Japanese Journal of Conservation Ecology
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
Original Article
Secondary seed dispersers of Morella rubra on Yakushima and Tanegashima islands
Ayane Watanabe Shumpei KitamuraGoro HanyaMichiko Nakagawa
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2024 Volume 29 Issue 1 Pages 15-24

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Abstract

要 約:霊長類や大型鳥類は、大型の種子や果実を持つ植物の唯一の種子散布者となり得るだけでなく、様々な植物の種子散布者となるため、人為攪乱によって大型動物が絶滅した空洞化した森林では、種子散布機能の崩壊が懸念されてきた。国内でも、ヤマモモの主要な種子散布者であるニホンザルが絶滅した種子島では、現在もニホンザルが生息する屋久島と比較して、ヤマモモの種子散布量が激減していることが報告されている。しかし、屋久島や種子島に生息するニホンジカや森林性野ネズミなどの地上性動物による二次散布については未だ明らかにされていない。本研究では、屋久島と種子島において、地上性動物によるヤマモモ果実・種子の利用の有無とその消費者を明らかにし、地上性動物による二次散布の可能性を検討することを目的とした。2022年と2023年の6月に、屋久島と種子島の各調査地で10地点に自動撮影カメラを設置し、実験的に設置したヤマモモ果実を訪れる動物種とその頻度を記録した。また、動画内で果実を食べているか、くわえている様子が確認できる個体は採食個体としてカウントし、採食果実数とともに記録した。その結果、屋久島では7種、種子島では10種の動物が観察され、ヤマモモ果実の採食が認められたのは、ニホンザル、ニホンジカ、ネズミ類(アカネズミ属)、タヌキ、ハシブトガラスの5種で、特に全体に占める割合が高かったのはニホンジカとアカネズミ属であった。ニホンジカはその摂食方法や糞粒のサイズから、ヤマモモ果実を種子ごと噛み砕いていると考えられ、ヤマモモ種子の二次散布に貢献している可能性は低いと考えられた。一方でアカネズミ属は、果肉やその中の種子をその場で食べるだけでなく、果実をくわえて持ち去る様子も確認されたことから、ヤマモモ種子を貯食していると考えられる。したがって、アカネズミ属は、特にニホンザルが不在の種子島で、ヤマモモ種子の二次散布者として重要な役割を果たしている可能性がある。今後、アカネズミ属の二次散布者としての役割を明らかにするためには、種子散布量、種子散布距離、散布された種子の生残率・発芽率などを総合的に評価していく必要がある。

Translated Abstract

Abstract: Because primates and large birds can be the sole seed dispersers for plants with large seeds or fruits, as well as being the seed dispersers of a wide variety of other plants, seed dispersal collapse in defaunated forests has become a concern. In Japan, a dramatic reduction in the seed dispersal of Morella rubra has been reported on Tanegashima Island, where its main seed disperser, the Japanese macaque (Macaca fuscata), has become extirpated, unlike on Yakushima Island, which is still inhabited by Japanese macaques. A previous study of seed dispersal collapse focused on arboreal animals that consume M. rubra fruits in the canopy; however, secondary seed dispersal of M. rubra by terrestrial animals remains unclear. The objective of this study was to identify animal species that consume fallen M. rubra seeds and fruits on Yakushima and Tanegashima islands, and to explore the possibility of secondary seed dispersal by these animals. In June 2022 and 2023, we established infrared-triggered cameras at experimental M. rubra fruit patches at 10 sites each on Yakushima and Tanegashima islands, and recorded the terrestrial animal species that visited the sites, together with their visitation frequency. All individuals that consumed or removed fruits were considered foragers, and their species and the numbers of fruits foraged were recorded. The results show that seven animal species on Yakushima Island and ten on Tanegashima Island visited M. rubra seeds or fruits, including five foragers, Japanese macaques, Cervus nippon, Apodemus spp., Nyctereutes procyonoides, and Corvus macrorhynchos, with C. nippon and Apodemus spp. accounting for the highest foraging rates. Considering their feeding style and small faeces, C. nippon may chew M. rubra seeds when feeding on the fruits, and are therefore unlikely to contribute to secondary seed dispersal. By contrast, Apodemus spp. were observed to consume the fruit pulp and seeds, and sometimes held the fruits in their mouths before removing them. This behaviour implies that Apodemus spp. may hoard M. rubra seeds, which could play an important role in the secondary seed dispersal of M. rubra, particularly on Tanegashima Island, where Japanese macaques are absent. Future studies should comprehensively evaluate the amounts of dispersed seeds, seed dispersal distances, and survival and germination rates of dispersed seeds to reveal the role of Apodemus spp. as a secondary seed disperser of M. rubra.

