Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
A case of minimally invasive follicular carcinoma with multiple bone metastasis including frontal bone
Yuka TanakaKeisuke EnomotoAyako MasunoYukie EnomotoMiki NagaiKazuya TakedaShotaro HaradaKohki ShimazuKeiko ImanishiHiroaki FushimiYoshiharu SakataNoriyuki Okada
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2013 Volume 30 Issue 3 Pages 221-225

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抄録

症例は69歳,男性。2年前に,近医で甲状腺腫を指摘され経過観察されていたが,サイログロブリン(Tg)が徐々に上昇し,甲状腺精査目的で当院に紹介受診となった。

初診時の血液検査でTg 2,430ng/mLと異常高値を示し,超音波検査で2cm大の石灰化を伴う腫瘤を認めた。穿刺吸引細胞診の結果,濾胞性腫瘍が疑われ,甲状腺右葉切除を施行した。病理組織学的には微少浸潤型甲状腺濾胞癌であったが,術後に転移検索でCT・MRI・骨シンチ・PET/CTを行ったところ,前頭骨と胸椎に多発骨転移を認めた。すぐに甲状腺補完全摘を施行し,椎弓切除による減圧と椎体固定術を行った。また,放射線外照射とゾレドロン酸水和物の投与に加えて,131I内用療法を施行した。

微少浸潤型甲状腺濾胞癌の骨転移症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

はじめに

甲状腺濾胞癌は,甲状腺悪性腫瘍の5~10%を占め,被膜浸潤・脈管侵襲・甲状腺外への転移の少なくとも一つを確認することで診断される[]。浸潤形式により,微少浸潤型と広範浸潤型に分類され,微少浸潤型では遠隔転移が少なく比較的予後が良い[]。

今回われわれは,比較的予後が良いとされる微少浸潤型甲状腺濾胞癌で,多発骨転移を認めた症例を経験したので,濾胞癌の予後因子について文献的考察を交えて報告する。

症 例

患 者:69歳・男性。

現病歴:約2年前,近医でCT検査にて甲状腺腫を指摘された。以降近医で経過観察されていたが,サイログロブリン(Tg)が徐々に上昇し,甲状腺精査目的で当院に紹介受診。

家族歴・既往歴:特記事項なし。

職業歴:放射線技師として放射線照射業務に約40年間従事。

検査所見:初診時の血液検査を表1に示す。Tg 2,430ng/mLと異常高値を示していた。TPO抗体は陽性で,TGとT-CHOは軽度高値を示した。その他に異常所見は認めなかった。超音波検査では,右葉に径19×16×19mmの境界比較的明瞭,被膜に石灰化を伴う結節が描出された(図1)。内部エコーは被膜の強い石灰化により評価不能であった。この結節より穿刺吸引細胞診を行った結果,濾胞上皮細胞の大小集塊がみられ,多くは濾胞状構造を示し,濾胞性腫瘍が疑われた。

表1.

初診時血液検査

サイログロブリン(Tg)が2,430ng/mLと異常高値を示し,TPO抗体は陽性であった。その他,TGとT-CHOが軽度高値を示した以外に異常所見を認めなかった。

図 1 .

初診時超音波検査

右葉に2cm大の境界比較的明瞭,周囲に殻状の石灰化を伴う結節を認めた。

経 過:濾胞性腫瘍の診断のもと,甲状腺右葉切除を施行した。切除標本において,腫瘍は線維性被膜に被包され,濾胞上皮に類似した均一な大きさの腫瘍細胞が濾胞状構造を示した(図2)。腫瘍は一部においてのみ被膜浸潤を呈すが,脈管侵襲像は明らかでなかった(図2)。被膜浸潤の程度から微少浸潤型濾胞癌と判明した。術後の転移検索で,CT・MRI・骨シンチ・PET/CTを行ったところ,前頭骨と胸椎に多発骨転移を認め,すぐに甲状腺補完全摘を施行した(図3)。Th2の転移は,脊髄の圧迫所見を認め,椎弓切除による減圧と椎体固定術を行った。頸椎への放射線外照射終了後にゾレドロン酸水和物の投与に加えて,131I内用療法(初回投与80mCi)を施行中である。

図 2 .

切除標本

(A)摘出標本割面。腫瘍径は2.5×2cm。腫瘍は線維性被膜に被包されており,被膜の一部は石灰化を呈している。

(B)病理組織所見。腫瘍は一部被膜浸潤を呈しているが,脈管侵襲像は明らかでない。

図 3 .

