Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Diagnosis and surgical treatment for familial hyperparathyroidism
Shinya Uchino
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2012 Volume 29 Issue 3 Pages 189-192

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抄録

家族性副甲状腺機能亢進症は原発性副甲状腺機能亢進症の約2~5%にみられる。家族性副甲状腺機能亢進症は多発性内分泌腫瘍症1型,2A型,副甲状腺機能亢進症顎腫瘍症候群,家族性孤発性副甲状腺機能亢進症,家族性低カルシウム尿性副甲状腺機能亢進症(FHH)がある。その診断において家族歴聴取は必須であるが,家族歴だけでは判断できない場合も多い。家族性副甲状腺機能亢進症を疑う場合,遺伝子診断としてはMEN1RETHRPT2/cdc73CDKN1BCaSR遺伝子などが対象となり,家族歴や臨床徴候を参考にどの遺伝子を検索するかを考えていく。FHHは尿中カルシウム排泄量が低値となるが,他の疾患はすべて高値となることからFHHは鑑別可能である。FHHは治療適応がなく,その他の家族性副甲状腺機能亢進症は手術対象となる。各疾病で手術法に微妙な違いがあるものの,基本的コンセプトは1腺のみ切除ではなく,副甲状腺全腺切除の対象となることである。家族性副甲状腺機能亢進症は散発性と異なり,診断・治療・管理が大きく異なり,また遺伝カウンセリングや遺伝学的検査の知識・手法が必要となる。

はじめに

家族性副甲状腺機能亢進症は原発性副甲状腺機能亢進症(pHPT)の中でも稀な疾患群であるが,専門医はその診断と治療の要点を熟知しておく必要がある。ここでは各症候群での要点を述べることとする。

1. 多発性内分泌腫瘍症1型

多発性内分泌腫瘍症1型(Multiple endocrine neoplasia type 1;MEN1)はpHPT・胃膵十二指腸内分泌腫瘍・下垂体腫瘍・副腎皮質腫瘍・胸腺神経内分泌腫瘍など,複数の組み合わせで内分泌腫瘍を発生する常染色体優性遺伝疾患である。その頻度はおよそ3~4万人に1人と推定され,90%以上にpHPTを発症し,pHPTはほぼ50歳までに発症する[]。逆に全pHPTからみると,約2~5%がMEN1である[]。原因遺伝子はMEN1癌抑制遺伝子である。

副甲状腺機能亢進症の臨床症状は,MEN1と散発性pHPTとで違いはなく,遺伝子診断で早期に診断された血縁者ではほとんど無症状である。検査所見ではPTHとCaは年齢とともに上昇し,PTHのみ高値で,Ca値は正常上限にとどまるPTH不適当分泌の症例も多く存在する。

MEN1における切除副甲状腺組織の病理組織像は過形成を示し,癌を発生することはほとんどない(図1)。多腺腫大することが多いが,副甲状腺の大きさは大小さまざまである。少なくとも1腺は必ず大きいが,正常大あるいは委縮気味の小さな腺もあり,画像診断で1腺のみが腫れていると誤診される場合がある。

図 1 .

MEN1症例の切除副甲状腺組織

MEN1遺伝子エクソン9にA411P変異を有する50歳代男性MEN1の摘出副甲状腺組織。写真左が患者右側,写真右が患者左側を示す。右下(684mg)と左上(660mg)副甲状腺は明らかに大きく腫大し,右上(110mg)副甲状腺は軽度腫大,左下副甲状腺はほぼ正常に近い大きさ(44mg)であった。左下の半腺を前腕に移植した。病理診断はいずれも過形成であった。

pHPTの診断が確実で,以下の①~④にあてはまる場合は,MEN1の可能性があるため,遺伝カウンセリングを行って,MEN1遺伝子診断を考慮する。①40歳以下の若年発症である場合,②pHPTが多腺性である場合,③MEN1を疑う家族歴がある場合,④患者本人に胃膵十二指腸内分泌腫瘍や下垂体腫瘍の既往がある,あるいは合併が疑われている場合である。

MEN1遺伝子は染色体11q13上に位置し,10のエクソンから成り,610アミノ酸で構成されるmeninタンパクをコードしている。この遺伝子は癌抑制遺伝子であり,通常はgermline mutationに加えて,腫瘍組織で対立遺伝子の欠失が認められる。Meninタンパクは核タンパクであり,翻訳制御,細胞分裂,DNA修復などに関わる非常に多くのタンパク質と相互作用をひきおこすとされている[]。

MEN1の約80~90%にMEN1遺伝子のgermline mutationが証明されるが,中でも家族性MEN1では90%に変異が認められるが,孤発性MEN1では変異は50%にしか認められない[]。変異にはホットスポットはなく,コーディング領域であるエクソン2~10に広く認められる[]。変異の75%はmeninタンパクの合成が途中で中断する変異であり,残りはアミノ酸が置換するミスセンス変異である。通常のシーケンスでは変異が認められない場合,稀ではあるがMEN1遺伝子全体に及ぶ大欠失や,CDKN1B/p27変異(MEN4と呼ぶ)が認められるものもある[]。