はじめに

種子散布は、固着性植物の生活史において、個体が移動できる唯一の機会であり、集団内の個体の位置や生育地拡大を直接的に決定づけるだけでなく、集団間の遺伝子流動に関与して植物集団の遺伝構造にも影響を及ぼす(Hamrick et al. 1993)。したがって、種子散布は植物の生活史の中でその種の次世代更新、繁殖成功、および分布拡大に関わる極めて重要な段階である(Wang and Smith 2002;Nathan et al. 2008)。植物は様々な媒体を使って種子を散布する多様な戦略を有しており(Ridley 1930;van der Pijl 1982)、風、水、動物などの散布媒体に適した形態をもつ種子や果実が数多く存在している(Howe and Smallwood 1982)。中でも、果肉をもつ液果をつける植物は、動物の餌資源として被食されて種子が運ばれる、動物散布型植物に分類される。動物散布型植物は熱帯や温帯で最も一般的で、熱帯では森林構成種の半数以上が液果をつける植物で占められており(Howe and Smallwood 1982)、動物による種子散布は、樹木の更新に影響を及ぼす重要な生態系機能として位置づけられてきた(寺川ほか 2008)。哺乳類や鳥類は液果植物の種子散布者として中心的な役割を果たしており、特に霊長類や大型鳥類は、多様な植物種子を大量に運ぶことができるだけでなく、大型の種子や果実を持つ植物にとっては唯一の散布者となりうる(Corlett 1998)。そのため、森林の分断化や狩猟などの人為的攪乱によって大型動物が絶滅してしまった「空洞化した森林」(Redford 1992)では、種子散布機能の崩壊が懸念されてきた。日本の照葉樹林では、熱帯と比較すると大型の果実食動物や大型の果実をもつ植物の種は少なく、熱帯のように森林の空洞化が種子散布に与える影響については重要視されてこなかった。しかし、日本の照葉樹林においても、最大で全体の9割、平均で全体の7割の植物種が動物散布型植物で占められていることから(大谷 2005)、鍵となる大型種子散布者が絶滅すれば種子散布機能の低下が予想される。

ヤマモモMorella rubra Lour.は、ヤマモモ科の雌雄異株の常緑高木で、国内照葉樹林の主要構成種である(守田・崔 1988)。5月下旬から6月下旬に熟す液果は、ニホンザルMacaca fuscataの主要な餌資源の一つである(Agetsuma and Noma 1995;Hill and Agetsuma 1995)。ヤマモモでは、薄い種皮に包まれた胚と堅い内果皮からなる散布体(以降、本研究では、Chen et al. 2008と同様にこの散布体を種子と呼ぶ)を多肉質の外果皮が覆っている。そのため、ヤマモモでは、動物が果肉を食べ、種子が吐き出されたり、糞とともに種子が排泄される被食散布と、種子の採食を目的とした貯食散布が行われている可能性がある。ヤマモモの果実や種子のサイズは比較的大きいため(果実の長径13.2 mm;種子の長径7.5 mm;渡邉ほか 未発表)、小型の果実食動物では種子を無傷で飲み込むことができず、種子散布者はニホンザル、ヒヨドリHypsipetes amaurotis、ズアカアオバトTreron formosae、カラスバトColumba janthinaなどの大・中型の哺乳類や鳥類に限られる(Noma and Yumoto 1997;Yumoto et al. 1998)。したがって、これらの動物が不在の森林では、ヤマモモの種子はあまり散布されない可能性がある。

