Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
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Advances in breast cancer treatment: radiotherapy and anti-HER2 therapy
Shinya SutaniNaoyuki Shigematsu
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2012 Volume 29 Issue 4 Pages 301-306

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抄録

乳房温存手術を施行された場合,浸潤癌,非浸潤性乳管癌いずれにおいても基本的に全例で術後照射が推奨されている。乳房切除術後の放射線治療は局所再発率の高い腋窩リンパ節転移陽性例に推奨され,胸壁および鎖骨上窩リンパ節領域に対して照射が行われる。近年,照射技術の進歩により標的体積内の線量分布均一性は向上しており,メタアナリシスにて,術後照射は局所制御率向上のみならず生存率の向上にも寄与することが示されている。一方,乳癌薬物療法の分野では,HER2陽性乳癌において,化学療法へのHER2阻害薬の併用により,術前補助療法として用いた場合には病理学的完全奏効率が,術後補助療法として用いた場合には生存率が向上することが報告されている。現時点では放射線治療とHER2阻害薬併用の長期の有効性および安全性は確立しておらず,左側乳房への放射線治療時には心臓への照射線量に十分注意することが必要である。

はじめに

乳癌診療において放射線治療の適応は広く,乳房温存術後・乳房切除術後の照射,進行・再発乳癌に対する照射,有痛性骨転移や脳転移に対する緩和照射など多岐にわたっている。本稿では術後放射線治療の意義,適応,照射方法,HER2阻害薬との併用などに関する知見について述べる。

1. 乳房温存療法における放射線治療

1)意義

i)浸潤性乳管癌

乳房温存手術後の放射線治療の有用性について検証する7つのランダム化比較試験が行われ,術後照射は乳房内再発を約1/3に減少させることが示された[]。しかし,生存率の有意な向上は認められず,照射の果たす役割は温存乳房内再発の抑制に限定されるものと考えられてきた。その後,EBCTCGのメタアナリシスでは,放射線治療により10年での局所・遠隔再発率は35.0%から19.3%(減少幅:15.7%,95%信頼区間:13.7~17.7%,2p<0.00001)へ減少し,15年での乳癌死亡率は25.2%から21.4%(減少幅:3.8%,95%信頼区間:1.6~6.0%,2p=0.00005)へ減少し,15年での全死亡率は37.6%から34.6%(減少幅:3.0%,95%信頼区間:0.6~5.4%,2p=0.03)へ減少することが示され,また,放射線治療により10年での局所・遠隔再発を4例予防することにより1例の15年乳癌死を予防できると報告された(図1)[]。

図 1 .

BCS:Breast Conserving Surgery,RT:Radiation Therapy,RR:Relative Risk,SE:Standard Error.

浸潤癌に対する乳房温存術後の放射線治療についてのメタアナリシス[

A:術後照射により10年再発率は35.0%から19.3%減少した。

B:術後照射により15年乳癌死亡率は25.2%から21.4%へ減少した。

C:術後照射により15年全死亡率は37.6%から34.6%へ減少した。

乳房温存手術後例でのリンパ節領域照射に関するエビデンスは十分ではないが,腋窩リンパ節転移個数が多い症例では鎖骨上窩などの領域リンパ節再発がそれ以外の症例に比べて多い[10]と報告されており,リンパ節領域照射による局所制御向上も報告されている[11]。

ii)非浸潤性乳管癌

乳房温存手術後の放射線治療の有用性について検証する4つのランダム化比較試験が行われ,術後照射は温存乳房内再発を約1/2に減少させることが示された[1215]。その後,EBCTCGのメタアナリシスでは,放射線治療により10年での温存乳房内再発率は28.1%から12.9%(減少幅:15.2%,標準誤差:1.6%,2p<0.00001)へ減少することが示された(図2)[16]。また,この解析では,年齢,乳房温存手術の切除範囲,タモキシフェン投与の有無,切除断端の状態,comedo型壊死の有無,グレード,腫瘍径などにかかわらず,照射により温存乳房内再発が減少することが示された[16]。しかし,10年乳癌死亡率,非乳癌死亡率,全死亡率は照射の有無により有意差は認められなかった[16]。

図 2 .

BCS:Breast Conserving Surgery, RT:Radiation Therapy,RR:Relative Risk,SE:Standard Error.

