JACET-KANTO Journal
Online ISSN : 2436-1993
Student Perceptions and Usage of the Writing Assistant Tool Grammarly:
Analysis of Interview After Study Abroad
[in Japanese][in Japanese]
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2025 Volume 12 Pages 66-83

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Abstract

This paper explores college students’ subjective evaluations of the significance of Grammarly and their experiences with it. We conducted semi-structured interviews with five students from a department offering semester(s)-abroad programs and nudging its students to use Grammarly to develop their academic writing skills. The research questions were: (1) how the informants rated Grammarly and why they gave it this rating, and (2) how they used Grammarly. Four of the five informants found Grammarly conducive to improving their writing, as it provides them with instant feedback and suggestions/advice on their drafts. Their narratives suggest that they have continuously and spontaneously used Grammarly, especially at overseas institutes, and have customized its various settings as per their preference and needs. One informant expressed a negative view of Grammarly, stating that she was often dissatisfied with Grammarly’s feedback and recommendations, as they misinterpreted her points, and thus she was concerned about over-reliance on AI. If Grammarly is to be incorporated into writing classrooms, instruction and assessment should be designed to strike a balance between these two opposing attitudes among students.

1. 背景

世界で活躍できる人材育成などをねらいとし,多くの大学は在学生の留学を促進・支援する仕組みを設けている。カリキュラムの一定期間を海外留学に充てたり,海外留学を卒業要件に含めたりしている学部や学科もある。首都圏のとある私立大学のA学科も,その一つである。A学科では,カリキュラム留学として2年次以降に最短約5ヶ月,最長約15ヶ月のプログラムを整備している。

学生を留学,特に英語圏の大学の正規課程やその準備課程に送りだす場合,ライティング1の力の養成が重要となる。特に,論文やレポートなど学術的な文章を執筆するためのライティング,すなわちアカデミック・ライティングは欠かせない。A学科の場合は,1年次前期からアカデミック・ライティング科目を必修として開講している。しかし,その実践においては,指導の効率や効果などに関していくつかの課題が見受けられた。

具体的には,まず,修正フィードバック(corrective feedback; Ferris, 1999)のための労力と時間が挙げられる。書き手である学生の誤りに教師が修正フィードバックを与え修正を促すことは,学生のライティングの技量を伸ばすうえで重要であるが,きめ細かく個別にフィードバックを与えるのは教師にとって過重な負担となりやすい。また,教師が提出物を一度ないし繰り返し読んだうえで,手書きやPCでフィードバックを入力する時間が必要である。授業回数が週に1回であれば,ライティング課題を提出した学生がフィードバックを受け取るまでに,少なくとも1週間かかる。次に,学生の誤りの種類や頻度によっては単文レベルでの修正に終始し,文章全体の構成や論理を練り上げるまでに至らないこともある。さらに,インターネットを通して情報へのアクセスが容易になったことから,意図的あるいは偶発的な盗用・剽窃にもいっそうの目配りが求められるようになった。

こうした状況を改善する手段の一つとして,A学科では英語ライティング支援ツールであるGrammarlyを導入した。Grammarlyはスペルや文法・語法などの誤り検出と修正案の提示に加え,有料のPremium版では,曖昧な表現の修正や読み手や目的などに合わせた文体の提示,正確性などの評定,盗用チェック,文献引用スタイルの一貫性チェックといった機能も備えている。生成AI(Generative Artificial Intelligence)を利用し,アウトラインや要約などを作成することも可能である。利用者は,Grammarlyのアカウントを取得し,ウェブサイトにログインしてブラウザ上で利用(文章を入力またはファイルをアップロード),あるいはPCにインストールして利用する。PCにインストールした場合は,Microsoft WordなどでもGrammarlyを起動することができる。

GrammarlyをA学科が導入した最大のねらいは,前述のように留学準備段階においてアカデミック・ライティングの指導効果や効率を高めることにある。加えて,自然言語処理,機械学習,生成AIの技術が急速に発展していることをふまえ,それらを活用したツールを使いこなすスキルを学生に身につけさせ,自律的な書き手へと成長を促すことも意図している。そのため,学生が在学期間中を通していつでも利用できるよう,Grammarlyのライセンスは4年間付与している。これにより,学生は留学先での授業の課題や留学後の卒業論文の執筆でも,Grammarly有料版を継続して利用できる。

ところが,A学科新入生を対象とした質問紙調査によると,学生たちは英語ライティング支援ツールによる添削についてやや消極的であることが判明した(山本・鈴木, 2023)。この調査では,英語のアカデミック・ライティングに関連する知識・スキル・経験および学習目標・動機・姿勢を把握するための質問紙を開発し,アカデミック・ライティングの基礎を扱う1年次必修科目の第1回授業で特定のクラスに回答を依頼し,得られた回答を定量的に分析した。回答者はのべ36名(2021年21名,2022年15名)である。質問紙の設問の一つとして「自動添削アプリで添削したい」を設け,強く思う/まあまあ思う/あまり思わない/全く思わないの4件法で回答を求めた2。その結果,36名中19名(52.78%)が「あまり/全く思わない」を選択した。つまり,新入生の過半数が,Grammarlyの利用開始時点では積極的に利用する姿勢を示していなかった。

入学時のこのような傾向をふまえると,Grammarlyを導入する意義やライセンスを複数年にわたって付与する妥当性などを検証する必要がある。学生がGrammarlyの有用性を実感すれば,自発的に継続して活用するようになると期待できる。A学科の学生の場合,留学準備段階から留学を経て,多様な内容と分量のライティング課題に取り組むが,そうした経験を通して,Grammarlyの評価やその利用の仕方に変化が生じるのではないか。また,留学中の授業の模様は,A学科では詳細を知ることができない。いわばブラックボックスの中にある留学先でのライティングの状況を把握できれば,留学準備段階や留学後のアカデミック・ライティング指導への還元が期待できよう。そこで本調査では,山本・鈴木(2023)と同じA学科の在学生を母集団とし,実際にGrammarlyを利用しかつ留学を経験した当事者である2年次後期以降の在学生から協力者を募り,インタビュー調査によってGrammarlyに対する評価や使用の実態を探ることとした。

