Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgeons and the Japanese Society of Thyroid Surgery
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
Completion total thyroidectomy in patients with thyroid cancer
Yusuke MoriSeigo TachibanaTadao YokoiShinya SatohHiroyuki Yamashita
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2014 Volume 31 Issue 4 Pages 314-318

Details
抄録

甲状腺癌に対して甲状腺葉切除や亜全摘術が多く行われている本邦にとって残存甲状腺全摘術における合併症については重要な臨床課題であるが,まとまった報告は少ない。

今回,われわれは当院での残存甲状腺全摘術症例を検討したので,術後合併症を中心に報告する。

2006年から2012年までに当院で手術を施行した甲状腺分化癌再発症例あるいは放射性ヨード治療目的で残存甲状腺全摘術を行った66例を対象とした。年齢は26~83歳(平均年齢は55歳),男女比は9:57。残存甲状腺切除した甲状腺内に乳頭癌を認めたのは63.6%(42/66例)。術後合併症は一過性反回神経麻痺3.0%,永続性反回神経麻痺は認めなかった。永続性副甲状腺機能低下は3.0%(2/66例),一過性副甲状腺機能低下は26.6%(16/66例)であった。

甲状腺癌術後の残存甲状腺切除手術は反回神経麻痺や副甲状腺機能低下といった合併症が多いとされているが,安全に手術することは十分可能であると考える。

はじめに

甲状腺悪性腫瘍における残存甲状腺全摘術は再発症例からI131治療あるいはアブレーション目的とした補完全摘と広く行われている。その一方で,初回手術より手技は困難であり,再手術における副甲状腺機能低下や反回神経麻痺などの合併症の発生率が高くなることが報告されている[]。近年,本邦でも甲状腺全摘術が増えているが,海外に比べると甲状腺葉峡部切除あるいは亜全摘術が選択されることが多い。このような状況において,残葉全摘時における合併症については重要な臨床課題であるが,本邦でのまとまった報告は少ない。今回われわれは,当院における甲状腺分化癌手術症例の内残存甲状腺全摘術症例の術後合併症を中心に報告する。

対象と方法

やました(甲状腺・副甲状腺)クリニックにて2006年6月から2013年8月の間に残葉全摘術を施行した甲状腺悪性腫瘍症例に関して後ろ向き検討を行った。未分化癌,低分化癌,髄様癌および悪性リンパ腫は病期分類や悪性度が甲状腺分化癌と大きく異なるため除外した。

各症例について,患者の特性(性別,年齢,再手術までの期間,組織型,残葉内悪性腫瘍)と治療の詳細(初回術式,残葉全摘時の郭清,術後合併症)を調査した。声帯麻痺の有無に関しては,術前後で喉頭ファイバーにて確認を行った。

当院での残葉全摘における副甲状腺の処理は,上腺はin situに温存し下腺は可能な限り温存を試みるが血流不全あるいは摘出された場合は胸鎖乳突筋内に移植を行っている。

残葉全摘後合併症を一過性・永続性反回神経麻痺,一過性・永続性副甲状腺機能低下症に分類して検討した。一過性副甲状腺機能低下に関しては術後5日目(入院中)までにvitaminD製剤やカルシウム製剤を内服中止できなかった,あるいは低カルシウム症状をきたした症例と定義し,上記の薬剤を6カ月以上内服継続している症例を永続性副甲状腺機能低下とした。

また合併症が10%を越える項目に関しては統計学的検討を行い,その危険因子を調べた。術後合併症の危険予測因子候補として,患者側では,性別,年齢,初回手術からの期間,残葉腫瘍の有無,中央区域リンパ節再発,腺内多発,被膜外浸潤を選択し,治療側は初回甲状腺亜全摘術の有無,両側レベルⅤa-Ⅴb-Ⅵ-Ⅶを含む頸部郭清術,残葉全摘時の中央区域リンパ節郭清,周囲臓器切除の有無,出血量,補完全摘の有無を選択した。

それぞれの因子と合併症の発生の相関に関しては,Fisherの正確検定およびロジスティック回帰分析を用いた単変量解析を行い,有意を認めた項目に対して多変量解析を行い独立した危険因子を同定した。結果はp値およびオッズ比(OR)と95%信頼区画(CI)で示し,p値0.05未満にて統計学的有意差があると判定した。

