Japanese Journal of Conservation Ecology
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
A lack of shade-tolerant plant species in the species-pool of urban parks results in degradation of ecosystem services under tree canopies
Daisuke IwashitaFumito Koike
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Article ID: 2221

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Abstract

要旨:都市の公園における地表植生は裸地化を防ぐことで地面に座る場所を提供し、雨天直後にも泥濘化せず、また乾燥時の砂ぼこりや土壌の侵食を防ぎ、雨水を浸透させて洪水を防ぐなどの生態系サービスを提供する。都市内には歴史的な背景により種組成が異なるさまざまな緑地が存在することが知られており、埋立地などに新しく造成された公園では里山の林床に生育する耐陰性種などが種プールから欠落している可能性があるため、林縁や林床における生態系サービスの低下が危惧される。この研究では、首都圏の都市域にあるさまざまな公園において種プールの生態特性(耐陰性および踏圧耐性)を調査し、生態系サービスと関連が深い地表植生の葉面積指数への影響を解析した。公園における葉面積指数は光環境のみでなく踏圧の影響も受けるため、土壌貫入抵抗値を用いて踏圧の影響を考慮した。種プールの種組成における耐陰性種の欠落は、公園の林縁や林床における葉面積指数の低下につながっていた。本研究で検出された耐陰性種はドクダミ、ジャノヒゲ、チヂミザサ、ヘクソカズラ、アズマネザサ、スゲ属などの在来種であり、近世の里山が残存している公園の種プールにはこれらの耐陰性種を含む傾向がみられた。公園内の樹冠下における生態系サービスを向上させるためには耐陰性が高い在来種を含む種プールが重要であり、公園のリノベーションや造成に当たっては、在来の耐陰性種が消失しないよう園内の歴史的里山を保全する対応が望ましい。

Translated Abstract

Abstract: The herbaceous vegetation layer in urban parks provides ecosystem services that include places for people to sit on the ground, prevention of mud and dust formation, prevention of soil erosion, and flood prevention via increased rain infiltration. Species composition in green spaces in urban areas varies owing to differences in their histories. In newly developed parks on reclaimed land, shade-tolerant native species that grow on the forest floor in ‘satoyama’, or remnant vegetation, may be absent from the species pool, leading to concerns that the ecosystem services of the forest-floor vegetation may be degraded. In this study, we measured the ecological traits of the species pool (shade and trampling tolerance at the species-pool level) in various parks, and analysed their effects on the ground-surface leaf area index. Because trampling also affects vegetation in parks, we used soil penetration-resistance values to account for its effects. A lack of shade-tolerant species in the species pool reduced the leaf area index of forest-floor plant communities. The shade-tolerant species detected in our surveys included native species such as Houttuynia cordata, Ophiopogon japonicus, Oplismenus undulatifolius, Paederia foetida, Pleioblastus chino, and sedges. Species pools in parks with ‘satoyama’ typically included these species. Species pools containing shade-tolerant native species are important for improving ecosystem services beneath tree canopies, and we recommend conserving historical ‘satoyama’ to prevent the loss of native shade-tolerant floras when renovating or creating parks.

はじめに

都市の公園における地表植生には開けた芝生のほか草地、林床植生などがある。裸地化を防ぐことで地面に座る場所を提供し(図1a)、雨天直後にも泥濘化せず利用者が公園に立ち入ることが可能となり、また砂ぼこりや土壌の侵食を防ぎ、雨水を浸透させて洪水を防ぐなどの生態系サービスを提供する(Monteiro 2017; 伊藤ほか2020)。

ある地点の群集の種プールは、種子や地下茎などで到達して群集構成種の候補になり得る種の集合である(Grime 1998; Zobel et al 1998; Tanaka and Koike 2011; Spasojevic et al 2018)。群集における個々の種の優占度を、種プール構成種の生態特性をもとに予測する試みが始まっている(Koike 2001; Shipley et al 2006; 小池2010; Tanaka and Koike 2011)。また種プールの機能的な多様性の低下は群集における生産性の低下を引き起こし、生態系サービスに大きく影響を与えるとされる(Hector et al. 1999; Balvanera et al. 2006)。

