Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Guideline for pancreatic and gastroenteric neuroendocrine tumor
Wataru KimuraToshihiro WatanabeIchiro Hirai
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2014 Volume 31 Issue 4 Pages 274-278

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抄録

消化管に発生する神経内分泌腫瘍(NET)の多くは膵臓と消化管に発生する。膵・消化管内分泌腫瘍(NET)診療ガイドラインはNET患者が迅速に,診断が正しくなされ,最新治療が受けられるように作成された。このガイドラインはダウンロードで誰でも見ることができる。

Clinical Questionは大きく5つの項目があり,CQ1はNETの診断,CQ2は病理,CQ3は外科治療,CQ4は内科治療・集学的治療,CQ5はMEN1に伴う膵・消化管NETに関する質問と回答である。

本ガイドラインを参考にすることにより,臨床医にとってより膵・消化管内分泌腫瘍が分かりやすくなり,より良い治療ができるようになったと考えられる。

はじめに

膵内分泌腫瘍の発生にはいくつか報告がされてきたが[],2000年のWHO分類で,膵神経内分泌腫瘍(Pancreatic Neuroendocrine Tumor;P-NET)は腫瘍径,組織学的分化度,血管浸潤の有無,隣接臓器浸潤の有無,Ki-67指数,核分裂像数から悪性度に応じて,高分化型内分泌腫瘍,高分化型内分泌癌,低分化型内分泌癌に分類された。さらにヨーロッパ神経内分泌腫瘍学会(European Neuroendocrine Tumor Society;ENETS)より核分裂数,およびKi-67指数によりG1,G2,G3に分類するGrade分類と,TNM分類により治療指針を立てるとするガイドラインが提唱され,2010年のWHO分類でもENETSガイドラインが推奨したGrade分類が重要視され,高分化型腫瘍はNET G1,NET G2に,低分化型腫瘍はNEC(Neuroendocrine carcinoma)に分類された。本邦においても膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドラインが作成された[]。本ガイドラインの目的は,本邦における膵・消化管NETの診療レベルの均質化であるが,エビデンスレベルの高い報告が少ない領域であるがため,その作成過程でリンパ節郭清,術式選択などに関して各種学会,研究会で多くの議論が行われた。P-NETの診療を行うにあたり,機能性,非機能性の分類,Grade分類,NETの多様性(heterogeneity)をしっかり認識しておくことは重要なことである。また,非機能性腫瘍という診断には,waste basket的な側面があり,非機能性腫瘍の中にも多様性(heterogeneity)が存在していることを認識する必要がある。画一的に大きさのみで治療方針を決めるようなことはせず,各種画像診断を駆使して,腫瘍の形態やリンパ節転移がないか,最近ではEUS-FNAを活用した術前Grade分類の有用性も報告されているが,これらの検査を総合して悪性度の評価を行い治療方針の決定を行うべきである。その結果,より悪性度の高いことを示唆する所見があればリンパ節郭清を伴う膵切除を選択すべきであろう。NET work Japanが中心となり,まとめられた本邦におけるNETの疫学データは,膵・消化管NETの部位別頻度など,いくつかの点で欧米とは異なっていた。また,P-NETに対するmTOR阻害剤であるEverolimusの効果も,欧米人よりも日本人を含むアジア人で良好であったという事実などからも,欧米のデータをそのまま本邦の診療にあてはめるべきではないと考えられる。P-NETの外科診療には,他疾患の精査で偶然発見される1cm以下の非機能性腫瘍の取り扱い,リンパ節郭清の範囲,肝転移術後を含む再発高危険群での術後補助療法,術前化学療法など,まだまだ課題が残されている。また,先進諸国で検査可能な血清クロモグラニンAやソマトスタチンレセプターシンチグラフィーなど,本邦において保険診療で行えないことも大きな問題である[]。

膵・消化管内分泌腫瘍(NET)診療ガイドラインについて

日本では待望の膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドラインが2013年11月に刊行された。http://jnets.umin.jp/pdf/guideline001s.pdfで誰でも無償で見ることができ,ダウンロードで誰でも手に入ることは非常に意義があるものである。

Clinical Question

Clinical Questionは大きく5つの項目があり,CQ1はNETの診断,CQ2は病理,CQ3は外科治療,CQ4は内科治療・集学的治療,CQ5はMEN1に伴う膵・消化管NETに関する質問と回答である。CQ2~4は本誌の別稿で詳細な記載があるので主だった点について述べる。

診断の項目はCQ1でまとめられている(表1)。インスリノーマ,ガストリノーマ,グルカゴノーマ,VIPオーマ,カルチノイド症候群,非機能性NETに分けて,特徴的症状とそれに対する検査法が示されている。

表1.

膵・消化管内分泌腫瘍の診断

たとえばインスリノーマの症状は空腹時の低血糖発作が主要な症状である。B低血糖の診断フローチャートを参照する。インスリノーマの確定診断は,72時間絶食試験や混合色試験が推奨されている(グレードA)。局在診断にはUS,CT,MRI,EUS検査が推奨されている(グレードA)。画像診断で局在が確定診断できない場合にはカルシウム溶液によるSASIテストが推奨されている[](グレードA)。

さらに非機能性NETの局在診断,消化管NETの内視鏡所見が示されている。

CQ2では病理が示されている(表2)。CQ2-1 膵・消化管内分泌腫瘍の確定診断には生検が推奨されている(グレードB)。CQ2-3には病理標本の神経内分泌マーカーやKi-67免疫染色法(グレードA)やSSTR免疫染色も推奨されている(グレードB)。CQ2-5では術中迅速病理診断についても述べられている。

表2.

