Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Pathology of thyroid anaplastic carcinoma
Kaori Kameyama
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2013 Volume 30 Issue 3 Pages 164-167

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抄録

甲状腺未分化癌では穿刺吸引細胞診での診断確定で治療が開始されることが多く,その細胞像を熟知しておくことが重要である。すなわち,壊死や好中球を背景に,異型の著明な細胞が集塊・あるいは散在性に観察される。細胞形態は様々で,扁平上皮への分化が窺われるものもある。組織像では,紡錘形細胞の目立つタイプ,巨細胞の目立つタイプ,扁平上皮への分化が目立つタイプなどに分類される。いずれも核異型は顕著で,クロマチンは濃染し,異常核分裂像が多数認められる。分化癌(乳頭癌,濾胞癌)と未分化癌が共存する例があるが,これは分化癌の未分化転化と考えられている。鑑別疾患としては第一に平滑筋肉腫をはじめとする肉腫があり,免疫染色が必要となる。

はじめに

未分化癌は,急激な腫瘍の増大・症状の増悪により臨床的に高い確度でこの疾患の予想がつく。穿刺吸引細胞診で未分化癌と確認し次第,治療が開始されることとなるため,細胞所見の特徴を知っておくことはたいへん重要である。本稿では,未分化癌の特徴的な細胞所見と組織所見につき概説する。

穿刺吸引細胞所見

背景は壊死性で,好中球の浸潤が高頻度でみられる。腫瘍細胞量は通常多いが,腫瘍細胞が目立たない場合は急性化膿性甲状腺炎を除外する必要がある。腫瘍細胞は散在性あるいは重積のある集塊として観察される(図1)。細胞形態は紡錘形,多角形など様々で,巨大な核を有する腫瘍もある(図2)。核の多型性や異型性は顕著であり,多核細胞もしばしば出現する。核分裂像,特に異常核分裂像が多数観察される。扁平上皮への分化が窺われる例や,分化型の癌と共存が確認できる例もある(図3)。通常は細胞診のみで未分化癌の診断を確定するが,他臓器の分化度の低い癌の転移,扁平上皮癌,平滑筋肉腫などの非上皮性腫瘍との鑑別が問題となることもある。

図1.

典型的な細胞像

多数の好中球を背景に,核小体の目立つ類円形異型細胞の集塊がみられる。腫瘍細胞の接着性は不良である。

図2.

巨大腫瘍細胞の細胞像

図1と同倍率で撮影した写真である。濃染した巨大核を有する細胞が観察される。

図3.

乳頭癌と共存する例

下方ではやや分化度の低い乳頭癌の集塊が,上方では壊死傾向の顕著な未分化癌が認められる。乳頭癌の未分化転化と考えられた。

肉眼所見

通常4cmを超える大型で境界不明瞭な腫瘤を形成する。腫瘍は甲状腺全体を置換し,周囲組織への浸潤傾向が顕著である。割面は白色で,壊死や出血を伴い軟らかい。腫瘍内部に輪状の石灰化構造が認められることがあるが,この内部には先行病変と考えられている分化癌が認められることがある。

組織所見

以前は構成細胞の形態により紡錘形細胞癌,巨細胞癌,多形細胞癌に分類されていたが,これらの成分は混在して認められることが多く,また臨床的に分類する意味がないことより,今日では一括して未分化癌と呼んでいる。おおまかに紡錘形細胞が目立つタイプ(図4),巨細胞の目立つタイプ(図5),扁平上皮への分化が目立つタイプ(図6)というように亜分類されている。周囲組織との境界は不明瞭で,脈管侵襲(腫瘍塞栓)もしばしば認められる(図7)。その旺盛な増殖傾向を反映し,壊死傾向が顕著である。背景に好中球浸潤の目立つ例も多い。いずれも細胞のタイプも核異型が顕著でクロマチンが濃染し,異常核分裂像が多数観察される。細胞質は好酸性で厚みがある。壊死の周辺では核の柵状配列や核濃縮を示す細胞が認められる。

図4.

紡錘形細胞

核小体の明瞭な長円形核を有する紡錘形細胞が束状に増殖している。核異型より悪性と判断される。

図5.

巨細胞

図2と同一症例である。奇形的な核を有する巨大な細胞が増殖する。細胞内に好中球が取り込まれている像も観察される。

図6.