屋久島との森林では、ヤマモモは尾根部に分布する主要林冠構成樹種である(Tsujino et al. 2006;渡邉ほか 未発表)。屋久島でのヤマモモ果実の消費者は主にヒヨドリとニホンザルであるが、その消費量はニホンザルがヒヨドリの20倍以上であり、ニホンザルが主要な散布者であることが示されている(寺川ほか 2008)。一方、ニホンザルが絶滅した種子島では、ヒヨドリがヤマモモ果実の主な消費者であったが、その消費量は屋久島のヒヨドリと同程度であり、種子島のヤマモモは主要な種子散布者を失っている可能性が示唆されている(寺川ほか 2008)。しかし、屋久島と種子島には、地上性哺乳類としてニホンジカCervus nippon、ニホンイタチMustela itatsi、アカネズミApodemus speciosusやヒメネズミApodemus argenteusなどの小型齧歯類、タヌキNyctereutes procyonoides(屋久島のみ)が生息している(林野庁1990;辻野・揚妻-柳原 2006)。そのため、樹冠を訪れる動物だけでなく、これらの動物によるヤマモモ果実の利用がヤマモモの種子散布に貢献している可能性があり、その利用の仕方や利用量によっては、ニホンザルに次ぐ主要な種子散布者となっていることも考えられる。

アカネズミやヒメネズミなどの森林性野ネズミは、重力散布された堅果の主要な二次散布者として知られている(Sone et al. 2002;平田ほか 2007)。森林性野ネズミの液果利用の報告は少ないものの、新熱帯地域では、鳥散布であると考えられていた植物の液果を小型齧歯類が利用しており、種子散布に貢献している可能性を示した例がいくつか報告されている(Vieira et al. 2006;Sahley et al. 2015;Sahley et al. 2016)。そのため、ヤマモモの分布パターンにも影響を与える二次散布の有無や二次散布者を屋久島と種子島の両島で明らかにすることは、これまでに着目されてきた樹上での種子散布にくわえて、地上での種子散布に森林の空洞化が与える影響を評価するという、新たな視点の重要性を提起することにもつながりうる。

本研究では、ヤマモモの主要な種子散布者であるニホンザルが生息する屋久島と、ニホンザルの絶滅した種子島において、地上性動物によるヤマモモ果実・種子の利用の有無とその消費者を明らかにし、地上性動物による二次散布の可能性を検討することを目的とした。

方 法

調査地

本調査は屋久島および種子島の照葉樹林で行った。2島は九州最南端佐多岬の南方およそ50 kmの海上に隣り合って位置し(図1)、島間の最短距離は約18 kmである。そのため、気候や自生する植物相は似ており、屋久島と種子島に共通な固有種(変種含む)も存在する(初島・中島 1979)。一方で、屋久島にはニホンザル(亜種名:ヤクシマザルMacaca fuscata yakui)が生息しているが、種子島では、1900年代前半から半ばにかけて行われた大規模な森林伐採により、生息地である広葉樹林が失われたことが原因で(Hayward and Kuwahara 2013)、1950年には絶滅している(東 1972)。ほぼ同緯度に位置する隣接した島である一方、動物相が異なる2島でヤマモモの種子散布を比較することは、動物と植物の相互作用を評価するために最適なモデルケースであると考えられる。

屋久島は、南北24 km、東西28 km、面積503 km2のほぼ円形の島で(図1)、宮之浦岳(1936 m)をはじめとする、標高1000 m以上の山が45座以上存在する山岳島である。調査地がある永田の年平均気温は19.4 °C、年間降水量は2659.8 mm(2005-2014年の平均値)である(栗原・相場 2020)。本調査は鹿児島県熊毛郡屋久島町半山地区の西部林道より西側のスダジイCastanopsis sieboldii HatusやウラジロガシQuercus salicina Blume、タイミンタチバナMyrsine seguinii H. Lév.などを主要構成種とする低地照葉樹林で行った(30° 22′ N, 130° 23′ E;標高30-200 m)。

種子島は、南北57 km、東西13 km、面積444 km2、最高標高282 mの平坦で細長い島である(図1)。調査地がある中種子町の年平均気温は18.0°C、年間降水量は2989.2 mm(2006-2020年の平均値)である(過去の気象データ検索(国土交通省気象庁)https://www.jma.go.jp, 2024年1月16日確認)。本調査は鹿児島県熊毛郡中種子町増田の犬城海岸付近に位置する、ヤマモモやスダジイ、マテバシイLithocarpus edulis Nakaiなどを主要な林冠構成種とする低地照葉樹林で行った(30° 34′ N, 131° 01′ E;標高40-130 m)。

