Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Surgical Treatment for Renal Hyperparathyroidism
Yoshihiro Tominaga
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2012 Volume 29 Issue 1 Pages 21-25

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抄録

Cinacalcet HCl(Cinacalcet)の登場はわが国の腎性副甲状腺機能亢進症(RHPT)の治療方針にも少なからず影響を与えている。原則的にはCinacalcetを含めた内科的治療に抵抗する症例は副甲状腺摘出術(PTx)の適応となる。わが国では長期間の血液透析を要する症例が多いため,長期的展望,経済性も含め,PTxの適応を考えるべきである。一方,手術でRHPTを改善させることが困難な病態が存在する。それらの症例にはCinacalcetはrescuer療法としてPTxに優先して適応になる。Cinacalcet導入後も術式には変化なく,副甲状腺全摘出後前腕筋肉内自家移植術が適切である。Cinacalcetが誘導すると考えられる組織学的変化は全ての副甲状腺の確認を困難とし,反回神経を含む副甲状腺周囲の癒着が認められることがあるので留意が必要である。

1)はじめに

副甲状腺を刺激する要因が持続することによって発症する副甲状腺機能亢進症(Hyperparathyroidism:HPT)を二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)と呼ぶ。臨床的に問題となり,外科手術の対象となるのは,慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)によって引き起こされる腎性(Renal:R)HPTである。本稿ではRHPTに関して,最近のこの分野のトピックスも交えて概説する。

カルシウム(Calcium:Ca),リン(Phosphate:P)代謝に関しては,まだ解決されていない点が多々存在する。今日のトピックスは最近確認されたFGF23/Klotho系であり,活発に研究されている。RHPTはCa,P代謝の病態を解明する為に多くの情報を与えている。

CKDによるミネラル代謝・骨・異常(CKD-MBD)は,骨障害(腎性骨異栄養症:ROD)を引き起こすのではあるが,むしろ心血管系合併症により生命予後に著しい影響を与えることが注目されている。CKD-MBDの病態の中で最も重大な要因はRHPTであり,RHPTの管理も心血管系合併症の進展阻止を目的に築かれてきた。日本透析医学会(Japanese Society of Dialysis Therapy:JSDT)が提唱したガイドラインもこの見地に立って2006年に作成され,さらに2011年versionrが提示されている[1]

RHPTに対する治療は,(1)内科的治療の進歩(2)治療ガイドライン(3)医療経済によって影響を受ける。最近のRHPTに関する内科的治療の進歩は目覚しい。特にCa擬似性作動薬(Calcimimetics)の一つであるCinacalcet HCl(Cinacalcet)は外科治療を含むRHPTの治療に大きな影響を与えている。

Cinacalcetを含めRHPTの内科的治療は高額であり,国によっては薬剤の使用に制約がある。副甲状腺摘出術(Parathyroidectomy:PTx)の医療経済上の優位性についても幾つかの報告がある。

われわれは2008年10月RHTPに対して日常的にPTxを施行している109施設が参加し,二次性副甲状腺機能亢進症に対するPTx研究会(Parathyroid Surgeons’ Society of Japan:PSSJ)を設立した。本研究会ではわが国のRHPTに対する現況を症例登録制を基に把握すると共に,外科医側より内科医側に統一してPTxの適応を提唱することを目的にしている。更に技術の研鑽,情報の共有,共同研究,世界への発信を目指している。

以上の点を以下に概説する。

2)腎性副甲状腺機能亢進症の発症機序とFGF23/Klotho系

RHPTの発症機序について 図1 に示す。要約すると,低Ca血症,Pの負荷(高P血症)活性型ビタミンD(vitamin:vitD)の欠乏が主たる病因であるが,骨での副甲状腺ホルモン(Parathyroid hormone:PTH)に対する抵抗性,Ca受容体(Ca sensing receptor:CaSR),Vitamin D receptor(VDR)の発現低下が加わり,病態は複雑である。

図1.

