Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
A case of synchronous thyroid papillary carcinoma and colon cancer of the neck node
Tsunehisa NomuraKazuya MiyoshiManabu NishieKazuhide IwakawaHiroyuki YanaiHiroshi SonobeKatsuhiro Tanaka
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2013 Volume 30 Issue 3 Pages 226-231

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抄録

48歳男性。下行結腸癌の診断にて手術予定であったが,術前CTを契機に甲状腺乳頭癌との重複癌が判明した。結腸癌手術の2カ月後に甲状腺亜全摘+D2aを行った。病理組織結果は乳頭癌,pT3EX1N1M0 StageⅣAであった。

術後10カ月,頸部CTにて頸部リンパ節腫大を認め,細胞診にてMalignantであった。甲状腺癌の頸部リンパ節転移を疑い,残存甲状腺摘出および右鎖骨上リンパ節を含む頸部リンパ節郭清を施行した。病理組織では,残存甲状腺にびまん性結腸癌転移を認めた。また,頸部リンパ節には結腸癌由来と甲状腺由来の転移の他に混合する組織像を呈する転移も認めた。

術後,甲状腺癌に関しては内用療法を行い経過良好であったが,結腸癌転移は化学療法を行うも,新たな骨転移や縦隔リンパ節などの再発を認め,術後16カ月永眠された。

甲状腺乳頭癌はリンパ節再発をきたしやすいが,重複癌の場合など,他のリンパ節転移の可能性も念頭に置いた治療指針の決定が重要であると考えられた。

はじめに

甲状腺乳頭癌はリンパ行性に転移することが知られている。結腸癌の甲状腺転移の頻度は少なく,頸部リンパ節転移をきたすことも非常に稀である。

今回,甲状腺乳頭癌と結腸癌の重複癌に対し,それぞれ手術を行った後,頸部リンパ節腫大を認め,甲状腺乳頭癌のリンパ節再発と診断し手術を行ったが,残存甲状腺に結腸癌転移を認め,頸部リンパ節には,結腸癌と甲状腺乳頭癌の重複転移を認めた非常に稀な1例を経験したので報告する。

症 例

患 者:48歳,男性。

主 訴:頸部リンパ節腫大。

既往歴:下行結腸癌(T3N1M0 StageⅢa,tub2)。

現病歴:当院で下行結腸癌と診断されたが,術前CTで甲状腺左葉に腫瘍を認めたため,当科紹介。細胞診にて甲状腺乳頭癌と診断した。下行結腸癌に対しては,左半結腸切除+D2を行い,術後補助療法としてUFT+LV療法を行った。結腸癌手術の2カ月後に甲状腺亜全摘+D2aを行った。病理組織検査ではPapillary patternを示す特有の異型核を有する細胞の増殖を認め,乳頭癌と診断した。左Ⅲに5個,左Ⅳに1個,左Ⅵに1個のリンパ節転移を認めた。甲状腺内に結腸癌の転移は認めなかった(pT3Ex1N1bM0 StageⅣA)。

術後経過良好であったが,10カ月後に右鎖骨上リンパ節および左頸部リンパ節腫大を認めた。細胞診を施行し,いずれもMalignantであった。手術目的にて入院となった。

入院時現症:右鎖骨上に1.5cm大のリンパ節を触知。左頸部リンパ節は触知せず。

頸部US:右鎖骨上リンパ節は一部Cysticに腫大し,左頸部リンパ節は内頸静脈上に認めた。残存甲状腺には明らかな腫瘤の存在や異常は認めなかった(図1a, b)。

図 1 .

頸部超音波

a:Cysticな右鎖骨上リンパ節腫大

b:甲状腺右葉には病変を示唆する所見なし

造影CT:残存甲状腺には明らかな病変はみられなかったが,右鎖骨上リンパ節腫大を認めた。また,右肺下葉に2.5cm大の結節があり,後腹膜リンパ節腫大も認めた(図 2a-c)。

図 2 .

