Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
A case of anaplastic thyroid carcinoma transformed from follicular thyroid tumor during follow-up
Shinya SatohSeigo TachibanaTadao YokoiHiroyuki Yamashita
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2012 Volume 29 Issue 4 Pages 318-321

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抄録

甲状腺未分化癌は甲状腺乳頭癌や濾胞癌からの未分化転化によって生じるとされる。今回その経過を超音波検査で確認できた症例を経験した。症例は83歳女性で,4cmの濾胞性腫瘍として外来で経過観察中に,超音波検査で内部均一で等エコーであった腫瘍が,腫瘍の約半分が低エコーとなり,腫瘍径も増大した。再度の細胞診で未分化癌が強く疑われたため,手術を施行したが術後3カ月で局所再発および遠隔転移をきたし,未分化転化判明から4カ月後に患者は死亡した。はからずも甲状腺濾胞性腫瘍が未分化転化する過程を超音波検査で確認できた症例となった。

はじめに

甲状腺未分化癌は全甲状腺悪性腫瘍の約1%の頻度ではあるが[],甲状腺癌による死亡の約3~4割を占めるとされる[]。甲状腺未分化癌と診断された場合の平均余命は約6カ月と報告され[],非常に予後不良な疾患である。未分化癌の発生原因としては,先行病変として甲状腺分化癌が存在し,そこから未分化転化して生じるものがかなり存在すると考えられている。今回,われわれは濾胞性腫瘍として経過観察中に未分化転化し,早期に手術を施行したにも関わらず不幸な転帰をたどった甲状腺未分化癌症例を経験した。超音波検査でその経過を確認できたので報告する。

症 例

症 例:83歳,女性。

既往歴:50歳~高血圧にて内服。

家族歴:甲状腺疾患の家族歴なし。

現病歴:平成21年4月,前医より結節性甲状腺腫の精査依頼で紹介受診(初回受診)。頸部超音波検査(以後US)では,右葉を占拠する40×35mmの被膜を伴った境界明瞭,平滑な結節を認めた。内部は等エコーで,一部囊胞性変化を伴っていた(図1a)。穿刺吸引細胞診では濾胞性腫瘍の所見(図1b)で,乳頭癌の核所見は認めなかった。甲状腺機能は正常範囲内であったが,血液中のサイログロブリン値(以後Tg値)が1,000ng/ml超と高値であった。腫瘍径やTg値が高値であることから濾胞癌の可能性を考え手術も検討したが,高齢であったこと,USで悪性を疑う所見が乏しかったことから経過観察することとした。

図 1 .

a:平成21年4月,初診時の超音波検査。

内部は等エコーで一部囊胞変化を認めた。内部血流の亢進も認めなかった。

b:軽度腫大した核を持ち,小濾胞構造を形成する細胞集塊を認める。乳頭癌の核所見は認めない。

平成21年7月の2回目の受診の際もUSでは腫瘍の増大を認めず,腫瘍性状の変化も認めなかった(図2)。

図 2 .

平成21年7月,2回目の超音波検査。

初診時とサイズや内部性状は同じであった。

平成21年12月の定期検査の際に,USで腫瘍の増大を認め,腫瘍の内部も一部低エコーに変化していた(図3)。採血上はHb10.4g/dlと軽度貧血を認め,fT4は2.11ng/dlと上昇を認めた。細胞診を再度施行し,未分化癌が疑われため手術目的で入院となった。

図 3 .

平成21年12月,3回目の超音波検査。

腫瘍径は増大し,内部に低エコー領域(矢印)を認めた。

入院時現症:甲状腺右葉から左葉下極付近にかけて7cmの硬い腫瘍を触れた。可動性不良で軽度圧痛はあるが皮膚の発赤は認めなかった。

頸胸部CT:原発巣は5cmの腫瘍が甲状腺右葉から峡部を超えて左葉まで進展していた。内部は非常に不均一で,一部は壊死のためか造影されなかった。一部点状石灰化を認めた。気管,喉頭,食道および大血管への浸潤所見は認めなかった。頸部右側の脂肪組織のCT値が左側と比較して高く,炎症所見があると判断した。肺転移の所見は認めなかった。

骨シンチグラフィー:骨転移の所見は認めなかった。

手術所見:甲状腺全摘,中央区域,右外側区域(Ⅴa,Ⅵ)郭清を施行した。術野全体が浮腫状で,甲状腺腫は硬く,全体に出血しやすい印象であった。胸骨甲状筋は甲状腺に強固に癒着しており,胸骨甲状筋で甲状腺を被覆する形で甲状腺を摘出した。両側の反回神経は炎症性癒着があり,特に右側が剝離しにくかったが,腫瘍の浸潤はないと判断し両側とも温存した。1cmほどのリンパ節を気管前傍,右側頸部で認めたが,転移陽性かどうかの判断は困難であった。

病理所見図4a-c腫瘍内の一部に濾胞構造と被膜構造を認め,被膜内に小濾胞構造を形成する細胞集塊を認め,先行病変における被膜浸潤の可能性が示唆された。また,別の部位では核異型の強い細胞が偽乳頭状もしくは紡錘状に増殖し,濾胞構造を形成している部分に浸潤している所見を認めた。以上の病理所見および臨床経過より,濾胞性腫瘍(濾胞癌)が未分化転化したものと診断した。郭清したリンパ節には転移の所見を認めず(中央区域 0/14,右外側区域 0/18),TNM分類でpT4apN0M0,pStageⅣAの未分化癌と診断した。

図 4 .