都市内には歴史的な背景により種組成が異なるさまざまな緑地が存在している(Johnson et al. 2018)。アリ散布されるスゲ類やスミレ類などや(Handel 1978; Kjellsson1991; Ohkawara and Higashi 1994; Ness et al. 2004; Tanaka and Tokuda2016)、主に地下茎で栄養繁殖するササ類、主要な種子散布者が都市で生息できない貯食散布種など(Komuro and Koike 2005)、都市の緑地において迅速な分布拡大が困難と考えられる種が存在し、新しく造成された植生地ではこのような種が種プールから欠落する可能性が高いため(Westoby et al. 1996; Komuro and Koike 2005)、生態系サービスの低下が危惧される。例えば図1bに埋立地に設置された公園の写真を示しているが、埋め立て地の公園では林冠下の日陰地に植生が存在しない現象が観察され、陽地に生育し攪乱地に見られる雑草的な種の耐陰性の限界がそのまま地表植生の限界になっているように見える。耐陰性を持つ種が到達できずに種プールから欠落しているため林床植生が発達していない可能性が考えられる。

この研究では、埋立地に造成された公園や近世から続く里山を含む公園などさまざまな公園において種プールの生態特性(耐陰性および踏圧耐性)を調査し、地表植生の生態系サービスと関連が深い葉面積指数への影響を解析した。葉面積指数が大きければ土壌表面の露出が少ないため、葉面積指数は土壌侵食防止などの生態系サービスの代理変数として用いられている(Xu et al 2020)。耐陰性は林冠下の光が不足した環境での植物の生育に重要な種特性であるが、これに加えて公園では踏圧による植生の劣化もみられるため(森本・増田1975; 前中・大窪1986; Cole 1995)、耐陰性とともに踏圧耐性(前中・大窪1986)も考慮した。公園は樹林と草地が混在しており、林縁には両方の立地から種子や地下茎が供給される。林外の草地から林縁を経て林内に至る短距離の光勾配では、共通の種プールを持ちながら光環境に応じた多様な群集が成立し、林床では陽地性種の優占度が低下するため、耐陰性種の欠落の影響を検出しやすいと予想される。そこで耐陰性種の欠落による種プールの特性としての耐陰性の低下が、林冠下において生態系サービスの代理変数としての葉面積指数を低下させるのか、都市公園の林縁を用いて影響の検出を試みた。

方 法

近世の江戸時代から続く里山を公園内に含み里山のフロラを種プールに継承している可能性がある公園と、近代以降に埋め立てられて導入種のみで種プールが構成される公園をともに含むように、東京都と神奈川県内にある12公園を調査対象とした(表1)。

ひとつの公園の中には、歴史的な里山と近年に土地造成を行ない人工的に植栽した部分とが混在することも少なくない。また公園の植栽木の根鉢に非意図的に混入し、そこからゆっくり分布拡大しているクローン植物も見られる。本論文で扱う種プールは散布体やクローンが対象地に供給され群集構成種の候補になり得る種のリストであるため(Grime 1998; Zobel et al 1998; Tanaka and Koike 2011)、ひとつの種プールと見なすことができる空間スケールは、種子散布距離が大きな種のみであれば大きくても良いが、種子散布距離が小さな種が関与する場合は小さな空間スケールで考える必要がある。特に林床にも多いスゲ類やスミレ類のように種子がアリ散布される種の散布距離は0.2-2m程度であり(Handel 1978; Kjellsson1991; Ohkawara and Higashi 1994; Ness et al. 2004; Tanaka and Tokuda2016)、主に地下茎で栄養繁殖するササ類は年に1メートル程度のクローン拡大速度である(Tomimatsu et al 2020)。年が経過すると個体群の分布拡大が進むため(Skellam 1951)、考慮する時間スケールが長くなるとともに種プールとして考慮すべき空間スケールも大きくなる(Levin 1992)。都市の公園ではリノベーションが頻繁に行われるため(平田・橘2020)、ここでは年に1メートル程度の分布拡大距離を持つ林床性の種の10年程度の分布拡大を考慮して、種プールの空間スケールを10mとし、同一の公園であっても離れて立地する調査地では種プールが同じではないと仮定した。このため調査は林縁を中心として林内と林外の開けた草地に5mずつ伸ばした10mの直線を調査ラインとして行い、これをひとつの種プールとして種プールの生態特性を求めた。このような調査ラインの設定により、ひとつの種プールには開放地と林冠下の両方の種を含む。

