The Journal of The Japan Pediatric Association
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Original Paper
Background and infection route of pediatric COVID-19 in a primary clinic
Kenji Miyata[in Japanese]
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2023 Volume 66 Pages 138-140

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Abstract

【目的】新型コロナウイルス感染症の患者背景や臨床的特徴を検討したため,報告する。

【方法】2020年10月から2023年3月に当院の発熱外来に受診し,抗原定性検査にて新型コロナウイルス感染症と診断された患者を対象に,患者背景について後方視的に検討した。

【結果】対象は167例であった。年齢別では,1歳未満の乳児が13%,1~5歳の幼児が47%,6~12歳の学童が35%,13~15歳が5%であった。感染経路は家庭内が最も多く64%,保育園・幼稚園・学校などの家庭外が14%,感染経路不明が22%であった。家庭内感染は家庭外と比べ,有意に高かった(64% vs 14%, p < 0.01)。症状は発熱が最も多く84%,咳・鼻汁・鼻閉などの上気道症状は57%,下痢・嘔吐・腹痛などの消化器症状は14%,上気道・消化器症状をともに認めた症例は5%,無症状は1%であった。上気道症状は消化器症状と比べ,有意に高かった(57% vs 14%, p < 0.01)。

【結論】感染経路は家庭内が多く,保育園・幼稚園・学校など家庭外での感染拡大の関与は限定的であった。

はじめに

新型コロナウイルス感染症は2019年12月に中国の武漢市で発生が報告され,その後世界中に感染が拡大した感染症である。本邦では2020年1月に国内初感染が報告され,以後はアルファ株,デルタ株,オミクロン株へと変異しながら,感染拡大が見られたが,ワクチンの普及やマスク着用,手洗い消毒の徹底などにより,感染拡大は落ち着きつつある1)。新型コロナウイルス感染症の診断には抗原検査とpolymelase chain reaction(PCR)などの拡散増幅検査が行われているが,抗原検査はPCR検査との陽性陰性一致率が高いため,抗原検査が陽性であればPCR検査をせずとも確定診断をしてもよいとされている2)。また,新型コロナウイルス感染症の世界的な流行によって,本邦では2020年2月27日に全国の学校に休校措置が要請され,同年5月25日に緊急事態宣言が全国で解除されるまでの約1ヶ月にわたり,自粛生活を余儀なくされた。インフルエンザ流行に対しては有効性がある程度認められている休校措置だが,新型コロナウイルス感染症については,いまだ不明な点が多い。また,これまで病院小児科での患者背景に関する報告はあるが3),一般小児科クリニックにおける報告は少ない。

そこで今回われわれは,抗原定性検査を用い,過去2年半に当院を受診した15歳以下の新型コロナウイルス感染症患者167例を,診療記録から患者背景,感染経路,症状などについて後方視的に検討した。

対象と方法

対象は2020年10月から2023年3月までに当院を受診した15歳以下の小児患者の中で,抗原定性検査で新型コロナウイルス感染症と診断された167例を対象に医療記録から後方視的検討を行った。新型コロナウイルスの院内感染防止目的に発熱患者,もしくは濃厚接触者は,検査・診療するスペースとして,プレハブ工法のドーム型ブースを設置し,診療を行った(図1)。性別,年齢,感染時期,ワクチン接種の有無,感染回数,感染経路,症状などについて検討した。臨床データの利用,公表については,院内での研究説明を行い,同意が得られた。統計的検討はカイ二乗検定を行い,統計学的解析はEZR version 1.34を使用した。

