Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Characteristics and surgical treatments for patients with metastatic adrenal tumor
Shigeto IshidoyaYasuhiro KaihoYoichi Arai
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2013 Volume 30 Issue 1 Pages 45-49

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抄録

副腎は肺癌,腎細胞癌,大腸癌,乳癌からの転移をきたしやすい。副腎外の悪性疾患が存在し,かつ,副腎に腫瘤が認められる場合には1)機能性副腎腫瘍,2)非機能性副腎腺腫,3)転移性副腎腫瘍,4)副腎皮質癌の4通りを考える。種々の内分泌学的検索が陰性でCTで内部や辺縁が不整,FDG-PETでSUVMaxが亢進していれば転移性副腎腫瘍を疑う。単発・孤立性であること,摘出により治癒または延命がある程度期待されること,外科的侵襲が許容される範囲内に留まること,の三要件が満たされれば手術を考慮する。腹腔鏡手術適応のコンセンサスは定まっていない。副腎腫瘍組織は被膜が脆弱であるため術中播種をきたしやすく,熟練した術者以外は腹腔鏡手術を避けるべきである。国内外より転移性副腎腫瘍に対する外科治療のアウトカムが報告されているが,5年生存率は概ね20%前後で,原疾患による癌死が多い。更なる取り組みが必要である。

はじめに

副腎は臓器サイズが小さい割には血流が豊富で,悪性腫瘍の転移先となりやすい。主たる原発疾患は肺癌,腎細胞癌,大腸癌,乳癌である。罹患数が多い胃癌の副腎転移の報告は少ない。しかし,これらのほとんどは単発性に副腎転移をきたして,手術適応があるか否かをわれわれ副腎外科医がコンサルトされての集計結果である。原発巣を問わず末期になれば,多臓器転移の一環として副腎転移も多く認められているものと考えられる。

本稿では転移性副腎腫瘍の病態,特に診断法と手術(腹腔鏡手術と開放手術)について,自験例を交えて概説する。

転移性副腎腫瘍の診断

過去または現時点において副腎外の悪性疾患が存在し,かつ,副腎に腫瘤が認められる場合にはどのように対応するか?

1)機能性副腎腫瘍

2)非機能性副腎腺腫

3)転移性副腎腫瘍

4)副腎皮質癌

の4通りが考えられる。機能性副腎腫瘍の鑑別にはレニン-アルドステロン系,コルチゾール系,カテコラミン系の内分泌学的検索が行われる。131I-アドステロールシンチグラムや131I-MIBGシンチグラムも場合により追加される。これらの検査が陽性であった場合,機能性副腎腫瘍(原発性アルドステロン症,クッシング症候群/サブクリニカルクッシング症候群,褐色細胞腫)とホルモン活性を有する副腎皮質癌を拾い出すことがほぼ可能である。逆にこれらの内分泌検索が陰性であった場合,非機能性副腎腺腫か転移性副腎腫瘍の可能性が高い。両者の鑑別は難しい。

転移性副腎腫瘍のCTにおける画像パターンは基本的に副腎皮質癌に準ずるが,1)辺縁不正,2)内部の出血・壊死像,3)CT値>10HU,4)急速な増大傾向が 認められた場合には強く転移性副腎腫瘍を疑う(図1,2)。

図 1 .

肺腺癌左副腎転移 a:CTでは辺縁不整で造影強度も不均一である(矢印)。b:FDG-PETでは強い集積像を認める。

図 2 .

大腸癌右副腎転移 CTでは辺縁不整で内部に石灰化を認める(矢印)。この症例は腹腔鏡手術から開放手術へ移行。

※FDG-PETの有用性

FDG-PETは鑑別診断や多発転移の有無の検索に有用である(図1b)。この画像検査における核種取り込みの多寡は原疾患の性質に依存するとされている。転移性副腎腫瘍の手術適応は孤立性であることが前提となるため,術前にFDG-PETは施行される頻度が高まっている。

