2025 Volume 12 Pages 5-23
As machine translation becomes increasingly prevalent among English language learners, its potential impact on learning outcomes requires careful examination. While it is still too early to fully assess the long-term effects on students' academic performance and English proficiency, there is a need to explore the relationship between the use of machine translation and its underlying factors. Previous research indicates that learners who exhibit high self-efficacy and have specific learning objectives tend to adopt strategies that involve deeper cognitive processing, which eventually leads to higher academic performance. This study examines the effects of self-efficacy and learning objectives across four key dimensions to assess machine translation usage behavior. Usage frequency serves as an indicator of introduction of a machine translator, while perceived benefits reflect the orientation of its usage. Additionally, editing behavior and the number of words input into the machine translator are analyzed to gauge the level of cognitive processing involved. The findings suggest that self-efficacy significantly influences usage frequency and perceived benefits among learners with low self-efficacy, whereas learning objectives have a stronger impact on those with high self-efficacy. Furthermore, those with high self-efficacy showed the tendency to choose the usage behavior which involves a deeper level of processing.
無料の機械翻訳がオンラインで使用できるようになり,学習者も授業内外で使用している様子が散見される。使用実態調査を行った先行研究を見ると,9割以上の学習者が機械翻訳を使用したことがあるとわかる (佐藤, 2024; 瀧本, 2023; 南部, 2023; 弥永, 2022; Clifford, et al., 2013; O’Neil, 2019)。ほぼ全ての学習者が何らかの形で使用しているようだが,機械翻訳は使い方次第で学習に役立つツールにも妨げにもなりうる。学習した内容が定着するかどうかは学習方略の処理水準の深さの影響を受け,学習方略の選択という行動を制御するのは心理的要素である。このことから,先行研究において学習方略の選択との関連が示されている,学習目的と自己効力感といった心理的要素は機械翻訳使用時に動員する認知負荷量を含む使用方法に影響することが予測される。しかしながら,英語学習における心理的要素と機械翻訳使用の関連を検証した研究は限られており,その関係は明らかになっていない。そこで本稿では,英語学習に対する自己効力感及び英語学習目的が機械翻訳の使用方法とどのように関連するかを明らかにしたい。
Craik and Lockhart (1972) は処理水準仮説において,深い認知処理,つまり,分析や意味のある思考を伴う場合は記憶に残りやすいとしている。この仮説に基づけば,採用する学習方略の処理水準の深さが学習成果を予測する可能性が考えられる。実際,河合他 (2024) は薬学,鈴木 (1999) は理科,廣瀬他 (2012) は数学,堀野・市川 (1997) は英語,西村他 (2011) は学習全般に関して検証し,いずれも処理水準が深い学習方略が学習成績に好影響を与えることを示している。
2.2 学習目的,自己効力感と学習観,学習方略篠原 (2020) は大学生を対象に質問紙調査を行い,授業受講目的の学習に対する影響を検証した。単位取得を目的とした学習者は,練習量志向,丸暗記志向,結果重視志向,他者依存志向が強く,課題を提出しさえすればよいと考える傾向が強いことが明らかになった。一方で,知識・応用力の習得を目的とした学習者は,方略志向,意味理解志向,思考過程志向,失敗活用志向が強く,課題の質を良いものにしたいと考える傾向が強いことが明らかになった。このことから前者は深い認知処理を要しない方略を用いて最小限の努力で単位取得という目的を達成したいと考えているのに対し,後者は自分で考え,理解し,結果にたどり着く過程で知識やスキルを身につけることを期待していると言えるだろう。つまり,学習目的が学習の際に動員する認知処理の深さをある程度規定すると言える。
