Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Surgery of primary hyperparathyroidism
Nobuhiro Fukunari
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2012 Volume 29 Issue 1 Pages 16-20

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抄録

原発性副甲状腺機能亢進症は,術中に全ての副甲状腺を確認,生検する両側頸部検索が推奨された時代から,超音波やCTの登場により,術前に責任病変の局在診断を行い,腫大腺のある片側のみの検索が推奨されたのが1970年台である。その後,USの精度上昇と201Tl-99mTcシンチの開発があり,1990年台に99mTc-MIBIを用いた副甲状腺シンチが登場し,一挙に責任病変のみを摘出するFocused approachが提唱された。また,術中迅速PTH測定法やradio-guided imagingといった術中支援システムも臨床導入されることで腫大腺のみの摘出を行うFocused Parathyroidectomyが主流となってきた。基盤となる画像診断の進歩に伴うこのような変化は,画像診断方法や手術アプローチの違いのみにとどまらず,無症候性や症状も軽い病態が発見される機会も増えてきている。またバイオフォスホネートを主とした薬物治療に関しても新たな知見が蓄積されており,日々,診断・治療に関して進化していく局面が顕著に表れているのも原発性副甲状腺疾患の特徴と考えられる。

はじめに

原発性副甲状腺機能亢進症(Primary Hyperparathyroidism:PHPT)は,欧米では40才以上の女性500名に1名,男性2,000名に1名の頻度で発見されると報告されている。臨床的に明らかな症状を呈している症例に対して,画像診断や血液生化学検査が今ほど十分な精度を持たなかった時代では,「不要な検査を行うより,熟練した内分泌外科医を探せ」と言われていたのも事実である。術中に全ての副甲状腺を確認,生検する両側頸部検索が推奨された時代から,超音波やCTの登場により,術前に責任病変の局在診断を行い,腫大腺のある片側のみの検索が推奨されたのが1970年台である。その後,USの精度上昇と201Tl-99mTcサブトラクションシンチの開発があり,1990年台に99mTc-MIBIを用いた副甲状腺シンチが登場し,一挙に責任病変のみを摘出するFocused approachが提唱された。また,術中迅速PTH測定法(quick PTH assay)やradio-guided imagingといった術中支援システムも臨床導入されることで腫大腺のみの摘出を行うFocused Parathyroidectomyが主流となってきた。基盤となる画像診断の進歩に伴うこのような変化は,画像診断方法や手術アプローチの違いのみにとどまらず,無症候性や症状も軽症のPHPTが発見される場合も増えてきている。またバイオフォスホネートを主とした薬物治療に関しても,新たな知見が蓄積されている。日々,診断・治療に関して進化していく局面が顕著に表れているのも原発性副甲状腺疾患の特徴と考えられる。現在,内分泌外科医として原発性副甲状腺機能亢進症に対し求められるのは以下の項目であり,個々に記載し,概略を述べる。

1)手術適応(経過観察すべきか?薬物治療の適応は?)

2)局在診断

3)多腺病変への対応(MEN1型への対応)

4)手術方法の選択(Focused approach?小切開,鏡視下手術の適応)

5)術中Monitoring, Navigation画像診断の応用

6)副甲状腺癌の診断と加療方針

1)手術適応

尿路結石や腎障害,骨量の低下,骨折,あるいは高Ca血症による消化器症状,意識障害などを伴う症候性のPHPTに関して手術適応は異論のないところと考えられる。問題は半数以上を占める無症候性に対する治療法の選択である。疾患の予後や手術の有無による自然経過などを考慮する必要があり,1990年10月にNIHが主体となって有識者によるコンセンサスミーティングが開催され,無症候性PHPTの診断,治療に対する声明が発表された[1]。手術適応に関しては2002年に改定され,骨密度の評価方法・部位や高Ca血症の項目が変更された。更に2008年に改訂され,新たなガイドラインが出来上がっている (表1)

表1. NIHガイドライン2008

経過観察可能な無症候性PHPTに対しては,2008年のガイドラインでは,年に1回の血清Ca,Crの測定および骨密度(3部位:撓骨,腰椎,大腿骨)の測定(1回/1-2年)が勧められている[2]

