2013 Volume 30 Issue 4 Pages 299-304
同時期に甲状腺癌が発見された家族性非髄様甲状腺癌(familial nonmedullary thyroid cancer:FNMTC)の3症例を経験したので,家系調査を行った。症例は37歳・女性,63歳・女性(母),41歳・女性(姉)の3名の家族で,画像所見と病理所見について比較し,その特徴を調べた。超音波画像では2cm以下の多発する腫瘤像を認め,粗大な石灰化を伴うものや小さなものでは比較的同じような類円形を呈していた。CT画像所見では石灰化を伴う腫瘤を両葉に認めた。病理学的所見では両葉に多発する腫瘤像を認め,個々の腫瘤は緻密な線維形成を伴っており,これらの所見は画像所見に反映されていたと考えられる。1症例の中で個々の腫瘤像の特徴が類似した多発する甲状腺乳頭癌をみた場合,FNMTCと考え,入念に家族歴を問う必要があると考える。
甲状腺髄様癌はその約3割が遺伝性である。一方,髄様癌以外の甲状腺分化癌では,約5%が遺伝性と考えられ,家族性非髄様甲状腺癌(familial nonmedullary thyroid cancer:FNMTC)と呼ばれる。FNMTCは,甲状腺以外の病変を含む症候性のものと,甲状腺以外の病変がない非症候性のものの2つに大別され,後者は狭義のFNMTCであり,その定義は「親子兄弟に2人以上の非髄様癌患者が存在し,かつ明らかな症候群を伴わないもの」とされる。若年者に多く,甲状腺内に腫瘍が多発することが特徴であるが,詳細は未だに不明な点が多い[1]。今回,当センターで狭義のFNMTC1家系3症例の治療を経験したので,その家系での甲状腺疾患発生の有無と当センターで治療経験した3症例について画像と病理を中心として,その特徴をまとめ報告する。
当センターで経験した家族性非髄様甲状腺癌1家系の甲状腺疾患の発生を調査した。このうち当センターで治療した3症例の,放射線被ばく歴,超音波画像,CT画像,18F-fluorodeoxyglucose(FDG)PET/CT画像,治療法,病理学的所見の特徴について後ろ向きに検討した。超音波画像では腫瘤の形状,境界,内部エコー,高エコー像(石灰化)の有無,腫瘤の発生部位,腫瘤径,リンパ節転移の有無について3症例の特徴を比較した。
当センターで経験した3症例は37歳・女性(症例1),63歳・女性(症例2,症例1の母),41歳・女性(症例3,症例1の姉)であった。その他,症例1の祖母,従妹に他院での甲状腺癌の手術歴を認めた。その他の親類は甲状腺の検査を施行していなかった(図1)。3症例の既往歴に特記事項はなく,症例3は19歳より母,妹とは別居していた。いずれの症例も放射線被爆歴はなかった。
対象の家系図
当センターで経験した3症例以外に症例1の祖母,従妹に甲状腺癌の手術歴を認めた。
3症例の超音波画像とその特徴を,それぞれ図2と表1に示す。超音波所見は,3症例に共通して,形状不整,境界明瞭粗糙,内部エコーやや不均一,内部に比較的大きな高エコー像(石灰化像)を伴う2cm以下の低エコー腫瘤を両葉に多数認めた。1cm大のものは比較的同じような類円形の腫瘤として認められた。細胞診にていずれも甲状腺乳頭癌(多発)と診断した。加えて,超音波検査と細胞診にて症例1では右レベルⅥ,症例2では両側レベルⅥと咽頭前に,症例3では右レベルⅥの側頸部リンパ節転移を認めた。頸部単純CT画像は,症例1と症例2で甲状腺両葉に,症例3においては右葉に石灰化を伴う複数の低吸収腫瘤を認めた(図3)。18F-FDG PET/CTは症例2と症例3で施行した。症例2で甲状腺右葉にstandardized uptake value(SUV)maxが4.1のFDG集積を認め,左葉にSUV maxが2.5と2.8のFDG集積を認めた。症例3では甲状腺右葉にSUV maxが4.25,峡部にSUV max が4.34,右下内深頸領域のリンパ節にSUV maxが4.14のFDG集積を認めた(図4)。症例1では18F-FDG PET/CTの代わりに胸部CTを施行し,転移性肺腫瘍などは認めなかった。
超音波画像
症例1(A,B),症例2(C,D,E),症例3(F,G,H)にて,粗大な石灰化像を伴う境界明瞭粗雑,形状やや不整な低エコー腫瘤像を甲状腺両葉に認める(矢印)。1cm大のものは比較的類円形である。
3症例の超音波画像所見の特徴の比較
CT画像
症例1(A),症例2(B),症例3(C)において石灰化を伴うLDAを認める(矢印)。
PET/CT画像
症例2(A,B),症例3(C,D)において甲状腺腫瘍に一致してFDGの点状集積を認める(矢印)。肺や骨などの遠隔転移はいずれの患者においても認めなかった。
治療は3例ともに外科的切除を行った。全例に甲状腺全摘と気管周囲リンパ節郭清を施行した。加えて患側の側頸部郭清(D2b郭清)を1例に施行し,両側の側頸部郭清(D3郭清)を2例に施行した。術後はTSH抑制療法を行い,妊娠希望(症例1),孫の育児中(症例2),妊娠中(症例3)の理由にて131Iアブレーションは施行しなかった。