2. 先行研究の概観と本調査の課題

2.1 英語ライティング指導における生成AIの活用

GrammarlyはAIを基盤としており,生成AIも実装している。(生成)AIが英語教育現場に及ぼす影響や応用可能性,注意点については,まだ議論・検討が重ねられている段階である。金丸(2024)は,既に大学生が英語ライティングのために生成AIを用いている実態に触れ,学習に有効な場面で最大限に活用することを提案している。具体的には,教師が発想を転換しAIやMT(機械翻訳)を辞書と同じとみなし,こうした技術を足場掛けや協働,自己添削に用いるというものである。例えば,第二言語学習者には独力で達成できることとできないことがあるが,その中間には,他者や道具による手助けがあれば達成できることが存在する。金丸(2024)では,この中間の段階(ZPD: Zone of Proximal Development, Vygotsky, 1978)において,AIを活用した協働学習やAIを教師とした自律的学習が可能だと述べている。

2.2 英語ライティング指導におけるGrammarlyの活用

2009年のGrammarlyリリース後,Grammarlyを第二言語/外国語としての英語教育に用いる試みについて,教師を対象とした解説や提案が現れてきている。例えば,Barrot (2022)は,Grammarlyのアクセス方法や料金プランの紹介などと合わせて,ライティング指導における有用性と懸念を述べている。有用性としては,フィードバックが執筆と同時に与えられるという即時性や,執筆目的や内容などに合わせた提案が得られる点,金丸(2024)と同様に協働学習や自律的学習に応用できる可能性などが挙げられている。懸念としては,固有名詞や術語などに不要な修正を要求することがあるため内容面で不正確な文に書き換えさせかねない,一般的な表現まで盗用・剽窃として検出することがあるという。こうした教師向けの手引きの他に,Grammarlyを実際に導入した成果について,実証的研究も進み始めている(例.Koltovskaia, 2020; O'Neill & Russell, 2019)。

2.3 日本の大学での英語ライティング指導におけるGrammarlyの活用

実際に日本の大学にて正課の英語教育にGrammarlyを導入した事例として,新美・梅木(2024)による報告がある。新美・梅木(2024)では,非英語専攻・文系学部2年次アカデミック・ライティング科目において,ピア・フィードバックによって履修者のライティングの内容や構成面は改善したものの,文法に関する改善は見られなかったという。そこで,学生が主体的に語彙や文法,表記法を修正する方策として,ピア・フィードバックに加えてGrammarlyを導入した。

学生は個人のPCにGrammarlyをインストールしたうえで(スマートフォンでの使用も可とする),教師によるGrammarlyの使用や修正方法についての説明を受け,複数回ライティングに取り組んだ。その過程で,Grammarlyの指摘に従ってどのように修正すべきかをペアで話し合うピア・フィードバック活動も行った。初稿,ピア・フィードバック活動後,Grammarly使用後において,総得点,内容,構成,語彙,文法,表記(Mechanics)を評価したところ,Grammarly使用後に,文法や表記面でのスコアが大幅に向上したが,変化を示さなかった学生も一定数いた,と新美・梅木(2024)は報告している。

2.4 本調査の研究課題

2.2と2.3で示したように,英語ライティング指導でのGrammarlyの活用について,知見が蓄積されつつある。ただし,文法的正確さや語彙などの項目について得点化する定量的分析が主となっている。英語ライティング指導を受ける側の当事者である学習者に焦点をあて,Grammarly活用について検討するものはまだ限られているといえる。特に,日本人大学生を対象とし,かつ彼らの主観的なGrammarlyの捉え方やその使用体験を精緻に記述したものは管見の限り見当たらない。新美・梅木(2024, p. 78)では,今後の課題として「実践の協働者として,学生がGrammarly使用を通して何を感じ,何を学んだのか」についてさらなる調査が必要としている。課題として挙げられた二点のうち,本調査では学生が「何を感じ」たかに着目し,次の研究課題に取り組む。

研究課題1 学生はGrammarly をどのように評価しているのか。また,なぜそのように評価するのか。

研究課題2 学生はGrammarly をどのように利用しているのか。

3. 方法

3.1 調査対象者

本調査の対象者は,A学科の2年または3年次に在籍する女性5名(以下,S1~S5)である。全員が日本語を母語とし,日本の高等学校において主に教室環境で英語を学んできた。この5名は,大学入学時のプレイスメントテストの結果により,いずれも1年次前期のアカデミック・ライティング科目で最上位のクラスに配属された。

同科目では,前期はパラグラフ(topic sentenceとsupporting sentencesにより構成される一段落),後期はエッセイ(Introduction,Body,Conclusionの複数パラグラフにより構成されるひとまとまりの文章)の書き方を学ぶ。入学から数週間のうちに1年生全員にGrammarly Premium 版アカウントが与えられ,その機能やログイン手順などについて説明を受けた後,各自で授業などにおいて用いることになっている。1年次のアカデミック・ライティング科目では,Grammarlyを用いてスペルや文法などの誤りを学生自身で修正して提出し,教師は内容や構成について添削し評価するという流れが推奨されている。

対象者5名は,2年次にアメリカにあるB語学学校で約5ヶ月間学び(ただし一部期間はコロナ禍の影響を受け,同校が提供するプログラムを日本からオンラインで受講),続けてアメリカにある協定大学の学部正規課程,またはアメリカの大学の日本キャンパスにある学部正規課程,あるいはその入学準備課程に1~2学期にわたり留学した。それぞれのインタビュー時の学年と留学経験を表1に示す。

