Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
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Print ISSN : 2186-9545
The reporting system for fine needle aspiration cytology of thyroid follicular tumor. Guideline system or Bethesda system?
Kaori Kameyama
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2014 Volume 31 Issue 2 Pages 115-119

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抄録

2013年に甲状腺結節取扱い診療ガイドラインが発刊された。ここではこれまですべて鑑別困難と報告していた濾胞性腫瘍疑いの例を,細胞所見よりfavor benign,borderline,favor malignantの3群に亜分類し,ある程度臨床医のニーズに応えることとした。この3群の分類は元々伊藤病院で行っているものであり,ガイドラインへの収載に際しては病理委員4名で検証を行い,有効性を確認した。一方で2007年に欧米でベセスダ方式という,やはり甲状腺細胞診の診断様式が発表されている。わが国のガイドラインと類似しているが,定義や臨床的取扱いなど課題もみられる。各施設ではどの様式を使っても,その判定に対する臨床的取扱いについては病理医と臨床医できちんと取り決めをしておくことが重要である。

はじめに

2013年8月,甲状腺結節取扱い診療ガイドライン(以下ガイドライン)が発刊された[]。この中で,穿刺吸引細胞診の診断方式として,これまでの甲状腺癌取扱い規約を修正した分類がステートメントとして記載された。本稿では,このうち最も大きな修正ポイントである濾胞性腫瘍の取扱いにつき,ベセスダ方式との関連とも合わせ記載することとする。

これまでの細胞診報告様式

細胞診の報告様式については,甲状腺癌取扱い規約第6版においてそれまでのクラス分類をやめ,第一段階として検体を不適正,適正に分類し,適正と判断したものをさらに良性,鑑別困難,悪性の疑い,悪性の4カテゴリーに分けた。“鑑別困難”のカテゴリーには,乳頭癌などを疑うが細胞が少ないことなどで断定困難なものと,濾胞性腫瘍が疑われるものが含まれる。ここに二つの問題点がある。①クラス3でも同様であるが,単に鑑別困難という報告であった場合,臨床医にとっては再検すべきであるか否かの判断が難しい。この点は臨床医と病理医との連携がとれている施設ではたいした問題ではないが,細胞診の診断を外部委託している場合は問題が大きい。②濾胞性腫瘍を疑う例では,すべてが鑑別困難という報告となり,臨床医にとっては細胞診がほとんど意味をなさない(濾胞性腫瘍は画像で既に疑っている)。

伊藤病院での細胞診報告

②の解決のため,伊藤病院では1991年から鳥屋城男先生により濾胞性腫瘍の細胞診の亜分類を行っている[,]。当初は良性をより疑うfavor benignと,悪性をより疑うfavor malignantに分類していた。2005年の報告では1,702例のうち,favor benign とした40例中,組織で良性であったものが27例,悪性が13例(乳頭癌3例,濾胞癌10例)であり,favor malignantとした28例中,組織で良性であったものが12例(濾胞腺腫8例,腺腫様甲状腺腫4例),悪性が16例となっている。その後,favor benignとfavor malignantのどちらにも分類し難い群としてborderlineを加え,現在では鑑別困難は3群に亜分類している。

最近のデータを示す。伊藤病院において,2012年1月から6月までに細胞診を行い,その後手術が行われた3,154人,4,189病変を対象とした。結果を図1に示す。検体不良134例(3.2%),良性2,831例(67.6%),鑑別困難で濾胞性腫瘍疑い48例(1.1%),鑑別困難で濾胞性腫瘍以外を疑う248例(5.9%),悪性の疑い112例(2.7%),悪性816例(19.5%)となった。鑑別困難の多くは乳頭癌を疑うものの核所見の特徴が明瞭でないものや悪性リンパ腫(MALT lymphoma)と慢性甲状腺炎との鑑別の難しいもの,すなわちガイドライン方式の③B群に属するものであり,実際鑑別困難のうち濾胞癌の可能性を考えたものは16.2%にすぎない。

図1.

