていたのではないだろうか。後に昭和16年池田武の文献において法人税法における「営業場」の説明で、営業税法・営業収益税法の判例を引用し説明している113。
2-5 小括大正9年に所得税法が全文改正されるが、営業から生ずる所得に関する条文については、大きく条文の変化はなかった。
変化が見られたのは外国からの問合せに対する回答で、米国への回答は物的拠点を意味する(a branch office or other place of business in Japan,)とし、国際連盟に対する回答は機能的に重視する“engages in a business” へ変化した。さらに国際連盟での議論を経て“ (b)Income derived from business operations through a permanent establishment in Japan ;” になった。なお“engages in a business” へ変化したのは、米国との国際船舶運輸所得に関する交渉があったためではないだろうかと推測する。
行政裁判所の判例(昭和7年第52号乃至55号・昭和11年5月27日第2部宣告及び昭和7年第52号乃至55号、昭和11年5月27日第2部宣告)からは、所得税法の営業場の概念が営業税法・営業収益税法の営業場概念を用いて解釈していることが、行政裁判所の判旨及び課税庁の主張から分かった。所得税法の「営業」が営業税法の「営業場」と共通の概念であれば、営業場概念は営業税法が国税となった明治29(1896)年から存在していたと考えられる。所得税法における営業場概念に影響を与えたのは明治29(1896)年の営業税法であると言えるであろう。
本章では昭和15(1940)年から昭和29(1954)年ごろまでの所得税法及び法人税法を中心に分析を行っていく。当時の主税局の解説では、この改正において「直接国税の体系を根本的に改組し、所得税については分類所得税及び総合所得税の二本建てとし、法人については法人所得の性質に鑑み別途に課税することとし、第一種所得税及び法人資本税を統合して法人税を創設したとしている114。昭和29(1954)年の日米租税条約までの「営業を有するとき」について税制改正での説明や条約交渉時の資料を中心に検討する。
3-1 昭和15年から昭和25年ごろまでの所得税法及び法人税法の条文所得税法及法人税法の条文は若干の変更はあるものの明治32年所得税法の「営業(事業)を有するとき」はそのままである。条文の変化は次の通りである。
・所得税法
昭和15年(法律第24号)第2条1項1号
本法施行地二資産又ハ事業ヲ有スルトキ
昭和22年(法律第27号)第1条1項1号
この法律の施行地にある資産又は事業の所得を有するとき
昭和25年(法律第71号)第1条2項1号
この法律の施行地にある資産又は事業の所得を有するとき
昭和29年(法律第52号)第2条非居住者
第一条に見出しとして「(納税義務者)」を附し、同条第一項中「個人」の下に「(以下居住者という。)」を加え、同条第二項各号列記以外の部分中「個人」の下に「(以下非居住者という。)」を加えた。
・法人税法
昭和15年(法律第25号)第2条
本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有スル法人ニ對シテハ其ノ所得及資本ノ全部ニ付法人税を賦課シ本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有セザル法人ニ對シテハ本法施行地ニ於ケル資産又ハ營業ノ所得及之ニ關スル資本ニ付テノミ法人税ヲ賦課ス昭和22年(法律第28号)〔昭和15年法律第25号の全部改正〕第1条第2
号
この法律の施行地に本店又は主たる事務所を有しない法人でこの法
律の施行地に資産又は事業を有するもの
昭和25年(法律第72号)第2条につて外国法人115
「此の法律の施行地に本店又は主たる事務所を有しない法人で此の法律の施行地に資産又は事業を有するもの」を同條第二号掲げる法人(以下外国法人という。)」に改める。
所得税法の条文において「営業」が「事業」に変更されたのが昭和15(1940)年である。そして法人税法では、昭和22(1947)年であった。
3-2 所得税法の「営業」から「事業」への変化について課税庁の説明昭和15年の改正で所得税法は営業から事業へ条文の文言が変化している。直接的に「営業を有するとき」を説明したものではないが、分類所得の説明で営業から事業に変更した理由が述べられている。事業所得について「通常の營業といふ観念の範圍よりももう少し廣く、農業漁業等の原始的産業であるとか、病院の經營といつたやうな事業をも含むものと解するのである。」としている116。当時の主税局長田中豊からも事業所得について営業所得より範囲を広くしている旨の説明がある。「是は従來営業収益税を課税致して居りました營業に屬する各種の業態の所得は勿論でありますが、更に此の事業所得には不動産所得、配當利子所得、勤労所得と云つたような他の所得に屬さない總ての所得を事業所得として課税することとに相成つて居る譯であります。」と事業所得に変更になった点を説明している117。従来の所得税法における営業所得は、営業収益税と範囲がほぼ同じであったことが説明されている。
3-3 昭和16(1941)年池田武の営業場概念の学説昭和16(1941)年に、法人税法の営業場に関する解説において、池田武『例解法人税法精義』(森山書店・昭和16(1941)年)で営業場の概念について解説がある。その序文において、当時の大蔵省主税局長松隈秀雄により次の説明がある。「本書の叙述は平坦且つ懇切に能く立法趣旨を闡明して餘す所無く、特に従来の著者に於いて叙述せられざりし基礎槪念乃至説明の不十分なりし部分をも詳細に之を説明して居ることは本書の特色と認められ實務家、納税者は勿論一般法人税法の研究家にとり誠に得難き参考書」としている118。したがって当時の大蔵省の立法趣旨を説明する文献として考えることができる。池田武『例解法人税法精義』(森山書店・昭和16(1941)年)での営業場については次の通りである119。
営業の意味について「営業とは利益を得る目的を以て同種の行爲を繼續的集團的になすことを謂ふ。営業を構造的に見れば、それは人的及び物的の兩要素より成り、それらが有機的に組織化されて活動状態にあるものである。人的要素とは経営首脳者及び経営補助者であり、物的要素とは營業の爲の財産である。多数の學者は營業の語に二義ありとし、主觀的意義に於いては營業上の活動の全體を意味し、客觀的意義に於ては營業の目的の爲めに有する財産全體を謂ふものと爲す。第一の意義に於いては営業は営業上の活動であり、第二の意義に於ては営業財産である。然し此観察は完全なるものではない。營業は一種の動的生活體なるを以て單純なるものの如く客觀視するを得ない。營業財産は営業上の活動を離れて存在するものではない。又營業上の活動は財産なくしては行われ得ぬ」としている120。
税法上の「營業ヲ有ス」について「税法が『營業ヲ有ス』との營業は人的、物的各要素を有機的に組織化した動的なる構成體であるが、営業場を有しその営業場において營業を爲す事である。故に外國法人が内地に単なる營業区域を有する場合、或いは内地と營業場の取引を成したるのみの場合は内地に營業を有するのではない」121。
「営業」について、「『營業ヲ有スル』とは営業場を有する意味である」と解釈している。さらに「営業場」については「營業場とは營業を爲す場所であるが、課税の客體たる營業所得を生ずべきものと観念せらるる場所にして商法の營業所の観念より廣い。即ち營業場とは本店又は主たる事務所以外の支店、出張所、派出所の如く通常の營業の基本的なる取引行爲の行はわるる場所は勿論、工場、作業場、倉庫、停車場、發電所等の如き補助的行為の行はるる場所も包含するものである但し單なる商品の陳列場、貯蔵所、一時の工作所、定期市等の如き一時の目的の爲に設けらるるものは營業場と謂うを得ぬ。營業場たるには營業場の常設的設備なることを要する。此の點については税法に何等の規定なきも、法文に『營業ヲ有スルトキ』とあつて、之を資産と對立せしめ『營業ヲ爲シタルトキ』と規定せざりし點よりしても此の要素を必要とするものと解すべきである122。」と営業の活動及び具体的な例示を示している。
営業場の認定について2つの判例が紹介されている。紹介されている判例はいずれも営業税法の営業場の認定に関する判例である123。
「(一)船舶貸付の如き性質上特別なる營業場の認定に付いても、一定の場所に於いて賃貸借契約及び賃料収入の経理をなすときは法律上其の場所を營業場とする。(註一)」「註一、行判、大正九、七、二〇判決」124
「(二)直接單獨に註文申込に對し承諾を爲すの権限を有せず、一に本店の指揮命令に依り機械的に業務に従ふに過ぎずとするも、注文者より送付し来れる註文請書を注文者に發送することに依りて契約りて契約承諾の通知を發し、且つ買受人に対し註文品の引渡即ち契約の履行行爲し、もって賣買の成立及び契約履行に直接關與する場所の如きは營業場である。(註二)」「註二、行判、大正八、一〇、判決」125
営業による所得に関して外国法人の損益について営業場を有する場合の所得について、内国法人に準じて所得を計算することと説明がある126。ただし「外國法人が内地の營業場においては單に仕入を爲し、又は販賣品の引渡のみを爲し、其の取引の結果に對する代金の授受等は總て本店に於て爲す、法人の仕入又は販賣に對する利益は内地營業場の所得とせざる取扱となつている」としている127。池田武の解説書では、営業場概念の解説とは別に外国法人の損益の説明の中で、単純仕入や引渡のみの場合は非課税と説明を付けているのが特徴である。なお、当時から外国人・外国法人の所得計算については非常に難しく問題があったと推測する128。
3-4 昭和20(1945)年法人税法における営業場の大蔵省主税局の解釈昭和20(1945)年の大蔵省主税局の解説で「営業場」についての解釈は次のように行われている12
「營業なる意味については動的の意味と静的の意味と二つあり、動的には営業活動を指し、静的には営業財産を指す。而して内地に営業を有することは内地において営業を爲し、内地に営業場を有することである。
営業場とは営業に関する直接又は間接の業務を行ふ場所であり、本店、支店出張所の如く通常營業の基本的な行為の行われる場所は勿論、商品の製造工場、鉄道業に於ける停車場、電氣事業に於ける發電所の如く補助的行為の行はれる場所をも含むも、商品陳列場、貯蔵所、又は單なる物品の仕入場所又は引渡場所如きは含まない」
「営業」の活動や「営業場」の具体例を上げている。これらは池田武での説明に近いものになっている130。「営業場」は、やはり営業税法の「営業場概念」を用いて説明されていると考えることができる。
3-5 昭和25(1950)年平田敬一郎による営業所得の説明昭和25(1950)年に当時主税局長であった平田敬一郎は、営業所得について所得税法の営業所得は、営業税法の「営業場」とほぼ同じである旨を説明している131。営業所得、商工業、金融業等の所得は営業所得であるとしている132。そして「営業所得の範囲は、旧営業税の課税を受ける営業の範囲と大体において同じであるが、しかしその当時営業税の免除を受けていた、例えば印紙切手類の賣捌、度量衡の生産、販賣、新聞紙法による出版等による所得も所得税法上はすべて営業所得として課税される。」と説明している133。所得税法の「営業」は、営業税法における「営業」と営業税法の免税事業者を除いて同じ概念であることが示された。
3-6 昭和26(1951)年6月日米租税条約交渉に向けての事業所得の概念整理所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本とアメリカ合衆国との間の条約(昭和30(1955)年条約第1号、以下日米租税条約という。)134に向けて、所得税法及び法人税法における事業所得について、大蔵省内部で検討され資料が残されている。租税条約については、米国と諸外国(フランス、英国、スエーデン、カナダなど11カ国)の租税条約が大蔵省内部で研究されている。閲覧可能なものとして国税庁『国際租税協定関係の参考資料集』(国税庁・昭和26(1951)年5月)がある。そして同じ時期に日本の所得税法・法人税法の事業所得を整理した資料がある。「所得税法及び法人税法に規定する『法施行地による資産又は事業」の範囲について(昭和26(1951)年6月13日)」と「所得税法及び法人税法の適用上『法施行地に事業がある』とされる基準並びにその課税標準に関する事項(昭和二六年六月二五日)」である135。この資料米国の条約の研究のため、国内法の事業所得概念が整理され資料が出ていると考えられる。
▻「所得税法及び法人税法に規定する『法施行地による資産又は事業』の範囲について(昭和26年 6月13日)」では、事業活動について3つの基準を設けて検討されている。
1.事業活動の地理的場所に関する3基準(法施行地に事業経営の中枢がある場合、法施行地外に事業経営の中枢がある場合、法施行地内部に対して取引行為が及ぶ場合)
2.売買、生産、運輸又は通信に関する基準
3.取引に関する基準(契約を取り決めた場所、商品等が市場で売られた場所、代金の支払われる場所)
事業を行う事務所と国境をまたぐ取引を行う場合どのような基準で課税出来るのか地理的、事務所の性格や取引の分析が行われていた。法施行地にある外国人・外国法人の事務所の機能について分析が行われている。
▻「所得税法及び法人税法の適用上『法施行地に事業がある』とされる基準並びにその課税標準に関する事項について。国税庁(昭和二六年六月二五日)」136では事務所の機能について次のように整理され解釈されている。
四.茲にいう法施行地にある「営業所」及び「代行者」とは左の(一)に掲げる者で(二)の各号に示されている機能の何れかを行う者をいう。但し、(三)に示されているものは含まれない。
(一)「法施行地外にある者」の法施行地内にある支店、営業所、事業所、事務所等」
内国法人の本店又は法施行地にある支店、営業所、事業所、事務所等所得税法に規定する「住所」又は「居所」を法施行地に有する者
(二)1.「法施行地外にある者」よりその法施行地内での業務について一般的又は一定範囲の代理権を与えられる者
2.「法施行地外にある者」より、その法施行地内での業務に関し、特定の契約を結ぶ権限を与えられている者
3.「法施行地外にある者」の扱う商品等の販売仕入れを取扱う者で価格と仕入れ先又は売り込み先についての裁量権限を与えられている者
販売等についてリスクを負担し、利益の配分に与える者
収入金等の資金を保管し、その投資運用を委託されている者
4.「法施行地外にある者」のために、その業務について設計より入札又は契約に至る一連の事務を行うもの
5.「法施行地外にある者」のために、採掘、製造、加工、熟成又は建設、組み立て等の工程を委託されている者
6.「法施行地外にある者」のために、商品、原材料、製品等の常時註文に應じ得るストックを保管し、或いは何等の照覆を要しないで直ちに注文を取り次ぎ得るほどに整備された見本、型録及び価格表を常時備え付ける者
7.「法施行地外にある者」より特許権著作権等又は秘密行程等の使用について保護又は監視の権限を与えられている者。