結 果

選択基準を満たす症例は66例であった(悪性腫瘍で治療した1,543例の内4.3%)。

患者の平均年齢は56歳(中央値:55,26~83歳),性別は男性9名,女性57名であった。初回手術術式は亜全摘17例(約26%),葉切除あるいは葉峡部切除が49例(約74%)であった。組織型は高分化型乳頭癌が58例で広範浸潤型濾胞癌が8例であった。再発根治切除目的で施行されたのはすべての乳頭癌症例および濾胞癌1例で,その他の7例は補完全摘目的であった。また,初回手術は補完全摘および再発根治切除2例を除き,すべて他施設にて施行されていた。再発根治切除症例の内,郭清床(初回手術時に切除・郭清を施行され部位)再発は12例,肺転移を含む郭清外再発は47例であった。郭清外再発の内訳は残葉再発27例 中央区域リンパ節再発36例 外側区域リンパ節再発26例。平均手術時間は71分(中央値75分,28~185分),平均出血量は37ml(中央値40ml,10~250ml)であった。

摘出した残葉に病理学的に悪性腫瘍を認めたものは42例(63.6%),平均最大腫瘍径は5.7mm(中央値5mm,1~40mm)であった。

残葉全摘術後の反回神経麻痺は一過性が2例(3.0%)でいずれも3カ月以内に声帯麻痺および音声の改善を認めた。永続性麻痺は6例(9.1%)に認め,すべて残葉全摘術前からの声帯麻痺症例であり,補完全摘に伴う永続性麻痺はなかった。麻痺側は残葉全摘側3例,初回手術側3例であり,麻痺の原因はリンパ節浸潤が4例,初回手術時の反回神経浸潤による麻痺が2例であった。

残葉全摘術後の副甲状腺機能低下は一過性16例(24.2%),永続性は2例(3.0%)に認めた。永続性副甲状腺機能低下2例の内,1例は6カ月以降に内服中止可能であったが,もう1例に関しては追跡不可能であった(表1)。残葉全摘時の1腺移植症例は20例(30%),2腺以上摘出・移植を行った症例はなく,少なくとも1~2腺はin situに温存されていた。

表1.

残葉全摘後の合併症(66例)

残葉全摘後の一過性副甲状腺機能低下症例の危険因子を検討した。残葉全摘に加え中央区域郭清術を行った症例は36例(54.5%)あり,これは残葉全摘のみ施行した症例と比較して有意に一過性副甲状腺機能低下が高かった(p=0.0045)。一過性副甲状腺機能低下に関しての単変量解析(Fisher正確検定)では,中央区域再発,中央区域郭清術が有意な因子であった(表2)。上記2因子を対象に多変量解析を行った結果,中央区域再発のみが有意性(P=0.030,OR=2.34)を保った(表3)。

表2.

危険因子候補に対する単変量解析

表3.

危険因子候補に対する多変量解析

考 察

甲状腺癌における初回治療方針は諸外国と本邦では大きな相違がある。欧米のガイドラインではほとんどの甲状腺分化癌患者に甲状腺全摘(または準全摘)手術を行うことが推奨されている。一方本邦では,術前に超音波断層撮影やCTなどの画像検査で進行度と甲状腺内病変の評価で術式を選択するので,腺葉切除や亜全摘が採用されることも多い[]。また,本邦では諸外国に比べヨードの過剰摂取やI-131によるアブレーションを行える施設が少ない。上記の背景より,今後もある程度の割合で甲状腺温存手術が施行されると予想されるので,残葉甲状腺全摘術は甲状腺外科医にとって重要な手術手技である。

残葉全摘の適応について,残葉内に再発した症例は当然のことながら,リンパ節転移再発があり,残葉内に腫瘍を認めない場合に残葉の取り扱いに苦慮することがある。筆者らのデータにて残葉全摘後,病理学的に残葉甲状腺内に腫瘍を認めたのは63.6%であった。諸外国の結果も33~55.6%と報告されている[]。Clarkらは残葉を全割して詳細に調べた結果,残葉内に微小癌を78.4%に認めた[]と報告しており,筆者らデータにおいても残葉内腫瘍はいずれもほとんどが5mm以下の非常に小さな病変が多く,再発症例の中には術前USやCTなどの画像検査で指摘できない微小な残葉再発症例が存在することがわかった。このような微小癌に対して治療が必要かについては議論があるが,筆者らは病状および年齢やその患者の背景を考慮した上で治療を選択するようにしている。