骨転移を示した画像

(A)骨シンチ 前方像。右眼窩上縁に点状集積を認める(矢印)。

(B)骨シンチ 後方像。上位胸椎に淡い集積を認める(矢印)。

(C)頸部CT 冠状断像。右眼窩上縁に低吸収域を認める(矢印)。

(D)胸部CT 横断像。Th2椎体に骨破壊を伴う軟部影を認める(矢印)。

考 察

甲状腺濾胞癌は,浸潤形式により,微少浸潤型(浸潤部位が組織学的に少数存在)と広範浸潤型(肉眼的に周囲甲状腺組織に広い範囲に浸潤を示す)に分類される[]。広範浸潤型濾胞癌は,微少浸潤型濾胞癌に比べて,明らかに遠隔転移や再発が多く,予後が不良である[]。

被膜浸潤と脈管侵襲を比較すると,脈管侵襲の程度が被膜浸潤の程度よりも大きく予後に関与する[,]。脈管侵襲の程度が強い症例は遠隔転移の頻度が高く,予後が不良である。また,小児の濾胞癌に限っても,脈管侵襲は予後不良因子となる[]。一方,被膜浸潤の程度は予後に影響を与えないとする報告がある[,]。微少浸潤型を,被膜浸潤だけのものと脈管侵襲を伴ったものに分けた場合,脈管侵襲を伴った微少浸潤型は遠隔転移が多い[,]。

本症例では,一部にのみ被膜浸潤を認め,脈管侵襲像は明らかでなく,予後が良いとされる微少浸潤型であったが,多発骨転移を認めた。微少浸潤型の予後は良好とされているが,長期間観察したものでは5~15%に遠隔転移が認められている[]。ただし,被膜浸潤や脈管侵襲の同定は病理医・施設間によって異なる。また,濾胞癌とは被膜浸潤・脈管侵襲・甲状腺外への転移の少なくとも一つを確認することで診断される為,組織学的に被膜に完全に囲まれ脈管侵襲もみられないが臨床的に転移を認め濾胞癌と診断される例もあり,留意すべき点である。

甲状腺濾胞癌において,病理学的腫瘍径も予後因子である。Schmidtらによる濾胞癌19症例の報告では,腫瘍の大きさが3cm以下での再発や転移例は認めなかった[10]。また,Carlosらによる濾胞癌66症例の報告では,遠隔転移を認めた腫瘍径の中央値は5.0cmであった[11]。腫瘍径4cm以上の場合,積極的に手術を勧める一つの指標となっている[]。本症例の腫瘍径は約2cmであり,遠隔転移を認めたこれまでの症例の中でも,比較的腫瘍径の小さいものであった。

その他,男性,高年齢,血清Tgの高値も,予後不良因子である[,1213]。また,低分化成分を含むものの予後は特に予後が悪い[]。加えて,低分化成分のうちinsular componentを含む濾胞癌は,遠隔転移を起こしやすく予後不良であることも報告されている[1415]。低分化成分を含む濾胞癌は,現在WHO分類および本邦における甲状腺癌取扱い規約では,低分化癌に分類されるが,実際の臨床では濾胞性腫瘍として手術され低分化成分を含むʻ濾胞癌ʼとして報告されていることもある。

濾胞癌の転移部位は,肺や骨,脳が多く,骨転移としては,肋骨や椎体骨や胸骨,骨盤骨の報告が多い[]。本症例では胸椎に加えて前頭骨にも転移を認めた。濾胞癌の頭蓋骨への転移は比較的少なく,過去の報告は主に頭蓋底や後頭骨であり,前頭骨への転移は稀である[1617]。その他,濾胞癌の稀な転移部位として,腰仙骨,頭皮,上顎骨洞,副腎,膀胱などの症例が報告されている[1822]。転移性骨腫瘍は,神経の圧迫による疼痛や麻痺,病的骨折など日常生活動作(ADL)に障害をきたす可能性がある。ADLの維持は,患者の生活の質(QOL)に大きく影響する。生命予後の延長とQOLを維持する為に甲状腺濾胞癌の骨転移の治療法としては,①手術,②放射線外照射,③ゾレドロン酸水和物やデノスマブなどの薬物治療,④131I内用療法,⑤TSH抑制療法,⑥麻薬やNSAIDs,89Srなどを用いた疼痛緩和などが考えられる。手術は,転移が単発で局所制御可能な場合や,脊椎転移では脊髄圧迫による疼痛や麻痺を避ける目的で適応される。本邦における甲状腺癌を含む転移性骨腫瘍全体の報告では,脊椎手術の有効率が疼痛では63%,麻痺では78%であると報告されている[23]。放射線外照射に関しても,疼痛緩和は70~90%と非常に有効であると報告されている。この中で,甲状腺癌での脊椎転移に対する手術後の50%生存期間は,21.6カ月であった。

第3世代のビスホスホネート剤であるゾレドロン酸水和物は,甲状腺癌の骨転移に対して有意に治療効果があることが報告されている[24]。本症例では,胸椎の転移は脊髄圧迫所見を認め,軽度の体動時痛や疼痛を認めた為に,減圧目的に椎弓切除術と椎体固定術を行った。続いて50Gy/20Frの放射線外照射とゾレドロン酸水和物の投与に加えて,131I内用療法を行い,腫瘍制御と疼痛緩和に努めている。現在は1回目の131I(80mCi)投与を終え,9カ月後に再投与を予定している。

おわりに

今回,稀な前頭骨を含めた多発骨転移を認めた微少浸潤型甲状腺濾胞癌の1例を経験したので報告する。

謝 辞

本論文の要旨は,第55回日本甲状腺学術集会で発表した。

【文 献】
 

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