8.「法施行地外にある者」の事業について継続的且つ排他的な取引関係にある者
(三)1.「法施行地外にある者」のために、単に注文を取り次ぎ又は取引に関する書類の 送受を仲介し或いは一般的な売込みの勧誘のみを行う者
2.「法施行地外にある者」のために、その製品等の保守修理のための技術者のみを置き又は専ら広告宣伝のみを行う者
3.予め定められた通常の手数料等を以て一般不特定の者のためにサービスを提供する者が、「法施行地外にある者」と特別の関係になく業務の仲介をする場合。
4.旧証券取引所又は商品取引所の取引員がその取引所の取引に関して法施行地外にある者」を代行する場合
5.茲にいう「法施行地にある者」とは、法人及び個人について左の者とする
(一)内国法人の本店又は法施行地にある支店、営業所、事業所、
事務所等
(二)所得税法に規定する「住所」又は「居所」を法施行地に有する者
(三)「法施行地外にある者」の法施行地にある「営業所」又は「代行者」
以上の通り法施行地にある外国人・外国法人の事務所の機能の整理を行っている。物的拠点を有するか、その機能はいかなるものか検討されている。なお、これらの事業所得概念の整理において、資料には英国の例をもとに検討されていたとうかがえるメモが多数残されていた137。英国の所得税法の場合ではどうなるか検討されている。また、資料には日本の営業税法に関して、「営業税- 物税的(補完税としての営業税)観念にとらわれたために恒久的施設を有する」というメモが残されていた138。事業所得を整理する時に英国の所得税法139 と営業税の営業場概念を参考にして恒久的施設(permanent establishment)を検討していたと考えられる。
3-7 昭和26(1951)年12月外国人・外国法人の課税国税庁調査課の安川七郎による解説により、当時の外国人・外国法人の事業所得についての所得税法及び法人税法上の解釈が示されている140。
外国法人が法施行地にある事業所得について、どのような事業に課税するのか、またその事業に帰属する所得とはなにか検討を行っている。「法施行地にある事業」について、問題点としては2つ挙げられている。その2つは⑴ 事業とは何を指すのか、⑵ 事業が法施行地にあるか否か、という2つの問題点を取り上げ当時の見解を述べている141。
⑴ 事業とは何を指すかについては、さらに次の4つに分解し考察している142。
第1は事業を有するときと規定し取引と規定しなかったところに着目して多少とも斯様に考える余地があるように思われること。
第2は事業のための固定的な施設のみを意味するものではなくより広義に解し得ると考える。
第3は事業は非営利事業を含む場合があるものと解されて良いと考える。
第4は業種については限定されない(所得税法の事業所得を含むが業種には限定されない)。
上記のように4つの問題点を指摘している。特に第1の取引に着目することや第2の固定的施設に限定されないとする試みがある。「法施行地にある事業」に課税するため、事業所得の範囲をより広義に解釈しようと試みているのではないだろうか。
⑵ 事業が法施行地にあるか否かということである143。「この点は外國人が課税対象となることは法施行地の内外にまたがる事業活動を意味することほかならず、斯る経済活動を地理的に分解帰属せしめて法施行地において課税することが合理的であると認められる所得の範囲を決定するという困難な問題に連なるものである。」としている144。
さらに安川七郎は法人税法総合通達一で取扱に関して検討し「事務所等は必ずしも固定した支店等のみを意味するものではなく、現実に事務所たる機能を営む場所があれば足りると解されて良い」としてている145。そして所得税法基本通達の七(二)「法施行地に事務所または事業所がない場合であっても法施行地において事業に関する取引行為がなされる場合」を除いて「事務所等の事業活動の中心において人的に把握し、次いでこれに帰属せしめられるべき所得を課税対象とする趣旨と考えられる。然し問題の国際取引を内容とする事業活動の何れをこの事務所に帰属せしめるべきかの原則を与えていない」と指摘するに留まっている146。
「法施行地にある事業」を広義に解釈して課税の範囲を広げようと試みているが、それゆえ法施行地に事業があるかないかの判断は難しくなってしまったと考えられる。なお、昭和27(1952)年の法人税法の取扱で「事業」や課税範囲について解説があるが安川七郎ほど踏み込んだ説明はされていない147。
なお外国人・外国法人の事業所得の計算方法は、内国法人に準じて行われる。その所得計算方法は、外国人課税の通念とされ又国際的に広く認められ採用されている独立計算方式で法施行地にありとされる事業の独立計算の問題であって、損益を能う限り厳密に計算して法施行地外の事業と損益の通算を行わない立場に立つものであるとしている148。
3-8 日米租税条約交渉昭和28(1953)年における日本の「事業場概念」及び「事業による所得」昭和28(1953)年10月の日米租税条約の交渉において、恒久的施設についての議論がある。そのなかで所得税法及び法人税法の事業所得についての解釈が一部が示されている149。
3-8-a 条約交渉時の日本の恒久的施設及び事業所得に対する解釈例えば、恒久的施設の条文の解釈について米国側へ確認を取る発言の中で次のような質疑応答が行われている150。
(ア) 恒久的施設の意味
(日) “office” の意義についてそれは一定の物理的施設(物理的概念)を意味するのか、又は事業活動のなされる所(機能的概念)を指すのか。
(米) 機能的概念に重点がある。即ちnormal transaction が行われているかどうかという点に重点がある。
日本側から機能的概念を指すのかという問に米国の回答からは、物理的概念も含めて機能的概念に重点があると読み取ることができる。機能的な問題点の議論の例としてホテルで注文を受けている場合があった151。また出版社が国内で印刷発行する場合と米国内で印刷発行する場合で購入申込を本店に取り次いだ者に対して本店から直接送付する場合に後者の部分に対して日本で課税することはできないか、という議論があった152。
(イ) 国内の事業より生ずる所得
さらに日本の源泉から生ずる所得について国内法の解釈をはっきりと示されている発言がある153。なお、条約交渉の際に銀行の海外支店に帰属する所得の問題など議論されているが、以下の内容は所得税法(法律第71号)第1条2項1号「この法律の施行地にある資産又は事業の所得を有するとき」の「事業の所得」に該当する部分に対応する発言を紹介する。
(日) 了承
次に、“源泉からの所得”(“from sources within such other State”)について。例えば日本の支店がその管轄権内にある第三国に対して商品を販売する場合に、その販売から生ずる所得は日本の源泉からの所得とならないかどうか。
(米) 米国では米国内への販売部分に対してのみ課税している。従って例えば英国の会社の支店が米国に在りカナダに支店がない場合に、米国の支店からカナダ国内に対して販売した部分については(salesman をカナダに派遣した場合であつても)課税しない。
(日) 日本では、このような場合には、日本の源泉から生ずる所得として課税する扱いである。
(米) それはconvention において何等拘束するところではない。
日本の事業場概念について、例示を示している。さらに、日本側は交渉過程において米国の所得税法を参照し、いわゆる物品の販売について所得がどちらの国で発生するのか検討を行っている議論が見られた154。現在までの調査ではその後の条約交渉における議論を発見できていない。
(日) 次に“purchase and sale of personal property” からの所得につい
て、その源泉は“the country in which such property is sold” とあるが
その意味はどういうことか。
(米) それは国内法の解釈、適用としては、そのproperty のtitle が
通過する場所ということである。例示すれば次の通りである。
(米) 従って、唯一の基準は“where does the sale teke place” という
ことであってbuyer 又はseller がどこにいるかということは問題では
ないのである。
(日) 意味は分かつた。さらに検討することとしよう。
日米租税条約交渉会議の第2回目では、この部分について結論に至る資料を発見することはできなかった。
なお日米租税条約交渉会議に出席した鈴木源吾155は、銀行の海外支店に帰属する所得の問題など検討した結果、「日本はソーセスの考え方も取り入れているが、同時に事業所得というような立場からソーセスとは関係がないもの即ちパーマネント・エスタブリッシュメントがどこから得ようと、そこに帰属する所得には税をかけられるという2つの原則が入っている、それを協定の中でははっきりさせることになった。」としている156。銀行業における事業活動の利子・配当について日米租税条約交渉時に問題となり2つの原則を取り入れる結果となったのである157。
3-8-b 日米租税条約交渉後の事業所得についての説明 「事業を行う一定の場所」の説明日米租税条約交渉会議に出席した志場喜徳郎158が恒久的施設は「事業所得の課税ないしは非課税の基準になるもの」であり「事業を行う一定の場所」と説明している159。「ただ事業場として物的施設、建物を有して、これを賃借でもいいわけでありますが、それを占有してそこで事業を行うという場合には問題はありませんが、これは必ずしもそういった物理的な独立の場所だけ問題には考えていないというのが従來の解釈でありまして、この條約でも同様であります。と申しますのは、どちらかといえば機能的に、ファンクショナルに見ておるのでありまして、」と説明している160。ホテルに止宿している事例などあげ恒久的施設において機能的概念は取引が行われているかどうかであり、ホテルの部屋であっても恒久的施設に該当するとしている161。
日米租税条約交渉後の国会での事業所得の説明当時日米租税条約交渉に出席していた渡辺喜久造が国会で、二重課税排除の説明の中で事業所得について説明がある。渡辺喜久造は「原則として、日本に本社があればその全所得について法人税を課税する、本店がなくて支店だけしかなければその支店の所得だけについて日本としては課税する、こういう考え方で法人税ができておる訳でございます」162と説明している。法人税法第2条2号の外国法人の国内にある支店についてはその支店の所得のみ課税するとしている。これにより、明治32年所得税法からつづいている営業の所得にのみ課税する原則に変更はないということが確認できた。
日本による米国商工会議所への説明日米租税条約に関する資料の中で大蔵省が米国商工会議所からの質問に対する回答がある。日米租税条約発行後、昭和30(1955)年ごろ、外国人・外国法人の課税関係について説明が行われている。資料は、「外国人課税に関する米国商工会議所側の質問に対する回答」とあり、外国人・外国法人の事業所得について概略であるが回答が次の通り発表されている163。
「日米租税条約が本邦外国人の課税に及ぼす影響は概略次の通りといえよう」
「(1)日本に事務所を有する商社に対する法人税等の課税については、原則として従来と変化がない。」
概略であるため恒久的施設とその所得の範囲については正確には不明である。昭和30(1955)年以前の所得税法・法人税法における外国人・外国法人が事業より生ずる所得に対する課税は日米租税条約の効力発生後であっても、変化がないと考えられる。
昭和40(1965)年所得税法・法人税法改正時の旧法の解釈その後、昭和40(1965)年の所得税法・法人税法の全文改正の際に、昭和37(1962)年税制改正で規定された恒久的施設についての説明の中で、昭和27(1952)年頃の所得税法・法人税法における恒久的施設の解釈が示されている164。条約における恒久的施設では無く、所得税法・法人税法における恒久的施設についての説明を念のため確認すると次の通りである。
「旧法では、恒久的施設をそのまま表現せず、恒久的施設を国内に有して行う事業という概念で間接的にこれを規定し、この事業が源泉規定に規定する「国内にある事業の所得」の事業に一致するとしていた(旧所得税法一条八項165)。いいかえれば、恒久的施設の有無、種類と言った人的な「課税要件」事業の所得という「課税物件」を限定する形で規定されていたのである。この構成は、ある所得が恒久的施設を有して行う事業に帰せられるか否かを判定するためには便利であるが、課税要件と課税物件が相互によりかかり合っているので、両者の区別が明確とならず理解しがたいばかりでなく誤解を招く虞れがあった。」166
恒久的施設については、「恒久的施設をそのまま表現せず、恒久的施設を国内に有して行う事業という概念で間接的にこれを規定」し、所得税法・法人税法の外国人・外国法人の国内にある「事業を有するとき」であることが、はっきりと述べられている167。なお、説明にある「旧所得税法一条八項」は、昭和27年(法律第53号)所得税法第1条第8項を指している。昭和26(1951)年の安川論文168において通達を用いて外国人・外国法人の国内源泉所得を用いて解説した後、昭和27(1952)年の所得税法改正で規定されたものと考える。
3-9 小括昭和15(1940)年改正の所得税法において、「営業を有するとき」から「事業を有する」に変化した。その際に日本の所得税法・法人税法においては、営業(事業)所得が営業税法・営業収益税法の営業場概念とほぼ同じであることが課税庁の説明において明らかになった。池田武の学説や田中豊及び平田敬一郎の解説により営業税法・営業収益税法の営業場概念が所得税法の「営業」の概念であったと示している。
租税条約の交渉を目前にして、事業場について営業税法の営業場概念で対応できるか否か検討されていたのではないかと大蔵省の資料169からは推測することができる。安川論文において、「事業」について分析が示され、法施行地にある事業について課税範囲を再検討しているが結論を得ていない様子であった。米国との租税条約の交渉を通じて英国や米国の事業所得の考え方に触れ日本の事業所得について概念を整理することとなった。
本稿の結論は、次の2点である。第1に営業税法・営業収益税法における「営業場概念」が所得税法の中の「営業(事業)」による所得の前提になる。営業場と同一のものとして遅くとも明治32年所得税法において理解される様になったことが学説判例で確認することができた。第2に外国人・外国法人の課税される所得の範囲を決定する「営業場概念」についてドイツ所得税法及び営業税法の営業場ならびに国際船舶運輸所得の交渉や国際連盟のモデル条約案の影響を受けていることが明らかになった。
明治20(1887)年から昭和30(1955)年ごろまでの所得税法・法人税法における「営業(事業)」による所得の範囲について概略的に見ることができた。明治32年所得税法の「営業を有するとき」とは、「営業場」を国内に有することであり、後の所得税法・法人税法における恒久的施設概念につながるものであると考えることができる。確認できたのは明治32年所得税法から「営業場概念」が存在している点である。この「営業場概念」は明治29年の営業税法において規定されているものであった。