Pathogenesis of secondary hyperparathyroidism

最近のトピックスはFGF(fibroblast growth factor)23である。FGF23は骨細胞で産生され,腎臓の近位尿細管に存在するFGF receptorと老化進展に関与するklothoとの複合体にbindingし,Na-P transporter(Napt2a,Napt2c)の作用を抑制し尿中へのPの排泄を促進する。また25(OH)D-1α-水酸化酵素を阻害し,活性型vitDを低下させ,腸でのPの吸収を低下させる。またFGF23は副甲状腺にも作用しPTHを低下させ,活性型vitDを低下し,腸管でのPの吸収を低下させる。CKDでは血中Pが上昇する以前よりFGF23は上昇し,P利尿を促進する。血液透析患者ではFGF23は著しく高値を示すが,klothoの発現が副甲状腺細胞膜では減少しており,PTH分泌が抑制されないと報告されている。血中FGF23レベルが,CKD患者の予後を予測可能との報告も散見される[2]

3 )腎性副甲状腺機能亢進症に対する内科的治療

JSDT version 2011年における透析患者におけるRHPT推奨目標値は透析前で測定し,血清P値 3.5-6.0mg/dL,補正Ca値 8.4-10.0mg.dL,intact-PTH値 60-240pg/mLである。十分な血液透析,食事の管理,薬物療法にて,目標値に入るように管理する。 表1 に現在可能な薬剤を提示する。最近のRHPTに関する内科的治療の進歩は目覚しく,われわれは新しい武器を獲得することが出来た。VDR activatorに始まり,カルシウム非含有リン吸着剤(Sevelamer HCl, Lanthanum carbonate)そして,Calcimimetics(Cinacalcet)が挙げられる。

表1. 二次性副甲状腺機能症の治療手段

Cinacalcet(シナカルセト,商品名レグパラ錠)はCaSRにallostericに作用し,細胞外カルシウムに対する感受性を増強することによってPTHの分泌を抑制する薬剤である。欧米を中心に多くの基礎的研究成果,臨床的有用性に関する論文が,報告されている[35]。

シナカルセトはわが国では2008年1月より使用可能となった。シナカルセト登場がわが国のRHPTに対するPTxに大きな影響を及ぼしていることは否めない。

4 )わが国の腎性副甲状腺機能亢進症に対する副甲状腺摘出術の現況

図2 にPSSJによるわが国のRHPTに対する年次別PTx件数を示す。2004年1,137件,その後2007年まで年々増加し1,749件となった。2007年度の増加は2006年JSDTの透析患者におけるSHPTの治療ガイドラインが提示され,内科的治療に抵抗するRHPTでは比較的早期にPTxが推奨された為と考える。2008年1月にCinacalcetが使用可能となり,以後PTx症例数は激減し,2010年度は448件となった。

図2.

Annual number of PTx for 2HPT in Japan

Cinacalcet導入後PTxが激減した為,当然各施設ごとの手術件数も減少した。2007年度は年間20件以上施行していた施設が26施設存在したが,2010年度は6施設に減少した。手術の技術習得を考えると問題である。PSSJでは施設の枠を超えたPTxの研修・研鑽システムを構築している。詳細はPSSJのホームページ(http://2hpt-japs.jp)を参照されたい。

5 )Cinacalcet導入後のPTx適応

JSDT ガイドライン2011年versionではi-PTH>500pg/mLをPTxを選択する基準としている。PTH値がそれ以下の値でも,高Ca血症,高P血症が内科的治療で管理できない場合にはPTxを考慮すべきと提唱している。超音波検査(US)にて測定した推定体積>500mm3または最大径>1cmに腫大した副甲状腺が確認されることは,内科的治療の抵抗性を判断するsupportive factorとなる。もちろんQOLを妨げる自覚症状が存在する場合,骨回転が著しく亢進している症例ではPTxが絶対適応となる[1]