術前診断では,超音波検査・頸部CT/MRI・99mTc-sestamibiシンチグラフィーで腫大腺の部位同定を行う。これらの画像診断で全腺描出されなくとも,全腺手術の対象となる。MEN1でも術前画像診断は必要であり,局在診断がつくことにより手術の手順が決まること,縦隔内副甲状腺腫が存在するかどうかを確認する意味で重要である。

手術法は,腫大腺のみを選択して摘出する術式(SGE),3腺~3.5腺切除して0.5~1腺は血流を残した状態でそのまま残しておく亜全摘法(SPTX),全摘して一部(50mg前後)を前腕皮下筋肉内に移植する全摘・前腕移植法(TPTX+AT)がある。SGEは,術後副甲状腺機能低下症をきたさないが,高カルシウム血症が存続し,遺残副甲状腺による高カルシウム血症再発率は約50%と非常に高い[]。SPTXとTPTX+ATはどちらも術後は良好な結果であり,再発率は4~20%で両者に差はない。ただし,術後永久性副甲状腺機能低下症はSPTXでは1~2%に,TPTX+ATでは10~30%に認められ,TPTX+ATに多いという結果である。どの術式を選ぶかは,術者の経験によるが,本邦ではTPTX+ATが好んで施行されているようである。術中int-PTH測定やラジオガイド下副甲状腺摘出などの補助的方法を併用することが望まれる。胸腺内副甲状腺腫は比較的高率に存在するため,MEN1の手術では頸部胸腺はルーチンに合併切除しておく。縦隔内副甲状腺腫の場合は,術前画像診断で明らかである場合にのみ手術適応があり,縦隔の術式は散発性縦隔内副甲状腺腫と同様である。

2. 多発性内分泌腫瘍症2A型

多発性内分泌腫瘍症2A型(Multiple endocrine neoplasia type 2A;MEN2A)は甲状腺髄様癌(MTC),褐色細胞腫(PC),pHPTを発症する常染色体優性遺伝疾患である。頻度はおよそ3~4万人に1人と推定されており,MEN2あるいは家族性甲状腺髄様癌(FMTC)をあわせた中で,その約70%はMEN2Aである[]。MEN2あるいはFMTC全体の中でpHPTの頻度は10~20%であるので,MEN2Aの1/7~2/7にpHPTが発症する計算になる。FMTCはMEN2AのpHPTやPCを発症しにくい亜系とも考えられ,FMTCでもpHPTの合併が稀にあるので,FMTCであっても年に1回のカルシウムスクリーニングが勧められる。原因遺伝子はRET遺伝子であり,中でもエクソン11コドン634変異の場合はpHPT発症頻度が高い。全pHPTの中からみると,MEN2Aは1%以下ときわめて稀である。

MEN2AのpHPTの約70~80%は無症状で発見され,臨床的にはMEN1と同様である。すなわち,病理学的には過形成を示し,全腺腫大することもあれば,一部の腺が腫大して正常腺大の大きさのこともある。診断・治療はMEN1に準じるが,MEN1に比べて再発率は低い。 MEN2AのpHPTの検討では,再発率は15~20%と報告されている[]。

pHPTを伴っていないMEN2の甲状腺全摘術時の副甲状腺予防的切除の是非に関しては,統一された見解はない。MEN2Aでは髄様癌の発症年齢がpHPTより若いため,pHPTが発症する前に甲状腺全摘術が行われていることが多い。甲状腺全摘時に副甲状腺を全腺温存したとして,pHPTが後に発症した場合,癒着の中から副甲状腺を全腺確認して適切に切除するのはかなり困難が予想される。さらに,髄様癌再発時に頸部再手術を行った場合,副甲状腺を確認温存することはかなり難しい。YoshidaらはMEN2Aの12例(pHPTあり2例,なし10例)に甲状腺全摘時に副甲状腺を同時に摘出して移植を行っている。その結果,すべての症例で永久性副甲状腺機能低下症をきたしていないという結果を報告している[]。pHPTの発症頻度は低いので,甲状腺全摘時に副甲状腺をin situに温存するか,同時に摘出して移植を行っておくかの方針は,今後検討すべき課題であるが,小児の予防的甲状腺全摘の場合も考慮して,永久性副甲状腺機能低下症をきたさないようにしなければならない。

3. 副甲状腺機能亢進症顎腫瘍症候群

副甲状腺機能亢進症顎腫瘍症候群(hyperparathyroidism-jaw tumor syndrome;HPT-JT)は副甲状腺癌あるいは腺腫,下顎の線維性腺腫,腎臓の多発囊胞,過誤腫,Wilms腫瘍などの腎腫瘍を主徴とする常染色体優性遺伝疾患である[10]。副甲状腺機能亢進症はほぼ全例に認められ,15%に副甲状腺癌,約30%に顎腫瘍,20%に腎腫瘍を発生する。一部の家系では副甲状腺病変のみのこともある。副甲状腺腫は単腺病変のことも多く,double adenomaのこともある。女性患者では子宮筋腫などの子宮病変も多い。

原因遺伝子は染色体1q31.2に位置するHRPT2/cdc73遺伝子であり,17のエクソンより成り,531アミノ酸から成るparafibrominタンパクをコードしている。HPT-JT家系の約50%,家族性孤発性副甲状腺機能亢進症家系の約14%にHRPT2/cdc73遺伝子のgermline mutationを認め,変異の多くはフレームシフトあるいはナンセンス変異であり,parafibrominの合成が途中で中断する。遺伝子全体の欠失が存在することもある。変異はエクソン1,2,7に多く存在するが,エクソン1~7の前半部分に集中する傾向が認められる(図2)。しかし後半部分にも認められることがあるため,遺伝子診断ではエクソン1~17すべてをシーケンスする必要がある[11]。

図 2 .