日本の所得税法・法人税法における「営業(事業)」を有するときは、恒久的施設を意味しており、遡れば営業税法の「営業場概念」であると考えることができる。営業税法は明治29(1896)年制定された。当時の所得税法と営業税法の関係について帝国議会で河島委員長の説明では、「所得税ガ父ナラ、営業税ハ母ト云フ有様デ、所謂父母ノ關係若クハ兄弟ノ関係ヲ持ツ所ノモノデアル」(河島醇発言)としている170。当時明治20年所得税法では法人に満足のいく課税ができなかったところを営業税は法人所得に対する課税のきっかけとしようとしていたことが窺える171。営業税法は所得税法を補完する役割であり補完税という位置づけであった172。さらに帝国議会の議事録によると外国人・外国法人に関して営業税法において意識されていたことがうかがえる173。大正期に入って米国からの問合せや国際連盟とのやり取りで英文の上では物的概念から機能的概念へ変化していた。行政裁判所の判例(昭和7年第52号乃至55号・昭和11年5月27日第2部宣告)からは、所得税法及び営業税法の営業場概念はプロイセン営業税条令の考えを取り入れたものと考えられる174。その後、日米租税条約が検討された時期(昭和26(1951)年頃)においてまずは、英国の所得税法を参照し分析を行っている。外国からの影響が複雑に交差し所得税法・法人税法の恒久的施設概念が形成されてきたのではないだろうか。現在の所得税法・法人税法の事業所得における「その他事業を行う一定の場所」が営業税法の「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」概念に起源をもっていると結論づける。
本資料は、所得税法・法人税法における事業の範囲について当時大蔵省内で検討されていた文書である。いずれも、大蔵省「戦後財政史資料谷川文書租税国際二重課税防止3 第32号」昭和26年06月13日- 昭和26年07月10日(国立公文書館所蔵・[請求番号]平25財務00967100)に収録されている。綴じ込まれている順にABCD と名付けた。おそらく同時期に作成されたものである。資料ABC については作者は不明。元の資料ではすべて縦ガキであるが横書きで対応関係になるようにしている。以下資料での脚注は手書きの鉛筆で書かれたメモを再現したものになる。判読できない文字は「〓」としている。なお、加野裕幸「日米租税協定逐条審議議事録1951・52」法学ジャーナル96号(2019)289-449頁に引用・掲載した資料と一部重複する部分がある。
・資料目次以下資料
資料A 「所得税法及び法人税法に規定する「法施行地」による資産又は事業の範囲について」
一 現行所得税法第1条第2項第1号及び第6条第1項第8号竝に現行法人税法第2条後段に規定する「この法律の施行地(又は施行地外)にある資産又は事業の所得」の範囲が必ずしも明確でないことに鑑み外国と租税協定を前提に立って国際税法上の課税範囲を此の際明瞭にしておく必要があると思われる。
前提に基づいて生ずる基本的な問題は大要左の通りと思われる。
(一)現行の所得税法及び法人税法の規定に基づいて外国人及び外国法人について生ずる所得をいかなる範囲まで適法に課税することができるか。
(二)適法に課税出来る範囲が明瞭になったとしても、その範囲が各国の国際課税上の取り扱い竝に国際間に渉る総取引の状態に照らして妥当性があるか如何か。
(三)適法且つ妥当な課税範囲の想定の下で、課税技術上解決を要する諸点例えば課税標準の算定方法或いは租税管理人の指定等を検討すること。
二「この法律の施行地にある資産又は事業の所得」は課税対象となるのであるか、その課税所得のうちで「資産の所得」と「事業の所得」との関係は立法趣旨より考えて左の何れかであるか明らかにする必要があると思われる。なお、各号の趣旨について特に問題と考えられる点は附記する通りである。
(一)「施行地にある事業の所得」にも該当し重複することを別として施行地の源泉により発生する恒常的又は定期的の所得を「施行地にある資産の所得」として課税する趣旨であるか。
附記 登録していない特許権(スケジュールC)の使用料、秘密行程等技術提供の対価、著作権の使用料及び配当所得について特に法施行地の事業とならない場合の非課税が問題となる。
(二)「施行地に事業がある」を「施行地に事業所がある場合」とした時に事業所を有しない外国人又は外国法人の所得を「施行地にある資産の所得」という規定で課税する趣旨であるが。
附記 施行地の源泉より生ずる所得は少なくとも全部課税すべきではないか。
(三)「施行地にある事業の所得」に該当しないものを「施行地にある資産の所得」としてできる限り広く課税できるようにする趣旨であるか。
附記 旧証券取引所を通ずる証券売買の譲渡所得、本店の吸収合併に基づく合併差益の配賦分等の課税非課税が問題となる。
三「法施行地にある事業」が必ず明瞭にされなければならないが、事業があるかないかの基準について問題となる点は左の通りであると考える。
基準 | 備考 |
(一)事業活動の地理的場所に関する3基準 1 法施行地に事業経営の中枢がある場合 (註)法施行地内との取引以外の取引の所得 2 法施行地外に事業経営の中枢がある場合 A 法施行地に事業活動上関係を持つが、法施行地内との取引以外の取引を行う場合 B 法施行地との間に取引を行う場合 C 法施行地内部に対して取引行為が及ぶ場合 二 売買、生産、運輸又は通信に関する 基準 1 法施行地より仕入れのみを行う場合175 2 法施行地に売込む場合176法施行地外で生産したものを売込む場合 3 法施行地に輸入して貯蔵し置きそのまま、法施行地外に販売する場合 4 法施行地内で採取、採掘、製造、加工、仕上又は熟成したものを法施行地外に販売する場合177 a 採取、採掘又は製造したものを販売する場合 b 法施行地外より、半完成品を仕入し、加工、仕上又は熟成して販売する場合 5 法施行地内で採取、採掘、製造、加工、仕上又は熟成したものを法施行地外に移動する場合178 a 採取、採掘、又は製造したものを移動する場合 b 加工、仕上又は熟成について原料、半製品を (一)法施行地外より持ち込む場合 (二)法施行地外より仕入する場合 6 法施行地内の地点と法施行地外の地点との間に於て船舶又は航空機の運輸業務を営む場合179 (一)法施行地内の地点より積出す場合 (二)法施行地内の地点へ荷揚する場合 7 法施行地内の地点と法施行地外の 地点を無線電信、電話(有線・無線)に よる通信業務を営む場合180 (一)法施行地内の地点より通信を発信する場合 (二)法施行地内の地点で通信を受信する場合 三 取引に関する基準 1 契約を取り決めた場所 2 商品等が市場で売られた場所 3 代金の支払われる場所 四「法施行地にある事業」の範囲に従って、「事業所得」の課税範囲を定めること 五 「法施行地にある資産の所得」の課税範囲を定めること |
(一)経営の中枢は英国の例 (二)工場、店舗の所在乃至は本店又は設立の場所とは直接関係が無い。 (三)パナマ法人、ハワイを本店とする二世の法人等 (四)trade carried on in u.k (一)「事業活動上の関係」とは商品の貯蔵、再輸出、半製品の加工、入札、設計、注文の引受等 (二)事務所のある場合、内場合、及び事務所の性格機能との関係あり (三)Neither carried on nor exercised in (一)「施行地との間に」とは事業を持たないが通信等の手段で施行地内に居る者との間に売買を行い、或いは事務所を有するもサービス用の技術者を置き又は管理、宣伝、広告等を専ら行うためのものである場合 (二)事務所又は代行人の性格・機能によってCと区別される。 (三)コミッションエージェント・ブローカー取引員等を介する取引はこれに入る。 (四)Trade exercised with u.k (一)「内部に対して」とは支店又は事業所を持ち或いは代理権ある代理人を介して売買等を行う場合。 (二)支店、事務所、代理人の性格・機能によってBと区分される。 (三)コミッションエージェント、ブローカー、取引員等善意且つ通常のコミッションによる代理人は含まない。 (四)経常的代理人181、オーサライズドエージェントは含まれる。 (五)Carried on in or excercised in (一)「事業がない」とするか「所得がない」とするか。 (二)通信等による直接の販売 (二)支店、事業所による販売 (三)代表者、代理人を介する販売(性格、機能による) 1 注文の取り次ぎ、売込みの勧誘、インボイスの仲介 2 勘定の保管、収入金の振替え 3 売込み先の選択の権限の有無 4 価格裁量の有無 5 リスク負担又は収益の配分と歩合制 6 代理人に依る善意の買取りと委託 7 代理人に依る運賃の負担 (一)船舶については沿岸三里以内に於て業務があるか否か、航空機についても同様の問題あり (二)業務の開始は貨物又は旅客積み込み準備完了、業務の終了は貨物又は旅客の荷揚完了 (三)海難等偶発的寄港による貨物等の移動 米国から発信した字数と当該会社の総扱い字数とで総利益を按分する (一)通信手段による契約? (二)代理店、事務所の性格、機能と関連する。 (一)売り手が商品等の所有権を失う場所 (二)実質主義による。 (三)F.O.B C.I.F (四)商品等の委託販売 (一)例外なく副次的要素であること。 (二)利益の配分は歩合制に関連して、代理店、事務所の性格、機能と関連する。 |
一,所得の生ずる源泉は、原則として、勤労、資産及びこれらの両者の綜合たる事業であるが、
(1)勤労により生ずる所得(給与所得、退職所得)については、法施行地内で支払を受けるものは課税され、
(2)資産より生ずる所得のうち利子所得及び配当所得中法人からの利息の配当については、法施行地内で支払を受けるものは課税され、
(3)(2)以外の資産又は事業から生ずる所得については、法施行地内にある資産又は事業から生ずるものが課税される。
二,従って、問題は、右の(三)における資産又は事業が法施行地内に折るか否かの解釈に存するか、これについては、
(イ)所得の源泉は、勤労、資産及び事業であるが、そのうち勤労及び資産中の一部については発生地主義を明示していること。
(ロ)勤労所得及び利子所得等との関係において、他の源泉より生ずる所得についても、これらと実質的に均衡を取った解釈をなすべきであること。
(ハ)英米等における法の適用が、わが国と同様の法の規定の下において所得発生地主義を取っていること。
(二)わが国において、特に発生地主義を否定する規定が存しないこと。
等の諸点にかんがみ、資産又は事業より「生ずる所得」に着目し、所得発生地主義の立場に立ってその所在を判定すべきであると考えられる。
すなわち、端的に云えば、法施行地内の源泉から発生する所得を凡て課税する趣旨の下に、所得の源泉を資産と事業に還元し、勤労については別個に規定することとして現在のような規定が設けられたものと解するのが妥当であると思われる。
従って、特に資産の所在の解釈は、財産をいわばその静的な状態において捉える相続税又は富裕税における解釈とは必ずしも一致せしめる要はないと考えられる。
(註)(1)勤労所得について法施行地で支払を受けるものを課税する旨の規定しているのは、これらが源泉徴収に係るものであるからという理由に基くものとのみ解することは適当でない。
何故ならば,放送謝金等の源泉徴収に係る事業所得については特に規定が存しないのであって、これは、法施行地内にその事業を有すると解されることにより、特に規定を設ける要はなかったものと考えるのが妥当である。
(2)配当所得については、これを源泉徴収から除外することにより従前の規定面から脱落することとなったが、これは、法施行地において支払を受けるものにつき、これを積極的に課税除外しなければならないということを根拠づけているものであると解すべき理由はない。従って、この点については、法施行地内にある資産の解釈により実質的に判断すべきである。
(3)勤労、資産及び事業以外の源泉から生ずる所得、即ち、懸賞金の償金、福引の当選金等の一時所得については無制限納税義務者で無い限り課税の途は存しないこととなる。これは、現行法におけるキャツブと考えられるが、一面徴税技術面から考えて、放任すべきところとも考えられる。
三,所得税法及び法人税法の解釈は、原則として、右の視点からなされるべきであるが、徴税技術上の可能性の問題が同時に考慮されなければならない。従って、この点から解釈適用につき或る程度の制約を受けるべきは、法の適正公平な 運用を期する上においてむしろ当然のこととい〓ねばならない。又一面、法の適正な執行上必要と認められる適当な措置を新たに設ける必要がある。
すなわち、右の措置としては、さし当たり、
(イ)現行規定においても税法又は国税徴収法により税務代理人の制度を採用する途は存するが、これでは実際問題として不十分であるから、法施行地内の特定の者(例えば、国外債権者に対する国内の債務者又は国内における配当の支払法人等)を指定納税義務者(代理人)とすること。
(ロ)法施行地に一時的に滞在する外国人が法施行地から外国に退去する際には、主たる滞在地の所轄税務署の発する納税証明書等を税関に提出することを要するものとすること。
等が考えられる。
(註)法の解釈上の納税義務を負うこととなる場合においても国内の滞在期間が短いか又は所得金額が僅少である等の理由により、課税上特に弊害が無いと認められる範囲において強いて課税するに及ばないとすることも考えられるが、これは、あくまでも政策の問題であって、法の解釈論とは区別しなければならない。
(一)資産
1,不動産、不動産上の権利、鉱業権、漁業権及び入漁権については、それぞれ、不動産、当該権利の存する鉱区又は漁場二最も近い沿岸の属する地の所在地による。
2,予金、貯金、積立金、寄託金、合同運用信託に関する権利並びに非営業貸付金及び年金については、債務者の営業所若しくは事業所の所在地又は住所地による。
3,特許権、実用新案権、意匠権、商標権等の無体財産権に関しては、静的状態におけるもの(権利それ自体)と動的状態におけるもの(使用権)とを区別する必要がある。
すなわち、前者にあっては、当該権利が保護されるべき登録をした機関の所在地により、後者にあっては、当該権利が現実に所得を発生すべく行使される場所の所在地による。
4,著作権の使用権、秘密生産工程、秘密公式等の使用権は、それらの行使される場所の所在地による。
5,有価証券(公債、社債株式)については、無体財産と同様に、静的状態におけるもの(譲渡所得の対象となるもの)と動的状態におけるもの(利子、配当権の受益権で、利子所得、配当所得となるもの)とを区別する要がある。前者は、当該有価証券の所在地により、後者は、当該有価証券を発行する法人の所在地による。
6,5以外の動産については、その所在地による。但し、船舶又は航空機については、主たる定けい場の所在地による。
(註)右のものが法施行地内において事業(貸付業)用として用いられた場合は法施行地にある事業に包含されることとなる。
7,前号各号の資産の外、法施行地内に営業所又は事業所を有する者の当該営業所又は事業所に係る営業場又は事業場の権利については、当該営業所又は事業所の所在地による。(但し、これから生ずる所得は、事業より生ずる所得に包含されることとなろう。)
