2024 Volume 29 Issue 2 Article ID: 2402
Abstract: In this study, we examined hydro- and hygrophytic vegetation in small, seasonal wetlands along the shoreline of the Taguchi Oohora Pond, an irrigation reservoir constructed ~130 years ago in Inuyama, central Japan. Traditional rice cultivation practices in the region intermittently but significantly reduce the water level of the reservoir. During these irrigation periods, submerged shoals are transformed into sand and gravel wetlands. These shoals formed through the abundant supply of friable deposits from the geological features of the watershed, and because the reservoir is no longer dredged to maintain the water capacity. Few reservoirs in the area exhibit this type of wetland formation, as water levels are increasingly maintained by water supplied from rivers or other reservoirs via irrigation channels that cross catchment boundaries. We identified over 100 hydro- and hygrophytic taxa, including eight endangered species, in the target reservoir and nearby wet environments including riversides, rice fields, and low-lying swamps, both up- and downstream from the target reservoir. Given the transitional nature of these habitats, it is uncertain whether the plant species observed in this study will persist. In local communities, discussions have just started regarding stopping vegetational succession at a desirable stage to preserve endangered species or to maintain species diversity. The associated problems are common to many substitutional conservation sites.
要旨: 水位操作により、灌漑用溜池の岸辺に計らずも形成された小湿地の植生を紹介する。水田灌漑のために130年程昔に造られた田口大洞池 (愛知県犬山市) では、灌漑期に水位が低下し、遠浅の堆砂地が湿地に変貌する。堆砂地は崩落を起こし易い地質と、この池に流入する土砂の浚渫が放棄されたために形成されたものであり、著しい水位の変動は、斉一的な水利用の伝統が未だ残っているためである。この地域の溜池は、地理的な分水界を越えた河川や他の溜池からの給水などにより、水位の変動が人為的に抑えられる例が多く、田口大洞池に見られるような湿地を形成する溜池は希になりつつある。田口大洞池上下流に形成される湿潤な環境には、例えば、谷底湿地、河畔、水田も含めれば、絶滅危惧種8種を含む100種以上の水生・湿生植物が残っているが、それらの生育環境は過渡的なものであり、今後の生存は保証されてはいない。特定の希少種の保存や種多様性の維持のために、生育環境の遷移をどの段階に止めるかの議論や、またそのための関係者の合意の取り付けや管理の具体的方法などの、人の手が加わった自然の保全に共通する課題への地域の取り組みは、やっと始まったばかりである。
丘陵地の水田耕作が斜面からの湧水に涵養される湿地の開発に始まることは、『常陸国風土記』の夜刀神伝承などから判断すれば確かなことであろう (秋本 2001;赤塚 2008;木村 2010)。谷頭から浸出する水は、水温が低く、また水量も乏しく、農業用水として難があり (佐藤 1958)、古くから、昇温と貯水のための「雨池」と呼ばれる溜池が構築され (岡・守田 1979)、湿地に代わり、水田を中心とし溜池や用排水路を配した所謂里山景観が成立してきた (Takeuchi et al. 2002)。
現在でも、溜池への流入口付近に小規模な湿地が残っていることがあるが、それらは必ずしも、溜池が構築された以前の湿地の名残であるわけではない。江戸期に、三河地方 (愛知県東部) の農村生活に即して書かれた農書・『百姓伝記』では、湿地を涵養する湧水点付近は、渇水時の補助池として掘り込むことが奨励されており (岡・守田 1979)、本報告の対象とした尾張地方 (愛知県西部) でも、築堤と伴に周囲の湿潤な地形の改変も進められたと考えられる。現在見られる湿地は、むしろ、溜池という人工的な環境に成立した、比較的新しい生育域と考えることが妥当かもしれない。
絶滅が危惧される水草や水棲昆虫などの生育域として溜池や農業用水路が貴重であることは角野 (2005) が指摘しており、溜池の水生植物については、浜島 (1983) やShimoda and Kagawa (2009) の報告などがそれを実証している。中でも、Shimoda (1983) は、溜池の水際での湿生植物群落に着目した先駆的な著作で、溜池の水陸移行帯の植生を詳述しており、奥田 (1990) にも湧水湿地群落とは異なる冠水植物群落の一つとして紹介されている。一方、東海地方の湿地研究においては、地形的に近接している溜池と集水域の湧水湿地とは一体の環境として扱われ (浜島・山口 1991; 芹沢 1992; 湧水湿地研究会 2019)、環境や植生の違いや、共通性に努めて着目した報告は見つからない。
