Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
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Print ISSN : 2186-9545
Pathology of adrenal cortical carcinoma
Takashi SuzukiYasuhiro NakamuraMika WatanabeHironobu Sasano
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2013 Volume 30 Issue 1 Pages 36-40

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抄録

副腎皮質癌は稀な疾患である一方多彩な組織像を示すため,病理診断に苦慮する場合が少なくない。そこで本稿では副腎皮質癌の病理的特徴を概説する。副腎皮質癌の診断は複数の指標を組み合わせたスコアリングシステムでなされ,なかでもWeissのCriteriaが最もよく用いられている。また細胞増殖能のマーカーであるKi-67に対する免疫染色も診断の一助となる。副腎は転移性癌の多い臓器であり,時に副腎皮質癌なのか転移性癌なのか鑑別を要する場合があるが,この場合は副腎皮質細胞のマーカーであるAd4BP/SF-1に対する免疫染色が有用である。また副腎皮質癌は系統的なステロイド合成酵素発現が失われる傾向にあり,多彩な内分泌症状を呈しやすい。副腎皮質癌を疑う症例では臨床医と病理医が密に連携し,疾患の全体像を把握しながら診断することが重要である。

はじめに

副腎皮質癌は,100万人に0.5~2人程度の発生頻度と非常に稀な腫瘍であるが[],その死亡率は70%以上であり悪性度が高い[]。副腎皮質癌の病期は現在表1のように分類されている。Wootenらによると,ステージⅠ~Ⅲの症例頻度は各々3%,29%,19%であるのに対し,ステージⅣ症例は約半数(49%)を占めていた[]。副腎皮質癌は約40%の症例が遠隔転移巣を有するとの報告もあり[],転移臓器としては肝や肺が代表的である。Schulickらによる副腎皮質癌115例の解析では,生存期間の中央値がステージⅠ,Ⅱでは8年5カ月であったのに対し,ステージⅢ,Ⅳでは1年3カ月ときわめて短く[],進行した副腎皮質癌はきわめて予後不良といえる。従って,副腎皮質癌を正しく診断し病期を決定することは,治療上大変重要である。

表1.

副腎皮質癌の病期分類

副腎皮質癌は希少なうえに多彩な組織像を呈するため,病理医がその診断に苦慮する場合は少なくない。一方近年,CTやMRIなどの画像診断の進歩により副腎偶発腫瘍の頻度が増加し,それとともに副腎皮質癌症例も増加傾向にある。それだけに副腎皮質癌を適切に診断することがますます重要になってきている。そこで本稿では,副腎皮質癌の病理的特徴について概説する。

副腎皮質癌の診断:良悪性の鑑別

腫瘍検体が病理に提出された場合,その良悪性の鑑別は常に最重要課題である。

副腎皮質腫瘍は病理学的に良悪性の鑑別が難しい腫瘍の一つであり,一般的に用いられる核異型や脈管浸潤といった指標のみでは良悪性を判定できない場合が少なくない。このため副腎皮質癌の診断には複数の指標を組み合わせたスコアリングシステムが推奨されている。なかでもWeissのCriteria[]は最もよく用いられており,副腎腫瘍取扱い規約(第2版)にも取り上げられている(表2)。これは

表2.

Weissのcriteria[

1.高度な核異型

2.核分裂像の亢進

3.異型核分裂像

4.好酸性細胞質

5.び漫性の組織構築

6.壊死

7.被膜浸潤

8.類洞浸潤

9.静脈浸潤

の9項目中3項目以上満たせば癌と診断するものである(図1)。Weissらの論文[]では,高倍50視野中20個以上の核分裂像を認める場合は特にhigh gradeな癌である可能性を示しており,副腎皮質癌における細胞増殖能の重要性が推察される。

図 1 .

副腎皮質癌の組織像。a:高度な核異型や核分裂像の亢進。b:び漫性の組織構築や好酸性細胞質。c:壊死(*印)。「原発性アルドステロン症の病理」図1に示されている副腎皮質腺腫の組織像と対比されたし。スケールバー:各々100μm。

この指標は,予後が判明している副腎皮質腫瘍組織を見直して,予後と相関のあった病理組織学的所見を解析したことから生まれたものだが,簡便で病理学的所見のみから副腎皮質癌を診断できるという点できわめて優れている。しかしこのためには,腫瘍の肉眼所見に基づいた適切な標本作製がきわめて重要である。例えば壊死を判定するためには,腫瘍の割面をたんねんに観察し,出血壊死が疑われる部位の近傍より病理標本を作成しないと正確な判断には至れない。また浸潤に関しても,肉眼的に腫瘍を精査したうえで適切な部位を標本にする必要がある。このように,副腎皮質癌と病理学的に診断するには腫瘍全体を詳細に観察することが欠かせない。生検,術中迅速診断,細胞診などでは病変全体の把握が困難であり,良悪性の診断には一定の限界があることを理解しておく必要がある。

Weissのcriteriaのほかにも,Van Slooten[10]やHough[11]のスコアリングシステムも知られており,WHO分類(2004年版)[]に収載されている。その概要を表3に示したが,これらのcriteriaにも核異型や核分裂像の亢進,組織構築の変化,壊死,浸潤が含まれており,Weissのcriteriaと類似性がある。なおHoughのcriteriaでは腫瘍重量や臨床症状といった非組織学的指標も加わっているという特徴がある。

表3.