表1 調査対象者の調査時の学年と留学経験(n=5)

ID 学年 留学先
2年次 春・夏 2年次 秋 2年次冬・3年次春・夏
S1 2 B語学学校
(アメリカ)
C大学 正規課程(アメリカ)
S2 2 D大学 準備課程(日本)
S3 3 B語学学校
(オンラインのちアメリカ)
D大学 正規課程(日本)
S4 3 D大学 準備課程(日本)
S5 3 B語学学校(オンライン)

(オンライン)と記されているものは日本からオンラインにて授業を履修。(アメリカ),(日本)はそれぞれの国に居住し対面で授業を履修。

対象者の英語運用能力は次の通りである。インタビュー調査の直近に行われたTOEIC® Listening & Reading IPテストにおいて,S1は805,S2とS3は825,S4は665,S5は840のスコアを記録した3

3.2 調査方法

対面で半構造化インタビューを行った。インタビューでは,大学入学前,入学後,留学中,今後と時系列に沿って,英語の学習全般およびアカデミック・ライティングについて,対象者の個人的な経験や感想,考えなどを尋ねた。インタビューの各セッションは1時間以内とし,調査対象者1名(または友人どうしの2名)と,調査者2名(T1,T2)が参加した4。2023年2月中旬から3月下旬にかけてA大学の一般教室にて行い,ビデオカメラとICレコーダーを用いて録画および録音した。各セッションの詳細を表2に示す。

表2 インタビューセッションの詳細

セッション 参加者
調査者 調査対象者
1 58 T1,T2 S1
2 53 S2
3 52 S3
4 47 S4, S5

3.3 調査手順

インタビューの発話は全て文字化し,Grammarlyに関するやりとりを抽出した。半構造化インタビューは制度的談話の一種であり,そこには情報を求める側(調査者)と情報を提供する側(調査対象者)の明確な役割分担があり,それゆえ「質問―回答」隣接応答ペア(Schegloff & Sacks, 1973)という特定の相互行為パターンが繰り返し現れるとされる(熊谷・木谷, 2010)。

また,本調査のインタビューでは調査対象者の経験や過去の出来事について情報を求める問いが多いことから,調査対象者による体験談が現れやすい環境にある。体験談の語り手は,登場人物のことばを引用することがある5。例を挙げると,「結構最初っから,あの,『もう,ほんとに,やっちゃ駄目だよ』っていう忠告は結構,あのー,全,あのー,先生,担当してくれた先生全員言ってて」のように教師による発話を引用したり,「なんか,D大学の留学があるって聞いて,『あ,じゃあ,そっちにしよう』って,はい,思いました」のように自分自身による過去の思考や実際の発話を引用したりする(例はともにS3による発話から抜粋)。発話を引用のかたちで体験談に含めることによって,過去のことを臨場感豊かに再現して聞き手を語りに引き込み,経験や出来事を疑似体験させ,さらには経験や出来事に対する評価を語り手と聞き手で共有できるとされる(山口, 2009)。以上のインタビュー談話の一般的な特徴や本調査の質問項目の性質をふまえ,「質問―回答」隣接応答ペアおよび引用発話に着目し,調査対象者たちの認識や行動を記述する6

4. 結果

4.1 結果1 Grammarlyに対する評価とその理由

4.1.1 肯定的評価とその理由

一つ目の研究課題「学生はGrammarly をどのように評価しているのか。また,なぜそのように評価するのか。」について,分析結果を述べる。5名のうちS1,S3,S4,S5の4名がGrammarlyの機能やGrammarlyを使うことについて,明確に肯定的な評価を述べた。また,5名とも大学に入学するまで Grammarly を用いた経験がなく,そもそもPCを用いて英語で文章を産出する経験もほとんどなかったと語った。大学入学直後にGrammarlyに初めて触れ,次第にその有用性を認めるようになり,やがて不可欠といえるほど信頼し活用するようになった様子が,インタビュー談話を通して浮かび上がった。抜粋を以下に示す。

抜粋1

01 T1: 自分で提出する前にGrammarlyかけようみたいなのは特に。
02 S4: あー,いやでもかけてました。/S5: かけて/ かけて提出
03 T1: して
04 S4: とか,/T1: うん/ そうです。
05 T1: そうねーGrammarly自体もたぶん大学入ってから使い始めたんですよね,きっと。
06 S4: °うんうん。°
07 S5: °うん。そうです。°
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T1: じゃあもし変な話ー,1年生で入学した時に ((所属学科名)) がGrammarlyみんなの分アカウントプレミアムで /S5: うん/ 買って入ってて「使いなさーい」みたいに言われたと思うんですけど,それがなかったとしたら,どうしてた?
11 S5: うーん
12 T1: やっぱ自分で見つけて無料プランとかでやったのかな。
13 S5: やでもいわれ,使ってなかったら知らないと思[うんで]
14 [/T2: うん/ /S4: うーん/ /T1: あーそうなんですね/]
15 S5: 結構いいと思います,その,勝手に入れてくれたの。/S4: あ/
16 T1: [勝手に@入れた]
17 T2: [これ勝手に@@@@]
18 [S5,S4: @@@@ @@@]
19 T2: あの,ワードとかドキュメントの /S5: うん/ スペルチェックと=
20 S5: =あ,ちょっとあれ見づらくないですか,なんか。
21
22
T2: Grammarlyと,やっぱりGrammarly /S4: うんうん/ /S5: うんうん/ のほうが /S4: うーん/ 使いやすい。
23 S5: はい。