本報告は、愛知県犬山市に位置する溜池への小河川流入部付近の地形や水文とそこに発達する水生・湿生の植生の特徴について紹介し、湿地の形成過程を論じ、類型化を試みるものである。湿地の形成や維持については、自然条件とともに、人の関与を重視する。また、類型化は、既存の湿地分類体系 (例えば、Federal Geographic Data Committee 2013; Mitsch et al. 2023) に基づき国内外の類似する湿地環境のそれと対照できるものとしたい。
Shimoda (1983) が研究対象としたような、灌漑期に水位の低下が規則的に繰り返される溜池は、溜池の利用目的の変化や他の水系と連携した水の補給体制の整備などにより、その数が減じている。溜池の水生・湿生植物の多くが絶滅危惧種とされる現状では、希少となった植物の保存や保全の対策が講じられるべきであるが、生育環境に及ぼす自然と人為の影響の区別を可能な限り明瞭にしておく必要があろう。自然条件は変えることが難しいが、人の関与は、住民の合意があれば、維持、改変が不可能ではない。
本報告では、保全についての地元住民の意見や活動なども紹介する。それらは必ずしも、湿地の保全を支持するものばかりではない。さらには、所謂里地・里山などの二次的な自然の保全が、限定された地域や、郷愁に基づく特定の世代の志向ではなく、自然保護の普遍的な課題であることも述べておきたい。
調査地域
調査対象として、愛知県犬山市大字塔野地の東端に位置する字田口洞の田口大洞池を選んだ (図1)。「洞」とは、尾張、美濃地方に特に多い地名で、丘陵地に挟まれた浅い谷を指し、東日本の「谷戸 (夜刀)」や「谷津」、西日本の「迫」と同様の地形を示す。(村上・南 2020)。一つの谷はその内側に小谷を分枝し、入子状の構造となっている。洞では、谷頭から湧出する水を利用し古くから水田耕作が行なわれており、洞を囲む丘陵地の二次林とともに、東海地方では、典型的な里山景観を形成している。
田口洞は、愛知県犬山市、春日井市、瀬戸市、豊田市に分布する尾張丘陵の北西端に位置し、砂防法に基づく砂防指定地とされている (愛知県建設部砂防課 2009)。土岐砂礫層から成る丘陵地の地質と (脇田ほか 1992)、 豊富な湧水は斜面崩壊を起こし易く (梅田 2013)、土砂の流出量も多い。田口洞についての最も古い記述は、1822年 (文政5年) に著された樋口好古の『尾張徇行記』 中の岩田庄・塔ノ地村 (塔野地村: 現犬山市大字塔野地) の項である。同書には、「川ヲ田口川ト云、此川沙礫多シ、是ハ山奥ニ沙堰ナキ故ニ沙ヲ夥シク押出セリ」とある (市橋ほか 1966)。
田口大洞池の築造年代は正確には特定できない。1841年 (天保12年) 製の絵図では (日比野 1979)、旧今井村 (現犬山市大字今井) と旧塔野地村の境の山地に9の池が見られるが、現在の田口大洞池の位置と形態が一致する池は見当たらない。この池が地図上に登場するのは、1891年 (明治24年) 測図の1/2万地形図 犬山・鵜沼である (岐阜県郷土資料研究協議会 1998)。これらの資料に基付けば、築造は1800年代中頃と考えられ、池には少なくとも130年の歴史があることになる。
田口大洞池は長方形で、地図上の面積は10,000 m2、常時満水時の、つまり利水上の要請からこの池に平時 (非洪水期) に貯留される流水の最高水位時の、貯水量は29,000 m3に設定されており、平均水深は2.9 mとなる。2本の小河川 (図1中のC1、C2)が流れ込み、それぞれの川の流入部分 (南東岸) は遠浅の堆砂地となり、灌漑期には水位低下のために干出し、水際を縁取るような湿地となる (図2)。河川C2沿いにもオオミズゴケSphagnum palustre L.に覆われた谷底湿地 (図1中のS) があり、その下部はこの池の縁に発達する湿地と接している。東海地方では、湧水により涵養される谷壁、谷底湿地が各地に見られ、水文や植生についての情報も多いが (愛知県環境部自然環境課 2007; 湧水湿地研究会 2019)、本報告が対象とする溜池の縁に発達する湿地とは成因や植生は異なるものであり、区別して取り扱う。流入部の対岸 (北西岸) の堰堤はコンクリートで被覆され、水生・湿生植物は見られない。また、他の2辺の岸も傾斜が大きく、水際は幅の狭い裸地となりほとんど植生を欠く。田口大洞池からは、堤体の前法面に沿って設置された斜樋管から底樋を通じて取水され、暗渠を経由し、小河川 (図1中のC3) を通じてこの池の下流の水田に給水される。水田からの排水は、田口大洞池の余水とともに、田口洞川に流入し、谷の入口の中島池に再び貯留される。河川C3の右岸の田口大洞池直下の水田は、現在耕作が放棄されている。地元の住民からの伝聞情報では10年程前からのとのことである。国土地理院が公開している空中写真では、2008年4月21日撮影のもの (CCB20082-C18-90: 国土地理院 2008) までには、畔が整えられた水田が写っている。
田口大洞池の水位は、「区」により管理され、樋門操作は池の水を利用する農家から選ばれた杁守に委ねられている。区とは、旧来の名主制度に起源を持ち、地域の冠婚葬祭や防災、水利を差配する農村部の自治組織である。毎年、区長名で、区内の溜池の樋門開放の時期が通達され、それらの池を水源としている水田では、6月上旬に一斉に水入れと田植えが始まる。2023年度は、6月2日・湯練り (代掻き)、同3日・池水落とし (樋門の開放)、同4日・田植始めとなっている。
調査方法
田口大洞池への流入口付近に見られる堆砂地の地形の測量は、河川C2で、常時満水位時の2023年5月15日に行った。水面上の斜面は、測線に沿って、傾斜計を用い0.2 mごとに傾斜を測定し、その線分を繋ぎ水際の傾斜図を作成した。また、水面下の斜面は、測線に沿った水深を測定して傾斜図とした。水位が低下した同年9月24日にも同様な測量を行い、地形が変わっていないことを確認し、常時満水位時に測定できなかった深い位置の傾斜の情報を加えた。
池の水位は、堰堤近くに設置されている水位標により、相対的な水位変動として記録した。調査前年度の観測により、非灌漑期には、ほとんど水位が変動しないことを確かめていたため、観測期間は、2023年5月1日から同年10月31日の稲作が行なわれる時期のみとした。観測日は、不定期としたが、最長1週間の間隔で、調査期間中40回の測定を実施した。水位に影響すると予想される降水量は、距離的に最も近い美濃加茂観測所ではなく、調査地から南へ22 kmの位置にある気象庁・名古屋観測所の2023年度の観測資料 (気象庁 過去の気象データ検索. www.data.jma.go.jp/stats/etrn/index.php, 2023年11月8日確認) を用い、水位の変動と対照した。これは、美濃加茂観測所が木曽川右岸の平野部に位置するのに対し、名古屋観測所は本調査の対象地域と同様、尾張丘陵に位置することを重視したためである。2023年の夏季 (7月~9月) に限れば、水位に大きな影響を及ぼす可能性がある50 mm day-1の降水が名古屋観測所で記録された日 (4例) にはほぼ同量の降水が美濃加茂でも観測されている (名古屋降水量/美濃加茂降水量: 151/141, 60/61, 54/43, 62/62 mm day-1)。