膵・消化管内分泌腫瘍の病理

NETの第一選択は切除であるが[],CQ3では手術適応が示されている(表3)。CQ3-1では機能毎の膵NETの手術適応が示されている。膵NETでは通常型膵癌と異なり膵が柔らかく,本邦のNCDでも柔らかい膵では術後入院死亡率が高いので中止しなければならない[]。外科治療,内科治療,集学的治療で制御可能な転移巣(肝転移・リンパ節転移)を有する膵NETは,切除術が推奨される(グレードB)。切除不能な肝転移を有する膵NETは,条件により原発巣の切除が推奨される(グレードC1)。CQ3-3 膵NETの再発については膵NETの再発病巣(肝,局所,腹膜播種,肺など)は,切除により症状や予後の改善が見込まれる場合に切除術が推奨されている。

表3.

膵・消化管内分泌腫瘍の外科治療(手術適応も含む)

CQ3-5 転移を伴う消化管NETでは画像評価で腫瘍遺残のない手術が可能であれば,リンパ節郭清を伴う切除術が推奨される(グレードB)。ただし原発巣および転移巣が切除可能な高分化型NETで,周術期合併症率30%以下,手術関連死亡率5%以下と考えられる場合に限定すべきとされている[]。肝転移は,腫瘍減量効果が期待できる場合,肝切除術が推奨される(グレードC1)。画像評価で腫瘍遺残のない手術が可能であれば,肺転移,腹膜播種を切除することは許容される(グレードC1)。

CQ3-6 消化管NETの局所再発に対しては画像評価にて腫瘍遺残のない手術が可能であれば,切除術が推奨される(グレードC1)。減量切除術により症状緩和が期待できる場合,切除術が推奨される(グレードC1)。消化管閉塞症状に対しては,症状改善を目的とした手術が推奨される(グレードC1)。

CQ4-1は内視鏡適応と推奨される手技が示されている。CQ4-2から4-4は薬物療法が,CQ4-5から4-8は集学的治療が述べられている(表4)。

表4.

膵・消化管内分泌腫瘍の内科治療・集学的治療

CQ4-2 内分泌症状緩和にはサンドスタチン(グレードA)が推奨されている。

CQ4-3-1 膵NET(G1/G2)にはエベロリムスまたはスニチニブが推奨される(グレードB)。

CQ4-3-2 膵NEC(G3)に対しては小細胞肺癌の治療に準じ,白金製剤をベースとする併用療法が推奨される(グレードC1)。薬剤はエトポシド+シスプラチンまたはイリノテカン+シスプラチンであるがランダム化比較試験は行われていない。

CQ4-4 消化管NETの薬物治療はG1/G2はサンドスタチン(グレードB),G3は小細胞癌の治療となっている(グレードC1)。

CQ4-5,6,7,8 消化管NETに対する薬物治療はG1/G2はサンドスタチン,G3は小細胞癌の治療となっている。

CQ5はMEN1について述べられている(表5)。MEN1に伴う膵・消化管NETのうち,ガストリノーマ,インスリノーマなどの機能性NETは大きさにかかわらず手術が推奨される(グレードB)。MEN1に伴う非機能性NETは,通常2cm以上のNETが切除対象となる(グレードB)。しかし,1~2cmで増大傾向がみられた場合には,切除術が推奨され,1cm以下では経過観察が推奨される(グレードB)。リンパ節郭清を伴う切除術が推奨される(グレードB)。高率にリンパ節転移をきたすことから,リンパ節郭清を行うことが推奨される。散発性のNETと異なり,異時性膵・消化管NETと他臓器の腫瘍に対する配慮が必要である。

表5.

MEN1に伴う膵・消化管内分泌腫瘍

今後の課題

今後の課題を表6に示した。

表6.

膵・消化管内分泌腫瘍に関する今後の課題

WHO2010分類では高分化型NETでKi-67が20%以上のENETSのG3のような症例は分類できない現状である。しかし,このような高分化型NET(G3)症例はおり,NORDIC Studyなどから,Ki-67が高い症例のなかでも肺小細胞癌と同様の治療が奏効するこれまでのNECとソマトスタチンに感受性のあるNETG1/2と同様の治療が奏効する症例が存在することが示唆され,将来治療法を分ける必要があるかもしれない。

また,アフィニトールとスーテントの使い分け,順序などが問題となっている。

オクトレオスキャンを用いたソマトスタチン受容体シンチは,NETがソマトスタチンに感受性があるかを見る検査である。世界数十か国ですでに承認されているが,日本ではいまだ認められていない。68Ga-DOTATOC/PET-CTも同様のSRSであるが,こちらも未承認である。

ストレプトゾトシンは,Streptomyces achromogenesという細菌が作る物質がもとになった,アルキル化薬という分類に属する抗腫瘍薬である。アルキル化薬は,がん細胞が増える時に必要なDNA(デオキシリボ核酸)という物質に作用して,がん細胞が増えようとする働きを抑えることにより,がんを縮小する効果がある。年内に発売されるといわれており,期待される薬剤である。

その他,Pasireotide(SOM230),Lanreotideが新薬として有用性が臨床試験によって示される予定である。

Peptide receptor radionucleotide therapy;PRRTはソマトスタチンに感受性のあるNETの治療として海外では認められているが,本邦では認められていない。

今後,さらに新しい治療法が膵・消化管内分泌腫瘍に対して行われるようになっていくであろう。

膵・消化管内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン第1版が作成されたことにより,臨床医にとってより膵・消化管内分泌腫瘍が分かりやすくなり,より良い治療ができるようになったと考えられる。

【文 献】
 

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