自己効力感とはBandura (1977) が提唱した概念で,自身が特定の行動を取ることができるかどうかに関する自信の度合いを意味し,自己効力感と学業成績の間には相関があることが示されている (松沼, 2004; Caprara et al., 2011; Multon et al., 1991; Pajares & Miller, 1994; Pintrich & De Groot, 1990; Siegel et al., 1985)。自己効力感があれば,当該行為に対して前向きになることができ,行動に移すことができる。その結果,能力も向上し,自己効力感も高まるという好循環が生じる。学習に対する自己効力感と学習成績を介在するものとして学習方略があるが,自己効力感が高いほど高次の認知方略を使用することが明らかになっている (Pintrich & De Groot, 1990)。森 (2004) も同様に,自己効力感が高い学習者ほど使用する学習方略の数が多く,熟考方略 (メタ認知的学習方略) を使用すると報告している。李 (2002) によると,自己効力感が高い学習者ほど自律的,協力的,競争的な学習様式を持っているとしている。これらの先行研究をまとめると,自己効力感が高い学習者はより自律的で処理水準の深い学習を行う傾向があると言える。
以上のように学習目的と自己効力感は,主に認知処理水準において,学習観や採用する学習方略と関連が見られることが示されている。英語学習における機械翻訳の使用においても,抽出された翻訳を鵜呑みにするのではなく,自身の思考を働かせる機会が多いほど深い処理を要することになる。以上のことから,学習目的と自己効力感は機械翻訳の使用方法にも影響する可能性が考えられ,長期的には英語授業の成績あるいは英語力にも影響することが予測される。
2.3 機械翻訳使用と心理的側面機械翻訳の使用と心理的側面の関連を検証した先行研究は限られているが,これらは心理的要因が機械翻訳使用に与える影響 (弥永, 2022; Li, Zhang & Yang, 2024),逆に機械翻訳が心理面に与える影響 (石川, 2023; 小田, 2022; 佐藤, 2024; 横野, 2023) に分けることができる。弥永 (2022) は,大学生を対象として,動機づけによる機械翻訳使用頻度の違いを検証した。その結果,統計的な処理は行われていないものの,英語学習に対する動機づけは使用頻度ではなく,使い方に影響する可能性に言及している。Li, Zhang and Yang (2024) は,コンピューターサイエンスに対する自己効力感は,動機づけ及び認知的エンゲージメントを介して機械翻訳使用の意図に影響を与えるとしている。
逆に機械翻訳が心理面に与える影響を検証した研究として,石川 (2023) は中高生を対象にアンケート調査を行い,約7割から機械翻訳が普及しても英語学習を継続するとの回答を得た。継続の如何は,現時点で英語に対して抱いている印象,好きかどうか,得意かどうか,意欲の強弱と相関していた。佐藤 (2024) は,機械翻訳普及後の英語学習の必要性を大学生に問い,約8割から必要であるとの回答を得た。その意向は習熟度によって違いが見られ,習熟度上位群 (CEFR B2レベル) は機械翻訳普及後も英語学習に積極的な傾向,中位群 (CEFR A2レベル) は学習意義は低下すると考える傾向,下位群 (CEFR A1レベル) は影響を受けない傾向が見られた。小田 (2022) は,一般教養としての英語科目を受講する大学生を対象に機械翻訳が英語学習意欲に与える影響を調査し,約半数から変わらないとの回答を得,残りの半数については向上したとの回答の方が僅かに上回った。横野 (2023) は,調査対象者を英語専攻の学習者に替えて小田 (2022) の再現研究を行い,海外の学生とオンラインで交流しているゼミ生7割から機械翻訳使用によって学習意欲が向上したとの回答を得た。
以上のように,機械翻訳と心理的側面の関連を検証した研究の多くは機械翻訳の普及が英語学習に対する意識に与える影響を検証しており,心理的要因が機械翻訳の使用方法に与える影響について検証した先行研究は少ない。先行研究に見られるように,学習目的及び自己効力感は学習方略や学習観に影響を与え,ひいては学習成績にも影響を与えうる重要な要因である。そのため,学習目的と自己効力感が機械翻訳の使用方法に与える影響を検証することは,突き詰めれば機械翻訳の学習効果を予測することにも役立つだろう。機械翻訳使用の影響が英語成績あるいは英語力に明確に表れるまでには時間を要するため別稿に譲ることとし,本稿では機械翻訳使用方法を検証するに留める。
本稿では,学習観や学習方略の選択に影響を与えると言われている,自己効力感と学習目的が機械翻訳の使用方法にどのように関連するかを明らかにすることを目的とする。具体的には以下の2つの問に対する答えを明らかにする。
1) 英語学習に対する自己効力感によって,機械翻訳の使用方法 (使用頻度,期待するメリット,操作,入力単位) はどのように異なるのか。
2) 英語学習に対する自己効力感及び学習目的は機械翻訳の使用方法とどのように関連するのか。また,それは自己効力感によってどのように異なるのか。
本調査は日本国内の私立大学において,英語を主専攻とせず必修教養科目としての英語科目を受講している1年生36名,2年生43名の学習者を対象とした。学生はそれぞれ異なる教員が担当するWriting / Reading及びSpeaking / Listeningのクラスを各週1回ずつ受講することになっており,本調査は両学年とも筆者が担当する後者の授業内で行われた。回答に先立って,本調査への協力は任意であり,拒否しても不利益が生じないこと,取得したデータは個人を特定できない形で保管,使用する旨を説明し,同意を得た。なお,調査協力者全体の英語力の平均はCEFR A2程度であった。また,本調査に先立ち,調査協力者を対象に機械翻訳使用に関する指導は施されていない。
4.2 手続き質問紙調査は授業内で実施し,調査協力者のスマートフォンを使用してGoogle フォームから回答させた。なお,回答には約15分を要した。
4.3 材料質問紙は,I. 属性 (3項目) を含む4セクションで構成されていた (付録)。II. 自己効力感 (8項目) は日本の英語教育の分野で最も使用されている松沼 (2006) を採用し,全く当てはまらない (1) ~ とても当てはまる (6) の6件法で回答させた。III. 英語学習目的は,先行研究 (藤田, 2020; ペニントン, 2012; 牧野・平野, 2015) 1を参考に8個選択肢を用意し,複数回答可で選択させた。IV. 機械翻訳使用に関する質問群は,活用度を測定する基準として ①使用頻度 (2技能×3場面),使用意図の方向性を測定する基準として ②機械翻訳に期待するメリット (選択肢11個),処理水準に基づく基準として ③機械翻訳使用時の操作 (選択肢3個) 及び ④入力単位 (2技能×選択肢6個) を用意した。IV ①使用頻度に関しては,毎回使う,ほぼ毎回使う,時々使う,あまり使わない,滅多に使わない,全く使わない,そもそも(英語課題で英文を読むなどの)その行為を行わないの7つの選択肢を用意した。IV ②期待するメリット及び ③操作については,複数回答可とし,IV ④入力単位は1つ選ばせた。
