Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
The history, the present situation and the future of the breast cancer registration of Japanese Breast Cancer Society
Takayuki Kinoshita
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2014 Volume 31 Issue 1 Pages 39-43

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抄録

日本乳癌学会全国乳がん患者登録調査は,本邦における乳がん治療の現況を把握し,その診断,治療,予後,疫学を検討することにより,乳がんの発生および治療成績についての統計から乳がんの発生要因を明らかにし,治療成績の向上や治療の均てん化を図ることを目的としている。1975年に乳癌研究会の事業として全国登録を開始し,個人情報保護法に対応して,2004年次症例よりWeb登録による新システムでの登録が開始された。

2011年には乳がん登録が学会の認定施設および関連施設の必須条件となり,2012年より乳がん登録が外科学会のNCDへ移行され,乳腺専門医にはNCDの共通基本項目に加えて乳がん登録が必須となり,専門医制度と紐付けされた。今後はquality indicatorの選択により,診断や薬物療法などの会員および施設毎の評価も可能となり,本邦における乳がん診療の均てん化や質の向上に寄与するものと期待される。

はじめに

平成18年の「がん対策基本法」の成立により,わが国においても国および都道府県レベルでがん対策に取り組む方向性が明文化された。がん対策を正しく方向付けるには,がんの実態を正確に把握する必要がある。がん登録は,がんの実態を把握するための中心的役割を果たし,がん対策を実施する上で必須の仕組みである。平成19年に閣議決定された「がん対策推進基本計画」の中でも,がん登録は3つの重点的に取り組むべき課題の1つに挙げられた。2013年12月には,医療機関に患者の情報提供を義務づけ,がんに関する全国規模のデータベースを整備するなどとした「がん登録推進法」が成立した。がん登録には,地域がん登録,院内がん登録,臓器がん登録の3種類があり,各々実施主体と特徴が異なる。

日本乳癌学会全国乳がん患者登録調査報告事業は,臓器がん登録として実施されてきた。

最近では,がん登録はがんの発生率や生存率,治療法の推移の情報を提供するばかりでなく,診療の質の評価のためのQuality Indicator(QI)の測定への展開が考えられている。

Ⅰ.日本乳癌学会全国乳がん患者登録調査報告事業の歴史と現状

日本乳癌学会全国乳がん患者登録調査は,本邦における乳がん治療の現況を把握し,その診断,治療,予後,疫学を検討することにより,乳がんの発生および治療成績についての統計から乳がんの発生要因を明らかにし,治療成績の向上や治療の均てん化を図ることを目的としている。その歴史は(図1),1975年に乳癌研究会の事業として全国登録を開始した。当初は紙ベースの登録で,個人情報を含み,登録項目も食事や生活習慣など疫学的項目も含んだ詳細なもので,項目数は200近くであった。その後,項目に関してはTNM分類や治療に整理,集約され,100項目程度となった。個人情報保護法が発令される2003年までこの方法で登録が行われ,2003年に13,150例が登録されたのを最後に終了した。1975年から2003年までの29年間で188,265例の登録があり,全国乳がん患者登録調査報告書として第1号から第33号まで発刊した。2004年より個人情報保護法に対応するため,NPO日本臨床研究支援ユニットや財団法人パブリックヘルスリサーチの協力を得て新システムの開発を行い,2004年次症例を対象に2005年9月よりWeb登録による新システムでの登録が開始された。その特徴としては①連結可能匿名化,②USBデバイス(Shuttle)を用い,施設または個人のインターネット環境をそのまま利用可能,③Shuttleを接続した管理用PCからデータ入力,データセンター宛に専用メールでデータ送信(データは全て暗号化,システムへのアクセスはIDとパスワードで保護),④再調査,システム更新の依頼をメールで実施されるというものであった。全国がん登録システム概要を図2に示した。日本乳癌学会では全国乳がん登録で得られた集計結果を会員(医師)と市民向けに分けて学会ホームページにて公開している(図3)。

図1.

日本乳癌学会による全国乳がん登録システムの変遷

図2.

疫学・臨床研究の基盤としての全国乳がん登録システム

図3.

日本乳癌学会のホームページにてがん登録情報を公開

(http://www.jbcs.gr.jp/)

Webシステム移行後の2004年から集計が確定している2010年までの施設数,登録症例数を表1に示した。2004年のWebシステム移行後,登録症例数および登録施設数は劇的に伸び本システムが良く機能していることが分かる(図4)。ただし,「地域がん登録全国推計値」の乳癌推計年間罹患数に対する日本乳癌学会全国がん登録症例数の割合は,いずれの年度においても40%弱に留まっている。登録症例数の増加が必ずしもシステムの普及を意味するのではなく,疾患自体の急激な増加による影響も考えられる。一方,2009年度には,はじめて全ての都道府県から登録がされるようになりWeb登録システムが広く普及したことが確認された。図5図6に2010年度の都道府県別の参加施設数および登録数を示した[]。

表1.