残葉全摘はI-131を使用目的としたアブレーションやTg(サイログロブリン)モニタリングにて再発腫瘍のスクリーニングなどのメリットがある。しかし,残葉全摘後の合併症の発生率は初回手術より高くなるとされており,このことを考慮した上で残葉全摘を考える必要がある。

初回甲状腺全摘術に伴う永続性副甲状腺機能低下の発生頻度は3.3~20.4%程度と報告されている[]。また残葉全摘ではさらにその発生頻度は高くなると考えられており,Bergamaschiらは初回手術後より明らかに副甲状腺機能低下が多いと報告している[]。しかしながら,当院のデータでは残葉全摘術での永続性副甲状腺機能低下は3.3%と低率であり,初回甲状腺全摘術における永続性副甲状腺機能低下の報告と比べて差は認めなかった。

Eroğluらも同様に初回手術との合併症の発生率に差はないと報告している[10]。近年では残葉全摘の安全性を報告している論文も多く甲状腺手術技術の発展やサージカルデバイスの進歩もこれに大きく影響していると思われる。永続性機能低下の頻度の低かった原因としては第一に初回手術時に甲状腺切除側の副甲状腺機能が温存されている可能がある。重要なことは,初回手術時に副甲状腺を確実に温存しておくことであり,副甲状腺移植を行うことで残葉全摘後の永続性機能低下はさらに避けられる[11]。

残葉全摘後一過性副甲状腺機能低下は3~35%[1214]と施設によってかなり異なる。当院での一過性副甲状腺機能低下は24.2%であり,海外の施設からの報告より若干高かった。その原因は一過性副甲状腺機能低下の定義はもちろん,カルシウムやビタミンDのサプリメント普及が本邦と諸外国で異なること,海外では気管周囲リンパ節郭清をルーチンに行わない施設の多いことや副甲状腺機能温存目的での準全摘が本邦より海外の方が圧倒的に多いのも大きく影響しているのではないかと推測される。

また,解析の結果,残葉全摘時の気管周囲リンパ節転移の有無のみが一過性副甲状腺機能低下の独立した危険因子として有意であった(OR=2.34)。一過性副甲状腺機能低下の危険因子を詳細に検討した報告は少ないが,Mishraらは残葉全摘術において,両側の気管周囲郭清を行った群は片側の気管周囲郭清群に比べ一過性副甲状腺機能低下が多かったと報告しており[15],また,Itoら[11]は両側気管周囲リンパ節郭清が永続性副甲状腺機能低下の危険因子であると報告している。残葉全摘時の気管周囲リンパ節転移症例において中央区域郭清を行う場合,これらを考慮し十分な注意が必要である。

残葉全摘における反回神経麻痺の発生頻度について,Pasiekaら[13]は甲状腺分化癌再発手術症例60例の検討で5%,Wilsonら[16]は3%,Chaoら[17]は40例中1例(2.5%)と報告している。著者らの症例では,一過性反回神経麻痺が3%であったが,永続性反回神経麻痺は認めなかった。今回の検討からは残葉全摘術後の反回神経麻痺の発生頻度が高くはなく,再手術を安全に行うことは十分可能であると考えられた。しかし,亜全摘術症例では前回手術による癒着により反回神経の同定が非常に困難で,喉頭入口部から探索せざるをえない症例も多く,細心の注意が必要である。さらに,初回時の亜全摘術は可能な限り避けるべきであると思われた。また,最近では術中神経モニタリング(IONM:Intraoperative neuromonitoring)の標準化や報告も増えており,反回神経損傷の危険を察知し術後麻痺を回避できるとされ,再手術症例に対しても新たな手法として期待される[18]。今回の症例では,術前からの反回神経麻痺症例が9.1%と多かった。6例の内4例が気管傍に再発したリンパ節転移の反回神経癒着症例であった。また残葉全摘術前より麻痺を認めた症例では神経温存を行っても全例麻痺側の改善は認めなかった。残葉全摘手術には確実に反回神経を温存する手技や神経縫合術が要求されることがあり,専門施設あるいは経験豊富な甲状腺外科医が手術を行うことが望ましいと考えられた。