3症例の病理学的所見を図5に,その特徴を表2に示す。3症例に共通して,採取された甲状腺に,2cm以下の灰白色の結節性病変を多数認めた。腫瘍は周囲組織へ浸潤性に発育しており,Ex1であった。いずれの腫瘤も立方形腫瘍細胞が乳頭状および濾胞状構造を示しており,緻密な線維性間質形成を伴っていた。充実性,索状,島状配列を示す部分は認めなかった。核は楕円形で重畳傾向があり,微細顆粒状のクロマチンが均一に広がってスリガラス状となっていた。軽度のリンパ管侵襲と静脈侵襲を認めた。3症例ともpT3pN1bであったが,年齢より症例1,3はstageⅠで,症例2はstageⅣAに該当した。
病理学的所見
症例1(A-C), 症例2(D-F), 症例3(G-I)の病理所見を提示する。いずれも基本的には同様であり,肉眼所見(A,D,G)では,甲状腺両葉に多発する腫瘍を認める。弱拡大像(B,E,H)と強拡大像(C,F,I)において立方形腫瘍細胞が乳頭状および濾胞状構造を示している。核は楕円形で重畳傾向があり,微細顆粒状のクロマチンが均一に広がってスリガラス状となっている。
3症例の病理組織学的所見の特徴の比較
FNMTCは甲状腺濾胞細胞より発生し,病理学的には乳頭癌と濾胞癌に大別される。本邦における大規模な報告では,Uchinoら[2]が乳頭癌222例と濾胞癌26例を,Itoらが乳頭癌273例[3]と濾胞癌6例[4]を報告している。Uchinoらの報告[2]では,FNMTCと非遺伝性の非髄様甲状腺癌,すなわち通常の甲状腺分化癌との比較で,発生の男女差の頻度に有意な差は認めないが,215例中171例は女性の親子・姉妹で認められている。われわれが経験した症例も,すべて女性の患者で過去の報告に一致していた。
甲状腺乳頭癌の超音波画像は,形状不整・境界不明瞭粗雑・内部エコーは低エコー不均質といった特徴があり,明確な診断基準が確立されている[5]。加えてFNMTCでは良性の腫瘤や腺内播種などの多発する腫瘤像を認める[2,6]。表1の如く,経験した3症例に共通して,両葉に多発する腫瘤像を認め,個々の腫瘤の超音波画像所見はいずれも乳頭癌の所見を呈していたが,1cm以下のものは形状が類円形であり石灰化像は比較的粗大であった。術後の病理検査では,いずれも通常型の乳頭癌であった。3例の腫瘍はいずれも多発する結節が周囲組織へ浸潤性に発育しており,乳頭状および濾胞状構造の腫瘍に緻密な線維性間質が形成されていた。超音波画像の粗大な石灰化像は緻密な線維性間質の形成が反映されていたのではないかと考えられる。
18F-FDG PET/CTにおいて,甲状腺腫瘍のSUV maxの値での良悪性診断は結論づけられていない[7~10]。われわれが経験した症例では,症例2の左葉の腫瘍を除き,SUV3.5以上の悪性を疑う[9]集積を認めた。しかし,症例2の術後病理所見より,左葉に集積している部位も乳頭癌であった。部分容積効果やGLUT1の発現程度の差によりSUVが変化することが知られており[11,12],症例2の左葉では低く測定された可能性が考えられた。
近年の分子生物学的研究によりBRAFやRASの遺伝子変異による甲状腺癌の発生が報告されている[13]。連鎖解析により,2q21や19p31.2などの位置は推定されているものの,原因遺伝子の同定には至っていない[14,15]。FNMTCの定義は第一度近親者に2名以上であるが,第一度近親者に2名の非髄様甲状腺癌患者がいる場合に散発性である確率は62~69%で,3名以上では6%以下であると報告されており[16],3名以上であればほぼ遺伝的関連性が濃厚と考える。今回の症例では第一度近親者に4名の非髄様甲状腺癌患者が存在し,遺伝的素因が濃厚である。同じ遺伝子変異による病変の病理学的類似が,画像所見などの特徴の類似に影響しているのかもしれない。術前検査において,1症例の中で個々の腫瘤の特徴が類似した多発する甲状腺乳頭癌をみた場合,FNMTCを念頭に置く必要があると考えられた。
甲状腺乳頭癌の治療は外科的切除が第一選択である。本邦ではリスク分類に応じて葉切除が選択されるが,FNMTCでは腫瘍が両葉に多発する場合が多いことに加え,リンパ節転移や再発頻度も高いと報告されている[6]。自験例の家系でも3症例とも両葉多発と複数の頸部リンパ節転移を認めており,甲状腺全摘出術に加えて,側頸部郭清を行った。平成22年11月に本邦で30mCiの131Iを用いた外来アブレーションが認められた(医政指発第1108第2号)。術後の131Iアブレーション治療とTSH抑制療法は,高リスク患者において再発予後を改善させることが報告されている[17]。自験例の3例は,若年の2例が妊娠予定と妊娠中であり,母親が孫の面倒をみる必要性からTSH抑制療法のみで,131Iアブレーションは施行していない。今回提示したような病変が甲状腺内に多発し累々とリンパ節転移を認めるようなFNMTCで,甲状腺全摘出術を施行した場合は,TSH抑制療法に加え131Iアブレーションを検討すべきかもしれない。
同時期に甲状腺乳頭癌が発見され,当院で治療したFNMTCの家系を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告した。甲状腺乳頭癌診療においては放射線被ばくと同じく家族歴の詳しい問診も重要であると考える。
本論文の要旨は,第55回日本甲状腺学会学術集会で発表した。