4.4 分析方法以降の検証では,IV. ①使用頻度については頻度が高い順に,毎回使う (6) ~ 全く使わない (1),そもそもその行為を行わない (0) のように数字を付与して検証した。選択肢を用意した質問項目 (英語学習目的,期待するメリット,操作,入力単位) については選択肢ごとに,選択していたら1,選択していなかったら0のダミー変数を付与した上で分析した。項目同士の相関を検証するにあたり,一方が間隔尺度である場合は点双列相関係数としてピアソンの相関係数の算出が可能であることから (平井, 2015) ピアソンの相関係数の算出を試みたが,データが正規分布していなかったためスピアマンの相関係数を求めた。なお,名義尺度同士の関連を検証する際はχ2乗検定を用いた。
調査対象者全体の自己効力感 (以下,SE) の平均値は2.82 (SD = 0.86) であった。平均値でSE高低群 (表中では高群はH,低群はL) に分けたところ,SE高群 (n = 40) のSE平均値は3.53 (SD = 0.43),SE低群 (n = 39) は2.10 (SD = 0.52) であった。各群の平均値に有意差があるかどうかを対応なしのt検定で検証したところ,p < .001でSE高群の方が有意に自己効力感が高いという結果になった。なお,内訳は,SE高群は1年生11名,2年生29名,SE低群は1年生25名,2年生14名であった。以降の検証はSE高低群に分けて行う。
5.1.2 英語学習目的英語学習目的に関して,選択肢ごとに各学習目的を選んだ学習者の割合を算出した (表1)。記述統計を見ると,単位取得においてのみSE低群がSE高群を上回っているが,他のすべての項目において逆の傾向が見られた。各項目に関して,SE高低群間において有意な差があるか検証するために対応のないt検定を行った。その結果,日常会話程度 (p = .02) 及びTOEIC (p = .01) の項目において,SE高群のほうが統計的に有意に高いという結果になった。英語が好き (p = .05) も同様にSE高群の方が有意に高い傾向が見られた。また,単位取得については (p < .001 ) でSE低群の方が有意に高かった。すなわち,自己効力感が高い学習者は英語が好き,日常会話を身につけたい,あるいはTOEICのためという理由で学習しているのに対し,自己効力感が低い学習者は単位取得のために学習している傾向が強いと言えるだろう。
| 英語が好き | グローバル社会 | 日常会話程度 | TOEIC | 学術論文 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| H | L | H | L | H | L | H | L | H | L | |
| M | 0.20 | 0.05 | 0.35 | 0.18 | 0.55 | 0.28 | 0.35 | 0.10 | 0.05 | 0.00 |
| SD | 0.41 | 0.22 | 0.48 | 0.39 | 0.50 | 0.46 | 0.48 | 0.31 | 0.22 | 0.00 |
| 新聞やWeb | 単位取得 | 教養 | |||
|---|---|---|---|---|---|
| H | L | H | L | H | L |
| 0.10 | 0.03 | 0.53 | 0.85 | 0.23 | 0.15 |
| 0.30 | 0.16 | 0.51 | 0.37 | 0.42 | 0.37 |
SE高低群に分けて,機械翻訳使用頻度を検証する (表2)。機械翻訳使用頻度に関する質問は,2技能 (読む・書く) × 3場面 (英語課題・専門課題・個人) の6項目で構成されていたが,分析の際に技能別,場面別に平均値を算出した。記述統計上は全ての項目においてSE低群の方が僅かに上回っているが,対応なしのt検定を行った結果,いずれの項目においても2群間に差がないという結果になった。さらに,技能間の平均値を比較すると,読む (M = 3.89, SD = 0.98),書く (M = 3.98, SD = 1.05) であり,t検定の結果有意な差はないという結果になった。同様に,場面間の平均値を比較すると,英語課題 (M = 4.21, SD = 0.73),専門課題 (M = 3.78, SD = 1.57),個人 (M = 3.80, SD = 1.67) となり,一元配置分散分析を行ったところ,有意差がある場面はなかった。すなわち,使用頻度は自己効力感の高低群間,技能間,場面間で差がなかった。
| 読む | 書く | 英語課題 | 専門 | 個人 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| H | L | H | L | H | L | H | L | H | L | |
| M | 3.74 | 4.03 | 3.97 | 4.00 | 4.10 | 4.32 | 3.77 | 3.79 | 3.69 | 3.91 |
| SD | 0.91 | 1.04 | 0.84 | 1.25 | 0.65 | 0.80 | 1.48 | 1.68 | 1.38 | 1.95 |
注.毎回使う (6) ~ 全く使わない (1),そもそもその行為を行わない (0)
機械翻訳に期待するメリット全11個の選択肢に関して,SE高低群に分けて平均値を表3に示した。記述統計を見る限り,選択肢によってばらつきがあるもののSE高低群間の差異はそれほど大きくない。総じて語彙の学習への期待が高く,時短が続いた。各選択肢に関して,SE高低群間で統計的に有意な差があるかを対応なしのt検定を用いて検証したところ,有意差が認められる選択肢はなかった。