Cinacalcetの臨床的特性と,注意点を 表2 に示す。これを基にわれわれは,Cinacalcet導入後のPTxの適応を 表3 に示す様に提唱してきた。PTxの効果は(1)最も劇的にSHPTを改善させる。(2)術後血清P,Ca値を示適濃度に維持しやすい。(3)QOLを改善させる。(4)生命予後を改善させる。(5)経済性が高い。に要約される。QOLの改善,生命予後の改善については多くの報告がある[6]

表2. シナカルセトの特性
表3. Cinacalcet 導入後の副甲状腺摘出術の適応

PTxの経済性の高さについては幾つかの報告がある。アメリカのシミュレーションではどのような条件を加味してみても治療開始約9ヶ月で,PTxはCinacalcetに経済効率で勝ると報告している[7]。ドイツの報告でも同様に治療開始後約8ヶ月でPTxがCinacalcetに経済性的に勝ると報告している[8]

Cinacalcetを使用したが,PTHの改善が十分でない,あるいは消化器症状などでCinacalcetの継続が困難と考えられる症例では,生命予後,QOLを考えると,速やかにPTxに委ねるべきである[9]

6 )腎性副甲状腺機能亢進症に対するPTxの術式

RHPTに対する術式を 表4 に示した。われわれは従来より,(1)術後も骨回転を考慮して適切な副甲状腺機能を維持する。(2)再発時低侵襲に移植副甲状腺組織を切除可能。と言った点より副甲状腺全摘出後前腕筋肉内自家移植術を採用してきた[6]。Cinacalcet導入後も術式は変更していない。PSSJの調査でもわが国のRPTHに対する初回手術の80%の症例で本術式が採用されている。Alternative procedureとしては全摘出術(without autograft)が挙げられるが,両者のrandom prospective studyは世界的にもなく,両者の選択は腎移植を希望していなければ,術者の好みとされている[6]。どちらの術式を用いても,初回手術ですべての腺を確認切除することが求められる。頸部創からの胸腺切除はルーチンに行われるべきである。外科医には副甲状腺の発生,解剖に熟知し,副甲状腺を確認できる眼が要求され,たゆまぬ努力が必要である[1011]。われわれは全摘出後前腕筋肉内自家移植術施行約3,000例の経験を有するが,大きな問題はなく,今後も同術式を継続する予定である。

表4. 腎性副甲状腺機能亢進症の術式

7 )Cinacalcet導入後のPTxの実際

Cinacalcet導入後のPTx症例の特徴で気になる点を以下に示す。

(1)十分な内科的治療のためか,高骨回転(AL-P高値)症例が少ない。よって,大量な術後カルシウム補充療法を必要とする症例は少ない。

(2)不均一な副甲状腺の腫大例(asymmetric enlargement)が多い。つまり1,2腺は著しく腫大しているが残りの腺は小さく,時に正常大で,探索,摘出が困難である。われわれは術中PTH assayを施行し,確実に全腺切除できたことを確認するとともに,過度な侵襲的な操作を回避している。

(3)Cinacalcetによると考えられる副甲状腺の組織学的変化としてはfollicular degeneration, cystic change,出血性梗塞,線維化などが挙げられる。出血性梗塞は周囲組織に癒着し,反回神経の同定,温存を困難にする。われわれは神経刺激装置をルーチンに使用し,術中反回神経を同定するとともに,副甲状腺確認のランドマークとしている[11]

特に上記(2),(3)によりPTxは以前より難しくなったと感じている。各施設のPTxの件数が減少しているので,施設の枠を超えた技術研修が必要と考えている。

副甲状腺の組織変化については,Cinacalcet特有なのか,その機序はどうなのかなど明らかにすべき点が多々存在する。

8 )外科医の立場でCinacalcetに期待すること

外科手術が困難な症例に対するrescuer therapyとしてCinacalcetは期待される (表5)