田口大洞池に流入する2本の小河川は、斜面からの浸出水で涵養されており、その影響を直接受ける流入部と、田口大洞池の他の位置では水温や水質が異なっていることが予想される。本研究では、それらの環境要因の差が最も顕著となる盛夏の2023年7月17日の晴天時、13:00-14:00間に、田口大洞池及びその流入・流出水 (河川C1、C2、及びC3) の水温と電気伝導度を測定した。電気伝導度は、電気伝導度計 (CD-4318SDPT型 FUSO社製) を用い、PTガラス電極を水表面に浸し現場で測定した。水温は同器に内蔵されているサーミスタ式温度計の値とした。
水生・湿生植物は、田口大洞池やその流入・流出河川の水際、集水域に分布する谷底湿地、及び溜池からの水が流入する休耕田や水田を周回する経路を設定し (図1中の破線)、維管束植物と、コケ植物の一部の種を記録した。維管束植物については、開花や結実が最初に観察された日付も記録した。また、湿地を特徴づける種の生育密度 (株数) は、15 cm×15 cmの方形枠を用い計数した。調査範囲を田口大洞池の水際に限定しなかったのは、周囲の湿潤な環境と比較し、この池の縁に見られる湿地植生の特徴を明瞭にするためである。調査期間は、2023年1月から12月とした。灌漑期の調査頻度は、水位測定頻度と同様に40回、その前後の非灌漑期は10回となる。
維管束植物の学名や和名の表記、及び配列順は米倉 (2016) に、またコケ植物は岩月・水谷(1972) に従った。観察された植物が湿地環境を指標するものであるかどうかについては、首藤ほか (2019) の目録に基づき判断したが、それに漏れた種であっても、東海地方の湿地で記録されており、水生・湿生とされている種や (浜島 1976;芹沢 1992;広木・清田 2000)、本調査で湿潤な環境に特に頻繁に見られる種についてはできるだけ記録に残した。絶滅危惧種は、環境省 (2020) の『レッドリスト2020』に記載されている区分に従い記録した。
湿地の地形と水文
灌漑期の田口大洞池の縁に湿地として現れる地形の規模や、湿地を涵養する水の特徴などについては表1に、河川C2の堆砂地の形状は図3に示す。田植直後の、常時満水位より0.5 m程減水した時期の干出面積は300 m2程度であった。C1河口にも同様な地形が形成されるが、C2河口に見られるそれに比べ、面積として1/6弱と遥かに小規模であった。干出した部分は拳大の礫が混じる砂礫から成り、干出直後は、池水に懸濁している細かいシルトが砂礫の表面を覆っていた。付着したシルト層は、礫の地紋が見える程薄く、指で擦れば簡単に除去されるものであった。
田口大洞池の水位は、溢水による堤の決壊や、稲作のための用水の需要を見越して管理されており、必ずしも直近の降水量だけにより上下するものではない。常時満水位以上の池水は余水吐から速やかに排水され、田口大洞池では、50-100 mm d-1の降水があっても、1、2日後には常時満水位に復帰した。
5月から10月にかけての水稲の栽培期間の田口大洞池の水位変動は、専ら、稲の生育段階に支配される (図4)。6月上旬の代掻きや田植以後、田面には水が張られ、10 mm d-1程度の降水はあるものの、この池の水位は低下し続けるが、6月下旬に再び上昇した。これは、播種後85日とされている中干、つまり一時的に水田の水を抜き土壌を乾燥させる作業のため、水田への供給量が抑えられ、その分の水量が、その後の盛夏の渇水に備えて貯水されるためである。中干の時期は栽培される稲の品種や水田の条件により異なるため、必ずしも6月下旬に一斉に行われるわけでもなく、また1回とは限らず、7月中旬や9月中旬にも、塔野地区内の水田では水が落とされる例がしばしば見られた。これらの時期の水位上昇も水の余剰が生じているためである。稲刈りのための落水は10月上旬から始まり、以降は、水位が常時満水位を下回ることはない。
田口大洞池に見られる灌漑期の大幅な水位低下は、この地方の全ての溜池で見られるわけではない。例えば、田口大洞池の下流に位置する中島池では、田植の直後や、その後の灌漑用水の利用によると考えられる水位低下は認められなかった。梅雨明けの7月中旬から8月中旬までの長期間の少雨の時期の末に僅かな水位低下見られるのみで、1回の50 mm d-1程度の降水で常時満水位まで回復した (図4)。
干出した堆砂地に形成された湿地を涵養する水は、C1、C2の2本の流入河川水であり、田口大洞池に貯水された水ではない。これらの河川は、斜面からの浸出水を集めたもので、盛夏の観測でも、水温は20 ℃を僅かに上回る程度の低温であり、電気伝導度は2 mS m-1以下であった。一方、両流入河川から離れた位置の田口大洞池表層水の温度は、30 ℃を超え35 ℃に達することもあり、電気伝導度も僅かながら上昇し、2 mS m-1を超えた。
植生
調査対象とした田口大洞池を中心とし、その上下流の湿潤な地形で確認された水生・湿生の植物は、環境省レッドリスト記載の絶滅危惧種8種を含む102分類群であった (表2)。内、30分類群が、田口大洞池の縁に一時的に形成される調査湿地に分布していた。
水田灌漑が始まる直前の常時満水位の時期には、C1、C2流入口の水に浸からない岸辺の高い位置は、田口大洞池上流の谷底湿地から連続的に分布しているオオミズゴケに覆われ、水際はヒメゴウソ Carex phacota Spreng. に縁取られていた。オオミズゴケとともに、東海地方の低地の湿地で優占するとされているヌマガヤ Moliniopsis japonica (Hack.) Hayata は (浜島1976; 芹沢 1992)、未だ出穂しておらず、景観を特徴づけるものとはなっていないが、遠浅部以外の水際では、ヒメゴウソは分布せず、本種が多かった。水面下の部分は、ほとんど植生を欠き、数株のホタルイ Schoenoplectus hotarui (Ohwi) Holub が見られるのみであった。水面には、イヌタヌキモ Utricularia australis R. Br. が漂っていた (図3) 。