8,以上各号以外の資産については、権利者の所在地による。
(二)事業
次ぎの場合には、法施行地内に事業があるものと解される。
1,法施行地内に事業活動のための定着した施設-支店、営業所、事業所、店舗、工場、倉庫等があるとき。
2,法施行地内に事業活動のための定着した施設がない場合においては、法施行地内において、事業活動がなされたとき。但し、法的安定のため、事業活動の範囲が明らかに確定されることを要すること及び徴税手続が明確に且つ公平になされることの可能性が存しなければならないことから、右は、さらにこれを限定的に解し,(法人を含む)又はその使用人、代理人、法施行地に滞在して事業活動をなした場合にのみ、法施行地に事業があると解すべきである。
3,自由職業(源泉徴収の対象となるべき事業所得を生ずる事業を含む。)については、当該事業をなす者が法施行地に滞在して当該事業活動をしたとき。
(註)(1)「事業活動」の意義については、さらに細分して検討することを要する。
(2)課税所得の計算方法については、資産及び事業の場合を通じ、さらに検討するを要するが、原則としては、国内所得と経済上関連のある事業支出又は必要経費に限り、これを控除する建前で考えるべきである。
商業製造に関する法施行地にある事業の基準 (一)法施行地内に事業経営の中枢があると認められる場合。 (註)事業経営の中枢があるか否かの判定は概ね左の諸点全部を満たすか否かによる。 ○法人又は会社の場合。 1,営業所乃至は事務所等の経営が恒常的に行われる場所が設定されていること。但し、その場所は必ずしも固定した物理的施設を有することに限定されない。 2,役員の過半数または他の役員の代理権を有する役員が法施行地に「住所」又は「一年以上の居所」を有すること。 3,取締役会等、事業経営の方針を定める役員の定期的会合が法施行地内において恒常的に行われること。 4.当該事業の管理及び統制の中心が第三者との取引についても殆ど慣習的に法施行地内にあることが客観的に認められること。 5,店舗、工場、倉庫津当該事業のための物理的施設の地理的所在、金融上の取引又は利益金の保管場所乃至は株主の「居所」は、判定とついて直接関係を有しない。 ○個人の場合 1,経営が恒常的に行われる場所については法人の1,に同じ。 2,本人が法施行地に「住所」又は「一年以上の居所」を有すること。但し事実について「一年以上の居所」を有しない場合乃至は故意に「居所」を中断する場合であって、当該「居所」を有しない期間中は親族その他密接な関係にある「住所」又は「一年以上の居所」を有する個人に対して経営の代理権を与えている場合等は判定上「一年以上の居所」を有するものとして取扱う。 3,事業の管理統制の中心については法人の4,と同じ。 4,事業のための物理的施設等については法人の5と同じ。 5,「住所」又は「居所」の推定については三、を参照のこと。 (二)法施行地内に法施行地を中心とする地理的な事業経営の部分中枢がある場合 (註)法施行地を中心とする地理的な事業経営の部分中枢があるか否かの判定は概ね左の諸点を満たすか否かによる。 ○法人又は会社の場合 1,営業所乃至は事務所等の経営が恒常的に行われる場所が設定されていること。但し、その場所は必ずしも固定した物理的施設を所有することに限定せられない。 2,法施行地にある営業所乃至は事務所等が、法施行地を中心とする地理的な一定範囲内にある「法施行地外にある者」の事業についての総括的な事業分掌を与えられていること。 3.当該営業所乃至は事務所等の管理又は経営の責任者が同時に役員であるか又は役員の代理権を有するものであって且つその地理的な一定範囲国内の事業について具体的な運営に関する自由裁量の権限を取締役等により与えられていること。 4,当該営業所乃至は事務所等の管轄する地域内にある他の「営業所」又は「代行者」は、その事業活動について前者の拒否権に服する等、同等以下の権限しか有せぬこと。 5,経理について当該営業所乃至は事務所等の管轄する地域内にある他の「営業所」又は「代行者」の対本店取引等は前者を通じ或いは前者を中心として決済され、決済の際は前者において当該地域内の綜合B/S 等が作成されること。 ○個人の場合 1,経営が恒常的に行われる場所については法人1,に同じ。 2,本人が法施行地に「居所」を有すること。なお「居所」の推定については三,を参照のこと。 3,当該地域内の業務の総括、権限、経理等については法人の2,3,4,5に準ずる。 (三)「法施行地外にある者」又はその法施行地内にある「営業所」又は「代行者」が、それと全く関係を有しない独立の者から、法施行地内より又は法施行地に於て商品又は製品の仕入れのみを為し、法施行地外に搬出する場合。 (註)一,「全く関係を有しない独立の者」とは、左の諸点を満足する者をいう。 ○法人又は会社の場合 1、別個の人格を有する者又は相互に資本又は経営上の関係の無い者 2,当該商品又は製品の仕入れ価格について通常市場で成立すべき公正な販売価格又は独立生産者価格と認められる価格を附する者。 ○個人の場合 1,親族その他密接な関係を有しない者 2.仕入れ価格については法人の2,と同じ。 二、仕入れた商品又は製品を法施行地外に搬出せず法施行地にある者に販売する場合は、当然に法施行地の事業として課税される。 (四)「法施行地外にある者」が法施行地外で自ら製造したもの乃至は仕入れたものを、法施行地にある第三者に「営業所」又は「代行者」を介せずに販売する場合。 (註)1,「法施行地外にある者」については二を参照 2,「営業所」又は「代行者」については四を参照 3,同一人が同じ部門、業種品目について「営業所」等を解する販売を行うときは「営業所」を介する販売を行うときは、「営業所」を介せずに販売するものということを得ない。 一、その販売について、法施行地内で契約が締結されず且つ法施行地内で貨物の所有権の移転も行われない場合。 (註)通信手段による契約、商品の郵送等は概ねこれに該当する。 二、その販売について法施行地内で契約が締結されるか、又は法施行地内で貨物の所有権が移転する場合。 (註)FOB、CIF等は貨物の所有権の移転するか否かの判定の一材料となる。 (五)「法施行地外にある者」が、法施行地外で自ら製造したものをその法施行地内にある「営業所」又は「代行者」を介して、「法施行地にある者」に販売する場合。 (六)「法施行地外にある者」が、法施行地外に於て、それと全く関係を有しない独立の者から仕入れた商品等を法施行地内にある「営業所」又は「代行者」を介して、「法施行地にある者」に販売する場合。 (註)「全く関係を有しない独立の者」については(三)の(註)を参照 (七)「法施行地外にある者」が法施行地外に於て、それと何等か密接な関係を有する者から仕入れた商品等を法施行地内にある「営業所」又は「代行者」を介して、「法施行地にある者」に販売する場合。 (註)「何等か密接な関係を有する者」とは、左の何れかに該当する者をいう。 ○法人又は会社の場合 1.相互に資本的又は経営上関係を有する者 2,当該商品等の仕入れ価格について、通常市場で成立すべき公正な価格又は独立生産者価格と認められる価格以外の価格を附する者。 ○個人の場合 1,親族その他密接な関係を有する者。 2,仕入れ価格については法人の2,と同じ。 (八)「法施行地外にある者」又はその法施行地にある「営業所」又は「代行者」が、法施行地外に於て自ら製造したもの又は仕入れたもので法施行地に搬入したもの或いは法施行地に於て仕入れたもので未だ法施行地外に搬出しないものを「法施行地外にある第三者」に販売する場合。 (註)法施行地により仕入れの場合を含むが、当該商品等が法施行地外に搬出されていない点について前掲(三)の仕入れのみの場合と異なる。 一,その販売について、法施行地内で契約が締結されず且つ法施行地内で貨物の所有権の移転も行われない場合。 二,その販売について、法施行地内で契約が締結されるか、又は法施行地内で貨物の所有権が移転する場合。 (註)1,法施行地外に於て自ら製造したもの。 2,法施行地外に於て、又は法施行地に於て仕入れたもの。 (イ)全く関係を有しない独立者から仕入れるとき。 (ロ)何等か密接な関係を有する者から仕入れるとき。 a.それが商業者であるとき。 b.それが製造業者であるとき。 (註)法施行地外より搬入した場合に、それが保税倉庫に保管されたまま、「法施行地外にある者」に販売されたときに課税するか否か、多少の疑問がある。 (九)「法施行地外にある者」又はその施行地にある「営業所」又は「代行者」が、法施行地外に於て自ら製造したもの又は仕入れたものを法施行地に搬入して存置し、そのまま法施行地外に搬出する場合。 (註)1.「存置」は後掲(十)又は(十一)の「熟成」と区別される。 2.存置されている期間中に生じた著しい経済的変動例えば地域的な異常な価格変動に甚く値上がり等或い存置の目的が商品取引の担保等である場合についても、これに該当すると考えられる。 (十)「法施行地外にある者」又はその法施行地にある「営業所」又は「代行者」が、法施行地内に於て採取、採掘、製造又は加工、仕上げ乃至は熟成したものを法施行地外にある第三者に販売する場合。 (註)採取、採掘、製造、加工、仕上、熟成の場合は、法施行地に「営業所」又は「代行者」を有するものとされる。前掲四参照。 1.その販売について、法施行地内で契約が締結されるか又は法施行地内で貨物の所有権が移転する場合。 2.その販売について、法施行地内で契約も締結されず、貨物の所有権の移転も行われない場合。 (十一)「法施行地外にある者」又はその法施行地にある「営業所」又は「代行者」が、法施行地内に於て、採取、採掘、製造又は加工、仕上乃至は熟成したものを、法施行地外にある本人の他の「営業所」又は「代行者」に善意に搬出する場合。 (註)採取、採掘、製造、加工、仕上、熟成の場合は、法施行地に「営業所」又は「代行者」を有するものとされる、前掲(九)と々。 (十二)「法施行地外にある者」又はその法施行地にある「営業所」又は「代行者」が、法施行地外に於て自ら製造したもの乃至は仕入れたものを「法施行地にある者」に供給し、他面に於て、当該被供給者又はその他の「法施行地にある者」から若しくはそれ等の者を法施行地にある「営業所」又は「代行者」とする「法施行地外にある者」を介して、法施行地より仕入れる商品又は製品と交換し、或いは資金を以て決済を受ける場合。 (註)(一)同一人が法施行地にある者との間に直接又は間接に販売と仕入れを行った場合に、仕入れについては前掲(三)、販売については前掲(四)の一に依り法施行地に事業なしとされる例外となるものである。 (二)所謂バーターは、この一種に該当する。但し厳密な物々交換の外に、中間に於て資金形態に転化する場合も含まれる。 ?(十三)「施行地外にある者」が、証券取引所又は商品取引所に登録せられた取引員を通じて、直接、上場有価証券又は商品の取引所に於ける売買を行う場合。 (註)当該取引員自体は「法施行地外にある者」の法施行地にある「代行者」とはならない。 一,実物取引を行う場合。 二,清算取引を行う場合。 7/15 |
課税標準に関する事項 ○法施行地にある事業の所得とは、当該 法人の総ての所得とする。従って所得に ついては内国法人と同様である、積立金については課税されない。 ○(一)法施行地にある事業の所得とは、当該個人が従事する事業の総ての所得とする。 (二)所六Ⅰ8の「法施行地外にある事業の所得」の規定は実際上働く余地がない。 (三)所六Ⅰ8の「法施行地外にある資産の所得」が、所一Ⅱ1の「法施行地外にある事業の所得(この場合は法施行地外にある資産により生じる所得を含む)」 に対して優先的に働くか否かに多少の疑問がある。 ○(一)法施行地にある事業の所得と は、当該営業所乃至は事務所等が管轄する地理的な一定範囲内にある総ての「営業所」又は「代行者」からの所得とする。従ってこの場合の「法施行地外にある事業」の判定については「法施行地」を「管理する地理的な一定範囲内」として上欄後掲の(三)以下が適用される。(二)管轄する地域について作成される綜合B/S、P.L に依って課税される。法令上の措置 1,本支店勘定の否認規定を設ける。 2,借方支店勘定に標準利益率を乗じて推定課税をなしえる規定を設ける。 ○(一)法施行地にある事業の所得とは、当該個人が管轄従事する地域内の事業の総ての所得とする。 (二)所六Ⅰ8の「法施行地外にある事業の所得」の規定は、当該個人が管轄する地域外の事業の所得を意味する。 (三)前掲上欄(一)の下欄(三)と同様な疑問の余地がある。 ○(一)法人及び個人を通じ、原則として、仕入れた商品又は製品の法施行地外に於ける販売による所得は課税されない。 (二)この原則は専ら一方的な仕入れのみの場合に適用される。 (三)本人と何等かの関係のある者、例えば子会社或いは兄弟等から通常の市場価格より著しく低い価格を以て仕入れを行う場合は、次の二方法が適用される。 1,販売価格を否認して、販売者の課税標準の更正等を行うか。 2,通常の市場価格と仕入れ価格の差額について、仕入れた商品又は製品による所得として仕入れ者に課税するか。 ○法令上の措置 1,販売価額の否認規定を設けること。 2、仕入れのみの場合についてわ、単純に「事業がない」或いは「所得が発生しない」如き規定は避けること。 ○法人及び個人を通じ、原則として法施行地にある事業とされない、従って当該所得は課税されない。 ○(一)法施行地にある事業とされ、当該所得は課税される。 (二)課税標準については後掲(五)及び(六)に準ずる。 ○(一)法人及び個人を通じ製品の販売は法施行地にある事業とされ、当該所得は課税される。 (二)所得算定上、収入金額は法施行地内で販売された製品の販売価格とする。(三)所得算定上、当該製品の原価は、原則として製造原価とする。 (四)「営業所」又は「代行者」に直接関係する諸経費は全額控除する。 (五)製造原価に含まれない本社諸経費等があるときは、法施行地内の販売収入金額と総販売収入金額との比に依って案分し、控除される。 (六)法人であって、製造原価に基準を置く適正な利潤を含んだ「独立生産者価格」を以て「営業所」又は「代行者」に対して仕切るものは、それが当該事業の経理上確立された慣習の場合は所得算定上の原価として取扱われ得るものとする。但し二の場合は(五)の配賦諸経費は純粋に販売に関するものに限定される。 (七)法施行地に於て月賦販賣等の方法を以て販賣するものは課税事業年度に於て収入すべき月賦金を収入金額とし、当該製品の原価は収入金額に対する対應するものを損金とすることができる。 ◎(八)製造原価並びに製造所経費は、所得算定上、当該製品が法施行地に搬入されたときの標準為替レートを以て円貨に換算される。但し、当該製品の主要原材料が法施行地より同一人の〓に依って購入され加工された場合の製造原価は主要原材料の購入時の標準為替レートを加重して円貨に換算される。 法令上の措置 一,製造原価の否認規定を設けること。 二,本支店勘定182の否認規定を設けること。 ○(一)法人及び個人を通じ、商品等の販売は法施行地にある事業とされ当該所得は課税される。 (二)所得算定上、収入金額は、法施行地に内で販売された製品の販売価格とする。 (四)「営業所」又は「代行者」に直接関係する諸経費は全額控除される。 (五)本社諸経費は、法施行地内の販売収入金額と総販売収入金額との比によって按分し、控除される。 (六)商品原価は所得算定上、当該商品が法施行地に般有されたときの標準為替レートを以て円貨に換算される。法令上の措置本支店勘定の否認規定を設ける。 ○(一)「商品の原価」を除き、原則として(六)と同じ。 (二)所得算定上、当該商品の原価は、原則として、仕入れ時に於て通常同様な條件に於て市場に成立すべき公正な価格又は独立生産者より仕入れる価格とする。 ×(三)「何等か密接な関係を有する者」 が製造業者であって、当該製品の主要原材料が法施行地より販売者の手によって購入されて製造者に供給される場合の商品原価(又は製造原価)は、主要原材料の購入時標準為替レートを加重して円貨に換算される。 法令上の措置 1,仕入れ価格の否認規定を設けること。 2,本支店勘定の否認規定を設けること。 ○(一)法人及び個人を通じ、原則として法施行地にある事業とされない。従って当該所得は課税されない。 (二)但し、法施行地に於て仕入れる場合であって、当該仕入れ先が本人と何等かの関係のある者で通常の市場価格より著しく低い価格を以て仕入れるときは前掲上欄(三)の下欄(三)に準ずる。 ○(一)法施行地にある事業とされ、当該所得は課税される。 (二)課税標準については、上欄(註)の区分によって、前掲(六)及び(七)に準ずる。 (三)当該販売が「法施行地外にある本人の他の営業所又は代行者の業務であるとの理由で、法施行地にある事業でないということを得ない。 非課税(未だ輸入されていないものとみなす。) ○(一)法人及び個人を通じ原則として法施行地にある事業とされない。 (二)この原則は、当該商品等が善意に搬出される場合にのみ適用される。従って搬出を仮装する販売は前掲(八)に該当する。 ○(一)法施行地にある事業とされ、当該所得は課税される。 (二)当該販売が「法施行地にある」本人の他の「営業所」又は「代行者」の業務であるとの理由で、法施行地にある事業でないということを得ない。 (三)所得算定上、収入金額は製品の販売価格とする。 (四)採取、採掘、製造の場合は、所得算定上、当該製品の原価は、原則として当該生産原価とする。 (五)主要原材料を自らの手で供給する製造、又は加工、仕上、乃至は熟成の場合は、所得算定上、当該製造原価に含まれる主要原材料、部分、半成品等の価格は「法施行地外にある者」が夫等を自ら製造したか、全く関係を有しない独立の者から仕入れたか又は密接な関係のある者から仕入れたかの区別に基づいて、夫々前掲(五)、(六)、(七)の原価の例に準ずる。(六)その他は前掲(五)に準ずる。 法令上の措置 1,販売価格及び仕入れ価格の否認規定 を設けること。 2、本支店勘定の否認規定を設けること。 ○(一)部分的に法施行地にある事業とされその部分の所得は課税される。 (二)右1,に準じて算出された所得の五〇%を課税標準とする。 ?(三)右1,に準じて算出された所得を法施行地内の生産工程に於て当該製品に附加された価値と販売価格との比に依って按分し、附加価値に相当する部分を課税標準とする。 (四)法施行地外に於ける当該製品の販売に要した諸費用は控除されない。 (五)その他は右1,に準ずる。 ○(一)部分的に法施行地にある事業とされ当該製品が法施行地外に於て販売された時に、その部分の所得は課税される。 (二)課税標準については前掲(十)の2に準ずる。 (三)法施行地外に於ける製品の販売については、所得算定上、原則として先入れ先出しの方法によって販売されるものとされる。 (四)その他は、前掲(十)の1,に準ずる。 ○(一)法人及び個人を通じ法施行地にある事業とされ、製品又は商品の販売乃至は交換に因る所得は課税される。 (二)所得算定上、収入金額は、法施行地より外価として受取った製品又は商品(仕入れ)の製造原価、又は商品原価とする。 (三)所得算定上、法施行地に対して引き渡しされる製品又は商品の原価は、自ら製造したものの場合はその態様により前掲(六)又は(七)に準ずる。 (四)当該取引の相手たる法施行地内にある者が、本人と何等かの密接な関係のある者である場合には、所得計算上、前掲上欄(三)に準ずる方法が考慮される。 (五)その他は、前掲(五)、(六)、(七)に準ずる。 |
資料D 国税庁「所得税法及び法人税法の適用上『法施行地に事業がある』とされる基準並びにその課税標準に関する事項」(昭和二六年六月二五日)
営業税- 物税的(補完税としての営業税)観念にとらわれたために恒久的施設を有することを要件とした。
一,法施行地に対する183又は法施行地内に於ける184事業活動を、その業種について左に掲げる二つの範疇に分類し(一)については各種別に、(二)について一般的に定めるものとすること。
(一)金融業185、保険業186、船舶運輸業、航空機運送業、電気通信業、放送新聞ニュース業、映画事業、会計士
(二)商業、製造業等右(一)以外の事業
二,茲にいう「法施行地外にある者」とは、法人及び個人に付いて左の者とする。
法人- 外国法人又はそれに準ずるものの法施行地外にある本店、支店、営業所、事業所等
個人- 所得税法に規定する「住所」及び「居所」を法施行地に有しない個人。
三,所得税法に規定する「住所」及び「居所」については、左の場合にはこれを有するものと推定する。
(一)住所187について。
1,法施行地に現に居住している未成年については、その父(父が既に死亡している場合には母、父母共に死亡している場合には何れか後に死亡した者)が住所を有する場合には本人が住所を有するものと推定される。188
2,配偶者と共に法施行地に居住し、過去○○課税年度を通じて平均して本人の給与所得の全部又は大部分を法施行地内の勤務によって得た者は住所を有するものと推定される。
3,配偶者と共に法施行地に相当期間居住し、本人とはい配偶者の合算した全積極財産価格の大部分を法施行地にある不動産、日本の公債、法施行地に本店のある法人の発行する株式又は債権或いは→受益証券、金融機関の法施行地内にある営業所の預貯金又は合同運用信託→法施行地に所在する事業のため固定的施設及びそれに付帯する事業資金又は右以外の動産で法施行地に物理的に所在するものに投資又は運用する者は住所を有するものと推定される。
4,配偶者→共に→法施行地に居住し○○課税年度を通じて、過去に於ける外国政府に対する又は外国に於ける勤務等に基づいて生じた恩給又は年金請求権等に依って生活している者は、住所を有するものと推定される。
5,配偶者と共に→法施行地に居住し、○○課税年度を通じて本人の事業に関する本店又は主たる事務所を法施行地内に置き、当該本店又は事業所の名称が本人の事業に関する取引について殆ど慣習的に取引の中心として認められている者は住所を有するものと推定される。
6,所謂「二世」であって昭和二〇年九月二日以前日本に入国しその後引き続き法施行地に居住し、目下その国の市民権等の回復手続き中である者については、その市民権等の正規取得後当該国に移住する理由のみを以て住所を有しない者として取扱われないものとする。
(二)居所について。
1.法施行地に本人の名義を以て登記し且つ何時にしても本人が居住しうる状態に維持されている住宅を所有する場合は、原則として、連続六ヶ月を超えない居住の中断期間はこれを居所を引き続き有するものと推定189される。
2.法施行地に所得税法上の扶養親族を有する場合は連続六ヶ月を超えない居住中断期間は原則としてこれを居所を引き続き有するものと推定される。
3.法施行地に住宅は所有しないが、必要のあるときは何時にても六ヶ月程度の期間居住するために必要な衣類等の身の廻り品、自動車或いは銀行口座を存置する場合は、原則として、連続三ヶ月を超えない居住の中断期間は、それを居所を引き続き有するものと推定される。
4.法施行地に事業に関する営業所又は事務所で必要のあるときは何時でも使用し得る状態に維持されている物的施設を有する場合は原則として連続六ヶ月をこえない居住の中断期間は、これを居所を引き続き有するものと推定される。
5.法施行地にある他人の営業所又は事務所を居住期間中は自己の事業に関する営業所又は事務所に使用する者が、居住しない期間中は自己の事業に関する通信等の連絡事務所として又は資金の決済乃至は法律行為の代理をなす者の使用に供するため引き続き賃貸料等を支払っている場合には原則として三ヶ月を超えない居住の中断期間はこれを居所を引き続き有するものと推定される。
右の他人の営業所又は事業所は顧問弁護士等の事務所であることを妨げない。
6.商用旅行親族の訪問医療、証人喚問、法律行為の手続又は家事上の必要等から再入国の手続を経て、一時、法施行地を離れる場合は原則として、居所を引き続き有するものと推定される。
7.法施行地に居住する親族又は友人に対する儀礼的訪問、国際親善の使命を帯びた滞在、純粋な観光、外交政治上の公的使命を帯びた訪問、芸術又は学術上の公的会議に招聘された滞在等であって、原則として一ヶ月をこえない居住期間は、居所を有しないものと推定される。
8.船舶航空機の寄港に伴う臨時的な滞留等一週間を超えない居住期間は原則として、居所を有しないものと推定される。
四.茲にいう法施行地にある「営業所」及び「代行者」とは左の(一)に掲げる者で(二)の各号に示されている機能の何れかを行う者をいう。但し、(三)に示されているものは含まれない。
(一)1.「法施行地外にある者」の法施行地内にある支店、営業所、事業所、事務所等」
2.内国法人の本店又は法施行地にある支店、営業所、事業所、事務所等所得法に規定する「住所」又は「居所」を法施行地に有する者
(二)1.「法施行地外にある者」よりその法施行地内での業務について一般的又は一定範囲の代理権を与えられている者
2.「法施行地外にある者」より、その法施行地内での業務に関し、特定の契約を結ぶ権限を与えられている者
3.「法施行地外にある者」の扱う商品等の販売仕入れを取扱う者で
価格と仕入先又は売り込み先についての裁量権限を与えられている者
販売等についてリスクを負担し、利益の配分に与える者
収入金等の資金を保管し、その投資運用を委託されている者
4.「法施行地外にある者」のために、その業務について設計より入札又は契約に至る一連の事務を行うもの。
5.「法施行地外にある者」のために、採掘、製造、加工、熟成又は建設、組み立て等の工程を委託されている者。
6.「法施行地外にある者」のために、商品、原材料、製品等の常時註文に應じ得るストックを保管し、或いは何等の照覆を要しないで直ちに注文を取り次ぎ得るほどに整備された見本、型録及び価格表を常時備え付ける者。
7.「法施行地外にある者」より特許権著作権等又は秘密行程等の使用について保護又は監視の権限を与えられている者。
8.「法施行地外にある者」の事業について継続的且つ排他的な取引関係にある者190。
(三)1.「法施行地外にある者」のために、単に注文を取り次ぎ又は取引に関する書類の送受を仲介し或いは一般的な売込みの勧誘のみを行うもの。
2.「法施行地外にある者」のために、その製品等の保守修理のための技術者のみを置き又は専ら広告宣伝のみを行う者。
3.予め定められた通常の手数料等を以て一般不特定の者のためにサービスを提供する者が、「法施行地外にある者」と特別の関係になく業務の仲介をする場合。
4.旧証券取引所又は商品取引所の取引員がその取引所の取引に関して法施行地外にある者」を代行する場合。
5.茲にいう「法施行地にある者」とは、法人及び個人について左の者とする。
(一)内国法人の本店又は法施行地にある支店、営業所、事業所、事務所等
(二)所得税法に規定する「住所」又は「居所」を法施行地に有する者。
(三)「法施行地外にある者」の法施行地にある「営業所」又は「代行者」前掲の一の(二)の業種について「法施行地の事業の基準」となる事項→並びにその課税に関する事項。
以上資料終わり。
1 国立公文書館は内閣総理大臣が各省庁などから移管を受けた重要な公文書を、歴史資料として独立行政法人国立公文書館が保存管理している。史料は国立公文書館ホームページで検索ができる(http://www.archives.go.jp/ 閲覧日2020年10月31日)。なお明治時代の史料はデジタル化されアジア歴史資料センターで閲覧することができる。(https://www.jacar.go.jp/ 閲覧日2020年10月31日)。アジア歴史資料センターは国立公文書館、外務省外交史料館、防衛行防衛研究所から、デジタル化されたアジア歴史資料の提供を受けデータベースを構築してインターネットを通じて公開している。ほか、横断検索としてジャパンサーチがある(https://jpsearch.go.jp/ 閲覧日2020年10月31日)。ジャパンサーチは国立国会図書館が運営する日本の分野横断型文献検索サイトである。
2 外務省外交史料館外交史料館は、幕末以来の日本の外交史料を保存している外務省の公文書館である。(http://www.archives.go.jp/ 閲覧日2020年10月31日)。
3 汐見三郎他『各國所得税制論』(有斐閣・昭和9(1934)年)250頁。
4 磯部喜久男「創設所得税法概説――明治20年の所得税法誕生物語」税務大学校論叢30号(平成10(1998)年)153-253頁。
5 堀口和哉「明治32年の所得税法改正の立法的沿革」税務大学校論叢28号(平成9(1997)年)1-162頁。
6 水野忠恒「国際租税法の基礎的考察」小嶋和他編『憲法と行政法:小嶋和司博士東北大学退職記念』(良書普及会・昭和62(1987)年)734頁。
7 水野・前掲注6)781頁。
8 昭和40年改正の所得税法(昭和40年3月31日法律第33号)・法人税法(昭和40年法律第34号)を示している。所得税法(昭和40年3月31日法律第33号)第161条1号「国内において行なう事業から生じ、又は国内にある資産の運用、保有若しくは譲渡により生ずる所得(次号から第十一号までに該当するものを除く。)その他その源泉が国内にある所得として政令で定めるもの」、法人税法(昭和40年法律第34号)第138条1号「国内において行なう事業から生じ、又は国内にある資産の適用、保有若しくは譲渡により生ずる所得(次号から第十号までに該当するものを除く。)その他その源泉が国内にある所得として政令で定めるもの」。
9 水野・前掲注6)782頁。
10 国際課租税法については増井良啓= 宮崎裕子『国際租税法』(東京大学出版会・令和元(2019)年)1-5頁などがある。本来であれば租税条約と立体的に考察する必要であるが、本稿では主に日米租税条約(昭和30(1955)年条約第1号)以前の国際租税法における国内法の所得税法・法人税法について焦点を当てている。
11 若槻礼次郎父は松江藩士。明治25(1892)年帝国大学法科大学を卒業し、大蔵省に出仕。主税局長、大蔵事務次官を歴任し、44年貴族院議員。第3次桂内閣、第2次大隈内閣では蔵相をつとめる。大正13(1924)年加藤高明内閣の内相に就任し、普通選挙法の成立に尽力。15年に首相となる。ロンドン海軍軍縮会議首席全権を経て昭和6年(1931)再び首相に就任。日米開戦に反対し、開戦後は和平派の立場をとった。国立国会図書館HP(https://www.ndl.go.jp/portrait/datas/219.html 閲覧日2021年10月31日)。