2012年1月から6月に伊藤病院で行われた甲状腺細胞診の判定結果(3,154人,4,189病変)

鑑別困難で濾胞性腫瘍を疑った例(ガイドラインでのA群)につき,組織診断の結果を図2に示す。Favor benignでも6例(30%)は濾胞癌,favor malignantとしても1例(20%)は濾胞腺腫という診断結果であったが,3群への亜分類は有効であろうと考え,日常診療に用いている。

図2.

鑑別困難A群(濾胞性腫瘍が疑われる)の組織診断の結果(数字は例数)

濾胞性腺腫と濾胞癌は細胞診では区別できないとする意見がある。実際,診断基準でも細胞形態は無視し,浸潤の有無で腺腫か癌かを決めることとなっている。しかし,多数の標本を見ていると,悪性度の高い濾胞癌はそれなりに細胞形態の異型が目立つ傾向にあることは事実である。図3に典型的なa. 腺腫様甲状腺腫,b. 濾胞腺腫,c. 広汎浸潤型濾胞癌の組織を示す。腺腫様甲状腺腫は間質や変性所見で“ある程度”推定可能である。問題となるのは濾胞腺腫と濾胞癌であり,確かに細胞を拡大しただけでは全く区別のつかないことの方が多い。しかし,広汎浸潤型のように悪性度の高い癌では,核異型(腫大,濃染),高密度,重積といった一般に悪性腫瘍で認められる所見が確認できることが多くなる。したがって,私のスタンスとしては,少なくとも臨床的に大きな問題となるような広汎浸潤型濾胞癌は細胞診で見分けよう(図4)ということであり,これは十分可能であると考えている。

図3.

a. 腺腫様甲状腺腫,b. 濾胞腺腫,c. 広汎浸潤型濾胞癌の組織の拡大像

c. はa. b. に比較し,核の濃染腫大がみられ,密度が高くなっている。

図4.

a. 濾胞腺腫,b. 広汎浸潤型濾胞癌の細胞診所見

組織と同様の相違のほか,bでは採取細胞量が多いのも特徴である

ガイドライン方式の作成

日本甲状腺学会で甲状腺結節取扱い診療ガイドラインの作成が行われた[,]。病理担当の担当は和歌山県立医科大学覚道健一,隈病院廣川満良,山梨大学加藤良平,私の4名であった(所属は当時,敬称略)。本ガイドラインでは,取扱い規約での細胞診報告様式の改定が一つの柱となった。ガイドラインに採用する報告様式の叩き台として,伊藤病院方式の検証を行った。方法は,3人の先生に慶應に来てもらい,私が細胞診で濾胞性腫瘍を疑いその後手術の行われた91例につき,細胞・組織を個別に顕鏡していただいた。組織の診断に観察者間の相違のない20例につき(依然として組織診断にばらつきが多い。これはこれで別の大問題である),再度細胞診の評価を行った。細胞診の評価は,伊藤病院方式を踏襲し,濾胞性腫瘍を疑った場合はfavor benign,borderline,favor malignantに細分類することとした。その結果から,1)メンバー4人の細胞診判定の不一致は大きいものではない。2)少なくとも広汎浸潤型の濾胞癌は見分けられそうである。3)一方で濾胞腺腫と微少浸潤型濾胞癌の鑑別は難しい。という結論が得られた。伊藤病院方式は有効であろうということになり,ガイドラインに用いられることとなった。その際,鑑別困難のカテゴリーを,濾胞性腫瘍を疑うA群と,乳頭癌,髄様癌,悪性リンパ腫を疑うが判断が難しく再検の望まれるB群とに二分した。

ベセスダ方式の難解さ

ガイドライン方式とベセスダ方式は,字面だけをみると対応は図5のようになり,読み変えは容易であるかのように思える。しかしことはそう簡単ではない。ベセスダ方式のカテゴリーのⅣ“濾胞性腫瘍あるいは濾胞性腫瘍疑い”の項をみてみよう。診断基準が細かく定められており,・中等度から多数の細胞がみられる ・著明な構造異型がある ・小濾胞状構造を示す ・濾胞細胞の大きさは正常かやや大きい ・核は丸くクロマチンは濃染する ・背景のコロイドは乏しいか認めない と記載されている。では“小濾胞状”とはなにか?小型の濾胞のことではない。定義は・15個以下の細胞集塊で平面構造を示す ・少なくとも濾胞構造の2/3以上の円形配列がみられる とされている。ちなみに“大濾胞状”の定義は,15個以上の細胞集塊で平面構造を示す または・8個以上の円形でない細胞配列がみられる である。この説明ですぐに理解できる人はいるだろうか。引用論文[]の図を見ても私にはよくわからない。

図5.