これら11個を自身の学習に対するメリット (5項目),課題に対するメリット (3項目),心理的メリット (3項目) に分類し,平均値を算出した (表4)。群間の比較としては,記述統計上は学習においてのみSE低群が僅かに上回っていたが,対応なしのt検定においてはいずれの項目においても有意な差は見られなかった。また,各分類の調査対象者全体の平均値は学習 (M =1.73, SD = 1.40),課題 (M = 0.80, SD = 0.98),心理 (M = 0.91, SD = 0.85) であり,一元配置分散分析の結果,学習が他の2分類よりも有意に高い (p < .001) ことがわかった。一方でSE高低群間の有意差は認められなかった。以上のことから,学習者全体に機械翻訳を学びに活かそうという意思が見られるが,自己効力感による差はないことがわかった。
| 学習 | ||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 語彙・正確 | 語彙・増 | 文法・正確 | 文法・増 | 自然 | ||||||
| H | L | H | L | H | L | H | L | H | L | |
| M | 0.53 | 0.51 | 0.53 | 0.56 | 0.28 | 0.21 | 0.25 | 0.28 | 0.10 | 0.23 |
| SD | 0.51 | 0.51 | 0.51 | 0.50 | 0.45 | 0.41 | 0.44 | 0.46 | 0.30 | 0.43 |
| 課題 | 心理 | ||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 語彙・正確 | 文法・正確 | 自然 | 時短 | 自信 | 楽になる | ||||||
| H | L | H | L | H | L | H | L | H | L | H | L |
| 0.30 | 0.21 | 0.30 | 0.31 | 0.28 | 0.21 | 0.47 | 0.46 | 0.20 | 0.05 | 0.25 | 0.38 |
| 0.46 | 0.41 | 0.46 | 0.47 | 0.45 | 0.41 | 0.51 | 0.51 | 0.41 | 0.22 | 0.44 | 0.49 |
注.略称の詳細は付録参照。
| 学習 | 課題 | 心理 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| H | L | H | L | H | L | |
| M | 1.68 | 1.79 | 0.88 | 0.72 | 0.93 | 0.90 |
| SD | 1.27 | 1.54 | 0.94 | 1.02 | 0.83 | 0.88 |
機械翻訳使用時に行っている操作を,プリエディット (意図したとおりの英語訳が産出されるように日本語を調整する),ポストエディット (意図が正しく伝わるように英語を調整する),特に何もしないの3つから複数回答可で選ばせ,平均値を算出した (表5)。プリエディットは学習者の母語である日本語を調整するのに対し,ポストエディットは目標言語である英語を調整するため,後者のほうが処理水準が高い作業であると言えよう。群間の平均値に統計的な有意差があるかを対応なしのt検定で検証したところ,ポストエディットのみSE高群の方が有意に高く (p = .03),自己効力感が高い学習者は低い学習者よりも抽出された英文の方を修正する傾向が強いという結果になった。群内の比較では,SE低群には3選択肢間で有意差は見られず,SE高群においてはポストエディットが特に何もしないよりも有意に高かった (p < .001)。統計的に有意差がなかったものの,SE低群はポストエディットよりプリエディットが高く,SE高群は逆の傾向が見られたのは自己効力感が低い学習者の英語力への自信のなさが反映されていると言えるだろう。
| プリエディット | ポストエディット | 特に何もしない | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| H | L | H | L | H | L | |
| M | 0.40 | 0.51 | 0.63 | 0.38 | 0.17 | 0.23 |
| SD | 0.50 | 0.51 | 0.49 | 0.49 | 0.38 | 0.43 |
次に,機械翻訳を使用する際の入力単位を読む・書くに対してそれぞれ6選択肢 (単語レベル,2語以上の語句,1文単位,1段落,全文,MTを使わない) 用意し,各技能に対して1つ選択させ,平均値を算出した (表6)。入力単位が小さいほど学習者自身で考えなくてはならない部分が多いため,処理水準が深いと考えられる。全選択肢に関して対応なしのt検定を用いてSE高低群間における平均値の統計的な有意差の有無を検証したが,有意差が見られた選択肢はなかった。
記述統計を見る限り,読む際の特徴としては,SE高群においては,いずれも3割程度で僅差ではあるが,2語以上の語句の入力が最も多く,単語での入力が続いた。対して,SE低群も単語入力の割合はSE高群とほぼ同程度であったが,全文入力をする割合が単語入力に次いで多く,各約3割であった。すなわち,SE高群は成句を調べることも含め,辞書のように機械翻訳を使用するのに対して,SE低群は最小単位か完全に機械翻訳に任せるか,両極端になることが示唆された。
書く際の特徴としては,SE低群は1文単位での入力が最も多いのに対し,SE高群は単語単位での入力が最も多く,入力単位が大きくなるにつれ少なくなる傾向が見られた。このことから,書く際には自己効力感が低い学習者は文を構築する能力に不安を感じているのに対して,自己効力感が高い学習者は語彙に不安を感じている可能性がある。総じて,読む書く両方に関して,全文入力をする,すなわち完全に機械翻訳任せにする傾向は,自己効力感が低い学習者に強く見られた。対して,自己効力感が高い学習者は辞書のように機械翻訳を使用しており,より認知処理を要する使い方をしている可能性が示唆された。
| 読む | ||||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 単語 | 2語以上 | 1文 | 1段落 | 全文 | 使わない | |||||||
| H | L | H | L | H | L | H | L | H | L | H | L | |
| M | 0.30 | 0.33 | 0.33 | 0.13 | 0.15 | 0.15 | 0.10 | 0.08 | 0.13 | 0.28 | 0 | 0.03 |