なお、植物の学名は、YList(米倉・梶田2003)にしたがった。

調査方法

ヤマモモの結実期に屋久島と種子島の各調査地で10地点に自動撮影カメラを設置した(屋久島 2022年6月4日-6月21日、2023年6月7日-7月7日;種子島 2022年6月3日-6月24日、2023年6月5日-7月4日、図2)。設置したカメラ間の距離は屋久島の調査地で40-178 m、種子島の調査地で17-129 mであった。本研究では赤外線センサーカメラとして、キイチゴ属3種の果実を持ち去る森林性野ネズミ類(アカネズミを含むApodemus spp.)やメジロのような小型の哺乳類・鳥類の観察(西野・北村 2022)に用いられたLtl-Acorn 6210(Shenzhen Ltl Acorn Electronics., Ltd. 著者の一人である北村がカメラ内部のレンズを回転させて、焦点距離を1 mに設定したもの)を使用した。このカメラは動画の解像度が高く(1280×720画素)、近距離撮影(1 m)が可能である。カメラから1.0 m離れた撮影範囲は縦0.39 m×横0.69 mで、ヤマモモ果実を食べに来た小型のネズミ類とシカなどの大型獣の体の一部を確認できる。各地点に1台ずつ、地上高約50 cmの位置に、カメラを設置している幹から撮影動画の中央までの距離が約150 cmになる角度で樹木の樹幹にベルトで固定し、撮影開始日にヤマモモの成熟果実30個を、画像の中心に写るように地面にまとめて置いた(以下これを果実パッチと表記する)。カメラが動物を感知してから撮影までの時間(トリガータイム)のカタログ値は最短0.8 秒である。明るい場所ではカラーで、夜間や暗所などの暗い場所ではモノクロで撮影される。撮影モードはVideo、撮影時間は60秒、撮影インターバルは0秒、センサー感度はHigh、Normal、Lowの3段階のうち、鳥類によるヨウシュヤマゴボウPhytolacca americana L.の果実持ち去りを調査した先行研究(勝羽・北村 2018)で推奨されたNormal感度とした。

また、生息種の確認と個体数推定のため、2023年5-7月(屋久島:5月13日-15日、6月7日-9日、7月7日-9日;種子島:5月9日-11日、6月3日-5日、7月4日-6日)に森林性野ネズミの捕獲調査を実施した。両調査地内に設置した40 m×60 mの区画内に(図2)、ヒマワリの種子を入れたシャーマントラップ(幅7 cm×高さ9 cm×奥行き29 cm)を、外枠を除く10 m間隔の格子状に合計15個、2晩3日間設置した。

解析方法

自動撮影カメラの映像から、実験的に地面に設置したヤマモモ果実がなくなるまでに果実を訪れた動物種とその頻度を記録した。ただし、2023年に屋久島の調査地に設置した10台のカメラのうち、1台のカメラは設置ミスにより映像が記録されておらず、他の1台のカメラは設置後すぐにニホンザルによって角度を変えられて、果実パッチの撮影はできなかった。そのため、解析には残りの8台のカメラのデータを用いた。その8台のうち1台は果実パッチがなくなるより前に角度が変えられていたため、映像の中で果実パッチが確認できる日までを解析の対象とした。

撮影された動物の多くは個体識別が困難であり、撮影数をそのままカウントすると同一個体の重複カウントの影響を無視できない。したがって本研究では、30分以内に連続して撮影された同種の個体は同一個体として撮影回数をカウントし、相対的な撮影頻度を比較する単位として、撮影頻度指標(RAI:Relative Abundance Index)を算出した(O’ Brien et al. 2003;塚田ほか 2006;福田ほか 2008;若山・田中 2013)。ここでは、各動物種の撮影回数を総カメラ日で除した値に100を乗じた値、すなわち、RAI = (撮影回数/総カメラ日)×100 [回/100カメラ日] とした。ただし、体の模様や角などにより、別個体として識別できたものについては30分以内でも別個体としてカウントした。また、ひとつの動画内で複数個体が撮影された場合は、それぞれを別個体としてカウントした。くわえて、動画内でヤマモモ果実を食べているか持ち去る様子が確認できた場合は採食回数としてカウントし、滞在時間、採食果実数とともに記録した。動物種ごとに、採食果実数を滞在時間で除して、1分あたりの消費果実数を算出した。各動物種の採食果実数を、動画内で採食または持ち去りが確認できた総果実数で除したものを、動物種ごとの果実の消費割合として算出し、フィッシャーの正確確率検定を用いてアカネズミ属による果実の消費割合を調査地間で比較した。動物が写っているが不鮮明で種同定ができないものは不明とした。なお、鳥類の学名は日本鳥類目録改訂第7版(日本鳥学会2012)に、哺乳類の学名は阿部ほか(2008)にしたがった。ネズミは撮影された映像において比較的体サイズが大きかったこと、屋久島の低地林ではヒメネズミよりもアカネズミのほうが多いこと(肥後ほか 未発表)から、アカネズミである可能性が高いと考えられるが、動画内のアカネズミとヒメネズミを正確に判別することは難しいため、ここではアカネズミ属とした。