図1 

プレハブ工法のドーム型ブースの外観

結果

患者背景を表1に示す。研究期間内に当院を受診し,新型コロナウイルス感染症と診断された患者は167例であった。性別は男性が49%であった。年齢中央値は5歳(生後1ヶ月~15歳)であり,年齢分布は1歳未満の乳児が13%,1~5歳の幼児が47%,6~12歳の学童が35%,13~15歳が5%と,1~5歳,6~12歳が比較的多かった。感染時期は第6波が33/167例(19%),第7波が68/167例(41%),第8波が66/167例(40%)であった。ワクチン接種は8/167例(5%)であり,大部分が未接種であった。接種者のうち1回が1例,2回が6例,3回が1例であった。感染回数は1回が164/167例(98%)と大部分であり,2回が3/167例(2%)であった。2回感染した3例はいずれもワクチン未接種であった。感染経路を図2に示す。感染経路は家庭内が最も多く64%,保育園・幼稚園・学校などの家庭外が14%,感染経路不明が22%であった。家庭内感染は家庭外と比べ4.7倍と有意に高かった(64% vs 14%, p < 0.01)。初診時の臨床症状を図3に示す。症状は発熱が最も多く84%,咳・鼻汁・鼻閉などの上気道症状は57%,下痢・嘔吐・腹痛などの消化器症状は14%,上気道・消化器症状をともに認めた症例は5%,無症状は1%であった。上気道症状は消化器症状と比べ4.1倍と有意に高かった(57% vs 14%, p < 0.01)。

表1 

新型コロナウイルス感染症患者の臨床背景

項目 症例数 (%)
総数 167 100
年齢
0歳 23 13
1~5歳 79 47
6~12歳 58 35
13~15歳 7 5
感染経路
家庭内 108 64
保育園・幼稚園・学校 23 14
感染経路不明 36 22
症状(重複あり)
発熱 141 84
上気道症状 95 57
消化器症状 23 14
上気道・消化器症状 8 5
無症状 2 1
図2 

感染経路別による新型コロナウイルス感染者割合

図3 

症状別による割合

考察

今回われわれは小児科一次クリニックにおける新型コロナウイルス感染症の検討を行った。受診時年齢は1~5歳,6~12歳が比較的多かったが,日本小児科学会の「データベースを用いた国内発症小児Coronavirus Disease 2019(COVID-19)症例の臨床経過に関する検討」でも,ほぼ同様の年齢分布を示していた4)。感染時期に関して,当院で初めて感染が確認されたのは第6波(2022年1~6月)であったが,ほとんどの患者がワクチン未接種であった事と,オミクロン株の免疫回避能により5),第7波(2022年7~10月)と第8波(2022年11月~)で感染者数が急増したと考えられた。感染回数に関しては,ほとんどが1回であったが,3例で2回感染が確認された。3例とも初感染から3ヶ月以上経過した後の感染であった。新型コロナウイルス感染後の獲得免疫による抗体は3~6ヶ月で消失すると言われているため6),既報と矛盾しない結果であった。感染経路は家庭内が保育園・幼稚園・学校といった家庭外に比べ有意に高い結果となった。日本小児科学会の「データベースを用いた国内発症小児Coronavirus Disease 2019(COVID-19)症例の臨床経過に関する検討」でも,家族内が77%,学校関係者が6%,幼稚園・保育所関係者が6%,家庭教師・塾関係者が1%と約80%が家庭内での感染であった。さらに,家庭内感染のうち,両親や祖父母が先行感染者であった割合が約93%と,小児患者の大部分が成人からの感染であったことが示唆された4)。また,Imamuraらも,小児の感染は主に家庭内で起きており,保育園・幼稚園・学校など家庭外での感染伝播を起こす頻度は低いと報告している7)。Cheeらも同様の報告をしているが,その理由として,呼吸器症状のある子供たちは,症状発現を認めた初日から学校に行かせないようにすることが,COVID-19の感染拡大防止に効果的であったのではないかと報告している8)。これらの既報と今回の結果から,学校の休校措置は慎重に判断する余地があると考えられた。小児における新型コロナウイルス感染患者の臨床症状は,アメリカ疾病予防管理センターが,小児の新型コロナウイルス患者の症状頻度を報告している。発熱は56%,咳嗽などの上気道症状は54%,腹痛・下痢などの消化器症状は24%であったと報告している9)。当院ではほとんどが発熱患者を対象にしているため,発熱割合が既報よりも多かったと考えられた(選択バイアス)。上気道,消化器症状の割合については,既報とほぼ同様の結果であった。

おわりに

小児科一次クリニックにおける新型コロナウイルス感染症の患者背景に関する検討を行った。小児の感染経路は家庭内が多く,家庭外での感染頻度は低かった。小児の感染対策において,成人が家庭内に持ち込まないことが重要であると考えられた。

利益相反

日本小児科医会の定める利益相反に関する開示事項はありません。

著者役割

宮田憲二は論文の構想,設計,データの収集,解析および解釈において貢献した。金森あかねは論文作成または重要な知的内容に関わる批判的校閲に関与した。

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