ガイドライン方式とベセスダ方式の比較

線でつないだところが対応しているように思われる

ベセスダ方式を取り入れた場合の懸念

ベセスダ方式を取り入れた場合の懸念は以下の点である。

1)上述のごとく,濾胞性腫瘍(これはベセスダでは濾胞癌の可能性のあるものをいう)の定義が非常に難解である。これを正しく運用できるか。観察者間の意見の相違がさらに広がるだけではないか。

2)“濾胞性腫瘍あるいは濾胞性腫瘍の疑い”と報告した場合,診断の確定のため葉切除を推奨することとなる。はたしてこれでよいのか。不要な切除が増えることになるのではないか。少なくとも日本の標準的な手術適応とは異なる。

3)紹介患者さんが伊藤病院に来られた場合,前医で診断された細胞診のスライドをお持ちになるケースがしばしばある。クラス3,濾胞癌の可能性あり(あるいは否定できない),という細胞診診断書の添付された検体(鑑別困難よりもクラス3という判定方が圧倒的多数である)の多くが,再検すると良性の所見,おそらく腺腫様甲状腺腫である。これは何を意味するか。多くの病理医および細胞検査士が,検体中に少しでも濾胞構造が認められた場合クラス3にしてしまうということである。偽陽性を極力避けたいという心理が強く働いているためであろうか。こうした例は,ベセスダ方式ではカテゴリーⅢ“意義不明な異型あるいは意義不明な濾胞性病変”と判定されると思われる。臨床の取扱いは再検査となっており,延々とカテゴリーⅢが繰り返されることとなる。

私がベセスダ方式を用いない理由

私の本務は慶應病院での病理診断であるが,その他に関連病院と伊藤病院でも診断を行っている。伊藤病院では組織診のほかに細胞診を週に40~50例ほど顕鏡しており,その報告には鳥屋先生に倣いガイドラインと同様の様式を用いている(ガイドライン作成委員としては当然である)。もちろん,ベセスダ方式を用いようとすれば移行は容易であろう。しかし,私は今後もガイドライン方式で報告する考えである。甲状腺細胞診を見慣れた病理医や細胞検査士であればどのような方式であれ対応可能と思われる。しかし,甲状腺細胞診が1カ月に数例程度しか経験しない施設でベセスダ方式を採用すると,上述のような危険が生じる可能性が十分にある。したがって,我が国の甲状腺診療に大きな影響力のある伊藤病院では,ベセスダ方式を採用しないほうが混乱が少ないと考えている。

おわりに

どの報告様式を採用するかは各施設での判断に委ねられている。どの様式を使っても,その判定に対する臨床的取扱いについては病理医と臨床医できちんと取り決めをしておくことが重要である。

【文 献】
  • 1.  日本甲状腺学会編:甲状腺結節取扱い診療ガイドライン2013 南江堂,東京,2013,p71-82.
  • 2.   鳥屋 城男:実地医家,研修医の目線で見た甲状腺疾患の診療 穿刺吸引細胞診どこまで分かるか.診断と治療 93:1050-1055,2005
  • 3.   Kakudo  K,  Kameyama  K,  Miyauchi  A: History of thyroid cytology in Japan and reporting system recommended by the Japan Thyroid Association. J Basic Clin Med 2: 10-15, 2013
  • 4.   Kakudo  K,  Kameyama  K,  Miyauchi  A: Introducing the reporting system for thyroid fine-needle aspiration cytology according to the new guidelines of the Japan Thyroid Association. Endocr J [in press]
  • 5.   Renshaw  AA,  Wang  E,  Wilbur  D, et al.: Interobserver agreement on microfollicles in thyroid fine-needle aspirates. Arch Pathol Lab Med 130: 148-152, 2006
 

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