水位の低下が始まるのは、6月上旬であるが、調査湿地に湿生植物の地上茎が見られるようになるのは、8月上旬からである。常時満水位の時期に水際であった位置には、ヒメゴウソに代わり、イヌノハナヒゲ Rhynchospora rugosa (Vahl) Gale が見られ、ヌマガヤが出穂した。調査湿地には堆砂地の地形の凹凸が残り、凸部の比較的乾燥し、表面に湿りが感じられない砂礫地には、まずミミカキグサ Utricularia bifida L. が開花し、その密度は15 cm ×15 cmの方形枠内で10±2 株 (n=5) に達する場所もあった。9月になるとイヌノヒゲ Eriocaulon miquelianum Koern. var. miquelianum、ヒナザサ Coelachne japonica Hack.、サワトウガラシ Deinostema violaceum (Maxim.) T. Yamaz.、フタバムグラ Oldenlandia brachypoda DC. などの低茎の種が花を付けた。ヌメリグサ Sacciolepis spicata (L.) Honda ex Masam. var. oryzetorum (Makino) Yonek. は、犬山市内の水田、休耕田で普通に見られるが、この場所のものは、植生高が膝に達しない程低く、穂状の花序も短く、それに付く小穂の数も少ない個体が多かった。調査湿地の凹部はより湿潤であり、コアゼガヤツリ Cyperus haspan L. が特に密に生えていた。水際に近づくにつれ、コアゼガヤツリを除く他の種類は見られなくなり、代わってホタルイが現れた。さらに、水際では、タチモ Myriophyllum ussuriense (Regel) Maxim. やハリイ Eleocharis pellucida J. et C. Preslが、また水位が低下した時期でも水面下にある場所では、スブタ Blyxa echinosperma (C. B. Clarke) Hook. f. が分布していた。
10月中旬になると水位は常時満水位に回復し、ヌマガヤ群落を水際として、湿地であった部分は再び全て水没した。
田口大洞池に見られる湿地の形成とその類型化
田口大洞池の遠浅の堆砂地を形作る砂礫は、2本の流入河川から供給されたものである。両河川には、それぞれ、1982、 1987年に砂防堰堤 (図1中のC1、 C2を横切る横線) が構築されている。拳大以上の礫は、砂防堰堤の上流に止っていることから、砂洲の大型の礫はそれ以前に堆積したものと考えられる。従来、溜池では、貯水容量を確保するために、定期的に浚渫されることが多かったが、現在、この地域では、大型の重機が入る溜池で、護岸の改修時にしか浚渫作業を目にすることはない。田口大洞池の堆砂地の形成は、集水域が崩落を起こし易い砂礫層であり、多量の土砂の流入があったためではあるが、同池では、近年の浚渫の記録はなく、管理の放棄が堆砂地をより発達させた可能性がある。また、堆砂地の礫の大きさの分布は、砂防堰堤の構築以前のそれと異なっているかもしれない。現在の堆砂地の姿は、崩落を起こし易い地質要因だけではなく、浚渫の放棄と砂防堰堤建設の2つの人為的な行為の均衡により成立したものと考えている。
田口大洞池の定期的な水位の変動は、水田の水利用に支配されるが、灌漑のみの単目的の溜池利用は、今後少なくなってくるために、溜池の普遍的な属性とは見做されなくなるであろう。田口洞川の水を貯留する中島池では、灌漑期にも水位の変動はほとんど見られなかった (図4)。これは、中島池が灌漑する水田面積が時代とともに縮小し、現在では、中島池の貯水容量が灌漑面積に比べて大きく (貯水容量/受益面積比: 165,000 m3/10.0 ha)、田口大洞池 (同比: 29,000 m3/8.6 ha) のような水位低下が目立たないことが理由の一つである。また、現在、中島池の水は、工業用水にも利用されているため、季節を問わず、水位を維持する必要がある。木曽川から取水される愛知用水沿いの溜池では、水不足に備えて、用水から給水する施設が備えられている例もあり (犬山市教育委員会・犬山市史編纂委員会 1995)、中島池も、用水からの補給により、水位が維持されている可能性がある。現在の大型の溜池は、水収支の面からは、地理上の集水域のみに閉じた系ではないことに留意する必要がある。
このような溜池沿岸に発達し、地形的、水文的特徴を持つ湿地の命名は、湿地の特性を理解し、それに立脚する保全対策を提案する際に重要である。泥炭層の発達や樹木の侵入の有無を基準とした伝統的な分類では、休耕田も含めてmarsh であるが、田口大洞池の縁に発達する調査湿地と隣接する谷底湿地はイヌツゲIlex crenata Thunb. var. crenataなどの樹木が侵入しておりswampと分類される。この2つの用語は、慣用的なものであり、厳密に定義されているわけではなく、誤解を招き易い。Mitsch et al. (2023) は、北米で提案された5つの湿地分類体系を紹介しているが、いずれも、本報告のような小型の湿地については、適切に位置付できない。例えば、Federal Geographic Data Committee (2013) の分類体型では、Palustrine System (沼沢湿地) に属し、湿地の規模や水深、波や静振の影響がほとんどないことからLacustrine System (湖沼湿地)と、また溜池は河道の一部ではあるが流れがないためRiverine System (川沿湿地) と区別されるが、長期に亘る人の関与や、後述する植生などの、今後の保全のために理解すべき特性を示すものとはなっていないように思える。一方、日本の非泥炭地の小湿地についての呼称は、「小湿地」(浜島 1976)、「丘陵性貧栄養湿地」(広木・清田 2000)、「鉱質土壌湿原」(富田 2010) など、地形、面積、涵養する水の性質、土壌などの一つか少数の属性に基づくものであり、体系的なものとはなっていない。環境要素や植生などの情報が少ない現状では、新たな呼称の提案は、混乱を招くだけであり、本報告では、特徴的な属性を記述するに止める (表1)。
田口大洞池沿岸に発達する湿地の植生の特徴、及び隣接する湿潤な地域の植生との比較
田口大洞池の調査湿地の植生の特性として、非灌漑期も水没しない水際の位置を除き、樹木や高茎草本類が見られないことが挙げられる。この湿地の植生は、Shimoda (1983) が広島県内の溜池群で記載したニッポンイヌノヒゲ-サワトウガラシ群集 Deinostemato-Eriocauletum hondoensis community に属すると考えられる。調査湿地ではニッポンイヌノヒゲ Eriocaulon taquetii Lecomteの代わりに、同属の、花弁に白色棍棒状の短毛が見られるイヌノヒゲが分布しており、奥田 (1990) が示す標徴種や混生する種の内の6種が生育している。浜島・山口 (1991) は、仮説的ながら、東海地方の溜池に付随する湿生植物の遷移について、裸地から始まり、ミミカキグサ・シラタマホシクサ群落、ミカヅキグサ・イガクサ群落、ヌマガヤ群落を経て、イヌツゲ・ノリウツギ群落に至る系列を提案している。