| SD | 0.46 | 0.48 | 0.47 | 0.34 | 0.36 | 0.37 | 0.30 | 0.27 | 0.33 | 0.46 | 0 | 0.16 |
| 書く | ||||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 単語レベル | 2語以上 | 1文単位 | 1段落 | 全文 | 使わない | |||||||
| H | L | H | L | H | L | H | L | H | L | H | L | |
| M | 0.30 | 0.26 | 0.25 | 0.21 | 0.23 | 0.31 | 0.15 | 0.05 | 0.05 | 0.18 | 0 | 0 |
| SD | 0.46 | 0.44 | 0.44 | 0.41 | 0.42 | 0.47 | 0.36 | 0.22 | 0.22 | 0.39 | 0 | 0 |
まず,自己効力感と学習目的の相関を検証する (表7)。調査対象者全体としてはグローバル社会 (r = .34, p < .01) 及び日常会話 (r = .35, p < .01) のみが中程度の正の相関を示し,単位取得 (r = -.33, p < .01) を目指す学習者は中程度の負の相関を示した。つまり,自己効力感が高くなるほど,グローバル社会,日常会話の習得を目的として学習しているのに対し,自己効力感が低くなるほど単位取得のために学習している傾向が見られる。SE低群はグローバル社会 (r = .51, p < .001) 及び日常会話 (r =.44, p < .01) において相関が見られ,自己効力感が平均以下の学習者は自己効力感が高くなるほどこれらを目的とする傾向があることがわかった。SE高群については,教養 (r = .31, p < .05) においてのみ正の相関が見られ,自己効力感が高くなるほど教養を身につけることを目的として英語を学習していると言えるだろう。5.1.2 の結果を見ると,自己効力感が高いほど英語が好きであることが予測されたが,相関係数においてはそのような傾向は見られなかった。
| 英語が好き | グローバル | 日常>会話 | TOEIC | 学術論文 | 新聞やWeb | 単位取得 | 教養 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 全 | .20 | .34** | .35** | .22 | .17 | .12 | -.33** | .18 |
| H | .10 | .30 | .05 | .01 | .10 | .07 | -.26 | .31* |
| L | .00 | .51*** | .44** | .19 | .21 | .02 | -.28 | .25 |
* p < .05, ** p < .01, *** p < .001
自己効力感と使用頻度の相関 (表8) についても,調査対象者全体としては,自己効力感が高くなるほど英語課題及び個人的な目的での使用を控える傾向があると言えるだろう。特徴的なのは,SE高群が有意な相関を見せた項目は一つもないのに対し,SE低群は全項目と負の相関を示していることである。つまり,平均以上の自己効力感が担保されていれば,使用頻度に対して自己効力感の影響はないと言えるだろう。SE低群は全場面,技能において,自己効力感が高いほど機械翻訳を使用しない傾向があると言える。特に,英語課題 (r = -.50, p < .001),読む (r = -.40, p < .01) に関しては中程度の相関を示しており,英語課題と読む作業は,学習者が最も遭遇する場面と考えられ,そのことが相関係数が有意になった要因である可能性がある。
| 読む | 書く | 英語課題 | 専門課題 | 個人 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 全 | -.28* | -.16 | -.33** | -.19 | -.25* |
| H | -.11 | .02 | -.16 | -.08 | .02 |
| L | -.40** | -.32* | -.50*** | -.29* | -.38** |
* p < .05, ** p < .01, *** p < .001
機械翻訳に期待するメリットを3分類に分け,選択した項目数を分類ごとに算出して,自己効力感との相関を表9に示した。3分類した場合は,全体及びSE高群は自己効力感の相関が見られる項目はなかった。一方,SE低群において自己効力感と学習 (r = .29, p < .05) の間に弱い正の相関が見られた。つまり,自己効力感が平均以下の学習者は,自己効力感が高まるにつれて,機械翻訳から何かを学ぼうという意思が強くなると言えるだろう。期待するメリットについても平均以上の自己効力感が担保されている学習者は,自己効力感の影響を受けないという結果になった。
| 学習 | 課題 | 心理 | |
|---|---|---|---|
| 全 | .14 | .13 | -.01 |
| H | .14 | -.07 | -.05 |
| L | .29* | .19 | -.02 |
* p < .05
次に自己効力感と操作の相関を検証した (表10)。調査対象者全体において,自己効力感とポストエディット (r = .24, p < .05) の間に弱い相関が見られたのみであった。つまり,自己効力感が高くなるほど処理水準が深い,ポストエディットをする傾向が見られると言えるだろう。
| プリエディット | ポストエディット | 特に何もしない | |
|---|---|---|---|
| 全 | -.11 | .24* | -.10 |
| H | .07 | -.07 | -.05 |
| L | -.13 | .10 | .06 |
* p < .05
