Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Management of hypoparathyroidism after thyroid surgery
Hisanori SuzukiYasuhiro Takeuchi
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2014 Volume 31 Issue 1 Pages 2-4

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抄録

甲状腺手術後の副甲状腺機能低下症における臨床的問題は低カルシウム血症とその関連事象である。副甲状腺ホルモン不足による副甲状腺機能低下症に対する治療は,活性型ビタミンD3製剤の投与が主体となる。血清カルシウム濃度は,ある程度の過換気状態でも低カルシウム血症による自覚症状が生じないレベル(補正カルシウム濃度8.0mg/dL程度)を維持する。尿路結石症や腎機能低下のリスクを抑えるために,随時尿のカルシウム(mg/dL)/クレアチニン(mg/dL)比を0.3以下にする。高カルシウム尿症を生じる場合や尿路結石の合併例には,サイアザイド系利尿薬の併用を検討する。

副甲状腺機能低下症患者に副甲状腺ホルモン製剤を併用した場合に,活性型ビタミンD3製剤の必要量の減少,および尿中カルシウム排泄の改善が報告されている。副甲状腺ホルモン不足による副甲状腺機能低下症を副甲状腺ホルモン製剤で治療することは今後の検討課題である。

1.はじめに

甲状腺手術後には,副甲状腺への手術侵襲により副甲状腺機能低下症が生じることがある。その場合には,血中カルシウム濃度を維持するための加療が必要となる。本稿では,副甲状腺機能低下症が実際に起きたときにどのように管理するかという点について概説する。また近年,副甲状腺機能低下症の治療に副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)製剤を用いることが検討されているので,この点についても記載した。

2.副甲状腺ホルモンによる血中カルシウム濃度の調整機構(図1
図1.

PTHの作用。PTHは骨・腎に作用して,血中カルシウム濃度を上昇させるように働く。

血液中のカルシウム濃度は,骨・腎臓・腸管との間でのカルシウムの出納により調節されている。骨からの骨吸収によって生じるカルシウム,腎臓でのカルシウム再吸収,腸管からのカルシウム吸収は,いずれも血中カルシウム濃度を上昇させる要因である。

PTHは,血中カルシウム濃度を上昇させるホルモンである[]。骨では,PTHは骨吸収を促進し,血中へカルシウムを動員する。また,腎臓では,PTHは尿細管でのカルシウムの再吸収を促進し,また同時に1,25水酸化ビタミンDの合成を促進する。さらに,1,25水酸化ビタミンDは腸管からのカルシウム吸収を促進する。このような作用により,PTHは血中カルシウム濃度を上昇させる。

3.甲状腺術後の副甲状腺機能低下症の病態と症状

副甲状腺機能低下症とは,PTHの作用が障害される病態である。甲状腺手術後にPTHの分泌が障害された場合には,PTH不足性副甲状腺機能低下症が生じる。甲状腺術後の一過性の副甲状腺機能低下症の頻度は比較的高く,6.9%から46%と報告されている。一方,甲状腺術後の永続的な副甲状腺機能低下症の頻度は,0.9%から1.6%と報告されている[]。

甲状腺手術後の副甲状腺機能低下症における臨床的問題は低カルシウム血症である。低カルシウム血症の臨床症状としては,初期には両手のしびれ感,さらに進行すると麻痺・テタニー・痙攣が生じる。身体診察所見としてはトルソー徴候・クボステック徴候がいずれも低カルシウム血症に由来するものである。重篤な場合には喉頭痙攣による呼吸障害が生じうるので,胸部の違和感が生じたら要注意である。臨床症状が出現する血中カルシウム濃度は,身体状況や個々人により差がある。

過換気ではアルカレミア(血液が通常よりもアルカリ性に傾く)となるが,低カルシウム血症にアルカレミアが加わると,イオン化カルシウム濃度のさらなる低下を招くためテタニーの症状が生じやすくなる。また,術後早期では副甲状腺機能低下症があっても症状が出現しないこともありえるので注意を要する。

4.甲状腺術後の副甲状腺機能低下症の治療[,](表1
表1.

甲状腺術後の副甲状腺機能低下症の治療

出生後では,PTH作用の大半は活性型ビタミンD3製剤で代償できる。したがって,甲状腺術後の副甲状腺機能低下症は活性型ビタミンD3製剤で治療されている。活性型ビタミンD3製剤の中で,アルファカルシドール,カルシトリオールが副甲状腺機能低下症の治療に用いられている。初期投与量は,アルファカルシドールで1日2.0μgであり,用量調整後の維持量は1日2.0~6.0μgである。アルファカルシドール(1α(OH)VitD3)は,体内(肝臓)で速やかに最終活性型である1α,25(OH)2VitD3に代謝される。アルファカルシドール投与後の1α,25(OH)2VitD3の血中半減期は17.6時間と長いので,アルファカルシドールは1日1回まとめて服用する。カルシトリオールの投与量の目安は,アルファカルシドールの投与量の半分程度である。カルシトリオールでは,1日2回に分割して投与する。