ミミカキグサやヒナザサが優占する田口大洞池の水際の砂礫から成る調査湿地が、毎年繰り返される水没と干出によって、遷移の初期の段階に止まると考えることは妥当であろう。同様の砂礫地は、田口大洞池上流の、オオミズゴケに覆われた谷底湿地の中の一部にも見られ、ミミカキグサの他に、ホザキノミミカキグサ Utricularia caerulea L.、モウセンゴケ Drosera rotundifolia L.、トウカイコモウセンゴケ D. tokaiensis (Komiya et C. Shibata) T. Nakam. et K. Ueda subsp. tokaiensis が分布している。この砂礫地は、恐らく、浸出水の流れにより、オオミズゴケの層が流出し、砂礫から成る基盤が現れたものと考えられる。近接しており、土質も類似し、また同じく浸出水で涵養される環境であるのにも関わらず、2つの湿地では、植物相は異なっている。谷底湿地に見られるホザキノミミカキグサや、2種のモウセンゴケ、またミカヅキグサ Rhynchospora alba (L.) Vahlなどの東海地方の湿地を特徴づける植物 (浜島 1976; 芹沢 1992; 広木・清田 2000) は、田口大洞池の縁の調査湿地では、全く発見できなかった。一方、田口大洞池の水が供給される水田や、休耕田で普通に見られるフタバムグラやコアゼガヤツリは、調査湿地にも多いが、谷底湿地には分布していない (表2) 。
生物の存在/不在情報から構成種数の共通性を数値化するJaccard指数は (土居・岡村 2011)、溜池の縁に発達する調査湿地 (発見分類群数30)、谷底湿地 (同32)、河川C1、C2、C3の水際 (同30)、休耕田を含む水田 (同68) の湿潤な環境の何れの組み合わせであっても、0.22以下であり、互いに共通した水生・湿生植物の割合は小さい。発見種数は、調査面積に依存するため、調査面積が特に広い水田については、それを考慮する必要があるが、植物相の観察の限りでは、浸出水を集める小河川に沿った湿地、谷底湿地、田口大洞池縁の湿地、及び水田は、一括して平地の湿地として扱えるものではなく、それぞれ別の湿地環境として管理する必要があると考える。
今後の保全
地形や水位管理の面からは、田口大洞池の調査湿地は、農業利水とその伝統的な管理が放棄されつつある特殊な一時代にのみに成立したものと考えることができる。単なる過去への回帰では現在の湿地を維持することはできない。かつての農村での定期的に行われていた水草の除去や、底泥の浚渫と肥料としての利用が持続しているならば、このような地形や植生は形成されていないかもしれない。また、新たな溜池利用、例えば安定した水位が求められる工業水源や修景池、また、洪水対策のための調整池としての利用も現在の植生を大きく変化させるであろう。溜池そのものの存続には、多面的な機能を生かした新たな利用価値の提案が必要であるが (例えば、内田 2008)、それは、必ずしも、従来の環境の維持を保証するものではない。
現在の田口大洞池の水生・湿生植物の多様性や、希少種の残存を望ましいと考えるのならば、時代とともに変化する地形、水文環境や、それらに影響される植生の遷移をある段階に止めるための、農業やそれ以外の人為的な操作が不可欠になってくる。これは、原生の自然に価値を認め、手を付けないことにより保存する従来の自然保護とは異なる方向を目指すことである。中村 (2012) は、「人間社会に構造化されていたものを保護する」として、里山環境を保全することの原理的な問題と手法の困難さを論じている。
現在も水田耕作に利用されている溜池の環境の保全について論じる際、地元の農業従事者や地域の環境や慣習に詳しい住民からの聞き取りや、彼等との調整は不可欠である。地元の農業従事者には溜池の役割は十分理解されており、また敬意を払われてもいる。灌漑期の水不足は、用水路が整備された塔野地区でも今も脅威であり、2018年夏には深刻な渇水を経験している。溜池の水利用の取り決めは、地区内、及び隣接地区間で良く守られている。本報告で取り上げた田口大洞池と中島池には、それぞれ水神碑が置かれており、年始には、松竹梅を配した飾りが今も供えられる。
一方、その溜池に依存する動植物の保存や保全にはほとんど関心がもたれていない。この環境は、農業従事者や地元住民が意図的に作り上げたものではなく、従って、過去へ愛着に基づく保存への意識も働かず、特段の保全の努力も払われないものと考えられる。さらに、新来の非農家住民にとっては、溜池は利水者のみが管理を負担すべきものであり、溜池やその周辺の保全に公費を充てることには抵抗が大きい (村上 2022)。地元意見の聴取と、意見や行動の背景にある意識の解析は、自然科学的な調査とはまた別に改めて試みるつもりである。
中島池では、農林水産省からの補助を受けた愛知県営農村自然環境整備事業として2001年からビオトープとしての整備が始まった。しかし、2012年には、その事業趣旨に反するように、犬山市農林治山課により、池東岸の緩傾斜部分が埋め立てられ、抽水植物帯は消滅した (山岡 2015)。この行為について、当時の塔野地区は、何の反応も示さなかった。
本研究は、田口大洞池が位置する犬山市塔野地区の自治組織である塔野地区議会の了解と支援を受けて実施したものである。塔野地区は、2017年より、犬山市と協力し、中島池周辺のビオトープ整備に再び着手している。協定書では、地元の合意だけではなく、特に専門家の意見を聴取し、整備を進める旨の一項を設けている。この背景には、かつての中島池での経験への反省がある。これを契機とし、里地・里山などの二次的な自然の保全についての議論が活性化されれば幸いである。
最後に、溜池などの二次的な自然の保全が、特殊な地域や世代に限定して注目されているのではなく、普遍的な自然保護の課題であることも述べておきたい。溜池とそれに涵養される水田は、日本独自の景観であるかもしれないが、自然条件とともに人の手が加わった、伝統的な、二次的な自然に価値を認める嗜好と、それらを維持、管理していくための課題は、古くから人との交渉が続いてきた旧大陸の自然に共通したものである。1990年代から始まり、近年、日本でも紹介される機会が多くなった環境批評 (ecocriticism) の研究で必ず取り上げられるWordsworthやClareの作品群は、原生の自然ではなく、身近な、人の手が加わった田園や湿地 (fen) を取り上げたものである (McKusick 2010;Clark 2011)。溜池・水田生態系の生物相の独自性とその機能解明とともに、二次的な自然を好ましいとする自然観の普遍性についても、今後の保全研究の課題となるように思える。
表1. 田口大洞池の水際に発達する湿地の属性
Table 1. Properties of wetlands along the shoreline of the Taguchi Oohora Pond reservoir.