シャーマントラップで捕獲されたネズミについて、アカネズミとヒメネズミをまとめてアカネズミ属とし、各調査地の100トラップナイトあたりの個体数を算出し、フィッシャーの正確確率検定を用いて調査地間で比較した。

結 果

実験的にヤマモモ果実を地面に設置してからそのヤマモモ果実がなくなるまでの日数は、2022年では屋久島の調査地で6.8±0.9日(平均±SE)、種子島の調査地で7.4±2.0日、2023年では屋久島の調査地で8.7±2.4日、種子島の調査地で11.6±1.8日であった。

屋久島ではニホンザル、ニホンジカ、アカネズミ属、タヌキ、ハシブトガラスCorvus macrorhynchos、ヤブサメUrosphena squameiceps、ヤマガラPoecile variusの7種が観察され、2022年のRAI上位3種はニホンジカ、ニホンザル、アカネズミ属で、それぞれ66.2、47.1、10.3、2023年のRAI上位3種はニホンザル、ニホンジカ、アカネズミ属で、それぞれ66.2、47.1、11.8であった(表1)。種子島ではニホンジカ、アカネズミ属、イエネコFelis catus、コウベモグラMogera wogura、ニホンイタチMustela itatsi、ヤブサメ、ヤマガラ、ハシブトガラス、コジュケイBambusicola thoracicus、ホオジロEmberiza cioidesの10種が観察され、2022年のRAI上位3種はアカネズミ属、ニホンジカ、ヤブサメで、それぞれ51.4、8.1、4.1、2023年のRAI上位3種はアカネズミ属、ハシブトガラス、ヤブサメで、それぞれ52.6、4.3、3.4であった(表1)。観察された動物のうち、ヤマモモの果実の採食が観察されたのは、ニホンザル、ニホンジカ、アカネズミ属、タヌキ、ハシブトガラスの5種で、特に種子島のアカネズミ属の採食回数が多かった(図3、表2)。1分あたりの消費果実数は、ニホンジカで0-10個、アカネズミ属で1-2個であった(表2)。果実の消費割合が大きかったのは、屋久島の調査地では2022年、2023年ともにニホンジカで、種子島の調査地では2022年はニホンジカとアカネズミ属、2023年はアカネズミ属であった(表2)。アカネズミ属による果実の消費割合は、2022年、2023年ともに、種子島の調査地の方が高かった(p < 2.2×10-16)。

ニホンザルは落ちた果実を拾って一口囓ったあと、続けて2、3個口に入れてその場を去る様子が多く確認された。ニホンジカは設置した果実パッチを訪れると連続して果実を口に含み、60秒の動画の中で10個程度の果実を消費していた。その際に口からヤマモモの種子だけがこぼれ落ちる様子は確認されなかった。アカネズミ属は果実をくわえて走り去り、再び果実パッチに訪れて果実を運ぶ行動を深夜から未明にかけて繰り返していた。その中で、その場で果肉を採食する様子や、果肉を剥いて捨て、中の種子を囓って食べる様子も確認された。アカネズミ属の消費果実のうち、持ち去りの割合は、2022年の屋久島の調査地で100 %、種子島の調査地で71.8 %、2023年の屋久島の調査地で40 %、種子島の調査地で29.7 %であった。タヌキのヤマモモ果実の採食が確認されたのは屋久島で1回のみであった。設置した果実がほとんど消費されていない段階で果実パッチを訪れたものの、果実1つのみを口に含み、1、2回噛んでから飲み込む様子が確認された。ハシブトガラスは果実パッチを訪れると、果実1つを嘴にくわえてから丸ごと飲み込み、果実数個を消費した。