12 判読できない為「〓」とした。前後関係からおそらく「旧」と推測する。
13 若槻礼次郎『現行租税法論』(和仏法律学校・明治36年(1903))252頁。
14 若槻・前掲注13)252頁。
15 大蔵省印刷局[編]官報.明治20(1887)年03月23日217頁。所得の計算方法は第2条に規定されていた。第2条以下の所得計算は次の通りである。
第2条所得ハ左ノ定則ニ據リテ算出スベシ
第1 公債証書其他政府ヨリ發シ若シクハ政府ノ特許ヲ得テ發スル証券ノ利子、營業ニアラサル貸付金預金ノ利子株式ノ利益配當金、官私ヨリ受クル俸給、手当當金、年金、恩給金及カップ賞與金ハ直チニ其金額ヲ以テ所得トス第2 第一項ヲ除く外資産又ハ營業其他ヨリ生スルモノハ其種類ニ應シ収入金高若クハ収入物品代價中ヨリ國税地方税區町村費備蓄金、製造の源質物代價、販売品ノ源價、種代、肥料、營利事業ニ屬スル場所物件ノ借入料、雇用人給料、負債ノ利子及雑費ヲ除キタルモノヲ以テ所得トス
第3 第二項ノ所得ハ前三カ年間所得平均高ヲ以テ算スヘシ但所得収入以未来タ三年ニ満タサルモノハ月額平均其平均ヲ得難キモノハ他ニ比準ヲ取リテ算出スヘシ
16 資産は、「[資産]身代のこと即ち資本財産のことなり」とある。牧村兼吉『国民必携所得税法註解』(巌々堂・明治20(1887)年)2頁。
17 中村信次郎『所得税法註解:附・所得税法施行細則』(吉田忠三郎出版・明治20(1887)年)2-3頁。
18 中村・前掲注17)2-3頁。なお別の註解では、「商業工業農業等總て」について第2条における計算方法の中に説明がある。商業について「商業ヲ大別スレハ卸賣仲買小賣ノ三種ニノ孰レモ物品を製造シ若シクハ買入レテ又之ヲ賣渡シ以テ幾割カノ潤益ヲ得ルニ外ナラス」としている。工業については「工業ハ都テ機械ヲ要スル業ナリ」として鑛山業なども含むとしている。農業については「凡ソ農家ハ田畑山林等ノ土地ヲ所有シテ耕作ヲ為シ年々幾干ソ収益を得ルナリ」としている(田中恒馬『所得税法詳説:附・施行細則』(博文堂・明治20(1887)年)11-13頁)。
19 田中恒馬『所得税法詳説:附・施行細則』(博文堂・明治20(1887)年)10-11頁。
20 村上芳太郎『現行類聚府県会規則全書』博聞社(明治20(1887)年)9頁。
21 明治32年所得税法は、明治20年から12年経過し「明治二十年始メテ所得税法ヲ制定セラレシテヨリ既ニ十余餘年世運ノ推移頗ル大ニシテ従来ノ制度ニ對シ根本的改革ヲ加フルノ必要ヲ生セリ即チ明治二十七八日清戦役ノ結果戦後経営ニ伴フ歳入補塡ノ爲メ巨額ノ財源ヲ得ルノ必要アリ又改正條約実施ノ結果税法上海外ノ関係ヲ規定スルノ必要アリ而シテ民間起業ノ増進ト共ニ商事會社漸ク勃興セルヲ以テ法人所得ニ課税ノ必要ヲ生シ其他税率の改正課税方法の變更ヲ爲スノ要アルヲ以テ明治三十一年十一月第十三期帝國議會ノ開會セラルルヤ政府ハ所得税法改正法律案ヲ会議ニ提出シ其協賛ヲ求メタリ而シテ改正所得税法ニ依リ増収スヘキ金額ハ約百五十蔓圓ノ豫定ナリキ而シテ両院ハ重要ナル改正ヲ加フル事ナクシテ可決シ明治三十二年二月十五日法律第十七號ヲ以テ改正所得税法ヲ公布シタリ」(明治財政史編纂会『租税・内国税第6巻』(丸善・明治37(1904)年)11頁。
22 目賀田種太郎(めがた・たねたろう、嘉永6(1853)年~大正15(1926)年9月10日)静岡県出身。第1回国費留学生として現在のハーバード大学に学ぶ。文部省、司法省を経て、明治16(1883)年大蔵省に移り、同27-37(1894-1904)年大蔵省主税局長、明治37年―大正12(1904-23)年8貴族院議員(勅選)、大正12-15(1923-25)年。枢密院顧問官。また現在の専修大学や東京藝術大学の創設者の一人でもある。『大蔵省人名録』(大蔵省百年史編集室編・大蔵財務協会昭和48年刊)。
23 松方正義第4代、第6代内閣総理大臣。父は薩摩藩士松方善蔵。幼名金次郎。薩摩藩軍奉行、船奉行を歴任。明治維新後、日田県知事として治績をあげる。明治4(1871)年、租税権頭。明治6(1873)年に開始された地租改正事業に従事。明治11(1878)年、パリ万国博覧会副総裁として、フランスに派遣。その際、欧州を視察。帰国後、明治13(1880)年内務卿。松方は、内閣制度発足後、大蔵大臣となって以来、通算10年以上も蔵相を務めています。首相としては、貨幣法を公布して金本位制を実施するとともに、台湾銀行法を公布するなど、日本の資本主義の発展に寄与しました。大正6(1917)年内大臣。大正13(1924)年死去。国立公文書館HP(http://www.archives.go.jp/exhibition/digital/2007_01/masayoshi_matsukata/ 閲覧日2020年10月31日)。
24 大蔵省財務総合政策研究所財政史室『目賀田家文書第2号』(国立公文書館・明治30(1897)年2月)[請求番号]平15財務00010100件名番号045。
25 若槻・前掲注13)251頁。
26 若槻・前掲注13)251頁。
27 なお、不平等条約改正により、治外法権であった居留地においても所得税法による外国人への課税が開始され問題となった。永代借地制度解消前後措置聯絡委員会『永代借地制度解消記念誌』(皇国青年教育協会・昭和18(1943)年)。不平等条約と所得税法改正の関係については次の文献が詳しい。本多八穗「明治32年所得税法における納税主体――法人所得に対する所得課税の導入――( 2・完)」横浜国際社会科学研究24巻3号(令和2(2020)年)133-152頁。
28 所得税法第二條中「職業ヲ有スルトキ」ヲ「職業ヲ有シ若ハ公債社債ノ利子支拂ヲ受クルトキ」ニ改ム(明治34(1901)年4月法律第17号)
29 制限納税義務者について従来は法施行地に住所または1年以上の居所を有しない者が法施行地に職業を有している場合も納税義務があることとなっていたが、これでは無制限納税義務の趣旨を没却することになるので税法施行地に資産または営業を有し、もしくは公社債利子の支払を受ける場合に限り納税義務があることとした。」雪岡重喜= 大蔵省主税局調査課『所得税・法人税制度史草稿:調査資料』(昭和30(1955)年)7頁。
30 第13回貴族院所得税法改正法律案特別委員会第1号明治32(1899)年1月12日1頁。
31 所得税法第5条第6号に関連する行政裁判所の判例がある。国内に住所を有する者がロシアで水揚げし加工して製造したものを国内の市場で販売した場合、国内販売分に対して課税された事例。明治37年第509号乃至第513号、明治40年12月11日第2部宣告、行政裁判判決録第18巻1120頁。
32 なお資産の所得については次のような議論が行われた。子爵三島彌太郎
「チョット伺ヒマスガ五條六項ニ『外國又ハ此ノ法律ヲ施行セサル地域ニ於ケル資産』云々トゴザイマス、此前ノ公債社債ト云フモノ外國ノ公債社債モ入ルト見ルトコノ資産ト云フノガ矛盾シハシマセヌカ、如何デゴザイマスカ」若槻礼次郎「公債ヲコチラニ持ッテ居リマシテ外國カラ受ケルモノアリマス、ソレハ五條ノ六項ハ外國ニ不動産ヲ持ッテ居ッテ利ヲ向カラ受ケテ居ルナラ其資産ハ法律ヲ施行シテ居ル所ニアル資産ト斯ウ見ルノデ、ソレデ公債ノ利ナドハ此法律施行地デ支拂ハナイモノデ尚ホ課税スルモノガアルト云フノデ四條ノ末項ニサウ云フモノヲ擧ゲマシタ」貴族院・前掲注27)9頁。
33 三島彌太郎三島通庸の長男。私塾攻玉社、山形師範学校、駒場農学校を経て、2度の渡米でマサチューセッツ農学校、コーネル大学大学院で学び、帰国後は農商務省、逓信省につとめる。その間の明治21(1888)年父通庸の死により子爵を継ぐ。30年貴族院議員となり、子爵議員を中心とした有力会派研究会に所属。39年横浜正金銀行に入り、41年取締役、44年頭取となる。大正2(1913)年日本銀行総裁に就任し、8年在職中に死去。国立国会図書館HP(https://www.ndl.go.jp/portrait/datas/487.html 閲覧日2020年10月31日)。
34 貴族院・前掲注30)9頁。議事録では「第5条第5項」となっているが、「第5条第6号」のことである。
35 貴族院・前掲注30)9頁。
36 貴族院・前掲注30)9頁。
37 税法施行地についてこの所得税法では次のように規定されている「本税法ノ規定ニ依ルモノハ、沖縄縣、小笠原島及伊豆七島是ナリ」(所得税法第50条)。当時は樺太は法施行地外であった。
38 名古屋税務監督局『例規類纂直税編(所得税)』(税務大学校租税史料館所蔵([請求記号]平12名古屋984)・大正14(1924)年)104-106頁。筆者は、この資料を税務大学校租税史料室で閲覧した。そのとき、国税庁税務大学校の牛込努研究調査員からこの資料について、実際に明治時代に税務署で使われていた加除式図書資料であるという説明を受けた。なお次の文献にも省議が掲載されている。武本・後掲注61)69-70頁。日本税務調査会『現行所得税法營業税法義解』(清文社・大正12(1923)年)3-4頁。
39 関口健一郎明治34年に所得審査員に任命され、明治40年には行政裁判所の評定官となり昭和14年に叙勲を受け昭和15年に行政裁判所部長となった。大蔵省印刷局「敍任及辭令關口健一郞(大藏省)」官報(明治34年7月27日)433頁、「丸亀税務監督局長関口健一郎行政裁判所評定官ニ転任ノ件」(国立公文書館所蔵)(任B00465100)(明治40年3月28日)、「行政裁判所評定官関口健一郎外五百十五名叙勲並勲章加授ノ件」(国立公文書館所蔵)(勲00630100)(大正14年2月21日)、「行政裁判所評定官関口健一郎外八百九十九名叙勲ノ件」(国立公文書館所蔵)(勲00746100)(昭和10年2月8日)、「行政裁判所評定官関口健一郎行政裁判所部長任命ノ件」(国立公文書館所蔵)(任B02580100)(昭和14年9月1日)。なお翻訳書としてエドウィン・アール・エー・ゼリグマン著関口健一郎訳『租税転嫁論』(博文館・明治42(1909)年)がある。
40 序分にて「著者は多年大蔵省に在りて所得税の事務に精通し今回の税制改正にも助力したるもの少なからず」と紹介されている(武本・後掲注61)。
41 上林敬次郎『所得税法講義第明治34年発行の復刻版』(松江税務調査会・明治44(1901)年)36-38頁。
42 上林・前掲注41)36頁。
43 上林・前掲注41)106頁。
44 若槻・前掲注12)251頁。
45 貴族院・前掲注30)9頁。
46 関口健一郎『現行所得税法要義』(巌松堂・明治44(1911)年)7頁。ほかの解説では第2条の主旨について「一言ニテ之ヲ示サハ此法律施行地内ニ於テ生スル所得ハ其種類ノ何タルカヲ問ワス又納税スヘキ義務アリト云ウニアリ」行政法協會〓「所得税法」行政法協會雑誌2(7)明治32(1899)年104頁。
47 関口・前掲注45)25-26頁。
48 関口・前掲注46)25頁。
49 関口・前掲注46)25頁。
50 関口・前掲注46)32-33頁。
51 関口・前掲注46)33頁。
52 「源泉」のように思われるが、関口健一郎『改正現行所得税法要義』(巌松堂・大正6(1917)年)37頁にも「泉源」と表記されている。
53 関口・前掲注45)34頁。
54 関口・前掲注45)35頁。
55 大正10(1921)年のドイツ所得税法を国立公文書館で確認することができた。「営業」に関する条文の翻訳は次の通りである(大蔵省内國税調査課「独逸国所得税法」大正10年(国立公文書館所蔵・請求番号平23財務00826100)。
「第七條左ニ掲クルモノヲ營業ヨリ生スル所得トス
一、商工業又ハ鉱業ニヨリ生スル収入」
56 木村房次郎『所得税法詳説』(中央税法会・大正3(1914)年)7頁。
57 木村房次郎『營業所得兩税法詳解』(法政研究会・大正6(1917)年)285頁。
58 木村・前掲注57)285頁。
59 木村・前掲注57)285頁。
60 木村・前掲注57)289頁。
61 武本宗重郎『改正所得税法釈義』(同文館・大正2(1913)年)66頁。なお、武本宗重郎『実務参考所得税法詳解』帝国税務調査会(大正8(1919)年)66頁も同じ内容である。以下、武本宗重郎『改正所得税法釈義』(同文館・大正2(1913)年)を引用する。
62 武本・前掲注61)186頁。
63 武本・前掲注61)185-186頁。なお、ほかの解説書では、国外にある源泉の所得を「拡張所得」と表現しているものもある。松村源三郎によれば「是れは外國は勿論外國の領土内、及び此所得税法を施行せざる土地即ち朝鮮の如き場所に於て資産を有し、營業を為し、及び職業を行い之れによりて収入を得たる法人の所得には税金を課せずと云ふ意也、乍併此法人にして日本領土内に本店を有するときは所得税は其の本店に於て課税せらるゝものなれば前記の所得は本店の擴張所得と看做し本店に合せらるゝを常とするが故に此例外を設けたる所以なり」松村源三郎『理論詳釈所得税法要義』(大阪税務協同会・(明治43(1910)年)10頁。
64 大蔵省『内国税』(財政経済学会・昭和12(1937)年)1188-1191頁。外國船舶ニ対スル相互免除ニ關スル法律大正13年(法律第6号)
日本ニ住所ヲ有セサル外國人又ハ外国法人ニハ外國ノ船籍ヲ有スル船舶ノ所得ニ付所得税ヲ免除ス但シ其ノ船舶国籍カ日本船舶ノ所得ニ付同様ノ免除ヲ爲ササル場合ニ於テハ此ノ限リニ在ラス
大蔵省令第27号(大正15(1926)年7月14日)所得税法施行細則中左ノ通改正シ公布日ヨリ之ヲ施行ス
65 租税条約における恒久的施設概念の先行研究として次のものがある。恒久的施設の研究については次のものがある。条約上の恒久的施設について国際連盟での議論を分析している(占部裕典「租税条約における恒久的施設概念の機能と限界」総合税制研究1巻26頁。)。プロイセン営業税法における恒久的施設の研究(吉村典久「国際租税法における恒久的施設概念(P. E.)に関する若干の考察(国際課税の動〈特集〉)」ジュリスト1075号(1995)47-50頁。)。現在最も詳しいものでARVID AAGE SKAAR, PERMANENT ESTABLISHMENT (Kluwer Law International. 2020). がある。
66 当時の二重課税問題を紹介している文献として次のものがある。黒田英雄「國際二重課税問題に就いて」国際商議関係書類:第5號大正13(1924)年及び石渡荘太郎『国際二重課税に就いて』(日本経済聯盟会・昭和4(1929)年)。
67 第18条第6号について帝国議会の議事録で次のように趣旨が述べられている。
「所得税法ノ施行ニ関スル法律案」「『日本ノ國籍ヲ有セサル者本法施行地外ニ於ケル資産、營業又ハ職業ヨリ生スル所得』之ニ對シテハ所得税ヲ課ケナイ、斯ウ云フノデアリマス、是ハドウ云フ場合カト云フト、即チ外國人ノ場合デアリマス、例ヘバ亞米利加人ガ東京ニ住所ヲ持ツテ居ツテ、ソウシテ亞米利加ニ土地ヲ持ッテ居ル場合ハ、本來ノ所得税ノ精神カラ申スト、其場合ニモ矢張課税シナケレバナラヌト云フコトニナルノデアリマスガ、併シ外国人ガ外国ニ土地ヲ持ッテ居ルト云フヨウナ場合ニ於イテハ、之ニ對シテマデモ課税セヌデ宜イデナイカ、斯ウ云フ趣旨デ十八條ノ六號ガ出来テイルノデアリマス」
帝44 衆議院/大正九年法律第十二号中改正法律案外一件委員会大正10年2月25日2頁.