新システム移行後の登録症例数の変遷

図4.

新システム移行後の年次別登録症例数と参加施設数

(日本乳癌学会全国乳がん患者登録調査報告:2004~2010年)

図5.

全国乳がん登録参加施設(2010年確定版より)

全626施設

図6.

都道府県別乳がん登録数(2010年度確定版より)

48,156症例

2013年1月25日現在,参加施設数は925施設,既登録施設数579施設,Webシステムでの総登録例数は252,922例となった(2004年以後)。2010年度には2004年度登録症例の予後調査が行われた。2004年度の登録施設数227施設,登録症例数14,805例に対して予後調査協力施設数126施設,予後判明登録症例数は7,241例(48.9%)であった(図7)。2011年には乳がん登録が日本乳癌学会の認定施設および関連施設の必須条件となり,外科学会ではNational Clinical Database(以下NCD)の運用が開始された。2012年度より日本乳癌学会の乳がん登録がNCDへ移行され,乳腺専門医にはNCDの共通基本項目に加えて乳がん登録が必須となり,専門医制度と紐付けされた。

図7.

5年目予後調査の結果(2004年次報告書確定版より)

Ⅱ.日本乳癌学会全国乳がん患者登録と専門医制度

日本乳癌学会の専門医制度すなわち乳腺専門医は,外科専門医,内科認定医など基盤学会専門医/認定医を取得後,認定施設での100例以上の乳がん症例の診療経験が必要である。現システムでは,手術症例については,NCD登録により確認可能であり,症例ごとの病歴報告の提出は不要である。また,認定施設の要件として,年間20例以上の乳がんの診断・手術・薬物療法・放射線治療が求められる。現在,手術症例については乳癌登録番号の記入が義務づけられており,NCD乳がん登録を介して症例の確認が可能である。

Ⅲ.将来展望

非手術症例の登録の促進を図ることで,わが国での全乳がん罹患患者の把握に,さらに近づくことが期待できる。また,主として薬物療法を行う内科を基盤とする乳腺専門医の診療経験の評価が可能となる。複数診療科からの登録の重複を防ぐため,さらには診断・放射線治療領域の診療評価に繋げるために,登録番号を共有,連携することで,登録内容の連結が必要とされる。手術の医療水準の評価だけではなく,quality indicatorの選択により,診断や薬物療法などの会員および施設毎の評価も可能となる。学会の診療ガイドラインとリンクさせることで,その意義は拡大する。さらには予後データを含めた評価を加えることにより,本邦における乳がん診療の均てん化や質の向上に寄与するもの期待される。

本学会のメンバーである外科専門医ばかりでなく,腫瘍内科,放射線診断/治療,婦人科医が協力して登録を推進して行くことが課題である。

おわりに

地域がん登録,院内がん登録,臓器がん登録の3種類のがん登録は,それぞれ目的,実施主体,登録対象,登録項目,収集時期などが異なるため単純に統合することはできないが,共通する部分も多く,相互に連携を深めて効率の良い登録体制を構築する必要がある。日本乳癌学会全国乳がん患者登録などの臓器がん登録に対する医療機関側の情報源は診療科データベースであることが多いが,患者の基本情報について,院内がん登録とともに病院情報システムから抽出することで省略が可能である。一般に診療科データベースは,個人情報保護の観点からはシステム管理が徹底されていないことが多く,院内がん登録や病院情報システムと同レベルのシステム管理の必要性が高まってくるかもしれない。一方,多くの地域がん登録は,人口動態統計死亡データおよび住民票照会や本籍地照会による予後調査を実施しているが,これらの情報について院内がん登録を介して臓器がん登録へ還元することで,医療機関における予後調査の負担を軽減できる。さらにがん医療の質均てん化の程度を検証するためには,適切な対象に対して標準的治療が実施されているかどうかのデータが必要であり,現在の地域・院内がん登録に含まれるデータだけでは,検証は難しく臓器がん登録と連動し,データベース間の照合など追加的な調査が必要となる。「がん登録推進法」の成立により地域がん登録と院内がん登録では標準化と体制整備がさらに進んで行くと期待されるが,臓器がん登録もこれらと連携して精度の高いデータを収集,管理し,正確で役に立つがん統計情報の提供を進め,データの有効利用を推進して行く必要がある。

【文 献】
 

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