両調査地ともにシャーマントラップで捕獲されたのはアカネズミおよびヒメネズミの2種で、5月は両調査地ともにアカネズミ、ヒメネズミ各1個体ずつ、6月は屋久島の調査地でアカネズミ1個体、種子島の調査地でヒメネズミ1個体、7月は屋久島の調査地でアカネズミ1個体、種子島の調査地でアカネズミとヒメネズミ各1個体ずつであった。100トラップナイトあたりのアカネズミ属の個体数は、屋久島の調査地で4.4個体、種子島の調査地で5.6個体であり、調査地間で個体数に差はなかった。

考 察

屋久島と種子島の両島で、ニホンジカとアカネズミ属による地上のヤマモモ果実の利用が確認された(表2)。果実を頬袋にため込み、果肉と種子を分離して種子だけを口から出すことで頬袋散布として種子散布に貢献するニホンザルとは異なり(Yumoto et al. 1998)、ニホンジカはヤマモモ果実を摂食していたものの、咀嚼した後に口から無傷で種子を出す様子は確認されなかった。また、ヤマモモの種子サイズ(長径7.5 mm)がニホンジカの糞粒のサイズ(長径13.0±0.27 mm、短径7.9±0.072 mm;両調査地のシカ糞粒各30粒、計60粒を本研究で測定した平均±SE)に対して比較的大きいため、ニホンジカはヤマモモの果実を種子ごとかみ砕いており、無傷の種子が糞や口から散布されることは稀であると考えられる。屋久島のこれまでの研究においても、ニホンジカがヤマモモ種子を吐き戻したり、ニホンジカの糞中にヤマモモ種子や数ミリを超える植物体が丸ごと排出されたりする様子は観察されなかった(揚妻・揚妻 私信;半谷 私信)。また、ニホンジカが被食散布に貢献しているという報告があるが、そのほとんどは小型の草本種子(1.3±0.18 mm;Yamashiro and Yamashiro 2006)を散布しているというものである。さらに、Yamashiro and Yamashiro(2006)によれば、ケラマジカCervus nippon keramaeの糞から確認された35種19273種子のうち、ヤマモモの種子サイズより大きかったのはカキノキの種子1個(13.1 mm)のみであった。したがって、本調査地のニホンジカがヤマモモの主要な二次散布者として機能している可能性は低い。

一方で、アカネズミ属はその場での果肉や種子の採食にくわえて、果実の持ち去りも比較的高い頻度で確認された。種子島では、アカネズミ属の食痕と思われる穴の開いた種子が落ちていたことからも(図4)、アカネズミ属がヤマモモの結実期にヤマモモの果実および種子を餌として利用していると考えられる。アカネズミなどの森林性野ネズミは、堅果を貯食し、回収されなかった堅果が発芽することで堅果の二次散布に重要な役割を果たしていることが知られている(箕口 1993;Jansen and Forget 2001)。本研究対象のヤマモモ種子も、一部は餌として消費されるものの、運ばれて貯食された果実のうち、食べ残されたいくらかは発芽可能であると考えられ、アカネズミ属はヤマモモ種子の二次散布者として機能している可能性がある。

屋久島においてニホンザルによるヤマモモの種子散布を調べた研究では、ニホンザルの頬袋を介したヤマモモの種子散布距離は16.7 m±15.0(平均±SD)で、最大散布距離は83.3 mであった(Tsujino and Yumoto 2009)。対して、アカネズミ属の種子散布距離については、マテバシイ堅果の散布距離は十数から数十メートルであるという報告や(平田ほか 2007;山川ほか 2010)、ドングリの種子散布距離は35 m未満で、そのほとんどが15 m未満であったという報告があり(Seiwa et al. 2002)、ヤマモモ果実の散布距離は分からないが、その散布距離はニホンザルには及ばないと考えられる。一方で、齧歯類によって貯食散布された種子は、種子食害者や乾燥から逃れることで、土壌表面の種子よりも発芽率が高くなることが示されている(Seiwa et al. 2002;Beck and Vander Wall 2010)。ヤマモモの種子は乾燥に弱いことが知られており(勝田ほか 1998)、アカネズミ属の貯食によって土の中やリターの下に埋められることで、種子が乾燥から保護され、ヤマモモ種子の生残率向上に繋がる可能性がある。種子散布は、種子が運搬先で生残し、発芽できることが重要であるため、アカネズミ属の種子散布機能を評価するためには、今後、アカネズミ属に運搬された種子がどの程度生残するのかを明らかにする必要がある。

