2013 Volume 30 Issue 3 Pages 193-196
Vessel sealing system LigaSureは電気エネルギーと圧力により血管壁や周囲組織を変成させてシールし,切離が可能な装置である。縫合糸による結紮の代わりに使用され,体内に異物を残さない。手術時間の短縮や出血量の減少に貢献している。小型のハンドピースであるLigaSure Small Jawは,約2秒の短時間でシールが完了し,アゴの熱履歴が低く,周囲組織への熱拡散も最小限に抑えるような構造である。アゴ先端も改良され剝離操作もし易くなった。また,ブレードが内蔵されており切離もできる。これらにより,器具を持ちかえることなく組織の剝離・把持・シール・切離ができるようになった。甲状腺切除術においても手術時間の短縮や出血量の減少など,その有用性の報告がある。
外科手術では組織の剝離や,血管の止血・切離を頻回に繰り返す。止血操作のためには従来縫合糸が使用されてきたが,モノポーラ電気メス,バイポーラ電気メスが使用されるようになり,さらにバイポーラシザース,ハーモニックスカルペル,ベッセルシーリングシステムなどの手術器具が使用されている。これらの手術器具の止血効果や周辺組織への影響は,手術時間,出血量,神経損傷などにも差が生じる可能性がある。Vessel sealing system LigaSure(LS)はバイポーラの電気凝固装置で,組織を把持し,血管壁や周囲組織を変成させてシールし,切離が可能な装置である。血管壁内のコラーゲンおよびエラスチンを融合・一体化することにより血流を遮断することが特徴である。シール強度も高く,電流の流れは刃先に挟まれた組織のみに限定され,また周辺組織への熱の拡散が少ない。結紮回数が減り,また異物を残さないという利点もある。現在さまざまな外科手術で使用されているが,小型のハンドピースであるLigaSure Small Jaw(SJ)はブレードが内蔵されており,器具を持ちかえることなく組織の切離もでき,甲状腺切除術においてもその有用性の報告がある。今回LSのメカニズム,SJの特徴や使用上のポイントを解説し,さらに文献的報告と当院の使用経験を紹介する。
LSはバイポーラの適正な電気エネルギーと圧力の組合せによって血管壁内のコラーゲンおよびエラスチンを融合・再生し,血管の内腔を完全に一体化することによって血流を遮断する。従来のバイポーラでは血管の内腔は一体化されずに開いており,血液の凝固や血栓によって止血するのだが,LSでは血管壁を完全に閉鎖し一体化するのでシール強度は非常に高いことが特徴である。
2)適正な電気エネルギーの供給LSを使用する際はForceTriad エネルギープラットフォームのジェネレータとともに用いる。このエネルギープラットフォームはTissueFectセンシングテクノロジーという理論に基づいて設計されており,毎秒3,333回,組織のインピーダンスを検知し,さまざまな組織に最適のシールを行うように出力の自動調整と自動停止を行う。シールは数秒の短時間で完了する。シールの完了をジェネレータ本体が検知して自動的に出力を停止するため,術者は把持することに専念すれば良い。通常の電気メスと比較して4倍以上の4Aの高電流を流すことによって,血管壁内のコラーゲンや結合組織を均一かつ短時間に融合して再生し,一体化することが可能である。また,通常の電気メスと比較すると1/5~1/20程度の200V以下の低電圧であるため,焦げつきが少なく組織に与える熱損傷が少ない。さらに,従来のバイポーラで使用されているような連続的な出力ではなく,パルス波形で出力することによって血管シール効率を向上させ,温度上昇を抑えている(表1)。
LigaSureの出力の特徴