非浸潤性乳管癌に対する乳房温存術後の放射線治療についてのメタアナリシス[16

術後照射により10年温存乳房内再発率は28.1%から12.9%へ減少した。

2)適応

乳房温存手術施行例は全例が術後照射の適応となるが,妊娠中,患側乳房の胸壁への放射線治療の既往がある症例,背臥位で患側上肢の拳上ができない症例,膠原病(強皮症やSLE)合併症例などは禁忌とされている[17]。

3)照射範囲・照射線量

患側の全乳房に対して,1日1回,週5回,総線量45~50.4Gy/1回線量1.8Gy/4.5~5.5週の接線照射が標準治療となっている。照射野の目安としては,頭側縁は胸骨切痕,尾側縁は乳房下縁の1cm尾側,内側縁は正中,外側縁は中腋窩線である。腋窩リンパ節転移4個以上の症例においては,患側全乳房に加えて鎖骨上窩リンパ節領域への照射が推奨される[17]。

2. 進行乳癌に対する乳房切除後における放射線治療

1)意義

乳房切除後の放射線治療の有用性について検証する3つのランダム化比較試験が行われ,術後照射が局所領域リンパ節再発を1/3~1/4に減少させるのみならず生存率を向上させることが示された[1821]。乳房切除術を施行した腋窩リンパ節陽性症例を対象としたEBCTCGのメタアナリシスでは,術後照射により5年局所領域再発率は22.8%から5.8%に減少し,15年乳癌死亡率は60.1%から54.7%(減少幅:5.4%,標準誤差:1.3%,2p=0.0002)へ,15年全死亡率は64.2%から59.8%(減少幅:4.4%,標準誤差:1.2%,2p=0.0009)へ減少することが示された[22]。

閉経前患者を対象としたDanish 82bと閉経後患者を対象としたDanish 82cを統合解析した結果,腋窩リンパ節転移4個以上陽性の患者と同等に腋窩リンパ節転移1~3個陽性の患者でも15年全生存率の向上が示された(57% vs 48%,p=0.03)(図3)[23]。

図 3 .

進行乳癌に対する乳房切除後の放射線治療についてのメタアナリシス[23

A:腋窩リンパ節転移1~3個陽性例において15年局所再発率は27%から4%へ低下した。

B:腋窩リンパ節転移1~3個陽性例において15年全生存率は48%から57%へ向上した。

C:腋窩リンパ節転移4個以上陽性例において15年局所再発率は51%から10%へ低下した。

D:腋窩リンパ節転移4個以上陽性例において15年全生存率は12%から21%へ向上した。

2)適応

腋窩リンパ節転移4個以上の症例では乳房切除後の放射線療法が強く勧められ,腋窩リンパ節転移1~3個の症例にも乳房切除後の放射線治療が勧められる[17]。

3)照射範囲・照射線量

胸壁・鎖骨上リンパ節領域に対して,総線量50~50.4Gy/1回線量1.8Gy/4.5~5.5週の照射を行う。

3. 照射方法および照射期間の変化

1)照射方法の変化

乳房は円錐状の形状をしており,かつ照射野の一部に肺野が含まれるため,標的体積内で線量分布が不均一となる。線量分布改善法の一つとしてウェッジを用いた方法があるが,ICRU REPORT[24]にて推奨される照射体積内線量を95%~107%に保つという基準を満たすのは困難なケースも多い。そこで,通常の接線照射にて高線量域が生じた際に,高線量域をマルチリーフコリメータで遮蔽したサブフィールドを作成し,メイン・サブフィールドの比重を調整して線量の均一化を図る手法であるField-in-field法[25]が用いられる。また,inverse planningを用いた強度変調放射線治療(intensity modulated radiation therapy:IMRT)による試みもなされており,線量均一性の向上が得られ,心臓・肺への高線量域が減少する一方で,対側乳房や肺への低線量域が拡大するとの報告がある[26]。また,IMRTでは呼吸性移動の線量分布に及ぼす影響が大きいと考えられ,十分な対策が必要である。これら3つの方法を用いて作成した線量分布を示す(図4)。Field-in-field法やIMRTではより均一な線量分布が得られていることがわかる。

図 4 .

IMRT:Intensity Modulated Radiation Therapy.

