Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
A case of primary adrenal malignant lymphoma diagnosed by laparoscopic needle biopsy
Shinichiro KashiwagiTetsuro IshikawaNaoyoshi OnodaNaoki KametaniWataru GotoMasanori NakamuraMasahiko OhsawaKosei Hirakawa
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2012 Volume 29 Issue 3 Pages 246-250

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抄録

副腎原発悪性リンパ腫は稀な疾患であり,予後不良とされるために迅速な確定診断が求められる。診断は超音波やCTガイド下針生検や開腹手術での摘出生検であるが,困難な症例も存在する。61歳の女性,検診にて両側副腎に腫瘤性病変を指摘され当院紹介。sIL-2R 5,470U/mlと高値も,機能性副腎腫瘍を示唆する所見はなかった。画像検査では両側副腎に巨大な腫瘤性病変を認めた。PET検査での全身検索では両側副腎以外に異常集積を認めなかった。副腎原発の悪性リンパ腫を疑ったが,超音波やCTガイド下針生検では安全域を担保するのは難しく,切開生検においても腫瘍が巨大であるために摘出は困難であると考えられた。そのため,鏡視下に腫瘍を確認しつつ確実に組織が採取でき,かつ開腹生検に比べ低侵襲である腹腔鏡下での副腎針生検を施行した。病理診断にFACS解析を加え,びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫との診断を得た。

はじめに

副腎原発悪性リンパ腫は比較的稀な疾患である[,]。予後不良とされるために迅速な確定診断が求められるが[,],現在では良悪性の診断だけでなく分子標的薬を視野にいれた個別化治療を行う上で正確な治療前診断を要する[,]。診断は超音波やCTガイド下での針生検や開腹手術での摘出生検が一般的であるが[],部位や大きさにより困難な症例も存在する。今回,われわれは副腎原発悪性リンパ腫を腹腔鏡下の針生検にて診断しえた症例を経験した。

症 例

症 例:61歳,女性。

主 訴:検診異常。

既往歴・家族歴:特記すべきことなし。

現病歴:検診の超音波検査にて両側副腎に腫瘤性病変を指摘され,精査目的にて当院紹介となった。

現 症:意識清明。表在リンパ節および腹部腫瘤などは触知せず。腹膜刺激症状なし。

血液検査所見:血液検査では,可溶性IL-2レセプター5,470U/ml,LDH479IU/lと高値を示すも,副腎機能性腫瘍を示唆する所見はなかった(表1)。

表 1 .

術前腫瘍マーカー・内分泌検査所見

尿検査所見:尿中メタネフリン<0.01mg/日,尿中ノルメタネフリン<0.14mg/日と褐色細胞腫も否定的であった。

超音波検査所見:両側副腎の腫瘤性病変。右7.5×3.6cm,左10.4×6.3cm(図1)。

図 1 .

超音波検査にて両側副腎に低エコー腫瘤性病変を認めた。ドプラー法では豊富な流入血管が確認された。

CT検査所見:両側副腎に巨大腫瘤性病変を認めた (図2A,B)。他の部位は病変を認めず。

図 2 .

画像検査にて両側副腎に巨大な腫瘤性病変を認めた。造影CT(A,B),MRI(C)。PETでは両側副腎のみにFDGの異常集積(D)。

MRI検査所見:両側副腎の腫瘤性病変。T1強調画像にて等信号,T2強調画像にて高信号を認めた(図2C)。

PET検査所見:両側副腎にFDGの異常集積。他の部位に異常集積を認めなかった(図2D)。

以上より転移性副腎腫瘍を鑑別とするも副腎原発の悪性リンパ腫を疑い,組織生検による確定診断が求められた。しかしながら,超音波ドプラー法では豊富な流入血管が確認され(図1),超音波やCTガイド下における針生検での安全域を担保するのは難しく,また切開生検でも腫瘍が巨大であるために摘出は困難であると考えられた。そのため,鏡視下に腫瘍を確認しながら確実に組織が採取でき,かつ開腹生検に比べ低侵襲である腹腔鏡下での副腎針生検を選択した。

手術所見:全身麻酔下,左半側臥位とし手術を開始した。まず,右鎖骨中線上臍レベルにopen methodにて11mmの腹腔鏡ポートを作成し腹腔内の観察を行った。右肋骨弓下および上腹部に5mmのポートをそれぞれ追加した(図3A)。肝臓をリトラクターにて圧排し,後腹膜下に目標とする右副腎腫瘍を確認した。腫瘍が巨大であり全景の把握は困難であったが,生検を行うには十分な視野展開を得ることができた(図3B)。16Gの留置針を腹壁に穿刺し,外套のみを留置し播種の予防を行った。同部位より鏡視下にMonopty Biopsy Instrument®(long stroke/進入深度22mm,ニードル外径18G 9cm,重量65g)を挿入し,鏡視下に豊富な流入血管を避けるべく針生検を行った。出血は鉗子による圧迫と電気凝固にてコントロール可能であった。鏡視下に出血なきことを確認,手術時間は37分,術中出血量は極少量,偶発症はなかった。

図 3 .