属性 properties | ||
---|---|---|
湿地類型 wetland type | 沼沢湿地 Palustrine System | |
位置 location | 35°22′31″N, 136°59′16″E, EV: 105 m | |
面積 area | 300 m2 | |
土壌 soil | 砂礫, 泥炭の堆積無し sand and gravel, no peat deposition | |
水 water | 起源 origin | 電気伝導度の低い (2 mS m-1以下) 浸出水 oozing water of low electrical conductivity (under 2 mS m-1) |
水位 water level |
人の活動により季節的に変動する fluctuating seasonally by human activity |
|
植生 vegetation |
低茎植物, サワトウガラシ-ニッポンイヌノヒゲ群集 short grass, Deinostemato-Eriocauletum hondoensis community |
表2. 主要な植物
Table 2. Dominant hydrophytes and hygrophytes observed in the study area
門 Phylum | 科 Family | 学名 Scientific name | 和名 Japanese name | RL | 引用 Reference | 生育場所 Habitat | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
小川 Creek |
水田 Rice field |
溜池 Reservoir | 湿地 Swamp | ||||||
Bryophyta | Sphagnaceae | Sphagnum palustre L. | オオミズゴケ | H, HK | ○ | ○ | ○ | ○ | |
Ricciaceae | Ricciocarpus natans (L.) Corda | イチョウウキゴケ | NT | ○ | |||||
Tracheophyta | Magnoliaceae | Magnolia stellata (Siebold et Zucc.) Maxim. | シデコブシ | NT | H, S, HK | ○ | |||
Acoraceae | Acorus gramineus Sol. ex Aiton | セキショウ | 1 | ○ | |||||
Alismataceae | Sagittaria pygmaea Miq. | ウリカワ | 1 | ○ | |||||
S. trifolia L. var. trifolia | オモダカ | 1 | ○ | ||||||
Hydrocharitaceae | Blyxa echinosperma (C. B. Clarke) Hook. f. | スブタ | VU | 1 | ○ | ○ | |||
Potamogetonaceae | Potamogeton octandrus Poir. var. octandrus | ホソバミズヒキモ | 1 | ○ | |||||
Nartheciaceae | Aletris luteoviridis (Maxim.) Franch. | ノギラン | H, HK | ○ | |||||
Melanthiaceae | Helonias orientalis (Thunb.) N. Tanaka | ショウジョウバカマ | H, HK | ○ | |||||
Orchidaceae | Pecteilis radiata (Thunb.) Raf. | サギソウ | NT | H, S, HK, 2 | ○ | ||||
Iridaceae | Iris pseudacorus L. | キショウブ | 1 | ○ | |||||
Xanthorrhoeaceae | Hemerocallis fulva L. var. disticha (Donn ex Ker Gawl.) M. Hotta | ノカンゾウ | S, 2 | ○ | |||||
H. fulva L. var. kwanso Regel | ヤブカンゾウ | 2 | ○ | ||||||
Asparagaceae | Hosta longissima Honda ex F. Maek. | ミズギボウシ | H, S, HK, 2 | ○ | ○ | ○ | |||
Commelinaceae | Murdannia keisak (Hassk.) Hand.-Mazz. | イボクサ | HK, 1 | ○ | |||||
Pontederiaceae | Monochoria vaginalis (Burm. f.) C. Presl ex Kunth var. vaginata | コナギ | 1 | ○ | |||||
Eriocaulaceae | Eriocaulon cinereum R. Br. | ホシクサ | 1 | ○ | |||||
E. miquelianum Koern. var. miquelianum | イヌノヒゲ | S, 2 | ○ | ||||||
Juncaceae | Juncus decipiens (Buchenau) Nakai | イグサ | HK, 1 | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
J. papillosus Franch. et Sav. | アオコウガイゼキショウ | H | ○ | ○ | |||||
J. prismatocarpus R. Br. subsp. leschenaultii (J. Gay ex Laharpe) Kirschner | コウガイゼキショウ | 1 | ○ | ||||||
Cyperaceae | Carex maculata Boott var. maculata | タチスゲ | 2 | ○ | ○ | ||||
C. maximowiczii Miq. var. maximowiczii | ゴウソ | ○ | ○ | ○ | |||||
C. olivacea Boott subsp. confertiflora (Boott) T. Koyama | ミヤマシラスゲ | 2 | ○ | ||||||
C. phacota Spreng. | ヒメゴウソ | 2 | ○ | ○ | ○ | ||||
C. thunbergii Steud. var. thunbergii | アゼスゲ | 1 | ○ | ||||||
Cyperus brevifolius (Rottb.) Hassk. var. brevifolius | アイダクグ | ○ | |||||||
C. brevifolius (Rottb.) Hassk. var. leiolepis (Franch. et Sav.) T. Koyama | ヒメクグ | ○ | |||||||
C. flaccidus R. Br. | ヒナガヤツリ | ○ | |||||||
C. haspan L. | コアゼガヤツリ | 2 | ○ | ○ | |||||
C. iria L. | コゴメガヤツリ | ○ | |||||||
C. microiria Steud. | カヤツリグサ | ○ | |||||||
C. polystachyos Rottb. | イガガヤツリ | ○ | |||||||
Eleocharis pellucida J. et C. Presl | ハリイ | 2 | ○ | ○ | ○ | ||||
Fimbristylis autumnalis (L.) Roem. et Schult. | ヒメヒラテンツキ | 2 | ○ | ||||||
F. dichotoma (L.) Vahl subsp. dichotoma var. tentsuki T. Koyama | テンツキ | 2 | ○ | ○ | |||||
F. littoralis Gaudich. var. littoralis | ヒデリコ | 2 | ○ | ||||||
Rhynchospora alba (L.) Vahl | ミカヅキグサ | H, S, HK, 2 | ○ | ||||||
R. fujiiana Makino | コイヌノハナヒゲ | H, S, HK, 2 | ○ | ||||||
R. rugosa (Vahl) Gale | イヌノハナヒゲ | H, S, HK, 2 | ○ | ○ | ○ | ||||
Schoenoplectus hotarui (Ohwi) Holub | ホタルイ | H, 1 | ○ | ○ | |||||
S. juncoides (Roxb.) Palla | イヌホタルイ | ○ | |||||||
S. lineolatus (Franch. et Sav.) T. Koyama | ヒメホタルイ | 1 | ○ | ||||||
Scirpus mitsukurianus Makino | マツカサススキ | 2 | ○ | ||||||
S. wichurae Boeck. var. wichurae f. concolor (Maxim.) Ohwi | アブラガヤ | H, HK, 2 | ○ | ○ | |||||
Poaceae | Agrostis valvata Steud. | ヒメコヌカグサ | NT | S, 2 | ○ | ||||
Arthraxon hispidus (Thunb.) Makino | コブナグサ | ○ | ○ | ||||||
Coelachne japonica Hack. | ヒナザサ | NT | S, 2 | ○ | ○ | ||||
Echinochloa crus-galli (L.) P. Beauv. var. aristata Gray | ケイヌビエ | 2 | ○ | ||||||
E. crus-galli (L.) P. Beauv. var. crus-galli | イヌビエ | 2 | ○ | ||||||