野外調査では2020年と2021年の生育期(春の展葉が完了する4月後半からサクラ類Cerasus spp.の落葉が始まる9月まで)に首都圏の都市域にある12公園に合計84本のラインを設置した(表1)。公園では樹林に植栽種も混在して林冠構成種が複雑であるため、林冠の環境は全天写真で直接測定することとし、林冠種の記録は行なわなかった。調査ラインは10m以上離して公園全体に配置したが、離して設置することが難しい場合は一部で隣接したラインも存在する。調査ライン上の1メートルごとに50㎝×50㎝の調査区を作りひとつの局所群集とした。これを以後は50cm調査区と呼ぶ。ひとつのラインには両端を含めて11カ所の50cm調査区をおき、84本のラインに合計924調査区を設置した。

この50cm調査区の中央のライン上0.5cmごとに長さ15cmの針を100回、地面に垂直に突き刺して、針に植物が当たった回数を記録するポイントコドラート法により、調査区における種ごとの優占度を測定した。針で突き刺す試行1回当たりの平均の接触回数は地表における葉面積指数(水平葉を仮定)に相当する。可能な限り種レベルで同定したが、繁殖器官がないため属レベルの同定にとどまる場合もあった。木本の幼樹はまとめて扱い、また園芸品種を含み植栽されることが多いシバ類もまとめて扱った(シバ属Zoysia spp.、ギョウギシバCynodon dactylon (L.) Pers. var. dactylon、イヌシバStenotaphrum secundatum (Walt.) Kuntze、チャボウシノシッペイEremochloa ophiuroides (Munro) Hack.などの矮性種。西洋芝として販売されるが草姿が異なるドクムギ属Lolium spp. やイチゴツナギ属Poa spp.を含まない)。

また光環境として植生調査時に各50cm調査区の中央1点の植生上(およそ30cm程度)で魚眼レンズ(オリンパス Tough TG-6)による全天写真を撮影し、林冠開空度をImageJで測定した。踏圧を指標する値として同じ1地点で山中式土壌硬度計による貫入抵抗を測定した。

データの解析において種特性としての耐陰性は、各調査ラインの林外から林内に至る明暗の傾度の中で種が出現した最も暗い50cm調査区の光環境(林冠開空度)を当該調査ラインでの種の最小林冠開空度とし、さらに種が出現した多数の調査ラインを比較してその中での最小値を種の耐陰性値とした(Koike 2001)。ただし出現した調査ライン数は種により異なるため、出現調査ライン数が多い種で最小開空度が小さくなる現象が起きる。このような出現調査ライン数の影響を取り除くため、土木工学分野で100年に一度の大洪水における河川流量を予測する場合などに利用される極値統計を利用して(Gumbel 1954)、5調査ラインに出現したと仮定した場合の最小開空度を推定して種の耐陰性とした。実際の計算では最大値の頻度分布に広く利用されるGumbel分布を仮定してStan 2.21の確率モデリングによるパラメーター推定で最小開空度の値を区間推定し中央値を種の耐陰性とした(付録1 コード1)。また洪水の予測などで伝統的に利用されてきたGumbel分布の累積分布を直線化するグラフの作成により、Gumbel分布を仮定することの妥当性を視覚的に確認した。なおGumbel分布は最大値のみを扱うため、開空度の最小値については-ln(開空度)の最大値として推定した。予備的解析では開空度そのものではGumbel分布の累積分布が直線化されず対数変換した場合に直線化されたため、開空度に対しては自然対数変換を行った。これらの解析は4調査ライン以上に出現した種について行った。また踏圧に対しても同様に解析し、耐陰性を推定したものと同じ種について5調査ラインに出現した場合の最大の貫入抵抗値を区間推定し、種の踏圧耐性とした。