トラップ調査の結果、種子島と屋久島の調査地において、アカネズミ属の2023年の個体数は同程度であった。また、ヤマモモは隔年結果しやすいことが知られており(大黒・佐々木 1987)、2022年は種子島の調査地で、2023年は屋久島の調査地でヤマモモの結実量が多かった(渡邉 私見)。それにも関わらず、両年ともに屋久島よりも種子島でのアカネズミ属による果実の消費割合が高かった。その理由として、タブノキMachilus thunbergia Siebold & Zuccのような、ヤマモモの結実期に果実が成熟する他種の樹木を含めた餌資源の量が種子島の調査地で少ない可能性が考えられる。また、調査地間で動物相が異なるため、餌資源や生息場所を巡る競争の相手やその強度が異なると予想される。このような複数の要因の結果として、アカネズミ属によるヤマモモの果実・種子の消費が多くなっているとすると、種子島ではアカネズミ属がその種子散布機能の一部を補っている可能性がある。

さらに、採食回数は少ないながらも、屋久島ではニホンザル、タヌキ、ハシブトガラスが、種子島ではハシブトガラスが地上のヤマモモ果実を利用していた。ニホンザルが1分あたりに消費した果実数は2022年に0.4個、2023年に5.5個で、樹冠を直接観察した寺川ほか(2008)の報告(14.0±7.8個)の半分以下であったものの、ニホンザルが地上に落下したヤマモモ果実もある程度利用していることが分かった。ハシブトガラスのRAIは2022年の屋久島で1.5、種子島で0.0、2023年の屋久島で0.0、種子島で4.3であり、観察は低頻度であった。ヤマモモの主要な種子散布者であるニホンザルや中型鳥類は、ヤマモモの樹冠を直接訪れて果実を採食するため、地上を写した自動撮影カメラに写った回数は少なかったと考えられる。タヌキも同様に、RAIは2.9と低頻度の観察であった。タヌキは落下した果実にくわえて、鳥類、小型哺乳類や昆虫などを採食する雑食性であるため(松山ほか 2006)、ヤマモモの果実を集中的に利用するわけではないと考えられる。しかし、屋久島において、タヌキのタメ糞から様々な樹木種子が発見され、タメ糞由来と考えられる実生も出現していたことが報告されている(辻野・揚妻-柳原2006)。したがって、タヌキはごく低頻度ながらも、ヤマモモ種子の二次散布に関与している可能性がある。

本調査の結果から、屋久島と種子島の両調査地で、ニホンジカとアカネズミ属によるヤマモモ果実の利用が明らかとなった。貯食散布の可能性が示唆されたアカネズミ属によるヤマモモ種子の二次散布を評価するためには、今後、種子散布量、種子散布距離、散布された種子の生残率・発芽率などを総合的に調査する必要がある。また、ヤマモモ以外の結実木も視野に含めた長期間の調査を行うことによって、両調査地での地上性動物によるヤマモモ果実の利用と、それらがヤマモモの種子散布や発芽、実生の定着に及ぼす影響を明らかにできれば、ニホンザルの絶滅がヤマモモに与える影響のより正確な評価につながるだろう。

本研究により、森林性野ネズミによる落下液果の利用と二次散布の可能性が示された。森林の空洞化が中・大型の液果をつける植物の種子散布に与える影響を総合的に評価するには、樹上の一次散布だけでなく地上の二次散布にも着目することが重要であると言える。

謝 辞

本研究にあたって、屋久島では鹿児島県と環境省から、種子島では共有地を所有、管理する向井集落から調査許可を頂きました。現地調査の際には、名古屋大学森林生態学研究室および京都大学野生動物研究センターのメンバーやヤッタネ!調査隊の手塚賢至氏、種子島ヤクタネゴヨウ保全の会の池亀寛治氏、小柳剛氏にご協力頂きました。ヤクシカのヤマモモ採食の様子について、揚妻直樹氏(北海道大学)、揚妻芳美氏から情報を提供して頂きました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。また、屋久島と種子島での滞在をサポートしてくださった島民の皆さまにも心から感謝の意を表します。

本研究は京都大学融合チーム研究プログラム(SPIRITS)、京都大学野生動物研究センター共同利用、日本生態学会中部地区会研究助成制度から助成を受けて行われました。

