抄録
小児甲状腺濾胞癌は発生頻度が非常に低く,主に成人症例の濾胞癌や分化癌の解析に含まれた報告か,症例報告がなされてきた。今日までに知られている小児症例における濾胞癌の臨床像について解説し,その治療法について報告する。
緒 言
小児における甲状腺癌の分子生物学的,組織学的な報告が前述されてきた。本項では小児甲状腺濾胞癌の臨床について今日までの報告を中心に整理する。
発生と病因
甲状腺癌の中で20歳以下の小児症例は約2.6%~12.9%を占め,頻度が少ない[1~4]。その多くが成人と同じく乳頭癌で,小児症例の90%以上を占める。濾胞癌,髄様癌の頻度はそれぞれ3%,5%程度である。小児における低分化癌や未分化癌の報告はほとんどない[5]。甲状腺濾胞癌の中では,小児症例は約2%程度である。小児濾胞癌はその発生頻度の低さより,多くは分化癌の報告にまとめられるか,濾胞癌の解析に一部含まれる程度での報告がある。
放射線被曝とヨード不足は甲状腺濾胞癌の発生リスクであることが知られている。遺伝性疾患では,Cowden病,Werner症候群なども危険因子となる。しかしながら,それらは小児症例に限ったものではなく,小児濾胞癌に特異的な発生リスク因子は報告されていない。
診 断
濾胞癌の診断は,病理学的に『①被膜浸潤の存在』や『②脈管侵襲の存在』もしくは,臨床経過での『③転移の存在』をもってなされる。よって,成人の場合と同じく,小児症例でも治療前に濾胞腺腫と濾胞癌の鑑別を行うことは非常に難しい。濾胞性腫瘍の診断で手術後に濾胞癌と診断される症例が多く,バセドウ病手術後の病理組織検査で初めて判明する偶発癌も時に遭遇する。濾胞癌は病理学的な被膜浸潤や脈管侵襲の程度により微少浸潤型と広汎浸潤型に分類される。広汎浸潤型は微少浸潤型に比べて予後が悪いことが知られている[6,7]。しかし,小児症例に限った筆者らの経験では,有意差を認めていない[8]。
画像診断は,成人例と同じく甲状腺評価としてUS検査が主に使用される。濾胞腺腫との鑑別で濾胞癌は,低エコー部分の存在,腫瘍辺縁低エコー帯(ハロー)の欠損,のう胞変性の存在がないなどがリスク因子として報告されているものの,明確な鑑別点はない[9]。またUSでのサイズが大きい症例や血清サイログロブリン高値なども濾胞癌を疑う所見となる。CTは原発腫瘍の周囲臓器への浸潤評価はさることながら頸部リンパ節や転移性肺腫瘍などの評価として,MRIは転移性脳腫瘍や転移性骨腫瘍の評価などに用いられる。骨シンチも高分化型腫瘍である濾胞癌の転移検索に良く用いられる。FDG/PETは遠隔転移診断,濾胞性腫瘍の質的診断に用いられるが,FDG集積の程度は濾胞腺腫と濾胞癌の鑑別に有用でない[10]。小児濾胞癌に特異的な診断の鑑別点などは今日までに知られていない。
リスク因子と予後
小児乳頭癌は診断時に,頸部リンパ節や肺への転移などをきたしている頻度が高い。しかし,疾患特異的な生存予後は良好である特徴をもつ[11]。一方,小児濾胞癌では診断時にすでに転移をきたしている頻度は高くなく,疾患特異的な生存予後も成人例と比較して違いはみられない。
小児甲状腺癌の中で濾胞癌と乳頭癌の予後を比較したものが散見される。再発予後を比較したものが多いが,症例が少ない為かいずれも有意差を認めていない[12,13]。濾胞癌における予後因子には,年齢,性別,広範浸潤型,脈管侵襲,腫瘍径,遠隔転移などがある。これらはいずれも主に成人例を対象としており,小児濾胞癌に限った予後解析の報告は,知る限り筆者らの一論文に限られる[8]。この中で,脈管侵襲の有無のみが唯一再発予後に影響していた。再発部位は骨転移が1例(再発例の内33%),肺転移が1例(再発例の内33%)と,通常の濾胞癌と同じく遠隔転移が多い。
治 療
治療戦略は成人例の甲状腺濾胞癌とほぼ同じである。通常は濾胞性腫瘍として甲状腺切除がなされ,術後の病理診断で判明する。術前診断をなしえた場合には,成人例と同じく外科的手術が第一選択となる。バセドウ病手術や高度な腺腫様甲状腺腫の手術後に発見される偶発例も,約15%程度にある。術後病理学的に濾胞癌が判明した場合,術前に全身検索がなされていない様であれば,肺や骨などの好発転移部の評価に,胸部CTや骨シンチを行う。
手術における切除範囲は,明らかな遠隔転移がない場合,成人例であれば葉切除で組織型を確認し,予後不良因子(特に広範浸潤型や血管侵襲,術後のサイログロブリン高値)があれば補完切除+131Iアブレーションが本邦では推奨されている[14]。補完切除を行うことで,副甲状腺機能障害や反回神経麻痺の可能性と生涯に渡るLT4製剤服用の必要性がある。LT4製剤の服薬コンプライアンスの状況によっては患児の発達への影響が懸念される。投与量にもよるが,小児患者では放射線感受性が高く,131I投与により晩期障害である2次発癌や肺線維症の可能性,早期よりみられる唾液腺障害による口渇や嚥下障害,味覚障害などのリスクなど高いことが予想される。
治療前のステージングにて遠隔転移を認める場合には,全摘+131I内用療法が適応となる。小児例の内用療法,アブレーションで使用する131Iの最適な標準投与量は確立されていない。過去の報告では1mCi(37MBq)/Kg程度の131I投与がなされていることが多い[15,16]。小児分化癌にて131Iアブレーションを行った場合も,予後を改善する可能性が報告されている[17]。この報告は,小児乳頭癌中心での報告ではあるが,小児濾胞癌も18%に含まれている。小児濾胞癌で脈管侵襲などの予後因子に基づいて補完切除+131Iアブレーションをすべきかどうかは結論が得られてない。
結 語
今日における小児甲状腺濾胞癌の臨床についてまとめた。小児では成長・発達と,その後の半世紀以上に渡る非常に長期の経過を考慮に入れて治療に当たることが肝要である。
【文 献】
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