造影CT

a:右鎖骨上リンパ節は嚢胞性で,一部造影効果がみられる。残存甲状腺に異常所見は認めない。

b:右下葉に2.5cm大の転移を疑う腫瘤あり。

c:腹部動脈の左側に転移を疑うリンパ節腫大あり。

穿刺吸引細胞診:左頸部リンパ節から採取した細胞は,核は小型で比較的異型は弱めだが,一部で核密度の高い集塊や核の大小不同,核溝を認め,乳頭癌の転移を示唆した(図3a)。右鎖骨上リンパ節から採取した細胞は,泡沫状の組織球を多数認め,のう胞性病変が示唆された。少数に小型上皮細胞集塊を認める悪性細胞を認めた(図3b)。

図 3 .

a:左頸部リンパ節の細胞診(パパニコロー染色)

b:右鎖骨上リンパ節の細胞診(パパニコロー染色)

Tlシンチ:甲状腺右葉に集積がある以外に異常所見は認めなかった。

手 術:肺転移および後腹膜リンパ節転移は結腸癌によると考えたが,鎖骨上リンパ節を含む頸部リンパ節転移に関しては,甲状腺乳頭癌の転移であると診断し,残存甲状腺全摘+左頸部リンパ節および右鎖骨上リンパ節郭清を施行した。摘出した残存甲状腺は肉眼的には異常を認めなかった。

病理組織学的所見:甲状腺内に腺癌細胞がびまん性に存在し,CK20陽性,TTF-1陰性で,結腸癌転移であった(図4a-c)。また,頸部リンパ節内に様相の異なる腺癌を認め,免疫染色ではCK20陽性,CK7陰性,TTF-1陰性の結腸癌由来の細胞とCK20陰性,CK7陽性,TTF-1陽性,サイログロブリン陽性の甲状腺乳頭癌由来の細胞が併存した(図5a-e)。頸部および鎖骨上リンパ節の転移状況は,甲状腺癌由来,結腸癌由来,混合したものが存在した。

図 4 .

残存甲状腺の病理組織学的所見

a:HE×100。甲状腺実質内に腺癌細胞を認める。

b:CK20陽性

c:TTF-1陰性

図 5 .

頸部リンパ節の病理組織学的所見

a:HE×100。リンパ節内に様相の異なる腺癌細胞を認める。

b:CK20陽性(黒矢印)とCK20陰性(白矢印)

c:CK7陰性(黒矢印)とCK20陽性(白矢印)

d:TTF-1陰性(黒矢印)とTTF-1陽性(白矢印)

e:サイログロブリン陰性(黒矢印)とサイログロブリン陽性(白矢印)

術後経過:術後7日目に退院した。結腸癌の再発を認めていたため,S-1による化学療法を開始した。甲状腺癌に対しては,術後3カ月後に他院にて5.55GBqの内用療法を施行した。以後,甲状腺癌に関しては頸部リンパ節再発や,サイログロブリンの上昇も認めなかった(図6)。

図 6 .

サイログロブリン,腫瘍マーカーの推移

しかし,結腸癌に関してはS-1を行っていたが,肺転移,骨転移,後腹膜リンパ節転移が進行し,CEA,CA19-9も増悪した。FOLFOX+bevasizumabやCapecitabin+bevasizumabを行ったが,顕著な治療効果は得られず(図6),再発術後16カ月に永眠された。

考 察

転移性甲状腺癌の頻度は非常に稀で臨床の場で発見する頻度はWychulisらの報告によると甲状腺手術の0.05%[],剖検例での頻度は海外では1.2~24%[],本邦では8.1%[]と報告されている。

転移性甲状腺癌の原発巣に関しては腎癌が最も多く,次いで乳癌,肺癌で,結腸癌の頻度は稀である[]。本邦の転移性甲状腺癌の割合は大塚らによると,腎癌が21例と最も多く,次いで肺癌7例,胃癌6例,乳癌5例であり,直腸癌3例,結腸癌は3例であった[]。しかし,甲状腺乳頭癌との重複癌の報告は本邦および海外においても著者らが検索した範囲ではみられなかった。