ポートの位置(5mm操作用ポート;Ⅰ/Ⅱ,12mm腹腔鏡ポート;Ⅲ)(A)。腫瘍が巨大であり全景の把握は困難であったが,生検を行うには十分な視野展開を得た(副腎腫瘍;Ⅰ,生検針;Ⅱ,腎臓;Ⅲ,肝臓;Ⅳ,下大静脈;Ⅴ)(B)。

生検標本:1.7cm長の標本を3切片採取した。

確定診断:病理診断にFACS解析を加え,びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫との診断に至った。免疫組織学的にはCD3(-),CD5(-),CD20(+),CD79a(+)であった(図4)。

図 4 .

病理診断にてびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫との診断に至った。HE染色(×400)(A)。免疫組織染色;CD3陰性(B),CD20陽性(C),CD79陽性(D)(×400)。

治療経過:術後の回復は良好であり,迅速な確定診断の後にCHOP(cyclophosphamide,doxorubisin,vincristine,and prednisone)+rituximabの化学療法が開始された。

考 察

悪性リンパ腫はしばしば節外性に発生するが,原発臓器はwaldyer輪,消化管,皮膚,腎臓,精巣,膀胱などが高頻度であり,副腎など内分泌臓器に発生する頻度は3%程度とされている[]。副腎に存在する悪性リンパ腫は転移性のものがほとんどであり,周囲組織や後腹膜リンパ節からの進展形式をとるものが多く,副腎に原発する症例は稀である[,]。本邦における副腎原発悪性リンパ腫を医学中央雑誌web版(1983~2012年2月)で「副腎原発」「悪性リンパ腫」をKey wordとして検索すると45件の文献がみられた[14]。

自験例も含めた本邦報告例の臨床像の検討を行った(表2)。平均年齢は65.9歳(24~87歳)であった。男性に多く女性の約2倍であり(男性31例,女性15例),両側性に発生することが多かった(両側37例,片側9例)。腹痛,腰痛,発熱,体重減少のほか,副腎機能不全を呈する。画像診断では良性の副腎腫瘍や転移性副腎腫瘍との鑑別が困難であるため,超音波やCTなどの画像ガイド下でインターベンショナルな針生検や開腹手術での摘出生検が必要となるが[],自験例のように腹腔鏡下の針生検にて診断が得られた症例は存在しなかった。sIL-2R高値などが補助診断となり[,],67GaシンチグラフィやPET検査は鑑別診断が可能であるほか,病期診断,治療効果判定,再発の診断にも有用である[15]。

表 2 .

本邦における副腎原発悪性リンパ腫の報告46例のまとめ

副腎原発悪性リンパ腫はB細胞性が82%を占め,両側性が73%[1014],また両側性の症例で副腎不全の頻度が高いとされている[10]。癌の副腎転移による副腎不全は1~2%程度とされていることからも,副腎機能不全は副腎原発悪性リンパ腫の臨床的特徴であると考えられる。自験例は副腎機能不全の兆候がみられ,病理組織においてもびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫とB細胞由来であった。

極めて予後不良であるとされているが[,],外科的切除や化学療法,自家末梢血幹細胞移植など集学的治療の奏効により長期生存例も散見されるようになった[101214]。悪性リンパ腫の病型分類にはREAL分類やその改変である新WHO分類が提唱され,病理組織検査に加え,免疫組織およびFACS解析を用いた免疫学的検索,さらには分子・細胞遺伝子学的検索の重要性が増してきている。さらに分子標的薬を加えた個別化治療を行う上で迅速かつ正確な治療前評価が求められる[,]。悪性リンパ腫のFACS解析に必要な細胞数は1×105個以上,また1×107個が十分量であるとされている[16]。18G針での針生検の組織量は約15mg/回であることから,組織の挫滅や壊死を考慮してもFACS解析を行うには十分量の細胞が採取されているものと考えられる。

治療はCHOP(cyclophosphamide, doxorubisin, vincristine and prednisone)を基本とした化学療法が主体であり,CD20陽性の場合は抗CD20モノクロナール抗体(rituximab)が追加される[17]。自験例はCD20陽性であり,CHOP+rituximab療法が選択された。巨大腫瘍に対して両側副腎摘出出術や,残存腫瘍に対する放射線療法などが施行されてはいるが有用性は明らかではない。

おわりに

今回われわれは副腎原発悪性リンパ腫を腹腔鏡下針生検にて診断しえた。安全かつ低侵襲であり,今後の副腎腫瘍の詳細な治療前診断への寄与が期待できる有用な手段であると考えられた。

謝 辞

本論文の主旨は第24回日本内分泌外科学会総会(2012年6月,名古屋)において発表した。

【文 献】
 

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