上記のように、種特性としての耐陰性は出現可能な最も暗い場所の光条件としたが、同様に種プールの特性としての耐陰性値も、ひとつの種プール(ひとつの調査ライン)に出現した全ての種の中で最も耐陰性が高い種の値とした。種プールから耐陰性種が欠落すると種プールとしての耐陰性が低下するため、機能的な多様性を表す指標のひとつと考えられる。また種プールの特性としての踏圧耐性も、当該の種プールに出現した全ての種のなかで最も踏圧耐性が高い種の値とした。これは、生態特性で張られた多次元空間である生態特性空間内の種プールの分布域を矩形(最大値と最小値で挟まれた範囲)で表現し、極値的な値(最大値や最小値)で種プールの特性を表現していることになる(図2)。さまざまな生態系における外来種の研究では、小笠原諸島の在来極相林に置き換わって単独優占するアカギBischofia javanica Blumeや(Koike 2001)、南半球の極相草本・低木植生を森林に変えたマツ属 Pinus spp. (Richardson et al 1994)、フロリダ半島などの草本性湿地を森林に変えたメラルーカMelaleuca quinquenervia (Cav.) S.T.Blake(Turner et al 1998)など、在来種プールに対して極値的な生態特性を持つひとつの外来種が加わることで地域の極相生態系が全く異なるものになることが知られている。里山景観の種プールでは、雑草群集から照葉樹林まで共通して、鍵となる生態特性の極値(最大値か最小値)で優占度が最大になり、中庸な生態特性値で優占度が最大となる現象は見られなかった(Tanaka and Koike 2011)。このため生態特性空間内の種プールの位置の記載としては平均値よりも極値(最大値や最小値)を使うことが望ましい。最大値と最小値のどちらが生態系に影響するのかは、当該の生態特性の生態系内でのはたらきかたによる。なお種プールの分布域をより詳しく扱うために凸包や多次元密度分布を使うことも可能だが(図2)、凸包では複数の生態特性を同時に考慮する必要があり領域の記述も複雑になる。また正規分布のような長い尾を引かず極値的な生態特性値を容易にあつかうことが可能で種プールを表現するのに適した多次元密度分布については今後の研究が必要である。

 里山が残存する公園と残存しない公園において種プールとしての生態特性を比較するため、公園をランダム要因として、里山が残存する公園と残存しない公園の耐陰性(ln林冠開空度)と踏圧耐性(貫入抵抗値)の平均値をStanによる確率モデリングで比較した(付録1 コード2)。里山を含む公園と含まない公園における調査ラインへの耐陰性植物の出現確率を比較するため、2つのタイプごとに公園における出現確率の頻度分布がベータ分布すると仮定し、Stanを用いた確率モデリングにより各タイプでの出現確率の平均値の頻度分布の中央値を求めた(付録1 コード3)。

耐陰性種の欠落した種プールと、林床の地表植生の葉面積指数(生態系サービスの指標)との関係を調べるため、50cm調査区の全種合計の接触回数(調査区あたり100回の試行)を目的変数とし、当該調査区の物理環境としてln開空度と土壌貫入抵抗、生物多様性に関する環境として種プールの耐陰性(ln最小開空度)と種プールの踏圧耐性(最大土壌貫入抵抗)を説明変数とした一般化線形モデルによるポアソン回帰を行った(R 4.1.0)。なお公園の陽地の芝生では芝の張替えや除草、施肥などの強い人為管理が行われやすいため、林冠開空度が50%を超える林外の50cm調査区は除外し、林縁から林内にいたる50%以下の調査区、暗い林床環境の10%以下の調査区、対数尺度で100%と10%のほぼ中間である30%以下の調査区の3つのデータセットで解析した。