HRPT2/cdc73変異の分布

文献[11]に基づくエクソン部位別にみたHRPT2/cdc73変異の分布を示す。数字は変異が認められたエクソンを示す。内側は生殖細胞系列(n=53)の分布を示し,外側は生殖細胞系列+体細胞変異(n=93)の分布を示す。いずれも変異の80%はエクソン1~7に集中している。

一見散発性の副甲状腺癌においては,約20%の症例でHRPT2のgermline mutationが報告される[12]。副甲状腺癌は副甲状腺腫瘍の中でも約1%と非常に稀な疾患であるが,副甲状腺癌と判明した場合は家族歴がなくてもHPT-JTの可能性を考え,遺伝カウンセリングを行い,HRPT2遺伝学的検査を考慮すべきと考えられる。これまでの報告では10歳以下でpHPTが発症した例は稀であるので,遺伝学的検査は10歳で開始するという意見もある[13]。

4. 家族性孤発性副甲状腺機能亢進症

家族性孤発性副甲状腺機能亢進症(FIHP)は,家族性に副甲状腺機能亢進症が認められる場合で,単発性副甲状腺腺腫,double adenoma,あるいは副甲状腺癌を発生する常染色体優性遺伝疾患である[10]。比較的穏やかな臨床経過をとり,発症年齢は比較的遅く,不完全浸透を示すことがある(図3)。FIHPと思われていても,MEN1,MEN2A,MEN4やHPT-JTのことがあるので,これらが遺伝学的検査と臨床的観点からすべて否定でき,かつ家族性に副甲状腺機能亢進症のみが認められる場合はFIHPといえる。しかしFIHPをフォローしていく場合,変異が証明されないMEN1やHPT-JTである可能性は残されているため,副甲状腺以外の臓器も慎重にフォローしていく必要がある。

図 3 .

FIHP症例の切除副甲状腺組織

50歳代女性FIHPの摘出副甲状腺組織。MEN1HRPT2/cdc73CaSR遺伝子はいずれも変異なし。多腺性副甲状腺機能亢進症の家族歴あり。写真左が患者右側,写真右が患者左側を示す。右上,右下,左上副甲状腺は腫大(各180mg,381mg,310mg),左下副甲状腺は正常に近い大きさ(70mg)であった。右上約1/3腺を前腕に移植した。病理診断はいずれも過形成であり,副甲状腺癌はなかった。

5. 家族性低カルシウム尿性副甲状腺機能亢進症

家族性低カルシウム尿性副甲状腺機能亢進症(FHH)は,常染色体優性遺伝を示す。血液検査所見では明らかな高カルシウム血症~正カルシウムで,不適当PTH分泌を示すことが多い。副甲状腺機能亢進症でみられる症状をおこすことはほとんどない。術前検査で副甲状腺は単腺腫大のこともあれば多腺性腫大を示すこともある。FHHを鑑別するためには,蓄尿中カルシウム排泄量の測定が必須であり,治療対象となるpHPTでは高値を示すのに対して,FHHでは正常~低値を示す。手術適応はないので,そのまま様子をみていくこととなる[14]。原因遺伝子は染色体3q13.3-21上に位置するCaSR遺伝子であり,これはカルシウム受容体をコードしており,変異によりカルシウム受容体が不活化することにより,代償的にPTHの過剰分泌とカルシウム上昇,カルシウム排泄量の低下がおきる。新生児重症副甲状腺機能亢進症(NSHPT)は両親ともにFHHの場合で,児の両側アレルにhomozygousに変異が受け継がれた場合に発症し,副甲状腺切除が考慮される。FHHの家系内浸透率は90%以上であり,FHHの家族歴がある場合は,新生児ではカルシウムの測定が強く勧められる。FHHは時として治療適応のあるpHPTと誤診されて手術される可能性があるため,pHPT症例は全症例に対して尿中カルシウム排泄量の測定は欠かせない。

おわりに

家族性副甲状腺機能亢進症は,家族性であることを認識せずに初回治療がなされていると,患者はその医療機関に対して大きな不信感を抱くこととなり,その後の治療は遺伝的・心理的ケアだけでなく再手術自体も技術的に非常に困難な場合が多い。したがってすべてのpHPTの初回治療時には,家族性副甲状腺機能亢進症の可能性を常に念頭におき治療にあたる必要がある。

【文 献】
 

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