転移性副腎腫瘍の外科治療

転移性副腎腫瘍の外科的を考慮した場合,難しいのは手術手技よりも適応決定である。

1)単発・孤立性であること

2)摘出により治癒または相当期間の延命がある程度期待されること

3)外科的侵襲が許容される範囲内に留まること

が適応要件と考えられる。

※腹腔鏡手術か開放手術か

副腎悪性腫瘍に対する腹腔鏡手術適応の是非は議論が定まっていない。2011年のEAU(ヨーロッパ泌尿器科学会)ガイドラインに副腎皮質癌に対する腹腔鏡手術の記述があるので抜粋する[]。「In patients with suspected localized adrenocortical carcinoma, a thorough endocrine and imaging work-up is followed by complete resection of the tumor by an expert surgeon. In experienced hands, laparoscopic adrenalectomy is probably as effective and safe ~ as open surgery(下線筆者).」筆者は転移性副腎腫瘍や悪性褐色細胞腫に対しても同様のことが言えると考える[]。相応の経験を有する術者以外は腹腔鏡アプローチを避けるべきである。副腎腫瘍組織は被膜が薄くて極めて脆弱である(図3)。術中には牽引や視野確保目的での不用意な鉗子操作は避け,被膜損傷に努めなければならない。被膜損傷は術後の播種につながる(図4)。表1に東北大学における転移性副腎腫瘍に対する腹腔鏡手術の成績を示す。現疾患は圧倒的に腎癌が多く,肺癌が2例含まれていた。腹腔鏡手術の対象となったのは5cm以下の小径腫瘍であることを考えても,その転帰は芳しくなく,癌なし生存を維持しているのは11例中3例のみである。表2]に最近上梓された転移性副腎腫瘍に対する外科手術の成績を記した。米国2施設,欧州2施設ともに内分泌外科グループからの報告である。共通の論調は,外科手術自体の合併症や局所再発は極めて少ないこと,腹腔鏡手術と開放手術間の腫瘍学的アウトカムは同等であること,そして延命効果は得られるものの原疾患による癌死が多く,5年生存率が極めて低いことである。原疾患の臓器によっても成績は分かれ,腎癌は比較的良好で膵臓癌は不良,肺癌と大腸癌については報告により成績が分かれた。Marangosなどによるスカンジナビアからの多施設共同研究では,腹腔鏡手術を適用した41例中10例は術後に別種の良性疾患であったことが判明している[]。術前診断の難しさを裏付けていると言える。腹腔鏡手術自体の成績は良好であるが,やはり「These procedures should be performed by highly skilled laparoscopic surgeon 」と記されている。

図 3 .

肺腺癌の腹腔鏡手術による摘出症例。a:摘出標本割面,通常の副腎腺腫とは全く異なる外観割面を呈する。b:病理組織写真。被膜が薄く,直近まで腫瘍組織が迫っていることが分かる(HE:10×10)。

図 4 .

本症例は7cm近い左副腎皮質癌を腹腔鏡下に手術した後のCT写真である(他施設症例)。術中に被膜を損傷し,術野の洗浄によって左腎周囲に播種したものと思われる(矢印)。

表1.

東北大学病院における転移性副腎腫瘍に対する腹腔鏡下手術。原則として対象は5cm以下とし,初回腎癌手術が経腹膜手術であれば副腎へのアプローチは後腹膜的に臨んでいる。

表2.

転移性副腎腫瘍に対する外科治療,諸家の報告。N.A.:not available

※拡大手術の適応

転移性副腎腫瘍において周囲臓器への進展が予想された場合には、切除範囲を広げた一期的拡大手術もありえると考えられる。抗癌剤治療や放射線科治療が奏効しにくい現状を考えると,年齢や再発までの期間などを総合的に勘案して適応を決定する。最近われわれが経験した1例を示す。

【症例:60歳台,女性】

既往歴:8年前に子宮頸癌で子宮全摘術および術後全身化学療法(2コース)。

現病歴:肺疾患の検索中に偶然右副腎部腫瘤を指摘される。前医での針生検の結果副腎癌が疑われ,シスプラチン,エトポシド,ドキソルビシンによる全身化学療法を受けたが病勢進行し,当科紹介となった。初診時副腎腫瘍は最大径8cmあり,右腎と肝に直接浸潤をきたしていた。血中CA125が高く,現在までの経過から子宮頸癌の晩発性,孤立性右副腎転移と総合的に診断,手術適応ありとした。

手 術:chevron切開で腹腔に至り,途中に消化器外科の応援を得て,腫大した右副腎を右腎,肝と一塊として摘出した(図5a,b)。現在,再発なく生存中である。

図 5 .

拡大手術により子宮頸癌右副腎転移症例を治癒切除。a:術中写真。b:摘出標本,右腎および肝を一塊にして摘出(矢印:副腎腫瘍)。

おわりに

転移性副腎腫瘍の診断と外科治療は,われわれ内分泌外科医,泌尿器外科医にとってチャレンジングな対象であり続けている。手術以外に完治の可能性を追求できない対象群であるが,現在までの成績は決して満足のいくものではない。更なる熟慮の上の手術適応決定と,根治を目指した慎重かつ大胆な術中操作が望まれる。

【文 献】
 

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