結 果

各調査ラインで測定された林冠開空度の最小値(最も暗い50cm調査区)の中央値は里山を含む公園で13%、含まない公園では10%であり、両タイプの公園の環境に差は見られなかった(表2)。各調査ラインで測定された土壌貫入抵抗の最大値(もっとも土壌が硬い50cm調査区)の中央値は里山を含む公園と含まない公園ともに18 kg cm-2であり、両タイプの公園の環境に差は見られなかった。全出現種数は70種であった(付録2)。極値統計では林冠開空度の対数と貫入抵抗ともに直線化されたためGumbel分布を利用可能であった(図3)。ドクダミ Houttuynia cordata Thunb.、ジャノヒゲ Ophiopogon japonicus (Thunb.) Ker Gawl.、チヂミザサ Oplismenus undulatifolius (Ard.) Roem. et Schult.、ヘクソカズラ Paederia foetida L.、アズマネザサ Pleioblastus chino (Franch. et Sav.) Makino、スゲ属Carex spp.の耐陰性が高く、これらの種の最小林冠開空度は9%以下であった(表3)。シロツメクサ Trifolium repens L.、ハルジオン Erigeron philadelphicus L.、ニワゼキショウ Sisyrinchium rosulatum E.P.Bicknell、オヒシバ Eleusine indica (L.) Gaertn.、クサイ Juncus tenuis Willd.、メヒシバ Digitaria ciliaris (Retz.) Koeler、チドメグサ Hydrocotyle sibthorpioides Lam.は耐陰性が低く最小林冠開空度は20%以上であった。踏圧耐性はスズメノヒエ属 Paspalum spp.、オヒシバ Eleusine indica (L.) Gaertn.、アズマネザサ、ハマスゲ Cyperus rotundus L.、シバ類で高く、これらの種の最大土壌貫入抵抗は19 kgcm-2以上であった(表3)。コナスビ Lysimachia japonica Thunb.、ドクダミ、コメツブツメクサ Trifolium dubium Sibth.、ニワゼキショウ、チヂミザサは最大土壌貫入抵抗が12 kgcm-2未満であった。

種プールの耐陰性としての最小林冠開空度の平均値(自然対数変換して計算したものを逆変換)は、里山が残存する公園では8.0%(95%範囲 7.5% - 8.5%)、残存しない公園は9.7%(95%範囲 9.0% - 10.5%)であり、里山が残存する公園で有意に種プ-ルの耐陰性が高かった(P<0.05)。個別の耐陰性種のラインへの出現確率は里山が残存する公園で残存しない公園より高い傾向があり(図4)、ドクダミ、ジャノヒゲ、アズマネザサ、スゲ属で有意な差がみられた(P<0.05)。

種プールとしての踏圧耐性は、里山が残存する公園の平均値は最大貫入抵抗20.0 kgcm-2(95%範囲 17.9 – 22.2)、残存しない公園は21.9 kgcm-2(95%範囲 19.4 – 24.5)であり、有意な差は見られなかった(P>0.05)。

公園の樹冠下の地表植生の葉面積指数に対して各50cm調査区の光環境(ln林冠開空度)はプラスの要因であり、踏圧(土壌貫入抵抗)はマイナスの要因であった(P<0.05)(表4)。林冠開空度30%以下の暗い調査区においては、耐陰性種を持つ種プール(ln最小林冠開空度が小さな種プール)で葉面積指数が大きかった(P<0.05)。踏圧耐性については、樹冠下の地表植生の葉面積指数は踏圧耐性種を含む種プール(最大貫入抵抗が大きな種プール)で大きかったが(P<0.05)、最も暗い調査区(林冠開空度10%以下)では比較的明るい他の調査区と比較してΔAICで比較した踏圧耐性の重要度が低い傾向であった。

考 察

この研究では種プールの種組成における耐陰性種の欠落が、公園の林縁や林床における葉面積指数の低下につながっていた(表4)。林冠開空度50%までの比較的明るい調査区を含めて解析対象とすると種プール耐陰性の重要度は低下するが(表4)、この場合は低耐陰性の陽地種が繁茂して高い葉面積指数となった調査区を多く含むためであろう。ΔAICで見ると踏圧耐性は比較的明るい調査区で重要だが、暗い調査区では耐陰性が相対的に重要になる(表4)。