解説書では、「本號の適用を受くるものは外國人の本法施行地外に於ける所得にして従て日本の國籍を有し第一條に該當する當は所得發生地の内外を問わず綜合課税さるゝものとす。」となっている(吉田豊治、竹部政俊『改正所得税法釈義』(大阪税務新聞社・大正9(1920)年)114頁)。
68 CONGRESS UNITED STATES & STATE UNITED STATES. DEPT. OF,PAPERS RELATING TO THE FOREIGN RELATIONS OF THE UNITED STATES 1926 449 § v. 2 (Kraus Reprint. 1971).
69 Id. at. 449.
70 Id. at. 449.
71 件名標題「(10)所得税其他直接税ニ関スル法規等ノ蒐集ニ関スル件」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.B06150618500、財政経済仮委員会第四巻(2-4-2-0-9_005)(外務省外交史料館)。
72 渡辺善蔵『所得税法講義』(巖松堂)について巌松堂出版株式会社(東京都千代田区)に確認したところ、出版の記録はないとのことであった。西田一信『所得税法講義』(巖松堂)については、近い年代のものとして西田一信= 勝正憲『改正所得税法要覽[第再版]』(巖松堂書店・大正9(1920)年)がある。
73 外務省外交史料館・前掲注71)。
74 外務省外交史料館・前掲注71)。
75 NATIONS LEAGUE OF, TAXATION OF FOREIGN AND NATIONAL ENTERPRISES : A STUDY OF THE TAX SYSTEMS AND THE METHODS OF ALLOCATION OF THE PROFITS OF ENTERPRISES OPERATING IN MORE THAN ONE COUNTRY 89 § 2. Economic and financial ; 1932.II.A.3,1933.II.A.18-19 (League of Nations. 1932). この文献は東京大学経済学図書館・経済学部資料室で閲覧した。この報告書は「キャロル報告書」と呼ばれている。本報告書の先行研究として北川博英「モデル租税条約の進化:国際連盟及びAdams 教授による貢献(2)」横浜法学25巻3号(2017)140頁。ほか赤松晃『国際租税原則と日本の国際租税法:国際的事業活動と独立企業原則を中心に』(税務研究会出版局・2001)などがある。
76 S.ISHIWATA は石渡莊太郎と思われる。石渡莊太郎は昭和3(1928)年にスイス国ジュネーブ開催の二重課税防止国際会議帝國委員を担当している(大蔵省百年史編集室『大蔵省人名録』(大蔵財務協会・1973)16頁)。
77 K.TANAKA は大蔵省百年史編集室『大蔵省人名録』(大蔵財務協会・1973)を確認したが、名前は掲載されておらず、不明である。K. TANAKA は田中勝次郎と思われる。本稿第2章の当時の文献において「営業を有する」の解釈においてPermanent establishment と述べているのはK. Tanaka と田中勝次郎のみである。なお川端康之(川端康之「米国内国歳入法典482条における所得配分―― 関係理論から見た「所得創造理論」-2」民商法雑誌101巻3号(平成元(1989)年405頁)や北川博英(北川・前掲注75)140頁)において、田中勝次郎『法人税法の研究』(税務研究会・1965)181-200頁を指摘してK. Tanaka は田中勝次郎と思われると述べている。
78 報告書は所得税の報告が中心であるが、地租(Land Tax)、営業収益税法Business-Profit Tax)、資本利子税(Capital-Interst Tax)についても報告がある。なお営業収益税法の営業場については“Business Establishment” と表現している。“Business Establishment” と“Permanent Establishment” の違いについては、矢内一好「国際連盟によるモデル租税条約の発展――事業所得を中心として」税務大学校論叢20号(1990)377-429頁で説明されている。
79 LEAGUE OF NATIONS, supra note 75, at 89.
80 Id. at. 89.
81 Id. at. 89.
82 吉田、竹部・前掲注67)9頁。また同じような説明が次の文献にもある大阪財務研究会『改正所得税法通解』大阪財務研究会・大正9(1920)年9頁。
83 吉田豊治、竹部政俊は、第2条について「本法施行地ニ資産又ハ営業ヲ有スルトキ」とは、「本條は前條に對する例外的補足規定なり即ち本法施行地に住所を有し又は一年以上居所を有する者は本法に依り所得税を納むる義務あるものとなし本法に依る納税義務者を限定的に規定したるを以てこれに依るときは等しく本法施行地に於ける所得者にして其の要件を具備せざる爲其の所得に課税を受けざる場合は勿論帝国領土内に居住する者も其の居住地本法施行違いなるときは遂に課税せられざるの結果となり到底地域的不公平たるを免れざるは敢えて言を俟たざるべし。
これ租税普遍の原則を破り正義の観念に背反すべし故に本條に於いては前條に該當せざる者と雖も本法施行地に於ける所得あるときは其の所得に就いてのみ納税義務たることを規定したるものなり而して本法は本條第一號の所得は納税義務者が法人なるときは第一種の所得税を個人なるときは第三種の所得税を課し第二號及第三號の所得は納税者の法人たると個人たるとに論なく課税の便宜上第二種の所得税を課することゝせり」吉田、竹部・前掲注67)23-24頁。
84 渡辺は序文において、次のように説明している。「本書は大正9年10月中旬より11月末までの40日間、大蔵省において開催した税務講習会の講師を命ぜられ、所得税事務の講義を為したる際の稿本を修補したるものなり。なるべく自説を抑えて通説に従ひ、只管實際の取扱例に違はざらんことを務めたるのみ。」渡辺善蔵『所得税法講義』(東京財務協会・大正10(1921)年)。
85 渡辺善蔵『所得税法講義』(東京財務協会・大正10(1921)年)26頁。なお渡辺善蔵『所得税法資本利子税法釋義』(自治館・昭和2(1927)年)18頁にも同じ文章がある。以下、渡辺善蔵『所得税法講義』(東京財務協会・大正10(1921)年)を引用する。
86 渡辺・前掲注84)26頁。
87 藤沢弘は、前述の石渡莊太郎の部下であった時期が長かったようである(藤澤弘「石渡さんの思ひ出の記」税と財7巻12号(昭和25(1950)年)26-27頁)。
88 藤沢弘『国税全解:最新第1巻』(日本租税学会・大正11(1922)年)17頁。
89 藤沢・前掲注88)18-19頁。
90 藤沢・前掲注88)18-19頁。
91 木村鍵次「外國會社の所得税(完)」税5巻12号(昭和2(1927)年)27-28頁。
92 「本書は、著者が税務署長として或いは税務監督局の直税部長として、前後七年に互る税界生活の経験を基礎とし、之れに諸國の立法例や學説判例等を参酌して記述したものであるが、著者が税界を去つてからの立法に係る大正十五年の改正法の立法理由と、最近の取扱實例については、主として主税局事務官渡辺善蔵氏著『所得税法資本利子税法釈義』を参考とした。」としている。田中勝次郎『所得税法精義』(嚴松堂書店・昭和5(1930)年)2頁。
93 田中・前掲注92)40頁。なお改訂版も同じ内容(田中勝次郎『所得税法精義[改訂版]』(巖松堂書店・昭和11(1936)年41頁)であるため、以下。田中勝次郎『所得税法精義』(巖松堂書店・昭和5(1930)年)を引用する。
94 田中・前掲注92)41頁。
95 田中・前掲注92)41頁。
96 田中・前掲注92)40-46頁。
97 田中・前掲注92)42頁。
98 田中・前掲注92)42頁。
99 田中・前掲注92)41-42頁。
100 田中・前掲注92)45頁。
101 田中・前掲注92)45頁。
102 条約とは、電信条約のことである(郵政省『郵政百年史資料第2巻』(吉川弘文館・昭和45(1970)年)192-207頁)。条約第3条に「双方ノ会計ハ長崎ニ於テ之ヲ爲スヘシ」「内外互ニ交換スル信報ハ長崎ノ両局ニ於テ別ニ会計ノ簿籍ヲ作リ之ヲ記載スベシ」と定めている点が後述の営業場があるか否かの問題点となったのではないだろうか。
103 杉村章三郎「外国営利法人の納税義務」自治研究20巻9号昭和11(1936)年79頁。
104 杉村・前掲注103)79頁。
105 杉村章三郎のほかの論文で二重課税について、「二重課税の最も行はわれ易い収入課税及び財産課税に關し所謂税の物體化(例へば財産課税については課税地とを財産所在とし、収入課税については之を義務者の住所とするが如き)が一般に認識せらるることに於いて、その可能性は十分に存在する。」脚注2において「例へば所得税・営業収益税について見ても、納税義務者は原則として住所を標準としてその範圍が定められるが、尚例外として税法施行地に財産を有し又は物的施設を有する場合その株主をも納税義務者とする。この課税方式を外国が採用してゐれば、二重課税の起こるとは必然である。判例も丁抹に本店を有し我が國長崎に出張所を有する外國営利法人に、所得税及び営業収益税の納付義務有りとしてゐる(行判昭和一一・五・二七行録四七輯二四〇頁及び二五四頁)。この場合も資本國でも同會社の出張所所在地に於ける所得を綜合して所得課税をしているとすれば、国際的二重課税となるわけである(自治研究一二巻九号八三頁参照)。」杉村章三郎『租税法』(日本評論社・昭和12(1937)年)14-15頁。
106 加野裕幸「国税である営業税及び営業収益税における課税客体としての営業の範囲」法学ジャーナル98号(2020)23-68頁では紙幅の都合により「所得税違法賦課取消ノ訴」昭和7年第52号乃至55号・昭和11年5月27日第2部宣告及び「營業収益税違法賦課取消ノ訴(中間判決)」昭和7年56号乃至58号・昭和11年5月27日第2部宣告は、掲載できていなかった。
107 小川鄕太郞「營業稅ヲ論ス」法学協会雑誌24巻9号1235-1258頁。
108 小川・前掲注107)1239頁。
109 昭和2(1927)年ごろのプロイセン営業税条令の条文の日本語訳は国立公文書館で確認することができる(大蔵省財務総合政策研究所財政史室「プロイセン営業税条令」(昭和財政史資料第2号第52冊・昭和2(1927)年)(国立公文書館所蔵・請求番号平15財務00219100))。
「プロイセン営業税条令」
「第1條営業税は業務執行の為、普国内に営業場を有する継続的営業に課す。
継続的なる利得を目的とする独立の活動ニシテ一般的経済交通に参加するものは、凡て営業と看做す。」
「本法に於て営業場とは凡て固定的なる土地の施設又は設備ニシテ継続的企業経営の用に供するものを謂ふ。本店の他に支店、製造所、購入販売所、事務所、竝に其の他の営業執行の為、営業者又はその共同企業者常任代理人若しくは他の常任代理人によりて管理せらるものは爾後営業場と看做す。十二ヶ月を超過する建設工事も営業場と看做す。」
110 「一定ノ店舗其ノ他ノ営業場」について判例研究を行っている(加野裕幸「国税である営業税及び営業収益税における課税客体としての営業の範囲」法学ジャーナル98号(令和2(2020)年)23-68頁)。行政裁判所における営業税・営業収益税の判例は行政裁判所判決録に約100件掲載されそのうち営業場に関係のあるものを15件とりあげた。紙幅の都合上掲載できていない行政裁判所の判例がある。
111 宮崎直二『改正営業税法便覧』(巌松堂書店・大正13(1924)年)10頁。
112 上林敬次郞「稅務雜爼營業稅法辯疑」行政機関1巻4号(明治29(1896)年)21-22頁。
113 池田武『例解法人税法精義』(森山書店・昭和16(1941)年)72-74頁。大正14(1925)年から昭和12(1937)年まで会計検査院に在籍していた(内閣印刷局[編]『職員録大正14年7月1日現在』(内閣印刷局)561頁及び内閣印刷局[編]『職員録.昭和12年7月1日現在』(内閣印刷局))463頁)。
114 明里長太郎『税務と會社經理[第一部改訂版]』(日本經濟社・昭和24(1949)年)22-23頁。
115 第7回国会衆議院大蔵委員会第19号昭和25(1950)年2月24日3頁。
116 大藏財務協會「直接稅所得稅」財政5巻5号(昭和15(1940)年)14頁。
次の文献にも同様説明がある。田中豊『税制改正に就て』(東京銀行集会所・昭和15(1940)年)。
117 田中・前掲注116)13頁。