血清アルブミン(Albumin:Alb)濃度が4.0g/dl未満では血清カルシウム濃度を補正する必要があり,補正カルシウム濃度(mg/dL)=血清カルシウム濃度(mg/dl)+(4.0-Alb(g/dl))を計算する。一方,イオン化カルシウム濃度(mEq/L)については,補正は不要である。通常の外来で測定している項目は,イオン化カルシウム濃度ではなく血清カルシウム濃度である。

補正カルシウム濃度は,基準値下限の8.5mg/dl以上にまで上昇させる必要は必ずしもない。早朝空腹時の補正カルシウム濃度は,8.0~8.5mg/dl程度を維持するようにする。

補正カルシウム濃度の目標値を健常人よりも低めにする理由は,尿中カルシウム排泄を増加させないためである。副甲状腺機能低下症では,血中カルシウム濃度からみて相対的に尿中カルシウム排泄が増加している。活性型ビタミンD3製剤を投与すると,血中カルシウム濃度が上昇し,尿中カルシウム排泄がさらに増加する。尿中カルシウム排泄の増加は,尿路結石や腎障害のリスクとなる。したがって,血中カルシウム濃度は,走った後などのある程度の過換気状態でも,テタニーなどの低カルシウム血症による自覚症状が出現しない状態であればよく,基準範囲内とすることを目標とはしない。

また,長期的には尿路結石や腎障害のリスクを抑えるために,随時尿中でカルシウム(mg/dl)/Cr(mg/dl)比を0.3g/g・Cr以下にすることが望ましい。

血清カルシウム濃度を維持しようとすると高カルシウム尿症が出現してしまう場合には,サイアザイド系利尿薬,たとえばトリクロルメチアジド2mgを1日1回併用することを検討する。

成人での慢性期の治療では経口カルシウム製剤はあまり使用されないが,小児ではテタニー症状が生じやすいために,経口カルシウム製剤を併用することが多い。乳酸カルシウムは粉末なので,患者の受け入れが悪い場合には,アスパラカルシウム錠を用いる。

患者の管理に当たっては,血清カルシウム,リン濃度を測定するのに加えて,補正カルシウムを計算するために血清アルブミン濃度を測定する。また,腎機能をみるために血清クレアチニン濃度を測定し,尿中カルシウム排泄をみるために,尿中カルシウム・尿中クレアチニン濃度を測定する。投与量を調整している時期には,毎週あるいは毎月測定するが,維持量が決まった状況では,3~6カ月に1度程度の頻度で経過をみることが多い。

5.PTH不足による副甲状腺機能低下症で生じる骨代謝異常

PTH不足による副甲状腺機能低下症では,骨密度は皮質骨・海綿骨ともに増加する[]。術後性の副甲状腺機能低下症では,PTH分泌低下期間と骨密度が正の相関を示すことが報告されている[]。

健常人の骨のリモデリングでは,骨吸収は通常26日程度であり,次に骨形成の段階へと進む。副甲状腺機能低下症では,骨吸収が抑制されており[,]骨吸収に80日もの期間がかかる。また,骨吸収と骨形成がカップリングしているため,骨形成も抑制される。骨形成に比べて,骨吸収の抑制効果のほうが強いので,全体として骨形成が優位となり骨量が増加する。

6.PTH製剤による加療

PTH不足性の副甲状腺機能低下症では,PTH不足が根本的な病因なので,活性型ビタミンD3製剤よりもPTHを補充することが生理的な治療になるのでないかと期待される。

Winerら[]は,活性型ビタミンD3製剤で加療中の患者に,hPTH(1-34)を併用する群と併用しない群に無作為に割り付けて,前向きに3年間検討した。血中カルシウム濃度は,両群間で有意差を認めなかったが,尿中カルシウム濃度はPTH群で有意に低下した。骨密度の変化については,両群間で有意差を認めなかった。また,hPTH(1-84)を用いた臨床試験も実施されており,活性型ビタミンD3製剤やカルシウム製剤の投与量を減らすことができるのみならず,患者のQOLが向上することが示されている[,]。

米国ではすでにhPTH(1-84)の毎日1回自己注射が副甲状腺機能低下症に対する治療としてFDA(アメリカ食品医薬品局)に申請されている。PTH不足による副甲状腺機能低下症をPTH製剤で治療することのメリットとデメリットは今後の検討課題である。

7.おわりに

永続性の副甲状腺機能低下症の加療は長期にわたるため,病気に対する患者の理解が重要になってくる。活性型ビタミンD3製剤による治療は長期にわたるため,怠薬や不規則な内服に陥ることがある。手足や口唇のしびれや筋痙攣,重篤な低カルシウム血症として,喉頭痙攣による呼吸障害の可能性もあるため,患者および家族への指導が重要である。また逆に,わずかなしびれ感に対して,自己判断で内服薬を増量する患者もいるため,規則正しい内服と定期的な検査を徹底する必要がある。

【文 献】
 

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