a(40倍):腫瘍内に一部残存した濾胞性腫瘍の構成成分。厚い被膜が残存し,その被膜内に被膜浸潤の可能性を示唆する腫瘍成分(矢印)を認める。

b(100倍):濾胞性腫瘍と偽乳頭状に増殖する核異型の強い未分化癌が混在する部分を認めた(左側が未分化癌,右側が濾胞性腫瘍)。

c(400倍):濾胞性腫瘍の細胞集塊の周囲に大型で異型性の強い核をもつ未分化癌の細胞が存在。

術後経過:術後経過は良好で,術後10日目に退院となった。術後放射線治療を勧めたが,治療を希望されなかった。退院後しばらくは良好な日常生活を送れていたが,3カ月ほどすると気管右側の局所再発や肺転移,骨転移が生じた。術後3カ月までは自宅で過ごせていたが,徐々に全身状態が悪化し,術後4カ月で永眠された。

考 察

甲状腺未分化癌は全甲状腺悪性腫瘍の1.4%と比較的稀ではあるが[],甲状腺癌による死亡の約1/3を占めるとされる[]。甲状腺未分化癌と診断された場合の死亡までの生存期間の中央値は日本および韓国からの報告では5.1~9.4カ月と報告され,非常に予後不良な疾患である[]。未分化癌の発生原因としては,先行病変として甲状腺乳頭癌や濾胞癌が存在し,そこから未分化転化して生じると考えられている。Sugitaniらの未分化癌コンソーシアムからの報告によると[],先行病変が存在しないもしくは不明なものが70%で,21%で乳頭癌が併存,6%で濾胞性腫瘍が併存という結果であり,先行病変を推定することが困難であること,乳頭癌と濾胞癌の発生頻度と比較して濾胞癌から未分化癌が発生する可能性が高いことが推察される。本症例では,細胞診で濾胞性腫瘍と診断し経過観察を行っていたので濾胞性腫瘍からの未分化転化と診断できたが,これが経過観察もなく,かつ未分化癌の進展によって濾胞性腫瘍の成分が消失していれば(本症例でも手術時に濾胞性腫瘍の成分はほぼ消失していた),先行病変を指摘することは不可能であった。このように考えると先行病変不明の未分化癌の中に,濾胞性腫瘍が先行病変である症例は実際に数値で出ている比率よりも高い可能性があるとも考えられる。

今回の症例のように濾胞性腫瘍(濾胞癌)から未分化転化する経過を画像で示せた症例はほとんど報告がない。横沢はその著書で濾胞性腫瘍から未分化転化する過程をUSで追跡できた症例を提示している[]。その症例では,初診時にUSで径4cm,内部等エコー,細胞診でclassⅡであった濾胞性腫瘍が,15年後に腫瘍径が増大し,USで腫瘍内部が低エコーに変化し,細胞診で未分化癌と診断され手術をうけている。酒井らは濾胞性腫瘍が先行病変と疑われる未分化癌の症例を報告しているが[],その症例では甲状腺の原発巣の1回目の細胞診では濾胞性腫瘍の診断,6年後に腫瘍が急速増大して受診した際の原発巣の生検で未分化癌であったと述べている。しかし,その症例ではUSで経過を追えてはいない。他にも濾胞性腫瘍が先行病変であるとする報告はあり[],また未分化癌症例を集計した報告の中で先行病変もしくは併存病変としての濾胞性腫瘍の比率を提示する報告はある[10]。しかしながら画像所見として未分化転化の経過を実際に確認できたのは横沢の報告だけである。

本症例では,最初と2回目の受診時のUSで濾胞性腫瘍の所見で,腫瘍径は4cm,Tg値が1,000ng/ml超であったことから濾胞癌の可能性を考慮して手術すべきであったかもしれない。しかし,仮に濾胞癌であったとしても一般的な濾胞癌の予後をふまえ,83歳の女性に摘出術を行わなかったこと自体は,今回のように未分化転化という極めて稀で不幸な結果にならなければ充分妥当な判断であったと考えている。手術を施行しながら局所制御が不十分となったことは残念な結果であったが,術中に右反回神経の温存に固執して腫瘍を肉眼的に残存させた訳ではなく,肉眼的には治癒切除と判断していた。margin確保を目的に周辺組織(反回神経や気管,食道)をこれ以上合併切除すると術後の合併症などにより入院期間が延びる可能性があったこと,拡大切除により予後が改善しないとする報告もある[]ことなどから,妥当な手術であったと考えている。術後経過を考慮すると局所に微小な腫瘍が残存していたと考えられ,術後の外照射を勧めておくべきであったかもしれない。しかしながら,今回の経過では肺や骨などへの遠隔転移が予後規定因子であったこと,3カ月ほど自宅療養できたことを考えると,むしろ放射線治療を行わなくてよかったと考えている。

今回の症例は高齢化社会の中で,甲状腺分化癌(疑を含む)の高齢患者を予後(甲状腺癌の予後とその他の疾患の予後および寿命)との兼ね合いでどのように取り扱うべきかを非常に考えさせられた症例であったとともに,はからずも濾胞性腫瘍が未分化転化する経過をUSでとらえることができた貴重な症例となった。

おわりに

今回,われわれは甲状腺濾胞性腫瘍から未分化癌に変化する経過をUSおよび病理で確認できた未分化癌症例を報告した。極めて稀ではあるが濾胞性腫瘍や腺腫様結節と診断して経過観察していたものが未分化転化しうることを甲状腺外科医は認識しておく必要がある。

本論文の要旨は第22回日本内分泌外科学会総会(2010年6月11日,大阪)において発表した。

【文 献】
 

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