扁平上皮への分化

多角形あるいは紡錘形細胞が増殖している。細胞質は好酸性で厚みがあり,扁平上皮への分化が窺われる。

図7.

腫瘍塞栓

未分化癌の腫瘍細胞が静脈内で塞栓を形成している。

未分化癌と連続して分化癌(乳頭癌・濾胞癌)が認められることがあり,未分化癌が,先行病変である分化癌の脱分化で生じたと考える根拠の一つとなっている(未分化転化)。未分化癌と分化癌に連続性がみられる例(図8)や,輪状(shell状)線維化・石灰化内部に分化癌,外部に未分化癌がみられる例(図9)など様々である。未分化癌と分化癌の間に低分化癌の領域がみられることもある。分化癌が認められない例があるが,これがde novoで生じたのか,あるいは未分化癌の旺盛な増殖により分化癌が消失してしまった結果なのかはわからない。分化癌との混在例では,未分化癌の量が少ないほど予後が良い傾向にある。

図8.

乳頭癌の未分化転化と考えた例

乳頭癌(左上)と未分化癌(右下)に連続性がある。

図9.

濾胞癌の未分化転化と考えた例

輪状硝子化・石灰化巣内部に濾胞癌(左),外部に未分化癌(右)がみられるが,互いの連続性は明らかでない。

紡錘形細胞束状増殖の目立つ例では平滑筋肉腫や線維肉腫,悪性黒色腫あるいは悪性線維性組織球腫が鑑別疾患となる。実際には,甲状腺原発の例の報告が散見される平滑筋肉腫が最も注意を要する疾患である(図10)。稀に乳頭癌や濾胞腺腫が紡錘細胞化生を生じることが報告されており,注意が必要である[]。また,扁平上皮への分化傾向を示す場合は扁平上皮癌が鑑別に挙がる。喉頭や食道原発の扁平上皮癌の甲状腺転移と区別することも必要となる。腫瘍組織のみでの鑑別が難しい場合もあるが,急激な増殖といった臨床経過に加え,標本の詳細な観察で乳頭癌や濾胞癌の成分を見出すことが肝要である。一般に甲状腺未分化癌では角化傾向は乏しい傾向にあることも鑑別の助けとなる。

図10.

甲状腺原発平滑筋肉腫

紡錘形異型細胞が束状に増殖している。一見,紡錘形細胞よりなるタイプの未分化癌と見分けがつきにくい。免疫染色を行ったところサイトケラチン陰性,αSMA陽性となり,平滑筋肉腫と診断した。

他の腫瘍との鑑別には免疫染色が役に立つ。未分化癌の大部分は上皮性マーカーであるサイトケラチンが陽性になることより,肉腫との鑑別が可能である。しかし20%程の例は高分子量・低分子量いずれのサイトケラチンも発現しない。EMAやCEAが陽性となる例もあるが,実務上はこれらが用いられることは少ない。鑑別すべき腫瘍が平滑筋肉腫の場合はデスミンやαSMAが陰性となることを確認することとなる。なお,濾胞上皮で発現するthyroglobulinやTTF-1は一般に陽性とはならない。紡錘形細胞より構成される髄様癌との鑑別では,当然CEAやcalcitoninが用いられることとなる。

なお,特殊型として破骨細胞亜型[](組織球由来の多数の核を有する破骨型巨細胞の増殖が顕著なタイプ),癌肉腫亜型[](腫瘍性と考えられる骨や軟骨が認められるタイプ。他の臓器で用いる癌肉腫は甲状腺では未分化癌に分類している),乏細胞亜型[](Riedel甲状腺炎でみられるような緻密な結合組織を背景に,異型の軽度な腫瘍細胞が疎に分布するタイプ),リンパ上皮腫亜型[](上咽頭で認められるリンパ上皮腫に類似した形態を示す,ただしEBERは陰性のタイプ)が知られているが,いずれも稀である。

遺伝子異常

分化癌の未分化転化に関与する遺伝子変異としてp53やCTNNB1[]が知られている。実際p53の免疫染色を行うと未分化癌では陽性となる例が多い。

おわりに

未分化癌は,その顕著な異型性より高悪性度の腫瘍であるという診断は容易である。しかし,平滑筋肉腫をはじめとする肉腫,あるいは他臓器からの転移の可能性を念頭に置き,免疫染色を含めた慎重な検討が必要である。

【文 献】
 

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