おわりに

残葉甲状腺全摘術では初回手術に比べて極端に反回神経麻痺や副甲状腺機能低下などの合併症が増えることはなく,安全に手術を行うことが可能であった。

一方で,初回手術は再手術後の副甲状腺機能低下の発生率に大きく影響するので,副甲状腺の温存に努めなければならない。再手術時においては,反回神経麻痺症例が初回手術時より多く,確実な反回神経温存術や音声予後を考慮した神経縫合術が要求されるので,これらに精通した専門施設での手術が望まれる。

本論文の要旨は第46回甲状腺外科学会(2013年9月27日)で発表した。

【文 献】
  • 1.  日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会編:甲状腺腫瘍診療ガイドライン2010年版 金原出版,東京,2010, p85-86.
  • 2.   Rao  RS,  Fakih  AR,  Mehta  AR, et al.: Completion thyroidectomy for thyroid carcinoma. Head Neck Surg 9: 284-286, 1987
  • 3.   Sloan  LW: Of the origin, characterisitics and behaviour of thyroid cancer. Am J Surg 124: 468-472, 1972
  • 4.   Clark  RL,  Ibanez  ML,  White  EC, et al.: What constitutes an adequate operation for carcinoma of thyroid. Arch Surg 92: 23-26, 1966
  • 5.   Kupferman  ME,  Mandel  SJ,  DiDonato  L, et al.: Safety of Completion thyroidectomy following unilateral lobectomy for well differentiated thyroid cancer. Laryngoscope 122: 1209-1212, 2002
  • 6.   Rafferty  MA,  Goldstein  DP,  Rotstein  L, et al.: Completion thyroidectomy versus total thyroidectomy:is there a difference in complicarion rates? An analysis of 350 patients. J Am Coll Surg 205: 602-607, 2007
  • 7.   Gonçalves  Filho J,  Kowalski  LP: Surgical after thyroid surgery performed in a cancer hospital. Otolaryngol Head Neck Surg 132: 490-494, 2005
  • 8.   韓  相善, 北村 博之, 高北 晋一他:甲状腺癌手術の合併症の検討.耳鼻臨床 91: 933-936,1998
  • 9.   Bergamaschi  R,  Becouarn  G,  Ronceray  J, et al.: Morbidity of thyroid surgery. Am J Surg 176: 71-75, 1998
  • 10.   Eroğlu  A,  Unal  M,  Kocaoğlu  H, et al.: Total thyroidectomy for differenciated thyroid carcinoma:primary and secondary operation. Eur J Surg Oncol 24: 283-287, 1998
  • 11.   Ito  Y,  Kihara  M,  Kobayashi  K, et al.: Permanent hypoparathyroidsm after completion total thyroidetomy as a second surgery. Endocr J 61: 403-408, 2014
  • 12.   De  Jong SA,  Demeter  JG,  Lawrence  AM, et al.: Necessity and safety of completion thyroidectomy for diffenenciated thyroid carcinoma. Surgery 112: 734-737, 1992
  • 13.   Pasieka  JL,  Thompson  NW,  McLeod  MK, et al.: The incident of bilateral well-differenciated thyroid cancer found at completion thyroidectomy. World J Surg 16: 711-716, 1992
  • 14.   Pezzullo  L,  Delrio  P,  Losito  NS, et al.: Post-operative completion thyroid cancer. Eur J Surg Oncol 23: 215-218, 1997
  • 15.   Mishra  A,  Mishra  SK: Total thyroidectomy for differenciated thyroid cancer:praimary compared with completion thyroidectomy. Eur J Surg 168: 283-287, 2002
  • 16.   Wilson  DB,  Staren  ED,  Prinz  RA: Thyroid reoperations:indication and risks. Am Surg 64: 674-687, 1998
  • 17.   Chao  TC,  Jeng  LB,  Lin  JD, et al.: Competion thyroidectomy for differentiated thyroid carcinoma. Otolaryngol Head Neck Surg 118: 896-899, 1998
  • 18.   杉谷  巌:甲状腺・副甲状腺手術における術中神経モニタリング.日内分泌・甲状腺外会誌 30:197-200,2013
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top