Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Approaches and devices for urological endocrine surgery
Shigeto IshidoyaHiroshi AokiYuu SakuradaHiroki KannoShinobu SakamotoKazue ChisakaKiyoko Koike
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2013 Volume 30 Issue 3 Pages 207-211

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抄録

泌尿器科医は内分泌外科領域の手術において,腹膜外アプローチを頻用してきた。副腎領域では,後腹膜をバルーンで拡張して操作腔を作成,後腹膜鏡下副腎摘出術を盛んに施行している。種々のエネルギー源(電気メス,超音波凝固切開装置,シーリングデバイス)を用いての低侵襲かつ安全な手技である。また,一部の施設ではさらに整容性に優れた“単孔式副腎手術”も行われている。前立腺手術では,レチウス腔を展開しての前立腺全摘術を施行している。出血し易いサントリニ静脈叢の処理にはバンチング操作で対応,勃起神経の温存操作では,ファインな手術器械を吟味して慎重な操作で臨んでいる。最近では手術支援ロボット「ダヴィンチ」(daVinci)を用いた“ロボット支援腹腔鏡下根治的前立腺摘除術”が急速に広まっている。

1.はじめに

泌尿器科医が取り扱う内分泌臓器は副腎と前立腺が主たるものである。しかし,泌尿器科医がこれらの手術に際して用いている新たなデバイスはそう多くはない。本稿では,泌尿器科に特有の手術アプローチとして副腎の後腹膜腔における手術,レチウス腔を展開しての前立腺全摘術を取り上げ,それに用いられるサージカルデバイスについて紹介する。前者は腎や副腎へ最短距離で到達可能で,後者は前立腺や膀胱へ到達するメイン経路である。泌尿器科で頻用されているものの,筆者は未使用のデバイスも含めての紹介であることを予めお断りしておく。

2.後腹膜鏡による副腎摘出術

第二次大戦前より,腎・副腎領域に対する外科的アプローチとして腰部斜切開が用いられてきた。当時は腎結核に対して,局所麻酔下に外・内腹斜筋,腹横筋を切開して後腹膜腔へ到達し,病腎を摘出していたのである。1990年代に入り腹腔鏡下副腎手術が広まると,後腹膜アプローチに慣れていた泌尿器科医を中心に後腹膜鏡下副腎手術も開始されたのは当然の成り行きであった[]。後腹膜アプローチの欠点として,①操作腔が狭い ②メルクマールとなる臓器が少なくオリエンテーションがつきにくい,といった点が挙げられている。しかし,無視できない長所もあり,①腹腔内臓器損傷のリスクがない ②上腹部手術の既往-癒着の影響を受けない ③炭酸ガスの消化管暴露がなく,術後の回復がやや早い ④術後は操作腔が消失するため,後出血のリスクが少ない,などの点で有利である。

大きい褐色細胞腫の場合,経腹膜アプローチが選択されることが多い。しかしわれわれは主に後腹膜アプローチを採用している。腎全体を十分に剝離してこれを下方に牽引すると,腫瘍が腎と一塊となって下方へ下りてくる。次に小動脈を含んだ腫瘍周囲組織の処理を順次進めると腫瘍と腎がいわゆる“雪だるま”状になる。こうして全体を剝離の後に,最終段階で副腎中心静脈をクリッピングする。特に右側の場合,経腹アプローチで肝を挙上しながら最深部で短い副腎中心静脈にクリッピングするよりも,後腹膜腔からアプローチして肝と腫瘍との剝離を全て終えた状態で副腎中心静脈に臨んだ方が容易かつ安全と考えている[]。

後腹膜鏡下副腎手術の大まかな流れと使用するデバイスを記す。

1)後腹膜の展開

後腹膜に腔は存在しない。人為的に操作腔を作成する必要があり,一般的に腹膜外腔拡張バルーンシステム(PDB™ Balloon,COVIDIEN)が用いられる。腎を包むGerota筋膜は腎の後外側で外側円錐筋膜と癒合して腰方形筋膜へ連なる(図1)。後腹膜アプローチではまずこの外側円錐筋膜を頭尾方向に大きく開いて,さらにGerota筋膜内部へ入っていく[]。メルクマールは大腰筋である(図2)。後腹膜腔の場合,気腹圧は8~10mmHgが標準であるが,トロカー挿入時や静脈性出血の際に一時的に12mmHgまで上げることがある。光学視管は0度を用いる。

図1.

Gerota筋膜は腎を全周ではなく半周のみ被っている。外側円錐筋膜は腎の後外側でGerota筋膜と癒合している。後腹膜腔でこの筋膜を鈍的に開くと,一気に腎周囲脂肪織に到達する。

図2.

外側円錐筋膜を開いた後,左腎・副腎を被う腎周囲脂肪織を横隔膜から剝離して尾側へ下げてくる(矢印)。

2)エネルギー源

ア)電気メス

通常の開放手術で用いるものと同一の単極電極であり,ハサミ,フック付き鉗子,へら型鉗子などに接続する。再利用可能で最も安価である。

イ)超音波凝固切開装置

・ハーモニックスカルペル(Harmonic ScalpelⅡ®,Harmonic ACE®,ETHICON ENDO-SURGERY)

振動エネルギーにより組織を凝固・切離する。先端がカーブしており,これ1本で大まかな剝離操作と凝固・切開とが可能である。ただし,キャビテーションおよびactive bladeによる熱損傷に注意が必要である。また,悪性腫瘍に対してはミスト効果によるポート部再発の報告があり,その適用は控えられている。