S4,5は二人同時にインタビューに参加しており,抜粋1冒頭では留学中のライティング課題についての質問に答えている。T1がGrammarlyの使用について尋ねると,S4は課題を提出する前にGrammarlyを用いていたと答える(02,04行目)。続いて大学入学まではGrammarlyの使用経験がなかったことが確認され,08行目からT1によって,Grammarlyのライセンスが学科から付与されなかったら,という仮定の質問が投げかけられる。S5は13行目で「(Grammarlyをもともと)使ってなかったら(その存在は)知らない(まま)」,つまり自らわざわざアカウントを取得して使うことはなかった,と回答する。さらに「思う」の後に助詞「ノデ」を続け,この発話を根拠として,学科によるGrammarlyアカウントの全員付与を「結構いいと思います」と15行目で明確に肯定している。さらに,19行目でT2がMicrosoft WordやGoogle Documentの自動修正機能と比較しようとしたところ,途中でS5がそれらは「見づらい」と割り込む。T2によるGrammarlyの使いやすさについての確認要求(21行目)には,「うんうん」そして「はい」と肯定する。この一連のやりとりにおいて,S4はS5を遮ることはなく,折々に力を込めたあいづち「うんうん」「うーん」を挟んでおり,S5に賛同していると解釈できる。

抜粋2

01
02
T1: で,Grammarlyはたぶん前期からもう皆さんプレミアムライセンスって /S1: うん/ のを付けて,あの,加入してたんですが使っていましたか。
03 S1: もう全部に使ってました@@@。/T2: @@@/
04 T1: あ,良かったですー。
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S1: なんか,確かそう2年生の最初のほう?に ((B語学学校)) にいた子たちでみんな使えない時があって。それでみんな,「ねね,Grammarlyが使えない」って
07 T2: [あ,そうなの]
08 S1: [パニックになった記憶が。]
09 T2: え,それは何でだろうね。
10 S1: 何でだったか[分からないんですけど。
11 T2: [使えるようになったの。
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S1: なんかもうみんなその1年生の時の習慣で使いたか /T2: うんうんうん/ったけど使えなくて,たぶん誰かが連絡してくれたのか /T1: あー/ 東京のほうに,で,使えるようになって /T2: うーん/ ˚みたいな感じでした。°

Grammarlyを利用していたかというT1の質問に,03行目でS1は「もう全部に使ってました」と答える。ここでの「全部」とは,ライティング活動を含む課題全般を指すと推測される。この答えに対するT1の応答「あ,良かったです」に続けて,S1は留学中の体験を語り始める。B語学学校での授業が始まった直後,Grammarlyを利用できなくなり周りの学生とともに「パニックになった」という(08行目)。A学科から同時期にB語学学校に留学した学生たちの発話「ねね,Grammarlyが使えない」が引用されており,学生たちが集団で困っていた様子が臨場感を持って再現される。12行目以降では,Grammarlyを利用することが習慣として学生の間で定着していたことも明かされる。

Grammarlyについての肯定的な評価の理由として,二点見出すことができる。一つは修正フィードバックが即時に得られることである。Grammarlyを使うことによって,教師による添削を待たずとも,執筆しながら,あるいは書き上げてすぐにフィードバックが得られる。語彙や文法的な誤りがあれば即座に検出され,正しい表現が示される。書き手はそれをクリックするだけで差し替えることができる。また,正確さ(accuracy)や読みやすさ(readability)の評定なども示される。もう一つは,代替表現が提案される点である。Grammarlyは誤りの検出や修正だけでなく,文体や文章の目的などもふまえた書き換え候補をも提示する。

次の抜粋3は,一つ目の理由である修正フィードバックの即時性について述べている。

抜粋3

01
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03
T1: あの,Grammarlyは大学入って初めて /S3: はい/ 使い始めたっておっしゃってて,/S3: はい/ どうですか。Grammarly /S3: うん/ 便利? それとも,うん,なんか,あんま使わないなとか。
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S3: あ,でも,すごい助かってます。/T1: あ/ / T2: うんうん。/ なんか,その,何だろう,高校の時に,なんかそのー,間違えを探せっていう文?
06 T1: あーあー[ありますね。]
07 T2: [うんうんうん]
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S3: あるじゃないですか。なんか,あれ,うち,あの,すごく苦手で。/T2: @/ なんか,間違った文も覚えちゃうんで,なんか,/T2: あー/ すごい紛らわしくなっちゃうんですよ。/T1: あー/ はい。でも,/T2: なるほど/ なんか,その,もう,打った後にすぐ直してくれるから,「あ,こうだったんだ」ってすぐ /T2: うんうん/ 気付く?ことができるんで,め,はい,助かってます@@

抜粋 1のS4と同様に,S3も大学に入学するまでGrammarlyの使用経験はなかったという。T1がGrammarlyについて「どうですか」,「便利?それとも」と問うと,S3は「すごい助かってます」(04行目)と答え,Grammarlyが使えることに感謝を示す。直後に高校時代を振り返り,誤文訂正問題が苦手だったと語る。文法・語法や語彙の誤りを含んだ文を提示されたときに,それが正しいと学習してしまうと言う。Grammarlyを用いると,自身が産出した誤りに直ちに気づくことができ,誤学習を防ぐことができる,とS3は考えている。Grammarlyの指摘によって誤りに気づく様子を,S3は「あっこうだったんだ」と自身の心の声を引用するかたちで表わしている(11行目)。談話標識「ア」によって情報の獲得を示し(富樫, 2001),続けて文末表現「ノダ」によって発見(名嶋, 2001)という認知状態の変化が鮮明に再現されている。