Glyceria acutiflora Torr. subsp. japonica (Steud.) T. Koyama et Kawano | ムツオレグサ | 1 | ○ | ||||||
Isachne globosa (Thunb.) Kuntze var. globosa | チゴザサ | H, 1 | ○ | ○ | ○ | ||||
Ischaemum aristatum L. var. aristatum | タイワンカモノハシ | H, S, HK, 2 | ○ | ○ | |||||
Leersia sayanuka Ohwi | サヤヌカグサ | 1 | ○ | ||||||
Moliniopsis japonica (Hack.) Hayata | ヌマガヤ | H, S, HK, 2 | ○ | ○ | ○ | ||||
Panicum bisulcatum Thunb. | ヌカキビ | ○ | ○ | ○ | |||||
Paspalum scrobiculatum L. var. orbiculare (G. Forst.) Hack. | スズメノコビエ | ○ | |||||||
Sacciolepis spicata (L.) Honda ex Masam. var. oryzetorum (Makino) Yonek. | ヌメリグサ | 2 | ○ | ○ | ○ | ||||
Ranunculaceae | Ranunculus cantoniensis DC. | ケキツネノボタン | 2 | ○ | |||||
Haloragaceae | Myriophyllum ussuriense (Regel) Maxim. | タチモ | NT | 1 | ○ | ||||
Fabaceae | Aeschynomene indica L. | クサネム | 2 | ○ | |||||
Rosaceae | Malus toringo (Siebold) Siebold ex Vriese var. toringo | ズミ | S | ○ | |||||
Padus grayana (Maxim.) C. K. Schneid. | ウワミズザクラ | 2 | ○ | ||||||
Rosa multiflora Thunb. var. multiflora | ノイバラ | 2 | ○ | ○ | ○ | ○ | |||
Violaceae | Viola verecunda A. Gray var. verecunda | ツボスミレ | 2 | ○ | |||||
Hypericaceae | Hypericum japonicum Thunb. | ヒメオトギリ | 2 | ○ | |||||
H. laxum (Blume) Koidz. | コケオトギリ | 2 | ○ | ||||||
Onagraceae | Ludwigia decurrens Walter | ヒレタゴボウ | 2 | ○ | ○ | ||||
Brassicaceae | Cardamine hirsuta L. | ミチタネツケバナ | 2 | ○ | |||||
C. scutata Thunb. var. scutata | タネツケバナ | 2 | ○ | ○ | |||||
Rorippa palustris (L. ) Besser | スカシタゴボウ | 2 | ○ | ||||||
Polygonaceae | Periscaria hydropiper (L.) Delarbre | ヤナギタデ | 1 | ○ | |||||
P. muricata (Meisn.) Nemoto | ヤノネグサ | 2 | ○ | ||||||
P. pubescens (Blume) H. Hara | ボントクタデ | 2 | ○ | ||||||
P. sagittata (L.) H. Gross var. sibirica (Meisn.) Miyabe | ウナギツカミ | 2 | ○ | ○ | |||||
P. thunbergii (Siebold et Zucc.) H. Gross var. thunbergii | ミゾソバ | 2 | ○ | ○ | |||||
Rumex acetosa L. | スイバ | 2 | ○ | ||||||
Droseraceae | Drosera rotundifolia L. | モウセンゴケ | H, S, HK, 2 | ○ | |||||
D. tokaiensis (Komiya et C. Shibata) T. Nakam. et K. Ueda subsp. tokaiensis | トウカイコモウセンゴケ | H, S, HK, 2 | ○ | ||||||
Hydrangeaceae | Hydrangea paniculataSiebold | ノリウツギ | H, HK | ○ | ○ | ||||
Primulaceae | Lysimachia fortunei Maxim. | ヌマトラノオ | S, 2 | ○ | ○ | ○ | |||
Plantaginaceae | Bacopa rotundifolia (Michx.) Wettst. | ウキアゼナ | 1 | ○ | |||||
Deinostema violaceum (Maxim.) T. Yamaz. | サワトウガラシ | 2 | ○ | ||||||
Dopatrium junceum (Roxb.) Buch.-Ham. ex Benth. | アブノメ | 1 | ○ | ○ | |||||
Limnophila chinensis (Osbeck) Merr. subsp. aromatica (Lam.) T. Yamaz. | シソクサ | 2 | ○ | ○ | |||||
L. sessiliflora (Vahl) Blume | キクモ | 1 | ○ | ||||||
Symplocaceae | Symplocos paniculata (Thunb.) Miq. | クロミノニシゴリ | 2 | ○ | |||||
Rubiaceae | Oldenlandia brachypoda DC. | フタバムグラ | 2 | ○ | ○ | ○ | |||
Gentianaceae | Gentiana thunbergii (G. Don) Griseb. var. thunbergii | ハルリンドウ | H, S, HK | ○ | |||||
Linderniaceae | Lindernia micrantha D. Don f. leucantha (Hiyama) Yonek. | シロバナアゼトウガラシ | ○ | ○ | |||||
Lamiaceae | Stachys aspera Michx. var. hispidula (Regel) Vorosch. | イヌゴマ | 2 | ○ | |||||
Phrymaceae | Phryma leptostachya L. subsp. asiatica (H. Hara) Kitam. | ハエドクソウ | 2 | ○ | |||||
Lentibulariaceae | Utricularia australis R. Br. | イヌタヌキモ | NT | 1 | ○ | ○ | ○ | ||
U. bifida L. | ミミカキグサ | H, S, HK | ○ | ○ | |||||
U. caerulea L. | ホザキノミミカキグサ | H, S, HK | ○ | ||||||
Aquifoliaceae | Ilex crenata Thunb. var. crenata | イヌツゲ | H | ○ | |||||
I. serrata Thunb. | ウメモドキ | 2 | ○ | ||||||
Campanulaceae | Lobelia chinensis Lour. | ミゾカクシ | 2 | ○ | ○ | ○ | |||
Asteraceae | Aster rugulosus Maxim. var. rugulosus | サワシロギク | H, HK, 2 | ○ | ○ | ○ | |||
Bidens frondosa L. | アメリカセンダングサ | 2 | ○ | ○ | |||||
Lapsanastrum apogonoides (Maxim.) J. H. Pak et K. Bremer | コオニタビラコ | 2 | ○ | ○ |
学名、和名とも米倉 (2016)、岩月・水谷 (1972) の表記に従う。掲載種は首藤ほか (2019) の水生 (1)・湿性 (2) 植物として挙げられているもの、過去の東海地方での調査 (H: 浜島 1976; S: 芹沢 1992; HK: 広木・清田 2000) で湿地を特徴づけるとされた種、及び本研究の現場で特異的に見られものも載せた。RL: 2020年度環境省レッドリスト記載種、VU: 絶滅危惧Ⅱ類、NT: 準絶滅危惧。
Scientific and Japanese names follow Yonekura (2016) and Iwatsuki and Mizutani (1972). References 1 and 2 refer to hydrophytes (1) and hygrophytes (2), respectively, classified by Shutō et al. (2019). References H, S, and HK refer to common species in wetlands of the Tōkai region observed by Hamashima (1976), Serizawa (1992), and Hiroki and Kiyota (2000), respectively. Species designated as endangered according to the 2020 Ministry of Environment Red List (RL) are described as either vulnerable (VU) or near-threatened (NT).