脈管の確実なシールのためには,組織を把持して適正な圧力をかけることも重要である。従来のLSハンドピースでは組織を把持してロックをかけ,適正な圧力をかけるようにしていたが,SJではラチェットを無くし,握りこむことにより圧力をかけ,さらに出力が入るようにスイッチが付けられているので操作性が向上した。
4)高いシール強度バリーラブ社では動物実験で各種血管シール方法の強度の比較試験を行い報告している[1]。従来のLS,縫合糸,クリップ,通常のバイポーラを用いて3~7mmの太い動脈のシールを行い,破裂圧強度を測定した。その結果,LSの平均破裂圧強度は約900mmHgと縫合糸やクリップと同等であった。バイポーラ凝固の破裂圧強度は高かったが,バラツキが非常に多く,3mm以上の血管には推奨されない。LSは破裂圧強度のバラツキは少なく,最低でも正常の心臓収縮圧(血圧)の3倍(400mg)以上まで耐えられた。
5)安全性通常の電気メスよりも高電流を使用しているが,電流は刃先に挟まれた組織のみに限定して流れるバイポーラ回路のため,体への危険性は非常に少ない。TissueFectセンシングテクノロジー,低電圧,パルス波形などの効果によって,焦げつきや刃先への組織付着が少なく,周辺組織への熱の拡がりも1~2mm程度と少なく。体内のコラーゲンを利用してシールするため,縫合糸やクリップなどの異物を残さないので,将来MRIやCTなどの検査の妨げにならないし,縫合糸などに対する異物反応も起こらない[2]。
新しいハンドピースのSJは,従来のLSと同様に直径1から7mmの血管を確実に閉鎖可能で,異物を残さず,耐圧性も高い。一般的なエネルギーデバイスに比べ,把持した組織は約2秒の短時間でシールが完了できるようになった。また,アゴの熱履歴が低く,周辺組織への熱拡散による侵襲を軽減するように設計されている。従来型のLSハンドピースに必要であったラチェットをなくし,握りこむ際に触れる位置に出力スイッチを付けたことにより,操作性が高まった。アゴ先端の形状が従来品から改良され,剝離操作への使用が可能になった。さらに,シール後は,アゴ内部に内蔵されたブレードにより組織を切離する。これらにより,組織の剝離・把持・シール・切離が行え,器具の持ちかえが少なくなった。非常にコンパクトで軽く,手の小さい人でも扱うことができる。セッティングも簡単で,専用のジェネレータに差し込むだけですぐに使用できる(表2)。
LigaSure Small Jawの特徴
1)先端部分やヒンジ部分にはシールされない場合があるので,脈管および組織は,アゴの中心に置き,少し余裕をもって組織を挟む。
2)シーリングおよび切離の際は,薄い組織が裂けてしまう可能性があるので,把持部以外から組織にテンションがかからないようにする。
3)壁の薄い血管やリンパ管は,なるべく周囲の組織を含めてシールする。
4)シールサイクル完了音が鳴っていない場合は,最適なシールに達していない可能性がある。再出力しパルス音が2回鳴ってシールの完了を確認してからシール部分を切離する。アラート時の警告音と鑑別する。
5)刃先に血液や蛋白質などの変成物が付着すると上手くシールができない可能性があるので,こまめに刃先の汚れを除去する。
6)周囲に電流や熱が伝わらないように,アゴの外側表面は隣接組織から離しておく。また,器具のまわりの液体を吸引しておくこと。
7)過剰な電流が流れる可能性があるので,SJのアクティブ電極と鉗子,ステープル,クリップなどの金属製のものを接触させない。
8)血管病変(アテローム性動脈硬化,動脈瘤など)の症状を示す患者の手術には注意を払う。最良の効果のために,病変のない血管部位でシーリングを行う。
9)ブレードのステンレススチール部分にニッケル・クロムを含むため,それらのアレルギーがある場合は適応が禁止である。