都市の公園では樹冠下の植生であっても座ったり子供が走り回るなどの利用が行われることがあり、耐陰性種の存在が雨天直後の泥濘化や乾燥時の砂ぼこり、土壌侵食を防ぎ、雨水浸透を促進する生態系サービス(Monteiro 2017; 伊藤ほか2020)に貢献している可能性が示唆された。葉面積指数は生態系サービスの代理変数として用いられることが多いが(Xu et al 2020)、今後は植生上の座り心地などの比較研究も行うことが望ましい。

本研究で検出された耐陰性種はドクダミ、ジャノヒゲ、チヂミザサ、ヘクソカズラ、アズマネザサ、スゲ属などの在来種であり(表3)、近世の里山が残存している公園で種プールに耐陰性種を含む傾向がみられた。里山の残存と有意な関係が見られたドクダミ、ジャノヒゲ、アズマネザサ、スゲ属(図4)はいずれも地下茎や株立ちにより栄養繁殖する多年草で、種子散布を通常は行わないアズマネザサや、重力散布と考えられるドクダミ、アリなどで散布されるスゲ属(Handel 1978; Kjellsson 1991; Tanaka and Tokuda 2016)など種子散布距離が短いと考えられる。ヘクソカズラやジャノヒゲは鳥類により被食散布され(飯島・佐合2005; 高槻2023)、チヂミザサは哺乳類などに付着して散布されると考えられるが、移動能力が高い鳥類による被食散布により個体群が移住できる距離は樹木種であっても300m程度であり(Komuro and Koike 2005)、市街地に囲まれて孤立した緑地間の移住は容易でない。そのため公園内の樹冠下における生態系サービスを向上させるためには耐陰性が高い在来種を含む種プールが重要であり、公園のリノベーションや造成に当たっては、在来の耐陰性種が消失しないよう園内の歴史的里山を保全したり、やむを得ない場合は表土をブロックとして保全する工法(中村ほか2019)を採用するなどの対応が求められる。

種プールの踏圧耐性も公園の地表植生の葉面積指数にとって重要であった(表4)。先行研究(前中・大窪1986)で踏圧耐性の指標とされた種は、本研究においてシロツメクサ以外はいずれも最大貫入抵抗18.0 kg cm-2以上であり(表3)、種の踏圧耐性の評価はほぼ整合していた。前中・大窪(1986)は踏圧がかかる都市公園芝地を自然の野草を利用して管理することを提案している。本研究の結果からは、良好な伝統的草地であるススキ・クラスに出現し(宮脇 1986)、かつ踏圧耐性が高い種としてアズマネザサと野生シバ類の利用が推奨される。公園のリノベーションや造成に当たってススキ・クラスの半自然草地を破壊せず、在来の種プールを活用して草地を保全・誘導し、都市公園の芝地として利用するための実現可能性試験が望まれる。

謝 辞

横浜国立大学の教員と学生の皆様には様々な機会に議論していただいた。感謝したい。

著者情報

ORCID iD 

Fumito Koike https://orcid.org/0000-0002-6588-6485

付 録

付録1 コード1。Gumbel分布による極値統計のためのStanプログラム。

付録1 コード2。里山が残存する公園と残存しない公園における種プールとしての生態特性を比較するためのStanプログラム。

付録1 コード3。 里山が残存する公園と残存しない公園における種の調査ラインへの出現確率を比較するためのStanプログラム。

付録2 表1。調査データ。

表1 調査対象の公園。迅速測図は近代初期の土地利用を示し、樹林と水田や畑が入り交じった景観を里山とした(歴史的農業環境閲覧システム https://habs.rad.naro.go.jp/、2022年7月15日確認)。

公園 市区 面積(m2) 公開年 地形 迅速測図 公園種別等 調査ライン数
磯子・海の見える公園 横浜市 8 306 2007 人工地盤 海面 近隣 4
久良岐公園 横浜市 230 762 1973 丘陵地 里山 総合 6
富岡総合公園 横浜市 219 208 1975 丘陵,埋立地 里山,海面 総合 6
豊洲公園 江東区 24 303 2006 埋立地 海面 近隣 6
木場公園 江東区 238 711 1992 三角州 貯木場水面等 総合 4
亀戸中央公園 江東区 103 027 1980 三角州 平地水田 総合 9
南本宿公園 横浜市 49 790 2019 丘陵 里山 地区 5
港南台中央公園 横浜市 41 400 1980 丘陵 里山 地区 3
こども自然公園 横浜市 464 118 1972 丘陵 里山 広域 15
港南台西公園 横浜市 26 016 1983 丘陵 里山 近隣 2
根岸森林公園 横浜市 193 102 1977 丘陵 畑,競馬場 総合 8
四季の森公園 横浜市 453 000 1988 丘陵 里山 風致 18