表5. 副甲状腺摘出術が困難でCinacalcetを優先すべき症例

(1)High risk症例

長期透析患者がPTxの対象となる為,全身麻酔,手術に対するhigh risk症例には日常的に遭遇する。高齢透析患者(一概には言えないが生命予後を勘案すると80歳以上が妥当か),高度な心血管系合併症,呼吸機能障害,肝障害,などを有している症例では,まずCinacalcetを使用するべきであろう[12]。実際には,high risk症例に対してはCinacalcetで対応したいのだが,Cinacalcetが内服困難,RHPTがCinacalcetで反応しない症例も少なからず存在し,Cinacalcet導入前と同様心血管系合併症に留意しながら手術を施行している。

(2)異所性副甲状腺の摘出

副甲状腺が時に異所性に存在することはよく知られている[10]。問題となる位置は,縦隔内,甲状腺内完全埋没,下降不全(顎下部,下咽頭,上咽頭),などである[11]。原則的に副甲状腺がどこにあろうと部位診断が出来ていれば,手術に臨む。しかし,縦隔内副甲状腺,特にAortico-pulmonary windowに存在する腺の摘出は侵襲が大きくなる。これらの症例に対してもCinacalcetは手術前に試してみる価値はあるであろう。

(3)副甲状腺癌

副甲状腺癌はまれな疾患である。副甲状腺癌の病理的診断は必ずしも容易ではない。所属リンパ節,肺,骨,肝,脳への転移が報告されており,転移により副甲状腺癌の診断が得られる症例が半数を占めると報告されている。一般に,化学療法,放射線療法にも反応しない。死因は高Ca血症のため,可及的に局所再発部位,転移部位の切除が推奨されている[13]。RHPTでの副甲状腺癌の頻度は原発性HPTに比して更にまれである[14]。われわれは5/2,900例で転移性副甲状腺癌を経験しており,2例を高Ca血症で1例をcalciphylaxisで失った[15]

欧米ではCinacalcetが切除不能な原発性HPTの副甲状腺癌による高Ca血症に使用が認可されている[16]

わが国でも外科的治療が困難な原発性HPT,副甲状腺癌で手術にて改善困難な高Ca血症にCinacalcetが治験の段階に入った。

(4)Parathyromatosis

parathyromatosisには2つのtypeが存在する。問題となるのはtype2で原発性,腎性HPT共に見られる現象である。良性(腺腫,過形成)な副甲状腺細胞が,手術時被膜が損傷などすることにより周囲に播種し,増殖してくる病態である[17]

parathyromatosisの術前画像診断は困難である。再発例で甲状腺表面に多発する結節が超音波検査で確認されればparathyromatosisを疑う。甲状腺もen-blocに切除しても高PTH値を改善させることが困難であることが多い。つまり全ての副甲状腺組織の切除が困難である[18]。このような症例に,Cinacalcetは有効と考えられる[1920]。

(5)再手術症例

副甲状腺全摘出後前腕筋肉内自家移植術後に再発する場合,もっとも高頻度なのは移植副甲状腺由来の再発であり,PTx10年後には約20%症例で移植腺の摘出が必要であった[21]。前腕からの移植副甲状腺の切除は局所麻酔下に低侵襲に可能であり,Cinacalcetの使用よりは原則的に手術を選択すべきである。PTx後の頸部に遺残した腺による再発,持続性HPTの再手術では反回神経麻痺のリスクが高くなる。特に再手術例,経皮的エタノール注入療法,percutaneous ethanol injection therapy:PEIT後の症例で,既に反回神経麻痺が存在し,再手術で,両側反回神経麻痺,気管切開の危険がある症例,再発で病的副甲状腺組織の部位診断が困難な症例などでは,まずCinacalcetを使用し,その反応を観察することは意義あることと考える[22]

おわりに

Cinacalcetの導入はわが国のRHPTの治療に大きな影響を与えPTxの件数を減少させた。しかしながら,PTxを選択した方が適切である症例も少なからず存在し,PTxの適応がより明瞭になってきた。今後医療経済を含めRHPTの治療戦略を構築する必要があるであろう。Cinacalcet導入後,副甲状腺の組織学的変化により,手術は難しくなった。各施設のPTxの件数が減少した現在,施設の枠を超えた,PTxの研修・研鑽のシステム構築が必要である。

【文 献】
 

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