Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Recommendation of patient selection for molecular-targeted agents in RAI-refractory locally advanced or metastatic differentiated thyroid carcinoma
Ken-ichi ItoKazuo ShimizuAkira YoshidaShinichi SuzukiTsuneo ImaiTakahiro OkamotoNaoto HaraHidemitsu TsutsuiIwao SugitaniKiminori SuginoSeigo KinuyaKunihiro NakadaTatsuya HigashiYasushi NoguchiKoichiro AbeMayuki UchiyamaToru Shiga
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2014 Volume 31 Issue 4 Pages 310-313

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抄録

本邦においても進行甲状腺癌に対する分子標的薬が承認され,放射性ヨウ素治療(RAI)抵抗性進行性分化型甲状腺癌に対する治療が新しい時代に入った。しかし,適応患者の選択に際しては,病理組織型,進行再発後の放射性ヨウ素(RAI)治療に対する反応などを適切に評価した上で判断することが重要であり,分子標的薬特有の有害事象に対する注意も必要である。分子標的薬の適正使用に際しては治療による恩恵と有害事象を十分に考慮した適応患者の選択が肝要である。また,未解決の問題に関しては,本邦での臨床試験による検討が必要と考えられる。

脚 注

この特別寄稿は,甲状腺癌の分子標的薬治療における適応患者選択の指針を日本内分泌外科学会,日本甲状腺外科学会,日本核医学会の会員に広く周知するため,日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌と日本核医学会機関誌「核医学」にほぼ同時に掲載される。両学会雑誌編集委員会で同時掲載について事前に了解されており,いわゆる二重投稿には該当しない。

はじめに

2009年から2011年にかけて日本を含めて症例登録が行われた国際共同第Ⅲ相臨床試験(14295試験,以下DECISION試験)の結果をもとに,2014年6月に分子標的薬であるソラフェニブの「根治切除不能な分化型甲状腺癌」に対する効能追加が本邦で承認されました。

進行甲状腺癌に対する有用性が第Ⅲ相比較臨床試験でのエビデンスとして示された初めての薬剤であり,その治療効果に対する期待は大きいと考えますが,本剤の適正使用にあたっては,日本における甲状腺癌の臨床像の特徴と,分子標的薬投与による恩恵と有害事象を十分考慮した適応患者選択が肝要です。

分子標的薬治療の適応となるのは,適切な病理組織型で,かつ,放射性ヨウ素治療抵抗性で進行性である患者です。また甲状腺全摘術が行われていることが前提です。

適切な治療開始時期・患者選択の一助となるよう,日本甲状腺外科学会・日本内分泌外科学会の甲状腺癌薬物療法委員会と日本核医学会で連携して,患者選択のための暫定的な指針を作成致しました。今後関連学会との討議を重ね,実際に使用されている現場からのご意見も承ってより完成度の高いものに改めて行く予定です。

1.適応となる症例の病理組織型について

 •分化型甲状腺癌(乳頭癌(特殊型を含む),濾胞癌(特殊型を含む),および低分化癌)であること。

 •未分化癌および髄様癌は適応ではない。

(未分化癌や髄様癌に対しては現在国内での第Ⅱ相臨床試験が行われている。)

2.放射性ヨウ素(RAI)治療抵抗性の定義について[

甲状腺全摘後の患者で,1~2週間の厳密なヨウ素制限を行いTSH値が十分に上昇した状態*で放射性ヨウ素I-131が投与され,かつ,下記のいずれかに該当する場合には,RAI抵抗性と判断される。

(1)全身シンチグラムで放射性ヨウ素の集積取り込みが全く認められないか,極めて淡い集積しか示さない病変**が存在する。

(2)I-131の集積が良好であるにも関わらず,3~4回のRAIの放射性ヨウ素治療後***に増大あるいは増加を示す病変が存在する。

*:RAI当日のTSH値は30(μU/ml)が目安である。

**:全身シンチの撮影の際には可能な限りSPECT/CTを追加撮影する。病変への集積判定は,核医学専門医ないし放射線診断専門医が行うことが望ましい。コンサルテーションが必要な場合は日本核医学会事務局(〒113-0021 東京都文京区本駒込2-28-45 日本アイソトープ協会本館3階,jsnm@mtj.biglobe.ne.jp,03(3947)0976)へ連絡すること。

***:DECISION試験では,累積線量で22.2GBq(600mCi)以上のRAI治療を受けているにもかかわらず,進行が認められる場合もRAI抵抗性としている。欧米では遠隔転移の治療には200mCiないしそれ以上の量を投与することが多いので,この数字になったと考えられるが,日本では投与量が少ない傾向にあるので600mCiという数字にはこだわる必要はない。

しかし,通常はRAIによる腫瘍の縮小効果は2~3回までに発現することが多く,それ以上の治療の反復により劇的に効果がみられることはあまり経験されることではないので,3~4回という回数を一つの目安にすると良い。しかし,国内にはそれを超えてRAIが行われ,病状安定が維持されていると考えられる症例も存在するため,RAI回数を一律に適応するものではない。