表2 里山を含む公園と含まない公園(表1)において、各調査ラインで測定された林冠開空度の最小値(%)と、土壌貫入抵抗(kg cm-2)の最大値。

環境値 里山を含む公園 里山を含まない公園
林冠開空度のライン最小値
中央値 13 10
第1四分位 9 6
第3四分位 17.5 18
土壌貫入抵抗のライン最大値
中央値 18 18
第1四分位 12.5 14
第3四分位 21 20

表3 極値統計により5調査ラインに出現したときの最小林冠開空度として推定した耐陰性と、最大の土壌貫入抵抗として推定した踏圧耐性。最小林冠開空度は-ln(開空度)に変換してから計算したパーセンタイル値を逆変換して記載しているため、四分位範囲に相当するものとして第1四分位/第3四分位の比を示す。最小林冠開空度が小さい種で耐陰性が高く、最大貫入抵抗が大きい種で踏圧耐性が高い。

最小

林冠開空度(%)

最大

貫入抵抗(kg cm-2)

中央値 第1四分位 第3四分位 第1四分位/第3四分位 中央値 第1四分位 第3四分位 四分位範囲
ドクダミ  Houttuynia cordata Thunb. 6.3 8.6 4.2 2.0 10.4 10.0 10.8 0.9
ジャノヒゲ  Ophiopogon japonicus (Thunb.) Ker Gawl. 6.6 7.6 5.6 1.4 14.4 13.2 15.7 2.6
チヂミザサ  Oplismenus undulatifolius (Ard.) Roem. et Schult. 6.8 8.8 5.3 1.6 11.5 10.5 12.7 2.2
ヘクソカズラ  Paederia foetida L. 7.7 10.9 5.0 2.2 15.7 13.8 19.1 5.3
アズマネザサ  Pleioblastus chino (Franch. et Sav.) Makino 7.9 9.3 6.6 1.4 21.4 18.5 25.1 6.6
スゲ属Carex spp. 8.4 10.2 6.5 1.6 13.8 12.8 14.8 2.0
木本幼樹 Woody saplings 8.9 10.8 6.5 1.6 10.9 9.9 12.8 2.9
シバ類 Dwarf turf grasses 9.9 10.8 9.2 1.2 19.8 19.3 20.4 1.1
ハマスゲ  Cyperus rotundus L. 10.3 17.2 5.1 3.4 20.0 17.2 23.9 6.7
ウラジロチチコグサ  Gamochaeta coarctata (Willd.) Kerguelen 11.9 13.7 10.0 1.4 15.3 14.3 16.3 2.0
タンポポ属  Taraxacum spp. 11.9 13.4 10.2 1.3 15.7 14.8 16.7 1.9
ヤブヘビイチゴ  Potentilla indica (Andrews) Th.Wolf 12.0 17.4 7.1 2.4 14.9 13.2 18.2 5.0
カタバミ  Oxalis corniculata L. 12.5 13.9 10.9 1.3 13.0 12.4 13.7 1.3
オオアレチノギク  Erigeron sumatrensis Retz. 14.7 18.3 10.9 1.7 13.6 12.0 15.2 3.2
オオバコ  Plantago asiatica L. 15.7 17 14.4 1.2 18.8 18.1 19.4 1.3
コナスビ  Lysimachia japonica Thunb. 15.9 19.4 12.2 1.6 10.0 9.3 10.9 1.6
スズメノカタビラ  Poa annua L. 17.7 19.4 16.0 1.2 18.3 17.5 19.1 1.6
コメツブツメクサ  Trifolium dubium Sibth. 18.8 23.2 14.1 1.6 10.4 9.7 11.2 1.5
スズメノヒエ属  Paspalum spp. 19.2 27.3 10.8 2.5 30.9 25.2 39.6 14.4
ヘビイチゴ  Potentilla hebiichigo Yonek. et H.Ohashi 21.4 23.7 18.8 1.3 12.5 11.9 13.3 1.4
オオイヌノフグリ  Veronica persica Poir. 21.7 25.4 17.4 1.5 13.8 12.6 15.2 2.5
シロツメクサ  Trifolium repens L. 22.3 23.7 20.6 1.2 15.7 15.2 16.3 1.1
ハルジオン  Erigeron philadelphicus L. 22.8 28.7 16 1.8 18.5 16.4 21.8 5.4
ニワゼキショウ  Sisyrinchium rosulatum E.P.Bicknell 24.2 29.8 18.6 1.6 11.1 10.0 12.4 2.5
オヒシバ  Eleusine indica (L.) Gaertn. 26.4 29.8 22.1 1.3 21.9 18.0 28.9 10.8
クサイ  Juncus tenuis Willd. 27 30.1 23.7 1.3 15.5 14.2 17.5 3.3
メヒシバ  Digitaria ciliaris (Retz.) Koeler 27.8 34.3 20.4 1.7 18.8 16.3 21.2 4.9
チドメグサ Hydrocotyle sibthorpioides Lam. 37.2 41.9 31.7 1.3 12.1 10.7 13.7 3.0

