Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
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2014 Volume 31 Issue 4 Pages 251-252

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抄録

2014年5月に開催した第26回日本内分泌外科学会総会において,シンポジウム「グレーゾーンの甲状腺癌に対する術式」を企画させていただいた。座長は,2014年10月開催の日本甲状腺外科学会学術集会会長 山下弘幸先生と,2015年5月開催の日本内分泌外科学会総会会長 鈴木眞一先生にお願いした。座長の先生方にシンポジストをご指名いただき,4名の演者による発表と総合討論を行っていただいた。

2010年に発刊された甲状腺腫瘍診療ガイドラインでは,甲状腺乳頭癌のリスク分類にTNM分類を採用し,低リスク(T1N0M0)・高リスク(T>5cm,高度のEx,高度のN1)に該当しない日本独自の「グレーゾーン」という分類を設けた。その時点で発行されていた海外のガイドラインにこのような分類はなく,日本内分泌外科学会,日本甲状腺外科学会を中心とした専門家委員によるコンセンサスで決定した。

2010年当時の海外のガイドラインは,1cm以上の甲状腺乳頭癌に対しては「甲状腺(準)全摘術+アブレーション」がグレードAで推奨されており,現在も変わっていない(今後改訂されるガイドラインで変更があるという情報もある)。それに対して2cmまでは葉切除術で良い,さらにグレーゾーンに相当する場合は葉切除術でも可とした日本のガイドラインの設定は世界の潮流と大きく異なっていたが,委員長をはじめとした委員のコンセンサスでこのようなガイドラインを世に問うこととした。

2010年の甲状腺腫瘍診療ガイドラインの発刊と時期を同じくして30mCiによる外来アブレーションが可能になったこと,その後にタイロゲンの外来アブレーションにおける使用が保険収載されたことが追い風となり,また日本のガイドラインを発行したことにより世界の潮流を多くの外科医が知ることになったためか,杉谷巌先生が今回の特集に執筆されているようにNCDデータでは甲状腺全摘術が多く行われているという実態が明らかとなった。同時に反回神経麻痺や副甲状腺機能低下症といった合併症の頻度が高いことも示された。

グレーゾーンを設定した真意は,甲状腺全摘術を海外のガイドラインのように推奨すると反回神経麻痺や副甲状腺機能低下症が頻発して,予後が良いはずの甲状腺乳頭癌で患者さんの術後QOLが著しく低下することが懸念されたからである。甲状腺亜全摘術が日本の甲状腺癌手術の標準術式であったが,この術式は反回神経麻痺や副甲状腺機能低下症といった合併症が少なく済むという点で極めて優れた術式である。極論すれば手術中に反回神経の愛護的操作や正常副甲状腺の存在をあまり注意しなくても,術後大きな合併症となる可能性は低い。しかし甲状腺全摘と両側気管周囲リンパ節郭清を同時に行うと,反回神経の愛護的操作や正常副甲状腺の同定が必須となる。高リスク症例では,腫瘍の進展や多数のリンパ節転移のため反回神経の温存や正常副甲状腺の同定はよりむずかしくなる。グレーゾーンの症例を葉切除術で行い反回神経の温存や正常副甲状腺の同定にあまり留意していなければ,いきなり高リスクのときだけ反回神経の温存や正常副甲状腺の同定をしようとしても無理がある。

日本全体としは,甲状腺外科専門医の数が充分とは言えず,地域的な遍在も大きい。このような状況を考慮して「グレーゾーン」という広い範囲を設けたが,将来的には甲状腺外科専門医が増加しグレーゾーンでも甲状腺全摘術が合併症なく実施されるようになることが理想である。グレーゾーンまでは甲状腺外科を専門としない外科医が手術することも多いのはやむを得ないが,高リスク症例や,グレーゾーンの葉切除術後に再発し残存甲状腺全摘術が必要な症例は,合併症なく甲状腺全摘ができる甲状腺外科専門医が手術すべきである。今後グレーゾーンに対する術式がどのような現状であるか,合併症がどれくらいか,などのデータが集積していけば,グレーゾーンの設定が適切であるかを含めて今後のガイドライン改訂の貴重な資料となる。甲状腺手術を行っているより多くの外科医がガイドラインを読み,日本内分泌外科学会や日本甲状腺外科学会に入会し,全体として日本の甲状腺外科手術がレベルアップすることを期待する。

 

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