・ソノサージ(SonoSurg,OLYMPUS)

メカニズムはハーモニックと同様である。再利用が可能である。

ウ)シーリングデバイス

・リガシュア(LigaSure™,COVIDIEN)

高周波エネルギーにより組織をシールした後,内臓ブレードで切開するデバイス。先端の形状がノーマルタイプとブラントチップとがあり,シャフト径(5,10mm),シャフト長(20,37,44cm)も選択が可能。ハーモニックスカルペルよりも先端部分の熱伝導が少ないので,初心者でも比較的安全に使用可能である。

・エンシール(EnSeal®,ETHICON ENDO-SURGERY)

メカニズムはリガシュアとほぼ同様である。

3)クリッピング

副腎中心静脈はメタルクリップで二重結紮の上,鋭的に切断する。海外ではシーリングデバイスで処理することが多いようである。

※単孔式手術(Laparoendoscopic single site surgery:LESS)

泌尿器内視鏡手術でも単ポートによる手術が普及し始めている。SILS™ポート(Single Incision Laparoscopic Surgery:SILS;COVIDIEN)より光学視管と2本の鉗子を挿入する(図3)。鉗子操作に慣れが必要とされているが,整容性の面での利点は大きい[]。

図3.

単孔式手術のSILS™ポート

3.レチウス腔(Retzius space:恥骨後腔)からの前立腺全摘術

外科領域,婦人科領域においても下腹部正中切開は頻用されるが,腹直筋を分けた後に腹腔に入らずに,膀胱と恥骨裏面の間を剝離して人為的に空間(レチウス腔)を作成する手法は泌尿器科に特徴的である。これは前立腺や膀胱にアプローチする標準的なルートである。ここでは勃起神経温存を伴う恥骨後式前立腺摘除術に用いるユニークな器械を中心に概説する。

1)内骨盤筋膜(endopelvic fascia)の切開

レチウス腔に入っても前立腺は結合織に覆われて膀胱と一塊になっており,すぐには直視出来ない。前立腺左右にある内骨盤筋膜を切開すると直腸前の脂肪織に到達する。この操作により前立腺の全容が明らかになる(図4)。

図4.

レチウス腔における前立腺の全景。図上方には前立腺,連続して下方に膀胱頸部が位置している。

レチウス腔に入った段階で所属リンパ節郭清も行うことが多い。前立腺癌の所属リンパ節は直腸癌の側方郭清領域にほぼ近い(閉鎖リンパ節〈282〉,内腸骨リンパ節〈272〉など)。

2)dorsal vein complex(DVC)の切離

甲状腺と同様に,腺組織である前立腺は血流が豊富で出血をきたし易い。しかも小骨盤深部に固定されており,術野としては扱いにくい位置にある。その前面にはサントリニ静脈叢とよばれる血管網が発達していて,勃起に際して陰茎海綿体から大量の血液が流出する経路になっている。出血を最小限にするため,この静脈叢を中央に寄せ集めて(バンチング)集簇結紮する手法が用いられる[]。この際に用いる鉗子がバンチング鉗子であり,集簇した静脈叢をdorsal vein complex(DVC)と呼ぶ(図5)。逆行性の摘出術では前立腺尖部でまずDVCを切離し,次いでその直下にある尿道を切断する。

図5.

バンチング鉗子(a)とバンチング操作の全景(b)。サントリニ静脈叢を前面中央に集簇すると,勃起神経を内包する白いlateral pelvic fasciaが現れる(矢印)。

3)勃起神経温存操作

勃起を支配する神経は1本ではなく,前立腺側後方にある神経血管束(neurovascular bundle:NVB)を中心に前立腺前面でネットワークを形成している。この神経ネットワークを内包して前立腺前面を覆うところのlateral pelvic fasciaを丁寧に剝離,直腸側に残す作業が神経温存操作である。出血し易いが電気凝固を用いると容易に神経は破綻してしまうため,慎重な操作が要求される。泌尿器科医は以前からこの操作に拘り,使用する鉗子類を吟味してきた。図6にわれわれが用いている器具を示す。前立腺本体とfasciaとの間の剝離には極先細のケリー鉗子を用い,両者間の貫通血管は3mmのクリップで処理する。

図6.

lateral pelvic fasciaは,先細のケリー鉗子(a)で慎重に剝離し,5mmのクリップをかけて,先端の彎曲が強いハサミ(b)で切離する。貫通枝は電気凝固ではなく3mmのクリップ(c)で処理する。

※ロボット支援腹腔鏡下根治的前立腺摘除術:robot-assisted laparoscopic radical prostatectomy(RALP)

2012年に手術支援ロボット「ダヴィンチ」(daVinci)を用いた前立腺全摘術が保険認可され,現在急速に普及してきている(筆者の施設では未導入)。360度の可動域を有するロボットアームによる,3Dの視野下の手術が特徴である(図7)。今後,日本における周術期,腫瘍学的,そして機能(排尿と性)の面からのアウトカムが報告されてくるものと期待される。

図7.

a:術者コンソール,b:手術の風景。東北大学泌尿器科ホームページ(http://www.uro.med.tohoku.ac.jp/patient_info/ic/p_d_01.html)より引用

4.おわりに

泌尿器科医は頻用するものの,外科医が一般的には選択しないと考えられるアプローチによる手術を,副腎と前立腺に絞って紹介した。どちらも腹腔外操作であり,特有の長所を有する点を理解いただければ幸いである。

【文 献】
 

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