表4 調査区の葉面積指数に対する物理的環境と、種プールの生態特性の効果。調査区の林冠開空度は葉面積指数を測定した50cm調査区の林冠開空度を自然対数変換して用いた。種プールの耐陰性は調査ラインに出現した種の中で最も耐陰性が高い種の値を自然対数変換して用いた。耐陰性は種が出現し得る最小の林冠開空度であるため値が小さいほど耐陰性が高い。ΔAICは全変数を含むモデルと当該変数のみを除いたモデルとのAICの差である。

データセットと変数 推定値 ΔAIC
林冠開空度50%以下(450調査区)
  切片 2.31**
  調査区の林冠開空度 0.598** 2234
  調査区の踏圧 -0.0711** 2586
  種プールの耐陰性 -0.0671 2
  種プールの踏圧耐性 0.0240** 39
林冠開空度30%以下(230調査区)
  切片 4.02**
  調査区の林冠開空度 0.346** 199.6
  調査区の踏圧 -0.0869** 1314
  種プールの耐陰性 -0.703** 136.5
  種プールの踏圧耐性 0.0465** 33.6
林冠開空度10%以下(41調査区)
  切片 2.80**
  調査区の林冠開空度 1.24** 118.2
  調査区の踏圧 -0.134** 331
  種プールの耐陰性 -1.33** 118.2
  種プールの踏圧耐性 0.0983* 4.2

**P<0.01, *P<0.05

図1 (a) 夏の昼に樹林の林縁で休憩する人々。(b) 公園内に里山が残存しない貯木場埋立地(木場公園)における林縁の草本群集。

図2 種プールの模式図。生態特性で張られた空間(生態特性空間)の中に種が配置されている。種の数の多さが多様性であり、分布の広がりの幅が機能的多様性である(Spasojevic et al 2018)。分布全体を矩形、凸包、密度分布などで表現することで種プールの位置と広がりを定量化できる。なお優占度で荷重平均した種特性値(community-weighted mean functional traits)(Valencia et al 2015など) は群集の特性であり種プールの特性ではない。

図3 耐陰性(左)と踏圧耐性(右)を求めるための極値統計グラフ。ひとつの折線がひとつの種に対応し、サンプルが多ければグラフが長くなり、少なければ短くなる。この図ではグラフが右寄りにある種で耐陰性や踏圧耐性が高い。累積Gumbel分布を直線にプロットする手法であり、直線に近ければGumbel分布を利用できる(Gumbel 1954)。

図4 里山を含む公園と含まない公園(表1)における、調査ラインへの耐陰性植物(表3、最小林冠開空度<9%)の出現確率。出現確率の公園平均値の頻度分布の中央値と95%範囲を示す。*P<0.05。

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