LSは組織の凝固が終了すると,インピーダンスが変化を感知して自動的に通電を終了し,警告音で知らせる。この様にして出力や周囲への熱損傷を最小限にしている。周囲の熱損傷を調査したいくつかの報告によると,従来のバイポーラ電気メスでは周囲の熱損傷は6mmであったが,LSでは3mm以内であった[3~7]。この装置の特徴としては,7mmまでの血管をシールすることができ,また周囲組織の熱損傷は2mm以内と報告されている。甲状腺切除術において,LSを使用した手術と従来の手術を比較した22件の研究に関するManourasのレビューでは,2件を除いた20件でLS使用群は有意に手術時間が短縮した[8]。また,3件で一過性の低カルシウム血症が有意に減少したと報告されている。全ての報告で有害事象はなかった[9,10]。
甲状腺手術におけるSJの有用性の検討は,Hirunwiwatkul[9]の報告では甲状腺単結節の片葉切除術を対象に,SJ使用手術と縫合糸で結紮を行う従来の手術の多施設ランダム化前向き試験を行ったところ,手術時間(分)は62.4 vs 83.3(p<0.001)で有意に短縮し,また術中出血量(ml)は40.5 vs 63.3(p=0.001)と有意に減少した。術後の出血量,永続性声帯麻痺の合併率は有意差がなかった。Dionigi[10]は,良性結節における甲状腺切除術を対象に,SJを使用した場合とHamonic FOCUSを使用した場合のランダム化前向き試験を行ったが,手術時間,出血量,反回神経麻痺合併率,ドレーン排液量,術後血清カルシウム値など有意差はなかった。
当院では,2012年3月から甲状腺全摘+両側保存的頸部郭清術症例にSJを使用しているが,縫合糸で結紮を行う従来の手術と比較検討した。対象は従来法が2010年1月から2012年2月の56例,SJ使用群は2012年3月から2013年5月までの29例で,反回神経や内頸静脈などの合併切除を伴わない症例を選択した。手術時間(分)は236.1±60.7 vs 209.7±56.9(p=0.056)で僅かに有意差はなかったが,SJ使用群は平均26分短縮した。術中出血量(g)は,92.8±60.1 vs 60.1±47.4(p=0.012)で,SJ使用群は平均33.7g有意に少なかった。SJ使用に伴う有害事象はなかった。われわれは,熱損傷の危険性を考慮し反回神経周囲にはSJを使用していない。ベリー靱帯や上副甲状腺付近の細かな操作には,小型化されたといえSJは大き過ぎて使用は困難である。したがって,これらの操作はモスキート鉗子で剝離し,結紮縫合やバイポーラ電気メスで手術を行っている。しかし,中央領域のⅡ,Ⅲ番リンパ節郭清には非常に有用で,下甲状腺静脈なども縫合糸で結紮することなく切離している(図1a)。また,外側領域のリンパ節郭清にも非常に有用で,結紮回数は少なくなるので時間や出血量の減少に貢献している(図1b)。ただし,例えば脂肪に埋もれた副神経などは損傷する危険性があり解剖を熟知したうえで使用する必要がある。今回の検討期間にはLSを使用開始した初期の手術が含まれるため,今後習熟すればさらに手術時間や出血量が減少する可能性がある。ハンドピースは術者が使用する場合と,術者が従来の鉗子で剝離し,助手がハンドピースを使用する場合があり,情況により使い分けている。本邦の現行の保険診療では悪性腫瘍に使用した場合に加算請求できるが,実際の金額はそれを大きく上回っているので,当院では頸部外側領域の郭清加算がある症例に使用している。費用が高価であり適応症例の選択が課題である。
LigaSure Small Jaw を使用した甲状腺切除術
a:中央領域のⅡ,Ⅲ番リンパ節郭清
b:外側領域のリンパ節郭清
従来のバイポーラでは血管の内腔は一体化されずに開いており,血液の凝固や血栓によって止血するのだが,LSでは血管壁を完全に閉鎖し一体化するのでシール強度は非常に高いことが特徴である。SJは非常にコンパクトで,組織の剝離・把持・シール・切離が行え,器具の持ちかえが少なくなった。取り扱いに習熟すれば,頸部外側領域の郭清を伴うような甲状腺手術において非常に有用であると思われる。