次の抜粋4は,二つめの理由である代替表現の提案を挙げている。

抜粋4

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T1: 割となんか,ま,オピニオンも書くけどそういうディスクリプティブなものも書いて/S1: そうですね/ きてたんですね。書く時にどんなサポート,を,がありましたかってか利用しましたか。例えばスタディーグループつくってネイティブの子に見てもらったとか /S1: うーん/ 先生のオフィスアワー行ったーとか。
05 S1: うーんとその,なん,何をしたかな。
06 T2: Grammarlyは使った。
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S1: Grammarlyは使うし。/T2: @@@/ / T1: あーGrammarlyね。/ あとやっぱりその,時間に追われてしまって,/T2: うーん/ DeepLに頼ることもあったし。/T1: あー/ その,やっぱり自分が分からない表現 /T2: うんうん/ってずっと考えても分かんないかなっていうのがあって。そのDeepLとかGrammarlyとか使うことで自分のあたらし,自分の中になかった新しい /T2: うんうん/ 表現とかも /T1: うーん/ 見つけられると思うのでそれ頼ったりとか。 /T1: うーん/ あとはやっぱり先生に質問もしましたし。でも結構自分でやることが多かったかな。/T1: あっそう。/ なんかチューターがあったんですけど /T1: はい/ /T2: うん/ 行かないで /T2: @@/ やってました [@@@]
16 [/T1: あ,ほんと@/ /T2: @@/]

S1がアメリカの大学正規課程に留学していたときのライティング課題が話題となっている。T1が,非英語母語話者である留学生のためにどのようなサポートを利用したかと尋ね,回答の選択肢としていくつかの例を示す。S1が回答に詰まり,06行目でT2がGrammarlyを用いたかと問いかける。すると,S1はGrammarlyと翻訳ツールのDeepLを使ったと答える。通常,未習得の表現は学習者がひとりで思案していても産出できないが,DeepLやGrammarlyといったツールを用いることで,「自分の中になかった新しい表現」(11,12行目),すなわち伝えたいことに即した語彙やコロケーションや構文などを獲得できると述べている。

4.1.2 否定的評価とその理由

S2のみGrammarlyに対して否定的評価を述べた。Grammarlyから与えられた修正フィードバックや代替表現に関する不満と,AIに対する懸念が示されている。

抜粋5

01
02
T2: え,((D大学))でそのライティングをしてる時はGrammarlyを使ってました? それともあの,ワードとかのあの=
03 S2: =わ
04 T2: 勝手に出てくる。
05 S2: あ,とー。
06 T2: 提案@
07 S2: Grammarlyですね。
08 T2: Grammarly使って。
09 S2: はい。使ってしまいました。@@@=
10 T2: =いえいえ使っていいと[思いますよ。]
11 S2: [@@@]

D大学入学準備課程に留学中にGrammarlyあるいはMicrosoft Wordの修正機能を使ったかという問いに,S2は07行目で「Grammarlyですね」と答える。T2による確認要求の問い(08行目)には,「使ってしまいました」と言い換える。文末表現「テシマウ」は評価,失望,困惑,感慨といった話し手の感情を表わすとされ,その使用の背景には,話し手が動作や変化や状態の実現あるいは終了を,しくじり,不都合としてとらえていると考えられる(藤井, 1992)。Grammarlyを利用することの何が望ましくないのかはこのやりとりでは明らかにされていないが,使うべきではなかった,使わない方がよかった,というS2の認識が表明されている。

S2がGrammarly利用を否定的にとらえる理由は,1年次に受けたアカデミック・ライティングの授業の感想とB語学学校留学中の体験談から読み取れる。前者を抜粋6,後者を抜粋7として示す。

抜粋6

01
02
S2: そうーですね。うーん。何か結局こう自分が元々オリジナルで書いたエッセイを,Grammarlyにかけて,[Criterion7にかけてってやると]
03 T2: [うんうんうん]/T1: あー/
04
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S2: 結局自分の書いたエッセイ,ではなくなってしまってて。/T2: @@@/ /T1: あー/ わ,あの,訂正箇所が /T2: うーん/ 何個もあったので,最後Criterionかけてみんな全部読み直した時に,「あれ?こんな趣旨だったっけ」とか,/T1: @/ /T2: うーん/ 「こんな内容私書きたかったっけ」って思うことが何度かあったので, /T2: うんうんうん/ ま,それを提出するっていう形になってしまったので /T2: なるほど/ ちょっと。
10 T2: 直してる間に。
11 S2: そうですね。[どんどんどんどん]
12 T2: [なんか最初と思ってたんとは違う]
13 S2: うん違うな[とか]
14 T2: [みたいな。]
((中略))
15
16
17
S2: でも,やっぱり自分の実力よりもAIの力を /T2: @@@/ 信じちゃうので,私は。@@@ け,/T2: そうだよね/ そう,「まあ,Grammarlyが言うなら,ま,しょうがない /T1: うん/ か」と思ってー[˚提出してしまう˚]
18 T2: [私はそう思わないけど。]
19 S2: 私はそうは思わないけど,まあ。
20 T2: @思わないけどでも。
21 S2: 「Grammarlyが言ってんならそうかな」みたいなところは /T2: そう/ ありますね。
22
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T2: 確かに。そこで,「いや,私は」,と,/S2: @@@/ 特に1年生ん時にそれは,ないよね。
24 S2: そうですね。

1年次のアカデミック・ライティング授業では,ツールを利用しそれらによるフィードバックをもとに修正していくことが履修者に求められていたが(3.1参照),その過程で自身が表現したかったことと書いたものが一致しなくなった,とS2は振り返る。06,07行目では「あれ,こんな趣旨だったっけ」「こんな内容私書きたかったっけ」と引用発話によって内心の葛藤が再現される。さらに,自身のライティングの力よりもAIの力を信じるとし「ま,しょうがない」「私はそうは思わないけど,まあ,Grammarlyが言ってんならそうかな」(16,17,19,21行目)と自分の判断を引用のかたちで表現し,腑に落ちない修正提案でもAIに理があるとみてGrammarlyの提案に従って修正したことが語られる。