最後に自己効力感と機械翻訳使用時の入力単位について検証した (表11)。検証に際して,入力単位が小さい順に単語レベル (1) ~全文 (5) の数値を付与してスピアマンの相関係数を算出した。なお,使わないとの回答には数値を付与しなかった。読む・書くの両技能において,機械翻訳に入力する単位が小さいほど学習者自身が考える部分が多くなるため,処理水準は深くなると考えられる。全体 (r = -.23, p < .05) 及びSE高群 (r = -.33, p < .05) において,読むと弱い負の相関が見られ,自己効力感が高くなるにつれて入力単位は小さくなる,すなわち,より深い処理を要する使い方をすると言えるだろう。しかし,この傾向はSE低群には見られず,自己効力感が平均以下の学習者においては自己効力感は動員する認知処理の深さに影響しないと言えるだろう。一方,書くと相関が見られる群はなかったが,学習者は読む機会に比べて書く機会の方が少ないことが原因として考えられる。
| 読む | 書く | |
|---|---|---|
| 全 | -.23* | -.19 |
| H | -.33* | -.25 |
| L | -.22 | -.15 |
* p < .05
次に学習目的と機械翻訳の使用頻度の相関を検証する (表12)。調査対象者全体では,特に特徴的なのが英語学習目的を教養としている学習者は,全技能及び場面において負の相関を示していることである。つまり,教養を身につけるために英語を学習している学習者は,全技能及び場面において機械翻訳の使用を控える傾向があると言えるだろう。また,英語課題はグローバル社会 (r = -.35, p < .01) と日常会話 (r = -.30, p < .01) の間に負の相関が見られ,個人的な目的での使用は日常会話と負の相関が見られる (r = -.26, p < .05)。一方で,単位取得と英語課題の間には正の相関 (r = .35, p < .01) が見られる。
SE高群の傾向に関しては,日常会話は,読む (r = -.31, p < .01),英語課題 (r = -.31, p < .01) 及び個人 (r = -.40, p < .01) と負の相関が認められた。教養は読む (r = -.37, p < .01),書く (r = -.34, p < .05),英語課題 (r = -.43, p < .01) とそれぞれ中程度の負の相関が認められた。単位取得と英語課題の間には正の相関 (r = .40, p < .01) が認められた。単位取得を目的とする学習者が英語課題に対して使用頻度が高いというのは首肯できる結果であろう。教養を目的とする学習者は専門科目以外の全ての場面において,機械翻訳を使用しない傾向が見られた。日常会話を目的とする学習者は,読む,英語課題,個人的なやり取りに対する使用を控える傾向が見られるようである。
SE低群の学習目的と機械翻訳使用頻度の相関については,学習目的は英語課題に対する使用のみに影響を与えるようである。具体的には,グローバル社会 (r = -.38, p < .01) 及び教養 (r = -.32, p < .05) は,使用頻度と負の相関があるため,これらを目的と掲げている学習者は英語課題に対する使用を控える傾向が見られると言える。対して,単位取得 (r = .37, p < .01) を目的とする学習者は使用頻度が高くなるようである。このように自己効力感が低い学習者は押し並べて英語課題との関連しか見られないのは,そもそも英語課題以外に英語に触れる機会が少ないことが原因として考えられる。
総じて,教養,グローバル社会,日常会話を目的としている場合は機械翻訳の使用を控える傾向があり,特に自己効力感が高い群にこの傾向が強く見られる。一方,単位取得を目的としている場合は使用を促す傾向が見られ,自己効力感が低い群は特に英語課題に対してこの影響が強く見られた。また,自己効力感が低い学習者よりも高い学習者の方が影響が見られる学習目的が多いことから,後者の方が学習目的の影響を受ける傾向があると言えるだろう。
| 英語が好き | グローバル | 日常会話 | TOEIC | 学術論文 | 新聞や Web | 単位取得 | 教養 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 読む | 全 | -.04 | -.21 | -.22 | .11 | .00 | .12 | .08 | -.28* |
| H | -.08 | -.21 | -.31* | .26 | .05 | .20 | -.03 | -.37* | |
| L | .13 | -.18 | -.12 | .00 | .00 | .09 | .15 | -.25 | |
| 書く | 全 | .02 | -.21 | -.19 | .04 | -.11 | .07 | .19 | -.27* |
| H | -.05 | -.23 | -.27 | .13 | -.14 | .03 | .22 | -.34* | |
| L | .18 | -.17 | -.13 | -.11 | -.17 | .04 | .19 | -.24 | |
| 英語 課題 |
全 | -.09 | -.35** | -.30** | -.12 | -.16 | -.01 | .35** | -.40*** |
| H | -.12 | -.37* | -.31* | -.12 | -.21 | -.09 | .40** | -.43** | |
| L | .06 | -.38** | -.22 | -.21 | -.22 | .02 | .37** | -.32* | |
| 専門 課題 |
全 | .01 | -.10 | .00 | .01 | .07 | .16 | .05 | -.23* |
| H | .00 | -.21 | -.14 | .08 | .13 | .21 | .05 | -.15 | |
| L | .05 | -.06 | .11 | -.06 | .16 | .23 | .09 | -.19 | |
| 個人 | 全 | -.09 | -.22 | -.26* | .03 | -.10 | .04 | .19 | -.22* |
| H | -.18 | -.25 | -.40** | .17 | -.12 | .08 | .15 | -.31* | |
| L | .12 | -.19 | -.14 | -.08 | -.16 | -.03 | .20 | -.24 |
* p < .05, ** p < .01, *** p < .001