図1. 田口大洞池周辺の湿地の地図 (Ⓐ、Ⓑ)、及び上空からの溜池の写真 (Ⓒ)
山腹斜面から浸出する水を集めた二筋の小川 (C1, C2) が田口大洞池 (R) に流入し、それぞれの流入部に遠浅の地形が形成される。貯えられた水は、C3を通じて、下流の水田を涵養している。浸出する水は、C2の谷底に沿ってミズゴケで覆われた湿地 (S) を形成する。植生の調査は図中の破線の経路に沿って行った。Ⓒ図の白線で囲んだ部分が、灌漑期に干出する。
Fig. 1. (A, B) Maps of (A) the Taguchi Oohora Pond reservoir and (B) related wet environments, and (C) an aerial photograph of the reservoir. Water is collected from the hillside and discharged into Taguchi Oohora Pond reservoir by creeks C1 and C2, leading to shoal formation. Impounded waters are introduced into downstream rice fields via a third creek (C3). Seeping water forms a swamp (S) covered by sphagnum at the bottom of the gorge formed by creek C2. Dashed lines indicate vegetation transects surveyed in this study. In (C), areas surrounded by white lines dry up during intensive irrigation.
図2. C2流入部に形成された湿地
a: 2023年6月29日 (水位: FWL (常時満水位)-0.14 m)、b: 2023年8月28日 (FWL-0.54 m)、c: 2023年11月26日 (FWL)、d: 2023年8月10日の湿地表面、e: 2023年9月9日の湿地表面
Fig. 2. Wetland formed at the mouth of creek C2
(a) Aerial photograph taken 29 June, 2023 (water level: 0.14 m below full water level [FWL]). (b, c) View of the wetland on (b) 28 August, 2023 (0.54 m below FWL) and (c) 26 November, 2023 (FWL). (d, e) Wetland surface on (d) 10 August, 2023 and (e) 9 September, 2023.
図3. 田口大洞池に流入する小川の流入部に形成される遠浅の堆砂地形と植生
2本の横線は高水位 (常時満水位) と低水位 (常時満水位より0.52 m下) を示す。優占的な植物の分布は、図の下部に略語で示した。Sp: オオミズゴケSphagnum palustre L., Cp: ヒメゴウソCarex phacota Spreng., Sh: ホタルイSchoenoplectus hotarui (Ohwi) Holub, Mj: ヌマガヤMoliniopsis japonica (Hack.) Hayata, Rr: イヌノハナヒゲ Rhynchospora rugosa (Vahl) Gale, Cj: ヒナザサCoelachne japonica Hack., Fd: テンツキ Fimbristylis dichotoma (L.) Vahl subsp. dichotoma var. tentsuki T. Koyama, Ss: ヌメリグサ Sacciolepis spicata (L.) Honda ex Masam. var. oryzetorum (Makino) Yonek., Dv: サワトウガラシDeinostema violaceum (Maxim.) T. Yamaz., Ob: フタバムグラOldenlandia brachypoda DC., Ub: ミミカキグサUtricularia bifida L., Ch: コアゼガヤツリCyperus haspan L., Be: スブタBlyxa echinosperma (C. B. Clarke) Hook. f., Ep: ハリイEleocharis pellucida J. et C. Presl, Mu: タチモMyriophyllum ussuriense (Regel) Maxim., NV: 植生を欠く。
Fig. 3. Cross-sectional profile of the shoal formed at the mouth of creek C2 shown in Fig. 2, including vegetation
Horizontal lines indicate high (FWL) and low (0.52 m below FWL) water levels. Hydrophytes and hygrophytes found in both high- and low-water periods are indicated for two survey dates at the bottom of the figure. Be: Blyxa echinosperma (C.B.Clarke) Hook.f., Cj: Coelachne japonica Hack., Ch: Cyperus haspan L., Cp: Carex phacota Spreng., Dv: Deinostema violaceum (Maxim.) T.Yamaz., Ep: Eleocharis pellucida J.Presl. & C.Presl., Fd: Fimbristylis dichotoma (L.) Vahl subsp. dichotoma var. tentsuki T.Koyama, Mj: Moliniopsis japonica (Hack.) Hayata, Mu: Myriophyllum ussuriense (Regel) Maxim., Ob: Oldenlandia brachypoda DC., Rr: Rhynchospora rugosa (Vahl) Gale, Sh: Schoenoplectus hotarui (Ohwi) Holub, Sp: Sphagnum palustre L., Ss: Sacciolepis spicata (L.) Honda ex Masam. var. oryzetorum (Makino) Yonek., Ub: Utricularia bifida L. NV, no vegetation.
図4. 田口大洞池 (○) 及び中島池 (●) の水位変動と、調査地域から南へ22 kmの位置にある名古屋観測所で観測された日毎の降水量
田口大洞池は、農業用灌漑のみの単目的で、貯水容量/受益面積比は29,000 m3/8.6 haである。中島池は農業、工業、及び修景の多目的に利用されている。田口大洞池と比べて、貯水容量/受益面積比は大きい (165,000 m3/10.0 ha)。
Fig. 4. Fluctuations in relative water levels in the Taguchi Oohora Pond (open circles) and Nakashima Pond (closed circles) reservoirs, with daily precipitation obtained from Nagoya Observatory, approximately 22 km south of the study site. Water from the Taguchi Oohora Pond reservoir is used only for agricultural irrigation; the ratio of its capacity (29,000 m3) to its irrigation area (8.6 ha) is 3,400 m3 ha-1. Water from the Nakashima Pond reservoir is used for multiple purposes including agriculture, industry, and landscaping. The ratio of its capacity (165,000 m3) to its irrigation area (10 ha) is 16,500 m3 ha-1, which is substantially larger than that of Taguchi Oohora Pond.