各照射法による線量分布

A:ウェッジ法,B:Field-in-field法,C:IMRT。

ウェッジ法では107%を越える高線量域を認めるが(A,矢頭),Field-in-field法(B)やIMRT(C)では107%を越える領域は認められず,より均一な乳房内線量分布が得られている。IMRTでは心臓への高線量域が低減されている(C,矢印)。

2)照射期間の変化-寡分割全乳房照射

乳房温存手術後の全乳房照射の線量・分割については,現在,総線量45~50.4Gy/1回線量1.8Gy/4.5~5.5週が標準治療となっている。カナダで行われたランダム化比較試験では42.5Gy/16回/22日と50Gy/25回/35日が比較され,両群の10年局所再発率,全生存率,整容性に差を認めなかった[27]。また,イギリスで行われたランダム化比較試験においても通常照射と短期照射の間に局所再発率に有意差は認められなかった[28, 29]。

以上の結果より,米国放射線腫瘍学会では,50歳以上,温存手術後のpT1-2N0,全身化学療法を必要としないなどの基準を満たす症例については,寡分割照射も従来の照射と同等であるとのガイドライン[30]を発表した。現在我が国では「乳房温存療法の術後照射における短期全乳房照射法の安全性に関する多施設共同試験(JCOG0906)」を実施中であり,その結果が待たれるが,寡分割照射は,症例選択や心臓などへの線量に留意し,細心の注意のもと行うことを考慮してもよいとされている[17]。

4. 放射線治療とHER2阻害薬

現在,国内ではHER2阻害薬としてトラスツズマブとラパチニブの2つの薬剤が承認されている。

1)作用機序

i)トラスツズマブ

HER2の細胞外ドメインに対するヒト化モノクローナル抗体であり,作用機序としてはシグナル伝達を阻害する直接効果や抗体依存性細胞傷害活性による間接効果があるとされている。

ii)ラパチニブ

EGFR/HER2のチロシンキナーゼ阻害薬であり,ATP結合部位に可逆的に結合し,受容体のリン酸化および活性化を阻害し,その下流のシグナル伝達(Erk1/2,PI3K/Akt)を抑制する。

2)術前補助療法

HER2陽性乳癌患者に対する術前化学療法へのトラスツズマブ追加の有効性を検証したMDACC neoadjuvant試験[31],NOAH試験[32]において,化学療法へのトラスツズマブの併用が病理学的完全奏効率(pCR率)を改善することが示された。術前化学療法への併用薬剤としてトラスツズマブとラパチニブを比較したGeperQuinto試験[33]において,トラスツズマブ併用群のpCR率がラパチニブ併用群と比較して有意に高いと報告され,トラスツズマブ+化学療法,ラパチニブ+化学療法,トラスツズマブ+ラパチニブ+化学療法の3群比較が行われたNeoALTTO試験[34]では,pCR率はトラスツズマブ+化学療法:29.5%,ラパチニブ+化学療法:24.7%,トラスツズマブ+ラパチニブ+化学療法:51.3%とトラスツズマブとラパチニブの併用がいずれかの薬剤単剤よりも有効であることが示唆された。

3)術後補助療法

HER2陽性術後乳癌に対する術後化学療法へのトラスツズマブ追加の有効性を検証する臨床試験(NSABP B-31試験[35],NCCTG N9831試験[35],HERA試験[36],BCIRG 006試験[37],FinHer試験[38])が行われ,トラスツズマブ短期間投与であったFinHer試験を除き,無病生存率や全生存率の向上が認められた。術後補助療法としてトラスツズマブ,ラパチニブ,トラスツズマブ+ラパチニブ(同時併用),トラスツズマブ+ラパチニブ(逐次併用)を比較するALTTO試験は現在観察期間中であるが,結果によっては術後補助療法としてラパチニブの適応が広がる可能性もあり,結果が注目される。

4)HER2阻害薬適応患者における適切な放射線治療のタイミング

HER2陽性術後乳癌に対して,化学療法にHER2阻害薬を追加することによる生存率向上が示されているが,放射線治療の併用時期に関するランダム化比較試験はない。トラスツズマブと放射線治療の同時併用は安全に行えるとの報告[39, 40]はあるが,経過観察期間が短いため,左側乳房への放射線治療時には心臓への照射線量に十分注意することが必要である。現時点では長期の有効性および安全性は確立しておらず,今後の課題である。

おわりに

乳癌術後照射についてのエビデンスおよび照射技法の進歩に加え,放射線治療とHER2阻害薬との併用に関する知見について述べた。乳癌に対する各治療法のエビデンスは時々刻々と変化しており,他の治療法と協調しながら適切に放射線治療を施行することが重要である。

【文 献】
 

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