3.分子標的薬治療の条件としての進行性について

DECISION試験では,過去14カ月以内に病勢進行が確認された症例のみが登録された。したがって,分子標的薬(ソラフェニブ)治療の適応患者としては,少なくとも過去2年以内に画像診断や血中サイログロブリン値などで病勢進行が確認される症例を対象とすべきである[]。

RAI抵抗性を示す患者の中には,比較的良好な予後が期待され,高いQOLを維持している患者が存在する[]。下記のいずれかもしくは両方に示す場合は,分子標的薬の導入時期としては適切ではないと考えられる。このような患者に対しては,経過観察あるいは他の治療法を優先することが望ましい。

(1)外科的切除,外照射療法などが可能な場合

(2)非進行例(2年以上不変)・緩徐な進行例

4.RAI未実施患者に対する分子標的薬治療の適応について

a.RAI未実施患者に対する分子標的薬治療の使用。

RAIの効果が期待できるかどうか確認されていない患者に対する分子標的治療薬の有効性および安全性は確立していないため使用すべきではない。しかし,甲状腺が全摘されていない患者において,下記に該当する場合はRAI抵抗性と判断しても良い。

二期的な残存甲状腺の切除を安全に施行しえる場合には,残存する甲状腺を切除する。二期的な切除の代わりに,50~100mCiのI-131を投与して甲状腺組織を除去することも可能である。この場合に頸部腫脹や喉頭浮腫をきたし生命に関わることがあるので,RAI実施担当医師との十分な相談の上で決定すべきである。これらの症例において,その後にI-131を投与して全身シンチとSPECT/CTを撮影し,病巣へのI-131の集積がみられない場合はRAI抵抗性と判断する。

b.甲状腺全摘されているがRAI実施が困難な患者の場合。

c.何らかの特別の事情で甲状腺手術が不可能で甲状腺が残存しており,放射性ヨウ素の転移病巣への集積の評価が出来ない場合。

患者側に放射線治療病室への収容が困難な要因があり,かつ,病勢の進行が明確で他に方法がない場合には,分子標的薬による治療を考慮することも一案であるが,今後の検討課題である。現状において分子標的薬をこの目的に用いることは,厳に慎むべきである。

RAI治療未実施の患者に対する分子標的薬の適応については,今後臨床試験を行い検討することが必要である。

d.RAI治療待機中の患者に分子標的薬を用いることは適切でない。

おわりに

甲状腺癌の分野でも分子標的薬が導入され,これまで有効な治療の開発が進んでいなかった進行・再発甲状腺癌患者の予後の改善が期待されますが,放射性ヨウ素抵抗性の定義やRAIに際して放射線治療病室への収容が困難な患者の存在といった課題は今も残っています。

今後,複数の分子標的薬の臨床応用が期待されていますが,日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会や日本核医学会は,学会の枠を越えて臨床腫瘍専門医らと連携し,甲状腺癌に対する安全かつ適切な薬物療法を実施できるようにすることが必要です。また,臨床で未解決の問題に対しては医師主導臨床試験を計画し,より適切な治療を目指して本邦からのエビデンスの創出を図ることが望まれます。

補 足

DECISION試験においては,以下のような患者がRAI治療抵抗性として登録された[]。

① RECIST基準に基づいた標的病変を有し,ヨウ素摂取が制限され,十分なTSH上昇または遺伝子組み換えヒトTSH刺激下で実施されたRAIスキャン検査(診断的または治療的な全身スキャン検査)において,その標的病変にヨウ素の取り込みの認められない患者。

② ヨウ素取り込み能のある腫瘍を有している患者でも,以下のいずれかの基準を満たす場合には組入れ可能とした。

(ⅰ)試験組入れ前14カ月以内に3.7GBq(100mCi)以上のRAI治療(ヨウ素摂取制限下で,甲状腺ホルモン剤の投与を中止することにより内因性TSHの分泌を誘導した状態,あるいはrhTSH剤を投与後に実施)を施行しており,そのRAI治療にもかかわらず,標的病変における病勢進行が認められた患者。

(ⅱ)直前のRAI治療が14カ月より以前に行われている場合であっても,複数回のRAI治療歴があり,かつ,直近の2回のRAI治療〔それぞれ3.7GBq(100mCi)以上で,間隔が14カ月以内〕の後,病勢進行が認められた患者。

(ⅲ)累積線量で600mCi以上のRAI治療を受けている患者。

今回の適応拡大に際し,添付文書では,「放射性ヨウ素による治療歴のない患者に対する本剤の有効性および安全性は確立していない」,と記載されているのみであるが,DECISION試験に登録された症例が全て,放射性ヨウ素に対する反応が診断的または治療的なRAIスキャンで確認された症例であったことを念頭においた症例選択が必要である。

【文 献】
 

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