表1.屋久島と種子島の調査地で自動撮影カメラに写った動物。2022年の屋久島での撮影割合が高い順に、哺乳類、鳥類に分けて示した。

ニホンザルとタヌキは種子島に生息していないため、-で表記した。RAIは100カメラ日。

  屋久島   種子島
2022年   2023年 2022年   2023年
  撮影回数 割合 (%) RAI   撮影回数 割合 (%) RAI 撮影回数 割合 (%) RAI   撮影回数 割合 (%) RAI
哺乳類
ニホンジカ 45 48.9 66.2 32 36.4 47.1 6 11.5 8.1 2 2.6 1.7
ニホンザル 32 34.8 47.1 45 51.1 66.2 - - - - - -
アカネズミ属 7 7.6 10.3 8 9.1 11.8 38 73.1 51.4 61 79.2 52.6
タヌキ 2 2.2 2.9 0 0.0 0.0 - - - - - -
イエネコ 0 0.0 0.0 0 0.0 0.0 1 1.9 1.4 0 0.0 0.0
コウベモグラ 0 0.0 0.0 0 0.0 0.0 0 0.0 0.0 2 2.6 1.7
ニホンイタチ 0 0.0 0.0   0 0.0 0.0 0 0.0 0.0 1 1.3 0.9
鳥類              
ヤブサメ 4 4.3 5.9 3 3.4 4.4 3 5.8 4.1 4 5.2 3.4
ヤマガラ 1 1.1 1.5 0 0.0 0.0 0 0.0 0.0 1 1.3 0.9
ハシブトガラス 1 1.1 1.5 0 0.0 0.0 0 0.0 0.0 5 6.5 4.3
コジュケイ 0 0.0 0.0 0 0.0 0.0 2 3.8 2.7 0 0.0 0.0
ホオジロ 0 0.0 0.0 0 0.0 0.0 0 0.0 0.0 1 1.3 0.9
不明 0 0.0 0.0 0 0.0 0.0 2 3.8 2.7 0 0.0 0.0
合計 92 100.0 135.3   88 100.0 129.4 52 100.0 70.3   77 100.0 66.4
カメラ台数(台) 10 8 10       10  
総カメラ日(日) 68       68       74       116  

表2.自動撮影カメラでヤマモモの果実の利用が認められた動物。(a)は屋久島の調査地、(b)は種子島の調査地の結果を示す。果実の消費割合は、各動物種の採食果実数を、動画内で採食または持ち去りが確認できた総果実数で除したもので、消費果実数は1分間あたりに食べられた、もしくは持ち去られたヤマモモ果実の数を表す。

(a) 屋久島
  2022年   2023年
  撮影回数 採食回数 果実の消費割合 消費果実数 撮影回数 採食回数 果実の消費割合 消費果実数
ニホンザル 32 8 0.28 5.47 45 1 0.04 0.45
ニホンジカ 45 4 0.67 9.55 32 9 0.89 4.23
アカネズミ属 7 1 0.01 1.18 8 5 0.07 1.12
タヌキ 2 1 0.01 0.75 0 0 0.00 0.00
ハシブトガラス 1 1 0.02 3.77 0 0 0.00 0.00
合計 87 15 1.0     85 15 1.0  
(b) 種子島
  2022年   2023年
  撮影回数 採食回数 果実の消費割合 消費果実数 撮影回数 採食回数 果実の消費割合 消費果実数
ニホンジカ 6 3 0.52 10.18 2 0 0.00 0.00
アカネズミ属 38 24 0.48 1.88 61 40 0.86 1.41
ハシブトガラス 0 0 0.00 0.00 5 4 0.14 5.49
合計 44 27 1.0     68 44 1.0  

図1.調査地位置図。黒丸は調査地の位置を示す。

図2.自動撮影カメラとネズミ調査区画の位置図。左は屋久島、右は種子島の調査地で、黒丸は各カメラを、長方形の枠はネズミ調査区画を示す。

図3.自動撮影カメラでヤマモモの果実の利用が認められた動物。(a)ニホンザル、2022/06/10、10:07、屋久島(b)ニホンジカ、2022/06/08、10:57、種子島(c)アカネズミ属、2022/06/04、01:36、種子島(d)タヌキ、2022/06/04、11:41、屋久島(e)ハシブトガラス、2022/06/08、11:10、屋久島

図4.アカネズミ属が採食したと思われるヤマモモの種子(2022/6/24、種子島)。

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