2014 Volume 31 Issue 3 Pages 171-174
副腎性クッシング症候群は,副腎皮質からの糖質コルチコイド(コルチゾール)が過剰分泌される病態で,特有の身体的特徴(中心性肥満,満月様顔貌,皮膚線条)を有し,糖尿病,高血圧,骨粗鬆症などの重篤な内科的疾患を併存する。サブクリニカルクッシング症候群はクッシング症候群特有の症状はないが,同様に糖尿病,高血圧などの併存疾患を有する。身体的特徴,内科的併存疾患,腹部CTで副腎インシデンタローマの存在でそれら疾患を疑う。ACTH,コルチゾール,尿中17-OHCSと17-KS測定でスクリーニングを行い,デキサメサゾン抑制試験によるコルチゾールの日内変動消失やその尿中代謝産物の高値で確定診断にいたる。悪性さえ除外できれば,腹腔鏡下副腎摘除術は,治療の第一選択である。
副腎性クッシング症候群は,副腎皮質からの糖質コルチコイド(コルチゾール)が過剰分泌される病態で,特有の身体的特徴(中心性肥満,満月様顔貌,皮膚線条)を有し,糖尿病,高血圧,骨粗鬆症などの重篤な内科的疾患を併存する[1,2]。圧倒的に女性に多く,平均年齢は40代半ばである。サブクリニカルクッシング症候群はクッシング症候群特有の症状はないが,同様に糖尿病,高血圧などの併存疾患を有する[2]。同様に女性に多いが,平均年齢は50代半ばである。ともに副腎に腺腫を認める。
稀に両側性にコルチゾールを過剰産生するAIMAH(ACTH-independent macronodular hyperplasia)という病型が存在する。
東北大学でのデータを交えながらクッシング症候群,サブクリニカルクッシング症候群の診断,治療について解説する。
クッシング症候群の典型例では,特有の身体的特徴(中心性肥満,満月様顔貌,皮膚線条,多毛)を有し,糖尿病,高血圧,骨粗鬆症などの重篤な内科的疾患を併存する[1,2]。サブクリニカルクッシング症候群は,クッシング症候群特有の身体的特徴はないが,糖尿病や高血圧の頻度が明らかに高い[2]。身体的特徴,または内科的併存疾患を有し,腹部CTで副腎インシデンタローマがあればこれらの疾患を疑う(図1)。多くが片側かつ単発で,原発性アルドステロン症と比較して腫瘍径は2cm以上が多い(図2a)。131Iアドステロールによる副腎皮質シンチグラムで患側の集積亢進が認められる(図2b)。デキサメサゾン抑制副腎シンチグラムが行われる。腫瘍径が4cm以上の場合は悪性を疑う。副腎癌では,PET検査でSUVmaxが高値を呈することが多い[3]。内分泌学的検索は内分泌内科医で行われることが多いが,血中コルチゾール,ACTHとその日内変動,尿中17-OHCSと17-KSの測定は必須である(図1)。デキサメサゾン抑制試験(1mgまたは8mg)によるコルチゾールの日内変動消失やその尿中代謝産物の高値で確定診断にいたる[4]。
クッシング,サブクリニカルクッシング症候群 診断アルゴリズム
クッシング症候群(61歳,女性)
a. クッシング症候群のCT像 長径4cm大の左腺腫を認める(白矢印)。b. 131Iアドステロールによる副腎シンチで集積を認める(黒矢印)。
腹腔鏡手術の場合,経腹的アプローチ,後腹膜アプローチどちらでもよい。禁忌ではないが,腫瘍径が4cmを超える場合は悪性の可能性を考えて被膜を損傷しないように周囲の脂肪組織を十分つけるように細心の注意を払う。超音波駆動メス(ソノサージ,ハーモニックスカルペル)はミストにより癌細胞を播種する危険性が指摘されており,使用を控えた方がよい。筋肉が委縮し,腹壁が薄いので腹腔鏡手術であっても術後瘢痕ヘルニア発生には注意を要する[5]。術後はストロイド補充療法が必要である。クッシング症候群の場合,補充療法は通常半年から数年必要である。健側副腎からのコルチゾール分泌回復の予測は,下垂体からのACTH分泌抑制の程度を目安にする。
1994年から2008年までの15年間に東北大学泌尿器科で腹腔鏡手術を行った副腎性クッシング症候群114例(男29,女85),内訳はクッシング症候群59例,サブクリニカルクッシング症候群55例を対象とした。サブクリニカルクッシング症候群はクッシング症候群と比較して年齢が高かった(表1)。サブクリニカルクッシング症候群は,クッシング症候群と比較してコルチゾールの自律分泌能が比較的低いため,症状がlate onsetになる可能性が他の報告[6,7]でも指摘されている。
患者背景(文献2を改変して引用)
クッシング症候群とサブクリニカルクッシング症候群の間で,高血圧,糖尿病,骨粗鬆症,尿路結石,心疾患,脳血管疾患,高脂血症,精神疾患などの併存疾患の合併に違いはなかった(表2)。サブクリニカルクッシング症候群は,副腎incidentalomaの5~20%に診断されると報告されており[6~9],高率に関連併存疾患を有し,その頻度はクッシング症候群と比較しても違いがないことを示している。
内科併存疾患(文献2を改変して引用)
クッシング症候群,サブクリニカルクッシング症候群の全例が腹腔鏡手術で施行され,手術時間,出血量に差異はなく,ともに開腹手術への移行例はなかった。合併症もクッシング症候群で1.7%,サブクリニカルクッシング症候群で5.5%と違いはなく,ClavienグレードⅢ以上の重篤な合併症もなかった。腹腔鏡下副腎摘除術の合併症は1.8~4%,致死率は0~0.8%と報告されている[10~12]。
4)病理学的結果病理学的に,111例(97.4%)がadrenocortical adenoma,2例(1.8%)副腎癌,1例(0.8%)がACTH-independent macronodular hyperplasiaであった。文献的にも,腫瘍径6cm以上の副腎腫瘍が悪性である可能性は25%と報告されており[13],大きな副腎腫瘍は注意が必要である。
5)サブクリニカルクッシング症候群術後の内分泌学的長期成績術前認めた高血圧が67%,糖尿病が47%,高脂血症が20%改善して,HbA1Cも7.8から6.5へ有意に低下した。BMI>25の患者も有意差はなかったものの,BMIは改善する傾向にあった。サブクリニカルクッシング症候群の心疾患のリスクは高いと報告されている[8,9]。Toniatoら[14]も,前向き観察研究で術後糖尿病が正常化または改善62.5%,高血圧67%,高脂血症37.5%,肥満が50%,逆に保存的に観察した場合はこれら疾患が悪化したと報告している。クッシング症候群の治療介入に異論はないが,このように,サブクリニカルクッシング症候群の治療介入が有効であることが示された。
クッシング症候群,サブクリニカルクッシング症候群は同様にコルチゾール自律分泌能があり,関連併存疾患の合併頻度が高い。内分泌学的検査が確定診断には必須だが,腹部CTでは2cm以上のインシデンタローマを呈することが多く,熟知しておかなければならない内分泌学的疾患である。治療の第一選択である腹腔鏡下副腎摘除術は,悪性さえ除外できれば安全かつ確実な術式である。