外科的切除以外に薬物治療やInterventionも軽症の無症候性PHPTや外科治療困難な高Ca血症に対して行われている。特に軽症例に関しては,ビスフォスフォネートの投与が血中Ca濃度は低下させないが,骨密度を上昇させるという報告が多く,実臨床では数多く用いられている[3]。また,Interventionに関しては経皮的エタノール注入療法(Percutaneous Ethanol Injection:(PEI)やinterstitial laser photocoagulation(ILP),radiofrequency ablation(RFA),high intensity focused ultrasonography(HIFU)などが臨床的に試行されている。PEI自体は,我が国では2HPT症例に対して多くの実績があるが,PHPTに関しての報告は乏しく,施行後に癒着により手術困難となることも懸念されており,臨床的な集積が必要である。

Calcimimeticsはカルシウム感知受容体にCa擬似用に作用する薬剤の総称であるが,第二世代のCinacalcet HCLは,細胞外Caに対する感受性を増強することによってPTH分泌を抑制する。2HPTに対する治療薬として多くの国で認可,使用されているが,このCinacalcetの外科的治療困難な高Ca血症に対する有効性が認められつつある[4]。特に切除不可能な副甲状腺癌における高Ca血症の治療として期待されており,我が国での保険適応が望まれている。

2)局在診断

臨床症状を有するか,血中Ca値高値で発見されるPHPTの診断において,血中intact-PTH測定の次に行うべき検査のFirst choiceは超音波による責任病変の検索であることは異論の余地は無い。Parathyroid adenomaにおける超音波所見の特徴はTear-drop状から楕円形の腫瘤を形成し,その境界部エコーは明瞭,整である。内部エコーは均一で,甲状腺実質に比べ低エコーを呈する。ドプラでは,豊富な血流を認め,リンパ節や甲状腺腫瘍との鑑別に有用である[5] (図1a,b) 。しかしながら,最新の高分解能超音波装置でも全ての病変を検出出来るわけではなく,副甲状腺腺腫を発見出来る推定値は51-96%と報告されており,値の幅が大きい。そのばらつきの原因は,1)超音波機器の性能,検査者の経験,技能 2)甲状腺合併病院,頸部リンパ節腫大の有無などによるものと思われる。またUS施行前にMIBIシンチにて部位確認が既になされた後のUS検査であれば,その感度も向上するものと思われる。当然のことながら,縦隔内部や気管,食道後方などのUSの死角に入る部位ではUSは無効であり,CT,MRIの助けを必要とする。

図1.

a:副甲状腺腺腫超音波Bモード像。b:副甲状腺腺腫ドプラ像 腫瘍内部の豊富な血流が表示される。

2010年4月1日より我が国で保険適応となったTecnetium-99m methoxyisobutylisonitril (99mTC-MIBI)は従来の201-Tlに比べ,被曝が少なく,解像力が高い。甲状腺からのクリアンランスが高く,1つの核種でも診断が可能である[6,7 (図2a,b) 。またMIBIにおいてはSPECT(Single photon emission CT)が可能であることも有用な点である[8]

図2.

a:99mTc-MIBI(early)甲状腺および右下副甲状腺に集積を認める。b:99mTc-MIBI(delayed)甲状腺はWash outされ,副甲状腺の集積が残る。

この様な高感度なUSとMIBIシンチによる責任病変の局在診断が高い成績で可能となって,初めてFocused approachが開始されたのである。一方,従来行われていた静脈Samplingは実施される機会は激減している。それは術前の画像診断のみならず,術中Radio-guided imagingやquick PTH assayといった方法により,局在診断困難症例においても,より確実な検査法が開発されたことに起因するものと思われる。

3)多腺病変への対応,MEN1型への対応

PHPTの原因としては,腺腫によるものが83%,過形成によるものが15%,Double adenomaによるものが1-2%,癌によるものが1%以下とされている[9]。臨床的には単腺腫大が腺腫,全腺腫大が過形成であるが,Double adenomaに関しては部分的な過形成とも,2個の腺腫が偶発的に発生したとも考えられている。注意しなければならないのは,MEN1型では90%の患者で30-50才にPHPTを発症し,MEN2A型においては,20-30%PHPTを発症すると言われていることである[10]

原因遺伝子の話はここでは省くが,PHPTの家族歴を有する症例では多数腺の可能性を念頭におくことが必要である。また,多腺病変の場合に問題となるのは,単発病変に比べ,USおよびMIBIシンチの精度が劣ることである[11]。この様な多腺病変に対する治療は,画像診断精度のこともあり,基本的には両側検索をすることが望ましいが,quick PTH assayなどを用いて改善できる余地は残っている。術式自体は,2-3腺腫大,他腺は非腫大であれば,温存で問題はない。問題となるのはMEN1型の場合であり,副甲状腺全摘+自家移植か?亜全摘か?で意見が分かれている[12]。一方,MEN2A型ではPHPTの頻度は高くないが,甲状腺髄様癌合併の頻度は高く,リンパ節郭清の範囲適応などとも関与した問題となっている。