頸部および鎖骨上リンパ節腫大を認めた際の術前診断に関しては,肺および後腹膜リンパ節にも転移を認めていたこともあり,結腸癌の転移も念頭に置いた。しかし,左頸部から採取した細胞診では核溝など甲状腺乳頭癌を示唆する所見があり,甲状腺乳頭癌のリンパ節転移と診断した。鎖骨上リンパ節から採取した細胞は乳頭癌に特異的な所見はみられなかったが,甲状腺乳頭癌に由来すると判断した。

また,残存甲状腺は頸部超音波および頸部造影CTでも腫瘤の存在など明らかでなく,結腸癌甲状腺転移の診断には至らなかった。

手術術式については,甲状腺乳頭癌の再発に準じて,腫大したリンパ節は摘出すること,術後1年以内の再発であったことからslow growthで経過していくとは考えにくく,内用療法を視野に残存甲状腺全摘も必要と考えた。本症例では結腸癌の遠隔転移をすでに認めており,手術適応については慎重に考慮しなければならなかったが,術前の全身状態は良好であったことから,局所コントロールの重要性を考慮し手術を行った。

本症例は,術後に初めて甲状腺乳頭癌と結腸癌の重複転移と判明したが,結腸癌の甲状腺転移のみの予後について,Niconらによると,転移性甲状腺腫瘍術後の生存期間の中央値は26.5カ月であり,予後はそれほど不良ではないと報告されている[]。しかし,結腸癌の転移は1例も含まれていなかった。Lievreらは結腸直腸癌の甲状腺転移について6例経験し,甲状腺転移をきたしてからの全生存率は12カ月と報告している[]。本邦における結腸癌甲状腺転移についても,1年以内に死亡すると報告され,予後不良と報告されている[1011]。

甲状腺転移をした場合に,手術の可否について議論となるが,Lievreらは残存甲状腺および頸部リンパ節郭清はLife-threateningな兆候や予後の改善に寄与しているかもしれないとの見解を示している[]。金谷らもリンパ節転移の増悪に伴う反回神経麻痺などにより,気管切開術を行った経験から強く手術をするべきであると述べている[12]。

以上の報告に加えて,現在はoxaliplatinや bevasizumab などの新規薬物療法が承認され,治療選択肢が増え,生存率の向上が期待できる状況であり,手術による局所コントロールが生存率やQOLの面でも必要なのかもしれない。

本症例では,甲状腺乳頭癌に関しては,残存甲状腺全摘および頸部リンパ節郭清後に内用療法を行い,局所再発や遠隔転移を認めなかった。

甲状腺転移をきたした結腸癌の予後は,過去の報告では術後1年以内とされているが[11],本症例では,薬物療法による明らかな治療効果は認めなかったものの,再発術後の生存期間は16カ月と若干ではあるが改善している。

リンパ節転移に関しては,結腸癌由来の細胞は残存甲状腺への血行性転移からリンパ行性に転移した可能性もあるが,肺門リンパ節から縦隔,鎖骨上へリンパ行性に転移したと考えている。

本症例は,結腸癌のリンパ節転移に合併して甲状腺乳頭癌のリンパ節転移を認める非常に稀な病態であったが,甲状腺原発か転移性かの診断には免疫染色が非常に有効であった。TTF-1は甲状腺由来であれば陽性となるが,TTF-1陰性であった場合,CK7,CK20の併用で診断精度が向上する。甲状腺腫瘍由来であれば,CK7陽性,CK20は通常陰性であり,転移性であれば,CK7陰性,CK20陽性となる[13]。本症例も,甲状腺由来の細胞はTTF-1陽性,CK7陽性,CK20陰性であり,結腸癌由来の細胞はTTF-1陰性,CK7陰性,CK20陽性であり,原発巣の同定に非常に有用であった。TTF-1陽性であった場合には,原発性肺癌との鑑別も考慮されるが,サイログロブリン陽性であり,原発性肺癌は否定的であった。

おわりに

甲状腺乳頭癌と結腸癌の重複癌が頸部リンパ節に同時転移した非常に稀な1例を経験した。甲状腺乳頭癌はリンパ節再発をきたしやすいが,他の癌腫の既往がある場合,他からのリンパ節転移も念頭に置く必要があると考えられた。

本論文の要旨は第44回日本甲状腺外科学会学術集会(2011年10月6日,米子)にて発表した。

【文 献】
 

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