次に機械翻訳に期待するメリットを3分類し,各分類内で選択した項目の総数と学習目的の相関を検証した (表13)。学習以外の2分類についてはいずれの学習目的とも相関が見られなかった。全群において学習に対するメリットと相関が見られた目的はグローバル社会 (全: r = .28, p < .05, H: r = .34, p < .05, L: r = .28, p < .05) であった。つまり,グローバル社会だから英語を学習している人は自身の英語力に寄与することを期待して機械翻訳を使用していると言える。特に自己効力感が高い学習者については,日常会話 (r = .43, p < .01) 及び教養 (r = .40, p < .01) との相関も見られ,これらの目的を持っている学習者は機械翻訳の使用が自身の学習に寄与することを期待していると言えるだろう。総じて,自己効力感が高い学習者は機械翻訳から学ぼうという意思が学習目的の影響を受ける傾向が見られるのに対し,自己効力感が低い学習者は学習目的の影響を受けにくいと言えるだろう。
| 英語が好き | グローバル | 日常会話 | TOEIC | 学術論文 | 新聞やWeb | 単位取得 | 教養 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 学習 | 全 | .21 | .28* | .30** | .21 | .00 | -.02 | -.04 | .21 |
| H | .20 | .34* | .43** | .23 | .00 | -.08 | -.08 | .40** | |
| L | .09 | .28* | .24 | .13 | .18 | .17 | -.07 | .09 | |
| 課題 | 全 | .10 | .11 | .18 | .02 | .09 | -.01 | .15 | -.03 |
| H | .07 | .13 | .09 | -.14 | .09 | .01 | .20 | .07 | |
| L | -.04 | -.01 | .08 | .01 | .09 | -.03 | .15 | -.15 | |
| 心理 | 全 | .16 | .19 | .15 | -.12 | .03 | .07 | .21 | .13 |
| H | .26 | .24 | .12 | -.17 | .05 | .20 | .30 | .22 | |
| L | -.07 | .11 | .12 | -.12 | .04 | -.08 | .18 | .12 | |
* p < .05, ** p < .01
学習目的と機械翻訳の操作の両変数に関して,選択・非選択の2択の名義尺度であったため,χ2乗検定を行った。全体,SE高群,SE低群のすべての群において,有意差が認められた組み合わせはなかった。すなわち,学習目的と操作の間には関連はないということがわかった。
5.3.4 学習目的と入力単位学習目的と機械翻訳使用時の入力単位の関連を検証するにあたり,5.2.5と同様,入力単位が小さい順に単語レベル (1) ~全文 (5) の数値を付与してスピアマンの相関係数を算出した (表14)。入力単位と相関が見られる学習目的はTOEICのみで,全体では読む・書くの両方において負の相関 (読: r = -.27, p < .05, 書: r = -.28, p < .05) が,SE高群においては書く際に負の相関 (r = -.31, p < .05) が見られた。英語学習目的の中で入力単位に影響を与えうるのはTOEICのみであり,その傾向は特に自己効力感が高い学習者に見られる。対して,自己効力感が低い学習者の入力単位には学習目的は影響しないと言えるだろう。なお,TOEICを目的とする学習者の入力単位が小さい傾向が見られる要因は,処理水準だけでなく,そもそもTOEICのテスト形式と関連がある可能性が考えられる。TOEICでは語彙力が重視され,単語を解答する問題が多く含まれているため,文単位ではなく単語単位での入力,つまり単語の意味を検索する行為を促す可能性が考えられる。
| 英語が好き | グローバル | 日常会話 | TOEIC | 学術論文 | 新聞や Web | 単位取得 | 教養 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 読む | 全 | .00 | -.02 | -.09 | -.27* | -.03 | -.02 | .14 | -.11 |
| H | .05 | -.07 | -.24 | -.23 | .00 | .12 | .17 | -.21 | |
| L | .05 | -.04 | -.03 | -.34 | -.17 | -.25 | .16 | -.06 | |
| 書く | 全 | .03 | .00 | .01 | -.28* | -.06 | .04 | .01 | -.14 |
| H | .04 | -.07 | -.13 | -.31* | -.06 | .14 | .01 | -.22 | |
| L | .14 | -.02 | .01 | -.23 | -.18 | -.17 | .06 | -.11 |
* p < .05
本稿では,選択する学習方略及び学習観に影響を与える可能性が指摘されている,自己効力感及び学習目的に焦点を当て,機械翻訳使用との関連を検証した。機械翻訳使用については,活用度の指標として使用頻度,その意図の方向性の指標として期待するメリット,処理水準の指標として機械翻訳使用時の操作と入力単位に関する質問を用意した。検証の結果,使用頻度は,自己効力感が平均以下の場合のみ自己効力感によって左右されるのに対し,平均以上の学習者は学習目的の影響を受けることがわかった。学習目的については特に,教養,グローバル社会,日常会話を目的とする場合は使用を控え,単位取得を目的とする場合は使用頻度が多くなるという結果であった。また,期待するメリットは,学習者全体として自身の学習につながると思って使用しており,特に自己効力感が平均よりも低い学習者において自己効力感が高まるにつれて機械翻訳から学ぼうという意思が高まる傾向が見られた。学習目的の影響は主に自己効力感が高い学習者において見られ,グローバル社会,日常会話,教養を目的とする場合に機械翻訳から学ぶことを期待していることが明らかになった。これらの結果に基づくと,自己効力感は,ある程度担保されれば,機械翻訳の活用度・使用意図に影響しなくなることを意味すると言えるのではないだろうか。