118 池田・前掲注113)1-2頁。
119 池田・前掲注113)72-74頁。
120 池田・前掲注113)72頁。
121 池田・前掲注113)72頁。
122 池田・前掲注113)72頁。
123 池田・前掲注113)73-74頁。
124 行政裁判所の判例について大正6(1917)年185号、大正9(1920)年7月20日行政三判、行政裁判所判決録31輯614頁。「原告ハ法人ハ普通人ト異リ其定款ニ定メラレタル目的ノ範囲内ニ於テノミ人格ヲ有スルヲ以テ海運業ヲ目的トスル原告ニ対シ『物品貸付業』ナル営業名ヲ附シ且其課税標準ヲ決定スルハ違法ナリト主張スルモ船舶ノ貸付カ法人タル原告業務ノ目的外ナルト否トヲ問ハス其業務ノ実体ニ対シ税法ノ規定ニ従ヒテ課税ヲ為スハ敢テ不当ナリト云フヲ得ス」
125 判決日の日付が抜けているので補足すると、大正七年第二百三十九号大正八年十月十六日第三部宣告。課税庁側の訴訟代理人として税務監督局属渡辺善蔵の名前が挙がっている。
126 池田・前掲注113)245-246頁。池田武の解説書で外国法人の所得計算は非常に難しいと説明がされている。「営業所得の計算は営業の本體が外國に存在するため、その計算の実態を捕捉することは頗る困難である。即ち仕入または製造が内地で行はれ、其の販賣のみ外國で行はるることがあり、或はこれと反對なる場合がある、或いは製造行爲の一部が兩國に亘つて行はるることがある、斯る場合に所得を内外に區分するとき、法人が任意に之を區分し得るものとすれば、決算期に際し、内地の所得の大部分は外國の所得に振替へられ、僅少の所得が内地に計上される虞れがある。故に外國法人の内地所得の計算に際しては、内地の同一又は類似の企業より類推し、或いは内地の収入金に對する割合に比例し、或いは内地に於いて支拂ひたる給料及び賃銀額の其の總額に對する割合に應じ、或いは製造と販賣益とに依り又は資本の額等により之を區分することを要する。
要するに内外國に亘る營業より生ずる所得の區分計算は、各企業の性質に應じ、之を經済上より観察して、營業行爲の各部分的要素がその營業利益の発生に關與したる程度の厚薄に依つて、其の利益を各要素に配分計算するを以て理論上最も正当なる計算方法と稱するべきである。
但し外國法人が内地の營業場においては單に仕入を爲し、又は販賣品の引渡のみを爲し、其の取引の結果に對する代金の授受等は總て本店に於て爲す、法人の仕入又は販賣に對する利益は内地營業場の所得とせざる取扱となつている」池田・前掲注113)245-246頁。
127 池田・前掲注113)245-246頁。
128 大正9年法の説明であるが外国法人の所得について、その「営業」より生ずる所得とは、いかなる範囲で所得を計算するか文献がある。「茲ニ外國法人ノ一般所得ト稱スルハ、本法施行地ニ本店又ハ主たる事務所ヲ有セサル法人ノ、本法施行地ニ於ケル資産又ハ營業ヨリ生スル第一種戊ノ所得ヲ謂フ。
而シテ其ノ所得金額ノ計算方法ハ本法施行地ニ於ケル資産又ハ営業ニ付、其ノ各事業年度ノ總益金ヨリ總損金ヲ控除シタル金額ニヨルヘキモノナルヲ以テ(税法第四條第二項)大體ニ於テ内国法人の總所得計算法ニ準シ之ヲ計算スヘキモノトス。」としている。中村継男『法人所得及所得税[[増補訂正]再版]』(巖松堂書店・大正14(1925)年)238頁。
129 大蔵省主税局「法人税法解説」財政10巻1号昭和20(1945)年57頁。
130 池田・前掲注113)72頁。
131 平田敬一郎『新税法』(時事通信社・昭和25(1950)年)90頁。
132 平田・前掲注131)90頁。
133 平田・前掲注131)90頁。
134 昭和29(1954)年当時の解説として加藤清「日米租税条約について」税法学41号昭和29(1954)年11-23頁、佐藤春亥「日米租税条約の概要」実務者16号昭和29(1954)年55-61頁、志場喜徳郎「日米租税條約」租税研究5巻49号(昭和29(1954)年)1-17頁、鈴木源吾「日米租税協定成立について」租税研究31号(昭和27(1952)年)3-6頁、谷川寛三「日米所得税条約について」會計67巻4号(昭和30(1955)年)591-607頁(なお、後掲の谷川文書は谷川宏によるものである)がある。近時の先行研究として増井良啓「租税条約の発展」金子宏編『租税法の発展』(有斐閣・平成22(2010)年)がある。
135 大蔵省「戦後財政史資料谷川文書租税国際二重課税防止3 第32号」昭和26年06月13日- 昭和26年07月10日(国立公文書館所蔵・請求番号平25財務00967100)本論に後掲した資料Aである。なお谷川文書第29号から第33号までが日米租税条約に向けての資料集となっている。資料の一部は拙稿「日米租税協定逐条審議議事録1951・52」法学ジャーナル96号(平成31(2019)年)289-449頁に再録している。
136 大蔵省・前掲注135)。
137 大蔵省・前掲注135)。資料Dとして後掲している。
138 大蔵省・前掲注135)。
139 英国の所得税法については昭和28(1953)年から昭和30(1959)年に福田幸弘によって邦訳註解が発表されている。福田幸弘「英国所得税法(邦訳註解)-1」税法学34号(1953)35-43頁から始まり福田幸弘「英国所得税法(邦訳註解)-53」税法学102号(1959)まで連続して掲載されている。英国所得税法の事業所得についてはスケジュールDがあるが事業場概念を分析するような記述は発見できなかった(福田幸弘「英国所得税法(邦沢註解)-16」税法学52号(1955)40頁)。
140 安川七郎「外国人課税の諸問題(完)」財政16巻12号(昭和26(1951)年)34頁。
141 安川・前掲注140)34頁。
142 安川・前掲注140)34頁。
143 安川・前掲注140)34頁。
144 安川・前掲注140)34頁。
145 安川・前掲注140)34頁。
146 安川・前掲注140)34頁。
147 松井静郎『現行法人税の取扱:国税庁通達を中心として増訂版』(財政経済弘報・昭和27(1952)年)。事業については「事業を有すると言うことは事業場を有することになる」としている。「外国人が本国から電信等で直接日本の商社と取引しても課税されない」「日本に支店も事業所も設けず代理店を通じて事業を行う場合日本において事業を有することとなるかどうかの問題があるが、代理店を通じて事業を行っていもこれは日本に事業を有するものと見ない。又、外国法人が電信その他の通信によって直接日本の会社と取引をなすものも日本に事業を有するとは見ない。日本に事業所を設けているが、売買契約は外国にある本店が直接日本の商社と締結して日本に在る事業所においては商品の管理または受渡、代金の請求または支払等のみを行うにすぎないものもあるが、これは日本に事業を有するものに該当すると解されている。」松井静郎『現行法人税の取扱:国税庁通達を中心として増訂版』(財政経済弘報・昭和27(1952)年)12-14頁)。
148 安川・前掲注140)36-38頁。
149 外務省記録「日米間租税の2重課税防止に関する2条約関係」第2巻、Bʼ5.2.0.J/U1-1(マイクロフィルム番号Bʼ-0062)、外務省外交史料館。加野・前掲注135)。
150 加野・前掲注135)373頁。
151 加野・前掲注135)376頁。
152 加野・前掲注135)377頁。
153 加野・前掲注135)378頁。
154 加野・前掲注135)435頁。
155 内閣法制局第二部(外務省担当)「日米租税協定」(国立公文書館所収)請求番号平19法制00222100。日米租税条約交渉に当たっては、第2回目から出席していることがこの資料から分かる。
156 鈴木源吾「日米租税協定成立について」租税研究31号昭和27(1952)年5頁。
157 加野・前掲注135)401-402頁。
158 志場喜徳郎「日米租税條約会議に出席して」財政3巻昭和28(1953)年)85頁。この文献によると昭和26年夏に当時の平田主税局長がアメリカに出張してアメリカ内国歳入局の租税條約担当官と会談したとされる。
159 志場喜徳郎「日米租税條約」租税研究5巻49号昭和29(1954)年)3頁。
160 志場・前掲注159)3頁。
161 志場・前掲注159)3頁。
162 第19回国会衆議院大蔵委員会会議録第二十八号昭和二十九年三月二五日42頁。
163 大蔵省「財政史資料鈴木(源)文書租税特別措置(2)他(昭和30年~32年)」(国立公文書館所蔵・[請求番号]平27財務02150100)。
164 田口勝彦「非居住者、外国法人課税の改正の概要」税経通信20巻7号(昭和40(1965)年)235頁。
165 昭和27年(法律第53号)所得税法第1第8項
前号に規定する場合の外、資産をこの法律の施行地にある事業の用に供することによりその対価として支払を受ける所得その他の源泉がこの法律施行地にある所得で命令で定めるものを有するとき
166 田口・前掲注164)235頁。
167 なお昭和40(1965)年改正のほかの解説でも事業より生ずる所得が恒久的施
設に該当すると説明がある。
「税法上は(見だし以外では)恒久的施設という言葉は使っていませんが、所得税法でいえば第164条第1項第1号から第3号までに掲げる非居住者が『国内に恒久的施設を有する非居住者」に当たるわけです。(法人税法では第141条に同様の規定があります。)」国税庁編『改正税法のすべて』(大蔵財務協会・1965)188頁。
168 安川・前掲注140)34頁。
169 大蔵省・前掲注135)。
170 第9回帝国議会衆議院営業税法案委員会第1号明治29年1月16日15頁。
171 第13回帝国議会貴族院所得税法改正法律案特別委員会第1号明治32年1月12日政府委員若槻礼次郎発言。明治32年の所得税法改正において法人所得への課税について「此法律ノ出来マシタ当時ニ於テハ法人トカ個人ト云フ関係ハ餘リ立法者ノ考エノ中ニナカッタ時ニ出来マシタノデ当初出来テ以来法人ハ課税ガデキヌデアッタノアガ其他ノ税ニ付イテハ一様ニ納税義務ヲ負ウコトニナッテ居ルカラ所得税デモ別ニナルコトハデキマセヌ積リ今度法人個人ヲ問ワヌデ一條二條ニ義務ヲ定メタノデアリマス」
172 営業収益税法の解説では、補完税の説明として「我國の租税制度では、勤勞所得には所得税だけしか課さないが、資産所得に對しては所得の外、別の税を重複してその能力に應ずる負擔を命ずる仕組みとなつて居るのでこの資産所得に重課する別の税を所得税に対する補完税と稱するのである。」としている。勝正憲『營業收益税の話[昭和12年度全改版]』(千倉書房・昭和12(1937)年)8-9頁。ほか、脇阪實「營業税法」大蔵財務協会『第84回帝国議会成立大蔵省関係法律解説』(大蔵財務協会・昭和19(1944)年)76頁。
173 第9回帝国議会衆議院営業税法案委員会第5号明治29年3月2日8頁。営業税法第33条における検査権について目賀田種太郎発言「今日ハ既に此各國トノ條約モ追々締結ニナツテ居リマス、遠カラズ帝國税法ノ下ニ外国人も服從致スト云フトハ御承知ノコトゝ思フ、此條約文ヲ見マスト云フト何レモ甲乙兩締盟國ノ人民ハ、互ニ法律規則ノ命ズル処ニ従ツテ、税ニ關スル所ノ帳簿其他物件ノ検査ヲ受クルト云フコトガ書イテゴザイマス」。
174 汐見三郎によれば日本の明治29年営業税法は仏蘭西式で大正15年の営業収益税法は獨逸式であったと指摘している(汐見三郎「營業税と營業收益税」經濟論叢26巻3号(1928年)528頁)。
175 「非課税」(手書きメモ)。
176 「課税原価算定の方法が異なる」(手書きメモ)。
177 「課税本支店間の否認規定必要」(手書きメモ)。
「納税義務者と密接な関係を有する者、外国法人等と取引をする者は納税義務者とみなす」(手書きメモ)。
181 「ordinary agent」(手書きメモ)。
178 「課税」(手書きメモ)。
179 「課税」(手書きメモ)。
180 「課税」(手書きメモ)。
182 「本社勘定の付け替え等をチェックする。」(手書きメモ)。
183 「通信販売(英では原則として事業とする。)」(手書きメモ)。
184 「事務所、代理業による事業」(手書きメモ)。
185 「外銀が日本の銀行を代理者とする場合」(手書きメモ)。
186 「国際間の再保険は本店の名において行う商慣習在り」(手書きメモ)。
187 「本人が反証をあげれば住所を有しないものとする(英米では逆に外交人は原則として住所を有しないものと推定される。)」(手書きメモ)。
188 (英)(手書きメモ)。
189 「推定される」の横に手書きで「取扱う」とも手書きでメモが行われている。
190 (例)G. M に対する大平モータース(手書きメモ)。