4)手術方法の選択

単腺腫大か,多腺腫大かによって手術方法は大きく異なってくる。単腺腫大であれば,厳密な術前局在診断の元に,しかもUSおよびMIBIシンチの結果が一致した場合にはFocused surgeryを試みるのが現在の流れであろう。多腺腫大に対しては,Conventional Bilateral Approach(CBA)が主体となると思われるが,正中からアプローチする完全内視鏡型副甲状腺摘除術(Total Endoscopic Parathyroidectomy:TEP)[13]や内視鏡補助下副甲状腺摘除術(Video-Assisted Parathyroidectomy by central approach:VAPC)[14]も経験を積んだ術者であれば可能な方法の1つである。何れにしても,小切開,video-assist, 完全内視鏡手術においては,専用の筋鈎,照明,止血器具などが必要であり,通常の手術機材のままでは施行困難な場合も多く,術者の経験,技量と共に専用の道具も必要となる。低侵襲手術となるためには,皮膚切開の小ささ,整容性のみを意味するのではなく,手術時間の大幅な延長や合併症頻度増加,治癒率の低下があってはならない。個々の症例に対して,執刀医の経験,施設にて行える画像診断能力,手術機材など全てを考慮してこそ,最善の加療法となるものと考える。

5)術中Monitoring,Navigation

PHPT手術における外科医の危惧するところは,術前画像診断で指摘された病巣が確認できるかどうか?また完全に責任病巣を取り切れたか?(取り残しは無いか?)である。古典的な頸部両側検索ならまだしも,Focused approachになれば,その危惧はより深まってくる。1980年後半より腫大腺の術中同定を目的にメチレンブルー染色を用いる方法が報告され,その後1990年前半には各種固形癌におけるSentinel LNの概念が一般化し,SNBの術中検索用に色素法のみならずTracerを用いたNavigationが開始された。1990年後半には,HPT手術に99mTc-MIBIを用いた術中ラジオガイド法(Intraoperative radio-guided navigation)が臨床導入され始めた[15]。また,術中PTH迅速測定法も1990年前半から開始され,PTHの低下から完全摘出を確認できるToolとして臨床応用が進んでおり,特にminimally invasive surgeryにおいて有用な術中測定法となっている[16]

6)副甲状腺癌の診断と加療方針

PHPTの1-5%を占める稀な疾患であり,癌の進行による局所浸潤,遠隔転移や制御困難な高Ca血症を呈することがある。過去の報告によると10年生存率は15-96%と報告されている。特徴的な臨床所見としては,12㎎/dl以上の著明な高Ca血症,腫瘤触知が知られている。穿刺吸引細胞診も禁忌であり,術前診断を確定することは不可能であるが,超音波にてD/W比(縦/横比)が高く,内部エコーは斑状,不均一となることが多い (図3)

図3.

副甲状腺癌 超音波Bモード像。3cm大,形状不整であり,内部エコー不均一。

術中肉眼所見における腫瘍と周囲組織の癒着は,悪性を疑わせる所見として重要であり,腫瘍被膜を破ることなく,en blocに摘出する必要がある。反回神経,食道,気管への浸潤があれば合併切除すべきであり,甲状腺分化癌の手術と大きく異なることに留意すべきである。術後放射線照射の有用性に関しては定まった意見はなく,切除不可能な転移巣,再発巣に対しては,ガンマナイフ,RFAなど様々な加療が試行されている[17]。副甲状腺癌の主な死因は高Ca血症による合併症であることから,できうる限りのReduction surgeryを行い,CalcimimeticsであるCinacalcetの効果に期待する以外には有用な手立てはない(前述)。

おわりに

PHPTの診断と治療は,ここ20-30年の間に急激に変化,進歩を遂げている。Professionalな内分泌外科医の牙城でもあったこの疾患も,画像診断能の向上とともに普遍化され,より低侵襲な加療が可能となってきている。しかし忘れてはならないことは,限られた医療資源のなかで全ての検査を網羅し,疾患全例に最先端の加療を行うことが最善の道ではない。自らの技量,経験,当該施設における資材を極めて有効に利用し,個々の患者さんにとって最適の診断方法,加療方法を決定するのが専門医の努めである。

【文 献】
 

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