Van Slooten及びHoughのスコアリングシステム

免疫組織学的なマーカーとしては,細胞増殖能を評価するKi-67[12]やtopoisomeraze Ⅱαの有用性が報告されており,診断の一助となる。副腎皮質癌におけるKi-67陽性率は幅が広いが,5%を超える症例は副腎皮質癌である可能性がきわめて高く(図2a),逆に腺腫ではほとんどが2%以内とされる。

図 2 .

副腎皮質癌に対する免疫染色。a:Ki-67。多くの癌細胞で核に陽性となっており,細胞増殖能の亢進がうかがえる。b:Ad4BP/SF-1。ほとんど全ての癌細胞で核に陽性となっており,副腎皮質由来細胞であると判断される。c:DHEA-ST。多くの癌細胞で細胞質に陽性となっており,DHEA-ST活性の上昇が示唆される。スケールバー:各々100μm。

副腎皮質癌か転移性癌か?

副腎は,肺,肝,骨とともに他からの腫瘍転移をきたしやすい臓器として知られる。転移性副腎腫瘍は60~80歳代に多く,癌で死亡した剖検例の27%で副腎に転移巣が観察されたとの報告も過去にあるほどである[13]。転移性副腎腫瘍の原発病変は,乳腺,肺,腎,肝など多岐にわたるが,多くの場合は原発巣が既に同定されており,副腎病変が原発性か転移性かが臨床的に問題になることは少ない。しかし,原発巣が不明であったり過去に手術された癌の再発であったりする場合もあり,内分泌症状を示さないような副腎腫瘍では,転移性病変の可能性も念頭に診断を進める必要がある。なかでも腎細胞癌や肝細胞癌は副腎皮質癌と類似した形態像をとりやすく,十分な臨床情報が伝わっていないと病理医が診断に難渋しかねない。

副腎皮質由来細胞の特異的マーカーとしては,Ad4BP/SF-1(adrenal 4 binding protein / steroidogenic factor 1)が最もよく知られている。これは種々のステロイド合成酵素の転写制御因子である核内受容体で,副腎皮質と性腺に発現する。Ad4BP/SF-1をノックアウトしたマウスは副腎皮質不全で死亡することが報告されており[14],Ad4BP/SF-1は副腎皮質でのホルモン合成のみならず副腎腎皮質の発達や分化とも密接に関連していると推察されている。免疫染色を行うと,Ad4BP/SF-1は副腎皮質癌を含めほとんど全ての副腎皮質由来細胞で陽性となり(図2b),その発現程度はホルモン産生量によらない[15]。一方腎癌や肝癌,副腎髄質腫瘍などでは陰性となる。従って副腎皮質癌と他癌との鑑別にはAd4BP/SF-1に対する免疫染色が非常に有用である。

副腎皮質癌のホルモン産生能

副腎皮質癌の70%程度ではなんらかの副腎皮質ホルモン異常が認められるため,そのホルモン動態を理解することは臨床的にも病理的にも重要である。

副腎皮質腺腫ではステロイド合成酵素が系統的に発現し,効率のよいホルモン産生がなされているが,副腎皮質癌ではその統一性が失われ,各酵素がばらばらに発現しやすいという特徴がある(disorganized steroidogenesis)。この結果ホルモン合成が非効率となり,種々の中間産物が多く分泌される。臨床的には尿中17-ケトステロイド(17-KS)の増加が認められやすいし,クッシング症候群に男性化徴候が加わるなど複数のホルモン過剰症を示すこともしばしばである。

ステロイド合成酵素のうち,副腎アンドロゲンであるdehydroepiandrosterone(DHEA)をDHEA sulfate (DHEA-S)に変換するDHEA sulfotransferase(DHEA-ST)は,副腎皮質腺腫ではあまり発現がみられないが,副腎皮質癌では高頻度に発現し(図2c)[16],血中DHEA-S値上昇の一因となっている。

おわりに

以上,副腎皮質癌の病理学的特徴について記載した。副腎皮質癌は症例の希少さと組織像の多彩さのため,病理医にとって診断に苦慮する場合が少ない。それだけに,副腎皮質癌を疑う症例では臨床医と病理医が密に連携し,臨床症状や腫瘍のマクロ像などを含め疾患の全体像を把握しながら診断することが重要であると思われる。

【文 献】
 

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