抜粋7

01
02
03
04
S2: ((A学科)) ではやったことないこう,グループエッセイみたいなもの /T2: うんうん/ を一人1パラグラフで /T2: うん/ 4人グループで,こう一つのエッセイを作り上げるっていう,あのー, /T2: うん/ / T1: へー/ ものもあって。やっぱそれは初めてだったんですが,うん@@
05 T1: 私そういうことやったことないんですけど,どう,な,楽しい? 難しい?
06
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08
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11
S2: 難しかったですね。/T2: @@/ やっぱ人によってこう,うーん,この文法使いたいとか,が,そうですね。フレーズの選び方が変わってきたり,ま中には,うーん Grammarlyを,ま,私より信じて使ってる子@もいて。/T2: @@/「でも,それってAIじゃん。AIが言ってることって信用していいのー?」って思うことも,ま,たくさんあったりとか。 /T2: うーん/ そうですね。私は,ま個人で書くほう,一人で /T2: うーん/ 書くエッセイ /T1: うん/ のほうが好きですね。

S2はB語学学校校でのエピソードにおいてもGrammarlyへの不信感を語り,理由として再びAIを挙げる。グループで取り組む課題が難しかったと答え,一因として他の学生のGrammarlyの使い方を挙げる。08,09行目の引用「でも,それってAIじゃん。AIが言ってることって信用していいのー?」から, Grammarlyの修正を他の学生が積極的に取り入れる様子を見て,内心で批判していたことが明かされる。S2は1年次の経験を通して自身の意図とGrammarlyによる指摘の齟齬を実感し,Grammarlyの基盤技術であるAIに頼ることに不満と不安を抱いているとみられる。

4.2 結果2 Grammarlyの利用実態

二つ目の研究課題「学生はGrammarly をどのように利用しているのか」について,インタビューを通して以下が明らかになった。まず,本調査の対象者は継続して,また自発的にGrammarlyを用いていたことがわかった。

抜粋8

01
02
S3: でもほとんど入れられる? /T2: うん/ とこ,/T2: うんうん/ には[全部,多分Grammarly 入ってます。]
03 [T2: うんうんうん]/T1: あ,そう。/ / T2: なるほど。/T1: なるほど。/
04 S3: はい。/T1: なるほど/
05 T2: 活用して[ますね
06 S3: [めっちゃ活用[してます@@]
07 T1: [活用してるねー。]
08 S3: ありがたいです。/T2: @/

2年次進級以降の授業ではGrammarlyの利用は個々の学生に任されるが,02,06行目それぞれの文末に「テイル」が用いられていることから,S3はインタビューをした3年次末の時点でもGrammarlyを継続して利用していると見られる。「入れられるとこ」(01行目)が具体的に何を指すのかは明確ではないが,英文を書く機会があればGrammarlyを役立てていると解釈できる。

また,Grammarlyはアメリカ英語かイギリス英語か,執筆目的や想定する読み手の属性などの設定によって,修正や提案の内容が一部異なってくる。それらの設定を,一部の学生は留学中に自分で調整していたことも判明した。

抜粋9

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T1: で,ちょっと申し訳ないなと思ったのが,私たぶんオンラインだったりこう,う,してた関係でGrammarlyの使い方をすっごく丁寧に教えなかったんですよね。あの,Grammarlyってすごいセッティングが,/S1: ああー/ こ,アカデミックにしたいの /S1: うん/ かビジネスにしたいのかイギリス英語かアメリカ,あれってどういうふうに自分で対応してました?
06
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08
S1: 確か1年生の時は,もう何も考えずにそのままの /T2: @@@/ の設定のまま全て動かしていて,で,それこそ向こうに行ってからなんかちょっと自分なりに動かした[記憶はあります。]
09 [T1: あー。]/T2: うん/
10 T1: 試行錯誤というか /S1: @@@/ 自力で。
11
12
S1: 「こうしたらここが変わるんだな」って思いながら /T2: うんうん/ それでやった記憶あります。

Grammarlyの設定(セッティング)について尋ねられ,S1は1年生のうちは「何も考えずにそのまま」標準の設定で利用していたという(06,07行目)。続けて,「デ」によって時間軸に沿って語りを展開し,「向こう」すなわち留学先に行ってから自力で調整したと答える。過去の自分の独り言を再現した「こうしたらここが変わるんだな」(11行目)から,Grammarlyの設定の変更がもたらす差異を確認しながら試行錯誤していた様子が描き出される。

ただし,GrammarlyはMicrosoft Wordをはじめ様々なソフトウェア上でも用いることができるが,調査対象者はそうした拡張的な機能は取り入れていないと判明した8。S1とS3には,GrammarlyをPCにインストールしMicrosoft Word上で用いているかと尋ねたところ,両者ともしていないと答えた。S1による回答を次に示す。

抜粋10

01 T2: じゃワードにもう入れてる。
02 S1: なんか私ワードに入れ方がよくわかんなくていまだに[ネットで使ってます@@]
03 T2: [˚@@@°]
04 T2: あっ,/T1: あ/ あの,コピー[アンドペーストで上げて]
05 S1: [そーう@]
06 T2: チェックして。ワードに落とせますよ /T1: あ/ PCに。
07 S1: うん,友達それでやってます。

S1はMicrosoft Word上でGrammarlyを使う方法が「よくわかんなくて」,Grammarlyのウェブサイトにログインしてブラウザ上で使っている,と明かす。06行目で,T2がPCにインストールすればWordに組み込めると教示すると,S1の友人はそうしていると応じる。つまり,S1は GrammarlyをPCにインストールできること自体は把握しており,その手順や使い方を知っている友人も周囲にいる。その友人に訊くなどしてWord上でGrammarlyを併用できる可能性があるものの,そうした拡張性をあえて利用していないと解釈できる。