処理水準の指標とした機械翻訳使用時の操作については,自己効力感が高くなると認知処理がより深いと考えられるポストエディットをすることがわかった。一方学習目的については操作と関連する項目は見られなかった。また,機械翻訳操作時の入力単位については,全体及び自己効力感が平均以上の学習者において自己効力感が高くなると読む際に小さい単位で入力する,つまり処理水準の深い使用をする傾向が見られ,学習目的は全体及び自己効力感が高い群において特にTOEICを目的とする場合により小さい単位で入力する傾向が見られた。これらの結果から,機械翻訳使用時の認知処理の深さは,自己効力感が平均以下の学習者にはあまり影響しないようであった。対して,自己効力感が平均以上である学習者のみに処理水準が深い使用法を選ぶ傾向が見られた。このことは,自己効力感が高い学習者はより認知処理が深く,自律的な学習方略を選択する傾向が見られるという先行研究 (森. 2004; 李, 2002; Pintrich & De Groot, 1990) の結果が,機械翻訳使用に関しても当てはまることを示唆している。自己効力感は端的に言えば「やればできる」という自分に対する自信である。やればできると思っている人の方がより認知処理の深い,いわば労力を要する作業も厭わないことは首肯できる結果と言える。
本調査の結果,機械翻訳の使用頻度を左右する要因は英語学習に対する自己効力感が平均を上回るかどうかで異なることがわかった。機械翻訳の使用自体が害に直結するわけではないが,過剰使用は悪影響になる可能性がある。自己効力感が平均以下の学習者は自己効力感が高いほど使用を控えることから,英語学習に対する自己効力感を高めることが機械翻訳の過剰使用を阻止することにつながるだろう。自己効力感が平均以上の学習者は,学習目的次第で機械翻訳使用を控え,自力で考えるようになることから英語学習の功利性を明示的に示すことが有効であろう。
また,学習者には機械翻訳使用を学びにつなげたいという意思があることがわかった。一方で自己効力感が低い学習者は自身で思考する部分が少なく,学びにつながりにくい使い方をしている可能性が示唆された。このことから,自己効力感が低い学習者が自己流で機械翻訳を使用し続けた場合,本人の意図に反して学習が阻害されることが懸念される。漫然と翻訳を入手するだけでなく,学習者自身が思考を働かせる必要が生じるような使用方法を指導し,学習につながる使用を促す必要があるだろう。さらに,自己効力感が平均以上の学習者は辞書のような使い方をしていることがわかった。機械翻訳を使用した場合,単語単位で入力しても訳語が1つ示されるのみであるため,他の語義,語法,用例といった周辺知識を得ることができない。そのため,自己効力感が高い学習者に対しては,むしろ辞書の正しい使い方を指導し,辞書利用を促すことがより効果的な学習につながるのではないだろうか。適切な場面において,適切な使い方をすることで機械翻訳は極めて有用でかつ効果的な学習ツールになりうる。機械翻訳を学習ツールとして活かすためには教育的指導が不可欠であることが再確認されたと言える。
研究における今後の課題としては,本稿では機械翻訳使用の効果が成績ないしは英語力に明らかに反映されるまでには時間を要することから,これらの要因との関連を検証しなかった。今後は成績あるいは英語力への影響も検証したい。また,機械翻訳使用時の処理水準の基準として使用時の操作及び入力単位を採用したが,これら以外の基準も模索する必要があるだろう。
さらに,本稿の結果から新たに検証が必要である観点が明らかになった。まず,本稿では英語学習に対する自己効力感の影響を検証した。しかしながら,Li, Zhang and Yang (2024) がコンピューターサイエンスに対する自己効力感の影響を検証したように,英語学習ではなく,機械翻訳使用に対する自己効力感を検証することで異なる結果が得られるかもしれない。今後は何に対する自己効力感が機械翻訳使用に影響するかを明らかにし,英語力向上に役立つ機械翻訳との付き合い方を提案したい。次に,本稿は学習目的を検証対象としたため動機づけの影響は直接検証していないが,本調査で用意した学習目的の中で唯一内発的動機づけと読み替えることができる「英語が好き」は機械翻訳使用には影響しないことがわかった。むしろより功利性が明らかな外発的動機づけ (同一化調整2) と言い換えることができる目的 (グローバル社会,日常会話,教養,TOEIC) が機械翻訳の使用方法に影響することがわかった。この結果は,弥永 (2022) を一部支持する結果と言えるだろう。内発的動機づけは外発的動機づけに比べて学習にとって望ましいというのが通説であるが (米山, 2011; Vansteenkiste, et al., 2004他),逆に内発的動機づけではなく,外発的動機づけ (同一化的調整) がメタ認知的方略を介して学業成績を予測するという検証結果もある (西村他, 2011)。本稿は,通説とは異なる西村他 (2011) を支持しうる結果と言えるが,動機づけ尺度を用いて検証したわけではない。今後は動機づけ尺度を用いて内発的動機づけと外発的動機づけ (同一化調整) の比較を行い,それぞれが機械翻訳使用に与える影響を明らかにしたい。
1 英語授業受講目的を問うた先行研究 (藤田, 2020; ペニントン, 2012; 牧野・平野, 2015) の全てにおいて学生が英語科目を受講する理由として一番多いのは,単位取得であった。2番目以降の順番はそれぞれ異なるが,日常会話,就職,資格試験といった類似した項目が上位に挙がっている。
2 内発的動機づけ,外発的動機づけをさらに細分化することを試みた理論に自己決定理論があり,その下位分類としてミニ理論が6つある。そのうちの1つである有機的統合理論 (Ryan & Deci, 2000) は,自律性の程度によって動機づけの状態を無動機づけ (学習したいと思わない),内発的動機づけ (好きだから),外発的動機づけの3つに分けた。さらに,外発的動機づけを無動機づけに近い方から外的調整 (やらないと叱られるから),取り入れ的調整 (恥をかきたくないから),同一化的調整 (将来のために必要だから),統合的調整 (やりたいと思うから) の4段階に分けた (括弧内理由の例及び日本語訳は,櫻井, 2012, p. 59)。
全く使わない,そもそも英語課題で英文を読まない (下線部は問内下線部に合わせる)
※ 括弧内は表3で用いた略称。実施した質問紙には不記載。
ポストエディット (意図が正しく伝わるように英語を調整する),特に何もしない