Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
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2013 Volume 30 Issue 4 Pages 245-246

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抄録

2000年のWHO分類で,膵神経内分泌腫瘍(Pancreatic Neuroendocrine Tumor;P-NET)は腫瘍径,組織学的分化度,血管浸潤の有無,隣接臓器浸潤の有無,Ki-67指数,核分裂像数から悪性度に応じて,高分化型内分泌腫瘍,高分化型内分泌癌,低分化型内分泌癌に分類された。さらにヨーロッパ神経内分泌腫瘍学会(European Neuroendocrine Tumor Society ;ENETS)より核分裂数,およびKi-67 指数によりG1,G2,G3に分類するGrade分類と,TNM分類により治療指針を立てるとするガイドラインが提唱され,2010年のWHO分類でもENETSガイドラインが推奨したGrade分類が重要視され,高分化型腫瘍はNET G1,NET G2に,低分化型腫瘍はNEC(Neuroendocrine carcinoma)に分類された。

本邦においても膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン作成の動きが本格化し,完成間近の状態となっている。本ガイドラインの目的は,本邦における膵・消化管NETの診療レベルの均質化であるが,エビデンスレベルの高い報告が少ない領域であるがため,その作成過程でリンパ節郭清,術式選択などに関して各種学会,研究会で多くの議論が行われた。P-NETの診療を行うにあたり,機能性,非機能性の分類,Grade分類,NETの多様性(heterogeneity)をしっかり認識しておくことは重要なことである。また,非機能性腫瘍という診断には,waste basket的な側面があり,非機能性腫瘍の中にも多様性(heterogeneity)が存在していることを認識する必要がある。画一的に大きさのみで治療方針を決めるようなことはせず,各種画像診断を駆使して,腫瘍の形態やリンパ節転移がないか,最近ではEUS-FNAを活用した術前Grade分類の有用性も報告されているが,これらの検査を総合して悪性度の評価を行い治療方針の決定を行うべきである。その結果,より悪性度の高いことを示唆する所見があればリンパ節郭清を伴う膵切除を選択すべきであろう。

今年9月に日本神経内分泌腫瘍研究会(Japan Neuroendocrine Tumor society;JNETS)が発足した。JNETSの目的の一つは,本邦のNETに関する診療データを集積し,それを元にしてガイドライン作成を行い,日常診療に還元するとともに,世界に向けて研究成果を公表していくことである。NET work Japanが中心となり,まとめられた本邦におけるNETの疫学データは,膵・消化管NETの部位別頻度など,いくつかの点で欧米とは異なっていた。また,P-NETに対するmTOR阻害剤であるEverolimusの効果も,欧米人よりも日本人を含むアジア人で良好であったという事実などからも,欧米のデータをそのまま本邦の診療にあてはめるべきではないと考えられる。P-NETの外科診療には,他疾患の精査で偶然発見される1cm以下の非機能性腫瘍の取り扱い,リンパ節郭清の範囲,肝転移術後を含む再発高危険群での術後補助療法,術前化学療法など,まだまだ課題が残されている。また,先進諸国で検査可能な血清クロモグラニンAやソマトスタチンレセプターシンチグラフィーなど,本邦において保険診療で行えないことも大きな問題である。JNETSが中心となりオールジャパンで,一つ一つの施設では数に限りのある本邦におけるNETの治療成績がまとめることで新たな事実を明らかにすること,また,様々な問題に取り組んでいくことにより,NET診療の進歩につながることを期待したい。

本書では手塚康二先生(山形大学医学部外科学第一講座(消化器・乳腺甲状腺・一般外科学講座)),木村英世先生(九州大学大学院医学研究院臨床・腫瘍外科),土井隆一郎先生(大津赤十字病院外科),青木 琢先生(東京大学肝胆膵・人工臓器移植外科),青木 豪先生(東北大学病院肝胆膵外科)といった方々に主筆をお願いした。

本書によってわが国における最新のP-NET外科治療についての考え方がご理解いただけるものと確信している。

 

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