また,留学中の特徴として,Grammarlyがほぼ不可欠となっていたことがうかがえる。S1やS3はアメリカの大学の学部正規課程で学んだため,英語を母語とする学生と同じ課題に取り組むことになった。二人とも書く量の多さと提出までの期間の短さに苦労した,と振り返る。例えば,S1は抜粋4(4.1.1参照)で,「時間に追われて」機械翻訳DeepLを用いたと明かした。しかし,詳しく聞いていくと,時間的なプレッシャーだけでなく,留学先の教師による働きかけも,機械翻訳やGrammarlyの利用を後押ししていたことがわかった。

抜粋11

01
02
T1: なんかその,テクノロジーをライティングに使うことについてなんかこう注意とかって ((C大学)) なり ((B語学学校)) なりでありましたか。
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S1: うーん,どうだろう,((C大学)) はその,それこそみんながネイティブ /T2:うん/ だから /T1:うん/ そもそもたぶんそれを使う必要もそんなにないのかなっていうスタンスだと思うので,うーん,なんか,な,でも「全然使っていいよ」とも言われたし,何ならその,なんかその,やっぱり母国語じゃないからってのは最初にその,「なんかたまに英語とかも分かんないかもしれないけど全力で頑張るから支えてもらえたらうれしいです」みたいなことを伝えてたりしたんですけど,そのもうなんか分かってくれ, /T1:うーん/ くださっているから,そうなんか私たちが別に「だいじょぶだよ」っていう場面でも,そうなんか「もう分かんなかったら翻訳かけていいからね」とかって /T2: @/ 言われ /T1: あー/ たり。 ((中略)) なんか全然そのなんか技術?そうテクノロジーに頼ることは悪くないっていうのは ((C大学)) では言われて。

英語ライティング支援ツールのようなテクノロジーの利用に対する留学先の方針についてT1が質問したところ,S1は利用を禁止されるどころかむしろ推奨された,とC大学の教師による発話を複数引用しながら再現した。「全然使っていいよ」と言われた(05行目)だけでなく,S1が「だいじょぶだよ」(10行目)とツールを援用せず自力で対処できる場面でも,「分かんなかったら翻訳かけていいからね」と促されたという。

S4とS5は,S1とは別の留学先である,D大学の入学準備課程で学んだ。S4とS5は,授業によっては教師による添削指導とGrammarlyによるフィードバックが並行して与えられ,両者の役割が明確に分けられていた,と語る。

抜粋12

01
02
T1: え,なんかその,ワードだとスペルチェック機能とか付いてると思うんですけど使ってました?ワードのスペルチェック。
03 S4: 使ってましたね。/T1: ました/
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S5: なんか1人の結構丁寧なほうだった先生はGrammarlyの /T1: あ/ 勝手にもうなんか/T2: うんうん/ 出てくるじゃないですか。それとかをもうばんって逆にこっちに渡してくるみたいな,なんかもう内容とかは結構先生が,の先生 /T1: あーあー/ 自身のコメントだけど /T1: あーあー/ もうワード9,うん,文法? /T1:うん/ とかはもう,先生もそれに頼って /T1: あーあー/ 「これ見といて」みたいな感じの /S4: うんうん/ 人もいました。 /T2: うん/
10 T1: あーGrammarlyつ,も使って,先生が使ってそれを学生にフィードバックしてた。
11 S5: あそうです。/S4: うん/

S5によれば,文章の構成や内容および資料の取り扱いなどは教員が添削指導し,語彙や文法などの誤りは教員がGrammarlyのフィードバックを学生に渡し,「これ(筆者注:Grammarlyのフィードバックを)見といて」と指示することもあったという(08行目)。

5. まとめと考察

留学をカリキュラムに組み込んでいるA学科では,留学準備として,また留学中や留学後のアカデミック・ライティングの機会を見据えて,Grammarlyを1年次前期から全学生に導入している。本調査では,留学を終えた上級生を対象として,1.Grammarlyに対する評価とその理由,2.Grammarlyの利用の仕方についてインタビューを実施した。新入生を対象とした質問紙調査(山本・鈴木, 2023)では,大学入学時はGrammarlyによる添削に消極的な回答が過半数を占めていたが,少なくとも今回の調査対象となった5名についていえば,うち4名が肯定的な評価に至っていることが判明した。その理由として,Grammarlyの修正フィードバックの即時性と代替表現の提案が挙がった。入学当初は必修のアカデミック・ライティング科目担当教員がGrammarlyを使うよう促していたが,学生達はそのような働きかけがなくなった進級後,また留学中も,継続して自発的にGrammarlyを用いていたことや,独力でその設定を調節していたことも明らかになった。ただし,Microsoft Wordへのアドインのような拡張機能までは用いていなかった。

Grammarlyの継続的・自発的な利用の背景には,留学中の学び方の影響が見られた。留学先の授業で与えられる課題の多さや求められる水準の高さに加え,教師による非母語話者学生への配慮,教師とGrammarlyの役割分担が,学生のGrammarlyの利用を促進したと考えられる。

一方で,Grammarlyを否定的に捉えながら利用していた学生もいたことが明らかになった。この学生の語りからは,Grammarlyの修正フィードバックや提案をもとに改稿していくうちに本来表現したかった事柄が別のものに変わっていってしまった不満,Grammarlyの基盤技術であるAI への不信感が読み取れた。

本調査によって,これまでに研究者や教師がGrammarlyの利点として挙げていた即時の修正フィードバックと多様な代替表現の提案が,使い手である学生にも確かに認識され,それらが積極的な利用につながっていると示された。また,研究者・教師が懸念として指摘した過剰な修正や伝達内容の改変についても,一部の学生は同様の問題意識を抱いており,それが積極的な使用をためらわせる要因となっていたことが浮き彫りとなった。学生と教師はいずれもGrammarlyを利用したライティング教育実践の当事者であるが,両者が知識や立場の非対称性を越えて,このツールを用いるメリットとデメリットについて共通の認識を持っていることが,本調査を通して明らかになったといえる。

最後に,本調査から得られたアカデミック・ライティング指導への示唆と,今後の課題について述べる。Grammarlyによるフィードバックや提案を学習者がどのように捉えるかによって,その利用態度は異なることが明らかになった。すなわち,Grammarlyによる修正候補や提案を,ライティング能力の向上や効率的な時間の使い方に役立つものとみるか,書き手の意図を歪めるおそれのある危険なものとみるか,学生によって捉え方が異なる。どちらの捉え方も誤りではないと思われることから,Grammarlyをはじめとする英語ライティング支援ツールを導入し使用を推奨する場合は,両方に目配りした指導と評価基準が求められよう。生成AIを利用したツールは,協働学習や自律的学習に展開できるとされるが(金丸, 2024; Barrot, 2022),グループワークなど協働学習ではツールの利用姿勢が異なる学生たちが協力しあうこととなる。協働的な学習活動でどのようにGrammarlyを利用させるかについては,注意深く検討する必要があるだろう。両方のバランスをとるための案として,書き手どうしで誤りを見つけ修正する機会や,Grammarlyを用いた後に,本来の執筆意図や伝達したい情報と乖離していないか議論させる機会を組み入れるなどが考えられる。また,本調査では2,3年生を調査対象としたことから,より高い自律性が求められるライティング課題である卒業論文の執筆については,聞き取りができなかった。Grammarly導入後の効果を検証する一環として,調査を行いたい。

謝辞

本稿は,第17回JACET関東支部大会(2024年7月6日青山学院大学青山キャンパス)にて行った研究発表に加筆・修正を加えたものです。貴重なコメントをくださった方々,査読者・編集委員の皆様にお礼を申し上げます。また,インタビュー調査参加者5名に感謝を記します。調査の一部はJSPS科研費 21K00658の助成を受けて行われました。

1 本研究では保田(2024, p. 11)と同じく,ライティングを「エッセイや論文などの一定の分量を伴い,特定の読み手に向けて特定の目的を達成するために執筆されるコミュニケーションを意図した文章の作成」と定義し,日本語から英語への訳出や,文脈がない状態で単文を産出する活動は含めない。

2 新入生の多くはGrammarlyなどのライティング支援ツールになじみがないと想定し,ツールの名称ではなく「自動添削アプリ」と表現した。

3 TOEIC® Listening & Reading IPテストを受験した時期は,S1,S2が調査から約2ヶ月後,S3,S4,S5が調査の約1ヶ月前である。

4 T1とT2は大学教員であり,調査対象者が1年次に履修したアカデミック・ライティング科目を担当した経験がある。

5 小玉(2019)では,語りに現れる引用を「語り手が話していることばを,だれかの発話ないしは思考(心内発話)として語りに取り込み,提示する行為である」と定義し,その話法は「そのことばをだれかの発話ないしは思考として提示するために使用される,引用句を伴った言語的方法」と述べている。本稿の分析では,小玉(2019)を参考にし,「ッテ」「ト」および「トカ」「ミタイナ」が後続するものを対象とした。

6 調査対象者が語った内容だけでなく,語り方,すなわちどのように語ったのかに注意をはらうことから,本調査はライフストーリー・インタビュー(桜井, 2002)の対話的構築主義アプローチと重なる。調査対象者の発言の全てをそのまま事実とみなすのではなく,対象者と聞き手の相互行為を観察し,やりとりを通して描き出された「今ここ」や「あのときあの場」での状態・出来事に解釈を加えるという立場である。

7 1年次後期のアカデミック・ライティング科目では,Criterionという自動評定ツールも導入していた。履修者は,Grammarlyに加えて,Criterionでエッセイの構造や論旨展開について評価を受け,フィードバックに基づいて構成や内容を推敲することになっていた。

8 Grammarlyの設定や拡張機能については,A学科のICT担当教員が新入生全体にライセンス付与に合わせて解説した。その後は,アカデミック・ライティング科目の各クラスの担当教員の裁量に委ねられ,各教員が授業の進行などに合わせて,説明を適宜加えていた。ただし,調査対象者が1年次在学中は,新型コロナウィルス感染症の拡大防止のため,ほぼ全ての授業がZoomを利用しオンラインで行われた。教員側から学生一人ひとりの設定状態を確認したり,個別に指導やサポートしたりすることは困難であったため(抜粋9の01,02行目も参照),調査対象者が1年次の間に設定方法についてどの程度まで理解できていたかは不明である。

9 01,02行目のT1発話中の「ワード」はMicrosoft Wordを意味する。07行目のS5発話中の「ワード」はMicrosoft Wordを指す可能性もあるが,授業におけるGrammarly利用について説明しているターンの中にあり,かつ直後に「文法」と続けていることから,文法と並ぶ添削の対象として語を意味していると見られる。

引用文献
付録

付録1 文字化記号一覧

下降調イントネーション
下降調であるが発話が続くイントネーション
上昇調イントネーション
直前の音の引き延ばし
@ 笑い
二者の発話の途切れのないつながり
° 小さい声
[xxx] 同時発話
/xxx/ あいづち
「xxx」 引用発話
((xxx )) 筆者による注記

紙幅の都合により,あいづち(「話し手が発話権を行使している間に,聞き手が話し手から送られた情報を共有したことを伝える表現」堀口, 1997, p. 42)は原則として改行をせず/ /でくくり,話し手のターン内に含めている。

付録2 倫理審査および利益相反

インタビュー調査の実施にあたっては,調査対象者が在籍する大学において倫理審査委員会の承認を受けた。調査協力は自由意志とし,成績評価などに不利益がないこと,いかなる時点でもオプトアウトが可能であること,その他のリスクと報酬,研究結果の公表の可能性などについて説明し,協力を承諾した本人から書面による同意を得た。本稿の第一著者,第二著者ともに,Grammarly, Inc.を含め特定の企業との利益相反はない。

 
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